《速報解説》 法人税の申告期限、上場企業の株主総会期日設定柔軟化に対応し、 延長実現なるか? ~平成29年度税制改正要望 Profession Journal編集部 「日本再興戦略」等による国を挙げた取組みにより、日本の株式市場の整備を行い海外投資を呼び込もうとする動きが活発化している。昨年策定されたコーポレートガバナンス・コードもその1つだ。 ただし現在、海外投資家から日本市場への参入障壁として指摘されている問題の1つに、法人税の申告期限に関する現行制度が影響している。 現行の法人税法上、内国法人は原則として「決算日」から2ヶ月以内に、株主総会の承認を得て確定した決算に基づく法人税申告を行わなければならない。ただし、会計監査人の監査を受ける等一定の事由により、特例として1ヶ月間の期限延長が認められている(法人税法75条の2)。つまり3月末を決算日とした法人(3月決算法人)の場合、上記特例によると、6月末が申告期限となる。 一方、会社法上、株主総会は、毎事業年度終了後一定の時期に招集することが求められており、企業が議決権行使の「基準日」を定めた場合、その3ヶ月以内に株主総会を開催しなければならない(会社法296条1項、124条)。そして現在の企業実務では、その「基準日」を「決算日」と一致させているため、3月決算法人は6月末までに株主総会を開催しなければならず、6月に株主総会を開催する企業が集中しているのが現状だ。 ただし、会社法では、「決算日」を「基準日」として設定することを要請しておらず、基準日を決算日と異なる日に設定することが可能である。このため、企業は個々の事情に応じて、柔軟な総会日の設定を行うことが、会社法上は可能となっている。 このため3月決算法人(3月末が決算日)でも基準日を4月1日以降に設定し、7月以降に株主総会を開催することが可能なのだが、法人税の申告期限(6月末)までに、株主総会の承認を得て確定した決算に基づく申告ができないというリスクが生じることから、未だ6月に株主総会が集中開催される状況は緩和されていない。 このような現行制度に対し、海外機関投資家からは「決算から株主総会までの期間が短すぎる」「総会日が集中している」等により、株主・投資家の対話期間や企業の情報開示の準備期間が十分ではないとの指摘がなされている。 この点、コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-2③においても とされている。 実際に経済産業省資料によると、日本企業の決算日から定時株主総会開催日までの日数は諸外国平均が「4~5ヶ月」であるのに比べ「2.8ヶ月」と短く、また総会開催日も、日本の総会日が突出して集中傾向にあることが示されている。 この問題を解決するため、このたび経済産業省が示した平成29年度税制改正要望には、 との項目が盛り込まれている。 上記の要望では具体的な延長期間等の制度設計は明記されていないものの、延長が実現し株主総会時期を変更することになれば、有価証券報告書の提出のタイミング等、上場企業の決算実務への影響は大きい。また、仮に早期実現となれば来年の株主総会へ向けたスケジュールも見直しを迫られる可能性があるため、企業実務担当者は今後の審議内容について注視しておきたい。 (了)
2016年9月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.185を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第35回】 「各省庁の税制改正要望からみた 平成29年度税制改正の課題(法人課税)」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 8月末に各府省庁が取りまとめた平成29年度税制改正要望が、財務省ホームページで公開されている。 この要望から、平成29年度税制改正の主な課題(法人課税)を整理したい。 1 研究開発税制 法人課税の大きな課題は、研究開発税制である。上乗せ措置である高水準型・増加型の期限到来に併せて、恒久措置である総額型も含めて制度の見直しが行われそうである。経済産業省の他7省が要望しているが、具体的には、 の4点が掲げられている。特に、②の控除率25%が掲げられているように、企業の研究開発投資の増加に向けて大胆なメリハリをつけることが伺われる。 2 設備投資促進 設備投資については、中小企業投資促進税制の拡充・延長が、経済産業省の他5省が要望している。また、経済産業省単独では、地域未来等投資促進税制(仮称)の創設を要望している。これは、地域経済を牽引する地域中核企業による地域の強みを活かした事業拡大を支援するため、改正を検討している企業立地促進法に基づき、地域中核企業等による未来投資を支援するための措置とされている。 また、特定事業用資産の買換特例の延長も、国土交通省と経済産業省とから要望されている。 3 役員報酬 28年度税制改正で一定の譲渡制限付株式について損金算入が認められるなどの見直しが行われた役員報酬について、もう一段の見直しが経済産業省から要望されている。 4 国際課税 国際課税については、いわゆるタックスヘイブン税制が平成27年度改正、28年度改正と連続で与党大綱で見直しが検討課題として掲げられており、今回の国際課税の改正課題の目玉といえる。 タックスヘイブン税制に関しては、経済産業省要望では、「BEPSプロジェクトを踏まえた外国子会社合算税制の見直しに当たっては、軽課税国を利用した課税逃れを的確に防止しつつ、日本企業の過度な負担により国際競争力の低下を招くことがないよう、合理的で簡素な制度とする」との観点から、次の5点が要望事項である。 金融庁も、租税回避目的がない事業(外国で価値創造を行っている金融・保険業、航空機リース業など)が合算対象とならないよう要望している。 5 企業年金等積立金に対する特別法人税 厚生労働省の他6省庁から、企業年金等(厚生年金基金、確定拠出年金、確定給付企業年金、勤労者財産形成給付金及び勤労者財産形成基金)の普及を図るため及びこれらの健全な運営を確保するため、これらの積立金に対する特別法人税の撤廃を行うことが要望されている。 (了)
相続税の実務問答 【第3回】 「生前贈与の有無及び贈与金額の確認」 税理士 梶野 研二 [答] お父様から弟さんに対する相続開始前3年以内の贈与の有無及びその金額を確認するために、所轄税務署の署長宛てに贈与税の申告内容の開示請求を行うことができます。 なお、被相続人から共同相続人への生前贈与の内容については、相続税の申告のためばかりではなく、相続財産の分割を行う上でも特別受益として明確にしなければならない場合があります。そのため、生前贈与の内容の確認を含め兄弟間でよく話し合うべきでしょう。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の計算方法 相続税は、相続人や受遺者(相続税の納税義務者とならない法人を除く)ごとに相続又は遺贈により取得した被相続人の財産の価額の合計額(債務がある場合には債務の金額を控除した後の金額。この金額を相続税の課税価格といいます)を計算し、その相続税の課税価格を合計した金額を基に、基礎控除額を控除し、控除後の金額を民法に定める各相続人が民法に定める相続分に応じて取得したものと仮定して相続税の総額を計算し、それを各相続人の取得財産の価額に応じて按分して、各相続人の相続税額を算出するという方法を採用しています。 この場合、被相続人から次の贈与を受けた相続人や受遺者(以下「相続人等」という)がいる場合には、その贈与を受けた価額をその相続人等の課税価格に加算して、上記の計算を行うこととなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 したがって、共同相続人や受遺者が相続開始前3年以内に被相続人から財産の贈与を受けている場合や相続時精算課税制度を選択している場合には、その価額が明らかにならない限り、正しい相続税の計算をすることができないこととなります。 2 贈与税の申告内容の開示請求 わが国の相続税が、上記1のとおり、被相続人から相続や遺贈により財産を取得した者や相続時精算課税適用者の当該被相続人からの生前贈与の金額が明らかにならないと相続税の計算をすることができない仕組みとなっていることから、相続税法には、正しい相続税額の計算を担保する措置として、贈与税の申告内容の開示請求の制度が設けられています(相法49①)。 (1) 贈与税の申告内容の開示請求の趣旨 この贈与税の申告内容の開示請求の制度は、平成15年度税制改正において、相続時精算課税制度が創設されたことに伴い導入されたものです。 相続時精算課税制度の下では、特定贈与者の相続開始に伴う相続税の計算においては、同制度の選択届出書を提出した年分以降の特例贈与者からの贈与財産の価額が、相続税の課税価格に算入されることとされています。贈与時から相続開始時までの間が相当長期に及ぶことも容易に想定され、また、贈与税の申告件数及び金額も増加することが見込まれたことから、従来以上に、被相続人から共同相続人等の生前贈与の有無及びその金額の確認が困難なケースが増えることが予想されました。 相続人同士で生前贈与の情報を連絡し合えれば相続税の申告に支障をきたすこともないのですが、必ずしも良好な状態が存している家族ばかりではないと考えられたことから、相続時精算課税制度の導入を契機に、贈与税の申告内容の開示制度が導入されました(『平成15年版 改正税法のすべて』513頁参照)。 (2) 開示請求制度の内容 贈与税の申告内容の開示請求制度の概要は次のとおりです。 3 贈与税の申告内容の開示請求についての留意点 (1) 開示されるのは申告又は課税処分がされた贈与財産の価額 開示請求により開示されるのは、納税者からの申告又は課税処分によって確定している贈与税の課税価格です。申告等のされていない贈与財産がある場合や申告等がされていたとしてもその価額に誤りがある場合には、開示請求によって入手した情報のみでは、相続税の正しい計算はできません。 そのため、他の共同相続人等と意思疎通を図り、相続税の課税価格に算入されることとなる贈与の有無やその価額を正確に把握することが必要となります。 (2) 開示される時期 開示請求を受けた税務署長は、請求者に対して、請求後2ヶ月以内に開示をすることとされています(相法49②)。 したがって、相続税の申告期限まで2ヶ月以上の余裕がないと、開示請求をしたとしても相続税の期限内申告に間に合わないことがあり得ます。 (3) 自分の行った贈与税の申告内容等の開示請求 上記2(2)の〈2〉のとおり、贈与税の申告内容の開示請求の対象となる贈与は、当該相続又は遺贈により財産を取得した他の共同相続人等が被相続人から受けた贈与です。したがって、贈与税の申告内容の開示請求を活用して自身が行った贈与税の申告内容を確認することはできません。 (注) 自身が行った贈与税の申告内容は、申告書の閲覧サービスを活用することにより、確認することができます。閲覧の具体的な手続きは、「申告書等閲覧サービスの実施について(事務運営指針)」(平成17年3月1日、官総1-15他)に定められています。 (4) 税理士の責任について 相続税の申告について委任を受けた税理士は、適正な申告を行う義務があり、相続税の課税価格に算入される贈与の有無についても相続人等に聴取したり、贈与税の申告内容の開示請求を活用するなどして確実に確認を行わなければなりません。 相続税の課税価格に算入すべき贈与がありながら、それを確認する努力を怠り、結果的に相続税の申告が適正になされず、そのことが後日の税務調査により判明し、相続税の修正申告や更正処分に至った場合には、税理士に対する損害賠償請求が行われることも考えられます。 税理士としては、相続税の申告書の作成に際しては、開示請求の活用も視野に入れて、生前贈与の有無を確実に把握すべきでしょう。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q11】 「外貨建定期預金の利子及び満期時の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 外貨預金の利子に対する課税 外貨預金の利子については、利子所得として、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の源泉分離課税が適用されます。申告の必要はありません。 2 満期時の為替差損益の取扱い 個人が外貨預金を保有している場合において、預金の満期時に元本部分の為替の変動損益(為替差損益)を税務上認識する必要があるかどうかについては、個別の検討が必要です。 所得税法上、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額は、その外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3)。 「外貨建取引」とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいいます。 どういったものが「外貨建取引」に該当するかについての説明として、所得税法施行令第167条の6第2項では以下のように記載されています。 国税庁の質疑応答事例(「外貨建預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取扱い」)によれば、A銀行に米ドル建で預け入れていた定期預金を満期日に全額払い出し、同日、本件預金の元本部分をB銀行に預け入れた場合については、B銀行に預け入れた時点で本件預金の元本部分に係る為替差益は所得として認識する必要はない、とされています。 この理由として、以下の通り述べられています(下線筆者)。 上記から、外貨預金が満期に払い出しが行われたとしても、以下のような要件を備えていれば、為替差損益を認識する必要はないと考えられます。 一方、外貨預金を引き出し、他の金融商品に投資を行う場合は、為替差損益が実現したものとして取り扱われる可能性が高いと考えられます。 その理由として、国税庁の質疑応答事例(「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い」)によれば、 とされています。 したがって、おたずねの場合、米ドル建定期預金を引き出して他通貨に交換又は預金以外の他の金融資産に投資を行う場合は、その時点での外貨建の金額を円換算した金額と取得時の円換算の金額との差額が、為替差損益として取り扱われると考えられます。 為替差益は雑所得として確定申告による総合課税の対象になります。一方、為替差損は、雑所得の範囲内で控除できますが、他の所得区分との損益通算はできません。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第18回】 「本社の移転や社名の変更をした場合の手続き」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 当社は、東京都渋谷区から東京都港区へ本社を移転し、同時に社名を変更しました。先日、法務局にて登記が完了しました。これから税務署と都税事務所へ異動届出書を提出する予定です。 法人番号に関して必要な手続きがあれば教えてください。 〈A〉 法人番号に関して必要な手続きはない。法務局で手続きをした変更情報は、一定期間経過後、国税庁の「法人番号公表サイト」で確認できるようになる。また、本社を移転したり、社名を変更しても法人番号の変更はない。 参考までに、個人が引越しをして住所が変更になったり結婚して氏名が変更になった場合、14日以内に市区町村に届け出てマイナンバーカードの記載内容を変更してもらわなければならない。なお、個人番号の変更はない。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第19回】 (最終回) 「青色申告承認取消処分の事例②」 ~青色申告承認取消事由(取引を隠ぺい仮装して記載等)に該当すると判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 本連載の最終回となる今回は、青色申告法人X社に対して、架空の試験研究費を計上していた事実等が法人税法127条1項3号に該当するものとして行われた青色申告承認取消処分の理由付記の十分性が争われた、東京地裁平成16年10月15日判決(税資254号順号9780。以下「本判決」という)を取り上げる。 1 青色申告の承認の取消通知書に記載された処分の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(この判断は、東京高裁平成17年4月27日判決・税資255号10014頁でも維持されている)。 (1) 理由付記の趣旨目的 (2) 理由付記の十分性 (3) X社の主張について 4 私見 (1) 理由付記の十分性 本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 青色申告承認取消処分に係る理由付記において要求される付記の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならないものであるところ(最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁)、本件通知書の「取消処分の基因となった事実」欄には、X社は、「B株式会社に依頼して、貴法人宛の架空の請求書を作成させた上、これに基づいて総勘定元帳の試験研究費科目に、×4年5月29日に300万円を計上し、その支払として、振込手数料721円を差し引いた299万9,279円をC銀行T支店のB名義の普通預金口座に送金し、その支払金額の2分の1である150万円をB株式会社から」X社に現金で戻させていたこと及びこれを始めとしてX社が「総額で2,400万円の架空試験研究費を計上していたこと」が記載されている。また、本件通知書には、このことが法人税法127条1項3号の規定に該当すると判断したことが記載されている。 そうであれば、本判決も述べるとおり、本件通知書には、取消しの基因となった事実の該当法令のほか、当該事実として、X社の帳簿に記載された試験研究費の一部が架空であると認定した事実、その取引金額及び帳簿への記帳状況などが記載され、それによって、いかなる事実関係に基づいていかなる法規が適用されて当該処分がされたかについて処分の相手方が知り得る程度の摘示がされているといえる。したがって、理由付記に不備はないと考える。 (2) 若干の留意点 今後の議論の発展のためにも、以下では、若干の留意点を述べておく。 ア X社の上記3(3)の主張と青取事務運営指針 国税庁長官が発遣している平成12年7月3日付「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」(以下「青取事務運営指針」という)の3(1)においては、所得金額の更正をした場合において、その事業年度の当該更正後の所得金額(更正所得金額)のうち隠蔽又は仮装の事実に基づく所得金額(不正所得金額)が、当該更正所得金額の50%に相当する金額を超えるとき(当該不正所得金額が500万円に満たないときを除く)は、法人税法127条1項3号の規定によりその該当することとなった事業年度以後の事業年度について、その承認を取り消すものと定めている。 他方、青取事務運営指針の3(5)は、①その事業年度前7年以内の各事業年度につき、青色申告承認取消処分を受けていないこと及び②既往の調査に係る不正所得金額又は不正欠損金額が500万円に満たないことのいずれの要件も満たし、かつ、今後適正な申告をする旨の当該法人からの申出等があるときは、青色申告の承認の取消しを見合わせる旨規定している。 これらは、法文の規定から直ちに導くことができるような内容ではなく、国税庁長官によって定められた裁量基準であるといえる。すなわち、青取事務運営指針は青色申告承認取消要件を満たしている場合に、税務署長が青色申告承認を取り消すか否かについての裁量権を付与されていることを前提に、当該裁量権行使の内部基準を定めたものであると解されているのである(大阪地裁平成17年6月17日判決・税資255号順号10058及びその控訴審である大阪高裁平成17年11月10日判決・税資255号順号10198)。 したがって、「本件青色申告承認取消通知書記載の事実を認定した根拠が理由上明らかでなく、また、形式的に法人税法127条1項3号に該当する案件であっても必ずしも青色申告承認取消処分が行われるものではないところ、本件においてなぜ青色申告承認を取り消すに至ったかについての理由の記載がない」として、税務署長の裁量判断の内容を理由付記すべきであるとするようなX社の上記3(3)の主張には一定の説得力がある。 イ X社の上記3(3)の主張と2つの最高裁判決 また、以下の各判示に基づいて、X社の上記3(3)の主張の説得力を補強することができるかもしれない。 最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決(民集28巻3号405頁)は、青色申告の承認の取消しは、形式上、法人税法127条1項各号に該当する事実があれば必ず行われるものではなく、「現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によって決すべきものとされているのであるから、処分の相手方としては、その通知書の記載からいかなる態様、程度の事実によって当該取消しがされたのかを知ることができるのでなければ、その処分につき裁量権行使の適否を争う的確な手がかりが得られないこととなるのである。〔下線筆者〕」と判示している。 この判示は、青色申告の承認の取消通知書において裁量判断の過程や考慮事項を記載すべきであることを直接的に述べたものではないが、いかなる態様、程度の事実によって青色申告の承認の取消しがなされたのかという点に関する理由付記の十分性について、裁量権行使の適否を争う的確な手がかりとなり得る程度のものかという観点から検証する視点を提供する。 さらに、最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決(民集65巻4号2081頁) は、行政手続法14条1項本文についてであるが、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという同項本文の趣旨に照らし、「当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準〔筆者注:不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準。行政手続法2八〕の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである〔下線筆者〕」と判示している。 この判示に基づいて主張することが可能であるならば、青色申告承認取消処分に係る理由付記において要求される付記の内容及び程度は、青取事務運営指針の内容等も踏まえて決定されるべきであるということになる。 もっとも、少なくとも本件においては、本件理由付記をもって、税務署長の裁量権行使の適否を争う的確な手掛かりが記載されているという見方もあり得よう。 ウ 文理解釈からの反論 税務署長の裁量判断の内容を理由付記すべきであるとするようなX社の上記3(3)の主張に対しては、文理解釈からの反論が待ち受けていることも指摘しておこう。 法人税法127条1項3号は、青色申告承認取消通知書には「その取消しの処分の基因となった事実」が法人税法127条「1項各号又は2項のいずれに該当するかを付記しなければならない」と規定しているところ、かかる規定から、法人税法127条1項各号のいずれかに該当する場合に、実際に取り消すか否かの裁量判断に関する記載までを付記しなければならないという解釈を導くことは難しい面がある。本判決が、「青色申告承認取消しにあたって付記が要求される理由の程度は、『いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るもの』であれば足り、それ以上は要求されていない」として、X社の主張を斥けていることは、法人税法127条3項の文理解釈とは整合的である。 なお、仮に、法人税法127条1項3号が、処分の「理由」を付記しなければならないという規定振りであったならば、結論は異なるかもしれない。立法論のほか、理由付記の趣旨目的との適合性から、上記文理解釈からの反論に問題はないかなど、解釈論としてもなお議論の余地はありそうである。また、一見したところ、青取事務運営指針によれば取消処分を見合わせるべきであるにもかかわらず、取消処分を行っているなど、裁量判断に関する記載までもが要求される場合もあるかもしれない。 (連載了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第12回】 (最終回) 「その他国際税務の改正・固定資産税の特例措置」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [13] 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン税制)の見直し 1 改正内容 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン税制)の適用がある場合の外国税額控除の対象となる外国法人税の額は、特定外国子会社等が納付した外国法人税の額に合算所得(個別課税対象金額)の特定外国子会社等の所得(調整適用対象金額)に対する割合(合算割合)を乗じて計算されるが、特定外国子会社等が子会社(持株割合25%以上等の要件を満たす法人をいう)から受ける配当等及び控除対象配当等の額のうち外国法人税の課税標準に含まれないものは、当該合算割合の計算に係る特定外国子会社等の所得(調整適用対象金額)から除外する(措令39の118①)。 2 適用時期 特定外国子会社等の平成28年4月1日以後に開始する事業年度から適用する(平成28年措令改正法令附則1、35)。 [14] 国際課税原則の帰属主義への変更の円滑な実施 1 改正内容 平成26年度税制改正で措置された国際課税原則の帰属主義への変更(平成28年4月1日施行)を円滑に実施するため、内国法人の外国税額控除に係る国外所得金額の計算について、次に掲げる取扱いを見直した(法令155の27の2)。 2 適用時期 平成28年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(平成28年法令改正法令附則1、2)。 [15] 機械装置の固定資産税の特例措置の創設 1 改正内容 労働力人口の減少や企業間の国際的な競争の活発化等の下での中小企業・小規模事業者・中堅企業の経営の強化を図るため、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」(中小企業等経営強化法)を改正し、事業分野ごとに新たに経営力向上のための取組等について示した指針(事業分野別指針)を主務大臣において策定するとともに、この取組を支援するための措置を講ずることとなった。 そして、中小企業等経営強化法に基づいて、中小企業が取得する新規の機械装置について、3年間、固定資産税を1/2に軽減する措置を創設することとなった。 具体的には、中小企業者が、中小企業等経営強化法の施行日(平成28年7月1日)から平成31年3月31日までの期間内に、認定経営力向上計画に基づき取得をした経営力向上設備等に該当する機械装置に課される固定資産税の課税標準額を最初の3年間、1/2(半減)とする措置が講じられた。 ① 対象者 適用対象者は、次に掲げる中小企業者をいう(措法42の4⑥四、措令27の4⑤)。 したがって、連結親法人の資本金が1億円を超える連結納税グループに属する連結親法人及び連結子法人ついては、この優遇措置の適用は受けられないことになる。 ② 対象となる機械装置 この優遇措置の適用を受けるためには、事業分野別指針等に従って認定経営力向上計画を策定し、自社の事業を所管する大臣による認定を受ける必要がある。 そして、優遇措置の適用対象となる機械装置は、認定経営力向上計画に基づき取得する新規の機械装置で、次の一~三までのいずれにも該当するものをいう。 これは、最新モデル要件が緩和されている点を除いて、生産性向上設備投資促進税制のA類型の要件と同じ要件となっている。 なお、生産性向上設備投資促進税制のA類型の要件を満たせば同税制と併せて適用することができる。 ③ 対象となる取得期間 中小企業等経営強化法の施行日(平成28年7月1日)から平成31年3月31日までに取得したものが対象となる。 ④ 固定資産税が半減される期間 固定資産税が半減される期間は、機械装置を取得した年の翌年1月1日を賦課期日とする年度以後の3年となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 平成28年に取得した設備は、平成29年1月1日時点に所有する資産として申告され、平成29、30、31年度の3年間固定資産税を軽減。 2 適用時期 中小企業等経営強化法の施行日(平成28年7月1日)から平成31年3月31日までに取得したものについて適用される。 (連載了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第15回】 「反対株主の株式買取請求①」 公認会計士 佐藤 信祐 前回までは、譲渡制限株式の譲渡において、売買価格の決定の申立てがなされた事件について解説を行った。 本稿からは、反対株主の株式買取請求について争われた事件について解説を行う。平成17年改正前商法は「ナカリセバ価格」により評価し、現行会社法は「ナカリセバ価格」と「シナジー価格」のいずれか高い金額により評価することとなっているという点を踏まえて参照されたい。 1 東京高裁平成22年5月24日決定・金判1345号12頁 (1) 事実の概要 本事件は、相手方が平成18年4月14日開催の取締役会にて、その主要事業を営業譲渡することを決議したところ、これに反対する相手方の普通株式を所有する申立人らが、事前に相手方に対し当該営業譲渡に反対する旨通知し、さらにその所有する株式の買取りを請求した。本事件は、申立人らが、その所有する株式の買取価格について、相手方との間で協議が整わなかったために、裁判所に対し、株式価格の決定を求めた事件である。 (2) 原決定(東京地裁平成20年3月14日決定・金判1289号8頁) (3) 裁判所の判断 (4) 評釈 本事件は、カネボウ事件と言われているものであり、非上場会社の反対株主の買取請求の事件として貴重な判例のひとつである。 裁判所は、DCF法を採用するとともに、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントを認めなかった。「支配権の移動という観点から株式価値を評価する必要はない」と言いながら、マイノリティ・ディスカウントを考慮しないという第一審の判断は理解できない。理論構成からは、反対株主の株式買取請求において、少数株主が株式売却を意図していないにもかかわらず譲渡を余儀なくされたことを理由として、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントのいずれも認めないという判断はあり得るため、「支配権の移動という観点から株式価値を評価する」べきかどうかの判断は不要であったと思われる。 また、本事件では、営業譲渡により生じるシナジーを全く議論していない。これは、旧商法時代には、シナジー価格ではなく、ナカリセバ価格により評価することになっていたからであると考えられる。 さらに、本事件では、裁判所が選任した鑑定意見書の意見が強く反映されており、よほどの不合理がない限り、鑑定人の判断を尊重する結果になっているという点に留意が必要である。すなわち、よほどの不合理があるケースは極めて稀であろうから、マイノリティ・ディスカウントや非流動性ディスカウントを考慮するのかどうかという基本的なところを除いては、鑑定人の判断に委ねられる部分がかなりあるということが言える。 次回は、もうひとつのカネボウ事件である東京地裁平成21年10月19日判決・金判1329号30頁及び、会社法施行後の事件である道東セイコーフレッシュフーズ事件について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【90】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その18:「「交際費」の範囲①」(東京高裁平15.9.9)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 1 はじめに この判例は、交際費の範囲について、それまでの2要件説から、条文に即した3要件説に基づいて判決を出したものである。 これまでは、交際費の範囲について、2要件説により判断されていた。その2要件とは、①支出の相手方が、事業に関係のある者等であること、②支出の目的が、接待、きょう応、慰安、贈答等企業活動における交際を目的とするもの、である。 しかし萬有製薬事件においては、3要件説による判断が示された。 そこで、今回から3回にわたって、この判決を題材に、交際費の範囲を検討したい。 2 条文と問題点 この条文は現行法のものであるため、後半の接待飲食費の点が事案当時と異なるが、下線を引いた要件を規定した箇所は変わっていない。 ここで分かるのは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、~のもの」となっていることから、交際費、接待費のすべてがここで規定する交際費ではないことである。 例えば役員が同業者等と情報交換するために会合に出席した時に支出した費用は、通常交際費として処理すると思われるが、それは後半の「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」には該当しないことから、ここで規定する交際費ではない。 問題は「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」の「事業に関係のある者(以下「事業関係者等」という)」と、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」の「接待、供応、慰安、贈答」の内容、及び「その他これらに類する行為」とは何か、また「支出するもの」とは直接支出するものに限られるか否かといった点が問題となる。 3 萬有製薬事件以前の主要裁判例 萬有製薬事件を検討する前に、これまでの代表的な交際費に関する裁判例を紹介しよう。 (1) 東京地裁昭和44年11月27日(興安丸事件) これは交際費等と広告宣伝費との区分で、事業関係者等には不特定多数の者を含まないとした事例である。 戦後引揚船として有名であった興安丸を遊覧船として使用するにあたり、遊覧船としての改装等の披露目会を催す際に、招待者を、東京都及びその近県居住の者で、階層的には興安丸を団体利用するにつき各職場において決定権を持つと推定される銀行、会社、官公庁の課長以上の地位にある者を、公刊の各種名簿類から抽出する方法によって決定し、招待した。その数が5万人と非常に多かったため、これらの者が事業関係者等に当たるか否かが争われた。 この裁判例は、裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 これらの招待者が事業関係者等に当たるとして、この支出を交際費と主張する課税庁に対して、裁判所は、事業関係者には不特定多数の者を含むものではなく、またこの事案は特定の事業関係者等に対する招待というよりも、一般に対する広告宣伝的効果が主たる目的として認定した。 判決の主要部分は、以下の通りである(下線筆者)。 この判決は、萬有製薬事件の前には、交際費に要件は通常2要件説によっていたところ、2要件説に挙げられるところの第一と第二に示された2つの要件の他に、第三として支出金額が比較的高額であることを挙げている。 (2) 東京地裁昭和50年6月24日・東京高裁昭和52年11月30日(ドライブイン事件) これは、交際費等は当該支出が事業遂行に不可欠であるかどうか、慣例として行われている定額的な支出であるかどうかを問わないとした事例である。ドライブインが観光バスの運転手、ガイド、添乗員にチップとして金員(300円)を渡し、これを乗客の誘導に対する対価として交際費には算入せず処理していたところ、課税庁より運転手等の歓心を買うための心付けであるため、交際費と認定されたが、これが交際費課税の立法趣旨であるところの「冗費濫費」には当たらず、事業遂行上必要な行為であるとして争われた。 この裁判例は、裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 第一審では、次のように判示する(下線筆者)。 ここでは次のような事実認定をしている。 そして以下の結論を下している。 高裁では、次のように判示する(下線筆者)。 法人税法の建付けとして、その支出の収益への貢献度合い、事業上の必要性を離れて交際費課税が規定されている。その意味では、その支出が事業上必要不可欠か否かは、結論を左右するものではない。 しかし、チップを渡す慣行がある中で、それをしない場合には、敬遠されることになるのであるから、特別便宜を図ってもらうための行為、歓心を買うための行為ではないこのような支出が、「接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為」に当たるか疑問を感じるものである。 * * * 次回より萬有製薬事件について詳しく見ていきたい。 (続く)