Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第42回】 「相続開始直前に被相続人が自己株式を取得した場合の非上場株式の評価」 -総則6項の適用の可否- 税理士 柴田 健次 Q A社の取締役会長である甲は令和6年4月22日に相続が発生しています。甲は4年前に代表権を長男である乙に移譲し、自らは会長としてA社の非常勤役員として勤務していましたが、令和5年にガンを患い余命半年の宣告を受けました。甲は遺言書を作成するとともに相続税の軽減対策のために金融機関から300,000千円の借入を行い、A社が保有する自己株式を300,000千円(時価純資産価額@20,000円×15,000株)で取得しました。 その後、甲の死亡によりA社株式を相続した乙は、A社株式の相続税評価額を30,000千円(類似業種比準価額@2,000円×15,000株)と評価し、相続税の申告を行っています。また、相続税の納税資金に充てるため、乙はA社に相続で取得したA社株式を306,000千円(時価純資産価額@20,400円×15,000株)で売却しています。 甲の自己株式取得前後及び相続後の株主の株式数と議決権割合は、それぞれ下記の通りとなります。 甲の自己株式の取得(A社における自己株式の処分)については、所得税・法人税における時価として適正なものであり、また、乙の自己株式の売却(A社における自己株式の取得)は、所得税・法人税における時価として適正なものとします。 また、A社は3月決算であり、A社の従業員数は150人で特定の評価会社には該当しませんので、類似業種比準価額が適用され、1株当たりの価額2,000円についても財産評価基本通達に従い適正なものとなります。 上記のような事実関係の場合において、財産評価基本通達6の定めにより財産評価基本通達とは別の評価方法で評価するべきとして課税当局から指摘を受けた場合には、A社株式の類似業種比準価額30,000千円は認められないのでしょうか。また、認められなかった場合には、どのような評価方法で課税されることになりますか。 A 財産評価基本通達第1章総則6項(以下「総則6項」という)の適用対象となり、類似業種比準価額30,000千円は認められるべきではないと考えられます。 非上場株式の評価について総則6項が適用される場合の課税方法に明確な基準はありませんが、本問においては、例えば、公認会計士等の第三者機関の株価算定書において課税の上限である時価を認定した上で、その時価以下の金額の範囲内において次のような合理的な評価方法で課税されることが考えられます。 ◆ ◆ ◆ ① 時価の意義と総則6項の定め 相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を定めています。そして、財産評価基本通達1(時価の意義)では、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」とされています。非上場株式の場合には、財産評価基本通達178から189-7までの定めにより時価を算定します。 もっとも、財産評価基本通達は、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達に過ぎませんので、納税者に対する法的効力はありません。しかしながら、租税の目的とするところの1つには課税の公平性がありますので、非上場株式をある程度、画一的に評価する必要があります。財産評価基本通達の役割としては、課税の公平性や安全性に着目して画一的な評価を行うことにありますので、課税実務においてもこの財産評価基本通達による評価が大原則になります。 その一方で財産評価基本通達によると、かえって課税の公平を欠くことがあります。そのような場合に適用されるのが、総則6項です。総則6項において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められています。財産評価基本通達を画一的に適用した場合には、著しく課税の公平を欠く場合も生じることがあるため、個々の財産の態様に応じた適正な時価評価が行えるように定められています。 ② 総則6項の実質的な適用要件 総則6項の実質的な適用要件については、前回解説をしていますが、納税者の不利に適用するに当たっては、下記の要件が必要になると考えられます。 上記の適用要件は、令和4年4月19日の最高裁判決(TAINSコード:Z888-2406)及び令和6年1月18日の東京地裁判決(TAINSコード:Z888-2556)から考察した現時点における筆者の私見であり、今後の裁判の動向に注意しながら個々の事案ごとに慎重に判断する必要があります。 ③ 本問への当てはめ(総則6項の適用の可否) 発行法人から自己株式を取得した場合の「その時における価額」の算定については、本連載【第27回】で解説をしていますが、所得税基本通達23~35共-9に基づき算定することとされています。 売買実例もなく、発行法人と類似法人もない場合には、原則として「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」により株式の価額を算出するものとされ、例外として財産評価基本通達の準用が認められています。 本問の場合には、時価純資産価額を基に計算していますので、前者の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」により株式の価額を求めていることになります。そして、相続時においては、類似業種比準価額で評価をしていますので、所得税における時価と財産評価基本通達による価額の乖離を被相続人が作出しているということができます。そして、その乖離を利用して借入を行い、自己株式の取得をしています。 したがって、相続税法22条の時価と財産評価基本通達による価額に著しい乖離があり、かつ、被相続人が意図してその著しい乖離を作出したものとなりますので、総則6項の適用があると考えられます。 ④ 相続税法22条における時価と本問の場合に課税されるべき金額の考察 総則6項を課税当局が適用する場合には、相続税法22条の時価以下の金額で課税することになりますので、時価算定が重要となります。最近の裁決事例(令和3年8月27日裁決(TAINSコード:F0-3-765)及び令和4年3月25日裁決(TAINSコード:F0-3-863))や裁判事例(令和6年1月18日東京地裁判決)では、いずれも時価算定においては、公認会計士等の第三者機関に依頼しており、その算定は、日本公認会計士協会から公表されている経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」(平成19年5月16日公表、平成25年7月3日改正)が利用されています。 上記令和4年3月25日の裁決では、不服審判所は、企業価値評価ガイドラインの株式価値算定を下記の通り総括しています。 上記の令和4年3月25日の裁決は、相続開始直前に被相続人が関係会社から借入(73億円)を行い、ホールディング会社の自己株式を1株@76円で取得(約73億円)し、1株@18円で相続税申告を行ったことに対して課税庁が総則6項を適用し、公認会計士等の第三者機関の株価算定書の価額を基に1株@55円(再調査で1株@46.48円に変更)で更正処分等を行った事案です。不服審判所はその算定された価額を合理的な評価方法により控えめに算定されたものとしてその評価額(1株@46.48円)を時価以下のものとして認めています。 企業価値評価ガイドラインにおいては、DCF法等のインカム・アプローチが用いられており、DCF法が時価としては適当ではないとする意見も当然ありますが、「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」においては、DCF法の記載もあるため、時価算定方法として完全に否定はできないといえます。 また、会社法における株式買取請求の場面において裁判所で価格決定を行う際にもDCF法は時価を算定する1つの手法とされており、他の時価算定方法である配当還元方式、純資産方式等と折衷させる等して個々の事案に応じて「公正な価格」を決定しています。したがって、DCF法は時価を検討する上で否定することができない方法としてその地位を獲得しているといえます。 もっとも、DCF法は恣意性が介入するため、評価の画一性から財産評価基本通達に入る余地はないとはいえますが、時価と財産評価基本通達の著しい乖離を意図的に利用した納税者に対しては、財産評価基本通達とは異なる評価方法で課税することが許容されますので、相続税法22条の時価以下の金額で課税することは違法にはなりません。 令和6年1月18日東京地裁判決においては、前回解説したとおり総則6項の適用はないものとされましたが、課税当局による課税処分としては、公認会計士等の第三者機関の株価算定書の価額に基づき更正処分を行っています。そして、その株価算定書はDCF法に重きを置いて算定がなされており、時価純資産価額を遥かに上回る金額で課税処分がなされています。 本問においては、例えば、公認会計士等の第三者機関の株価算定書において課税の上限である時価を考察した上で、次のような合理的な評価方法が考えられます。 ☆実務上のポイント☆ 総則6項が適用される場合には、相続税法22条の時価以下の金額で合理的な方法により課税されることが許容されており、相続税法22条の時価が公認会計士等の第三者機関の株価算定書等で認定される場合には、納税者が予測できない金額で課税される可能性もありますので、注意が必要です。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第97回】 「遺産分割成立後の更正の請求事件」 ~最判令和3年6月24日(民集75巻7号3214頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第42回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 14 秘密鍵を紛失した場合 個人が、暗号資産を自らが管理するウォレットで保管していた場合に、秘密鍵を紛失し、もはやそのウォレットで管理している暗号資産を他に移転することができなくなってしまったときは、損失等として必要経費に算入することは認められるのか。 以下、用語の確認をしておく(泉絢也=藤本剛平『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務〔第2版〕』(中央経済社2023)の暗号資産・NFT関係用語集参照)。 また、ウォレットは、インターネットに接続されているホットウォレットと、インターネットから遮断されているコールドウォレットに大別される。 コールドウォレットは、一般的には、ホットウォレットと比べて利便性の点で劣るが、ネットワーク経由の攻撃に耐性があるとされ、暗号資産取引所等において高額な暗号資産の保管などに利用されている。 コールドウォレットの例として、紙のペーパーウォレットや、物理的な専用デバイスで管理するハードウェアウォレットがある。 個人が、暗号資産を、暗号資産取引所等を利用せずに自身のペーパーウォレットで直接管理する場合、そのウォレット及びそのウォレットで管理する秘密鍵の紛失のリスクもユーザーが負担しなければならないことに注意が必要である。 暗号資産を自らが管理するペーパーウォレットで保管していた場合に、秘密鍵が印刷されていた紙を紛失し、もはやそのウォレットで管理している暗号資産を他に移転することができなくなってしまったときは、損失等として必要経費に算入することは認められるのか。 災害、盗難又は横領による損失に該当しないため雑損控除の適用はない(本連載第41回参照)。そこで、次のような観点から検討することになろう。 秘密鍵を紛失したことで、事実上、納税者がその暗号資産に対する支配を失った、その暗号資産にアクセスできなくなった場合に、暗号資産はブロックチェーン上に存在し続けているにもかかわらず、損失等として必要経費に算入できるか、その事実をどのように証明するのかという点に関心が向けられる。 参考として、オーストラリアの国税庁は、暗号資産が紛失や窃取された場合において、納税者がその暗号資産が自分のものであること(ownership)を証明するものを用意できれば、キャピタルロスを計上することが認められるとしている。また、同庁は、一般に、紛失したものを復元できる場合には、紛失ではないことも指摘している(※)。 (※) Australian Taxation Office「Loss or theft of crypto assets」 同庁は、秘密鍵の紛失に基因してキャピタルロスを計上するために、納税者は、その暗号資産が自分のものであることを示す次のような証拠を用意すべきであるとしている。 このように、秘密鍵の紛失による暗号資産の損失計上が認められるかという点について、次のような指摘がなされている(Vincent OOI, A Framework for Understanding the Taxation of Digital Tokens, 50(4) Australian Tax Review, 260-269)。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2024年4月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会は次のものを公表している。 〇 移管指針公開草案「移管指針の適用(案)」等(内容:日本公認会計士協会が公表した実務指針等について、会計に関する指針のみを企業会計基準委員会に移管するもの。意見募集期間は2024年6月3日まで) Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 〇 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和6年度)(内容:有価証券報告書の作成・提出に際して留意すべき事項等を記載している。金融庁) Ⅳ 四半期決算関係 次のものが公表されている。 ① 金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について(内容:東京証券取引所における四半期決算短信の取扱いを示すもの) ② 四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の改正及び期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務情報に対するレビュー」(内容:独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビューと独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビューに関する報告書) ③ 期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」(内容:四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の期中レビューについて、Q&A形式によって解説するもの) Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の改正及び期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務情報に対するレビュー」の公表(内容:独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビューと独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビューに関する報告書) ② 期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」の公表(内容:四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の期中レビューについて、Q&A形式によって解説するもの) ③ 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」 の改正(内容:四半期開示制度の見直しに伴って、期中レビュー導入への対応や守秘義務条項を一部追加するもの) ④ 中小事務所等施策調査会研究報告第3号「会社法計算書類等に関する表示のチェックリスト」の改正(内容:会社法に基づく計算書類及び連結計算書類等の表示の確認のためのチェックリスト) ⑤ 中小事務所等施策調査会研究報告第4号「有価証券報告書に関する表示のチェックリスト」の改正(内容:金融商品取引法に基づく財務諸表及び連結財務諸表等の表示の確認のためのチェックリスト) ⑥ 「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正(公開草案)(内容:倫理規則(2022年7月改正)及び四半期開示制度の見直し(金融商品取引法(2023年11月改正))などに対応するもの。意見募集期間は2024年5月22日まで。日本監査役協会と日本公認会計士協会の共同) ⑦ 財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正(内容:報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示の記載例を追加するもの) ⑧ 「保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」及び保証業務実務指針2400実務ガイダンス第1号「財務諸表のレビュー業務に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」(内容:レビュー業務の対象範囲の整理などを行うもの) (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第49回】 「実例に基づくカスハラ対応策」 弁護士 柳田 忍 【Question】 最近、お客様からの不合理なクレームが増えており、対応に当たっている現場の従業員が疲弊しています。対策をとるために、カスタマーハラスメント(カスハラ)のセミナーを受講したり、カスハラのマニュアルを読んでみたりしていますが、実際にカスハラらしい事案が起きたときにどのように対応すればよいかよくわからず、困っています。 実例を踏まえた対応策があれば教えてください。 【Answer】 まずは行為者からの質問や要望にはできるだけ丁寧に回答して誠実な姿勢を示し、これ以上は対応が難しいと判断したら、行為者に対して今後の質問や要求への対応は行わない旨(場合によっては、契約や取引を停止せざるを得ない旨)を告げるのがよいと思います。 窓口や現場で行為者に対応する従業員に対して「これ以上対応しなくてよい」と伝えて、会社の管理部門等で対応を引き受けることも重要です。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 カスハラ対策の現状 先日、東京都が全国初のカスハラ防止条例を制定する旨発表し、現在、「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」において条例案が検討されているが、2024年4月22日に公表されたところによると、条例においてカスハラを定義し、ガイドラインにおいて具体的な行為を例示する方向で進められるようである。 同条例においては罰則は設けられないようであるが、同条例の制定によって、カスハラの内容やカスハラを行ってはならないということが更に周知され、抑止力が期待されるとともに、事業者や就業者においてもどのような行為がカスハラに該当するかの理解が深まり、自己防衛に資することになると思われる。 また、ある会社が自社の従業員が顧客企業からカスハラを受けたとして、顧客企業に対して損害賠償請求訴訟を提起した旨の報道がなされたが、報道によると、当該顧客企業は20年以上の取引関係があり売上額も高額の重要な顧客であるが、取引の適正と従業員の保護を求めて提訴に踏み切ったとのことである(※1)。 (※1) テレビ北海道「東京・橋本総業 従業員に「カスハラ」取引先企業を提訴」4月25日 このように、近年は、会社の利益のために従業員に我慢を強いるといった従前の構図に変化が見られるとともに、カスハラを行えば法的責任を問われるおそれがあるといったことも知られつつあるように思う。 しかし、問題は、カスハラに及ぶ者の中には、自分は正当な要求を行っているだけだと思い込んでいる者が少なくないということである。このような者は、自分の言動がカスハラに当たるとは認識していない(ないし認識できない)ので、上記の都の条例や企業が公表するカスハラ防止方針などの抑止力は及ばない可能性が高い。 また、このような者からの質問や要求への対応に際しては事業者や就業者においても大変苦労しているようであり、「カスハラのセミナーを受けたりマニュアルを読んだりしても、結局どのように対応すればよいのかわからない」という悩みをよく耳にする。 そこで、以下、筆者が取り扱った実例と実例を踏まえた対応策を説明する。 2 カスハラ対応の実例 カスハラに関して、筆者が取り扱った実例を2つ紹介する。 (1) 行為者からの質問や要求に極力対応した例 (2) 行為者に対してこれ以上の要求等には対応しない旨告げた例 3 実例を踏まえた対応策 上記2の実例を踏まえた対応策は、以下のとおりである。 (※2) カスハラ対応方針において「カスタマーハラスメントが行われた場合には、お客さまへの対応をいたしません」と明記されている例として、JR東日本「カスタマーハラスメントに対する方針」(2024年4月26日公表)等がある。 (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第6回】 「賃貸オーナーと成年後見制度の利用」 ~賃貸オーナーとしての業務~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 顧客である賃貸オーナーが認知症になりました。高齢である配偶者の方以外には頼れる親族もいないため、顧問税理士である私が成年後見人としてサポートしていくことを求められていますが、どのような点に注意すべきでしょうか。 【A】 税理士の顧客には賃貸オーナーも多く、頼れる親族がいない場合には成年後見人としてサポートを依頼されるケースがあるでしょう。多くの収入と支出が発生する賃貸オーナーの財産管理は税理士が得意とする分野だと思われますが、具体的にどのような業務が発生するかを理解しておく必要があります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 賃貸人としての業務とは 賃貸オーナーの成年後見人に就任したら、賃貸オーナーの重要な財産である賃貸物件を管理していくことになります。基本的に賃貸人として行うべきことを、本人に代わって成年後見人が実践していくことになりますが、具体的に列挙すると以下のような業務が考えられます。 【賃貸人として行うべき主な業務】 これらの業務すべてを成年後見人自身が行う必要はありません。管理会社などの外部の力もうまく利用しながら行っていくとよいでしょう。 2 管理会社との連携 賃借人の募集や、賃料の受領、修繕やクレームへの対応は管理会社に依頼することが多いでしょう。すでに契約している管理会社があり、業務が適正に行われているのであれば、無理に変更する必要はないと思われます。 管理会社との連携で注意が必要なのは、成年後見人の業務を理解してもらい、物件の管理状況を細かく報告してもらうということです。例えば修繕の必要性が生じた場合などには、事前に見積もりを提示してもらい、工事の内容や妥当性について一般常識から考えて納得ができる説明を受けることが必要です。大規模修繕工事や防火設備の設置など、高額な工事を行う場合は複数の見積もりを取得して、慎重に検討する必要があるでしょう。 3 賃料の増額(減額)請求の対応 賃料が物価や世間の相場と比較して安いのであれば、賃料の増額の請求を検討する必要があります。反対に高いのであれば減額の請求が賃借人からなされることがあります。 最近はインフレの影響を受け、賃料の増額請求が行われたという話をよく耳にします。コストが上がるなかでは、適切に賃料を増額しないと賃貸物件の維持管理もままならなくなる可能性があります。成年後見人としても管理会社などから情報を収集して、適切な賃料を設定していく必要があるでしょう。なお、当事者では話がまとまらない可能性がある場合には、4で紹介するように弁護士や司法書士の力を借りて、調停等の制度を利用することも考えられます。 4 弁護士、司法書士との連携 滞納賃料の回収や明け渡し訴訟は、弁護士や司法書士に依頼することができます。筆者の経験では、一旦賃料の滞納が始まると支払いを約束しても改善されることは少ないです。成年後見人としては、本人の財産を保全する責任があるので、判断を早めに行っていく必要があるでしょう。 (了)
わたしは税金 「自動車泥棒」 -雑損控除- 公認会計士・税理士 鈴木 基史 ◆自動車泥棒 「へぇー、車が盗まれた・・・」 「警察には届けたけど、まず望みはないそうよ」 「しかし、夜中に車庫から盗んでいくとは、乱暴な話だなぁ」 「新手の窃盗団なんだって。うちも気をつけないと」 田中さんちのご近所で、車の盗難事件がありました。ご主人の通勤用に、最近買ったばかりとのこと。ローンがまだ100万円以上残っていて、ご本人はガックリなさっているそうです。 それにしても、けしからん輩やからですね。わたくしども“税金”も憤りを感じます。多少なりともご落胆を和らげるため、そういうときには手を差しのべることにしています。 ◆災害・盗難・横領にあうと税金が戻る 所得税の計算で「雑損控除」というのがあります。雑損とは“災害・盗難・横領”による被害のことです。こうした目にあった人はお気の毒ですから、納める税金を安くすることにしています。 よく似た被害に“詐欺さぎ”がありますが、詐欺にあった人にはこの恩典はありません。だって詐欺にあうような人は、多少ともヤマっ気があったわけでしょう。振り込め詐欺などは別として、詐欺にあったから税金をまけてくれというのも、おかしな理屈ですからね。 ◆還付されないモノもある さて、自分の持ちモノが被害にあったらこの恩典が受けられるわけですが、モノによっては受けられない場合もあります。「日常生活に必要のないモノ」はダメ、ということになっていますからご注意ください。 たとえば、住んでいる家が火事で焼けたときは、もちろん恩典の対象になります。ところが、別荘ということになると、日常生活には必要ないわけですから、お気の毒ながら税金は戻らない、という具合です。 ◆車は生活に必要か? 田中さんのご近所の方の場合、この恩典が受けられるかどうかは、まず、その車がその方の生活にとって必要だったかどうかです。通勤用だからいけるんじゃないか、ということですが・・・次のようなことをいう、小うるさい人も税務署にはいます。 田舎ならまだしも都会に住んでいれば、通勤の足は電車やバスがあるじゃないか。その車は通勤にはほとんど使わず、レジャー用だったんじゃないの・・・だったら恩典はダメ。 だけど、仮にそうだとしても、衣食住だけの生活なんてむなしい。息ぬきなしの生活なんてありえないのだから、たまにレジャーで使おうが、やっぱり車は生活に必要。いまや下駄代わりの存在になっている車を別荘と同列に論ずるのはおかしい、という理屈の方がまともだとわたしは思いますがね。ま、税務署へ行って交渉してみてください。 ◆損失額の計算方法は? 「ふーん、雑損控除で税金が戻るのね」 「あの車、250万円ぐらいかなあ。いくら戻るんだろう?」 「ねえ、うちの車、もう古いんだから・・・いっそのこと、だれかに持っていってもらえば。そうすれば戻ったお金で、新しい車が買えるじゃない」 「お、そうするか」 ◆いま現在の値打ちが損失額 ちょ、ちょっとお待ちください、田中さん。世の中、そんなに甘くはありませんよ。ご近所の方の場合、いかほど税金が安くなるかといえば、こういう計算です。 まず、“損失額”はいくらか――250万円ではありません。昨日買ったばかりならいざ知らず、乗っている間に値打ちは下がりますよね。“減価償却”の計算をしますが、たとえば、新品で250万円だった車でも、1年間使えば200万円ほどの値打ちになり、これが適用対象の損失額です。 さらにそこから、その人の年間所得の1割相当額を差し引いた金額が雑損控除額。たとえば、年収600万円のサラリーマンなら給与所得の金額が約440万円で、その1割の44万円を200万円からマイナスします。つまり、雑損として控除できるのは「損失額200万円-所得金額440万円×10%=156万円」です。 ◆税率分だけ還付 さらにその続きの話として、戻るお金は156万円ではありませんからご注意を! お返しするのは雑損失の金額に対する、その人の税率分だけです。たとえば、さきほどの年収600万円のサラリーマンなら税率は10%ですから、還付する所得税は「156万円×10%=15万6,000円」なり。 あと、住民税にも雑損控除の適用があります。やはり税率は10%で15万6,000円の節税になりますが、こちらは還付ではなく、翌年に納める税金がそれだけ減るという話です。 200万円の損失に対して援助額が約30万円・・・不十分かもしれませんが、わたくしどもにとって精一杯の努力です。 ◆高額所得者には適用なし ところで、税率分だけ還付、ということになると・・・所得が1,800万円以上の高額所得者なら、国税(所得税)と地方税(住民税)を合わせた税率が50%(4,000万円以上なら55%)なので、「156万円×50%=78万円」が戻るのかといえば、さにあらず。 さきほどの雑損控除の計算を見直してください。損失額から所得の1割相当額を控除、ということでしたね。ということは、車を盗まれた人の所得が2,000万円以上あれば、200万円を損失額から差し引かねばならず、そうすると雑損控除額はゼロで、還付はありません。お金持ちの人には、雑損控除の適用はご遠慮いただくことになっています。 ◆保険金が出てたらダメ あ、それからもうひとつ、この特例でご注意いただくのは、保険に入っていなかったかということです。たいていの人がマイカーに保険をかけるでしょうが、ここで問題となるのは「盗難保険」に入っていたかどうかです。 もし入っていれば、盗まれても損害は保険金でカバーされますから、当然のことながら税金は戻ってきません。そうでないとき、必要書類を整えたり、税務署で事情説明したりとか、ひと苦労あろうかと思いますが、該当する方はぜひこの恩典をご利用ください。 ところで田中さん、買ってから数年経った車は、ほとんど値打ちがありません。だから、この恩典を使って新車に乗り換えるだなんて、不心得なことは考えないでくださいよ。 ◆空飛ぶ自動車に雑損控除? 最後に、いまや電気自動車が主流となりつつある時代です。さらに来年(令和7年)の大阪・関西万博では、空飛ぶ自動車が登場するとか。さてそこで、こうした自動車が盗まれたとき、雑損控除は適用されるのか。 電気自動車はともかくとして、空飛ぶ自動車が「日常生活に必要」とはとても思えません。そんなぜいたく品に、果たして税務署が雑損控除を認めるかどうか。 さらには、そういう高額商品を購入できるのは、億万長者に決まっています。先ほど述べたように、所得の10%の足切りがあります。年間所得が数億円の人なら、損失額から数千万円の控除――いくら何でも、そんなに大きな損害とはならないでしょう。よって、空飛ぶ自動車で雑損控除が適用される事案など、現実には起きないと思いますよ。 (了) 人生にまつわる税金ものがたり、 もっとたくさんのお話を読みたい方へ送る一冊。
《速報解説》 大阪国税局、収益事業を行う青色公益法人等の電子取引に係る文書回答事例を公表 ~収益事業以外の事業の取引に関する電子データの保存の要否示す~ Profession Journal編集部 大阪国税局は、令和6年3月19日付(ホームページ掲載日は令和6年4月23日)で回答した文書回答事例「収益事業を行う青色申告法人である公益法人等の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存について(収益事業以外の事業の取引に関する電子取引の取引情報について)」を公表した。 事前照会の内容 事前照会の内容としては、収益事業を行う青色申告法人である公益法人等においても電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存が必要とされる(電帳法7)が、この保存については、収益事業を行う青色申告法人に保存が義務付けられている帳簿書類である、取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書等や相手方に交付したこれらの書類の写しと同様、収益事業を含む全ての事業の取引に関する電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存が必要と考えてよいか、というもの。 上記の照会に対して、大阪国税局は主に以下の理由から「貴見のとおりで差し支えありません」と回答している。 照会者の見解となることの理由 公益法人等に係る帳簿書類の保存については、青色申告法人であるか否かで次のとおり取扱いが異なる。 上記のとおり、《公益法人等が青色申告法人である場合》においては「収益事業に係る取引に関して」とされていないことから、収益事業を含む全ての事業の取引に関する書類を保存する必要がある。 また、電子帳簿等保存法7条では、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、一定の要件に従って、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないこととされているが、この場合の「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいうこととされ(電帳法2五)、この「取引情報」について収益事業に係る事項は定められていない。 電子帳簿等保存法において電磁的記録の保存を行わなければならない電子取引の取引情報は、収益事業の取引に関するものか、収益事業を含む全ての事業の取引に関するものかについて定めはないため、収益事業を行う青色申告法人である公益法人等が行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存範囲について疑問が生じるところ、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存範囲についての基本的な考え方は、電帳法が国税関係帳簿書類の保存方法等について所得税法、法人税法その他の国税に関する法律の特例を定めるものであることから(電帳法1)、国税関係帳簿書類について保存を義務付けている法人税法等における考え方と同様となる。 このため、法人税法で保存義務が定められている帳簿書類である「取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び相手方に交付したこれらの書類の写し」と同様の取引情報の授受を電磁的方式により行った場合には、その取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないこととなる。 上記のことから、青色申告法人である公益法人等は、収益事業を含む全ての事業の取引に関する帳簿書類を保存する必要があるとともに、その法人が取引情報の授受を電磁的方式により行った場合には、一定の要件に従って、収益事業を含む全ての事業の取引に関する電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない、と回答している。 (了)
《速報解説》 国税庁、予定納税及び確定申告関係の「定額減税Q&A」を新たに公表 ~年調適用済みでも確定申告書への同一生計配偶者等のマイナンバー等記載は必要~ Profession Journal 編集部 令和6年分の所得税の定額減税(特別税額控除)(措法41の3の3~3の10)については、対象者によってその実施方法・実施時期が異なり、給与所得者についてはいよいよ来月、6月1日以後最初に支払を受ける給与等の源泉徴収税額から、特別税額控除額(本人3万円、同一生計配偶者・扶養親族1人につき3万円)の控除が実施される。この源泉徴収に係る実務については本誌でもたびたび取り上げている通り、国税庁が税制改正関連法の成立前から特設ページを開設しQ&A等の資料を公表、その後、内容の追加・更新を行っている。 一方、事業所得者については令和6年分の所得税に係る第1期分予定納税額(7月)から本人分に係る特別控除の額に相当する金額が控除され、第1期分予定納税額から控除をしてもなお控除しきれない部分の金額は第2期分予定納税額(11月)から控除される仕組みがとられる。 また、本人の同一生計配偶者・扶養親族の特別控除については、予定納税額の減額の承認申請により適用を受けることができ、このため令和6年分の所得税に係る第1期分予定納税額の納期が令和6年7月1日から9月30日までの期間(例年は7月1日から7月31日まで)と、減額の承認申請の期限も7月31日(例年は7月15日)とそれぞれ延長されている。 このたび国税庁は4月30日に、新たに「令和6年分所得税の定額減税Q&A(予定納税・確定申告関係)」を公表、定額減税に関する事項のうち「予定納税」及び「確定申告」に関する事項を全13問のQ&Aで解説している。 従前の源泉実務に係るQ&Aの方は、内容の更新等はされていないが、上記に合わせ「概要・源泉所得税関係」という副題が追加されている。今後、2つのQ&Aが随時更新される可能性も高いことから、混同しないよう留意されたい。 今回「予定納税・確定申告関係」として公表されたQ&Aは以下のとおり。 このうち「令和6年分の所得税に係る予定納税」の問1-2では、予定納税の対象となる予定納税基準額(15万円以上の場合は予定納税が必要)は、原則として令和5年分の申告納税額(所得税額及び復興特別所得税額)と同じ金額となり、定額減税額がないものとして計算されることが示されている。その上で、令和6年6月以降に通知される令和6年分の予定納税額からは、本人分に係る定額減税額に相当する金額(3万円)が控除される。 また、減額申請に当たって申請書に記入する申告納税見積額についても、予定納税基準額と同様に、定額減税額がないものとして計算し、さらに令和6年分の総所得金額の見積額の中に給与所得の金額又は公的年金等に係る雑所得の金額がある場合には、これらの所得につき源泉徴収される所得税の額の見積額についても、定額減税の適用がないものとして計算するとされている(問1-3)。 他に予定納税関係では、定額減税制度下で予定納税額の減額申請をすることができるケース(問1-4)や、減額申請をする場合の第1期分・第2期分の予定納税額の計算方法(問1-6、1-7)が明らかにされている。 次に「令和6年分の所得税に係る確定申告等」の問2-2では、すでに年末調整において同一生計配偶者等に係る定額減税の適用を受けている場合で、確定申告で医療費控除の適用を受ける際に、確定申告書に対象となる同一生計配偶者等の氏名やマイナンバーを記載する必要があるかとの問いに対し、配偶者控除や扶養控除等については、年末調整においてそれらの控除を受け、控除額及びその合計額に変更がない場合は、対象となる配偶者及び扶養親族の氏名等について確定申告書に記載を要しないとされているものの、定額減税の計算の対象となる同一生計配偶者等の氏名、生年月日、マイナンバー等については、年末調整においてその同一生計配偶者等についての定額減税の適用を受けている場合であっても、確定申告書に記載する必要があるとしている。 また、支払を受けた給与等に係る源泉徴収税額と、厚生労働大臣等から支払を受けた公的年金等に係る源泉徴収税額の両方から定額減税の適用を受けている場合、確定申告をする必要があるかとの問いに対し、給与等に係る源泉徴収税額と、公的年金等に係る源泉徴収税額の両方から定額減税の適用を受けていることだけをもって、確定申告の義務は発生しないとしている(問2-3)。 この点、「概要・源泉所得税関係」のQ&A(問2-3)では、公的年金等に係る源泉徴収税額から定額減税の適用を受ける人についても、主たる給与の支払者のもとで定額減税の適用を受けることになり、給与等と公的年金等との定額減税額の重複控除については、確定申告で最終的な年間の所得税額と定額減税額との精算が行われるとの見解も示されていることから、今後の情報追加を待ちたい。 問2-4では、令和6年6月1日以後に準確定申告書を提出する場合(提出期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内)に定額減税が適用されるのかとの問いに対し、令和6年6月1日以後に令和6年分の準確定申告書を提出する場合には、その準確定申告の際に定額減税の適用を受けることとなるとし、令和5年分の確定申告書の様式を用いた特別税額控除の記載方法(申告書第一表「災害減免額」の欄を使用)について解説されている(令和6年分の確定申告書の様式は、本稿公開時点で未公表)。 (了)
2024年5月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.567を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。