租税争訟レポート 【第34回】 「賃貸用建物の建築費用の用途区分(国税不服審判所裁決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)について、原処分庁が、課税仕入れに係る支払対価の額が過大に計上されており、また、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項第1号に規定する方法による課税仕入れに係る消費税額の計算において、課税仕入れに係る用途区分に誤りがあるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が原処分庁の認定に誤りがあるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 争点は、以下の7点である。 本稿では、(争点1)A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額、(争点2、3、6)の個別対応方式における各建物の用途区分について、請求人及び原処分庁の主張並びに審判所の判断を検討したい。 なお、本裁決は非公開裁決であり、情報公開法第9条第1項による開示情報であるところから、固有名詞や所在地、金額の多くについてマスキングがされているため、筆者において、適宜、業者名、金額等を推定しながら補っていることをお断りしておきたい。 【本件各建物の概要】 【争点1:A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額は幾らか】 1 原処分庁の主張 請求人は、A-1業者に対して、92,350,000円を支払っているが、A-1業者は、請求人の依頼に基づき上記金員のうち19,350,000円を請求人に返金しているから、A-1業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、73,000,000円である。 請求人は、A-2業者に対して209,235,000円支払っているが、A-2業者は請求人に依頼されて14,700,000円の施工事実のない架空の請求書を発行し、かつ、9,000,000円を請求人に返金しているから、A-2業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、185,535,000円である。 2 請求人の主張 A-1業者からの入金額19,350,000円は、請求人が借り入れたものであり、A-1業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、請求人が平成19年8月1日までに支払った92,350,000円である。 A-2業者からの入金額9,000,000円は、本件A建物に係る工事遅延及びバスルームの在来工法の問題から居室が冠水した瑕疵に対する補償金であり、A-2業者に係る本件A建物の請負工事代金の額は、209,235,000円である。 3 国税不服審判所の判断 (1) A-1業者に対して支払った請負工事代金 請求人は、請求人を原告とする損害賠償請求事件において、本件A建物に係る請負工事代金としてA-1業者に支払った金額は73,000,000円である旨記載した陳述書を提出しており、また、A-1業者も、19,350,000円の入金がA建物の請負工事代金の返金であると申述していることからすると、A-1業者に支払った請負工事代金の額は73,000,000円であったと認められる。 すなわち、請求人は、信用組合から請負工事代金を超える融資を受け、同組合から92,350,000円が請求人の貯金口座に振り込まれたこととの関係上、請負工事代金が同額であるよう装うため、A-1業者の預金口座に同額を振り込み、その後、返金させたものと認められる。そして、請求人の総勘定元帳には上記73,000,000円が記載されているから、A-1業者に係る請負工事代金の課税仕入れに係る支払対価の額は、73,000,000円となる。 (2) A-2業者に対して支払った請負工事代金 A-2業者の申述によれば、9,000,000円の入金は、A-2業者が請求人に依頼されて、平成22年11月30日に請求人から振り込まれた10,000,000円のうち9,000,000円を請求人の預金口座に返金したものであったから、結局、請求人が最終的にA-2業者に対して支払った請負工事代金の額は、209,235,000円から上記9,000,000円を差し引いた200,235,000円であったと認められる。なお、これは、A-2業者との工事請負契約に係る請負工事代金の額194,250,000円と追加請負工事代金の額5,985,000円の合計額200,235,000円と等しい。 もっとも、当審判所の調査の結果によると、追加請負工事代金の額5,985,000円については、総勘定元帳に記載されていないから、消費税法第30条第7項及び同条第8項の規定により、同代金から計算される課税仕入れに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除することはできず、結局、A-2業者に係る本件A建物の請負工事代金の課税仕入れに係る支払対価の額は、194,250,000円と認められる。 (3) まとめ 平成23年3月課税期間の本件A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額は、73,000,000円、194,250,000円及びエアコン取得費用の3,441,800円の合計額である270,691,800円となる。 【争点2:A建物に係る建築費用等の個別対応方式を適用する際の用途区分は何か】 1 原処分庁の主張 A建物の用途区分別の面積は、①テナント用として賃貸されるものは課税売上対応分、②住宅用として賃貸されるものは非課税売上対応分、③エレベーター、廊下及び階段等は共通対応分となり、課税売上対応分及び非課税売上対応分の各面積は、それぞれ125.95㎡、803.78㎡となる。 また、エアコン取得費用は、当該エアコンが住宅の用に供する居室に設置されたものであるから、全て非課税売上対応分に区分される。 2 請求人の主張 A建物に係る建築費用等の課税仕入れに係る支払対価の額は、個別対応方式を適用する際に共通対応分に区分され、A建物の用途区分別の面積に基づいて、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる。 この点、A建物の用途区分別の面積は、①住宅用として賃貸される部屋は非課税売上対応分となるが、②それ以外の部分は住宅用の部屋に入居した者のみが使用するものではないから課税売上対応分となり、課税売上対応分及び非課税売上対応分の各面積は、それぞれ940.12㎡、681.67㎡となる。 3 国税不服審判所の判断 (1) A建物に係る請負工事代金 課税仕入れの日におけるA建物は、テナント用及び居住用としての貸付けが予定され、また、当初の予定を変更して、居室の一部を事務所倉庫として賃貸するのを予定ないし賃貸されていたから、課税売上げと非課税売上げを得るための資産であると認められ、A建物に係る請負工事代金の用途区分は共通対応分となる。 そして、A建物のように、テナント部分と居室部分が構造上明確に区分できる建物については、その各用途区分別の面積により合理的に、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる。 請求人は、居住用として賃貸される部屋は非課税売上対応分となるが、それ以外の部分は課税売上対応分となる旨主張するが、これは、請求人の独自理論であって、課税売上対応分と非課税売上対応分とに区分する際の合理的な基準とは認められない。 (2) エアコン取得費 エアコン取得費は、設置場所により用途区分することができることから、1階テナントに係るエアコン取得費は課税売上対応分、2階から9階の居室に係るエアコン取得費は非課税売上対応分に区分される。 原処分庁は、エアコン取得費について、全て住宅の用に供する居室において使用するものであるから、非課税売上対応分である旨主張するが、課税売上対応分であるテナントに設置されたエアコンを考慮しておらず、原処分庁の主張には理由がない。 【争点3:平成23年3月課税期間のB建物に係る建築費用等の個別対応方式を適用する際の用途区分は何か】 1 原処分庁の主張 平成23年3月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、平成23年3月課税期間の末日までにB建物の用途が不明であり、個別対応方式を適用する際に全て共通対応分に区分される。 2 請求人の主張 平成23年3月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、個別対応方式を適用する際に共通対応分に区分されるが、B建物の用途別区分の面積に基づいて、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる。 この点、B建物の用途区分別の面積は、①住宅用として賃貸される部屋は非課税売上対応分となるが、②それ以外の部分は住宅用の部屋に入居した者のみが使用するものではないから課税売上対応分となる。 3 国税不服審判所の判断 B建物は、その建築費用等の各課税仕入れを行った日において、食事提供事業が附帯した高齢者向け優良賃貸住宅とする目的で建設が予定されていたことからすると、建築費用等は課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れであると認められ、個別対応方式を適用する際の用途区分は共通対応分となる。 請求人は、B建物の建築費用等は共通対応分に区分されるが、用途区分別の面積により更に課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することができる旨主張する。しかしながら、設計料、土地仲介手数料、地質調査費用、抵当権設定費用といった建築費用等は、一般的に建物の面積の区分とその費用の額との間に相関関係が認められないから、これらの費用をB建物の用途区分別の面積によって区分することは合理的といえず、よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。 【争点6:平成24年9月課税期間のB建物に係る建築費用等の個別対応方式を適用する際の用途区分は何か】 1 原処分庁の主張 平成24年9月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、個別対応方式を適用する際に共通対応分に区分されるが、B建物の用途は、請求人の入居者の募集状況から、請求人の目的、意図等の諸般の事情を勘案すると、本来の目的であった高齢者優良賃貸住宅としての募集(用途区分としては、非課税売上対応分となる)のほか、福祉施設としてショートステイ等に利用するために他の事業者に建物全てを貸与すること(用途区分としては、課税売上対応分となる)を検討するなどしていたことからすると、合理的な基準により、課税売上対応分と非課税売上対応分に区分することはできない。 よって、平成24年9月課税期間において、B建物に係る建築費用等は全て、共通対応分に区分される。 2 請求人の主張 平成24年9月課税期間におけるB建物に係る建築費用等は、平成24年3月以降、医療法人や社会福祉法人に対してB建物の一棟貸しの営業活動を行っていたことから、個別対応方式を適用する際に全て、課税売上対応分に区分される。 3 国税不服審判所の判断 B建物は、設計段階では、その2階部分において食事提供事業が予定されていたところ、課税仕入れの日である平成24年9月13日において、請求人が取得したB建物の間取りは、設計段階から引渡しを受けるまでの間に特段の変更はなかったこと、また、請求人が作成したB建物の入居者募集のパンフレットには、食事提供事業について記載されていたことが認められ、よって、課税仕入れの日において、B建物は、食事提供事業が附帯した高齢者向け優良賃貸住宅として使用する予定だったと認められる。また、B建物の3階及び15階の各1室は、課税仕入れの日である平成24年9月13日において、事務所倉庫として賃貸するのを予定ないし賃貸されていた。 課税仕入れの日におけるB建物は、食事提供事業が附帯した高齢者向け優良賃貸住宅としての使用が予定され、また、当初の予定を変更して、居室の一部を事務所倉庫として賃貸するのを予定ないし賃貸しているから、課税売上げと非課税売上げを得るための資産であると認められ、B建物に係る請負工事代金の用途区分は共通対応分となる。 請求人は、一棟貸しの営業活動を行っていたことから、課税仕入れに係る支払対価の額は、全て課税売上対応分である旨主張するが、課税仕入れの日におけるB建物の間取りの変更を行っていないし、また、請求人は課税仕入れの日において、B建物を高齢者向け優良賃貸住宅として入居者を募集していたうえ、平成25年1月下旬からB建物を一般住宅用として賃貸したことを考慮すると、請求人が、課税仕入れの日において、B建物の一棟貸しを模索していたことはあったとしても、B建物に係る建築着工時の使用計画を大きく変更するまでの具体的な計画があったと認めることはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。 【解説】 消費税の課税期間を3ヶ月間に短縮し、建築請負代金を支出した課税期間において消費税等の還付を受けていたと思われる不動産賃貸業を営む個人事業者に対して、国税不服審判所は、重加算税の賦課決定処分を含む原処分庁による課税処分のほとんどを是認するという厳しい裁決を言い渡した。 以下、いくつかポイントを検討したい。 1 金融機関による融資と建築業者への支払 請求人は、信用組合から融資を受けてA建物を建築するにあたり、実際の建築費用よりも過大な融資を受けており、それを隠蔽するために融資金額のすべてをA-1業者の口座に振り込んだ後、返金を受けていた。 こうした行為は、融資を実行した信用組合との間では問題となることも考えられるが、消費税等の申告にあたって、返金された部分を課税仕入れに含めなければ、課税処分の対象とならなかったところ、「支払った」という事実が残っていることを奇貨として、課税仕入れの額に算入したこと、他にもA-2業者に架空の請求書の発行を依頼していることなど、重加算税の賦課決定処分はやむを得ないものと考える。 こうした行為について、審判所は次のように指弾している。 2 粗雑な原処分庁による課税処分 上記(争点2)のエアコン取得費について、原処分庁は、全て住宅の用に供する居室において使用するという誤った事実認定に基づき、非課税売上対応分として課税処分を行っていることが判明している。本稿では紙幅の関係で触れることができなかったが、同じA建物に関する水道分担金についても同様の処分を行っており、国税不服審判所は、「原処分庁の主張には理由がない」と断じている。 こうした事実認定の誤りが、なぜ異議申立においても看過されたのか、非常に気になるところである。と同時に、本裁決を非公開と決めた理由が、こうした粗雑な課税処分を公表しないためであるとすれば、本来は全文公開が原則であるはずの行政文書である不服審判所による裁決の公開が、実は、公開を決定する側の国税不服審判所又は国税庁によって恣意的に決定されているのではないかという懸念を生じさせる。 3 金額欄が黒塗りの支払対価の額一覧表、消費税等計算明細書 上述したように、本裁決は情報公開法に基づき、開示請求を行った結果、入手されたものであり、当然、裁決書本文、別紙の多くに黒塗りされた不開示部分が存する。 裁決書の一部を不開示とした理由として列挙された7項目のうち、課税仕入れにおける支払対価の額や消費税額等を不開示とする理由として考えられるのは、次の2つの項目であると考えられる。 不開示理由はいつも同じような文章が並べられているのだが、気になるのは、項番2の「公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれ」という文言であり、項番7の「国税に関する審査請求における円滑な主張や証拠の提出等を阻害し、国税不服審判所の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」という文言である。 どちらも、「おそれ」があるかどうかを判断するのはあくまで開示を行う側であり、開示していいかどうかを審査請求人に問い質すことはしていないはずである。また、裁決書本文では開示されている金額が、「別紙」の一覧表になると黒塗りにされていることもある。 個人的には、住所地や個人名、生年月日など、直接的に個人を特定できる情報は当然不開示とすべきであるし、所得税額のように個人の収入や生活水準が推定できるような情報も開示すべきではないと考えるが、本件のような建築工事代金やそれに基づく消費税の課税仕入れの額、消費税額などを開示しても、「個人の権利利益を害するおそれ」が生じることはないと思料するところである。 (了)