居住用賃貸建物の取得等に係る 消費税の仕入税額控除制度の適正化 -令和2年度税制改正- 【第2回】 「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」 税理士 石川 幸恵 前回は改正の背景と改正前の取扱いについて確認したが、今回より令和2年度税制改正における居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限について「居住用賃貸建物の範囲」や「仕入れ等の日の属する課税期間における取扱い」等を解説する。 1 改正内容と用語の定義 (1) 改正のポイント 今回の改正により、以下の通り消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に第10項が新設された。 すわなち、仕入れに係る消費税額の控除(消法30①)の規定は、事業者が国内において行う居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しないこととされる(消法30⑩)。 (2) 適用時期と経過措置 (1)の改正は、令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額について適用する(R2所法等附1一イ)。 ただし経過措置として、令和2年3月31日にまでに締結した契約に基づき、令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物の課税仕入れ等については、適用されない(R2所法等附44)。 (3) 用語の意義 ① 居住用賃貸建物とは 本改正の対象となる「居住用賃貸建物」とは、事業者が国内において行う住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物(附属設備を含む)で、高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するものをいう(消法30⑩)。 ② 住宅の貸付けの用とは ①における「住宅の貸付けの用」とは、別表第一第13号に掲げるものである。 今回の法改正により、別表第一第13号についても改正があり、下記のとおり「契約のみによる判定」から「状況等による判定」に変わった。 なお、上記別表第一の改正は、令和2年4月1日以後に行われる住宅の貸付けからすでに適用されているので、注意されたい(R2所法等附46)。 改正後の貸付けの用の範囲についてまとめると、下図のとおりである。 〈非課税となる住宅の貸付けの範囲〉 ③ 高額特定資産とは ①における「高額特定資産」とは、棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、一の取引単位の課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が1,000万円以上のものをいう(消法12の4①、消令25の5①)。 ④ 調整対象自己建設高額資産とは ①における「調整対象自己建設高額資産」とは、他の者との契約に基づき、又は事業者の棚卸資産として自ら建設等をした棚卸資産で、建設等に要した課税仕入れに係る支払対価の額(税抜き)等の累計額が1,000万円以上となったものをいう(消法12の4②、消令25の5③)。 事業者が相続、合併又は分割により事業を承継した場合において、被相続人、被合併法人又は分割法人が自ら建設等をした棚卸資産を含む。 2 経理処理 (1) 控除対象外消費税額等 控除対象外消費税額等は、税抜経理方式を採用している場合において、課税期間中の課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満であるときに、課税仕入れ等の全額控除ができないために発生するものである。 今回の改正で、居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額は、課税売上高や課税売上割合に関わらず控除できなくなるため、控除対象外消費税額等となる。 (2) 控除対象外消費税額等の取扱い (※) 居住用賃貸建物が高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に限定されていることから、(ハ)のように一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満となることは考えづらい。 3 居住用賃貸建物の建設工事が2期以上にわたる場合の工事期間中の取扱い (1) 居住用賃貸建物が自己建設高額特定資産である場合 仕入税額控除の制限の規定は、建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額の累計額が1,000万円以上となった課税期間以後の居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額についてのみ適用される(消令50の2②)。 ここでTAINS(タインズ)に収録されている「消事例4063 第10 仕入税額控除 10-224 調整対象固定資産の範囲 消費税審理事例検索システム(平成12年)国税庁消費税課」(「消費事例004063」で検索)では、次のように2期にわたる工事を取り上げており、改正前の取扱いについて解説されている。 (2) 改正後の取扱い ① 建築中におけるそれぞれの課税期間での取扱い (イ) 前期 基礎部分の課税仕入れについては、仕入税額控除できる(消基通11-7-4)。 居住用賃貸事業用であれば、比例配分法により仕入控除税額が計算されるか、個別対応方式によりその資産の譲渡等にのみ要するものとして仕入控除税額がないものと計算される。 (ロ) 当期 建物部分の課税仕入れについては、仕入税額控除が制限される(消法30⑩)。 ② 完成の翌課税期間以後に課税賃貸用に供した場合又は譲渡した場合(詳細は次回解説) (イ) 居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整(消法35の2)の適用 建物部分には適用があり、基礎部分についてはない(消令53の4②)。 (ロ) 基礎部分に対する非課税業務用調整対象固定資産を課税業務用へ転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整(消法34)の適用 基礎部分が調整対象固定資産として取り扱われることは、上記TAINS収録資料にも述べられており、改正によって取扱いが変わることはないと考えられる。 (ⅰ) 課税賃貸用に供した場合 取得時に個別対応方式によりその資産の譲渡等にのみ要するものとして仕入控除税額がないものとして計算されていれば、転用の調整の適用はあると考えられる。 (ⅱ) 譲渡した場合 転用の調整はない(前回参照)。 (了)
オープンイノベーション促進税制の制度解説 【第2回】 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 6 経理要件 当該事業年度の確定した決算において各特別新事業開拓事業者別に特別勘定を設ける方法により経理することが必要となる。なお、当該事業年度の決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法も認められる。 〔損金経理による場合〕 〔剰余金の処分による場合〕 (申告減算処理が必要) 7 申告要件 確定申告書等に損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載があり、かつ、当該確定申告書等にその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書その他一定の書類の添付(下記参照)がある場合に限り、損金算入が認められる(措法66の13⑬、措規22の13⑩)。 ➤「国内外における経営資源活用の共同化に関する調査に関する経済産業大臣の証明書」 経営資源活用共同化推進事業者は、以下の3点を満たすことについて、経済産業大臣の証明を受けることができ(共同化省令4①)、当該書類を確定申告書等に添付する。 8 組織再編成との関係 (1) 合併、分割、現物出資 適格合併又は適格分割等(適格分割又は適格現物出資)を行った場合には、次の①②に掲げる適格合併又は適格分割等の区分に応じ、それぞれ①②に定める特別勘定の金額は、当該適格合併又は適格分割等に係る合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人に引き継ぐものとされる(措法66の13②)。 上記の規定の適用を受けるためには、特別勘定を設けている法人で適格分割等を行ったものにあっては、当該特別勘定を設けている法人が当該適格分割等の日以後2月以内に分割承継法人又は被現物出資法人に引き継ぐ特別勘定の金額その他の一定の事項を記載した書類を納税地の所轄税務署長に提出することが必要である(措法66の13③)。 そして、上記により合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人が引継ぎを受けた特別勘定の金額は、当該合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人が設けている特別勘定の金額とみなされる(措法66の13④)。 なお、合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人がその適格合併又は適格分割等の日を含む事業年度の確定申告書等を青色申告書により提出することができる者でないときは、当該事業年度の終了の日における特別勘定の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入される(措法66の13⑤)。 特定株式の全部又は一部を有しないこととなった場合あるいは合併により合併法人に特定株式を移転した場合には、9(次回参照)に記載の通り、益金算入されるところ、適格合併、適格分割及び適格現物出資により特定株式が移転する場合には、例外的に益金算入されることなく、合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人に引き継がれる(措法66の13⑪)。 (2) 株式交換、株式移転 特別勘定を設けている法人が、自己を株式交換等完全子法人又は株式移転完全子法人とする非適格株式交換等を行った場合において、当該非適格株式交換等の直前の時に特別勘定の金額(1,000万円未満のものを除く)を有しているときは、当該特別勘定の金額は、当該非適格株式交換等の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入される(措法66の13⑨)。 非適格株式交換等が行われた場合、株式交換等完全子法人又は株式移転完全子法人においては、一定の資産について時価評価が行われ、含み損益に対して課税が行われる(法法62の9①)。そこで時価評価が行われる法人において特別勘定の金額を有しているときは、益金の額に算入されることとされた。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第15回】 「D&O保険の概要とM&Aへの活用」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) D&O保険とは 「D&O保険」とは、Directors and Officers Liability Insuranceの略語であり、一般的には「役員等賠償責任保険」や「会社役員賠償責任保険」と訳されるものである。その内容は、会社の取締役などの役員らが負う可能性のある損害賠償責任をカバーするものであり、具体的には、役員個人が負担すべき損害賠償金や弁護士費用等をその対象としている。 すなわち、役員は経営に携わる上で多くの責任を負い(※1)、その責任が果たせないときは株主代表訴訟(会社法847他)・会社訴訟(会社法423)・第三者訴訟(会社法429他)により損害賠償請求がなされる可能性があるため、D&O保険はそれらへの備えとして設計された保険である。 (※1) 一般的に、役員は会社に対する責任として善管注意義務や忠実義務、監視・監督義務等を負い、第三者に対しては不法行為責任や会社法上の特別責任を負うこととなる。 このうち、株主代表訴訟が、会社に生じた損害を株主が会社に代わって役員に対して責任を追及するものであるため、その保険料を会社が負担することは利益相反行為に該当するという見解があり、会社法上の問題とされていた。したがって、従来は株主代表訴訟に対するD&O保険の対応は、特約として保険商品に組み込まれてきたところである。 この問題に鑑みて、当該特約部分に係る保険料については、税務上は役員に対する給与課税を要し(※2)、当該特約部分につき役員個人の負担とすることも実際の運用として行われていた。 (※2) 国税庁「会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(平成6年1月20日付課法8-2・課所4-2)」1(2) (2) 利益相反取引問題の解決と現状 このような取扱いは、有能な人材を外部招聘等によって確保したい企業にとってハードルとなる。この点、平成27年に経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」を公表しており、以下の所定の手続きを経た場合には利益相反問題が解消されるとし、会社が株主代表訴訟特約に関する保険料を会社法上適法に負担できると示したことで、この問題は一応の解決をみた(※3)。 (※3) 経済産業省は国税庁にこの場合の税務上の取扱いについて照会をしており、その内容は後述する。 その後、昨年12月11日には会社法改正が公布され、D&O保険に関する規定も新設されている。その主たる内容は以下の通りである(会社法430の3(新設、公布日から1年6ヶ月以内に施行予定))。 (※4) 当該契約がある場合には、役員の氏名や補償内容等を事業報告に記載することが求められる。 今回の会社法改正のうちD&O保険に関しては、その取扱いが初めて明文化されたものであり、大きな意義があるといえる。 これに対して、税務上の取扱いは、経済産業省からの照会を受けた国税庁が、上記【所定の手続き】の要件を満たす限り、「役員に対する経済的利益の供与はないと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要はありません」と回答している(※5)。したがって、一定の場合には役員に対して給与課税がなされず、法人が負担した当該保険料は損金算入されることとなる。 (※5) 国税庁「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)(平成28年2月24日)」 ここで、上記の【所定の手続き】要件②は、社外取締役の存在が前提となっている。したがって、社外取締役がいないケースにおいて、当該特約部分の保険料は役員に対する経済的利益供与として従来通り給与課税がなされることとなる(※6)。なお、対象役員が複数存在する場合の各役員の給与課税額は、役員の人数や報酬額等、合理的に按分して計算すべきである点に留意したい。 (※6) 櫻井光照著『役員の税務と法務』(大蔵財務協会、2017年)934頁。 (3) D&O保険のM&Aへの活用 上場企業の多くが加入しているとされるD&O保険であるが、近年では中小企業においてもそのニーズが高まっているといえる。この背景には、中小企業においても役員個人が損害賠償を請求されうるという認識が深まっているということがあるのだろう。 このようなD&O保険は、M&Aにおいても有効に作用することがある。すなわち、M&Aを行うにあたり株式譲渡スキームを選択した場合、買収対象企業となる会社に偶発債務が潜んでいるリスクは完全に解消することはできない。通常はデュー・デリジェンスを実施する等して偶発債務等の発見に努めるが、それでも対象会社の旧役員の不正等が買収後に発覚することもなくはない(※7)。このような場合、旧役員の善管注意義務等が問題となる他、買収を判断し、買手企業となった会社の役員に対して善管注意義務等が問われることも考えられる。 (※7) 役員に不正があった場合に想定される税務上の論点については、【第8回】、【第11回】参照。 例えば、対象会社側、買手側が共にD&O保険契約を締結していたとしても、M&Aのクロージング前後において、対象会社側は買収後に行った行為に起因する損害賠償請求は免責となるためD&O保険を解約することが通常であり、買手側においても支配権を得る前の行為に起因する損害賠償請求は免責となるため、どちらの保険でも補償されない可能性がある。 このようなケースにおいてD&O保険によりリスクヘッジを図るには、対象会社側が保険契約内容を見直す他、ランオフ・カバー(run-off cover)を契約するという選択肢がある。ランオフ・カバーとは、新たに親会社となる会社ではなく、既存の保険(この場合はM&A対象会社が保険契約者となる保険)の補償の効果を残存させることを意味し、平成27年には経済産業省もその必要性を指摘している(※8) 。 (※8) 経済産業省 コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会「コーポレート・ガバナンス・システムの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」別紙2「会社賠償責任保険(D&O保険)の実務上の検討ポイント」7頁。 したがって、M&Aの場面においては、対象会社側でランオフ・カバーを活用することも、M&A交渉の円滑化やリスクヘッジのための手段として一考の余地があると思われる。 (了)
相続税の実務問答 【第48回】 「遺言書に基づき申告をした後に第2の遺言書が発見された場合」 税理士 梶野 研二 [答] 内容の抵触する遺言書が2通ある場合には、その抵触する部分について前の遺言は撤回されたものとみなされます。 ご質問の場合、公正証書遺言では甲土地をお姉様が相続することとなっていましたが、後から作成された自筆証書遺言では妹さんが相続することとされていることから、公正証書遺言に記載された甲土地の取得者に係る部分は撤回され、自筆証書遺言により妹さんが取得することとなります。 そして妹さんが甲土地を取得したのは、お父様の遺言に基づいて相続により取得するものであって、お姉様から贈与により取得するものではありません。したがって、妹さんに贈与税が課税されることはありません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺言 民法は普通の方式の遺言として、自筆証書遺言(民法968)、公正証書遺言(民法969)及び秘密証書遺言(民法970)の3種類のものを定めており、それぞれの遺言は、民法に定められた方式を備えなければなりません。 〇 普通方式の遺言 1 自筆証書遺言(民法968条) 遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、押印したもの。 平成30年民法改正により、財産目録等を添付する場合には、その目録については自書することを要しないこととされた。 2 公正証書遺言(民法969条) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授するなど一定の要件を備えた公正証書により行ったもの。 3 秘密証書遺言(民法970条) 遺言者が署名押印して封印した遺言書を公証人及び証人の前に提出し、遺言者の遺言書であることの証明を受けたもの。 (注) 民法は、上記3種類の普通の方式の遺言のほかに、特別の方式の遺言として、死亡危急者遺言(民法976)、船舶遭難者遺言(民法979)、伝染病隔離者遺言(民法977)及び在船者遺言(民法978)の4種類の遺言方式を定めている。 ところで、遺言者は、上記のいずれかの遺言の方式に従って、いつでも遺言の全部又は一部を撤回することができることとされています(民法1022)。また、遺言者は遺言を取り消す権利を放棄することができないこととされています(民法1026)。 このような定めが設けられているのは、民法が遺言者の最終意思を尊重する趣旨であると考えられます。遺言の撤回は、民法に定める遺言の方式に従って行わなければなりませんが、前の遺言が後の遺言(当然のことながら、民法の定める方式に従ったものでなければなりません)と抵触するときは、その抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023)。 被相続人が内容の抵触する2つの遺言を残していた場合、遺言の方式によって優劣が決まるのではなく、どちらの遺言が後から行われた遺言であるかによってその効力が決まることになります。 2 ご質問の場合 ご質問の場合、公正証書遺言ではお姉様が甲土地を相続することとなっていましたが、後から作成された自筆証書遺言では妹さんが甲土地を相続することとされており、この部分に抵触が見られます。 この場合、民法の規定により、公正証書遺言に記載された甲土地の取得者に係る部分は撤回されたものとみなされ、甲土地は自筆証書遺言により妹さんが取得することとなります。 このように妹さんが甲土地を取得するのは、お父様の遺言に基づき、お父様からの相続により取得するものであって、お姉様から贈与により取得するものではありません。 したがって、相続税の申告書において、甲土地をお姉様が取得したものとして課税価格及び相続税額の計算がされていたとしても、妹さんに贈与税が課税されることはありません。 (了)
給与計算の質問箱 【第6回】 「高額な賞与を支給する際の注意点」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社の代表取締役の役員報酬は月額20万円です。このほか、2020年6月25日に役員賞与300万円を支給する旨を記載した事前確定届出給与に関する届出書を税務署へ提出しています。 役員賞与の給料計算をする際の注意点があれば、教えてください。 A 賞与から天引きする健康保険料は、「標準賞与額(賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた額)×健康保険料率」によって算出する。健康保険の標準賞与額の上限は、年間573万円(4月1日~翌年3月31日までの累計額)である。 賞与から天引きする厚生年金保険料は、「標準賞与額×厚生年金保険料率」によって算出する。厚生年金保険の標準賞与額の上限は、月間150万円である。 前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える賞与(社会保険料控除後)から天引きする源泉所得税は、通常とは異なる方法で算出する。 * * 解 説 * * 1 健康保険 今回のケースにおける健康保険料の算出は、以下のとおりである。 2 厚生年金保険 今回のケースにおける厚生年金保険料の算出は、以下のとおりである。 3 源泉所得税 (1) 通常の場合 通常の場合での源泉所得税の算出は、以下のとおりである。 ① 前月の給料(社会保険料控除後) ② ①の金額を「賞与に対する源泉徴収税額表の算出率の表」にあてはめて税率を算出する(【図表1】参照)。 【図表1】より「171,830円」「扶養人数0人」の場合の税率は、4.084%である。 【図表1】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁ホームページより ③ 賞与(社会保険料控除後)×税率 しかし今回のケースでは、上記の算出では間違いとなる。 (2) 前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える賞与(社会保険料控除後)を支給する場合 今回のケースは(1)ではなく、前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える賞与(社会保険料控除後)を支給する場合となる。 よって、以下の方法で源泉所得税を算出する。 ① 賞与(社会保険料控除後)÷12(賞与の計算期間が半年以下の場合は6) ② ①+前月の給料(社会保険料控除後) ③ 398,055円を月額表にあてはめて税額を算出する(【図表2】参照) 【図表2】より「398,055円」「扶養親族0人」の場合の税額は、16,510円である。 【図表2】 (※) 国税庁ホームページより一部抜粋 ④ ③-前月の給与に対する源泉徴収税額 (※) 前月の給与(社会保険料控除後)171,830円を元に月額表より算定。 ⑤ ④×12(賞与の計算期間が半年以下の場合は6) 以上から となるため、会社は、代表取締役に2,561,820円を6月25日に支給する。なお、支給後、賞与支払届を年金事務所へ提出する。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第17回】 「適格合併を行った場合の申告調整(その1)」 ~子会社同士の場合~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、子会社同士が適格合併を行った場合の申告調整の具体例について解説します。 1 適格合併を行った場合の合併法人の処理 (1) 前提条件 〔被合併法人B社の最後事業年度の貸借対照表〕 【会計】 【税務】 この合併における会計上の資産・負債と税務上の資産・負債には、下記の差異が生じています。 (2) 会計処理 合併法人A社の会計処理は、下記のとおりです。 (3) 税務処理 合併法人A社の税務処理は、下記のとおりです。 ① 資産・負債の取得価額 被合併法人が適格合併により合併法人にその有する資産・負債の移転をしたときは、最後事業年度終了時の帳簿価額による引継ぎをしたものとされるため、合併法人が受け入れる資産・負債の取得価額は、被合併法人における最後事業年度終了時の「帳簿価額」となります(法法62の2、法令123の3)。 この「帳簿価額」とは、税務上の帳簿価額をいうため、税務上否認した金額も含めて受け入れることとなります(法基通12の2-1-1)。 これより、合併法人A社が受け入れる資産の取得価額は、会計上の10,000と税務上否認した金額である減価償却超過額1,500の合計である11,500となります。 また、合併法人A社が受け入れる負債の価額は、会計上の5,000から税務上否認した金額である退職給付引当金500を差し引いた4,500となります。 ② 資本金等の額 合併法人において合併により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①五)。 (ア) 加算項目 (イ) 減算項目 (※) 「抱合株式」とは、合併法人が合併前から保有している被合併法人株式のことをいいます。 上記より合併法人A社において増加する資本金等の額は、2,000となります。 ③ 利益積立金額 合併法人において合併により増加する利益積立金額は、次のとおりです(法令9①二)。 (ア) 加算項目 (イ) 減算項目 上記より合併法人A社において増加する利益積立金額は、5,000となります。 (4) 会計処理と税務処理の調整 上記の合併法人A社の会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 合併法人A社において増加する利益積立金額が5,000、増加する資本金等の額が2,000となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。 2 適格合併を行った場合の被合併法人における資産・負債の引継ぎ 適格合併があった場合には、被合併法人の有する資産・負債は、最後事業年度終了の時の帳簿価額による合併法人への引継ぎがあったものとされ、被合併法人において譲渡損益は生じないこととされています(法法62の2①)。 3 適格合併を行った場合の被合併法人の株主の処理 (1) みなし配当 適格合併が行われた場合には、被合併法人の利益積立金額は合併法人に引き継がれ、被合併法人の株主に交付されないため、被合併法人の株主であるC社においてみなし配当は計上されません。 (2) 譲渡損益 投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2②)。なお、「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を合併法人より受けていないことをいいます。 被合併法人の株主であるC社は合併によりA社株式のみの交付を受けているため、譲渡損益は生じません。 (3) A社株式の取得価額 被合併法人の株主が、対価として合併法人株式のみを交付された場合のその合併法人株式の取得価額は、被合併法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①五)。 被合併法人の株主であるC社は合併によりA社株式のみを交付されているため、A社株式の取得価額は、合併直前の被合併法人B社株式の帳簿価額である2,000となります。 (4) 会計処理 被合併法人の株主C社の会計処理は、次のとおりです。 (5) 税務処理 被合併法人の株主C社の税務処理は、次のとおりです。 (6) 会計処理と税務処理の調整 被合併法人の株主C社の会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (7) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第31回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (2) 法人税法22条の2第2項を通じた益金算入 法人税法22条の2第3項は、申告調整により、資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入することを当該規定単独で認めるものではない。 近接日基準による益金算入を認める直接の規定は、あくまで2項である(2項については本連載第第19回から第29回参照)。本項は、近接日の属する事業年度の確定した決算における収益経理という2項の1つの要件を満たす効果をもたらすものにすぎない。 すなわち、法人税法22条の2第2項は、一定の要件を満たした場合には、法人税法22条の2第1項の規定によらずに(引渡・役務提供基準によらずに)、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを規定している。 ここでいう「一定の要件」とは、次のとおりである(本連載第19回参照)。 法人税法22条の2第3項は、2項の要件を満たさない場合でも、一定の場合に「当該事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして」2項の適用があるとするものである。 その文面を素直に読む限り、3項は、2項の適用に当たり、上記③の➋確定決算収益経理要件を満たす効果を発揮するにすぎない。よって、法人税法22条の2第3項の適用がある場合でも、2項の他の要件、すなわち上記②公正処理基準準拠要件、③の➊(益金算入に係る)近接日要件及び④の別段の定め不存在要件を同時に満たさない限り、申告調整により、資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入することは認められないと解される(上記①の要件については、基本的には2項と3項に共通するものである)。 この点に関して、『平成30年度 税制改正の解説』275頁は次のように解説している。 もっとも、法人税法22条の2第3項を経由して2項を適用する場合には、3項を経由せずに2項を直接適用する場合に求められるはずの上記②の公正処理基準準拠要件を満たす必要はないと解する見解も示されており(長島弘「収益認識基準対応としての法人税法22条の2の問題点」会計・監査ジャーナル30巻12号114頁参照)、議論の余地がある。 また、酒井克彦教授は、次のとおり、無償取引の場合にも近接日基準の適用があるという見解を示されており、注目される(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』257頁(中央経済社2019))。 かかる見解の背後には、法人税法22条の2第3項を経由して2項を適用する場合には、3項を経由せずに2項を直接適用する場合に求められるはずの上記②の公正処理基準準拠要件を満たす必要はないという理解があるのかもしれない。ただし、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」と「益金経理要件」とを分けて記述された上で、「必ずしも益金経理要件を必要とせず」と続けていることからすると、やや判然としない。 なお、法人税法22条の2第3項は2項の「別段の定め」であるかという論点がある。もっとも、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って2項に規定する近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、3項は適用されないことが明定されている。 また、3項は、2項の要件を満たさない場合でも、一定の場合に「当該事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして」2項の適用があるとする。 そうすると、2項の適用要件を満たす場合には2項が適用されることは明らかであって、2項と3項は競合する関係にはないから、法人税法22条の2第3項をもって2項の「別段の定め」であるとはいい難いという見解も視界に入ってくる。 しかしながら、22条の2第3項こそが2項の「別段の定め」に該当するという見解も示されており(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』256頁(中央経済社2019)参照)、議論は続くようである。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第3回】 「損益分岐点を意識して値上げする」 ~朱に交われば・・・高くなる?~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 * * * 見慣れないモノや内容のよくわからないモノに出会ったとき、私たちはそのモノにどれくらいの価値があるのか、ぼんやりとしかイメージできないものです。モノの妥当な価格を推測するのが、意外なほど難しいこともあります。 現在のアラスカ州は19世紀にロシアがアメリカに売却したものですが、その売却価格は1エーカー当たり何と2セント(!)という破格の値段でした。その後、アラスカの金鉱や豊富な地下資源に大きな価値があることが明らかになった経緯は、よく知られています。 * * * * * * 商品のコストは、変動費(販売量に比例して発生するコスト)と固定費(販売量に関係なく常に一定額が生じるコスト)からなります。園芸用品の変動費は、仕入値だけとしましょう。ハナダ店長は、園芸用品の定価を付ける際、定価の80%相当が仕入値になるようにしています。 また、園芸用品をまとめて輸入する際、運賃として固定費60,000円がかかります。横軸を売上高、縦軸をコストとし、変動費と固定費をグラフで表すと、このようになります。 総コストのグラフに、売上高のグラフを重ねてみます。横軸にも縦軸にも売上高を取ると考えてください(当然ながら、傾き1のグラフになります)。 総コストのグラフと売上高のグラフの交点では、『総コスト=売上高』になっているのですから、損でも得でもない、いわゆる「損益トントン」の状態になっています。このターニング・ポイントを「損益分岐点」と呼びます。 これよりも売上高が小さい場合には、『総コスト>売上高』なので損失です。反対に、これよりも売上高が大きい場合には、『総コスト<売上高』なので利益が計上されます。 * * * * * * 私たちはモノの価格を推測する時、無意識に手がかりを探そうとします。手がかりの1つは、そのモノが、「他の多くのモノの中でどのような位置づけにあるか」というポジショニングです。 例えば、ハンドクリームを家事用品というカテゴリーで販売し、安価なゴム手袋や洗剤を競合製品としてみます。ハンドクリームの妥当な価格はいくらだと思いますか? 次に、リラックスアイテムというカテゴリーで、高価なアロマオイルやネイルケアグッズを競合製品としてみるとどうでしょうか? リラックスアイテムとして、他の高価なアイテムと並べた場合のほうが、買い手はハンドクリームの価格を高く見積りそうですね。 「どのようなカテゴリーに分類するか」、「どのようなアイテムを競合製品として想定するか」というポジショニング次第で、そのモノにとって妥当と感じられる価格は大きく異なります。「朱に交われば赤くなる」という言葉がありますが、これは価格にも当てはまるようです。 * * * (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第6回】 「不動産鑑定評価基準には直接登場しない公租公課倍率法」 ~世間的な地代の目安~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 いわゆる公租公課倍率法とは 税理士の皆様も、地代に関し顧客からの相談を受けることが少なからずあろうかと思います。その際、「公租公課倍率法」という方法を適用して新規貸しの地代を試算する方もおられれば、地代改定に当たり改定後の地代の目安を推し測る目的でこの方法を活用する方もおられるのではないでしょうか。 ところで、土地の貸主のなかには公租公課倍率法に馴染みの深い方が多く、税理士の方が地代の相談を受けた際に、まずはこの方法によって地代の試算をしてみようという気持ちになるのも一理あるという気がします。 それでは、公租公課倍率法とはどのような方式を意味するのでしょうか。 この呼び方は通称であり、正式な用語として定義付けられているわけではありませんが、筆者なりにその意味を捉えれば、公租公課倍率法とは『対象地に課税されている固定資産税及び都市計画税の合計額に一定の倍率を乗じた金額をもって地代とする方法』であるといえます。 例えば、対象地の固定資産税及び都市計画税の合計額が1㎡当たり月額200円で、その3倍をもって地代を取り決めるとすれば、 ということになります。 このように、公租公課倍率法は簡潔明瞭な地代決定の方法であり、計算の基になる固定資産税及び都市計画税の金額が分かれば、他に判断の介入する余地はなく機械的に地代が求められる点に特徴(あるいはメリット)があります。 2 公租公課倍率法が一般に用いられてきた理由 それでは、公租公課倍率法が一般に用いられてきた理由は、どのような点に見い出せるのでしょうか。 上記1で述べた内容と一部重複するところもありますが、これをまとめれば以下のとおりです。 そのため、例えば「将来、経済諸事情の変動により地代改定が必要となった場合には、改定時の固定資産税及び都市計画税の合計額の〇倍をもって改定後の地代とする」旨の取り決めをしているケースも見受けられます。 しかし、そうはいってもすべてこのような形で物事が解決するというわけではありません。なかには、契約当初に公租公課の一定倍率を地代として取り決めた場合でも、その後の公租公課の大幅な増額に伴い、同じ計算式を用いても結果としての金額が借主にとって負担の大きいものとなってしまう事態も生じ得ることでしょう。 このようなことを考えると、公租公課倍率法が分かりやすい方法であるとはいっても、この方法で地代を取り決めておけば問題は生じないと考えるわけにはいきません。 3 公租公課倍率法に用いられる倍率 (1) 巷に言われる公租公課の“3倍”とは 先ほどの計算例にも掲げましたが、公租公課に乗ずる倍率としては「3倍」という数値が一般的によく用いられてきました。しかし、公租公課の3倍相当額が適正地代であるという規定が存在するわけではなく、このレベルの地代を授受することが法的に義務づけられているというものでもありません。 それでは何を根拠に「3倍」という倍率が巷で用いられてきたのでしょうか。 その根拠を筆者が推測するに、宗教法人(お寺)の地代に関する税務上の取扱いに端を発しているものと思われます。 すなわち、宗教法人(公益法人)に関しては法人税法施行規則第4条で、地代の額が住宅用土地に課される固定資産税及び都市計画税の合計額の3倍以下であれば住宅用土地の貸付業で収益事業に該当しないと扱われていることから、お寺が決める地代は公租公課の3倍以下とするであろうことが読み取れるからです(これを考えると、公租公課の3倍相当額が適正地代であると割り切ってしまうことには、再考の余地がありそうです)。 ちなみに、法人税法施行規則第4条及びそのなかに登場する法人税法施行令第5条第1項第5号の規定は以下のとおりです(下線部は筆者によります)。 (2) 日税不動産鑑定士協会の調査では 日税不動産鑑定士会(税理士と不動産鑑定士の両方の資格を有する者が組織している会)の調査によれば、平成30年1月から同年4月現在での東京都23区における継続地代(支払ベース)の公租公課に対する倍率は次のとおりです。 ここで、住宅地系の倍率が高い理由として、住宅用地の減額特例により、住宅用地の課税標準額が商業地(非住宅用地)のそれよりも低い水準に抑えられていることが指摘されています。 ちなみに、平成27年1月1日時点の調査では以下の結果が報告されています(ただし、調査地点は平成30年とすべて同一でなく、対象となった事例数にも相違があります)。 また、上記の調査結果は東京都23区における1つの傾向を示すものであり、これが全国の土地にもそのまま当てはまるというわけでもありません(商業地系では上記割合よりもかなり高い傾向を示す地域もあるようです)。 (3) 公租公課倍率法適用上の留意点 今まで述べてきたことを踏まえれば、公租公課倍率法の適用に当たっては以下の点に留意が必要です。 〈公租公課倍率法適用に当たっての留意点〉 4 不動産鑑定評価基準には直接登場しない公租公課倍率法 (1) 不動産鑑定評価基準における賃料評価の考え方 不動産鑑定評価基準の考え方は以下のとおりですが、地代に関する評価手法のなかに、公租公課倍率法という言葉は直接登場しません。 ここで、「積算法」とは賃貸借等に供される不動産の経済価値に着目して、「賃貸事例比較法」とは不動産の賃貸借等の事例に着目して、「収益分析法」とは一般の企業経営に着目して不動産の賃料を求める手法です。 また、継続賃料を求める上記手法は、新規賃料を求める3手法の考え方を活用したものです。 すなわち、「差額配分法」は、対象不動産の経済価値に即応した適正な賃料と実際の賃料との間に発生している差額について、貸主・借主間の適正な配分という視点に立って改定後の賃料にアプローチするものです。また、「利回り法」は、賃料を改定しようとする時点での不動産の価格(基礎価格)に、現行賃料を直近で合意した時点(以下、「直近合意時点」といいます)における利回り(=継続賃料利回り)を乗じた金額をベースとするものであり、「スライド法」とは直近合意時点における純賃料(公租公課を除く部分)にその後の諸指標の変動率を乗じた金額をベースとするものです。さらに、継続賃料を求める際の「賃貸事例比較法」は、新規貸しの事例ではなく、契約継続中の賃貸事例を前提としています。 このように、不動産鑑定評価基準の規定からは公租公課倍率法という手法の存在が読み取れませんが、筆者の推測によれば、「賃貸事例比較法等・」の「等」のなかに包含されているのではないかと思われます(ただし、不動産鑑定評価基準の解説書を読んでも、このあたりの事情を記述したものは見当たりません)。 (2) 公租公課倍率法の鑑定評価上の意義 筆者は、公租公課倍率法は不動産鑑定評価基準に基づいて求められた鑑定評価額の検証手段として意義を有するものと考えています。 その理由は、特に継続賃料の場合、鑑定評価の各手法を適用して試算した結果に相当の乖離が生ずることも多く、そのなかでどの手法による結果が最も説得力を有するかの判断をするに当たり、公租公課倍率法の考え方が常識的な目線(ヒント)を提供することがしばしばあるからです。 特に、継続賃料の鑑定評価においては、「直近合意時点」からの諸事情の変動をいかにして賃料に的確に反映させるか(最高裁判例の傾向)がキーポイントとなりますが、「直近合意時点」の捉え方によっては鑑定評価額にも大きな影響を与えます。 筆者は、鑑定評価という作業がいくつもの判断の集積から成り立っていることを踏まえると、その結果の検証手段として公租公課倍率法の存在意義を見い出すことができると考えています。 (了)
〈Q&A〉 消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第3回】 「法規制が及ぶ範囲の異同」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 福塚 侑也 【Q】 当社では、下請法遵守のため、下請法の対象となる取引先を選別し、一目で判別できるような取引先コードを付して徹底した管理を行っています。 そこで、下請法の対象となる取引先について、下請法遵守のための取組みに加えて消費税転嫁対策特別措置法遵守のための取組みを行うことを考えていますが、このような方法で問題ないでしょうか。 【A】 消費税転嫁対策特別措置法の適用範囲は、下請法の適用範囲よりも大幅に広くなっています。消費税転嫁対策特別措置法の適用に当たっては、資本金による適用範囲の制限が限定的であり、また、下請法における取引内容要件に対応する要件はありません。 したがって、事務所や店舗の家賃、自社利用のためのサービスの委託など、下請法が適用されない取引も含めて、消費税転嫁対策特別措置法の対象となる取引を洗い出し、同法遵守の体制を構築することが必要です。 はじめに 第3回は、消費税転嫁対策特別措置法と下請法のそれぞれについて、法規制が及ぶ範囲の異同を解説する。 消費税転嫁対策特別措置法と下請法は、「買いたたき」や「減額」など名称の重なり合う規制を持つが、法規制が及ぶ範囲は大きく異なり、その適用対象取引は消費税転嫁対策特別措置法の方が圧倒的に幅広い。したがって、いかに下請法遵守に努めている企業であっても、思わぬところで消費税転嫁対策特別措置法に足下をすくわれる場合があるため、注意する必要がある。 以下では、まず、下請法の適用範囲について概説した上で、下請法との異同に言及しつつ消費税転嫁対策特別措置法の適用範囲について概説し、最後に、具体的な事例における両法律の適用の有無を対比することとする。 1 下請法の適用範囲 (1) 概要 下請法は、発注者である「親事業者」に4つの義務を課すと共に、「親事業者」が受注者である「下請事業者」に11の行為を行うことを禁止している(詳細は【第1回】参照)。 「親事業者」及び「下請事業者」に該当するとして下請法が適用されるのは、①資本金要件、②取引内容要件という2つの要件を共に充たす場合に限られるため、以下、上記各要件について概説する。 (2) 資本金要件 資本金要件とは、親事業者と下請事業者の資本金額を見比べ、所定のチャートに機械的に当てはめて判断するというものである。チャートは2種類あり、委託する内容によって用いるチャートが異なるため、注意する必要がある。 まず、委託内容が製造委託など以下のいずれかに該当する場合は、その下の3億円基準が適用される。 《委託内容》 《3億円基準》 例えば、資本金5億円の自動車メーカーが、資本金1億円の部品メーカーに自動車部品の製造を委託する場合には、発注者である自動車メーカーの資本金額が3億円超であるため、上記の表のうち上段が適用される。そして、受注者である部品メーカーの資本金が3億円以下であるため、資本金要件を充たすということになる。 また、資本金1億円の自動車メーカーが、資本金3,000万円の部品メーカーに自動車部品の製造を委託する場合には、発注者である自動車メーカーの資本金が1,000万円超3億円以下であるため、上記の表のうち下段が適用される。しかし、受注者である部品メーカーの資本金が1,000万円を超えているため、資本金要件を充たさないということになる。 他方、委託内容がプログラムの作成を除く情報成果物作成委託など以下のいずれかに該当する場合は、その下の5,000万円基準が適用される。 《委託内容》 《5,000万円基準》 基準となる数値が3億円ではなく5,000万円となる点が異なるものの、考え方は上記3億円基準と全く同じである。 (3) 取引内容要件 取引内容要件とは、発注内容に着目した要件である。 すなわち、下請法が適用されるのは、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」及び「役務提供委託」のいずれかの要件を充たす一定の委託取引に限られる。それぞれの委託取引については、次のとおりである。 「委託取引」とは、自社が業として行う物品の製造、修理、情報成果物の作成、役務の提供等の全部又は一部を他の事業者に委託する場合をいう。典型的には、自動車メーカーが部品メーカーに仕様を指定した自動車部品の製造を委託したり、テレビ局が番組製作会社に番組の制作を委託したり、運送事業者が他の運送事業者に顧客から受託した運送の一部を再委託したりするような場合である。 他方、カタログ品の購入、自社で使用する物品の製造の委託(自社で製造していない場合に限る)、自己利用するための役務提供の委託などは、下請法にいう委託取引に該当せず、下請法は適用されない。 2 消費税転嫁対策特別措置法の適用範囲 消費税転嫁対策特別措置法は、買い手側である「特定事業者」が、売り手側である「特定供給事業者」に対し、買いたたき等の消費税転嫁拒否等の行為を行うことを禁止している。 特定事業者及び特定供給事業者の範囲は、以下のとおり、買い手側企業が大規模小売事業者(※)であるか否かによって異なる。 (※) 「大規模小売事業者」については、売上額及び店舗面積に係る基準が定められている。詳細は、公取委「消費税の転嫁を拒否する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」参照。 上記適用範囲は、下請法の適用対象よりも大幅に広範なものである。下請法との比較においては、以下の点に留意する必要がある。 3 具体例にみる適用範囲の異同 上記1及び2で述べた適用範囲の異同を具体例で見ると、以下のとおりである。下請法が適用されないにもかかわらず、消費税転嫁対策特措法の規制対象となる領域が、いかに広いかがお分かりいただけるのではないだろうか。 ※「〇」は適用、「✕」は非適用を示す。 ※資本金に関する要件を充足することを前提としている。 ※一覧性を確保するため、例外的場面は捨象していることにご留意いただきたい。 (了)