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〈ベテラン社員活躍のための〉高齢者雇用Q&A 【第5回】「定年後再雇用制度から定年延長への切替え」

〈ベテラン社員活躍のための〉 高齢者雇用Q&A 【第5回】 「定年後再雇用制度から定年延長への切替え」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   ― 解 説 ― 1 再雇用制度と定年延長の違い 再雇用制度とは、定年退職後に「改めて雇用契約を締結する」ということです。つまり、これまで通り「正社員」としての雇用を継続するのではなく、定年退職後は、「嘱託社員」などの名称で、労働条件を見直したうえで「有期雇用契約」として再雇用(契約)をします。 一方、定年を延長した場合には、「正社員」として「雇用を継続する年齢を引き上げる」ということになります。 それぞれの制度の違いとしては、以下のものが挙げられます。   2 定年延長の現状 厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」によると、2023年の時点で、65歳までの雇用確保措置として「定年の引上げ」を実施しているのは全企業の26.9%となっており、前年から1.4ポイント増加となっています。 また、定年制度における定年年齢は、60歳が66.4%(1.7ポイント減少)、65歳が23.5%(1.3ポイント増加)、70歳以上が2.3%(0.2ポイント増加)となっており、少しずつですが、65歳以上としている企業が増えてきているようです。 企業規模で見ると、規模が小さい企業の方が、定年年齢を65歳以上としている割合が高くなっています(下図参照)。 【図表】企業における定年制の状況 (出所) 厚生労働省「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します」   3 定年を延長するにあたって まずは、自社の状況を把握する必要があります。 「今後、定年退職となる社員がどれくらいいるのか」「その方たちが抜けることで業務にはどのくらいの影響が出るのか」「採用による補充は可能なのか」など、人材確保の面からの影響を確認しましょう。 次に、人件費への影響は、企業が最も気になるところでしょう。通常、定年年齢を引き上げた場合には報酬水準が上昇しますので、その原資の捻出方法も考える必要があります。捻出方法としては、社員全体の賃金カーブの見直し、現状支払っている諸手当の見直し、退職金制度の見直しなどが考えられます。 また、シニア世代の社員のモチベーションを上げることで、若い社員にマイナスの影響が出ることも予想されます。例えば、「自分たちの昇進、昇格の機会が失われるのではないか」といった不安です。場合によっては、役職定年制度の導入などを検討してもよいでしょう。 制度を変えるということは、社員にとっては「自分はどうなるのか」といった不安がつきものです。このようなマイナス面もあることに目を向けたうえで、自社の状況を把握し、定年延長の必要性について丁寧に検討する必要があります。   4 過去の事例から 定年延長に関して、以前筆者が受けた相談をご紹介します。 社員の中には、現状の定年年齢で退職したいと考えている方がいる可能性もあります。制度変更時には、移行期間を設けることで、社員が現行の制度と新制度のどちらかを選択できるようにするとよいでしょう。 シンプルな運用を望むのであれば、これまで通りの制度を定年延長の対象となった社員にも適用するというのがよいでしょう。これまでと同様に評価を行い、賃金、賞与を決めていくということです。 ただし、シニア世代の社員が多く人件費の抑制を考える必要がある場合には、60歳の前後で社員に対する処遇を変える(1つの会社に2つの制度を設ける)ことも可能です。なお、その場合でも、社員の処遇は、定年後の職務に応じて変更するようにしてください。 社員にとって、「給与」というのは重要な労働条件であり、働くモチベーションにも影響を及ぼすものです。再雇用社員の方からの不満としてよく聞くのは、「これまでと仕事内容はあまり変わらないのに、給与が下がってしまった。これではモチベーションが保てない」ということです。先日は、再雇用社員に仕事を頼んだら「こんな難しい仕事は、給与の高い方がやるもんだ」と言って仕事を断られたという話を聞きました。 せっかく定年延長をするのであれば、対象者には高いモチベーションを持って働いてもらいたいものです。   5 まとめ ご質問にもある通り、多くの企業にとって、「人手不足」は喫緊の課題となっています。社員を募集しても、なかなか希望通りの人材が集まらないというのは、どちらのお客様からも聞くお話です。すでに日本の人口は、ピークを過ぎて減少傾向に入っています。今後はさらに加速度的に減少していくと考えられており、2040年までに、およそ1,100万人の労働供給不足になるという説もあります。 つまり、将来と比較すれば、今が1番人手は多いはずなのです。それでも現状「人手不足」であることからも、これまでの人事戦略を見直す必要があるのは明白です。 人口が減少していく中で増えているのは「シニア層」となっています。となれば、解決策の1つとして、「定年延長」は有効であると考えます。 それを踏まえると、60歳で定年退職をして、給与を下げて再雇用で働いてもらうというのではなく、少なくとも65歳までは(場合によってはそれ以降においても)、これまで通りの働き方でバリバリ仕事をしてもらうという発想を持ってもよいのではないでしょうか。定年年齢の引き上げに伴って、色々な課題が出ることも予想されますが、前向きに検討してほしいと考えます。 (了)

#No. 599(掲載号)
#飯野 正明
2024/12/19

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第60回】「港湾法の適用を受ける土地の評価」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第60回】 「港湾法の適用を受ける土地の評価」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 今回は、「港湾法の適用を受ける土地」のように、あまり耳慣れない特殊な部類に属する土地の評価について取り上げます。 このような土地は、土地そのものが特殊な形状をしている、物理的にみて特別の条件が求められるという性格のものではありませんが、土地の利用規制が著しく強いものとなっている点に特徴があります。 以下、その特徴を述べるとともに、不動産鑑定士が価格の試算に当たり注意を払っている事項について解説していきます。   2 港湾法における「臨港地区」とその制限 港湾に面した土地が連たんしている地域では、都市計画法上の用途地域の規制の他に、港湾法に基づく「臨港地区」という地区の指定が行われ、厳しい土地利用制限が課されていることがあります。また、臨港地区に指定された区域内では、港湾の有する多様な機能を土地利用計画に反映させるため、その中で地区をさらに細分化して分区というものを指定し、分区ごとの用途制限を課しているケースが多く見受けられます。 このように港湾法には特有の地区分類があるため、不動産鑑定士はその特徴を十分踏まえた上で地域分析及び個別分析を行い、価格形成要因の的確な把握に努めています。 ところで、港湾は物流の拠点であるとともに、生産施設の立地基盤でもあり、また景観上からも重要な機能を果たしています。港湾がこのように多様な機能を有することから、港湾管理者が水域と一体的に管理する必要のある陸域について、範囲を定めて指定したものが臨港地区です(そのため、水際線の背後の陸域について指定されます)。 なお、港湾法では、都市計画法の規定による臨港地区だけでなく、同法第38条の規定により港湾管理者が定めた地区も臨港地区に該当する旨定めています(同法第2条第4項)。   3 臨港地区における具体的な規制 あるまとまりが臨港地区に指定された場合、港湾法第38条の2により臨港地区内で一定規模以上(床面積の合計が2,500㎡以上又は敷地面積が5,000㎡以上) の工場又は事業場の新設や増設をする場合、水域施設、運河、廃棄物処理施設の建設や改良等をはじめとする一定の行為をする場合には、工事の開始の60日前までに届出が必要となります。 工場又は事業場の新設や増設をする場合の記載事項は次のとおりです。 上記アないしウの内容が、港湾計画に照らして適切でない場合や港湾の利用・保全に著しく支障がある場合には計画の変更を求められることがあります。 また、港湾法の規制は厳しく、あるまとまりの地域が臨港地区に指定された場合、その区域内では目的の異なる建物が無秩序に建築されることを防止するため、さらに細かな分区の指定が行われることがあることは既に述べたとおりです。   4 分区の指定について 港湾法では、分区の指定について以下の規定を置いています。   5 臨港地区に指定された土地の鑑定評価に当たって 不動産鑑定士がこのような土地の鑑定評価を依頼された場合、次の事項に注意を払っています。 (1) 臨港地区(分区)の価格水準の検討 臨港地区(分区)指定の有無は港湾管理者(港務局又は県・市等の担当部署)にて確認しますが、臨港地区(分区)の指定を受けていることによる利用制限(用途制限)の影響は地域の価格水準に反映されているのが一般的と考えられます。 その意味で、いわゆる地域相場の把握は重要です。 (2) 分区内における建築物や構築物等の規制の把握 分区内においては、各分区の目的を著しく阻害する建築物その他の構築物であって、港湾管理者としての地方公共団体の条例で定めるものを建築してはならないこととなっています(港湾法第40条第1項)。 そのため、港湾管理者である地方公共団体(県や市など)が独自に条例を制定し、そのなかで建築可能な建築物等の規制を行っています。したがって、臨港地区内における建築可能な用途等については、分区ごとの規制内容を各地方自治体の条例に照らして確認する必要があり、価格水準も条例による制限の強弱等を反映しているといえます。   6 おわりに 上記のとおり、一概に臨港地区といっても、そのなかに指定され得る分区の対象は広いものとなっています。例えば、商港区や工業港区もあれば、マリーナ港区というものもあります。 港湾法や臨港地区が土地の評価に関連して登場してくるのは工業専用地域の場合が通常であり、その意味では税理士の方々にとってそれほど馴染みのあるものとはいえないと思われます。しかし、法人相手の(しかも、港湾に面した土地を保有する企業を相手とする)業務に携わっている方にとっては、港湾法の制限を受ける土地の時価がどれほどであるか等について相談を受ける機会もないわけではありません。 (了)

#No. 599(掲載号)
#黒沢 泰
2024/12/19

《税理士のための》登記情報分析術 【第19回】「担保権の抹消登記」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第19回】 「担保権の抹消登記」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   事業に関する融資や住宅ローンの借入を受ける場合、所有する不動産に担保権(主に抵当権、根抵当権)の設定登記をすることになる。無事に完済をした場合には、担保権の抹消登記をすることになるが、どうやって担保権の抹消登記を行えばよいか分からず放置してしまう人も少なくないようである。 資産として不動産を活用していくためには、担保権の抹消が可能となったら速やかに登記を行う必要がある。本稿では、担保権の抹消登記を行う重要性と手続に必要な書面等について解説を行う。   1 担保権の抹消登記の重要性 借入を完済して金融機関等の担保権者から抹消登記に必要な書類の交付を受ければ、実体として担保権は抹消されているといえる。ただし、不動産の取引は登記されている情報が前提となるため、登記記録上も担保権が抹消されている状態としなければ、所有する不動産を売却する場合や新たに担保権を設定して借入を起こす場合に支障が生じる。 コロナ禍のように資金が急に必要になる事象がまたいつ発生するとも限らないため、所有する不動産については必要な登記手続を速やかに行い、最新の状態に保っておく必要がある。 【担保権が抹消された登記記録例】 ※抹消されると下線が引かれることになる。   2 担保権の抹消登記が放置される理由 (1) 所有者が重要性を認識していない 住宅ローンを完済した場合に多いが、不動産の所有者が担保権の抹消登記の重要性を理解していないため放置されてしまうことがある。住宅ローンを完済すると、金融機関から担保権の抹消登記に必要な書類と、抹消登記の手順に関する説明文が送られてくるが、実際に登記申請を行うかどうかは不動産の所有者に委ねられることになる。担保権の抹消登記の重要性を不動産の所有者が理解していないと、手を付けられないままになってしまうことがある。 事業に関する融資の場合には、所有者と金融機関との継続的な関係性があるため、司法書士の紹介を含めてサポートを受けられることが多く、登記せずに放置されることは比較的少ないといえる。 (2) 登記申請のやり方が分からない 担保権の抹消登記を行うためには、担保権者である金融機関から送られてきた書類を提出するだけではなく、登記申請書の作成や登録免許税の納付などの作業が必要になる。登記実務に不慣れな所有者では対応が難しく、気軽に相談ができる司法書士がいない場合には、登記申請がなされないままとなることがある。 (3) 担保権者の協力が得られない 担保権の抹消登記をするためには、担保権者から解除証書等の書面を作成、交付してもらう必要がある。担保権者が金融機関である場合には、必要となる書面等を交付しないということはほとんどないが、担保権者が個人であるような場合には知識不足などの理由により書面等の作成ができず交付されないことがある。担保権者の協力が得られない場合には、裁判を起こして抹消登記を行う必要性が生じることがある。   3 担保権の抹消登記に必要となる書面等 抵当権、根抵当権などの担保権の抹消登記には以下の書面等が必要になる。所有者(登記権利者)と担保権者(登記義務者)が共に関与して申請するため(共同申請)、所有者、担保権者がそれぞれ書面等を準備する。 なお、②③については、登記申請を放置している間に所有者が紛失しているケースがある。②については再発行してもらうことができるが、③については再発行ができないため、登記申請に追加で費用や時間がかかることになる。   4 おわりに 税理士の実務を行っていると、顧客の不動産に担保権が抹消されていないまま残されているケースを目にすることもあるだろう。放置されているということは、顧客自身では対応が困難だと窺われるため、税理士から司法書士を速やかに紹介すると、顧客の利益を守ることにもつながるだろう。 (了)

#No. 599(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/12/19

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第19回】「50歳からNISAで枯渇しない資産をつくる方法」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第19回】 「50歳からNISAで枯渇しない資産をつくる方法」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇老後資産の枯渇 老後のお金に関する最大の不安は、ずばり身体の寿命が尽きる前に貯蓄が尽きてしまうことです。でも、貯蓄残高と人生の残りの時間を天秤にかけ、ため息をつくなんて寂しいことはしたくありませんよね。 例えば、65歳時点で貯蓄が2,000万円あったとしても、月々5万円ずつ取り崩していたら、33年で資産が枯渇してしまいます。65歳の33年後は98歳ですから、まだまだ元気な可能性も十分にあります。しかしその時、貯蓄が底をついてしまったら、どんな気持ちで毎日を過ごしたらよいのでしょうか。 よく「私は長生きしないから」と笑っておっしゃる方もいますが、なかなか自分の希望通りに終われないのが人生でもあります。できれば、人生が終わるまで尽きない資産があると安心です。 そこで今回は、NISAを用いて、老後資産が生涯枯渇しないように「運用しながら引き出す」方法と、その元手となる資産のつくり方をご紹介します。   〇NISAで資産を「運用しながら引き出す」 資産の取崩し方法といえば、単純に銀行の預金から必要な額だけ毎月引き出して使うというのが一般的ですが、最近は「運用しながら引き出す」方法に注目が集まっています。特に、生涯税制優遇の対象となるNISAは、老後に資産を枯渇させないためにぜひ活用したい制度です。 先ほど申し上げたとおり、老後資産2,000万円を毎月5万円ずつ引き出すと、33年4ヶ月で残高が0円になってしまいます。しかし、年利3%で運用しながら引き出すと、残高が減ることはなく、生涯2,000万円を維持することができます。 言ってみれば、2,000万円を元手に毎年60万円の利益が出るので、その利益でもって生活ができるということです。利益分を引き出しても、元本はまた翌年以降継続して投資に回るので、さらに利益が生まれます。 もちろん、毎年決まった利率で運用ができるわけではありませんが、やはり「運用しながら引き出す」という方法を研究する価値はあるのではないでしょうか。最近は、運用しながら引き出すことによる効果を「資産寿命を延ばす」と言ったりします。   〇運用益3%の実現性 次に、年利3%の運用が実現できるかどうかを考えていきます。 直近の市場の動きではなく、長期での運用実績を確認したいので、私たちの年金積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用実績を参考にします。ウェブサイトを参照すると、日本の株式・日本の債券・外国の株式・外国の債券を約25%ずつ均等に運用した結果、2001年度から2024年度第2四半期の年平均利回りが4%強となっています。この数値は将来を約束するものではありませんが、1つの目安として考えることができそうです。 日本の年金運用をお手本にして運用する場合、それぞれの対象に投資をするインデックスファンドを組み合わせて自らポートフォリオを組むことができますが、4資産均等バランスファンドなどの投資信託を利用することもできます。もちろん、この種のバランスファンドはNISAでも購入可能です。 例えば、つみたて投資枠でも購入可能なニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)では、直近は株式市場が活況なので、1年間で12.45%も利益が出ていますし、過去5年の平均リターンは9%となっています。ただ、日本経済新聞社が発表する分類平均指数の過去10年における平均リターンは4.65%ですから、やはり日本の年金と同じような運用実績と理解してもよさそうです。   〇50歳から2,000万円の準備 続いて、年間3%を予定利回りとした場合、50歳の方がどうやって65歳までに2,000万円を準備できるのかを考えていきます。 まず50歳から60歳まで、月5万円を積み立てます。年利3%で運用しながら積み立てると、60歳時点で700万円くらいになります。もちろんNISAを利用すれば運用益に対し税金はかかりませんから、効率良くお金を増やすことができます。 さらに、60歳からは、積立ては終了して運用のみを継続します。すると、700万円が5年で800万円ほどになります。60歳以降の就労収入は減額されるケースが多いので、今回は、積立ては60歳で終了という想定にしてみました。 もちろん、これだけでは2,000万円の資産にはならないので、退職金のうち1,000万円をNISAで60歳から5年間運用します。ここでは、一括投資ということで試算しますが、実際にNISAを利用する場合、年間の投資可能額は360万円ですので、上限を目処に複数回に分けて投資をすることで、時間を分散させリスクを低減させます。 1,000万円を年利3%で5年間運用すると、1,200万円ほどになります。先ほどの800万円と合わせると、2,000万円を準備できます。そして、65歳以降は運用しながら月5万円ずつ引き出します。   〇積立時期終了後のポイント ある程度の年齢になると、長期での運用ができないのではないかとおっしゃる方も少なくないのですが、「積立時期」が終了した後「運用のみ継続する期間」を設けることが重要です。取崩しを開始する前に、できるだけ運用を継続する期間を設けることで、より多くのリターンが期待できるからです。 そして取崩しの時期になったら、NISAを開設している金融機関に定期売却サービスを申し込みます。これは、その都度自分で投資信託の解約手続きをしなくとも、毎月決まった金額分を自動的に解約し、指定の口座に振り込んでくれるサービスです。現時点では、定期売却サービスを行う金融機関はそれほど多くはありませんが、今後普及が期待されているので、ご自身がNISA口座を開設している金融機関に問い合わせをされるのもよいでしょう。 *  *  * 今回は、50歳からの15年間で2,000万円の資産をつくる流れと、そこから月々5万円ずつ引き出しても枯渇しないための運用・引出方法についてご説明しましたが、そもそも毎月引き出す額が5万円でよいのかという点は人によって異なりますし、それによって目標とする積立額等も異なってきます。 老後のお金の問題はなかなかやっかいなものではありますが、やはり資産運用の知識はこれからの人生には重要なものであると考えます。必要であれば専門家のアドバイスを受けながら、老後に枯渇しない資産づくりにぜひ取り組んでみてください。 (了)

#No. 599(掲載号)
#山中 伸枝
2024/12/19

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和6年4月~6月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和6年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2024(令和6)年12月12日、「令和6年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係が2件、所得税法関係、相続税法関係、登録免許税法及び消費税法関係が各1件で、合計6件となっている。公表された裁決には「全部取消し」となった事例はなく、ほとんどが棄却となっている。 【表:公表裁決事例令和6年4月から6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、他人が成りすまして所得税の確定申告書を提出した場合の申告の有効性が争われた事例(前掲表①)及び消費税の免税事業者になる課税期間の前日において購入した金地金が仕入税額控除の対象となるかが争われた事例(前掲表⑥)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 他人が成りすまして提出した申告書の効力・・・① (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が審査請求人に対して行った所得税等の更正処分等に対し、請求人が、同処分等の前提となった請求人名義の納税申告書は、他人が成りすまして提出したものであり、当該納税申告は無効であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 請求人が、知人であるJが成りすまして提出したと主張する所得税の確定申告書は、平成28年分から令和2年分に係るものであり、請求人に事業所得があるとして複数の会社から得た報酬と必要経費が記入され、源泉徴収された所得税の還付を求める内容であった。 (2) 争点 Jによる本件各申告書の提出は、国税通則法第24条に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当するか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、法令解釈として納税義務者以外の者が、本人の承諾なく納税義務者の申告書を作成し、提出した場合には、その納税申告は無効であるが、申告書を提出した者が、納税義務者から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合は、その納税申告は有効であり、さらに、権限なくして行われた申告行為であっても、納税義務者が当該納税申告を追認すれば、当該納税申告は有効となると解するのが相当であるという判断を示した。 そのうえで、本件について、国税不服審判所は、請求人が、Jに対して、明示又は黙示に申告行為を行う権限を与えていたとはいえないと判示したものの、次に掲げる請求人の行為は、Jによる申告行為を追認したものと解すべきとして、審査請求は理由がないから棄却する裁決を行った。   2 仕入税額控除の調整(消費税法第36条第5項)・・・⑥ (1) 事案の概要 本件は、不動産管理・賃貸業などを営む合同会社である審査請求人が、消費税の課税事業者から免税事業者となる課税期間の初日の前日に取得した金地金の取得価額に係る消費税額を当該前日の属する課税期間の控除対象仕入税額に含めて消費税等の確定申告をしたところ、原処分庁が当該金地金は消費税法上の棚卸資産に該当するから当該消費税額は控除対象仕入税額に含めることができないとして消費税等の更正処分等をしたため、請求人が、当該金地金は棚卸資産には該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 本件金地金は、消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するか否か。 (※) 一部かっこ書き等を省略している。 (3) 請求人の主張 請求人は、定款上の事業目的に金地金の売買を掲げておらず、金地金の売買をする専属の担当者も置いていないことから、請求人が金地金の売買を反復継続して行うものでないことは明らかであり、反復継続性がない以上、金地金の売買が請求人の営業に当たることはないから、本件金地金は、営業目的を達成するために所有する資産とはいえず、消費税法上の「棚卸資産」に該当しないと主張した。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、消費税法第36条第5項の趣旨について、消費税法第30条第1項の規定する仕入税額控除制度が、消費税の納付税額の計算に当たって、税負担の累積を排除する観点から、取引の前段階で課された消費税額を控除するものであるところ、課税事業者が免税事業者となる場合、免税事業者となる課税期間の初日の前日の属する課税期間中に取得し、当該課税期間の末日において保有する棚卸資産は、売却を目的として取得・保有される資産であるがゆえに免税事業者となった課税期間に売却される蓋然性が高く、その際には消費税が課されないことから、この場合の棚卸資産に係る消費税額には税負担の累積排除の趣旨が妥当せず、仕入税額控除をすることは不合理であるから、当該消費税額については仕入税額控除を認めないこととする点にあるという見解を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、本件金地金が請求人の事業目的に係る取引の客体として取得されたものであり、かつ、請求人は、本件金地金を取得した時点において、将来、これを売却する方針を有していたという事実によれば、請求人は、その事業目的に係る業務の過程において売却することを目的として本件金地金を保有していたものと認められるから、本件金地金は消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するものと認められるという判断を示したうえで、審査請求は理由がないから、棄却する裁決を行った。 (了)

#米澤 勝
2024/12/16

プロフェッションジャーナル No.598が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年12月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.598を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/12/12

国際課税レポート 【第9回】「現役世代の「タックス・フリーダム・デイ」」~「手取り」と企業の「雇用コスト」~

国際課税レポート 【第9回】 「現役世代の「タックス・フリーダム・デイ」」 ~「手取り」と企業の「雇用コスト」~   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員   5月13日は何の記念日か 税に関し、5月13日は何の記念日だろうか。 税の専門家である読者の皆さんでもすぐにはピンとこないかもしれないが、2024年5月13日は日本の「タックス・フリーダム・デイ」である。 これは、平均的な収入を得た日本の労働者が、その年に支払わなければならない所得税、社会保険料、そして消費税を支払い終えるためには、1月1日から何日までかかるかを示す指標だ。社会保険料には、雇用主負担分も含められている。非営利の研究機関であるフランスのモリナリ経済研究所とアメリカのソロス財団が公表している(他のシンクタンク等からも同様の指標が公表されている)。 この日を過ぎてからの収入、すなわち、5月14日以降の収入は全額が“手取り”であり、自分のために使うことができるようになる。 税や社会保険料負担を示す指標として、「国民負担率」が知られている。令和6年度の国民負担率(見通し)は、45.1%、国民負担に財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は、50.9%となる見通しとされている(※)。 (※) 財務省「令和6年度の国民負担率を公表します」参照 国民負担率が、国民全体でみた税と社会保険料負担の金額の国民所得(国内に住む人々が国内・国外で得た所得の合計)に対する比率を示すものであるのに対し、タックス・フリーダム・デイは現役世代(被雇用者)の平均的な収入に対する税・社会保険料負担をより実態に近い形で示しており、国際比較を行うこともできる。 また、OECDは、雇用コストに対する税・社会保険料の負担割合を「税のくさび」(Tax wedge)として捉え、公表している。こちらは、収入から、税のくさびを差し引くことで手取りの割合を求めることができる。 以下では、現役世代(労働者)の負担に関する国際的な指標である「タックス・フリーダム・デイ」と「手取り割合(税のくさび)」を紹介することとしたい。   タックス・フリーダム・デイの国際比較 タックス・フリーダム・デイは、同じ条件で各国の税・社会保障負担について国際比較することにより、税、社会保障政策を構想するうえでの参考に資することを目的の1つとしている。下記の【表1】に、G7各国の状況を紹介する。 【表1】 タックス・フリーダム・デイ(2024) (出所) モリナリ経済研究所(仏)、ソロス財団(米)「The Tax Burden on Global Workers」(2024)8頁を基に筆者作成 【表1】からは、イギリスを除く欧州各国のタックス・フリーダム・デイは7月と遅く(負担が重いことを意味する)、アメリカは4月と早い(負担が軽い)ことが分かる。イギリス、カナダは5月初め、日本は5月中旬になっている。   「手取り」割合の国際比較 OECDは、企業の雇用コスト(被雇用者の給与の額及び社会保険料雇用主負担分の額)に対する税・社会保険料(雇用者・被用者分)の負担割合を「税のくさび」(Tax wedge)と呼び、単身者と子育てカップル(子ども2人)別に示している。 企業の雇用コストから税のくさびを控除したものが「手取り」であると観念し、企業の雇用コストに対する労働者の手もとに残る割合(%)を整理すると下記【表2】のようになる。 【表2】 平均的な労働コストに対する手取り割合%(2023) (注) 共稼ぎの場合、子育てカップル(子ども2人)のうち1人は平均的な給与の額の67%の収入があるものとしている。 (出所) OECD「Taxing Wages 2024」より筆者作成 これによると、いずれのタイプの納税者も、最も手取り割合が大きいのはアメリカで、企業の雇用コストの7割(単身者)から8割(片稼ぎの子育てカップル)が手もとに残っている。 一方、手もとに残る割合が低いのはフランス及びドイツであり、単身者の場合は約5割、子育てカップルの場合でも6割程度しか手もとに残らない。 日本の手取り割合は67%(単身者)から72%(片稼ぎの子育てカップル)であり、7割程度は手もとに残っている。手もとに残る割合はおおむねOECD平均並みとなっている。   雇用主負担分の社会保険料・VAT負担の考慮 被雇用者の給与の額(Gross salary)から税・社会保障を控除した金額が差し引かれ、残りが”手取り“となる。 しかし、給与支払明細書に記載されるこれらの金額のほかに、給与支払明細書に記載はないが、雇用主が負担する社会保険料等の雇用主負担分がある。 タックス・フリーダム・デイを公表しているモリナリ経済研究所(仏)、ソロス財団(米)は、給与総額(税引き前給与の額)に雇用主負担分の社会保険料を加えた金額を「実質給与総額」(Real Gross Saraly)と呼んでいる。これは、雇用者からみた労働者1人を雇用するためのコストである。 G7各国における「実質給与総額」(企業が労働者1人を雇用するためのコスト)と、被雇用者にとっての「手取り」(給与額面から被用者負担の税・社会保険料を控除した金額)を下記【表3】に示す。 【表3】 実質給与総額と手取り(2024) (単位:USD) (注) アメリカについては、州による課税(所得税、小売売上税)がある。人口の多い州Top5州の平均税率を用いている。【表4】において同じ。 (出所) モリナリ経済研究所(仏)、ソロス財団(米)「The Tax Burden on Global Workers」(2024)10頁を基に筆者作成 さらに、手取り金額から納税者が負担するVATの金額(推計)を控除した金額を、「実質純給与の金額」としている。 【表4】 VAT負担の考慮とタックス・フリーダム・デイ (出所) モリナリ経済研究所(仏)、ソロス財団(米)「The Tax Burden on Global Workers」(2024)10頁を基に筆者作成 各項目の計算方法の概要は次のとおり。   雇用のためのコスト 最後に、企業が労働者1人を雇用するために必要なコストである「実質給与総額」の金額のランキングを下記【表5】で紹介する。 【表5】 労働者1人あたりの雇用コスト(米ドル)のランキング(2024) (注) 平均的な給与の額(OECDによる)に、雇用主の社会保険料負担を加えた金額。2023年7月17日の換算レートで米ドルに換算。 (出所) モリナリ経済研究所(仏)、ソロス財団(米)「The Tax Burden on Global Workers」(2024)16頁を基に筆者作成 この表からは、日本は雇用のためのコストはG7の中で最も低いことが分かる。 その理由だが、実質給与総額に占める雇用者負担の社会保険料の割合は、わが国が16.6%であり、フランスの43%やイタリアの30%の半分程度だが、11.5%のイギリスや7.6%のアメリカよりは高い(負担割合は、【表3】において②社会保険料(雇用者)の①実質給与総額に対する割合をいう)。 したがって、労働コストが低い理由は雇用主の社会保険料負担が少ないからではなく、そもそもわが国の賃金が低いことに由来したものである。わが国の1人あたり給与総額は3万6,000ドル程度で、6万ドル以上の米国、ドイツ、カナダの3分の2以下であり、ドルベースで見た場合、G7諸国の中で最低となっている。   まとめ わが国では、現在、「103万円の壁」、「106万円の壁」など、一定の所得金額を超えると税や社会保険料の納付義務が生じたり、扶養から外れたりする金額基準の在り方について議論がなされている。 この議論は、給与明細に記載される給与の額から控除される金額を減らすことにより”手取り”を増やす方法の在り方に注目したものであるが、本稿で紹介したように、国際的な議論では雇用主の雇用コスト、労働者の手取り(take-home-pay)の両方に注目した指標が参照されている。 被用者や雇用主が負担する社会保険料は、現在及び将来における給付(特に厚生年金)につながるものである。タックス・フリーダム・デイの計算においては、給付が考慮されていない点について批判がある。しかし、税・社会保障負担の在り方の検討にあたり、勤労世代の負担の全体像を捉えるうえで有用な指標の1つとなりうることを示唆していると言えるだろう。 (了)

#No. 598(掲載号)
#岡 直樹
2024/12/12

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第49回】「〔第5表〕直前期末方式、直前期末修正法、直後期末方式の選択と適用の検討」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第49回】 「〔第5表〕直前期末方式、直前期末修正法、直後期末方式の選択と適用の検討」   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲(令和6年10月20日相続開始)が100%所有している甲株式会社の株式を長男が相続しています。甲株式会社は、令和5年に取引先の重大な過失により損害が発生し、同年11月1日に損害賠償請求権として50,000千円の金員を受領することで和解が成立しています。取引先は資金の準備に時間を要したため、実際に支払いが行われたのは、令和6年5月1日です。甲株式会社は、直前期末において損害賠償金の権利について処理は行わず、受領した時において雑収入として計上しています。 甲株式会社は12月決算で直前期末は令和5年12月31日となり、同日における帳簿上の純資産価額は200,000千円です。なお、直後期末の令和6年12月31日時点における帳簿上の純資産価額は260,000千円です。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」における相続税評価額による純資産価額及び帳簿価額による純資産価額は、それぞれいくらになりますか。 なお、直前期末及び直後期末における帳簿上の純資産価額には、含み損益はないものとします。また、甲株式会社は、売上の管理を月単位で行っているため、仮決算方式での算定は困難であり、課税時期から直後期末までの間における資産及び負債の著しい変動はないものとします。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の相続税評価額及び帳簿価額による純資産価額は、下記《A案》、《B案》及び《C案》が考えられます。 本問の場合には、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しい変動があるため《A案》は認められず、《B案》及び《C案》については、仮決算方式との整合性を考慮したものとして、それぞれ認められるものと思料されます。 《A案》直前期末方式 《B案》直前期末修正法 (※) 200,000千円+50,000千円-50,000千円×37%=231,500千円 《C案》直後期末方式  ◆  ◆  ◆ ① 仮決算方式と直前期末方式 第5表の純資産価額の計算は、原則として仮決算方式で評価するべきこととされていますが、評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため、課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がなく評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末方式により計算することができるものとされています。 したがって、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がある場合については、直前期末方式により計算ができません。 仮決算方式と直前期末方式を比較すると下記の通りとなります。 (※) 帳簿価額は、会計上の帳簿価額ではなく税務上の帳簿価額となります。   ② 直後期末方式 実務上においては、評価会社が課税時期において仮決算を行っていないことが多いため、直前期末方式で計算することが一般的となりますが、課税時期が直後期末に近く、かつ、課税時期から直後期末までの間の資産及び負債の著しい増減がないと認められる場合には、直後期末の資産及び負債の帳簿価額で計算することも認められます。 平成25年10月22日の東京地裁判決(TAINSコード:Z263-12314)は、下記のとおり課税庁が直後期末方式により純資産価額を計算した数値について瑕疵があるとはいえないと判断し、直後期末方式を認めた事例です。   ③ 直前期末修正法 直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がある場合については、直前期末方式により計算ができないため、仮決算方式を採用することが原則的な取扱いとなります。ただし、仮決算を行わなくても、直前期末の数値を修正することで直前期末から課税時期までの資産及び負債の変動を考慮できる場合には、そのような方法(以下「直前期末修正法」という)も認められるものと考えられます。 国税不服審判所平成27年3月4日裁決(TAINSコード:F0-3-417)は、直前期末修正法を採用した事例です。直前期末から課税時期までの間に債務免除が行われた場合には、直前期末の数値は債務免除の金額が考慮されていないため、債務免除の金額を考慮して純資産価額を算定するべきとして、下記のとおり判断しています。 (下線部は筆者による)   ④ 損害賠償金の益金算入時期 他の者から支払いを受ける損害賠償金の益金算入時期は、原則としてその支払いを受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するとされていますが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払いを受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認めるとされています(法基通2-1-43)。   ⑤ 本問の場合の当てはめ 本問の場合には、直前期末から課税時期までの間に資産の大きな変動がありますので、直前期末方式《A案》は認められないことになります。そして、仮決算方式が困難であり、かつ、課税時期から直後期末までの間における資産及び負債の著しい変動もない状況ですので、直後期末方式《C案》も認められるものと考えられます。 また、直前期末の数値を修正することで直前期末から課税時期までの資産及び負債の変動を考慮できる直前期末修正法《B案》も合理的なものとなりますので認められるものと考えられます。 ただし、納税者側が《B案》で当初申告したことに対して、課税庁が《C案》で増額更正処分をすることは、法的な根拠がない課税処分であるため、認められるべきものではないものと思料されます。 なお、《B案》の場合に損害賠償金に対する法人税額等相当額を負債に計上することが可能かについて疑問が生じますが、損害賠償請求権の帳簿価額をどのように処理するかによって、控除の可否が決定します。 すなわち、下記《B案》の場合には損害賠償金に対する法人税額等相当額の負債計上が認められると考えられますが、下記《B´案》の場合には、法人税額等相当額を負債計上できません。 《B案》 《B´案》 《B案》の考え方は、評価会社が仮決算を行っていないため、課税時期の直前期末における資産及び負債を基として1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を計算する場合における損害賠償金に対応する法人税額等は、仮決算方式との整合性を図るため、負債に計上するべきとするものです。考え方としては本連載【第25回】で解説した保険差益に対する法人税額等の計上と同様です。 《B´案》の場合には、相続税評価額と帳簿価額の差額50,000千円が生じていますので、下記のとおり第5表の⑧欄で法人税額等相当額の控除がされます。 《B案》の場合も《B´案》の場合も最終的な1株当たりの純資産価額は同額となります。 ただし、本問の場合には、課税時期時点において損害賠償金に対する雑収入が発生していますので、仮決算方式との整合性を考慮し、上記《B案》の考え方が相当となります。   ☆実務上のポイント☆ 直前期末から課税時期までの間に資産及び負債の著しい変動がある場合には、原則として仮決算方式で計算することになりますが、例外処理として直前期末修正法、直後期末方式があります。いずれの方法でも仮決算方式との整合性を考慮する必要があります。 (了)

#No. 598(掲載号)
#柴田 健次
2024/12/12

〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 【第4回】「ポイント負担金が課税仕入れに該当するか否かの判断の要点」

〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第4回】 「ポイント負担金が課税仕入れに該当するか否かの判断の要点」   税理士 石川 幸恵   【Q】 私は美容室を経営しており、集客のために美容関連の予約サイトを利用しています。この予約サイトは共通ポイント制度と連携しており、消費者がサイト経由で予約し、来店すると、施術料金に応じた共通ポイントがポイント運営会社から消費者に付与されます。付与されたポイント相当額は「ポイント負担金」という名目で、当店にポイント運営会社から請求されます。 このポイント負担金は、消費者が予約サイトを使ったことで生じ、施術料金に応じて金額が決まりますので、実質的には予約サイトやポイントプログラムの利用料であり、消費税の課税仕入れといえるのではないでしょうか。しかし、国税庁ホームページの解説では「ポイント負担金は対価性がない」ことを前提とした処理を紹介しており、実際にポイント運営会社からの請求明細にも消費税は記載されていません。なぜ「ポイント負担金は対価性がない」とされるのでしょうか。理由を教えてください。 【A】 美容室の経営を行う法人(請求人)が、ポイント負担金は課税仕入れに係る支払対価の額に該当するとして消費税等の更正の請求を行いましたが、原処分庁は更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が国税不服審判所にその全部の取消しを求めた事案があります(国税不服審判所令和3年10月7日裁決(TAINSコード:F0-5-368))。 審判所はポイント運営会社における経理処理や利用約款等の記載事項を検討し、ポイント負担金は個別具体的な課税資産の譲渡等が行われたことを条件として支払われたといい得る対応関係があるとは認められないから、課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないと判断しています。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 令和5年10月に適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されたことにより、ある支払いが「課税の対象なのか」「税率は標準税率か軽減税率か」という点は、適格請求書により売手から買手に正確に伝えられるようになり、判断に迷うことは少なくなった。 しかし、共通ポイント制度のように比較的新しく、しかも急拡大しているような取引においては、今後、異なる判断が出てくる可能性もあるので、適格請求書の記載事項のみに依拠するのは危険である。本稿では、裁決事例を基にポイント負担金が課税仕入れに該当するかどうかについて、本稿執筆時点での考え方を整理する。   (1) 共通ポイント制度におけるポイント負担金の基本的な仕組み 共通ポイント制度はポイント運営会社、ポイント制度の加盟店、ポイントを利用する消費者の三者が関係する取引である。前回は顧客がポイントを利用した際のお金の流れについて整理したが、今回は消費者にポイントが付与される際のお金とポイントの流れを整理してみよう。 ※国税庁ホームページ「共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の取引の概要」を基に筆者加工 裁決事例では予約サイトを使った取引であるが、飲食店や小売店で会計の際にポイントカードやアプリを提示して「共通ポイントを貯める」場合も同じ流れである。   (2) 「課税仕入れに係る支払対価の額」の法令解釈 審判所は消費税法第2条第1項第12号「課税仕入れの定義」等に基づいて、課税仕入れについて主に次のように解釈している。 ◆消費税法第2条第1項第12号   (3) ポイント制度の利用約款等の内容によって消費税の課税仕入れに該当するケースとは 審判所は次の点より、ポイント負担金を課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないと判断している。 ポイント運営会社の利用約款等にポイント負担金が課税仕入れに該当するかしないかという直接的な記述があることは期待できないので、上記の点に着目し、ポイント負担金が個別具体的な課税資産の譲渡等の対価であるか否かを検討することになろう。   (4) ポイント負担金の性格 審判所は、ポイント負担金は会員に対し付与したポイントの原資とするために加盟店からポイント運営会社に対して支払われたものであると認めている。 また、朝長英樹氏によれば、ポイント運営会社は、会員にポイントを付与した加盟店と会員がポイントを使用した加盟店との間で金銭を授受するためのトンネルのような役割を果たしているのであって、運営会社においてはその金銭の額のいずれもが課税資産の譲渡等の対価の額の授受はないので不課税であると述べている(※)。 (※) 朝長英樹「TKCWEBコラム特別寄稿 共通ポイントの消費税の処理(2023年9月)」   (5) 共通ポイント付与時の処理例 最後に、国税庁ホームページで紹介されているポイント負担金に関する経理処理を確認する。 〈加盟店〉 また、ポイント運営会社の仕訳は国税庁ホームページには紹介されていないが、上記と同様にポイント負担金に対価性がない場合は、次のような仕訳となると考えられる。 〈ポイント運営会社〉 (※) 勘定科目は筆者による例示である。 (了)

#No. 598(掲載号)
#石川 幸恵
2024/12/12

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第66回】「先代経営者の相続対策の巻き戻し」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第66回】 「先代経営者の相続対策の巻き戻し」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕   相談内容 私Xは卸売業Y社の2代目社長です。創業者である先代Zより3年前に事業、株式を引き継ぎ、Zは引退しました。昨年、Zは82歳で亡くなり、遺産分割や相続税の申告等の手続きは無事に終わりました。Zの存命中は詳細に聞くことはできませんでしたが、以下の通り、Y社の株主は分散し、また、複数の子会社があります。 Zと先代の顧問税理士が一緒になって相続対策を進めてきたようで、実際の承継にあたり、会社規模の割に相続税等のコストは低く抑えられたと聞いています。 ただ、私としては非上場会社なので経営に関与しない株主に決算書を見せたくはありません。また、存在理由の分からない複数の子会社の代表取締役に就任しており、本業に集中できませんので整理していきたいと考えています。 ちなみに、私は株主であるJ社及びM氏との面識はありますが、N氏には会ったこともありません。 整理を進めるにあたっての注意点等ありますでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 過去の経緯について 一世代前の非上場会社の相続対策においては、配当還元株主に株式を持ってもらうことにより、相続対象となる株式数を減少させることが頻繁に行われてきました。 ご相談の場合、取引先J社については現状も取引があるとのことなので、急いで買い戻す必要もないと考えられますが、譲渡の経緯や譲渡価格はJ社にヒアリングするなどして、確認しておくのがよいでしょう。 一方、個人株主のM氏やN氏は先代のZ氏と同年代で高齢と思われるため、早急に連絡を取り、譲渡経緯や譲渡価格をヒアリングするとともに、すぐに買戻交渉を行うべきです。 M氏やN氏が死亡すると彼らの相続人と買戻価格交渉を行うことになってしまい、時間やコストがかかる可能性があります。   [2] 株式の集約 株式の購入には、多額の資金が必要となる可能性が高いので、分散した株式は資産管理会社で買い取ることが一般的です。Y社で自己株式として取得することも考えられますが、対象株式が20%あることから安値買取りでの株主間贈与のリスクや、M氏、N氏側でのみなし配当による総合課税となることから今回は考慮しないこととしました。 少数株主(J社、M氏、N氏)から同族株主である資産管理会社C社への譲渡価額の算定は、課税上の弊害がない限り、以下の条件付きで財産評価基本通達178から189-7によることが認められています(法基通9-1-14)。 もし、交渉の結果、上記で算定した株価(例えば100)より低い株価(例えば40)で取得できた場合の課税関係は、以下の通りとなります。   [3] 子会社の整理 子会社の整理については、以下の観点から検討することをお勧めします。 (1) D社 親会社であるY社と取引がなく、今後、Y社に不動産経営を行う意思がないのであれば、Y社によるD社株式の売却を検討すべきです。不動産を個別に売却することも可能ですが、株式として売却したほうが手続きとしては簡便です。 (2) E社 親会社であるY社との取引もあることから、親会社に取り込むか、子会社のままとして存続させるか、以下の観点による検討が必要です。 (3) F社 休眠会社ということであれば、速やかにY社と合併又は解散してしまうのが良いと考えます。解散よりも合併の方が手続き的には簡便ですが、F社の今までの事業内容や財務状況を踏まえて判断することになります。   [4] 結論 一世代前の事業承継対策の結果、株式の分散や子会社が乱立している事例は少なからず見られるところです。業績を伸ばすための対策もあれば、相続対策を目的としたものもありますが、そのことが後継者の事業運営の足かせになることもあります。 株式の買取交渉や、会社再編の実行については、通常数年にわたるプロジェクトとなるため、資金負担や株価への影響を考慮しながら取り組んでいく必要があります。このプロジェクトが落ち着いた段階で、次はX氏自身の事業承継・相続対策を始めることができます。 実際の手続きに際しては、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。   (了)

#No. 598(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2024/12/12
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