《速報解説》 収益認識に関する表示及び注記事項について定めた 「改正収益認識会計基準」等が公表される ~2021年4月1日以後開始事業年度から適用も早期適用可~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、企業会計基準委員会は、次のものを公表した。これにより、2019年10月30日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、主に収益認識に関する表示及び注記事項について規定するものである。 なお、2020年5月15日に、企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応(以下「コメント対応」という)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 範囲及び定義等 改正収益認識会計基準の適用範囲に、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号)における定義を満たす暗号資産及び金融商品取引法における定義を満たす電子記録移転権利に関連する取引を含めない(改正収益認識会計基準3項(7)、108-2項)。 定義又は用語について、次の改正を行っている。 Ⅲ 表示及び注記事項 1 収益の区分表示又は注記及び表示科目 次のように規定する(改正収益認識会計基準78-2項、155項、156項、改正収益認識適用指針104-2項)。 2 貸借対照表上の表示科目等 改正前の収益認識会計基準88項を削除し、次のように規定する(改正収益認識会計基準79項、159項、改正収益認識適用指針104-3項)。 3 重要な金融要素が含まれる場合の取扱い 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示する(改正収益認識会計基準78-3項、157項)。 4 顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示 国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」において要求されている顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示に関しては、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)の見直しと合わせて検討することとし、改正収益認識会計基準において当該開示は求めない(改正収益認識会計基準158項)。 5 注記事項 改正収益認識会計基準では、注記に関して、次の基本的な方針としている(改正収益認識会計基準101-2項~101-6項)。 6 重要な会計方針の注記 顧客との契約から生じる収益に関して、次に定める項目を重要な会計方針として注記する(改正収益認識会計基準80-2項、160項~165項)。 上記以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する(改正収益認識会計基準80-3項)。 7 収益認識に関する注記 収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することであるとし、次の注記事項を規定している(改正収益認識会計基準80-4項~80-6項、166項~168項、171項)。 収益認識に関する注記の記載方法等についても詳細に規定している(改正収益認識会計基準80-7項~80-9項、169項、170項、172項、173項)。 8 工事契約等から損失が見込まれる場合 工事契約会計基準に定める次の注記を引き継ぐ(改正収益認識適用指針106-9項、106-10項、193項)。 9 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における表示及び注記 10 四半期財務諸表における注記 すべての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益の分解情報の注記を規定する(改正四半期会計基準19項(7-2)、25項(5-3)、58-4項~58-9項)。 Ⅳ 会計処理の見直しを行ったもの 改正前の収益認識会計基準では契約資産を金銭債権として取り扱うとしていたが、改正収益認識会計基準では、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及しないこととし、次の会計処理を規定している(改正収益認識会計基準77項、150-3項)。 なお、コメント対応では、契約資産の開示については、2018年会計基準における「契約資産を金銭債権として取り扱う」との定めを削除していることを踏まえ、契約資産についての改正時価開示適用指針における時価の開示は不要であると考えられる旨を改正時価開示適用指針第20-2項に記載している(論点の項目(71)、(74))。 Ⅴ 設例及び開示例 次の設例及び開示例を追加している。 また、次の設例を変更している。 Ⅵ 適用時期等 (了)
《速報解説》 ASBJが「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の確定を公表 ~解釈に関する混乱を避けるため公開草案からは一部記載の変更も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、企業会計基準委員会は、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)を公表した。これにより、2019年10月30日から意見募集素していた公開草案が確定することになる。 これは、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実を図るものである。 なお、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)の公表に伴い、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることとなるとしているので、注意が必要である(「公表にあたって」)。 2020年5月15日に、企業会計基準公開草案第68号 「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応(以下「コメント対応」という)が公表されている。 コメント対応では、記載内容を個別に定めることについて、チェックリスト化することへの懸念が寄せられているとし、具体事例は記載しない対応としたことが述べられている(論点の項目(4)、(21)等)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 基本的な方針 会計基準の開発にあたっての基本的な方針は、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は企業が開示目的に照らして判断するものである(14項)。 会計基準の開発にあたっては、IAS 第1号「財務諸表の表示」125項の定めを参考とし、IAS 第1号第125項と同様の内容の開示を求めたうえで、内容をより適切に表す会計基準の名称として「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を用いている(14項)。 2 開示目的 当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる)がある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とする(4項、17項)。 会計基準18項では、企業の「置かれている状況」の文言が使用されている。公開草案に対して、当該企業に「固有」の情報を具体的に記述すべきとのコメントが寄せられたが、コメント対応では、本公開草案において「置かれている状況」という文言を使用したのは、「固有」の文言を使用した場合に、例えば業界全体にわたる経営環境の変化などがあったときに「固有」の文言が、ある特定の会社にのみ及ぼされ、業界全体に影響するものは該当しないと解釈される可能性があると考えたためであるとのことである(論点の項目(4)、(11))。 会計基準に基づく開示は、将来予測的な情報の開示を企業に求めるものではないが、開示する項目の識別に際しては、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示するという開示目的を達成するために、翌年度の財務諸表に及ぼす影響を踏まえた判断を行う(19項)。 公開草案における考慮すべき将来の期間を「翌年度」とする提案に対し、「翌年度以降」の財務諸表に影響を及ぼす可能性がある項目とすべきというコメントが寄せられたが、IAS 第1号第125項の定めも踏まえた検討の結果、会計基準では「翌年度」としている(19項)。 3 開示する項目の識別 会計上の見積りの開示を行うにあたり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別する(5項、23項~24項)。 公開草案で提案した開示目的の内容に関して、発生可能性の閾値の解釈について混乱が生じることを避けるなどの理由により、公開草案の「可能性が高い」との記載を削除し、「翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目」と記載を変更している(20項)。 4 注記事項 次の事項が規定されている(6項~9項、32項、33項)。 Ⅲ 未適用の会計基準等に関する注記 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)の公表に伴い、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることとなる。 改正企業会計基準第24号の原則的な適用時期は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表からであるが、本改正の趣旨に鑑みて、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の公表後、適用までの間は、改正企業会計基準第24号第22-2項「未適用の会計基準等に関する注記」を類推適用し、次の事項を注記することが適切と考えられている(「公表にあたって」)。 かつて、企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第32号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準の適用指針(案)」に対するコメントとそれに対する対応では、次のように考え方が示されていた。 Ⅳ 適用時期等 (了)
《速報解説》 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が意見募集を経て正式公表 ~関連する会計基準等の定めが明らかでない場合の注記事項充実を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、企業会計基準委員会は、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)を公表した。これにより、2019年10月30日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実を図るものである。 会計基準の名称については、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)から「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)へ改正されている。 なお、本会計基準の公表により、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることとなるとしているので、注意が必要である(「公表にあたって」)。 2020年5月15日に、企業会計基準公開草案第69号(企業会計基準第24号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応(以下「コメント対応」という)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合 「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合をいう(4-3項)。 これに関連して次のことが記載されている(44-4項、44-5項)。 公開草案では、「関連する会計基等の定めが明らかでない場合」に関して、参考となる既存の会計基準等(他の会計基準設定主体が定めた会計基準等を含む。)がある場合との記載があったが、提案された形で「他の会計基準設定主体が定めた会計基準」の適用を認めることは意図しない形で他の会計基準設定主体が定めた会計基準が準用されかねないなどのコメントを受け、当該記載は削除されている(コメント対応の論点の項目(7))。 2 会計方針の例 改正企業会計基準第24号は、「企業会計原則」注解(注1-2)の定めを引き継いでおり、重要な会計方針に関する注記における従来の考え方を変更するものではない(28-2項、29-2項)。 そして、「財務諸表には、重要な会計方針を注記する」とし、次の例を示している(4-4項、4-5項)。 なお、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができる(4-6項、44-6項)。 Ⅲ 未適用の会計基準等に関する注記 会計基準では、従来の「未適用の会計基準等に関する注記」(改正前の企業会計基準第24号の12項)を、改正企業会計基準第24号の22-2項に移動させ、「未適用の会計基準等に関する注記」と整理している。 この整理は、「未適用の会計基準等に関する注記」に関する定めは、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等全般に適用されることを明確化することを意図している(28-3項)。 このため、改正企業会計基準第24号の22-2項「未適用の会計基準等に関する注記」では、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることに注意が必要である。 未適用の会計基準等に関する注記については、決算日までに新たに公表された会計基準等について注記を行うことになるが、決算日後に公表された会計基準等についても当該注記を行うことを妨げるものではない。この場合は、いつの時点までに公表された会計基準等を注記の対象としたかを記載することが考えられる(68-2項)。 改正企業会計基準第24号の原則的な適用時期は、2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表からであるが、本改正の趣旨に鑑みて、改正企業会計基準第24号の公表後、適用までの間は、改正企業会計基準第24号第22-2項「未適用の会計基準等に関する注記」を類推適用し、次の事項を注記することが適切と考えられている(「公表にあたって」)。 かつて、企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第32号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準の適用指針(案)」に対するコメントとそれに対する対応では、次のように考え方が示されていた。 Ⅳ 適用時期等 (了)
《速報解説》 国税庁、新型コロナウイルス感染拡大により外出を控えるなど期限内申告が困難な場合には、4月17日(金)以降も柔軟に確定申告書を受け付けることを公表 Profession Journal編集部 国税庁は4月6日付けで『確定申告期限の柔軟な取扱いについて(4月17日(金)以降も申告が可能です)』を公表、令和2年4月16日(木)まで延長している申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告期限について、下記のとおり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により外出を控えるなど期限内に申告することが困難な方については、期限を区切らずに、4月17日(金)以降であっても柔軟に確定申告書を受け付けることを明らかにした。 また、4月17日(金)以降の申告相談については先着順ではなく、原則として、事前予約制とするなど、感染リスク防止により一層配意した形で行うこととしている。 (了)
《速報解説》 実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」が正式公表 ~実務対応報告第5号等の改廃は今後の検討事項に~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 現行の連結納税制度を見直し、令和4年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度に移行することを定めた所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)(以下「改正法人税法」という)が、2020年(令和2年)3月27日に成立した。 これにより、グループ通算制度の適用対象となる企業は、本来、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度、つまり、2020年3月期以後の決算(四半期決算を含む)において、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。 しかし、時間的制約があり、かつ、政省令等が公表されていない状況(※1)では、その判断を行うことについて、実務上対応が困難であることから、2020年3月27日開催の第428回企業会計基準委員会において、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(実務対応報告第5号等の改廃が行われるまでの間は「今までのままでよい、ただし、その旨を注記する」という特例的な取扱い。以下「本実務対応報告」という)が承認され、3月31日に公表された。 (※1) 令和2年3月31日の官報特別号外第37号にて令和2年度税制改正に係る政省令も公布されているが、連結納税制度の見直し(グループ通算制度の創設)に関連する政省令は今回の官報において公布されていない。 本実務対応報告は、2020年2月13日に公開草案が公表され、コメント募集が行われた後、企業会計基準委員会が寄せられたコメントを検討し、公表するに至ったものであるが、その内容については公開草案から変更は生じていない。 そのため、本実務対応報告の内容については、2月掲載の下記拙稿を参照してほしい。 ただし、本稿では次の3点について補足しておきたい。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 [補足1] 本実務対応報告第15項では「特例的な取扱いを定めるにあたっては、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、選択適用とすることとした。」と記載されている。 ここで、特例的な取扱いを適用する必要のない場合とは、連結納税制度でもグループ通算制度でも回収可能額が変わらない場合ということになろうが、例えとして「繰越欠損金に重要性のない企業」を挙げている。これは、連結(通算)グループ内のすべての法人が繰越欠損金(連結欠損金個別帰属額)を有しておらず欠損金の通算が行われない場合や、有していても金額が少額であり欠損金の通算の税額に与える影響がほとんどない場合であれば、現行制度と新制度のいずれであっても将来の税額計算(回収可能額の計算)に重要な差異は生じないはず、ということだろう。 [補足2] 本実務対応報告は連結納税制度を採用している企業又は採用を予定している企業を適用対象としているが、改正法人税法ではグループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直しも行われている(受取配当等の益金不算入制度、寄附金の損金不算入制度、貸倒引当金、資産の譲渡に係る特別控除額の特例の見直し)。 そのため、税効果適用指針第44項に従うと、本来、単体納税制度を適用している企業も、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む)において、この見直し後の取扱いの適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。 しかし、この見直しのうち、関連法人株式等に係る負債利子控除額の計算方法の見直しと貸倒引当金の100%グループ内債権の除外のほかは、将来の税額計算(回収可能額の計算)において織り込まれるものはないことが見込まれるため、その影響が大きくないのであれば、実務上、本実務対応報告が適用されている間は、単体納税制度を採用している企業がその見直しを考慮することはないであろう。 [補足3] 本実務対応報告は、当然のことながら、日本基準を採用している企業を対象としている。 つまり、IFRSを採用している企業については適用されない。 そのため、連結納税制度を採用している企業又は採用を予定している企業のうち、IFRSを適用している企業については、IAS第12号「法人所得税」第46項に従い、原則どおり、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度、つまり、2020年3月期の決算(四半期決算を含む)から、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。 この場合、本実務対応報告が公表された理由と同様に、少なくとも2020年3月期において、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことは困難であるため、現実的な対応としては、改正法人税法で明らかになっている範囲で連結納税制度の見直しのうち回収可能額に影響が生じる取扱いを把握し、その取扱いについて部分的に影響額を試算し、それが重要な差異にならないことが見込まれるのであれば(※2)、最終的には改正前の税法の規定に基づいた繰延税金資産の回収可能額を計上するという方法しかないだろう。その点で、あくまで建前上、改正後の税法の規定に基づいた(グループ通算制度の適用を前提とした)繰延税金資産を計上するということになろう。 (※2) IFRSは基本的に連結財務諸表に適用されるため、その重要性の判断も連結(通算)グループ全体で判定することになろう。 本実務対応報告は、実務対応報告第5号等の改廃が行われるまでの当面の取扱いであるが、今後、国税庁からのQ&Aや政省令によってグループ通算制度の詳細がさらに明らかにされることによって、企業会計基準委員会において実務対応報告第5号等の改廃の検討が進められていくだろう。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和元年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2020(令和2)年3月26日、「令和元年7月から令和元年9月までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり12件となっており、所得税法が4件、相続税法及び国税徴収法が各3件、国税通則法及び消費税法が各1件となっている。 国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が8件、棄却された裁決が4件となっている。 【表:公表裁決事例令和元年7月~9月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された12件の裁決事例のうち、取引先との間での通謀があったどうかの認定が争点となった国税通則法の事例と所得税法に関する必要経費の範囲と事業専従者給与を争点とした裁決事例について、その判断のポイントを中心に紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 検収日付に関し、取引先との間で通謀はないと判断した事例・・・① 本件は、石油の輸出入業、精製業及び販売業等を目的とする法人である審査請求人が、手書きの図面を電子データ化する費用を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該電子データ化が完了していないにもかかわらず、相手方と通謀して虚偽の証憑書類を作成し、当該費用を損金の額に算入したことが事実の仮装の行為に当たるとして、法人税等及び消費税等の重加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、相手方と通謀して虚偽の証憑書類を作成した事実はないとして、これらの処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 請求人には国税通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、通則法68条1項について、次のとおり、法令解釈を行った。 そのうえで、認定した事実、関係者の申述及び答述に基づき、請求人の従業員及び工事施工会社の従業員は、工事に関するファイルが提出された時点で役務の提供が実質的に完了しているとの認識の下、検収書に施工完了日及び検収日を2017年3月20日と記載したと認められ、両者が通謀し、虚偽の施工完了日及び検収日が記載された検収書を作成することにより、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、あたかも役務の提供が完了したかのように故意に事実をわい曲したとは認められないと判断した。 審判所は、上記の判断に基づき、請求人による審査請求には理由があることから、原処分の一部を取り消す旨の裁決を行った。 2 賃貸していた土地の上に存する賃借人所有の建物収去のための支出を必要経費と認めた事例・・・③ 本件は、不動産貸付業を営む個人事業者である審査請求人及びその母(以下、審査請求人と併せて「請求人ら」という)が、賃貸していた土地上に存する土地の賃借人所有の建物収去に要した費用について、いずれも不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、収去費用は家事上の経費に該当し、必要経費に算入することができないとして所得税等の更正処分等を行ったことに対し、請求人らが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 建物収去費は、請求人らの不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できるか。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当するためには、これと必要経費に算入されない家事上の経費との区分が明確となる必要があり、客観的にみて、その支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当であるとしたうえで、さらに、その判断にあたっては、単に業務を行うものの主観的判断によるのではなく、業務の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべきであるとの法令解釈を述べた。 そのうえで、審判所は事実認定に基づき、次の2つの判断を示したうえで、本件の建物収去費は、請求人らの、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとして、請求人らの審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととするという裁決を行った。 3 事業所得における青色事業専従者給与の一部を否認した事例・・・④ 本件は、歯科医院を営む歯科医師である審査請求人が、事業所得の金額の計算上、請求人の配偶者に対して支払った青色事業専従者給与を必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該青色事業専従者給与の金額のうち労務の対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額は必要経費に算入できないとして、更正処分等を行ったことに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 本件における青色事業専従者給与額は請求人の配偶者の労務の対価として相当か否か、また、相当と認められない場合、請求人の配偶者の適正給与相当額はいくらか。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、所得税法は、青色申告の承認を受けている事業者が、青色事業専従者に支払う給与の金額のうち、一定の状況に照らし、その労務の対価として相当であると認められるものは、必要経費に算入することができる旨規定しており、この「一定の状況」として、①労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、②その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及び類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況並びに③その事業の種類及び規模並びにその収益の状況を掲げているとしたうえで、その趣旨として次のように述べている。 審判所は、本件における青色事業専従者給与額が請求人の配偶者の労務の対価として相当か否かについて、各年における配偶者の労務の性質及びその提供の程度を前提として、青色事業専従者給与額と労務の性質が配偶者と最も類似する同じ歯科医院で働く歯科衛生士が各年において支払を受けた給与の額とを比較する方式(以下「使用人給与比準方式」という)及び、青色事業専従者給与額と請求人の類似同業者の事業に従事する青色事業専従者が各年において支払を受けた給与の額の平均額とを比較する方式(以下「類似同業専従者給与比準方式」という)によって検討を行った。 その結果、請求人の配偶者の労務の性質は歯科衛生士労務の性質とは異なり、また、配偶者の労務の影響の程度については、客観的な証拠によって認定することはできないと判断し、配偶者の各年分の適正給与相当額を算定するに当たって使用人給与比準方式によることは相当ではないとの結論に至った。 一方、原処分庁が採用した類似同業専従者給与比準方式による適正給与相当額の算定には、類似同業者の抽出基準の一部が相当でないとして、審判所として、抽出基準を見直したうえで、適正給与相当額の算定を行った。 その結果、審判所が算定した適正給与相当額は原処分の算定した額を上回り、請求人の納付すべき所得税額は原処分庁の更正処分における金額を下回ることから、原処分庁による更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消す裁決を行った。 (了)
《速報解説》 時価算定基準等に対応した 「会社計算規則の一部を改正する省令」が公布される ~公開草案に寄せられた意見の概要及び意見に対する法務省の考え方も公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年3月31日、「会社計算規則の一部を改正する省令」(令和2年法務省令第27号)が公布された。これにより、2020年2月10日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、2019年7月4日に企業会計基準委員会が公表した「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)等及び同年12月12日に金融庁が公表した「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」に対応するものである。同内閣府令(案)については、2020(令和2)年3月6日に、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第9号)として公布されている。 なお、公開草案に対する意見の概要及び意見に対する法務省の考え方が公表されている(以下「法務省の考え方」という)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 金融商品に関する注記として表示すべき事項に「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」を追加する(会社計算規則109条1項3号)。 ただし、会社法444条3項に規定する株式会社以外の株式会社にあっては、会社計算規則109条1項3号に掲げる事項を省略することができる。 Ⅲ 法務省の考え方 Ⅳ 適用時期等 (了)
《速報解説》 東証、新型コロナウイルス感染症拡大・長期化懸念による企業活動への影響実態に応じ「有価証券上場規程」等に特例を新設 ~パブコメ手続終了次第、速やかに施行~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、東京証券取引所は、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた上場制度上の対応に係る有価証券上場規程等の一部改正について」を公表し、意見募集を行っている。 すでに、東京証券取引所は、「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」と「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について」を公表しており、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」では、上場廃止基準等に関して、2020年3月期から適用することを想定し、速やかに制度改正手続に着手すると述べていた。 公開草案は、新型コロナウイルス感染症の拡大と長期化懸念による企業活動への影響度合いを踏まえ、上場会社及び上場申請会社に対する現行の上場制度の適用について、実態に応じた柔軟な取扱いを可能とするために、特例を新設するものである。 パブリック・コメントの期間は、通常よりも短縮されており、2020年4月14日までとされている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 上場会社を対象とした対応 上場会社が、新型コロナウイルス感染症の影響により債務超過の状態となった場合又は債務超過の状態が解消できない場合は、上場廃止までの猶予期間を1年間から2年間に延長する(指定替え基準についても1年間の猶予期間を新設)。 Ⅲ 上場申請会社を対象とした対応 上場審査に関して次のことが述べられている。 Ⅳ 適用時期等(施行日) (了)
《速報解説》 民法(債権関係)の改正・KAM強制適用等に対応した 「監査及びレビュー等の契約書の作成例」(法規・制度委員会研究報告第1号)が公表される ~法規委員会研究報告第16号から名称等を変更~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月17日付けで(ホームページ掲載日は2020年4月1日)、日本公認会計士協会は、「監査及びレビュー等の契約書の作成例」(法規・制度委員会研究報告第1号)を公表した。 従来、「監査及びレビュー等の契約書の作成について 」(法規委員会研究報告第16号)を公表していたが、民法(債権関係)の改正、監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用などに対応し、また、法規委員会と公認会計士制度委員会が統合し、新たに法規・制度委員会となったことから、法規・制度委員会研究報告第1号として、研究報告の名称及び付番を行っている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 民法(債権関係)改正に伴う対応 「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)が、 2020年4月1日から施行され、これに対応して研究報告を改正している。 「Ⅲ 監査及び四半期レビュー契約書の作成例」の「2.契約書の記載内容」の「(14)契約の解除・終了」の②に、次の記載が行われている。 2 監査・保証実務委員会報告及び実務指針の改正に伴う対応 「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」(監査・保証実務委員会報告第82号)の改正、「四半期レビューに関する実務指針」(監査・保証実務委員会報告第83号)の改正対応、「監査報告書の文例」(監査・保証実務委員会実務指針第85号)の改正に対応し、監査約款2条「受嘱者の責任」及び3条「監査の性質及び限界」(四半期レビュー約款2条及び3条)を改正している。 3 監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用に伴う対応 監査上の主要な検討事項(KAM)は、上場企業等の金融商品取引法に基づく2021年3月31日以降終了する事業年度の監査から適用となることから、改正前の研究報告本文にあったKAMの早期適用を前提とした記載を削除するとともに、様式1から様式5までのすべての監査契約書の様式例を改正する。 (了)
《速報解説》 「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」が改正される ~「開示すべき重要な不備」の監査上の主要な検討事項としての取扱いを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月17日付けで(ホームページ掲載日は2020年3月31日)、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の改正について」を公表した。これにより、2020年1月31日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、2019年12月6日の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」(企業会計審議会)を受けたものである。 なお、コメントの概要及び対応も公表されており、コメントを受け、公開草案を修正している部分もある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 内部統制監査報告書の文例なども改正されている。 2 監査上の主要な検討事項関係 「監査上の主要な検討事項」に関して、財務報告に係る内部統制における開示すべき重要な不備自体は、監査基準委員会報告書 701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」における監査上の主要な検討事項として取り扱う必要は必ずしもないと記載されている(222-2項)。 ただし、当該識別された開示すべき重要な不備が財務諸表監査に及ぼす影響を考慮して、当該不備に関連する事項が監査上の主要な検討事項に該当すると判断した場合は、財務諸表監査の監査報告書に記載することがある(その場合、財務諸表監査の監査報告書の監査上の主要な検討事項において内部統制監査報告書の強調事項や不適正意見の根拠に参照を付すことがある)。 3 内部統制監査報告書における監査意見関係 限定付適正意見及び不適正意見の表明並びに意見不表明に関して、その内容や財務諸表監査に及ぼす影響などの記載について規定されている(274-2項、276-2項、277-2項、278-2項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)