《速報解説》 民法改正(相続関係)、中間試案後の審議を経て 「追加試案」がパブコメに付される ~配偶者の相続分引上げは見送り、最高裁判決受け預貯金債権の仮払い制度創設へ Profession Journal編集部 このほど法務省は8月1日付けで「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」を公表、パブリックコメントに付された(意見募集は9月22日まで)。 〇中間試案後の法制審議会審議を経て 法制審議会民法(相続関係)部会において審議が続けられてきた民法(相続関係)等の改正については、昨年(平成28年)7月12日から9月30日にかけ「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」としてパブリックコメントが行われたのは既報のとおり。 その後、寄せられた意見を踏まえ審議会における議論が再開されたが、特に反対意見の多かった一定条件下における配偶者の相続分の引上げについては別の方策を検討することとなり、また、中間試案にも掲げられていた預貯金債権の遺産分割をめぐっては最高裁決定(平成28年12月19日)が行われるなど本改正をめぐる状況も変化したことから、今回の追加パブコメ公表となった。 今後の予定としては、追加試案のパブコメ結果を踏まえ10月よりさらに審議会における調査審議を行い、本年末又は来年初めに要綱案の取りまとめを目指すとされており、来年中の民法等改正法案の国会提出も予測される。 〇意見募集の対象は「追加された方策」のみ まず今回の追加試案の位置づけを確認しておきたい。 追加試案は改正試案について改めて全面的な意見募集を行うものではなく、中間試案後の審議からその内容が大きく変更された箇所のみを対象としている。改正試案の全体像については法制審議会民法(相続関係)部会第23回会議で調査審議された「要綱案のたたき台(2)」で確認することができるが、追加試案として意見募集の対象となるのは、次のうち下線部分となる。 なお、追加試案にも中間試案パブコメ時と同様、見直しの趣旨や経緯を説明した「補足説明」が公表されており、そちらも合わせて読んでおきたい。 (※) 法務省ホームページより 〇配偶者へ贈与等された居住用不動産の持戻し免除 「第2 遺産分割等に関する見直し」について、中間試案では、一定の条件下(婚姻後の資産の増加割合、婚姻期間等)における配偶者の相続分の引上げが掲げられていた。ただし上述のとおり反対意見が多く寄せられたため配偶者の貢献を相続の場面で評価することには限界があるとし、残された配偶者の生活を保障するという方向性自体は必要としつつ、見直しの方策についてはその内容が大幅に変更されている。 まず、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が配偶者に対し、居住用の土地・建物の全部又は一部を遺贈又は贈与したときは、民法903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定し、当該居住用不動産の価額は特別受益として扱わず、遺産分割の計算対象から除外される。 (※) 居宅兼店舗については不動産の構造や遺言の趣旨等によるとし本試案では明記せず。 税制上ではすでに贈与税についての配偶者控除(相法21の6)が存置されているが、民法においても手当てされるかたちとなる。 〇預貯金債権の仮払い制度を創設 平成28年12月の最高裁決定により預貯金債権が遺産分割の対象であることが明確化されたことで、今後は共同相続人全員の同意を得ることができない場合に預貯金債権の払戻しを受けることができず、被相続人が負っていた債務の弁済や、被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費について問題が生じるおそれがある。 このため「第2 遺産分割等に関する見直し」では、一定の条件・制約下で遺産に属する預貯金債権の全部又は一部を仮に取得することができる仮払い制度の創設が織り込まれた。 仮払い制度には①家庭裁判所への申立てによる方策(現行の家事事件手続法における保全処分の要件を緩和したもの)と②家庭裁判所の判断を経ず単独で預貯金の払戻しを受ける方策が示されており、②の場合には払戻し額に上限(以下の計算式による額)が設けられている。 その他「第2 遺産分割等に関する見直し」では、共同相続人による遺産の一部分割に係る規律の明文化や、共同相続人の1人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の規律などが織り込まれており、また「第4 遺留分制度に関する見直し」においても、中間試案における提案内容から現物給付に関する規律が大きく変わっていることから、あらためてパブリックコメントの手続に付するとされている。 〇改正の全体像は 追加試案の補足説明によると「追加試案の内容以外の項目については中間試案から大きく変更はないことから、今回のパブリックコメントの対象とはなっていない」とされているものの、審議会で検討が進められている最新の改正試案では、中間試案において【甲案】【乙案】と両案併記されていた箇所がパブコメ後の審議会での議論を経て整理・集約されており、また民法等の改正条項を明示する等、要綱の取りまとめや民法等改正法案作成に向け、より具体的な内容へ固まりつつあることがわかる。 (※) 例えば自筆証書遺言の保管制度に関し、中間試案では保管を行う機関を「一定の公的機関」としていたが、現在の改正試案では「法務局」とされている。 なお、改正試案の全体については、上述した「要綱案のたたき台(2)」及び「補足説明(要綱案のたたき台(2))」において確認することができる。 このように、配偶者の短期居住権及び長期居住権、自筆証書遺言の方式緩和や保管制度、相続人以外の特別寄与者による各相続人への金銭請求権などは、中間試案から継続して織り込まれているため、今後の遺産分割協議に大きな影響を与える改正となることは間違いないといえよう。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2017年8月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.230を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第55回】 「税制調査会答申から租税法条文を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 租税法律主義は、国民が議会において決定したルールによってのみ租税負担を負うものとする憲法上の基本原理である。ここには、国民による「自己同意」という考え方が基礎にある。 議会制民主主義が採用されている我が国では、多数決原理によって国民の意見が議会に反映されるが、この点、国民の代表者である議員の意思のみで租税立法がなされているといえるであろうか。審議会制度や、行政官による立法案策定などの現状を踏まえれば、そうとは言えないことは一目瞭然であろう。 今回の連載では、租税法が定立される過程において機能する「審議会制度」に注目してみたい。審議会制度の存在やそこでの審議等が租税法の解釈にいかなる意味を有するのかという点に関心を置き、とりわけ、税制調査会での議論や答申といったものが、租税法の解釈に及ぼす影響を考えてみたい(国会における審議が租税法解釈に及ぼす影響については、前回までの連載を参照)。 なお、「税制調査会」といっても、例えば「自由民主党税制調査会」というような各政党内の税制調査会や、「与党税制調査会」というような呼称もあるが、本稿における「税制調査会」とは、原則として、「政府税制調査会」を指す。 Ⅰ 税制調査会とは 最初に、税制調査会に関する政令の規定を確認しておこう。 以下に示すとおり、税制調査会は、内閣府本府組織令33条を根拠法として設けられている審議会である。すなわち、税制調査会とは、内閣府に設けられた審議会であり、内閣の付属機関ということになる(※)。 (※) 税制調査会が、政府・自民党の「かくれみの」的存在となっていると批判する見解として、北野弘久『納税者の権利』73頁(岩波書店2011)。 このように、税制調査会は、内閣府本府組織令33条1項において、「内閣総理大臣の諮問に応じて租税制度に関する基本的事項を調査審議すること」を司ることが規定されているが、同条2項にいう税制調査会令もみてみよう。 〈税制調査会の機構〉 税制調査会の機構は上図のとおりであるが、税制調査会の事務局は、実質的に財務省主税局が執り行っている。すなわち、税制調査会独自の事務局は存在しないのである。 Ⅱ 代表者と社会との同質性 議会制民主主義の下で、代表者の決定事項に社会構成員である国民の自己同意があったといえるためには、当然ながら、かかる代表者が社会を代表した者であるという前提が必要である。 国会議員が社会構成員の代表者であるという点は問題がないとしても、現実として、すべての国会提出法案がかかる代表者による提案法案であるわけではない。もっとも、第三者が考案した法案であったとしても、国会審議を通じて国会議員によって十分に議論された内容であるとすれば、問題はなかろう。 他方、国会議員以外の者によって考案された法案が、国会において十分に議論されていないのであれば、形式的な面はともかくも、実質的に国民の自己同意があったといえるのかにつき疑問や不安が惹起されるところである。 租税法に限っていえば、国会に上程される法案のうち多くには、税制調査会において提案されたものもある。そして、上記にみたとおり、税制調査会は、国会議員によって構成されているわけではないし、ましてや、内閣府という行政組織の機関であるばかりでなく、その事務局は財務省主税局にあるのである。 そうであるからこそ、税制調査会における答申などが租税法規の解釈に影響を及ぼす可能性やその余地、程度について検証する必要があるのである。 Ⅲ 事例検討1―遡及課税問題― 上記のような問題関心を踏まえ、最高裁平成23年9月30日第二小法廷判決(集民237号519頁)の事例を確認してみたい。 この事例は、長期譲渡所得に係る損益通算を認めないこととした平成16年法律第14号(以下「改正法」という。)による改正後の租税特別措置法(以下「改正後措置法」という。)31条《長期譲渡所得の課税の特例》の規定を、施行日より前に個人が行う土地・建物等の譲渡に適用するものとする改正法附則27条1項が、憲法84条に違反するか否かが争われたものである。 1 事案の概要 (1) 事件の経緯 改正後措置法31条は、同条1項所定の長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除する損益通算を認めないこととし、同条の規定は平成16年1月1日以後に行う土地等又は建物等の譲渡について適用することとされた(改正法附則27①)。なお、改正法の施行日は同年4月1日であった。 平成16年2月26日にその共有する土地及び建物を譲渡する旨の売買契約に基づく代金を受領し、同年分の長期譲渡所得の金額の計算上損失を生ずるなどしたX(原告・控訴人・上告人)らは、改正法が、その施行日より前にされた土地等又は建物等の譲渡についても上記損益通算を認めないこととしたことは納税者に不利益な遡及立法であって、憲法84条に違反する等と主張し、損益通算を認めない税務署長の処分を不服として提訴した。 (2) 法改正の経緯 そもそも、改正前の措置法(以下「改正前措置法」という。)31条においては、所有期間が5年を超える土地等又は建物等を個人が譲渡(以下「長期譲渡」という。)した場合、これによる譲渡所得については他の所得と区分し、その年中の長期譲渡所得の金額から同条4項に定める特別控除額を控除した金額に対して所得税を課する分離課税を行うこととされ(旧措法31①)、その税率は20%とされていた(旧措法31②)。 他方、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合には、その金額を他の各種所得の金額から控除する損益通算が認められていた(旧措法31⑤二、所法69①。以下、この損益通算を「長期譲渡所得に係る損益通算」という。)。 これに対し、改正後措置法31条においては、長期譲渡所得に係る所得税の税率が15%に軽減される一方で、上記特別控除額の控除が廃止され、また、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合には、当該損失の金額は生じなかったものとみなすとされ、長期譲渡所得に係る損益通算は認められないこととなったのである(措法31①、③二。以下、この損益通算の廃止を「本件損益通算廃止」という。)。 なお、改正法は平成16年4月1日から施行されたが、上記のとおり、同条の規定は同年1月1日以後に行う土地等又は建物等の譲渡について適用することとされたのである(改正法附則27①。以下、同項の規定のうち本件損益通算廃止に係る部分を「本件改正附則」という。)。 (3) 具体的事実 次に具体的事実を確認したい。 (4) 問題点 さて、上記事実のように、税制調査会答申には損益通算を廃止することが掲載されておらず、その後の自民党の税制改正大綱を受けた報道はあったものの、大々的な報道とはとても言えない状況下で、損益通算が許されると理解してなした譲渡に対して損益通算を認めず、いわば遡及的な課税がなされたともみえる本件は、租税法律主義に反することにはならないのであろうか。 (続く)
〈あらためて確認したい〉 「相続時精算課税制度」適用上の留意点 税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 角田 壮平 ◆ は じ め に ◆ 相続時精算課税制度(相法21の9、措置法70の2の6)は、高齢者の保有する財産を早期に若い世代に移転し、その移転財産の有効活用を通じて経済社会の活性化を資することを趣旨として平成15年に創設された生前贈与の制度である。 当該制度の創設時から平成27年までの適用人員及び取得財産価額は下記の通りである。 (※) 国税庁資料を元に筆者作成。 平成19年をピークとして逓減しているものの、近年でも毎年5万件程度の適用件数があり、6,000億円前後の財産が相続時精算課税制度により次世代に移転している。 この制度が創設されて15年弱が経過し、長寿化・高齢化等社会情勢も変化していることから、本稿では今一度、この制度について税理士が特に留意すべき点を贈与時と相続税申告時とに時点を分けて確認していきたい。 1 贈与時の留意点 (1) 顧客に対するリスク・デメリットの説明及び共有 「相続時精算課税による贈与を実行したい」と顧客から言われた場合や税理士から相続時精算課税による贈与を提案する場合においては、顧客に対し相続時精算課税のリスクやデメリットについて丁寧に説明し、お互いにそれらを共有することが必須となる。 下記に相続時精算課税を選択したことによるリスクやデメリットを再確認したい。 (2) みなし贈与による相続時精算課税の適用 民法上の贈与契約は成立していないが実質的に贈与と同様の経済効果が生じる場合には贈与により取得したものとみなして贈与税を課税する、すなわち「みなし贈与」(相続税法第5条~9条の5)についても相続時精算課税の適用は可能である。このことから、暦年贈与課税とすると過大な贈与税負担となるような場合に、相続時精算課税の選択をすることも一案となる。 例えば、時価(=相続税評価額)5,000万円の不動産を子に2,000万円で譲渡した場合、低額譲渡として時価と対価の差額3,000万円がみなし贈与の対象となる。暦年贈与課税であれば1,000万円強の贈与税負担となるが、相続時精算課税を選択すれば100万円の贈与税負担とすることができる。 もちろん、将来の相続時に精算する必要は生じるが、一時的な多額のキャッシュアウトは回避することができる。 (3) 期限後申告となる場合 相続時精算課税の特別控除2,500万円を適用するためには期限内申告が要件となる。これには宥恕規定も設けられていないため注意が必要だ。 仮に、期限後申告となった場合には贈与財産の評価額に20%を乗じた贈与税を納める必要がある。なお、期限後申告の場合には特別控除を使っていないため翌年度以降に特別控除枠を繰り越すことは可能である。 2 相続税申告時の留意点 (1) 相続税法第49条の閲覧請求 相続時精算課税制度が創設されて15年弱が経過しているが、相続税申告実務を担当していると、相続人が相続時精算課税贈与による申告書等の控えを紛失してしまっているケースが多々ある。 このような場合に活用したいのが、相続税法第49条の閲覧請求である。 開示請求書に一定の事項を記載し、戸籍謄本等を添付することにより、請求から2ヶ月以内に下記のような開示書が発行される。 〈相続税法第49条第1項の規定に基づく請求に対する開示書〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 請求者本人は開示対象者とはならないため他の相続人から開示請求してもらう必要がある。なお、当該開示請求以外に過去に自身がした申告内容等を確認する手続きとして、申告書等閲覧サービス(事務運営指針)も存在するが、筆者の経験上、開示請求の方が、手続きが簡便であると考える。 ちなみに、当該開示請求は、争い案件等で他の相続人等の生前贈与財産の相続財産への加算額が不明であると正確な相続税計算が行われなくなるため、当該加算額の情報を税務署長から開示することにより相続税の正確な計算を資することが本来の趣旨といえる。 (2) 相続時精算課税と除斥期間 相続時精算課税を選択した後に、特定贈与者から1,000万円の資金移動があったが、贈与税の申告を失念して10年が経過したとする。この場合には贈与税の除斥期間が経過しているため、相続時精算課税に係る贈与税の期限後申告は不可能となる。 ただし、特定贈与者の相続税申告上、当該1,000万円については、課税価格に算入する必要がある。もし、相続時精算課税を適用していない場合において、当該資金移動につき贈与が成立しているときは、この1,000万円は相続財産を構成しない。しかし、相続時精算課税を適用した場合には適用後に係る過去の贈与はすべて相続財産を構成することとなるため、1,000万円は相続財産に含めることとなる。 (3) 住宅取得等資金の贈与 相続税申告実務を担当していると、旧措置法70の3の2(住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例)の適用を受けている相続人が稀に存在する。 当該特例は平成21年12月31日に廃止されているが、相続時精算課税の特別控除の特例として、通常の特別控除2,500万円とは別枠で住宅取得等資金に限り1,000万円の上乗せが認められていた制度だ。 この特例に関連し相続税申告上留意すべきなのが、相続財産への持戻しである。 措置法70の2(直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税)については持戻しの必要はないが、旧措置法70の3の2の上乗せ部分1,000万円については相続財産に加算する必要があるので失念しないように注意したい。 (了)
平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第5回】 「[設備種別]適用税制の選択ポイント①(機械装置)」 アースタックス税理士法人 代表社員 税理士 島添 浩 シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志 【第5回】から【第10回】にわたっては、青色申告法人(連結法人を除く)における設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイント及び具体的な申告実務上の留意事項を確認する。 なお、各税制の概要や適用手続き等については、【第1回】から【第3回】までを参照願いたい。 それでは今回【第5回】は、機械装置について紹介する。 1 選択ポイント 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制の主なポイントは下記のとおりである。 【機械装置における適用税制一覧表】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 上記税制以外に、【第4回】で確認した「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」が平成29年7月31日から適用開始されている。 承認地域経済牽引事業に係る承認地域経済牽引事業計画に従って、特定地域経済牽引事業施設等の新設又は増設をするような場合には、当該税制の検討も要する。 機械装置においては、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は対象外となるため、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の選択となる。 【第2回】及び【第3回】で確認したとおり、中小企業経営強化税制は、原則として機械装置を取得する前に一定の手続きを要するため、事前準備を行う必要があるが、中小企業投資促進税制に比べ特別償却、税額控除ともに有利な制度になっている。 特に設備投資が多額になることが想定される製造業の機械装置については、中小企業経営強化税制の選択を考慮に入れた事業計画を立てる必要があると思われる。 2 申告実務上の留意事項 1により選択した税制について、具体的な申告実務を確認していく。なお、特別償却又は税額控除は法人税関係特別措置の適用となるため、これから確認する下記添付書類以外にも適用額明細書の添付が必要なことに注意したい。 (1) 特別償却 ① 中小企業投資促進税制 中小企業投資促進税制により特別償却を選択適用した場合には、特別償却の付表(2)(中小企業者等又は中小連結法人が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表)を記載し、該当する別表16とともに確定申告書等に添付して提出する必要がある。 なお、所有権移転外リース取引により取得した特定機械装置等について、特別償却の適用は受けることができない。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 商業・サービス行・農林水産業活性化税制により特別償却を選択適用した場合には、特別償却の付表(7)(特定中小企業者等又は特定中小連結法人が取得した経営改善設備の特別償却の償却限度額の計算に関する付表)を記載し、該当する別表16とともに確定申告書等に添付して提出する必要がある。 なお、所有権移転外リース取引により取得した経営改善設備について、特別償却の適用は受けることができない。 ③ 中小企業経営強化税制 中小企業経営強化税制により特別償却を選択適用した場合には、特別償却の付表(8)(中小企業者等又は中小連結法人が取得した特定経営力向上設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表)を記載し、該当する別表16とともに確定申告書等に添付して提出する必要がある。 なお、所有権移転外リース取引により取得した特定経営力向上設備等について、特別償却の適用は受けることができない。 ④ 特別償却準備金方式 特別償却の適用を受けることに代えて、特別償却限度額以下の金額を剰余金の処分により特別償却準備金として積み立てた場合には、上記①から③の特別償却の付表の他に別表16(9)(特別償却準備金の損金算入に関する明細書)も記載して添付する必要がある。 (2) 税額控除 ① 中小企業投資促進税制 中小企業投資促進税制により税額控除を選択適用した場合には、別表6(12)(中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)を記載し、確定申告書等に添付して提出する必要がある。 なお、所有権移転外リース取引により取得した特定機械装置等について、税額控除の適用は受けることができる。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 商業・サービス業・農林水産業活性化税制により税額控除を選択適用した場合には、別表6(21)(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)を記載し、確定申告書等に添付して提出する必要がある。 なお、所有権移転外リース取引により取得した経営改善設備について、税額控除の適用は受けることができる。 ③ 中小企業経営強化税制 中小企業経営強化税制により税額控除を選択適用した場合には、別表6(22)(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)を記載し、確定申告書等に添付して提出する必要がある。 なお、所有権移転外リース取引により取得した特定経営力向上設備等について、税額控除の適用は受けることができる。 3 具体例(特別償却、税額控除) 今回は、特別償却を選択した場合と税額控除を選択した場合を確認する。 - 前 提 - 金属製品製造業を営む青色申告法人である内国法人甲社(資本金3,000万円、発行済株式の総数1,000株、従業員の数20人、大規模法人に株式を所有されていない)は、当期(平成29年4月1日から平成30年3月31日)において、圧造機械(金属製品製造業用設備・その他の設備)を取得し、事業の用に供した。なお、償却方法については、定率法を選定し届け出ている。 【機械装置(圧造機械)の詳細】 取得価額:50,000,000円 法定耐用年数:10年 (定率法償却率:0.200、改定償却率:0.250、保証率:0.06552) 取得日:平成29年10月10日 事業供用日:平成29年10月25日 普通償却費:5,000,000円 普通償却限度額:5,000,000円 (1) 特別償却を選択適用した場合 ① 中小企業投資促進税制 特別償却費として15,000,000円を損金経理しているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 機械装置については、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 特別償却費として45,000,000円を損金経理しているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (2) 税額控除を選択適用した場合 ① 中小企業投資促進税制 調整前法人税額は34,428,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 機械装置については、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 調整前法人税額は34,428,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 * * * 次回【第6回】では、ソフトウェアについての選択ポイント及びその具体例を確認していく。 (了)
〈平成29年度改正対応〉 所得拡大促進税制の実務 【第5回】 「組織再編が行われた場合の取扱い(その1:合併)」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 所得拡大促進税制に関する規定の中で最も難解なのは、組織再編が行われた場合の取扱いであろう。 すなわち、合併や分割等の組織再編が行われた場合には、企業規模が著しく変動することとなるため、所得拡大促進税制の適用要件の判定に用いられる「基準雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」について一定の調整計算が行われるところ(措法42の12の5⑤)、関連する計算規定に係る条文のボリュームが大きく、読み込みにはかなりの困難を伴うと思われる。 そこで本連載の残り2回にわたり、組織再編が行われた場合の取扱いについて、全体像を示しながら解説する。 2 全体像 まず、組織再編が行われた場合の取扱いに関する条文がどのように配置されているかを整理する。 所得拡大促進税制の適用上、一定の調整計算の対象となる組織再編は以下の通りである。 そして、それぞれの組織再編形態ごとに、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額の調整計算について定められている。 さらに、かかる調整計算は、「適用年度に行われた組織再編」と「基準事業年度開始日から適用年度開始日の前日までに行われた組織再編」のそれぞれについて定められている。これは、組織再編が行われた年度と、それ以降の適用年度で調整計算すべき額が異なるからである。 以上を踏まえ、調整計算に関する条文がどのように配置されているかをマッピングすると下表のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 以下、それぞれの組織再編形態ごとに、調整計算の内容について解説する。 3 合併が行われた場合の調整計算 合併が行われた場合には、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額の調整計算上、被合併法人におけるそれぞれの金額を加味することとなる。 (1) 適用年度に吸収合併が行われた場合 適用年度に吸収合併が行われた場合、合併日の属する月以後、被合併法人から引き継いだ従業者に対する給与等支給額が加味されて、雇用者給与等支給額が大きく増加することとなる。 そこで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額についても、合併日の属する月から事業年度末までの月数について、被合併法人におけるそれぞれの事業年度(※1)に係る給与等支給額を加算する調整を行うことで、適切な大小比較を可能とする(計算のイメージは下図を参照されたい)。 (※1) 調整計算の対象となる基準事業年度及び前事業年度のことを、条文上は「調整対象基準年度」及び「調整対象前年度」と称している。 この図より一目瞭然であるが、合併後の雇用者給与等支給額の水準(上図③)と同じような図形になるように、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額を調整していることがイメージできれば、理解も早まると思う。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑥一)。 ・合併法人の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・被合併法人の調整対象基準年度における月別給与等支給額を合計した金額(上図④)に、当該合併の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額(上図では「÷12」としている) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑫一)。 ・合併法人の調整対象前年度における給与等支給額(上図②) ・被合併法人の調整対象前年度における月別給与等支給額を合計した金額(上図⑤)に、当該合併の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額(上図では「÷12」としている) この点に関し、被合併法人の給与等支給額として加算調整すべき金額の計算上、単純に被合併法人の基準雇用者給与等支給額ないし比較雇用者給与等支給額を用いるのではなく、「月別給与等支給額を合計した金額」を用いている点に留意が必要である。 「月別給与等支給額」とは、その合併に係る被合併法人の各事業年度の給与等支給額をそれぞれ当該各事業年度等の月数で除した金額を当該各事業年度等に含まれる月に係るものとみなしたものをいう(措令27の12の5⑦)。年度内の月別給与等支給額を合計すれば当然、年間の給与等支給額と一致する。 あえてこのような計算をさせているのは、上図の「合併~期末までの月数」に係る給与等支給額として、被合併法人の各月の支給実績額をそのまま用いるとすると、給与等支給額の月別変動が含まれて適切な判定ができない可能性があるためである。 そこで、給与等支給額の月別変動を排除するために、いったん月平均額としての「月別給与等支給額」を算定した上で、これを合計するという手順を踏んでいるのである(下図参照)。 (2) 基準年度開始の日から適用年度開始日の前日までに吸収合併が行われた場合 適用年度は年度を通じてすべて合併後の規模で給与等支給額が発生することとなるが、引き続き、基準年度及び前年度の給与等支給額について調整が必要となる(下図参照)。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑥二)。 ・合併法人の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・被合併法人の調整対象基準年度における月別給与等支給額を合計した金額(上図④) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 調整対象前年度において合併が行われている場合(※2)、以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑫二)。 ・合併法人の調整対象前年度における給与等支給額(上図②) ・被合併法人の調整対象前年度における月別給与等支給額を合計した金額(上図⑤) (※2) 調整対象基準年度開始の日から調整対象前年度開始の日の前日までに合併が行われている場合(上図⑤が存在しない場合)には、調整対象前年度においても、年度を通じて合併後の規模で給与等支給額が発生することとなるため、特段の調整は不要である。 (3) 適用年度に新設合併が行われた場合 新設合併の場合には、合併法人は合併により成立するため、前年度以前の給与等支給額は発生していないが、合併に係る被合併法人の給与等支給額に基づき、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額を計算することとなる。 また、適用年度は合併日から開始するため、通常の事業年度よりも短いことが一般的である。この場合、基準事業年度及び比較事業年度と適用年度の月数が異なることとなるため、その調整も必要となるので留意が必要である(措法42の12の5②四ロ・六ロ。詳細は【第1回】を参照)。 新設合併に特有の取扱いとして、当該合併に係る被合併法人のうち、どの被合併法人の給与等支給額を基礎として合算調整を行うかを決定する必要がある。対象となる被合併法人を「基準被合併法人」といい、被合併法人のうち当該合併の直前の時における資本金の額又は出資金の額が最も多いものをいう(措令27の12の5⑥三)。 そのうえで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額は以下のように調整される。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑥三)。 ・基準被合併法人の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・基準被合併法人以外の被合併法人の調整対象基準年度における月別給与等支給額を合計した金額(上図④) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑫三)。 ・合併法人の調整対象前年度における給与等支給額(上図③) ・被合併法人の調整対象前年度における月別給与等支給額を合計した金額(上図⑥) 調整対象前年度は、基準被合併法人の適用年度開始日から合併の日の前日までとなっている点に特に留意されたい。 (4) 基準年度開始の日から適用年度開始の日の前日までに新設合併が行われた場合 この場合には、合併法人として前事業年度が存在するため、比較雇用者給与等支給額については特段の調整は必要とされず(ただし、前年度と適用年度の月数が異なる場合の調整は必要)、基準雇用者給与等支給額についてのみ調整計算が定められている。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑥三)。 ・基準被合併法人の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・基準被合併法人以外の被合併法人の調整対象基準年度における月別給与等支給額を合計した金額(上図③) 【比較雇用者給与等支給額】 特段の調整はない(上図⑤)。この点に関し、適用年度と前事業年度の月数が異なる場合には、月数補正の調整が必要となる。 (了)
平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】 「中小企業者向け租税特別措置の適用法人の制限、災害特例措置」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [8] 震災・災害に関する税制措置の整備 震災・災害に関する税制措置の常設化として、単体納税と同様に、次の制度が創設された。 1 被災代替資産等の特別償却制度(新措法68の18) 連結法人が、特定非常災害発生日の翌日以後5年を経過する日までの間に、被災代替資産等を取得等し、被災区域内等において事業の用に供した場合に、一定の割合の特別償却を認める制度。 この改正は、平成29年4月1日以後開始する連結事業年度から適用される(平成29年所法等改正法附則1、61)。 2 災害損失欠損金額に係る連結欠損金の繰戻還付制度(新法法81の31⑤) 連結法人で災害が発生した場合に、災害が発生した日 (発災日)から1年を経過する日までの間に終了する各連結事業年度、あるいは、発災日から6月を経過する日までの間に終了する中間期間において生じた災害損失欠損金額 (連結欠損金額のうち、各連結法人の災害により棚卸資産・固定資産等について生じた損失の額の合計額に達するまでの金額) がある場合に適用される連結欠損金の繰戻還付制度。 なお、ある連結法人で災害により棚卸資産・固定資産等について損失が発生し、その連結法人で個別欠損金額が生じた場合でも、連結欠損金額が生じない場合は、この制度は適用できない。 この改正は、平成29年4月1日から施行されており、同日から請求が可能となる(平成29年所法等改正法附則1)。 ただし、平成29年4月1日前1年以内に終了した連結事業年度に係る連結確定申告書を同日前に提出した場合において、その連結事業年度において生じた災害損失欠損金額について、平成29年4月30日までに還付請求を行った場合、特例として、この制度の適用を受けることができる(平成29年所法等改正法附則1、26)。 [9] 中小企業者向け租税特別措置の適用法人の制限 1 現行の連結納税の中小企業者向け租税特別措置の適用法人 連結納税では、連結親法人又は連結子法人が中小連結法人に該当する場合(注1)に、例えば、以下のような中小企業者向け租税特別措置の適用を受けることができる。 (注1) ※1については、連結親法人が中小連結法人に該当する場合に優遇措置を適用することが可能となり、※2については、各連結法人ごとに、中小連結法人に該当する場合に優遇措置を適用することが可能となる。 また、住民税についても、例えば、以下の租税特別措置について、連結親法人又は連結子法人が中小連結法人に該当する場合(注2)、各連結事業年度の個別帰属法人税額の計算上、法人税における税額控除額の個別帰属額を個別帰属法人税額から控除することができる(新地方税法附則8③④⑥⑧⑩⑫⑭、新地法23①四の三、292①四の三)。 (注2) ※3については、中小連結親法人又は当該中小連結親法人との間に連結完全支配関係がある連結子法人について、住民税において優遇措置を適用することが可能となる。※4については、そもそも適用対象者が中小連結法人に該当する場合に法人税において税額控除が適用できるため、法人税において税額控除が生じた場合は、そのまま住民税においても優遇措置を適用することが可能となる。 ここで、中小連結法人及び中小連結親法人の定義は、【第3回】「3 研究開発税制の見直し」の(2)を参照。 2 改正後の連結納税の中小企業者向け租税特別措置の適用法人 中小企業者向けの租税特別措置について、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、連結親法人又は連結子法人が適用除外事業者に該当する場合、その適用を停止する措置を講ずることとなった。 例えば、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、連結親法人が適用除外事業者に該当する場合、中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(総額型の上乗せ措置)が適用できないこととなる(新措法68の9③⑧五の二、平成29年所法等改正法附則75③)。 また、現行、適用期限が平成30年3月31日又は平成31年3月31日までとなっている中小企業者向けの租税特別措置(所得拡大促進税制、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、商業・サービス業活性化税制等)についても、今後、適用期限が延長された場合は、研究開発税制と同様に、適用除外事業者の適用停止について規定されることが予想される。 なお、制限の対象になるのは中小企業者向け租税特別措置であり、中小法人等に対する優遇措置(軽減税率15%、連結欠損金の100%控除、連結欠損金の繰戻還付、交際費の定額控除限度額などの優遇措置)について、その取扱いに変更はない。 3 適用除外事業者とは 適用除外事業者とは、平均連結所得金額(前3連結事業年度の連結所得金額の平均)が15億円を超える連結親法人及びその連結子法人をいう(新措法68の9⑧五の二)。 平均連結所得金額とは、当連結事業年度開始の日前3年以内に終了した各連結事業年度(基準年度)の連結所得の金額の合計額を各基準年度の月数の合計数で除し、これに12を乗じて計算した金額をいう(新措法68の9⑧五の二)。 この場合、連結所得の金額は、法人税申告書別表1の2(1)の[1]欄に記載する連結所得金額となる。つまり、連結欠損金を繰越控除した後の連結所得の金額となる。 また、次に掲げる事由がある場合、平均連結所得金額は次のとおりとなる(新措法68の9⑧五の二、新措令39の39⑫~⑯)。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第6回】 「「相続空き家の特例」を受けられない家屋④ (賃借人や同居人がいた場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年3月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年10月に3,700万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、1階で父親が1人で暮らし、その2階には父親の知人が暮らしていました。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 相続の開始の直前において、取り壊した被相続人のその居住用家屋に、被相続人以外に居住していた者がいたことから、「相続空き家の特例」を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 被相続人居住用家屋が、「相続空き家の特例」の対象家屋に該当するためには、「当該相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」、すなわち、その相続の開始の直前において、その家屋に被相続人が1人で居住していたことが要件の1つとして規定されています(措法35④三)。 そして、この要件が規定するところの「被相続人以外に居住をしていた者」とは、相続の開始の直前において、被相続人の居住の用に供していた家屋を生活の拠点として利用していた者のことをいい、その被相続人の親族のほか、賃貸等によりその被相続人の居住の用に供されていた家屋の一部に居住していた者も含まれるとされています(措通35-12(「被相続人以外に居住をしていた者の範囲」))。 したがって、本事例のように、被相続人の知人などが被相続人の居住用家屋の一部を借り受けるなどして被相続人とは独立して居住していて、被相続人とは同居していないとしても、被相続人の居住の用に供されていた家屋の一部を生活の拠点としている者も含まれることから、「当該相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者」がいた場合には、「相続空き家の特例」を受けることができないこととなります。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第10回】 「農地の固定資産税」 税理士 島田 晃一 今回は農地の固定資産税の計算について解説を行う。固定資産税は、納税者が申告するのではなく市町村から賦課される税金であるため、その計算方法について意外と理解されていない部分がある。そのため、改めて基本的な計算方法について確認をしておきたい。 1 一般農地の固定資産税の計算 固定資産税額は「課税標準額×税率(1.4%)」により計算される。課税標準額は固定資産税評価額を基準として計算する。固定資産税評価額は3年ごとに評価替えが行われており、次回は平成30年度になる。 固定資産税評価額の算定上、農地は「一般農地」と「市街化区域農地」に区分され、それぞれ評価額及び課税標準額の計算が異なる。一般農地は、その農地の売買価格や収益力を基準に評価額が決められているが、その評価額は宅地と比較して非常に低くなっている。 具体的には、各市町村内において田畑の別に状況類似地区を定め、その地区内の農地から標準田又は標準畑を選定する。当該地区内の農地の評価額は標準田又は標準畑の価額に比準して計算される。標準田又は標準畑の価額は「正常売買価格」といい、当該地区内の農地の売買実例等に基づいて定められるが、農地ごとの収益力の差を考慮し、正常売買価格に0.55の割合を乗じて評定されることになっている。 一般農地の課税方法は農地課税といい、当年の課税標準額を「前年度課税標準額×負担調整率」により計算する。 負担調整率の算定にあたっては、その年度の固定資産税評価額に対し、前年における課税標準額がどのくらいの割合にあるかを求める必要がある。これを「負担水準」という。 平成29年度の負担水準の計算式及び負担調整率表は次のとおりである。 〈平成29年度の負担水準〉 〈負担調整率表〉 例えば、平成28年度の課税標準が50万円、平成29年度の負担水準が85%の一般農地の場合、負担調整率は1.05になるので「50万円×1.05=52万5,000円」が平成29年度の課税標準額となる。なお、負担調整率を適用した金額が固定資産税評価額を超えた場合には、固定資産税評価額が課税標準額になる。 2 市街化区域農地の固定資産税の計算 市街化区域農地については、「三大都市圏の特定市の市街化区域農地」と、それ以外の市街化区域農地(「一般市街化区域農地」)に区分される。いずれも将来宅地に転用されることが見込まれるため、宅地並み評価といい宅地に準じた評価額となっている。 三大都市圏の特定市の市街化区域農地の税額計算は宅地並み課税といい、一般住宅用地と同じ計算方法を採っている。ただし、生産緑地指定を受けている農地については、評価額及び計算方法とも一般農地と同様になる。 計算方法は、まず一般農地と同様に負担水準を求める。平成29年度の負担水準の計算式は次のとおりである。 課税標準額の計算は、前述した農地課税と異なる。具体的には、負担水準が100%以上のときは、「固定資産税評価額×1/3」が課税標準額になり、負担水準が100%未満のときは、前年の課税標準額に「固定資産税評価額×1/3×5%」を追加した金額が課税標準額になる。 ただし、その金額が「固定資産税評価額×1/3」を上回る場合は「固定資産税評価額×1/3」が、「固定資産税評価額×1/3×20%」を下回るときは「固定資産税評価額×1/3×20%」が課税標準額になる。 一般市街化区域農地の計算方法は、宅地並み課税ではなく、農地課税になる。ただし、負担水準を求める際の計算は、三大都市圏の特定市の市街化区域農地と同様に、分母について固定資産税評価額に3分の1を乗じた金額になる。 ここまでの説明をまとめると、下図のようになる。 【参考図】 (※) 農林水産省ホームページより 3 都市計画税の概要 都市計画税は、都市整備の財源に充てるために、各市町村が市街化区域にある土地及び建物について課税するものである。税率は0.3%を限度として各市町村が設定する。 都市計画税の課税標準額の計算方法は、原則として固定資産税と同様である(三大都市圏の特定市の市街化区域農地は宅地並み課税、一般市街化区域農地は農地課税)。ただし、負担水準を計算する場合、分母の固定資産税評価額に乗じる割合は、三大都市圏の特定市の市街化区域農地、一般市街化区域農地ともに、3分の1ではなく3分の2になる。 なお、都市計画税は単独で納税するのではなく、固定資産税に合わせて納税する。 4 農地に係る固定資産税の特例 各市町村の農業委員会は、毎年1回、農地の現況を調査し、その農地が1年以上耕作が放棄されており、今後再び耕作される見込みのないと認められるような場合には、利用意向調査を行い、農地所有者に対して次のいずれかの選択を要請する。 (※) 農地中間管理機構(農地バンク)については【第7回】を参照。 仮に意向調査から6ヶ月以内に回答がなかった場合、また、意向調査では自ら耕作すると回答しても実際には6ヶ月を経ても耕作を開始する様子がないような場合は、農業委員会から農地所有者に、農地中間管理機構が農地中間管理権を取得するよう同機構との協議を行うことが勧告される。 平成29年度からは、耕作がされていない遊休農地のうち農業委員会により前記の勧告を受けたものについては、固定資産税評価額を算定する際において正常売買価格に0.55の割合を乗じないこととされた。その結果、対象遊休農地の固定資産税評価額及び税額は改正前の約1.8倍になる。 一方、10a(1,000㎡)以上の農地を所有する者が、所有するすべての農地を農地中間管理機構に貸し付けたときは、賃借権等の設定期間が10年以上15年未満の場合は3年間、15年以上の場合は5年間、当該農地の固定資産税が2分の1に軽減される。 * * * 以上、農地の固定資産税の基本計算について解説してきた。これから、農地をどのように活用していくかについてクライアントにアドバイスする場合、固定資産税の知識は不可欠であると思われる。そのため、これを機会に十分に理解を深めてほしい。 (了)
法務・会計・税務からみた循環取引と実務対応 【第4回】 「税務からみた循環取引」 弁護士・公認不正検査士 下尾 裕 1 循環取引が発覚した場合の税務処理 企業において、循環取引が発覚した場合の税務処理については、前回解説した過年度の決算修正(会計上の遡及修正方式)を前提とするか否かにより、以下の2通りの対応が考えられる。 また、いずれの対応においても、企業が循環取引に起因して不法行為に基づく損害賠償請求権等を有している場合には、これ自体が別途所得を増やす方向に作用することから、当該益金(収益)がどの事業年度において認識されうるかという問題が生じる可能性がある。 以下においては、これらの事項についてそれぞれポイントを整理する。 2 過年度の決算修正を前提とした法人税及び消費税に係る更正の請求 (1) 法人税の取扱い 法人税法第22条第4項は、法人税法の益金及び損金の額について「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(税務上の公正処理基準)に従うものとされているところ、近年の裁判例においては、企業会計上の慣行等が税務上の公正処理基準に該当するかどうかについては、法人税法の独自の観点から判断されるとの考え方が有力である(東京高判平成28年3月23日等)。 これを循環取引のケースにおいて検討するに、【第3回】で述べたとおり、過年度にわたる循環取引に関する会計処理を修正する場合には、現行の会計実務では、過去の誤謬を各事業年度において修正再表示する方法(遡及修正方式)を原則とするとともに、会計上の重要性がないケースにおいては、発覚した事業年度における一括処理方式が容認されている。 これに対し、法人税法においては、継続企業の原則に基づき、当期において生じた収益と当期において生じた費用・損失とを対応させ、その差額概念として所得を測定するという考え方を採用していること(法人税法基本通達2-2-16等参照)等に鑑みれば、上記会計処理のいずれを採るかにかかわらず、過大になった各所得(利益)については、これらを計上していた各事業年度において減額更正等がなされるべき(言い換えれば遡及修正方式に準じて各事業年度の所得を再計算すべき)との考え方になるものと考えられる。 よって、複数の事業年度にわたり循環取引が発覚した場合の企業の対応としては、会計処理の修正方法如何にかかわらず、遡及修正方式に沿った考え方に応じて各事業年度の所得を再計算の上、更正の請求により、原則として法定申告期限から5年以内(国税通則法第23条第1項第1号)の事業年度に納付した法人税の還付を請求するという対応を採るべきということになる。 ただし、循環取引事案に基づく会計処理は「仮装経理」と評価される場合が大半であると考えられる。かかる仮装経理に基づく更正の請求については、法人税法の特例により、過誤納金についてもそのまま還付はなされず、具体的には、更正の日の属する事業年度開始前1年以内に開始される事業年度の確定法人税額から還付した後は、上記更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度の法人税から順次控除されることになることから、注意が必要である(法人税法第135条第1項・第3項。仮装経理があった場合の修正処理の具体的な方法については、国税庁「法人が「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を適用した場合の税務処理について(情報)」問8参照)。 なお、これに関連して、平成25年9月30日 熊裁(法)平25第3号(TAINSコード:F0-2-575)は、非公開裁決であるが、循環取引に基づく取引が架空取引であると認定した上で、当事者間には法人税法第22条第2項「無償の(中略)取引」が存在するとして、当該取引に係る収益を益金(受贈益)として認識する判断を下している。 当該裁決は、開示された裁決文を読む限り、既発生の債権回収のため債務者に資金を提供する手段として循環取引が行われたという事案(前提となる債権の実在性が認定でき、かつ、循環取引の当事者において上記債務者に対し、上記債権回収原資を確定的に保持させる意思を認定しうる事案)であった模様であり、かつ上記税務上の公正処理基準との関係等にも言及されていないことから、循環取引一般に妥当する判断とはならない可能性が高いものと思われる。 【裁決内容から予想される取引の流れ】 (2) 消費税の取扱い 消費税法の取扱いについては、法人税法とは異なり、税務上の公正処理基準に関する定めがない。このことを前提とすれば、循環取引に係る会計処理について決算修正を行ったとしても、理論上は当然に、消費税法第4条第1項に定める「資産の譲渡等」(課税取引)が認められなくなるわけではなく、あくまで私法上の評価に基づいて課税取引の有無が判断されるはずであるが、実務的には法人税における処理と整合する処理を行うケースが多いのではないかと思われる。 また、消費税については、法人税と異なり、上記のような「仮装経理」に関する特例が存在しないことから、理論上は、会計上の決算再表示を前提に更正の請求を行うことにより消費税の現実の還付を受けうるとの整理が可能である。 よって、複数の事業年度にわたり循環取引が発覚した場合の企業の対応としては、理論的には、各事業年度毎の消費税の金額を再計算の上、更正の請求により、原則として法定申告期限から5年以内(国税通則法第23条第1項第1号)の事業年度に関する消費税の還付請求を検討すべきということになる。 ただし、一般に課税庁は消費税の還付に係る請求の判断に極めて慎重であり、特に循環取引については、発覚後の社内調査又は第三者委員会による調査によっても、概括的な調査を超えて、実際に実行された個々の取引がそれぞれ循環取引であるかを全て検証できるわけではない場合が多々あることから、認定資料の不足等を理由に更正の請求が認められない場合があることを念頭に置いておく必要があろう。 3 過年度の決算修正を前提としない貸倒処理等 前項で述べたとおり、循環取引が発覚した場合には、各事業年度毎に税額を再計算する税務処理を行うのが本来であるが、従前の会計処理の状況、循環取引の態様及び社内調査等の実施状況如何によっては、上記原則的処理が困難である場合が想定される(特に循環取引の当事者が厳密な企業会計原則等に基づいた処理を行っていない中小企業等の場合には、このようなケースが想定される)。 このような場合には、循環取引に基づく過年度の売上等はそのままに税務処理を行わざるをえず、通常の税務処理と同様、法人税については、回収不能となった循環取引に基づく債権について貸倒引当金の損金算入又は貸倒処理を、消費税であれば、貸倒処理を前提とした仕入税額控除の処理を行うことになる。 4 循環取引に関連する首謀者又は自社役員等に対する損害賠償請求権の計上 企業においては、循環取引発覚後に、その首謀者又は自社において循環取引に関与した役員・従業員に対し、企業が被った損害(≒循環取引による未回収額)の賠償請求を行う場合が想定される。この場合、企業は、法人税法上、当該損害賠償請求を益金として認識する必要がある。 よって、このような場合には、循環取引に基づく不適切な会計処理の修正により本来減るはずの所得が上記損害賠償請求権を認識することで再度増加してしまうことになる。 この問題を検討するにあたっては、いつの時点で(どの事業年度において)当該損害賠償請求権を認識すべきかが重要になる。この点に関しては大きく下記の2説が存在する。 実務的には、同時両建説を原則として、例外的に「通常人を基準にして、権利の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあった」場合(東京高裁平成21年2月18日判決)は異時両建を認めるという考え方が有力である。 循環取引の当事者たる企業においては、未回収となっている債権の発生原因たる個別の循環取引の実行時に損害が発生していると評価されるケースが大半であると思われる。このため、上記更正の請求等にあたっては、同時両建説を前提に損害賠償請求権の認識による損益への影響を検討するとともに、異時両建説による処理が可能かどうかを併せて検討する必要がある。 * * * 次回より、循環取引が発覚した際の企業における実務対応について、初動対応とそれ以後にフェーズを分けて解説を行うこととする。 (了)