《速報解説》 株式保有特定会社の判定基準に新株予約権付社債を追加、 保有状況如何では評価額が高くなるケースも ~平成29年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 八代醍 和也 平成28年12月8日に与党から公表され22日に閣議決定された「平成29年度税制改正大綱」では、資産税に関する種々の改正案が示されているが、その中でも取引相場のない株式の評価に関しては、既報の「類似業種比準方式の見直し」(下記拙稿を参照)に加え、株式保有特定会社の判定基準にも見直しが行われており、こちらも会社によっては不利な影響及ぼす可能性がある見直しとなっている。 以下、その内容について解説を行う。 なお、文中の意見に関する部分については筆者の私見であることを申し添える。 1 概要 今般の見直しのポイントを整理すると、以下のとおりとなる。 2 見直しの影響 株式保有特定会社(いわゆる「株特」)は株式等の価額の割合が全資産の50%以上である会社で、会社の規模に関係なく純資産価額方式で評価され、類似業種比準方式の場合と比べて、一般的には高い金額で評価されることとなる。 この判定にあたり、新株予約権付社債はこれまで除外されてきたのであるが、改正案では、新株予約権付社債は株価と連動して価額が形成されるものであることから、これを含めて判定を行うこととされた。 しかしながら、新株予約権付社債を判定対象に加えることにより、株式に代えて他の資産を保有することにより、株式保有特定会社と判定されることを免れ、類似業種比準方式で評価しようとする「株特はずし」に一定の歯止めをかけたというところが実際の本音のようである。 いずれにせよ、株式とその性質が共通する新株予約権付社債についても同様の取扱いをするというのは、納税者不利とはいえ、ある程度納得感のある改正案であると筆者は評価している。 現行と改正案におけるそれぞれの判定式は下表のとおりとなる。 (表1) 株式保有特定会社の判定式 この結果、新株予約権付社債を保有している会社においては、「株式」に「新株予約権付社債」を加えた割合が全資産の50%を超えた場合には、株式保有特定会社と判定されることになる。 上記を例示すると、下図のとおりとなる。 (図1) 株式保有特定会社の判定の見直し(数値は仮のもの) 3 改正案への対応 今般の見直しはとりもなおさず、株式保有特定会社と判定される会社の範囲を広げるものであり、納税者にとっては不利影響を及ぼすものである。 改正案への対応策としては、短期的なものと中長期的なものとの2つに整理できると考える。 ① 向こう2年程度での株式譲渡を検討している場合 新株予約権付社債を保有しており、かつ、全資産に占める株式の割合が相当程度高い評価会社の株式について向こう2年程度での譲渡を検討している場合、まずは改正案における判定結果において、その評価会社が株式保有特定会社に該当するかどうかの検討を行う必要がある。 その上で該当する場合には、適用開始前の株式譲渡についても検討する必要が生じよう。 改正案が「平成30年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用」されることになるため、なるべく早い時期での検討を行いたいところである。 ② 中長期的に資産構成を見直す必要も また、短期的には株式譲渡の予定がない場合であっても、新株予約権付社債を保有している評価会社については、その他の株式割合が相当に低い場合を除いては、合理的な範囲で他の資産への組替えを行っていき、会社のバランスシート上の資産の部の構成を段階的に見直していくことを検討すべきである。 こちらも株式譲渡の直前になってしまってから慌てて対策を講じたり、「株特はずし」を行って株式保有特定会社でなくなった後、直ちに評価会社の株式を譲渡するなどした場合には、評価会社の資産構成の変動に合理的な説明がつかず、課税庁から不当な税負担の軽減を図ったものと認定される可能性もあり、少しずつ早めに対応しておくことが肝要であろう。 (了)
《速報解説》 「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等の改正(公開草案)が公表 ~指定国際会計基準等準拠の国内子会社・国内関連会社を対象範囲に~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月22日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は平成29年2月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 現行の「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)は、「当面の取扱い」として、次のケースを規定している。 公開草案は、「在外子会社の財務諸表(国際財務報告基準又は米国会計基準)」だけでなく、「国内子会社」が指定国際会計基準に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書を開示している場合も、「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)の対象範囲に含めようとするものであり、表題を「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」と改正することを提案している。 なお、「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」を国内子会社が適用する場合に関しても、同様に本実務対応報告の対象範囲に含めるとしている。 改正により、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号の改正案)は、「当面の取扱い」として、次の2つのケースを規定することになる。 持分法適用関連会社については、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告第24号の改正案)をお読みいただきたい。 Ⅲ 適用時期等 (了)
平成27年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「平成27年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 相続時精算課税との併用を認める等、事業承継税制の要件緩和 ~平成29年度税制改正大綱~ エアーズ税理士法人 税理士 瀧尻 将都 1 はじめに 平成28年12月8日に与党(自由民主党及び公明党)より平成29年度税制改正大綱が公表され、22日に閣議決定された。以下では、大綱で示された事業承継税制の要件緩和について解説を行う。 2 改正の背景 与党大綱の冒頭「第一 平成29年度税制改正の基本的な考え方」では、事業承継税制の見直しについて、次のように説明されている。 同制度は、平成25年度の税制改正の要件緩和に伴い、平成27年度の認定件数は増加したものの、平成27年度の認定件数の推計は456件(平成28年8月 経済産業省「平成29年度税制改正に関する経済産業省要望」より)程度であり、同制度のさらなる利用促進と利便性の向上を図る必要があった。 そこで、具体的には、相続時精算課税制度との併用、人手不足の中での雇用要件の見直し及び、災害による被害を受けた場合や、主要取引先の倒産により売上が減少した場合には、雇用確保要件等の緩和を行うこととなった。 この改正は、平成29年1月1日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用するとともに、所要の経過措置を講ずることになっている。 3 改正の概要 〈改正点①〉 相続時精算課税制度に係る贈与を、贈与税の納税猶予制度の適用対象に加える。 贈与税の納税猶予の適用を受けても、認定が取り消された場合、高額の贈与税負担が発生するリスクが存在し、これにより同制度の利用は敬遠されていた経緯があるが、この改正により相続時精算課税制度との併用を認めることにより、認定が取り消された場合でも、税負担は相続税と同額になるため、同制度の利用促進につながるものと考えられる。 (※) 「平成29年度 経済産業関係 税制改正について」P30より 〈改正点②〉 納税猶予の取消事由に係る雇用確保要件について、相続開始時又は贈与時の常時使用従業員数に100分の80を乗じて計算した数に1人に満たない端数があるときは、これを切り捨てる(現行は「切り上げる」)こととする。ただし、相続開始時又は贈与時の常時使用従業員数が1人の場合には、1人とする。 事業承継税制の雇用要件について、維持すべき従業員数(5年平均8割)を計算する際、改正前は端数を切り上げていたところを、改正により切り捨てることになった。従来、5名未満の企業の従業員数が1名減った場合、改正前は要件を満たさないこととなっていたが、改正により5名未満の企業の従業員数が1名減った場合でも、雇用要件を満たすことが可能となる。 (※) 「平成29年度 経済産業関係 税制改正について」P28より 〈改正点③〉 災害等の被災者等が納税猶予制度の適用を受ける場合について、次の措置を講ずる。 ① 災害等の発生前に相続若しくは遺贈又は贈与により非上場株式等を取得し、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「経営承継円滑化法」)の認定を受けている、又はその認定を受けようとしている会社が、その後に一定の災害等により被災した場合は、受けた被害の態様に応じ、その認定承継会社の雇用確保要件の免除又は緩和等をする。また、その被害を受けた会社が破産等した場合は、経営承継期間内であっても猶予税額を免除する。 ② 災害等の発生後に相続又は遺贈により非上場株式等を取得し、経営承継円滑化法の認定を受けようとしている会社は、上記①の措置に加え、事前役員就任要件を緩和する。 災害や取引先の倒産等が生じた場合、事業継続のため、やむを得ず、雇用調整を行うことがあるが、その場合、雇用確保要件に抵触し、認定を取り消される可能性があった。そのため、リスクを恐れ、同制度の利用を敬遠されていた経緯があるが、この改正により災害等が生じた場合でも、雇用要件の緩和(免除)により、災害等が生じても同制度の認定が取り消される可能性が低下するため、同制度の利用促進につながるものと考えられる。 (※) 「平成29年度 経済産業関係 税制改正について」P29より (了)
《速報解説》 ASBJ、「公共施設等運営事業における運営権者の 会計処理等に関する実務上の取扱い」(公開草案)を公表 ~PFI事業に係る会計処理等を整備~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月22日、企業会計基準委員会は、「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第48号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成23年に民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)(以下「PFI法」という)が改正され、公共施設等運営権制度が新たに導入されたことによる。 意見募集期間は平成29年2月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 公共施設等運営権制度について 管理者等(PFI法2条3項に規定する公共施設等の管理者である各省各庁の長等をいう)が所有権を有する公共施設等(PFI法2条1項に規定する道路、空港、水道等の公共施設、庁舎等の公用施設、教育文化施設等の公益的施設等をいう)について、公共施設等運営権(PFI法2条7項)を民間事業者に設定する制度が新たに導入された。 運営権者が実施する公共施設等運営事業は、公共施設等運営権の設定を受けて、管理者等が所有権を有する公共施設等について運営等(運営及び維持管理並びにこれらに関する企画をいい、国民に対するサービスの提供を含む)を行い、利用料金を自らの収入として収受するものである(24項。PFI法2条6項)。 2 公共施設等運営権の取得時の会計処理 公共施設等運営権の取得は、リース取引に該当せず、運営権者は、公共施設等運営権を取得した時に、公共施設等運営権の対価(運営権対価)について、合理的に見積られた支出額の総額を無形固定資産として計上する(3項、7項)。 運営権対価を分割で支払う場合、資産及び負債の計上額は、運営権対価の支出額の総額の現在価値によるとし、割引率には運営権者の契約不履行に係るリスク(運営権者の信用リスク)を反映させる(4項、5項)。 運営権対価の支出額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間(PFI法17条3号に規定する公共施設等運営権の存続期間をいう)にわたり利息法により配分する(5項)。 3 減価償却の方法及び耐用年数 無形固定資産に計上した公共施設等運営権は、原則として、運営権設定期間を耐用年数として、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分する(8項)。 4 減損会計の適用 公共施設等運営権は「固定資産の減損に係る会計基準」の対象となる。 適用に際して、減損損失の認識の判定及び測定において行われる資産のグルーピングは、原則として、実施契約に定められた公共施設等運営権の単位で行う(10項)。 5 プロフィットシェアリング条項 実施契約において、運営権対価とは別に、各期の収益があらかじめ定められた基準値を上回ったときに運営権者から管理者等に一定の金銭を支払う条項(プロフィットシェアリング条項)が設けられる場合、当該条項に基づき各期に算定された支出額を、当該期に費用として処理する(11項)。 6 更新投資に関する会計処理 更新投資に係る資産及び負債の計上に関する取扱いは、次のとおりである(12項~15項。割引率については13項参照)。 7 開示 Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告は、公表日以後適用することを予定している。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」等を公表 ~コメント対応、IFRSに係る論点の検討も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月16日、企業会計基準委員会は次のものを公表した。 これにより、平成28年6月2日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 また、これらの公表に際して、「実務対応報告公開草案第47号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応」が公表されている。これによると、公開草案に対する反対意見も寄せられていることから、コメントに対する対応に記載された内容は、実務上、参考になるものと思われる。 今回の改正等は、平成 27年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」に基づき実施される施策として、新たな確定給付企業年金の仕組みが導入されていることから、これに関する会計処理等を規定するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務対応報告第33号の主な内容 1 範囲 「リスク分担型企業年金」に関する会計処理及び開示に適用する(2項)。 ① リスク分担型企業年金は、確定給付企業年金法(平成13年法律第50号)に基づいて実施される企業年金のうち、確定給付企業年金法施行規則(平成14年厚生労働省令第22号)1条3号に規定する企業年金である(2項)。 ② 給付額の算定に関して、確定給付企業年金法施行規則25条の2に規定される調整率(積立金の額、掛金額の予想額の現価、通常予測給付額の現価及び財政悪化リスク相当額(通常の予測を超えて財政の安定が損なわれる危険に対応する額)に応じて定まる数値)が規約に定められる(2項、16項)。 2 会計上の退職給付制度の分類 退職給付制度の分類は次のように行う(3項~5項、22項)。 ① 確定拠出制度(退職給付会計基準4項) リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として、規約に定められた標準掛金相当額(給付に要する費用に充てるため、事業主が将来にわたって平準的に拠出する掛金に相当する額)、特別掛金相当額(年金財政計算における過去勤務債務の額に基づき計算される掛金に相当する額)及びリスク対応掛金相当額(財政悪化リスク相当額に対応するために拠出する掛金に相当する額)の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないもの ② 確定給付制度(退職給付会計基準5項) ①以外のリスク分担型企業年金 ③ 再判定 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、直近の分類に影響を及ぼす事象が新たに生じた場合(例えば、新たな労使合意に基づく規約の改訂が行われた場合)、実務対応報告第33号3項及び4項に従って、会計上の退職給付制度の分類を再判定する。 3 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金の会計処理及び退職給付制度間の移行に関する取扱い ① 規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額(実務対応報告第33号10項(3)に基づき未払金等として計上した特別掛金相当額を除く)を、各期において費用として処理する(7項)。 ② 退職給付会計基準5項に定める確定給付制度に分類される退職給付制度から退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行する場合、退職給付制度の終了に該当する(9項。具体的な会計処理は10項に規定)。 なお、退職給付会計基準5項に定める確定給付制度に分類されるリスク分担型企業年金の会計処理及び開示に関する取扱いは、退職給付会計基準等に従うことに特段の論点はないと考えられたことから、実務対応報告第33号では、特に取扱いは示されていない(21項)。 4 開示 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、退職給付会計基準32-2項に定められている注記事項として、次の事項を記載する。 (1) 企業の採用するリスク分担型企業年金の概要 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金の概要として、例えば、次の内容を記載する。 ① 標準掛金相当額の他に、リスク対応掛金相当額があらかじめ規約に定められること ② 毎事業年度におけるリスク分担型企業年金の財政状況に応じて給付額が増減し、年金に関する財政の均衡が図られること (2) 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額については、実務対応報告第33号7項に基づき費用処理した額を確定拠出制度に係る退職給付費用の額として注記する。 (3) 翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額及び当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数 規約に定められる所定の方法によりあらかじめ定められた、翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額及び当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数を注記する。 Ⅲ 適用時期等 実務対応報告第33号は、平成29年1月1日以後適用する。 Ⅳ IFRSに関連して リスク分担型企業年金に関するIFRS上の会計処理については、企業会計基準委員会の事務局による論点の検討が行われているので、お読み頂きたい。 (了)
2016年12月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.199を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第30回】 「取引別にみた収益の認識基準②」 税理士 山本 守之 4 有価証券の譲渡による収益 (収益計上時期の原則) 平成12年度の法人税法改正前は、有価証券の譲渡損益の計上時期は有価証券の引渡日の益金又は損金の額に算入することとされていました。しかし、有価証券の価格変動に伴って生ずる利益を享受する権利及び損失を負担する義務は売買等の約定をもって移転すると考えられるため、売却等の約定が済んでいる有価証券について生じた含み損益を自己の損益とするのは適当ではないと考えられること、また、企業会計においても、約定時に有価証券の譲渡損益を計上すべきものとされたこと等から、平成12年度改正により、有価証券の譲渡損益は、売却等の約定日の属する事業年度に計上すべきこととされました。 なお、売買目的外有価証券の譲渡損益の計上時期については、平成14年3月31日までの間に開始する事業年度について、引渡日の属する事業年度とすることを認める経過措置が講じられています(平12改正法附則3②)。 5 利子、配当、使用料に係る収益 (1) 貸付金の利子等 ① 一般的な取扱い 貸付金、預金又は有価証券から生ずる利子(以下「貸付金等の利子」という)は、期間の経過によって収益の計上をするのが原則です。 いわゆる発生主義を認識基準とするというものです。 ただ、この原則は、金融・保険業のように利子収入を主たる事業収入とする法人はともかく、一般事業法人まで一律に適用し例外を認めないというのは必ずしも妥当とはいえません。 そこで、金融・保険業を営む法人以外の法人における貸付金等の利子で利払期が1年以内の一定期間ごとに到来するものについては、厳重な期間対応計算ではなく、継続して利払期の到来するごとに収益計上することを認めているのです(法基通2-1-24)。 もともと、金融及び保険業を営む法人は、利子が主たる事業収入ですから、利払期基準を適用することは適当ではありませんが、営業外の収益として利子を収受する一般事業法人にまで厳密な期間計算(期間の経過に応じて収益計上する)を要求することは、必ずしも妥当ではないという考え方から設けられた取扱いなのです。 したがって、次に掲げる法人は、金融・保険業に該当せず、一般の事業法人として取り扱うべきです。 (イ) 証券業を営む法人のうち、主として他の証券業者に対して有価証券の売買に係る注文の取り次ぎ(いわゆるツナギ取引)を行っているもの (ロ) 主として商品取引業を営んでいる法人 (ハ) 主として保険代理業を営んでいる法人 また、『法人税関係質疑応答事例集』(国税庁課税部審理室・法人課税課)では、 として、保険代理業に利払期基準を適用することを容認しています。 なお、借入金とその運用資産としての貸付金、預金、貯金又は有価証券(信託財産に組み込まれたこれらの資産を含む)とがヒモ付関係になっているときは、借入金に対する支払利子と運用資産に対する受取利子等を対応させるという「費用収益対応の原則」を適用しないとすれば、不適正な所得計算がなされてしまいます。 そのため、借入金と運用資産とがヒモ付関係にあるときは、利払期計上を認めることなく、原則どおり期間計算を行うこととしています。 資産の販売などに伴い発生する売上債権(受取手形を含む)又はその他の金銭債権について、その現在価値と当該債権に含まれる金利要素とを区分経理している場合の当該金利要素に相当する部分の金額は、当該債権の発生の基となる資産の販売等に係る売上の額等に含まれます(法基通2―1―24(注2))。 ② 相当期間未収が継続した場合等の特例 貸付金の利子の額は、発生基準又は利払期基準によって益金の額に算入することになっています。しかし、次の場合には、債務者の状況等からみて現実に利子を回収することがきわめて困難であるため、未収利子の計上を要求することは実状に即しません。そこで、実際に利子を回収するまで収益計上を見合わせることができます(法基通2―1―25)。 このうち最も多く適用されるのは(イ)であり、焦付き利子に対する実体的な取扱いといえます。 ここでいう「最近発生利子」というのは、期末前6ヶ月以内に支払期日が到来する利子ですから、1年決算法人では、当期後半に支払期日の到来する利子と考えてもよいでしょう。したがって、未収計上を省略できるための要件をまとめてみると、次のようになります。 つまり、債務者が債務超過の状態にあることその他相当の理由があることによって、当期後半に支払期日が到来する利子が全額未収で、それ以前に支払期日の到来する利子について当期後半に全く支払を受けていない場合をいうのです。 実務上トラブルが多いのは、「債務超過その他相当の理由」です。例えば、「債務超過」についても、債務者の財務諸表上の数値によるのか、それとも、土地等の含み益を加味したところで判断するべきかという問題です。 土地等の含み益を加味したいわゆる清算価値によって債務超過か否かを判断すべきだとすれば、債務者が子会社等であればともかく、一般の場合には、債権者サイドで正確に測定することはできないでしょう。 しかし、「債務者の債務超過」は、利子収入が6ヶ月以上にわたって焦げ付いた状態になった動機のひとつを示したものに過ぎず、債務超過自体が未収利子計上見合わせの直接的事由となっているわけではありません。 すなわち、利子が6ヶ月以上にわたって焦げ付くのは、よくよくの事情があるのでしょうが、その事実に恣意的なものはないか、客観的にみてやむを得ない事情があるのかを総合的に判断する要素のひとつとして「債務者の債務超過」が挙げられているのです。 したがって、外形的に認識できる財務諸表上の数値によって債務超過を判定して差し支えありません。 ③ 利子制限法の制限超過利子 法人が利子制限法に定める制限利子を超える利子によって金銭の貸付を行っている場合には、その利子の額の収益計上については、次のような取扱いを置いています(法基通2―1-26)。 このような取扱いは、最高裁判例(昭和46年11月9日第三小法廷、昭和48年6月21日第一小法廷)の趣旨を踏まえて税務執行を行う必要から定めたもので、同判決においては、現実に支払を受けた利子は別として、未収部分については、あくまで制限利率で計算すべきであり、未収利子を計算する基礎となる貸付金の元本の額は、過去に収入した利子のうち制限利率超過分を元本に充当したものとして再計算するとしています。 (2) 受取配当等 ① 原則 会社法では、株主への利益の配当のみならず、資本金の減少に伴い生じた剰余金を原資とした金銭等の資産の交付も剰余金の配当とされるため、通常の利益の配当に限らず資本の払戻しに伴う分配や、分割型分割により分割法人が株主に資産等を交付する行為も余剰金の配当となります。余剰金の配当には株主総会の決議を要しますが、余剰金の分配可能額を有している場合には、剰余金の配当はいつでも可能です。 また、株式の消却は、一度自己株式として取得した株式を消却することとなり、旧商法に規定されていた株式の強制消却は廃止となりました。 税法では、配当を「剰余金の配当(株式等に係るものに限るとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを除く。)若しくは利益の配当(分割型分割によるものを除く。)又は剰余金の分配(出資に係るものに限る。)の額」(法23①一)とされ、資本剰余金の減少に伴う分配は本来の配当から除くこととなっています。 ② みなし配当 みなし配当は、発行法人が次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあっては、その法人のその交付の直前のその資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額がその法人の資本金等の額のうちその交付の起因となったその法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超える時は、その超える部分の金額がみなし配当となります(法24①)。 ① 合併(適格合併を除く) ② 分割型分割(適格分割型分割を除く) ③ 資本の払戻し ④ 自己の株式又は出資の取得 ⑤ 出資の消却 ⑥ 組織変更 (3) 賃貸借契約に基づく使用料 ① 一般的な取扱い 賃貸借契約に基づいて支払を受ける家賃、地代その他の使用料の額については、前受けに係る分を除いて、その契約又は習慣によってその支払を受けるべき日、つまり、支払期日に収益の計上をするのが原則です(法基通2-1-29)。 ところで、貸付金利子等については期間の経過によって収益計上をし、家賃、地代等については支払期日にこれを行うのはどのような理由かと疑問視する向きもあります。 しかし、貸付金等については、そのサービスが常時均質なものとして提供されているのに反し、貸家、貸地等の賃貸借契約においては、資産の状況その他の事情によって必ずしも均質のサービスを保証できないという差異があります。 しかも、賃貸借契約は貸主の暇疵担保責任を踏まえながら結ばれるもので、取引慣行上必ずしも日割計算で収益が確定していくとは考えられないことから、このような取扱いになったものと思われます。 (注) 所得税における不動産所得の取扱いも同様です。 ただ、この取扱いは、日本では通常1月ごとに賃料の授受が行われることを踏まえたものですから、同族会社等で非常に長い期間を定めて適当に収益計上するということがあれば、税務当局が介入することになるでしょう。 ② 紛争がある場合 賃貸借契約について、当事者間に紛争がある場合の家賃、地代その他の使用料の収益計上時期が問題となります。 この点は契約の存在自体についての紛争のある場合と、使用料の増減に関する紛争のある場合とでは、その取扱いが異なります。 まず、契約の存否をめぐって紛争がある場合には、使用料等を収入すること自体が不安定な状態にあるということですから、紛争が解決して具体的にその支払を受けることができるようになるまで、その収益計上を見合わせることができるものとされています(法基通2-1-29ただし書)。 この取扱いは、相手方が使用料を供託しているか否かにかかわらず適用されます。 したがって、契約の存在をめぐって紛争がある場合に、未収金の計上をしない処理は是認されます。 次に、使用料の増減をめぐる紛争の場合は、使用料等を収入することが未確定であるとはいえず、単に収益すべき額について未確定な要素があるに過ぎません。 そこで、使用料の増減に関する紛争に基因して使用料が未収になっている場合には、契約内容や供託金額等から勘案して収入すべき金額を見積もり、その収益計上をしなければなりません。 (了)
〈平成29年1月1日施行〉 加算税見直しの再確認と留意点 【前編】 税理士 佐藤 善恵 〈1〉 更正予知に係る加算税減免措置の見直し (1) 改正前の制度概観 加算税は、過少申告加算税(通法65)、無申告加算税(通法66)、不納付加算税(通法67)及び重加算税(通法68)の4種類である。 このうち、更正を予知しない加算税の減免規定は、重加算税を除く3つの加算税について置かれている。 〈参考〉 〈要件の図解(通法65⑤)〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 表内(下線部分)のとおり、いずれの条項も、①その国税についての調査があったことにより、②その国税について更正(又は決定、あるいは納税告知)があるべきことを予知(※)してされたものでない、ということが要件である。 なお、今回の改正で影響を受けたのは、過少申告加算税と無申告加算税の2つである。 (※) 本稿ではこれを「更正予知」という。 つまり、条文の文言に忠実に照らすと、要件判定の第一段階は、①調査が開始されたことであるから、調査開始がなければ②更正予知の前提を欠くこととになって、結果的に過少申告加算税は免除されるということになる。 また、改正前の条文に基づく加算税通達は「臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として『更正があるべきことを予知してされたもの』に該当しない」と定めているから、実務上は、事前通知前であれば原則として加算税が減免されることになる。 (2) 改正の趣旨と改正内容 改正前の取扱いは、上記(1)のとおり、調査の事前通知から臨場調査開始まで(上図★の期間)に修正申告等をすると加算税が減免されるのが原則的取扱いである。しかし、それを逆手にとり加算税の賦課が回避されている事例が顕著にあったために、当初申告のコンプライアンスを高める観点から、今回の改正が行われた。 具体的には、★の期間、つまり、調査の事前通知後は、調査開始前であっても、通常の加算税よりも一段階低い税率で課税されることとなった。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 税率の( )部分は、加算税が加重される部分(申告漏れが大きい部分等)に係る税率。 (3) 改正法施行後の留意点 加算税が改正前のように減免されるかどうか(上図の黄色部分)は、「調査の事前通知」前という形式で判断される。 ここでいう「調査」は「その申告に係る国税についての調査に係る第74条の9第1項第4号及び第5号(納税義務者等に対する調査の事前通知等)」、いわゆる法定通知のことであるから、単なる「お尋ね」や「行政指導」はこれに当たらない。 一方、①調査があったことにより、②更正予知をしたかどうかという二段階の要件における「調査」には、机上調査や署内調査も含む点に留意が必要である。 (了)
〔平成29年度税制改正大綱からみた〕 組織再編税制の改正内容と実務への影響 【後編】 公認会計士 佐藤 信祐 (2) 全部取得条項付種類株式、株式併合及び株式等売渡請求 現行法上は、現金交付型株式交換を行うと非適格株式交換として時価評価課税の対象になっていたことから、その代替的手法として、全部取得条項付種類株式、株式併合又は株式等売渡請求が利用されてきた。しかしながら、そもそも租税回避ではないかという批判があったことは事実である。 平成29年度税制改正では、全部取得条項付種類株式の端数処理、株式併合の端数処理及び株式等売渡請求による完全子法人化について、株式交換と同様に、組織再編税制の一環として位置づけ、次の措置を講じられた。 なお、前回解説したように、発行済株式の3分の2以上を支配している場合の現金交付型株式交換については、金銭等不交付要件に抵触しないこととされた。全部取得条項付種類株式、株式併合及び株式等売渡請求による完全子法人化についても同様の取扱いとなるため、非適格再編となることは稀であろう。 さらに、現行税法では、買収会社が連結納税制度を導入している場合には、全部取得条項付種類株式、株式併合又は株式等売渡請求を利用しても、連結納税グループへの加入に伴う時価評価課税は避けられなかったが、平成29年度税制改正により、時価評価課税を回避することができるようになったため、連結納税制度を導入するハードルは低くなったと思われる。 (3) 営業権の時価評価課税 平成29年度税制改正大綱では、 と書かれている(p71)。すなわち、時価評価を行う前の営業権や知的財産権の帳簿価額が0円であることが多いため、「帳簿価額が1,000万円未満の資産」として時価評価課税の対象から除外することができる。 本改正の影響は、株式交換よりも、連結納税の開始又は連結納税グループへの加入に伴う資産の時価評価制度への影響が大きいと思われる。例えば、買収会社が連結納税制度を導入している場合に、株式購入により100%子会社化を行うことは少なくないが、このような場合における時価評価課税の問題は、実務でも問題になっていたからである。 平成29年度税制改正後は、時価評価課税の対象となる資産が限定されることから、連結納税制度を導入するハードルはかなり低くなると思われる。結果として、連結納税制度を導入する企業が増える可能性はあると考えられる。 4 その他の改正事項 上記以外にも、以下の改正が予定されている。 実際には政省令を確認してみないと分からないが、実務上の影響が大きいと予想されるのは、「支配関係継続要件の見直し」である。 すなわち、平成29年度税制改正大綱では、 と記載されている(p71)。 この結果、分割型分割を行った後に、分割法人株式を譲渡したとしても、支配株主と分割承継法人の支配関係が継続していれば、適格分割型分割に該当することができることになる。 現行税法では、共同事業を営むための適格分割型分割に該当させる必要があるが、事業関連性要件などの要件を満たすことができないため、実際には、適格分割型分割に該当させることを断念した事案も少なくない。本改正により、適格分割型分割に該当する事案がかなり増えることから、M&Aの実務においても活発に利用されることが予想される。 なお、企業再生の実務において行われるとすれば、既存株主を残したうえで分割型分割を行う場合であろうか。しかし、bad事業を清算する必要があることから、分割法人にbad事業が残ることになる。そして、good事業が継続する必要があることから、分割承継法人にgood事業が移転することになる。この場合に、既存株主及びその親族等が分割承継法人を支配し続ける必要があることから、かなり限られた場合についてのみ適用される手法であるということが言える。 5 総括 このように、平成29年度税制改正大綱だけではすべて読み切れないが、読み取れるだけでもかなりの大改正であることが分かる。 本稿が、皆様のお役に立つことができれば幸いである。 (連載了)