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《速報解説》 ASBJ、収益認識会計基準の表示及び注記事項を定めた改正案を公表~意見募集期間は2020年1月10日まで~

《速報解説》 ASBJ、収益認識会計基準の表示及び注記事項を定めた改正案を公表 ~意見募集期間は2020年1月10日まで~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年10月30日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、収益認識に関する表示及び注記事項について規定するものである。 意見募集期間は2020年1月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 表示及び注記事項 定義において、従来の「債権」から「顧客との契約から生じた債権」とする改正を行う(本会計基準改正案10項、12項)。 1 収益の区分表示又は注記及び表示科目 次のように規定する(本会計基準改正案78-2項、本適用指針改正案104-2項)。 2 契約資産と顧客との契約から生じた債権の区分表示又は注記 収益認識会計基準88項を削除し、次のように規定する(本会計基準改正案79項、158項、本適用指針改正案104-3項)。 3 重要な金融要素が含まれる場合の取扱い 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示する(本会計基準改正案78-3項)。 4 顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示 国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」において要求されている顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示に関しては、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)の見直しと合わせて検討することとし、本会計基準改正案において当該開示は求めない(本会計基準改正案157項)。 5 注記事項 本会計基準改正案では、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを設けることとし、開示目的を達成するために必要な注記事項の開示の要否を、企業の実態に応じて企業自身で判断する(本会計基準改正案101-2項~101-6項)。 6 重要な会計方針の注記 顧客との契約から生じる収益に関して、次に定める項目を重要な会計方針として注記する(本会計基準改正案80-2項)。 上記以外にも、「収益を理解するための基礎となる情報」(本会計基準改正案80-5項(2))として記載することとした内容のうち、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する(本会計基準改正案80-3項)。 7 収益認識に関する注記 収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することであるとし、次の注記事項を規定している(本会計基準改正案80-4項、80-5項)。 8 工事契約等から損失が見込まれる場合 工事契約会計基準に定める次の注記を引き継ぐ(本適用指針改正案106-9項、106-10項)。 9 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記 10 四半期財務諸表における注記 すべての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益について収益の分解情報の注記を規定する(四半期会計基準案19項(7-2)、25項(5-3)、58-5項、58-6項)。   Ⅲ 会計処理の見直しを行ったもの 現行の収益認識会計基準では契約資産を金銭債権として取り扱うとしているが、本会計基準改正案では、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及しないとし、次の会計処理を規定している(本会計基準改正案77項、150-3項)。   Ⅳ 設例及び開示例 次の設例及び開示例を追加している。   Ⅴ 適用時期等 (了)

#No. 342(掲載号)
#阿部 光成
2019/11/05

《速報解説》 監査基準改訂を受け監査証明府令等の改正案が金融庁から公表される~法務省からは会社計算規則の改正案も~

《速報解説》 監査基準改訂を受け監査証明府令等の改正案が金融庁から公表される ~法務省からは会社計算規則の改正案も~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和元年10月30日、金融庁は「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、また、10月31日、法務省は「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、それぞれ意見募集を行っている。 これらは、「監査基準」の改訂に対応するものである。 意見募集期間は、金融庁関係は令和元年11月28日までであり、法務省関係は11月29日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」等 監査報告書における意見の根拠の記載等に関する「監査基準」の改訂(令和元年9月3日、企業会計審議会)を受け、次の公開草案を公表するものである。 1 監査報告書に関する記載 監査証明府令4条1項1号ロに掲げる意見の根拠は、次に掲げる事項について記載する(監査証明府令(案)4条4項3号)。 2 四半期レビュー報告書に関する記載 監査報告書等の記載事項(監査証明府令4条)の四半期レビュー報告書について、次の記載に改正する(中間監査報告書も同様に改正する)。 3 企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正(案) 監査証明府令の改正に合わせて、臨時報告書の記載内容等(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正(案)」19条)における公認会計士等の意見又は結論に関する記載を改正する。 4 適用時期等 公布の日から施行する。   Ⅲ 会社計算規則の一部を改正する省令案 企業会計審議会において、「監査上の主要な検討事項」の導入等に関する「監査基準」の改訂(平成30年7月5日)及び監査報告書における意見の根拠の記載等に関する「監査基準」の改訂(令和元年9月3日)を行ったことを受けたものである。 1 会計監査人の会計監査報告(監査報告書)に関する記載 次の改正を行う(会社計算規則126条)。 2 適用時期等 公布の日から施行する。 令和2年3月31日以後に終了する事業年度に係る計算関係書類についての会計監査報告について適用し、同日前に終了する事業年度に係る計算関係書類の会計監査報告については、なお従前の例によるものとする。 (了)

#No. 342(掲載号)
#阿部 光成
2019/11/05

《速報解説》 関東信越国税局、「現物分配法人の株主が新株予約権を保有している場合の適格株式分配(適格スピンオフ)該当性」について文書回答事例を公表

《速報解説》 関東信越国税局、「現物分配法人の株主が新株予約権を保有している場合の適格株式分配(適格スピンオフ)該当性」について文書回答事例を公表   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   本稿では、関東信越国税局が令和元年5月31日付(ホームページ公表は令和元年10月18日)に回答した文書回答事例「現物分配法人の株主が新株予約権を保有している場合の適格株式分配(適格スピンオフ)該当性について」の解説を行う。   事前照会の前提及び照会内容 〇事前照会の前提 【関係図】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 文書回答事例をもとに筆者作成 【適格株式分配の要件】 〇事前照会の内容 現物分配の直前においては、現物分配法人が独立させる法人の発行済株式の全部を保有しているが、現物分配後に現物分配法人の株主が新株予約権を行使する予定である場合に、その現物分配が株式分配に該当し、他の適格要件を満たす限り、適格株式分配になるという理解で問題ないかどうか。   事前照会の結論及び当局見解 株式分配は、現物分配のうち、その現物分配の直前において現物分配法人により発行済株式の全部を保有されていた法人(完全子法人)のその発行済株式の全部が移転するものとされている。 現物分配法人の株主が現物分配後に新株予約権を行使する場合には、完全子法人の発行済株式の数は、現物分配直前において現物分配法人が保有する完全子法人の発行済株式の数よりも増加することとなり、そのような現物分配が株式分配に該当するかについて疑義が生じる。 文書回答事例では、現物分配が株式分配に該当するかどうかは、完全子法人の発行済株式の全部が移転するかどうかで判断し、現物分配後の新株予約権の行使は判断に影響を及ぼさないということが明らかにされた。 したがって、現物分配後に現物分配法人の株主が新株予約権を行使する予定である場合であっても、現物分配の直前に完全子法人の発行済株式の全部を現物分配法人が保有し、現物分配により現物分配法人の株主に発行済株式の全部を移転する限り、その現物分配は株式分配に該当し、他の適格要件を満たす限り、適格株式分配になるものと考えられる。 新株予約権の行使により非支配要件に抵触する(他の者による支配関係が生じる)場合や、新株予約権の行使が現物分配の効力発生日前に行われる場合には、適格株式分配とならないため、留意する必要がある。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 342(掲載号)
#川瀬 裕太
2019/11/01

《速報解説》 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合の注記事項充実を目的とした「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」が公表される

《速報解説》 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合の注記事項充実を目的とした「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」が公表される   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年10月30日、企業会計基準委員会は、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第69号。企業会計基準第24号の改正案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実を図るものである。 会計基準の名称については、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)から「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)へ改正することを提案している。 意見募集期間は2020年1月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合 「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合である(公開草案4-2項)。 これに関連して次のことが記載されている(公開草案44-4項、44-5項)。 2 会計方針の例 「企業会計原則」注解(注1-2)の定めを引継ぎ、「財務諸表には、重要な会計方針について、採用した会計処理の原則及び手続の概要を注記する」とし、次の例を示している。なお、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、当該会計方針の注記を省略することができる(公開草案4-3項~4-5項、28-2項、29-2項)。   Ⅲ 適用時期等 (了)

#No. 342(掲載号)
#阿部 光成
2019/11/01

《速報解説》 ASBJ、「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」を公表~「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実図る~

《速報解説》 ASBJ、「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」を公表 ~「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実図る~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年10月30日、企業会計基準委員会は、「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第68号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実を図るものである。 意見募集期間は2020年1月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 基本的な方針 公開草案の開発にあたっての基本的な方針は、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は開示目的に照らして判断するものである。 なお、公開草案の開発にあたっては、IAS 第1号「財務諸表の表示」125項の定めを参考としている。 2 開示目的 当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とする(公開草案4項)。 会計基準に基づく開示は、将来予測的な情報の開示を企業に求めるものではないが、開示する項目の識別に際しては、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示するという開示目的を達成するために、翌年度の財務諸表に及ぼす影響を踏まえた判断を行う(公開草案18項)。 3 開示する項目の識別 会計上の見積りの開示を行うにあたり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別する(公開草案5項、19項~22項)。 4 注記事項 次の事項が規定されている(公開草案6項~9項)。   Ⅲ 適用時期等 (了)

#No. 342(掲載号)
#阿部 光成
2019/11/01

プロフェッションジャーナル No.342が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年10月31日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.342を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/10/31

〈検証〉TPR事件 東京地裁判決 【第3回】

〈検証〉 TPR事件 東京地裁判決 【第3回】 (最終回)    公認会計士・税理士 佐藤 信祐   (3) 適格現物分配と残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎ ① 平成22年度税制改正 まず、平成22年度税制改正のうち、適格現物分配(法法62の5)と残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎ(法法57②)について触れることとする。 適格現物分配では、現物分配による事業の移転を想定せず、完全支配関係内の適格現物分配のみ規定されているという特徴がある(『平成22年版改正税法のすべて』211頁参照)。そのため、支配関係が生じてから5年以内の適格現物分配に対しては、みなし共同事業要件が認められていない。さらに、「事業を移転しない適格分割若しくは適格現物出資又は適格現物分配」について、繰越欠損金の使用制限、特定保有資産譲渡等損失額の損金不算入の特例計算が定められており(法令113⑤~⑦、123の9⑨~⑪)、事業を移転しない適格組織再編成が存在することが明らかにされている。 この点につき、平成13年に財務省主税局において組織再編税制の立案に関与されていた朝長英樹氏は、 (朝長英樹『現代税制の現状と課題(組織再編成税制編)』337頁(新日本法規、平成29年)) と批判されている。そして、繰越欠損金の使用制限、特定保有資産譲渡等損失額の損金不算入の特例計算に対しても、「事業を移転しない分割による資産・負債の移転は個別の資産・負債の譲渡による移転と実質的に同様であるため分割を非適格にする、ということで対応するのが適当と考えられる。」(朝長前掲112頁)と批判されている。 このように、朝長英樹氏が主張する「本来の法人税法の取扱い」では、事業の移転を伴わない組織再編成を適格組織再編成とすべきではないということになる。朝長氏は、平成18年に税務大学校教授を最後に退官されており、平成22年度税制改正は、退官後の改正であることから、上記の朝長氏の批判は、まさに立法論の立場からの批判である。 そう考えると、平成22年度税制改正は、朝長氏の意図に反する形で行われた改正であり、同氏の主張と類似の理論構成により、完全支配関係内の適格合併においても、事業単位の移転が必要であるとした東京地裁判決は、平成22年度税制改正後の取引には影響を与えないということになってしまう。 さらに、平成22年度税制改正では、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎ(法法57②)も導入されている。残余財産が確定した時点では、解散法人において事業は存在しないことから、事業単位の移転に伴って繰越欠損金が引き継がれるという解釈は成り立たない。この点は、『平成22年版改正税法のすべて』284頁において、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎが、適格現物分配制度をきっかけに導入されたことが明記されていることからも明らかである。 さらに、同書284頁では、「残余財産が確定した法人の欠損金については、特定の資産との結びつきが希薄であることを踏まえ、その移転資産の有無に関わらず、合併に係る欠損金の引継ぎと同様の取扱い」にしたことが明らかにされている。すなわち、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎと適格合併に伴う繰越欠損金の引継ぎのいずれも法人税法57条2項で規定されており、両者の制度趣旨が異なるということにはならず、『平成22年版改正税法のすべて』は、そのことを明らかにしたものといえる。 その結果、事業の移転を伴っていなくても、残余財産の確定により繰越欠損金の引継ぎが認められているのであるから、適格合併の場合にだけ事業の移転を要求するというのは、少なくとも平成22年度税制改正とは整合しないということになる。 ② 実務上の問題点 ここでは、TPR事件を参考に、100%子会社である休眠会社の資産を別会社に譲渡した後に、①親会社を合併法人とし、当該100%子会社を被合併法人とする適格合併を行う場合と、②当該100%子会社を清算する場合を比較してみたい。 なお、100%子会社を清算することにより、親会社において子会社整理損失が発生する可能性があるが、当該子会社整理損失の損金性は、法人税基本通達9-6-1(4)又は9-4-1の問題であるから、ここでは検討を行わない。 まず、TPR事件を参考にするのであれば、休眠会社を被合併法人とする合併は、事業単位の移転に該当しないことから、制度趣旨に反することになる。そして、休眠会社の資産を別会社に譲渡しているため、本来であれば、当該別会社を合併法人とする適格合併を行えばよかったということになり、租税回避に該当しかねない。 これに対し、休眠会社を清算した場合には、特定の資産との結びつきが希薄であることを理由として、その移転資産の有無に関わらず、休眠会社の法人株主に繰越欠損金が引き継がれることから、特定の資産を別会社に譲渡した後に繰越欠損金を親会社に引き継いだとしても制度趣旨に反しないということになってしまう。さらに言えば、『平成22年版改正税法のすべて』284頁では、「合併に係る欠損金の引継ぎと同様の取扱い」にしたと書かれていることから、休眠会社の資産を別会社に譲渡した後に、当該休眠会社を被合併法人とし、親会社を合併法人とする適格合併により繰越欠損金を引き継いだとしても、制度趣旨に反しないということも言えてしまう。 もちろん、TPR事件においては、事業が別会社に移転していることから、合併法人ではなく、事業を譲り受けた別会社に繰越欠損金が移転すべきであったというロジックはあり得るのかもしれない。平成12年10月に政府税制調査会法人課税小委員会から公表された「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」においても、「分割型の会社分割の場合には、移転する事業に係る繰越欠損金の計算の困難性を考慮し、その引継ぎについては、実務的に慎重な検討を行う必要がある。」としている。すなわち、理論上は、合併以外の組織再編成でも、事業の移転先に繰越欠損金を引き継がせるという制度も可能であったが、制度の簡素化のために、合併の場合にのみ繰越欠損金を引き継ぐことができる制度になっていると考えることができる。そのため、制度の簡素化のために制度趣旨に反する行為が可能になっていることを利用して、法人税の負担を不当に減少させる行為に対して、包括的租税回避防止規定を適用するというのも可能かもしれない。 しかし、『平成22年版改正税法のすべて』284頁において、「残余財産が確定した法人の欠損金については、特定の資産との結びつきが希薄であることを踏まえ、その移転資産の有無に関わらず、合併に係る欠損金の引継ぎと同様の取扱い」にしたと記載されていることから、「事業」の移転先に繰越欠損金を引き継がせるべきなのか、「資産」の移転先に繰越欠損金を引き継がせるべきなのかという議論も考えられる。TPR事件では、被合併法人から合併法人に対して、被合併法人が営んでいた事業に係る工場の建物及び製造設備を引き継いでいることから、平成13年当時の制度趣旨に反するのかもしれないが、平成22年当時の制度趣旨に反するとまでは断言できなくなってしまうからである。 (4) 譲渡損益の繰延べ 平成22年度税制改正では、譲渡損益の繰延べ(法法61の13)も導入されている。『平成22年版改正税法のすべて』189頁では、譲渡損益の繰延べも、移転資産に対する支配の継続という概念で導入されたことが解説されている。そして、譲渡損益の繰延べは、完全支配関係のある内国法人間で行われる取引であり、かつ、事業単位の移転を前提としていない。そのため、単なる資産の譲渡であっても譲渡損益が繰り延べられる。 このことからも、移転資産に対する支配の継続という概念は、必ずしも事業単位の移転が前提になっているわけではないということがわかる。適格現物分配や残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎに比べると、TPR事件を分析するうえで直接的ではないものの、平成22年度税制改正において、事業単位の移転を前提とせずに、グループ法人税制を導入するとともに、組織再編税制を見直したことがわかる。 (5) 平成30年度税制改正 平成30年度税制改正では、第1次組織再編成の後に完全支配関係がある法人間で従業者又は事業を移転することが見込まれている場合にも、第1次組織再編成における従業者従事要件及び事業継続要件を満たすこととされた(法法2十二の八ロ、法令4の3④三・四など)。そのため、合併法人等と完全支配関係のある他の内国法人に被合併法人等の従業者又は事業が移転したとしても、事業単位の移転に該当することになる。 すなわち、TPR事件では、従業者及び事業が別会社に移転していることから事業単位の移転がなかったという理由により制度趣旨に反するものと認定されたが、平成30年度税制改正後に行われた取引であれば、合併法人との間に完全支配関係のある法人に事業及び従業者が移転しているため、事業単位の移転があったと考えることができ、東京地裁判決が示した制度趣旨に反しないという問題が生じる。 もちろん、合併直後に、一部の従業者及び事業を別会社に移転する行為は不自然、不合理であるとは断言できないが、全部の従業者及び事業を別会社に移転する行為は不自然、不合理であることも多いため、包括的租税回避防止規定の射程に含まれるべきであろう。 そのため、TPR事件で問題とすべきは、事業の移転先ではない法人に対して繰越欠損金を帰属させようとしたという点にあり、事業単位の移転を伴わない合併により繰越欠損金を引き継いだという点ではなかったと考えられる。そのため、包括的租税回避防止規定により否認するとしても、より丁寧な制度趣旨の説明が必要であったと考えられる。 (6) 法人税法57条2項の制度趣旨 前述のように、理論上は、合併以外の組織再編成でも、事業の移転先に繰越欠損金を引き継がせるという制度も可能であったが、制度の簡素化のために、合併の場合にのみ繰越欠損金を引き継ぐことができる制度になっていると考えることができる。そのため、制度の簡素化のために制度趣旨に反する行為が可能になっていることを利用して、法人税の負担を不当に減少させる行為に対して、包括的租税回避防止規定を適用するというのも可能かもしれない。 そして、平成30年度税制改正を濫用することにより、繰越欠損金を不当に利用することができるという問題がある。例えば、単一の組織再編成では親会社に繰越欠損金を引き継ぐことができない場合であっても、多段階組織再編成を利用することにより、事業規模要件又は特定役員引継要件を満たす法人を経由して、親会社に繰越欠損金を引き継ぐことが可能になる(佐藤信祐「多段階組織再編の税務上の留意点」旬刊経理情報1516号59-62頁(平成30年)参照)。 そのため、TPR事件と平成30年度税制改正との整合性を図るのであれば、多段階組織再編成により、事業の移転先ではない法人に対して繰越欠損金を引き継いだことを問題とすべきであったと考えられる。そのように考えるのであれば、平成22年度税制改正とも整合性が取れるし、平成30年度税制改正を濫用して繰越欠損金を利用する行為に対しても対応することが可能になる。 もちろん、そのように解するとしても、平成22年度税制改正との整合性を考えると、「事業」の移転先に繰越欠損金を引き継ぐべきなのか、「資産」の移転先に繰越欠損金を引き継ぐべきなのかという点は議論になると考えられる。 (7) 小括 このように、東京地裁判決では、完全支配関係内の合併でも事業の移転が必要であるかのような文言があるが、平成22年度税制改正、平成30年度税制改正とは整合しない。 ヤフー事件で示された制度濫用論は、制度趣旨に反することが明らかであることが前提となっているが、TPR事件で根拠となっている制度趣旨が平成22年度税制改正と整合しないという問題がある。平成22年改正前法人税法の制度趣旨を無視したうえで、平成22年度税制改正がなされたとも考えにくいため、TPR事件で根拠となっている制度趣旨が平成22年改正前法人税法においても正しくはなかった可能性がある。 そして、TPR事件で根拠となっている制度趣旨が、平成13年当時の資料から明確に読み取れるわけでもない。そのような制度趣旨を根拠として、制度趣旨に反することが明らかであると認定してしまうと、後付けで作られた制度趣旨を根拠として否認することができるという問題も生じる。 東京高裁では、より丁寧な理論構成により、組織再編税制の制度趣旨が説明されることが期待される。 (連載了)

#No. 342(掲載号)
#佐藤 信祐
2019/10/31

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕税法や通達以外の実務知識 【第7回】「不動産鑑定評価について(その5)」-価格に関する鑑定評価(土地(宅地))-

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第7回】 「不動産鑑定評価について(その5)」 -価格に関する鑑定評価(土地(宅地))-   税理士 笹岡 宏保   基本的な論点 相続財産の評価に当たって、評価通達に基づき算定された評価額が客観的な時価を超えていることが証明されれば、当該評価方法によらないことはいうまでもないとされています。 上記の証明を求めて、相続財産が不動産(土地等、家屋等)である場合には、不動産鑑定士等に不動産鑑定評価を依頼することが通例となります。 この連載では、不動産鑑定評価に関する知識を確認してみることにします。 第5回目となる今回は、価格に関する鑑定評価のうち「土地(宅地)」について、その主要項目を確認してみることにします。   解決への指針 不動産の鑑定評価は、専門的学識と応用能力に基づいて個々の案件に応じて行うべきものですが、具体的な案件に臨んで的確な鑑定評価を期するためには、基本的に不動産の種類別に応じた鑑定評価の手法等を活用する必要があります。 上記に掲げる不動産の種類のうち、「土地(宅地)」についてその主要項目(更地、建付地、借地権及び底地)をまとめると、次のとおりとなります。 (1) 更地 更地の鑑定評価額は、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法(建物等の価格を収益還元法以外の手法によって求めることができる場合に、敷地と建物等からなる不動産について敷地に帰属する純収益から敷地の収益価格を求める方法)による収益価格を関連づけて決定するものとするとされています。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきであるとされています。 当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を比較考量して決定するものとされています。(この手法を「開発法」といいます。) なお、配分法及び土地残余法を適用する場合における取引事例及び収益事例は、敷地が最有効使用の状態にあるものを採用すべきであるとされています。   (2) 建付地 建付地は、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため、建物等と密接な関連を持つものであり、したがって、建付地の鑑定評価は、建物等と一体として継続使用することが合理的である場合において、その敷地について部分鑑定評価をするものです。 建付地の鑑定評価額は、原則として更地としての鑑定評価額を限度とし、配分法に基づく比準価格及び土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとされています。 この場合において、当該建付地の更地としての最有効使用としての格差、更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮すべきであるとされています。   (3) 借地権及び底地 ① 概論 借地権及び底地の鑑定評価に当たっては、借地権の価格と底地の価格とは密接に関連し合っているので、以下に述べる諸点を十分に考慮して相互に比較検討すべきであるとされています。 ② 借地権 (イ) 借地権の価格 借地権の価格は、借地借家法(廃止前の借地法を含みます。)に基づき土地を使用収益することにより借地人に帰属する経済的利益(一時金の授受に基づくものを含みます。)を貨幣額で表示したものです。 借地人に帰属する経済的利益(上記   部分)とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎とするものですが、特に次に掲げるものが中心となります。 (ロ) 借地権の鑑定評価 借地権の鑑定評価は、借地権の取引慣行の有無及びその成熟の程度によってその手法を異にするものであるとされています。 ㋑ 借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域 借地権の鑑定評価額は、借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて得た価格を標準とし、当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格及び借地権取引が慣行として成熟している場合における当該地域の借地権割合により求めた価格を比較考量して決定するものとされています。 この場合においては、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとされています。 ㋺ 借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域 借地権の鑑定評価額は、土地残余法による収益価格を標準とし、当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格及び当該借地権の存する土地に係る更地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た価格を比較考量して決定するものとされています。 この場合においては、上記㋑の(A)から(G)までに掲げる事項を総合的に勘案するものとされています。 ③ 底地 底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互関連において賃貸人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものであるとされています。 賃貸人に帰属する経済的利益(上記   部分)とは、当該宅地の実際支払賃料から諸経費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値をいいます。 底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定するものとされています。この場合においては、上記②(ロ)㋑の(A)から(G)までに掲げる事項を総合的に勘案するものとされています。 また、底地を当該借地人が買い取る場合における底地の鑑定評価に当たっては、当該宅地又は建物及びその敷地が同一所有者に帰属することによる市場性の回復等に即応する経済価値の増分が生ずる場合があることに留意すべきであるとされています。   (了)

#No. 342(掲載号)
#笹岡 宏保
2019/10/31

成年年齢の引下げが税務にもたらす影響と注意点~資産税を中心に~

成年年齢の引下げが税務にもたらす影響と注意点 ~資産税を中心に~   税理士 徳田 敏彦 弁護士 米倉 裕樹   平成30年6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする「民法の一部を改正する法律」が成立した(同年6月20日に公布(法律第59号))。成年年齢の見直しは、約140年ぶりである。 また、女性の婚姻開始年齢は16歳と定められており、18歳とされる男性の婚姻開始年齢と異なっていたが、今回の改正では、女性の婚姻年齢を18歳に引き上げ、男女の婚姻開始年齢が統一された。 平成31年度(令和元年度)税制改正では上記を踏まえた年齢要件の見直しが行われたことから、本稿では、今回の民法改正による税務への影響について、特に資産税を中心に解説する。 (1) 影響を与える年代 今回の改正は、令和4年(2022年)4月1日から施行される。つまり、平成14年4月2日以後に生まれた者に影響を与えることとなる。 平成14年4月2日生まれ(現在17歳)(※)から平成16年4月1日生まれ(現在15歳)までの者は令和4年4月1日において18歳になっているので、4月1日から成人となる。 (※) 現在=本稿公開日(2019.10.31)時点をいう。以下本稿内において同様。 また、平成16年4月2日以後生まれ(現在15歳)の者は、誕生日を迎え18歳になった時点で成人となる。 (2) 成年年齢の引下げで何が変わるのか 民法の定める成年年齢は、①単独で有効に契約を締結することができる年齢という意味と、②親権に服することがなくなる年齢という意味を持つ。 そのため成人となった者は、その時点から単独で有効に法律行為が可能となる。身近な契約で例えると、携帯電話の契約、アパートの賃貸借契約、クレジットカードの契約、ローンを組んで車を購入すること等が考えられる。一方で、酒・たばこの購入、公営ギャンブルは20歳のまま維持される。 また、税法における各種要件も20歳から18歳に引き下げられることから、各種税法の適用にも影響が及ぶことになる。 (3) 変わる税法 ① 対象年齢を「20歳未満から18歳未満」に引き下げる制度 ⅰ 相続税の未成年者控除 相続税の未成年者控除は、「相続人が18歳になるまでの年数×10万円」が控除額となる。改正前は「20歳になるまでの年数」だったため、改正により控除額が減少する。 さらにこの未成年者控除は、相続人である未成年者において相続税額がない場合においても、その者に係る未成年者控除額は、その未成年者の扶養義務者の相続税額から控除することができるため、扶養義務者の相続税額にも影響するものと考えられる。 適用時期は令和4年4月1日以後の相続又は遺贈である。 ⅱ ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度) ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)を開設することができる年齢が、その年の1月1日において18歳未満に引き下げられる。 令和5年1月1日以後に開設される未成年者口座等が対象となり、1月1日時点での年齢判断になるため、口座開設時の実年齢ではない点に留意が必要である。 ② 対象年齢を「20歳以上から18歳以上」に引き下げる制度 ⅰ 非上場株式等に係る贈与税の納税猶予(一般措置及び特例措置) 適用時期は令和4年4月1日以後の贈与で、贈与時において、受贈者の年齢が18歳以上の者が対象となる。 ⅱ 直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例 適用時期は令和4年4月1日以後の贈与で、贈与を受けた年の1月1日において受贈者の年齢が18歳以上となる者が適用対象となる。 直系尊属からの贈与の特例税率は一般税率より低く設定されているため、これまでより18歳~20歳までの間の贈与税負担が下がることになる。 ⅲ 相続時精算課税制度(受贈者に孫等を含めた適用者の特例を含む) 適用時期は令和4年4月1日以後の贈与で、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上が適用対象となる。 収益を生む資産を贈与するような場合では、これまでより2年早く精算課税制度が利用できるようになるため、今までより2年分の収益を早めに贈与することができる。 ⅳ NISA(少額投資非課税制度)及びつみたてNISA NISA(少額投資非課税制度)及びつみたてNISA口座を開設することができる年齢が、その年1月1日において18歳以上に引き下げられる。 適用対象は、令和5年1月1日以後に開設される非課税口座である。 1月1日時点での年齢判断になるため、口座開設時の実年齢ではない点に留意が必要である。 ⅴ 個人事業者の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度 対象となる認定受贈者の年齢要件は贈与時に18歳以上と定められているが、令和4年3月31日までの贈与については改正民法の施行前であることから、20歳以上となる。 (4) 「その年1月1日で18歳以上である」ことへの注意 「贈与時に18歳以上」ではなく、「贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上である」という要件には注意が必要である。 この“贈与を受けた年の1月1日要件”が存在するのは、直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例と相続時精算課税制度である。 精算課税制度の具体的な例でみれば、令和4年12月10日に不動産を息子に贈与する場合、受贈者である息子が、令和4年1月1日おいて18歳以上であることが、同制度適用のために必要な要件となる。 (5) その他の影響項目 ① 特別代理人の選任 未成年者の相続人の法定代理人には親権者がなるのが通常だが、遺産分割協議において、その親権者も相続人であり、さらに未成年の子も相続人である場合、または同一の親権者の親権に服する複数の未成年の子が相続人になる場合には、両者の利害が対立してしまうため、同親権者は未成年者の法定代理人にはなれない。この場合、家庭裁判所へ申し立てることにより、特別代理人の選任を受けることになる。この未成年者を意味する年齢も18歳未満に引き下げられる。 なお、この場合の18歳未満か否かの判断時期は、相続開始日ではなく、原則として、遺産分割協議の成立日としてよいと考えられるが、それまでの遺産分割協議の実質的な話し合い、検討等が17歳の時点でなされるような場合には、たとえ調印時において18歳となっているような場合でも、特別代理人を選任しておくことが望ましいといえる。 ② 追認 遺産分割協議を特別代理人の選任無しで行った場合、無権代理行為に該当する。無権代理行為は、利益を侵害された未成年者(相続人)が成年になった後に遺産分割協議内容を「追認」という形で認めない限り、その効果は未成年者本人に帰属しない。 仮に、「子が未成年だから」と大人だけで勝手に遺産分割をしてしまった場合、その子が18歳となり「その遺産分割を認めない」となれば、遺産分割協議の効果がその子に帰属しないことが確定する。他方で、その子が当該無権代理行為を追認したときは遡って有効となる。この「追認」行為が今までより早く到来することとなる。 (6) 相続税申告における留意点 相続人に未成年者がいる場合に、相続税申告書には誰が署名押印するのか、という点が問題となる。 この点、特別代理人又は親権者の署名押印は必要なく、意思能力を有する限り、未成年者が署名押印をすれば有効とする立場も存在する。しかし、納税申告は、租税債務の内容を確定させるという重要な効果を有し、特に相続税申告においては、その前提として問題となっている財産が遺産に属するか否か(名義預金)等、その課税標準と税額が租税法の規定によりすでに客観的な存在として定まっているか不明確な場合も存することからすれば、準法律行為として民法の意思表示に関する規定が類推適用されるべきである。 その結果、未成年者が相続税申告を行う場合には、その親権者(親権者と利害が対立する場合には特別代理人)によりなされるべきと考える。このように考えても、遺産分割協議の場面において、未成年者のみならず親権者も相続人であることが多く、その場合には特別代理人が選任されなければならないことからすれば、特段、手続が煩雑化することはないと考えられる。 (了)

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#徳田 敏彦、米倉 裕樹
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相続空き家の特例 [一問一答] 【第36回】「被相続人居住用家屋及び敷地等の範囲③(おおむね90%以上が居住の用に供されている場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第36回】 「被相続人居住用家屋及び敷地等の範囲③ (おおむね90%以上が居住の用に供されている場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年3月に死亡した母親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地200㎡を相続で取得後、家屋を取り壊して更地にし、本年10月に6,000万円で売却しました。 取り壊した家屋とその敷地の相続の開始直前の利用状況は、母親がタバコ屋を営みながら一人で暮らし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 なお、タバコ屋の店舗部分に係る床面積は9㎡で、その家屋全体の床面積100㎡のおおむね10%未満です。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用対象となる被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、いくらになるでしょうか。 A その被相続人居住用家屋の床面積又はその敷地の面積のおおむね90%以上が居住の用に供されていることから、その家屋又は敷地の全部が居住の用に供されていた部分に該当するものとして申告しても差し支えありません。 ●○●○解説○●○● 原則として、被相続人居住用家屋の敷地等のうちに、非居住用部分がある場合における「被相続人の居住の用に供されていた部分」の判定については、その相続の開始の直前における利用状況に基づき、措通31の3-7(店舗兼住宅等の居住用部分の判定)に準じて判定するものとされています(措通35-15(被相続人居住用家屋が店舗兼住宅等であった場合の居住用部分の判定)(【第12回】を参照)。 しかし、相続の開始の直前における被相続人の居住の用に供されている部分が、被相続人居住用家屋の床面積又はその敷地等の面積のおおむね90%以上となるときは、自己の居住用財産を譲渡した場合の特例(措法35②)に係る通達(措通31の3-8(店舗等部分の割合が低い家屋))に準じて、当該家屋又は当該土地等の全部がその居住の用に供している部分に該当するものとして取り扱って差し支えないとされています(措通35-15のなお書)。 したがって、本事例の場合は、相続の開始の直前において、その家屋全体の床面積のおおむね90%以上が居住の用に供されていることから、その家屋又は敷地の全部が居住の用に供されていた部分に該当するものとして取り扱うことができます。 (了)

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#大久保 昭佳
2019/10/31
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