《速報解説》 個人事業者の廃業時、事業用資産のみなし譲渡につき消費税課税漏れ ~会計検査院が国税庁へ改善要請~ 税理士 石川 幸恵 1 会計検査院による「平成30年度決算検査報告の概要」の公表 会計検査院は11月8日に「平成30年度決算検査報告の概要」を公表、10月8日付の日本経済新聞で報じられた個人事業者の廃業時における課税漏れの問題に関し、その詳細を明らかにした。 個人事業者は、業務に必要な車両や建物など、棚卸資産以外の資産(以下、事業用資産)を取得し、事業の用に供する。これらの事業用資産については、事業廃止時、消費税法第4条第5項第1号(みなし譲渡)の規定により譲渡があったものとみなされ、消費税が課される。 上記新聞報道における「4割課税漏れ」とは、消費税申告において、この事業廃止時のみなし譲渡の規定が適用されているかを、会計検査院がサンプル調査した結果である。 2 問題の概要 (1) 事業廃止時におけるみなし譲渡の消費税申告状況 会計検査院の平成30年度決算検査報告(P274-275)で示された数値を整理すると、下図のようになる。平成27年から29年までに事業を廃止した個人事業者851人を検査。851人中349人の個人事業者が、事業廃止時に、決算書上、未償却残高の合計で100万円以上となる資産を保有していた。このうち305人は、みなし譲渡を正しく適用していない蓋然性が高い。 (※) 会計検査院の公表数値をもとに筆者作成。 (2) 提出された廃業届出書等の取扱手続 個人事業者は、事業を廃止したとき、個人事業の開業・廃業等届出書(所得税法第229条)、事業廃止届出書(消費税法第57条第1項第3号 免税事業者を除く)を提出する。 これらの届出書や決算書が、税務署内部の事務処理手続上、事業廃止時のみなし譲渡の確認に活用されていなかった。 (3) 納税者への周知 会計検査院によると、事業を廃止した場合のみなし譲渡に関し、国税庁のホームページや冊子での周知が図られていなかったとのことである。 3 改善要請を受けた対応 (1) 国税庁内の改善処置 2(2)手続面の問題については、令和元年9月、事務処理手続を定め、国税庁から国税局等へ連絡済みとのことである。 また2(3)納税者への周知についても、本稿執筆時点で、事業廃止届出書の記載要領等(事業廃止届出書の裏面)において、下記の注が記載されている(タックスアンサー「No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合」にも同趣旨の記載がある)。 (2) 申告時の注意 上記の注書きにもあるとおり、みなし譲渡について課税標準額に含める金額は、その資産の通常売買される価額(時価)に相当する金額である。財務省によれば、資産の状況等によっては未償却残高も1つの指標となり得るとのことである(会計検査院 平成30年度決算検査報告)。 なお、簡易課税が適用される場合には、事業用資産の譲渡であるため、第4種事業に該当する。 4 今後の動向 個人事業者は、事務用資産の取得時、仕入税額控除できる。事業廃止時に、みなし譲渡による課税を経ずに家事用への転用を許せば課税の公平が保たれないということが、今回の改善要請に至った。 これまでも会計検査院からの改善要請を受けた場合、税制改正によって対策を講じられるケースがあった。今回の指摘を受けた国税庁等による上記対応の他に法改正が行われるかどうかは不明だが、個人事業者の廃業時におけるみなし譲渡の適用については今後課税当局によるチェックが厳しくなることが予想されるため留意されたい。 (了)
2019年11月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.344を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第82回】 「立法資料から税法を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 条文解釈を行う際、その一つの拠り所として、立法資料を参照することは非常に有意義である。 かかる条文がどのような背景において成立したものであるかを調べるに当たって、立法資料の確認は欠かせない。 本連載では、国会審議(第52回)や税制調査会答申(第55回)を参照した租税法解釈の実例を取り上げてきたところであるが、本稿でも、実務上の問題点を取り上げつつ、立法資料から租税法解釈を読み解くこととしよう。 Ⅰ 申告期限内の2以上の申告書 1 問題の所在 確定申告の期限内に2以上の確定申告書が提出された場合の課税上の取扱いについては、必ずしも明確でないところがある。 実務的には、当初申告の後に提出された確定申告書を「訂正申告書」などと呼び(また、かかる申告行為を「訂正申告」などと呼び)、訂正申告書に記載された内容が当初申告書の内容に係る法律効果を塗り替えるものとして、すなわち、訂正申告書の内容に従った課税関係が正当なものとされると解されているようである。 そもそも、所得税法2条《定義》1項37号は、「確定申告書」の定義を、次のように規定しているに過ぎない。 このような規定振りを見るに、期限内に提出されるべき確定申告書が2以上あることを予定しているかどうかも判然としない。少なくとも、所得税法は、上記課税実務で用いられるような「訂正申告書」なる申告書を規定していないのである。 しかしながら、記載内容に抵触がある場合の申告書が2以上提出されている場合に、いずれの確定申告書の効力を有効なものとして取り扱うかという問題は、実務上は避けて通れない問題となる。 ここでは、議論の大前提として、期限内に2以上の確定申告書が提出された場合に、いずれの一の申告書のみの効力を認めるべきと解することがそもそも妥当であるのかという議論がある。 その上で、仮にそのように理解することが妥当であるとした場合に、いずれの申告書が所得税法2条1項37号にいう「確定申告書」に当たると解するべきかという問題は専ら解釈問題として委ねられているといわざるを得ない。 所得税法に「訂正申告書」に関する規定がないばかりでなく、そもそも、当初の申告書に記載された内容の変更について、納税者としては「修正申告」や「更正の請求」によってのみ是正することが国税通則法によって予定されていると解されるとすれば、かかる国税通則法上の手続と整合性をもった解釈論が導出されなければならないのはいうまでもない。 ここでは、期限内に2以上の確定申告書が提出された場合の「確定申告書」概念や、法定申告期限内における申告内容の是正問題について考えてみたい。 2 申告期限内の2以上の申告書が提出された事例 相続税法の事例ではあるが、例えば大阪地裁平成22年6月23日判決(税資260号順号11456)は、次のように判示する。 ここでは、後から提出された申告書が正当な申告書ではなく、先に提出した申告書が正当な申告書であるとの原告の主張が排斥されている。大阪地裁の立場は、当初の申告は後の申告によって吸収されてしまうという考え方であるとみてよいかもしれない。 3 吸収説と併存説 ア 吸収説 例えば、確定申告の提出後になされた増額更正(第一次更正)の効力は、当初申告とは別個に存在すると考えるべきか否かという問題がある。これは、その後に再更正(第二次更正)処分がなされた後においても、第一次更正処分の違法性を争う訴えの利益があるか否かという点でしばしば問題となるところである。 すなわち、次の図1にいうところの、墨塗り部分の納税額(8,000万円-5,000万円=3,000万円)についての訴えの利益があるか否かという問題である。 〈図1〉 この争点は、そもそも更正・決定と再更正との関係をどのように捉えるかという立場の違いをそのまま反映するものである。 まず、吸収説という考え方をみてみたい。 これは、更正又は再更正は、それぞれ、申告又は更正・決定を白紙に戻した上で、改めて税額を全体として確定し直す行為であるとする見解である。この見解によれば、申告又は更正・決定とは、更正又は再更正によって効力を失うことになる。 いわば、「以前の申告や更正を、後の更正又は再更正が全面的に塗り替える」(吸収する)といった関係と理解するものである。 すなわち、増額再更正の性質について、増額更正に係る課税標準・税額の脱漏部分のみを追加して確認する処分ではなく、納付すべき税額を全面的に見直し・・・・・・・、増額更正に係る税額を含めて税額全体を確認する処分・・・・・・・・・・・と捉えた上で、当初の更正・決定の効果は引き続き増額再更正の効力の中に承継されるが、当初の更正・決定自体は独立の存在を失い、増額再更正の内容としてこれに吸収されて一体となり、その外形が消滅するとの見解である(司法研修所編「租税訴訟の審理について」司法研究報告書36輯2号38頁)。 イ 併存説 これに対して、併存説という考え方がある。 これは、更正又は再更正は、申告又は更正・決定とは別個・独立の行為であり、申告又は更正・決定によって確定した税額に一定の税額を追加し、又はそれを減少させるにすぎない、とする考え方である。 吸収説において、「以前の申告や更正を、後の更正又は再更正が全面的に塗り替える」と説明したが、併存説は、「以前の申告や更正に、後の更正又は再更正をもって追加する」というイメージである。 4 学説 例えば、金子宏教授は、原則的には吸収説が妥当すると説明されるが、法的安定性の観点からの問題点も指摘される。 そこで、同教授は、国税通則法29条の規定に着目されている。 このように、同条が租税法律関係の安定を図るための措置として、上記のような規定をしているという点から、金子教授は、次のような結論を導出される。 すなわち、現行法の解釈としては、増額更正の場合には併存説が妥当し、減額更正の場合には一部吸収説が妥当するとされるのである。 その結果、更正又は再更正がなされても、申告又は更正・決定に係る税額の納付及びその税額を徴収するための滞納処分は、それによってその効力に影響を受けないし、また、再更正又は再々更正がなされても、更正・決定又は再更正に対する不服申立及び訴訟は、それによって影響を受けずに有効に係属を続けることになるというのである(金子・前掲書959頁)。 (続く)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第23回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避は結果概念か行為概念か- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前々回のⅢでみた、課税要件アプローチによる租税回避の包括的定義、すなわち、「課税要件の充足を避け納税義務の成立を阻止することによる、租税負担の適法だが不当な軽減または排除」(【66】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号[以下同じ])からすると、租税回避は、課税要件の充足回避による租税負担の軽減・排除という結果に着目した概念(結果概念)である。 これに対して、租税回避について、学説・実務上の言葉遣いとして、「租税回避行為」という言葉が「租税回避」と特に区別されることなく用いられることがしばしばあるように思われる(例えば、下記①=清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)44頁、下記②=金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)135頁、下記③=ヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁。いずれも下線筆者)。このことからすると、租税回避は行為概念であるようにも思われる。 ところで、租税回避行為について、「租税回避をもたらす納税者の行為」(清永・前掲書42頁)と定義されることがある。この定義は、結果概念としての租税回避を前提にしつつ、その結果をもたらす納税者の行為を、租税回避行為とするものと解されるが、このように定義される租税回避行為については、次の2つの異なる観点から検討することができ、それぞれの観点に応じてその意義を明らかにすることができるように思われる。その異なる観点のうち1つは、租税回避の「手段」の観点であり、もう1つは、租税回避の「成否」の観点である。以下では、それぞれの観点から、租税回避行為の意義を検討することにしよう。 Ⅱ 租税回避の「手段」と租税回避行為 租税回避の定義に関する行為態様アプローチは、私人の行為態様(異常性・人為性・濫用等)を基本的要素として租税回避を定義するアプローチであるが(【66】、前々回Ⅱ1参照)、これは、課税要件論を前提にして租税負担の軽減・排除という結果をもたらすために用いられる、租税回避の「手段」に着眼するアプローチということもできる(前回Ⅰ参照)。 ここで、租税回避の「手段」(前回検討したように、私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避では「直接的手段」、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避では「間接的手段」)は、私法上の形成可能性ないし選択可能性であり、これは、多くの場合(経験的事実を前提とする租税回避の定義。前々回Ⅲ1参照)法律行為、特に財産行為について問題にされるが、身分行為についても事実行為についても問題にされることがある(前回Ⅰ参照)。 このように考えてくると、租税回避行為は、私法上の形成可能性・選択可能性の対象となる上記の行為のうち、立法者が課税要件を定めるに当たって想定していなかった行為、すなわち、(立法者の想定外という意味で)「異常な」行為を意味するといえよう。この意味での租税回避行為という概念は、行為態様アプローチによる定義の代表的なものとして前々回のⅡ1で挙げた北野弘久教授の次の定義(同『税法学原論〔第6版〕』(青林書院・2007年)132頁)で用いられている。 要するに、租税回避行為は、1つには、租税回避の定義に関する行為態様アプローチによる場合における、租税回避の「手段」としての「異常な」行為を意味するのである。 Ⅲ 租税回避の「成否」と租税回避行為 これに対して、租税回避行為は、租税回避の定義に関して課税要件アプローチによる場合には、行為態様アプローチによる場合における前述の意味とは異なる意味をもつ。 課税要件アプローチによれば、租税回避は、課税要件の充足回避を基本的要素として定義される結果概念である(【66】、前々回Ⅱ1参照)。そのような課税要件の充足回避による租税負担の軽減・排除という結果を追求する行為は「租税回避の試み」と呼ぶことができよう。ドイツ税法学では、ⓐ租税回避の試み(Steuerumgehungsversuch)はⓑ「真の租税回避(echte Steuerumgehung)」と区別されるが(拙著『租税回避論-税法の解釈適用と租税回避の試み-』(清文社・2014年)はしがきⅱ参照)、わが国で通常「租税回避」といわれるのは後者(ⓑ)であり、「租税回避行為」といわれるのは前者(ⓐ)を意味する場合もあるように思われる。 ⓐ行為概念である租税回避の試みとⓑ結果概念である(真の)租税回避との間には、次のような関係、すなわち、ⓐ租税回避の試みが成功すればⓑ(真の)租税回避が成立し、逆に、ⓐ租税回避の試みが失敗すればⓑ(真の)租税回避は成立しない、という関係が成り立つ。この関係においてⓑ(真の)租税回避の「成否」を決する、ⓐ租税回避の試みの成功と失敗は、課税要件法の解釈適用によって決定される。 一般に、課税要件は、課税要件法の許される解釈適用の限界を超えたところで初めて、充足されないことになり、課税要件の充足回避による租税負担の軽減・排除という結果が達成されることになる、と定式化することができる。この点に関し、次の見解(宮崎裕子「一般的租税回避否認規定-実務家の視点から(国際的租税回避への法的対応における選択肢を納税者の視点から考える)」ジュリスト1496号(2016年)37頁、42頁)は正鵠を得たものといえよう。 課税要件に関する前記の定式によれば、租税回避の「成否」は、課税要件法の許される解釈適用の限界を超えるか否かによって、決定されることになる。そうすると、課税要件法の許される解釈適用の限界を厳格に考えれば考えるほど、租税回避の試みが成功し租税回避が成立する範囲が広がることになり、逆に、その限界を緩やかに考えれば考えるほど、その範囲は狭くなることになる。つまり、課税要件法の許される解釈適用の限界は、解釈適用者(申告納税制度の下では納税者・税務官庁・裁判官)の立場により移動し得るいわば「可動限界」ともいうべきものであり、その可動領域の広狭に応じて、租税回避の成立範囲が異なってくるのである。 租税回避が「通常の」行為を選択した納税者と「異常な」行為を選択した納税者との間で租税負担の不公平をもたらすことについては異論のないところであるが(この点については次回、更に検討する)、仮に租税負担の公平の見地から類推(Analogie)が無制限に許容されるとすれば、「通常の」行為を選択しても、「異常な」行為を選択しても、基本的には同一の経済的成果が得られる以上、両者ともに課税上同様に取り扱われることになる。そうすると、租税回避の成立する余地はなくなることになろう。換言すれば、「類推課税」ともいうべき課税のやり方が無制限に許されるならば、租税回避の試みは、常に、失敗に終わることになり、租税回避の観念すら成り立たないことになろう。 以上で述べてきた、課税要件法の解釈適用と租税回避の成否との関係を図示すると、次の図(【67】の最後の【図】)のようになろう。 【図】 課税要件法の解釈適用と租税回避の成否 Ⅳ おわりに 以上の検討は次のようにまとめることができよう。すなわち、課税要件アプローチによれば、租税回避は結果概念として構成されるが、租税回避という言葉が「租税回避行為」と特に区別されることなく用いられる場合、そのような行為概念としての「租税回避」は、①納税者が租税回避の「手段」として用いる「異常な」行為(行為態様アプローチによって定義される租税回避の場合)と、②納税者が課税要件の充足回避による租税負担の軽減・排除という結果を追求する「租税回避の試み」ともいうべき行為(課税要件論を前提すれば、その結果としての租税回避の「成否」は課税要件法の解釈適用によって決まる)のいずれかを意味するものと考えられる。 このように行為概念としての租税回避(租税回避行為)を上記①と②の異なる意味で理解しておくことは、租税回避の法的評価に関する検討(次回)にも役立つと考えるところである。 (了)
〈令和元年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「配偶者控除及び配偶者特別控除について」 ~平成30年分の見直し事項の再確認~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 11月も半ばとなり、令和最初の年末調整に向け準備を始める時期となった。本年分の年末調整から適用される改正事項は特にないが、昨年分の所得税から適用されている配偶者関連の見直しには注意しておきたい。 配偶者控除及び配偶者特別控除の適用対象者(所得者本人及び配偶者の所得要件)、配偶者控除額及び配偶者特別控除額、配偶者が障害者である場合の障害者控除の適用、年末調整での配偶者控除及び配偶者特別控除の適用方法について、改めて確認し準備を進めたい。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。第1回は、平成30年分の所得税から見直しされた配偶者控除及び配偶者特別控除について解説を行う。 なお、本年分の記事に加え、論末の連載目次に掲載された過去の拙稿(年末調整のポイント)もご参照いただきたい。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 【1】 配偶者に関する見直しの概要 平成29年度税制改正において配偶者控除及び配偶者特別控除に見直しが行われ、平成30年分の所得税から適用されている。この見直しにより、平成29年分以前と平成30年分以後では、源泉徴収事務及び年末調整事務のうち、以下の点が変更されている(所法83、83の2、79②)。 (注:アミカケ部分が変更点) (1) 源泉徴収事務(甲欄適用時)における変更点 ① 扶養親族等の数に含める配偶者(所法2①三十三の四、186の2) ② 配偶者が障害者である場合の扶養親族の数の加算(所法2①三十三、187) (2) 年末調整事務における変更点 ① 配偶者控除の適用対象となる配偶者(所法2①三十三の二、83) ② 配偶者特別控除の適用対象となる配偶者(所法83の2) ③ 配偶者控除額及び配偶者特別控除額(所法83①、83の2①) (控除額の詳細は【2】を参照) (注) ( )内は老人控除対象配偶者に対する控除額。 ④ 配偶者が障害者である場合の障害者控除(所法79) (注) 対象となる配偶者の範囲は、見直しの前後で変わらない。 ⑤ 配偶者控除及び配偶者特別控除の適用方法(所法195の2) (※) 平成29年分以前の配偶者特別控除申告書は、保険料控除申告書と合わせて1つの様式(保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書)として提供されていた。 【2】 配偶者控除額及び配偶者特別控除額 平成30年分以後の配偶者控除額及び配偶者特別控除額について、所得者本人の合計所得金額と配偶者の合計所得金額に応じて整理すると次のとおりである(所法83①、83の2①)。 〔令和元年分の配偶者控除額及び配偶者特別控除額の一覧表〕 (※) 国税庁ホームページより なお、配偶者控除額及び配偶者特別控除額の見直しの詳細については、下記の拙稿もご参照いただきたい。 【3】 配偶者控除等申告書のチェックポイント 平成30年分の年末調整から導入された配偶者控除等申告書について、チェックポイントをまとめると次のとおりである。 (1) 所得者の合計所得金額(見積額)の確認 配偶者控除及び配偶者特別控除は、所得者本人の合計所得金額が の区分ごとに控除額が変わり、1,000万円を超えると適用を受けることができない(所法83①、83の2①)。 よって、所得者本人の合計所得金額が上記(A)(B)(C)のどの区分に該当するかの判定がポイントとなる。 なお、判定の基礎は合計所得金額であることから、年末調整の対象となる給与以外の所得も含めた金額を把握する必要がある。例えば、他社からも給与の支給を受けている場合、不動産所得や雑所得等がある場合には、それらについても記載することとなる。 なお、合計所得金額については、拙稿「平成26年分 確定申告実務の留意点【第4回】「誤りやすい事例Q&A」」の【Q1】をご参照いただきたい。 (2) 配偶者の合計所得金額(見積額)の確認 判定の基礎が合計所得金額であることから、配偶者についても所得者本人と同様に、各種所得の合計額を記載する。 なお、扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者として記載されている場合でも、配偶者控除等申告書を提出しなければ年末調整で配偶者控除及び配偶者特別控除の適用を受けることはできない。反対に、扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者として記載されていない場合でも、所得者本人と配偶者の合計所得金額によっては、配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けることができるケースもある(下図の 部分)。 〔源泉控除対象配偶者と配偶者控除及び配偶者特別控除との関係〕 :扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者として記載 :扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者として記載不可 :配偶者控除等申告書により配偶者控除適用 :配偶者控除等申告書により配偶者特別控除適用 (3) 控除額の計算の確認 所得者の合計所得金額と配偶者の合計所得金額に基づいて、配偶者控除額又は配偶者特別控除額が決定される。配偶者控除等申告書に必要事項を順序よく記入すれば、正しい控除額を求めることができる。 配偶者控除等申告書の具体的な記載方法及び手順については、下記の拙稿をご参照いただきたい。 * * * 次回は、年末調整における配偶者控除及び配偶者特別控除の適用について、具体例で解説を行う予定である。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第11回】 「事業承継対策で役員退職金を支給する場合の留意点」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) マネジャー 税理士 髙田 泰輔 相談内容 私Yは、金属製造業を営む非上場会社(S社)の代表取締役社長(65歳)です。そろそろ役員を退任して、後継者である息子Zにバトンタッチしたいと考えています。ただし、いきなりZにすべてを引き継がせるのは少し不安なので、しばらくは会長(取締役でない)というポジションで会社に関与していこうと考えています。 ところで、役員退職金を支給した次年度には自社の株価が引き下げられると聞きました。そのタイミングで私が所有するS社株式を後継者であるZへ譲渡又は贈与することも検討しています。 事業承継対策において役員退職金を支給する際の留意点について教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 退職金の適正額を把握する (1) 法人税法上の規定 法人が役員に対して支給する退職金のうち、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されません(法法34②)。 この「不相当に高額」に該当するかどうかは、 等の各要素に照らして総合的に判断するものとされおり(法令70ニ)、具体的な計算方法は定められていません。 (2) 3倍基準について 法人税法上の規定は上記(1)のとおりですが、実務上は、代表取締役の退職金は最終報酬月額 × 勤続年数 × 3.0が目安とされています(以下、「3倍基準」という)。これは、最高裁で支持された事例(最高裁昭和60年9月17日)があるためと考えられています。 しかし、近年の判例では、税務調査の段階では功績倍率3.0倍が“落としどころ“とされていたにもかかわらず、裁判に至ったことにより、1.18倍が適正と認定された事例があります(飯田精密事件:東京高裁平成25年7月18日、東京地裁平成25年3月22日)。 このように、3倍基準はあくまで実務上の目安であるため、しっかりとした根拠を準備する必要があります。 (3) 平均功績倍率法による方法 役員退職金の金額の算定方法には、主に平均功績倍率法、1年当たり平均額法、最高功績倍率法の3つがあります。一般的には平均功績倍率が最も合理的な算定方法とされているため、ここでは平均功績倍率法による適正額の算定方法を紹介します。 ① 平均功績倍率法による計算 平均功績倍率法は、同種の事業を営み、かつ、その事業規模が類似する法人(以下、「比較法人」という)の役員退職給与の功績倍率の平均値に、対象となる役員の「最終報酬月額×勤続年数」を乗じて算定する方法です。 ② 比較法人のデータの抽出基準と入手方法 上記算式のとおり、功績倍率の算定のためには、比較法人のデータの入手が必要となります。データの抽出にあたっての基準は、例えば下記のような事項を設けて、恣意性が介入しないよう機械的に抽出する必要があります。 ただし、納税者が上記のような基準を満たす有用なデータを入手することは困難です。実務上は、財務省や国税庁がホームページ上で公表している「法人企業統計年報特集」や「民間給与実態統計調査」、税務関係の雑誌や書籍にも参考となる記事・資料が数多く掲載されており、これらを参考とすることが一般的です。 [2] 退職の実態があること Yのように、代表取締役を引退した後も会長や監査役への分掌変更により引き続き在職するケースがよく見受けられます。 分掌変更に伴う役員退職金については、役員としての地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、税務上も退職金として取り扱うことができます(法基通9-2-32)。 一方で、引き続き法人の経営上主要な地位を占めていると認定された場合には、税務上は退職金とは認められません。 具体的には、次のような事実の有無を総合勘案して、退職の実態の有無が判断されます。 分掌変更退職金を支給し、役員退職の実態がないと認定された場合、税務上は役員賞与と取り扱われます。非常に影響が大きいものとなるため、退職の事実認定には特に注意が必要です。 [3] リタイアメント・プランの作成 事業承継対策を考える上では、事前のリタイアメント・プランの作成が必要不可欠ですが、Yのように後継者へのバトンタッチ後も会長や顧問に就くことを検討している場合は、特に重要になります。 経営者としての影響力が大きければ大きいほど、経営から退いた後も後継者や他の役員・従業員が会長を頼りにするなど、後継者が経営者としてひとり立ちできなくなるリスクがあります。後継者へのバトンタッチの時期はもちろんのこと、会長等としての会社への関与の仕方や報酬、会長職等の引退時期も事前に決めておき、それを後継者や他の役員などにも認識させ、相互に理解し合うことが重要です。 また、Yは現在65歳とのことですが、「人生100年時代」といわれる現代では、経営を退いた引退後の人生を長く楽しく過ごす工夫と準備が必要になるでしょう。引退後の生活資金の確保や自身の相続による相続税等の納税資金対策を考えなければなりませんが、それだけではなく、趣味や引退後の夢の実現、自身の介護など、自分らしく幸せな第2の人生を歩むためのプランを立てましょう。 [4] 結論 役員退職金の税務上のポイントは適正金額の把握と、分掌変更退職金については退職の実態を持つことでしたが、株価の引下げや節税策など税務上の取扱いだけにとらわれてはいけません。代表取締役又は会長等としての引退時期、後継者の育成や自社株の承継方法、自身の第2の人生など、中長期的なリタイアメント・プランの作成についても事業承継対策の1つとして考えることが重要です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔令和元年度税制改正〕 仮想通貨に関する法人税制のポイント 【第2回】 「事業年度終了時の時価評価損益の算定と仮想通貨信用取引に係るみなし決済」 税理士 小林 穣 本稿では前回に続き、令和元年度(平成31年度)税制改正で整備された仮想通貨の評価方法等の改正ポイントについて解説を行います。 今回は、事業年度終了時の時価評価損益の算定と仮想通貨信用取引に係るみなし決済について取り上げます。 1 仮想通貨の時価評価損益 (1) 改正の経緯 法人税法では、短期売買商品(旧法法61)や売買目的有価証券(法法61の3)などの資産について、以前より期末時点で時価評価し評価損益を認識することとされています。 ただし、時価評価が要求される資産は、法人税法上限定列挙されており、改正前は仮想通貨はこれには当たらなかったため、価格の変動等を利用して利益を得るなどの投機目的で仮想通貨を保有している場合であっても、税務上は期末に時価評価せずに含み損益も認識しませんでした。つまり、法人でビットコイン等の仮想通貨を保有した場合について、購入時より値上がり(いわゆる「含み益」が発生)したとしても、売却等しない限り課税されませんでした。 令和元年度(平成31年度)税制改正では、法人が保有する仮想通貨の取扱いについて、仮想通貨を「短期売買商品等」に該当するものとして、短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益の適用対象とされました(法法61)。 以下では仮想通貨の時価評価について、その対象となる仮想通貨の定義や具体的な計上方法について解説します。 (2) 時価評価損益の計上対象となる仮想通貨の定義 法人税法において、時価評価損益の計上対象となる仮想通貨とは、資金決済に関する法律に規定する仮想通貨(※1)をいうとされました(法法61①)。 また、法人税においては、仮想通貨を「短期売買商品等」(※2)に該当するものとして、法人税法61条(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)の適用対象とされました。 (※1) 資金決済に関する法律における仮想通貨は、次のいずれかに該当するものと定義されています(資金決済法2⑤一・二)。 (※2) 今回の改正で仮想通貨が新たに追加されたことから「短期売買商品」ではなく「短期売買商品等・」とされました(法令118の4)。 (3) 時価評価損益の計上方法 内国法人が事業年度終了の時において有する仮想通貨のうち活発な市場が存在する一定のもの(後述します)については、時価法(※3)により評価した金額がその事業年度の益金又は損金の額に算入されます(法法61③)。 (※3) 時価法とは、事業年度終了の時において有する仮想通貨をその種類又は銘柄の異なるごとに区分し、その種類又は銘柄の同じものについて、その時における価額として一定の方法により計算した金額をもってその仮想通貨を評価する方法をいいます(法法61②)。 上記の評価損益については、翌事業年度において洗替処理を行います(法令118の9④)。 なお、活発な市場が存在する仮想通貨とは、法人が有する仮想通貨のうち次の要件のすべてに該当するものをいいます(法法61②、法令118の7)。 ちなみに期末に保有する仮想通貨の時価評価は法人のみの取扱いですので、個人に関しては、含み益課税はありません。 (4) 適用関係及び経過措置 仮想通貨の時価評価損益の損金算入・益金算入の改正については、平成31年4月1日以後に終了する事業年度から適用されます(改正法附則12)。 ただし、経過措置として、経過事業年度(平成31年4月1日前に開始し同日以後に終了する事業年度)終了の時において有する仮想通貨(活発な市場が存在する一定のものに限ります)のいずれについても、その経過事業年度の確定した決算において時価評価損益を収益又は損失として経理していない場合は、その経過事業年度については、その仮想通貨は時価法により評価される仮想通貨に該当しないものとして、時価評価損益を計上しなくてもよいこととされています(改正法附則19③)。 2 未決済仮想通貨信用取引におけるみなし決済 (1) 原則的な処理 内国法人が仮想通貨信用取引(※4)を行った場合において、その仮想通貨信用取引のうち事業年度終了時に決済されていないものがあるときは、その時において仮想通貨信用取引を決済したものとみなして、一定の方法により算出した利益の額又は損失の額相当額(みなし決済損益額)をその事業年度の益金又は損金の額に算入されます(法法61⑦)。 (※4) 資金決済に関する法律2条7項に規定する仮想通貨交換業を行う者から信用の供与を受けて行う仮想通貨の売買をいいます。 このみなし決済損益額については、翌事業年度において洗替処理を行います(法令118の11①)。 (2) 適用関係及び経過措置 (1)の取扱いについては、平成31年4月1日以後に終了する事業年度から適用されます(改正法附則12)。 ただし、経過措置として、仮想通貨信用取引のうち、経過事業年度終了の時において決済されていないものがある場合に、その経過事業年度の確定した決算において未決済仮想通貨信用取引におけるみなし決済損益額を収益又は損失として経理していないときは、その経過事業年度については、みなし決済損益額を益金の額又は損金の額に算入する規定を適用しなくてもよいこととされています(改正法附則19⑤)。 3 その他の改正事項~棚卸資産からの除外 令和元年度(平成31年度)税制改正では、仮想通貨について、棚卸資産や固定資産の範囲から仮想通貨が除外されるなどの整備が行われました(法法2二十、法令12)。例えば、最終仕入原価法による期末評価はできないということとなりますので、留意が必要です。 (連載了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第38回】 「「相続空き家の特例」を受けることができない被相続人居住用家屋の敷地等 (土地及び建物が同一の被相続人からの相続により取得したものでない場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、10年前に死亡した父親から相続した居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)を、昨年2月に死亡した母親からの敷地相続後に取り壊し、その敷地を更地にして、本年11月に5,400万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、母親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 土地及び建物共に、同一の被相続人からの相続により取得したものでなければ、「相続空き家の特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、当該相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の取壊し等をした後における当該相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡に適用されます(措法35③二)。 したがって、本事例の場合、その居住用家屋は父親から相続したものであり、その敷地は母親から相続したものであるため、同一の被相続人からの相続により取得したものでないことから、本特例の適用を受けることができません。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q49】 「株式交付信託による取得株式を譲渡した場合の税務手続」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 株式交付信託を通じて取得した株式の取得価額 株式交付信託(キーワード参照)を利用したインセンティブプランを導入する企業は、委託者となって信託銀行との間で信託契約を締結し、将来、自社の役員又は使用人(以下、「対象者」といいます)に交付する株式を管理するための信託を設定します。この信託は、税務上の受益者等課税信託として設定され、対象者に対して株式を交付するまでの間は、受益者は存在せず、委託者が税務上のみなし受益者となって、信託財産を保有するものとして取り扱うのが一般的です。 このインセンティブプランの対象者は、個人の業績等に応じて会社から株式交付に係るポイントを付与され、一定期間後にそのポイント数に応じた数の株式の交付を受けます。この交付に際しての当該信託に係る手続きとしては、当該対象者を信託の受益者として確定し、当該受益者に対する信託財産の分配として、株式を交付することになります。 対象者に対する所得課税のタイミングという観点では、ポイント付与時か株式交付時のいずれであるかを検討する必要があります。インセンティブプランの設計によりますが、将来、退職等の事実が生じる場合等にポイントが消滅する可能性があるということであれば、ポイント付与時点では株式の交付を受けることが確定しているわけではないことから、課税関係は生じないものと考えられます。 この場合、実際に株式の交付が確定した際(実務上は、信託契約等で定められた受益権の帰属が確定する日)に所得の発生を認識し、交付を受ける株式の時価をベースに給与所得(退職を基因として株式の交付を受ける場合には、退職所得)として課税することとなります。したがって、当該株式の取得価額は、所得課税のベースとなる金額と同額の、交付時の時価であるものと考えられます。 2 一般口座と特定口座 株式交付信託を通じて交付される株式が上場株式である場合には、証券会社で保管する口座は、一般口座の他、特定口座を利用することも可能です。特定口座を利用する場合には、株式の交付を受ける段階で、対象者が自己の口座を指定する必要があります。 一般口座で保管する場合には、上場株式の譲渡益は申告分離課税の対象となり、確定申告することとなります。譲渡損失が生じる場合には、上場株式等に係る配当所得等との損益通算や譲渡損失の繰越控除の適用も可能です。 一方、特定口座で保管し、源泉徴収を選択する場合には、原則として、確定申告は不要となりますが、源泉徴収を選択しない場合や、選択していても特定口座内で譲渡損失が生じ、その口座外の上場株式等に係る譲渡所得等の金額や配当等の金額と通算する場合には、確定申告する必要があります。 3 本件へのあてはめ まずは、株式の交付を受けた際に、当該株式を保管する証券会社の口座が、一般口座なのか特定口座なのかを確認する必要があります。特定口座で源泉徴収を選択する場合は、原則として確定申告を要しませんが、それ以外は確定申告する必要があります。 確定申告をする際の譲渡所得の計算にあたっては、株式の交付を受けた日の時価の情報が必要です。これは、株式に係る給与所得の収入金額と同額であるため、勤務先から通知される金額を参照することになります。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第16回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 (5) 収益認識会計基準との比較検討 法人税法22条の2第1項は、収益の計上時期(時間的帰属)の規範を定めたものであり、法人税法における資産の販売等に係る収益の計上時期を決する原則的な基準として、引渡・役務提供基準を採用している。 これに対して、収益認識会計基準は、収益の認識時期のルールについて、履行義務充足基準ともいうべき基準を採用している。すなわち、収益認識会計基準においては、収益を認識するために5つのステップが設けられており、そのステップ5では、履行義務の充足による収益の認識配分の作業を行うこととしている。つまり、約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識するのである(本連載第1回参照)。 引渡・役務提供基準と履行義務充足基準は、内容的に同一のものであろうか、あるいは別のものであろうか。法人税法22条の2第1項は、引渡・役務提供基準に基づいて収益を計上することを定めている。その文面上、履行義務充足基準を定めたものではなく、収益認識会計基準をそのまま取り込むものではないことは明らかである。近接日基準の採用を認める法人税法22条の2第2項についても同様のことがいえる。 履行義務充足基準を、例えば、資産に対する支配の顧客への移転基準(基準39、40参照)として表現し直してみても、同様である。すなわち、収益認識会計基準は、「一定の期間にわたり充足される履行義務」に係る収益の認識について、次のように定めている。 そして、一時点で充足される履行義務に係る収益認識について、次のとおり、上記(1)から(3)の要件のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、「資産に対する支配を顧客に移転」することにより当該履行義務が充足される時に収益を認識する、としている(基準39)。 この場合の「資産に対する支配」とは、「当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)」をいい、このことを考慮して、「資産に対する支配を顧客に移転」した時点を決定することとされている(基準40前段)。 また、支配の移転を検討する際には、例えば、次の①~⑤の指標を考慮することとされている(基準40後段)。 上記のうち、差し当たり②、③、⑤を念頭に置くと、収益認識会計基準が採用する履行義務充足基準と法人税法22条の2第1項が採用する引渡・役務提供基準とは、内容的に似通ったものではないか、両者の距離はさほど離れていないのではないか、という見立ても生まれてくるが、少なくとも文面上は同一の基準ではないことは明白である。 いずれにしても、かかる収益認識会計基準との関係については、第Ⅳ部で更に検討することとしたい。 なお、企業会計認識基準でいう「財」又は「サービス」と法人税法22条の2でいう「資産」又は「役務の提供」の範囲が完全に一致するかという論点もある。 (了)