-お知らせ- 「〈令和2年分〉おさえておきたい年末調整のポイント」も現在連載中です。 〈令和元年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 (最終回) 「「令和2年分 扶養控除等(異動)申告書」受領時の注意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成30年度税制改正では、「働き方改革」を後押しする観点から、特定の収入にのみ適用される給与所得控除と公的年金等控除の控除額が引き下げられ、所得の種類に関わらず適用される基礎控除の控除額が引き上げられた。これらの改正は、令和2年分の所得税から適用される。 この改正に伴い、令和2年分の所得税から、源泉控除対象配偶者や控除対象配偶者等の所得金額要件に見直しが行われている。 連載第3回(最終回)は、改正事項が令和2年分の扶養控除等申告書に及ぼす影響と、扶養控除等申告書受領時の注意点について解説する。 なお、令和2年分の扶養控除等申告書の様式には、新たに「単身児童扶養者」欄が追加されている。その内容についても最後に触れることとする。 【1】 給与所得控除、公的年金等控除、基礎控除の改正の概要 給与所得控除、公的年金等控除、基礎控除の改正の概要は、次のとおりである。 (1) 給与所得控除の改正(所法28②③) (2) 公的年金等控除の改正(所法35④) (3) 基礎控除の改正(所法86①) なお、改正の詳細については、以下の拙稿等をご参照いただきたい。 【2】 扶養控除等申告書受領時の注意点①:配偶者や親族の所得金額 給与所得控除と公的年金等控除の控除額の引下げに伴い、控除対象配偶者や扶養親族等の所得金額要件に見直し(調整)が行われた。また、青色申告特別控除等の金額にも見直し(調整)が行われている。 扶養控除等申告書に記載される源泉控除対象配偶者、扶養親族、同一生計配偶者の合計所得金額を判定する際、注意が必要である。 (1) 合計所得金額要件の見直し(配偶者、親族) (※) 控除額判定の基礎となる配偶者の合計所得金額の区分も10万円ずつ引き上げられる。 令和元年分以前と令和2年分以後では、合計所得金額要件が10万円ずつ引き上げられている。これは、給与所得控除及び公的年金等控除の控除額が一律10万円引き下げられたことに伴う調整措置である。上表のとおり、給与又は公的年金等の収入ベースでみると、見直しの前後で変わりはない。 よって、配偶者や親族が給与所得者又は公的年金等の受給者である場合には、令和元年分以前と令和2年分以後において、源泉控除対象配偶者、控除対象配偶者、扶養親族、同一生計配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者の範囲は、実質的に変わらない。 (2) 青色申告特別控除等の見直し (※) 申告期限内に電子申告する等の要件を満たす場合には、控除額が65万円になる(措法25の2④)。10万円の青色申告特別控除は見直しされていない(措法25の2①)。 令和元年分以前と令和2年分以後では、各金額が10万円ずつ引き下げられている。これは、基礎控除の額が一律10万円引き上げられたことに伴う調整措置である。基礎控除との合計額でみると、見直しの前後で変わりはない。 例えば、配偶者が個人事業主(青色申告)である場合には、青色申告特別控除の控除額が65万円から55万円に引き下げられた結果、他の条件が同一であれば、配偶者の合計所得金額は令和元年分よりも令和2年分の方が10万円増加することとなる。しかし、(1)で確認したとおり、源泉控除対象配偶者等の合計所得金額要件が10万円ずつ引き上げられているため、個人事業主である配偶者が源泉控除対象配偶者等に該当するか否かの判定に影響はない。 以上のとおり、配偶者や親族が青色申告特別控除や家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受けている場合も、令和元年分以前と令和2年分以後において、源泉控除対象配偶者、控除対象配偶者、扶養親族、同一生計配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者の範囲は、実質的に変わらない。 【3】 扶養控除等申告書受領時の注意点②:所得者本人の所得金額 所得者本人の合計所得金額が要件とされている制度についても、今回の改正は影響を及ぼす。 勤労学生控除の合計所得金額要件は、改正により65万円から75万円へ10万円引き上げられた。一方、源泉控除対象配偶者と寡婦(寡夫)控除に係る所得者本人の合計所得金額要件は見直しされていない。各所得金額要件を給与の収入金額でみると、次のとおりとなる。 〈合計所得金額要件の見直し(所得者本人)〉 (※) 令和2年分の所得税から所得金額調整控除が導入されることから、子育て・介護世帯の場合には給与収入1,110万円以下となる(措法41の3の3①)。 {給与収入1,110万円-給与所得控除195万円-所得金額調整控除(1,000万円-850万円)×10%} =給与所得900万円 〈参考〉 所得金額調整控除の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 【4】 扶養控除等申告書受領時の注意点③:「単身児童扶養者」欄の追加 地方税法の改正により、児童扶養手当の支給を受けているひとり親(単身児童扶養者)で、前年の合計所得金額が135万円以下である場合には、個人住民税が非課税となる措置が創設された(地法23①十二の二)。この改正は、令和3年度の住民税から適用される。 この改正に伴い、扶養控除等申告書を提出する者が単身児童扶養者に該当する場合には、「住民税に関する事項」に新しく設けられた「単身児童扶養者」欄に、必要事項を記入することとされた。 なお「単身児童扶養者」とは、次の①から③すべての要件を満たす者をいう(地法23①十二の二、地令7の3)。 〈令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書〉(一部抜粋) なお、この改正は地方税に係るものであることから、所得税の源泉徴収及び年末調整には影響しない。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (連載了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第40回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑧ (贈与をしている場合)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年1月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地の全てを相続により取得し、その後、相続時精算課税制度を用いて、その家屋と敷地の持分4分の1(相続税評価額2,100万円、時価額2,625万円)ずつを、本年2月に長男及び長女へ贈与しました。 その贈与後にA社から予期せぬ買い申込みがあり、家屋を取り壊して更地にし、本年11月に、同社に対し共有物件として合計額1億500万円(Xは5,250万円、長男及び長女は2,625万円)で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人で暮らし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 「相続空き家の特例(措法35③)」を受けるXの持分2分の1に係る売買金額は5,250万円です。また、長男及び長女への贈与価額は相続税評価額で4,200万円であり、合計しても1億円以下です。 さらに、長男及び長女の持分はXの父親から相続したものではないことから、長男及び長女は1億円超に係る「居住用家屋取得相続人の範囲(措通35-21)」にも含まれません。 この場合、Xは、本特例の適用を受けることができるでしょうか。 A 被相続人居住用家屋及びその敷地等の贈与も「適用前譲渡」に該当し、その贈与の時における時価額を加算すると1億円を超えることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 この1億円の判定に当たっては、「居住用家屋取得相続人」の「適用前譲渡」又は「適用後譲渡」が贈与(著しく低い価額の対価による譲渡として財務省令で定めるものを含む)によるものである場合には、その贈与の時における価額に相当する金額をもってその対価の額とする旨が規定されています(措令23⑩)。 そして、「贈与(著しく低い価額の対価による譲渡を含む)の時における価額」とは、その贈与の時又はその著しく低い価額の対価による譲渡の時における通常の取引価額をいうこととされています(措通35-24(被相続人の居住用財産の一部を贈与している場合))。 したがって、本事例の場合、「居住用家屋取得相続人」であるXから長男及び長女への4分の2に係る贈与時の時価額は5,250万円(=2,625万円×2)であることから、Xの譲渡価額5,250万円にその時価額を加算すると、「対象譲渡」及び「適用前譲渡」の合計額が1億円を超えて、譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例80(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(措法35③) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に譲渡し、一定の要件に当てはまるときは、居住用財産を譲渡したものとみなして、3,000万円の特別控除の適用を受けることができる。 なお、平成31年度の税制改正により、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、被相続人居住用家屋等に該当するものとして、平成31年4月1日以後に行う譲渡から特例の適用が受けられることになった。 ◆相続財産を譲渡した場合の課税の特例(措法39) 相続により取得した土地、建物、株式などを、一定期間内に譲渡した場合には、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる。なお、上記「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」とは選択適用となっているため、既に「空き家の特例」の適用を受けていないことが要件となる。 ◆譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期(所基通36-12) 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。ただし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第44回】 「別表16(10) 資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、「別表16(10) 資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、法人が資産に係る消費税等の経理処理につき税抜経理方式を適用している場合において、資産に係る控除対象外消費税額等について法人税法施行令第139条の4(資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入)の規定の適用を受ける場合に作成する。 すなわち、消費税等の会計処理について税抜処理方式を採用している場合においては、仮受消費税等の額と仮払消費税等の額との差額が納付又は還付の消費税額とされるが、その課税期間中の課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満であるときには、その課税期間の課税売上げに係る消費税額から控除する課税仕入れ等に係る消費税額は、仕入れ等に対する消費税額の全額ではなく、課税売上げに対応する部分の金額となる。この場合には、仕入税額控除ができない仮払消費税等の額、つまり「控除対象外消費税額等」が生じることになる。 この控除対象外消費税額等は、「資産」に係るものと「経費」に係るものとに区分したうえで、以下のように処理することになる。 Ⅲ 「別表16(10)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成31年(2019年)4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〔当期に生じた資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入額等の明細〕欄 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第35回】 「ジョイント・テナンシーと贈与税(その2)」 -贈与の時期はいつだったのか- 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 日本居住の祖父が外国居住の孫に国外の不動産を贈与しようと考えています。孫が贈与税を申告納付することは承知していますが、贈与はいつあったものとして贈与税が課税されるのですか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷ジョイント・テナンシーとは 米国では財産を夫婦で所有する形態として「ジョイント・テナンシー」という方法を利用するケースが多い。「ジョイント・テナンシー」と日本で多く利用されている「共有」とを比較して大きく異なるのは、各人がジョイント・テナンツ(ジョイント・テナンシーの持分)を他のジョイント・テナンツ保有者の同意なく売却でき、ジョイント・テナンツの保有者が亡くなった場合は、自動的に他のジョイント・テナンツの保有者に持分が移転するという点にある。 前回の続きとなるが、日本に在住の夫婦が、米国の不動産をジョイント・テナンシーという方法で取得し、その後、その不動産を米国に居住している子供夫婦に贈与した場合の課税関係について検討する(一審:静岡地方裁判所平成17年(行ウ)第7号贈与税決定処分等取消請求事件(TAINSコード:Z257-10665)、控訴審:東京高等裁判所平成19年(行コ)第142号贈与税決定処分等取消請求控訴事件(TAINSコード:Z257-10797))。 ▷どのような事案だったのか 日本に住んでいる夫婦(A、B)が、夫Aの資金でカリフォルニア州にある不動産をジョイント・テナンシーの形態で取得し、速やかに日本に居住していない子(C)とその妻(D)に贈与したことについて、国税当局がBやC、Dに対して贈与税の決定処分を行った事件である。前回はBに対する贈与税の課税関係について検討したが、今回は、この事件のうちジョイント・テナンシーの形態で取得した米国不動産を子供夫婦(C、D)に贈与した場合の受贈者の贈与税の課税関係を検討する。 事案を時系列で並べると、次のようになる。 C、Dは、A、Bからの贈与の時期が平成12年3月31日以前であることから、贈与時点で贈与税の納税義務がないとして、贈与税の申告を行わなかった。このことについて、課税庁は平成12年4月1日以後の贈与であるとして決定処分を行い、これを不服としたC、Dが課税庁を訴えた事案である。 ▷本事案取引時点の税制における贈与税の納税義務者の範囲 平成12年3月31日以前の贈与税の納税義務者の範囲は、贈与時に受贈者の住所が日本にあるか否かで課税範囲が異なり、日本に住所がある場合は国内外の全財産について課税され、日本に住所を有する場合は国内財産のみが贈与税の課税対象だった。 しかし、この制度を利用した大型の節税事件が生じたことから税制改正が行われ、平成12年4月1日以後の贈与については、受贈者が日本国籍である場合は、贈与者と贈与者のいずれもが贈与時以前5年超日本に住所を有していない場合に限り、受贈者の納税義務の範囲が国内財産に限定された。 (※) 贈与税の納税義務者の範囲については、その後の税制改正により見直しが行われている。詳しくは国税庁タックスアンサー「No.4432 受贈者が外国に居住しているとき」を参照されたい。 この事案の場合、A、Bは不動産の贈与前5年以内に日本に住所を有していたが、C、Dは日本国籍ではあるものの、平成2年3月以降、日本に住所を有していない。 米国不動産は国外財産であることから、平成12年3月31日以前の贈与の場合は、C、Dに贈与税は課されないが、平成12年4月1日以後の贈与の場合は、C、Dに贈与税が課されることになる。 ▷課税庁の主張 贈与は平成12年4月28日から5月5日までの間に行われた。平成12年3月24日の贈与証書は、実際の贈与と内容に齟齬があることから、この時点で贈与契約が成立したとは認められない。 実際の贈与と内容が一致しているのは平成12年4月28日の譲渡証書であるから、この時点で贈与が成立し、不動産の所有権が移転したのは平成12年5月5日である。 よって贈与は平成12年4月1日以後に行われ、C、Dに贈与税の納税義務が生じている。 ▷納税者の主張 贈与については3月24日の国際電話で申し込み・承諾がなされている。このためC、Dは3月28日に住宅所有者保険を締結した。 不動産の所有権移転の時期は、納税者が、複数の時点の中から選択することを認められると考え、遅くとも3月29日の登記準備書面を作成した時点で、C、Dは贈与により取得している。これが認められないとしても、3月24日の贈与証書によって書面による停止条件付贈与が行われ、Cが受諾し、3月27日の譲渡証書の作成で条件が成就しているから、同日にはC、Dに不動産の所有権が移転している。 ▷裁判所(地裁)の判断は 贈与税の納税義務は、財産の取得時に生ずる(国通法15②五)。また通達では、書面による贈与は贈与契約の発生した時、書面によらないものは履行の時とされている(平成15年改正前の相基通1・1の2共-7(現 1の3・1の4共8)。 国外財産については、その地の法令で取得の時期を判定するが(法例10(現 法の適用に関する通則法13))、カリフォルニア州法では、不動産権は原則として要件を満たした当事者等の署名入り証書によって移転できることになっている。3月31日以前に作成された贈与証書等は、不動産権の移転のために有効な要件を満たしていない。要件を満たしているのは4月28日の譲渡証書であるから、4月28日から5月5日の間に、C、Dに所有権が移転している。 この贈与が書面によらないとした場合は贈与の履行の時であり、履行の時は移転登記手続きが行われた5月5日であるから、いずれにしても3月31日以前に贈与があったとは認められない。 また、3月24日の贈与証書によって停止条件付贈与が行われ3月27日に条件が成就して所有権が移転したならば、4月28日に譲渡証書を作成する必要がないのであるから、C、Dの主張は不合理であるとして採用できない。よって、C、Dの請求は棄却された。 その後、C、Dは控訴したが、高裁でも同様に、C、Dの主張は認められず、確定となった。税制改正が行われた場合、施行日前と施行日以後では納税額に大きな影響が出ることから、贈与を行う場合は、いつまでに何をしなければならないかを税理士も正確に理解すべきである。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第16回】 「「特別の利益を与えること」とは」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となる措置(措置法40条)を受けるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」が課されています。 この「不当減少」に該当するか否かの判断基準として、寄附者や役員等並びにその親族関係者に対し、特別の利益を与えないこと、という要件を満たす必要があるとされています。 ここで言うところの「特別の利益」とは、具体的にどのようなことを指すのですか。 - 回 答 - みなし譲渡課税が非課税となるための条件として、当該寄附を受けた法人が、寄附者や役員等並びにその親族関係者に対し、特別の利益を与えないことが必要とされています。 この「特別の利益」については、措置法40条通達19にその具体例が示されています。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 寄附者やその親族関係者が公益法人等から特別の利益を受けている場合には、寄附した財産が実質的には従前と同様に寄附者に支配されているにもかかわらず、財産の移転に対して何ら課税がなされないというのでは、課税の公平性上問題があります。したがって、このような場合には、寄附者に対してその寄附に対する譲渡所得税を課するとともに、財産を寄附された法人に対しても贈与税を課すこととされています(相法66)。 ただし、所得税、相続税、贈与税を不当に減少させる結果となるかどうかの判断については、今後発生しうる概念をも含むものであり、難しさがあります。 そこで、租税特別措置法施行令第25条の17第6項に掲げる5つの事項をすべて満たす場合には、逆に、不当に減少する結果とはならないと判断するとされています。 この5つの事項の中に、次の要件が入っています(措令25の17⑥二)。 これは「特別の利益供与の禁止」と呼ばれるものであり、寄附者もしくはその親族等に対し、法人が保有する財産の無償ないしは有利な条件による利用・譲渡、財産の提供、有利な取引、もしくは規則や契約等でそのような行為を認めている場合は、その行為を特別な利益の供与とみなし、寄附については譲渡所得税非課税の措置(措置法40条)は適用できなくなるというものです。 そして、措置法40条通達19では、「特別の利益を与えること」の具体例として、次の(1)又は(2)に該当する場合をいうとしています。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第17回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 (6) 立案担当者の見解の要旨 『平成30年度 税制改正の解説』の記述から、法人税法22条の2第1項の規律内容を理解するために参考となる立案担当者の見解を抽出してみたい。 なお、立案担当者の解説は、文字どおり、あくまで「立案担当者」の「解説」にすぎないため、これに盲従することは妥当ではないが、実際には、他に有力な立法関係資料がないことと相まって、改正規定の趣旨を理解するための1つの重要な手掛かりとなる。 ア 法人税法22条の2第1項は「収益の額を益金の額に算入する時期」に関する通則的な定めであること及びかかる定めを設けた経緯・趣旨 『平成30年度 税制改正の解説』271~272頁には、次のような記述がある。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁~272頁 これらの解説は、法人税法22条の2第1項が「収益の額を益金の額に算入する時期」に関する通則的な定めであることを明らかにしている。「各事業年度の所得の金額の計算の通則」とは表現していない。なお、文脈上、法人税法22条の2第2項も含めて、収益の認識時期に係る通則的な規定であると捉えている可能性もある。 また、これらの解説によれば、収益認識に関する会計基準の導入を契機として収益の計上額に係る規定(法人税法22条の2第4項)を定めることがまず必要とされ、次いで、かかる規定の整備に伴い、収益の計上時期に係る規定(法人税法22条の2第1項等)の制定にまで切り込んだという説明が成り立ちそうである(この点は、本連載第13回「〈更なる検討〉『無償による資産の譲受けその他の取引』を含めていないことの意義(法人税法22条の2第1項との関係)」も参照)。 さらに、上記解説のうち点線部分については、法人税法22条の2第1項及び2項の適用対象法人を収益認識会計基準の適用対象法人に限定していないことの理由の1つになりそうである。上記解説のロジックを整理すると次のようになる。 イ 改正前における収益の益金算入時期の考え方や収益認識会計基準との整合性 『平成30年度 税制改正の解説』は、改正前における法人税法上の収益の益金算入時期について、次のとおり説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁 上記説明では、法人税法上の収益の計上時期(益金算入時期)については、実現時点=収入すべき権利が確定したときであると解されており、より具体的にいえば、資産の販売又は譲渡については資産の引渡し、請負については役務の提供の完了をもって、実現ないし権利の確定とされていたが、これと異なる時点であっても一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った処理の範囲内であればその時点で収益を認識することも認められていたと整理している。 その上で、『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、収益認識会計基準が採用した履行義務充足基準について、顧客が資産に対する法的所有権を有していることや企業が資産の物理的占有を移転したこと等を考慮することとされていること(前記(5)(前回)参照)に着目することで、「実現」や権利の「確定」という法人税法上の収益の益金算入時期の従来の考え方に基づく益金算入時期と大幅には変わらないとする。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁 この「大幅には変わらない」という表現は、収益認識会計基準が採用する履行義務充足基準による収益認識時期と、「実現」や権利の「確定」という法人税法上の収益の益金算入時期の従来の考え方に基づく益金算入時期とは、完全に重なるものではないことを言外に示しているといえよう。 そして、『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、法人税法22条の2第1項について、資産の引渡し又は役務の提供の時点を収益認識の原則的な時点とすることで、従来の「実現」や権利の「確定」といった考え方及び収益認識会計基準における考え方とも整合的となる規定とされたことを説明する。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁 先ほどは、履行義務充足基準による収益認識時期と、「実現」や権利の「確定」という法人税法上の収益に係る従来の考え方に基づく益金算入時期とを比較し、結果論的に、前者は後者と大幅には変わらないとしていた。 他方、ここでは、法人税法22条の2第1項が採用する引渡・役務提供基準が、「実現」や権利の「確定」という法人税法上の収益の益金算入時期の従来の考え方及び収益認識会計基準における収益認識時期の考え方と整合的であるという見解が示されている。 要するに、立案担当者は次のように整理しているようである。 引渡・役務提供基準が着目する側面とその趣旨については、次のウで取り上げる。 ウ 引渡・役務提供基準が着目する側面とその趣旨 法人税法22条の2第1項を定めるに当たり、収益の計上時期について、インプット(権利の確定といった対価の流入)ではなく、アウトプット(資産の引渡し又は役務の提供)の側面に着目する方針を採用したともいうべき、説明がなされている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁 上記のような方針を採用した理由として、「上記の無償譲渡に関する論点や上記(2)で述べた収益の額についての考え方との整合性」が挙げられている。 「無償譲渡に関する論点」とは、既に見たように、法人税法においては、無償譲渡に係る収益についても課税対象となるが、「収入すべき権利」の「確定」という概念は無償譲渡については適用できないといった論点を指すと考える。 「上記(2)で述べた収益の額についての考え方」については、次の解説部分にあるとおり、「法人税法上、資産の販売等に係る収益の額は、資産の販売等により受け取る対価の額ではなく、販売等をした資産の価額をもって認識すべきとの考え方」を指すと考える(法人税法22条と収益の計上額の問題について、本連載第8回参照)。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第44回】 「親会社等がいない会社間の株式交換」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、親会社等がいない会社間の株式交換について解説する。株式交換とは、会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させ、既存の会社間において100%親子関係を実現するための組織再編である。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 他の会社の子会社及び関連会社ではないX社が、X社株式を支払対価として、他の会社の子会社及び関連会社ではないY社株式を株式交換により取得した場合、X社は株式交換完全親会社となり、取得の会計処理を行う(企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、「指針」という)」110)。Y社は、株式交換完全子会社となる。 (1) 株式交換完全子会社株式の取得原価の算定 ① 新株を発行する場合 新株を発行する場合、株式交換完全子会社株式の取得原価は、株式交換完全親会社が交付する株式の時価(株式交換日の株価)で算定する(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準基準(以下、「基準」という)」23、指針37、38)。 ② 条件付取得対価の場合 (ⅰ) 将来の業績に依存する場合 条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合(※1)、対価を追加的に交付する又は引き渡すときには、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識する。そして、のれんを追加的に認識するか、又は負ののれんを減額する(※2)。 また、条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合(※1)で、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額する。そして、のれんを減額するか、又は負ののれんを追加的に認識する(基準27(1))(※2)。 (※1) 「条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合」とは、被取得企業又は取得した事業の企業結合契約締結後の特定事業年度における業績の水準に応じて、取得企業が対価を追加で交付する若しくは引き渡す又は対価の一部の返還を受ける条項がある場合等をいう(基準(注3))。 (※2) 追加的に認識又は減額するのれん又は負ののれんは、「企業結合日」時点で認識又は減額されたものと仮定して計算し、追加認識又は減額する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は当期の損益に計上する(基準(注4))。 (ⅱ) 特定の株式又は社債の市場価格に依存する場合 条件付取得対価が特定の株式又は社債の市場価格に依存する場合(※3)、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、以下の会計処理を行う(基準27(2))。 (※3) 「条件付取得対価が特定の株式又は社債の市場価格に依存する場合」とは、特定の株式又は社債の特定の日又は期間の市場価格に応じて当初合意した価額に維持するために、取得企業が追加で株式又は社債を交付する条項がある場合等をいう(基準(注5))。 【新株予約権を交付する場合又は新株予約権付社債を承継する場合】 株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、当該新株予約権又は新株予約権付社債の時価を子会社株式の取得原価に加算し、同額を新株予約権又は新株予約権付社債として純資産又は負債に計上する(指針110-2)。 【取得関連費用の会計処理】 連結財務諸表上、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、発生した事業年度の費用(販売費及び一般管理費)として処理する(基準26)。個別財務諸表上は、取得関連費用は、株式交換完全子会社株式の取得原価に含めて会計処理する(指針110)。 (2) 株主資本の会計処理 ① 新株を発行する場合 株式交換完全親会社が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)の増加として会計処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社計算規則39条2項に従い、株式交換契約で定めた金額に基づき決定する(指針111)。 ② 自己株式を処分する場合 株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合には、増加すべき株主資本の額(自己株式の処分の対価の額。新株の発行と自己株式の処分を同時に行った場合には、新株の発行と自己株式の処分の対価の額)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として会計処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社計算規則39条2項に従い、株式交換契約で定めた金額に基づき決定する(指針112)。 ③ 自社の株式以外の財産を交付する場合 株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に対して、株式交換完全親会社の株式以外の財産を交付する場合には、当該交付した財産の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を株式交換日において、株式交換完全親会社の損益に計上する(指針113)。 なお、株式交換完全親会社の株主は、株式交換により取引は発生していないため、会計処理は不要である。 株式交換完全子会社の株主は、株式交換完全子会社株式と交換に、株式交換完全親会社株式を取得する。 この場合、投資は精算されていないため(投資は継続されているため)、株式交換完全親会社株式の取得原価は、株式交換完全子会社株式の企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する(企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」43)。 株式交換完全子会社に対する投資と資本を相殺消去する(指針116)。 《設例》 X社は資本関係のないY社を子会社とするために株式交換を行った。X社が取得企業に該当する。 X社及びY社ともに他の会社の子会社でも関連会社でもない。 株式交換の対価として発行した株式交換日におけるX社株式の株価は25,000である。増加する株主資本はその他資本剰余金とした。 Y社の株主が保有している株式の簿価は20,000である。 Y社の株式交換日前日の貸借対照表は以下のとおりである。 (注) 諸資産及び諸負債は簿価=時価である。 〈会計処理〉 1 株式交換完全親会社X社の会計処理 (※1) 株式交換の対価として発行したX社株式の時価 2 株式交換完全子会社Y社の株主の会計処理 (※2) 株式交換完全子会社株式(Y社株式)の株式交換日直前の適正な帳簿価額 3 連結財務諸表における会計処理 投資と資本の相殺消去 (※3) Y社の帳簿価額 (※4) 差額 企業結合年度において、取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合には、以下の事項を注記する。なお、個々の企業結合については重要性は乏しいが、企業結合年度における複数の企業結合全体について重要性がある場合には、(1)、(3)及び(4)について企業結合全体で注記する。また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(基準49)。 【暫定的な会計処理の確定】 企業結合年度の翌年度において、暫定的な会計処理の確定に伴い、取得原価の当初配分額に重要な見直しが行われた場合、当該見直しが行われた事業年度において、その見直しの内容及び金額を注記する。なお、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる。 なお、計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、4のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第10回】 「遺産分割前の財産処分に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、遺産分割前の財産処分に関する留意点について解説する。 1 概要 相続開始後、遺産分割前に、一部の相続人が相続財産を処分することがある。伝統的な考えによれば、このように処分された財産は、遺産分割時に遺産中に存在しないため、遺産分割の対象とならないのが原則とされてきた。 改正前民法では、このような場合、財産処分をした相続人に対し、その他の相続人から不当利得・不法行為等に基づき返還・賠償を求める必要があった。 一方、改正後民法906条の2は、下記のように定め、共同相続人全員の同意(処分者の同意は不要。同条第2項)があれば、遺産分割前に処分された場合も遺産として存在するものとみなすことができるとした。 本条文は、2019年7月1日から施行されており、特段の経過措置はないため、同日以後に発生した相続に関して適用される。 2 具体例による検討 〔例①〕 被相続人Aが死亡し、相続人である妻B、子C、子DがAを相続した。相続財産は2,000万円、Dは生前に400万円の生前贈与を受け、相続開始後、相続財産から200万円を無断で処分した。 遺産分割において、各相続人の取得額はいくらになるか。 この場合、Dは相続財産から200万円を処分しているが、他の相続人は、処分された財産が遺産として存在するものとみなす旨の同意をしていない。したがって、原則通り、遺産分割の対象となる財産としては現存する財産に限られ、1,800万円(2,000万-200万)が遺産分割の対象となる。 注意しておきたいのは、具体的相続分は相続開始時に存在した財産を基礎として算定されることである。具体的相続分及び遺産分割で取得できる金額を計算すると、 相続開始時に存在した財産2,000万円 + Dの生前贈与の持ち戻し400万円 = 2,400万円 なので、以下の通りとなる。 B及びCは、Dが無断で処分した200万円について、改正前民法と同様に、不当利得又は不法行為等に基づき、Dに対し請求することとなる。 改正後民法906条の2は関係しないが、遺産分割で取得できる金額の基本的な計算方法について、再確認されたい。 〔例②〕 被相続人Aが死亡し、相続人である妻B、子C、子DがAを相続した。相続財産は2,000万円、Dは相続開始後、相続財産から800万円を無断で処分し、そのうち400万円をCに渡した。 Bは、Dの処分した800万円について遺産とみなすべきと主張しているが、C及びDは同意していない。 Bの主張は認められるか。 改正後民法906条の2第2項は、「共同相続人の1人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。」としている。 本件では、相続財産を処分したのはDであり、Cの同意が存在しない以上、上記906条の2第2項の要件を満たさず、Dの処分した800万円を遺産とみなすことはできないのが原則である(もちろん、CがDと共同で財産処分したといえる場合には、Cの同意も不要である)。したがって、原則としては、Bの主張は認められない。 もっとも、本件のような場合に、利益を得ているCの同意がないためにBに不利益が生じるようなことがあれば公平を害する。したがって、このような場合でも、信義則(民法1条2項)により、Cの不同意は制限されるといった考えもあり得るだろう。 〔例③〕 被相続人Aが死亡し、相続人である妻B、子C、子DがAを相続した。相続財産は2,000万円、Dは相続開始後、相続財産から800万円を無断で処分した。 Bは、Dの処分した800万円について遺産とみなすべきと主張し、Cもこれに同意していたが、CはDから400万円を渡されて同意を撤回すると述べるに至った。 Bの主張は認められるか。 法制審議会民法(相続関係)部会(第25回会議(平成29年12月19日)開催)の「部会資料25-2」(13頁)によれば、 とされている。 本件においては、Cが同意を撤回することは許されず、Dの処分した800万円は遺産とみなされることとなる。 〔例④〕 被相続人Aが死亡し、相続人である妻B、子C、子DがAを相続した。相続財産は2,000万円である。 Bは、「C又はDが、相続開始後、相続財産から800万円を無断で処分したから、無断で処分された財産も遺産とみなすべき」と主張している。 Cは、「800万円を処分したのはDである」と主張しているが、処分された財産も遺産とみなすことには同意している。 Dは、「800万円を処分したのはCである」と主張しているが、処分された財産も遺産とみなすことには同意している。 処分された800万円を遺産とみなすことはできるか。 上記部会資料によれば、 とされている。 したがって、本件において、処分された800万円を遺産とみなし、遺産分割を行うことは可能である。 (了)
今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第10回】 「意思能力の明文化・意思表示に関する規定の見直し(その1)」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 今回の改正で「意思能力」についての明文化がされたと聞きましたが、どのような意味があるのでしょうか。 また、意思表示に関する規定も見直しがされたとのことですが、どのような点が改正されたのでしょうか。 【A】 「意思能力」とは、契約などの法律行為をする際に必要となる能力のことであり、意思能力を有しない者がした契約は無効とされている。超高齢化社会を迎えた日本では、認知症等により意思能力を喪失する高齢者が増加傾向にあり、こうした人たちを保護するためにも意思能力の制度について明文化されたことの意味がある。 また、意思表示が当事者の自由な真意に基づいてなされたものであれば問題ないが、なかには誤解や詐欺などにより、意思表示に問題があるケースがある。改正法では、意思表示に問題があるケースのうち①心裡留保、②錯誤、③詐欺について改正を加えることとした。 (※) ②錯誤、③詐欺の改正については、次回以降に取り上げる。 1 「意思能力」について 「意思能力」とは、行為の結果を判断するに足るだけの精神的能力などといわれる。意思能力を有しない者がした契約などの法律行為は無効であり、判例・学説ともにこれを支持している。 認知症等により意思能力を喪失してしまった高齢者が、今後増加するといわれており、意思能力の有無について問題となる事例が頻発していくことが考えられる。意思能力の制度は、意思能力を有しない者が行った契約等の法律行為を無効にする効果があるため、認知症等により意思能力を喪失した高齢者が不当な契約を締結させられたようなケースでは、高齢者を保護する役割を果たす。 一方で、こうした高齢者と契約を締結することを考えている事業者に対しては、意思能力制度が存在することをわかりやすく知らせておくことがトラブルの防止にもつながる。 改正法では、こうした社会情勢に対応するため、意思能力制度について明文化を行い、広く国民に分かりやすい制度とすることにしたものである。 明文化される条文は次のとおりである。 事業者としては、契約の相手方が意思能力を有するのかの確認を行うことが必要なケースが増加してくると思われる。必要に応じて、医師の診断書等の提出を求めるなど対応を考える必要がある。 2 意思表示に問題があるケース ◎ 心裡留保 心裡留保とは、例えば不動産の所有する人が冗談で、「この不動産をあなたに売ります。」と意思表示したケースが該当する。このような意思表示がすべて有効とされると、社会的に大きな混乱をきたすことにもつながる。 そこで現行法では「相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたとき」は無効とすると定めていた(現行法93条ただし書)。しかし、表意者の相手方の保護としては、「表意者の真意」がどのようなものかを知らなくても、「真意と異なること」を知っていれば保護をする必要性はないと解されていた。そこで改正法では、その旨を明文化している。 また、このような表意者の相手方から、不動産を購入した第三者のように表意者の意思表示が心裡留保に基づくものと知らない第三者が利害関係に入ることがある。仮に、心裡留保により表意者と相手方の契約が無効となると、当該第三者が不当に害されることになる。 このような「善意の第三者」を保護するために、現行法下においても判例により善意の第三者を保護することとされていた。改正法では、次のとおり、明文により善意の第三者を保護することを定めている(下線筆者)。 (了)