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被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔労務面のアドバイス〕 【第3回】「日頃の防災対策で被害の軽減を」

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔労務面のアドバイス〕 【第3回】 「日頃の防災対策で被害の軽減を」   特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山 敏恵   災害を避けることはできないが、災害から被る被害は、対処の仕方によって軽減することはできる。過去に起きた震災の教訓を生かし、企業が一丸となって、日頃から防災対策に取り組んでいただきたい。 緊急時において、人の思考力・判断力は平常時に比べて格段に低下する。そのため、事前の対策・準備は重要である。 『防災意識の高い企業が、万一の時、経営を守る』ということを理解しておきたい。   (了)

#No. 187(掲載号)
#小宮山 敏恵
2016/09/29

「従業員の解雇」をめぐる企業実務とリスク対応 【第10回】「整理解雇をする際のチェックポイント」

「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第10回】 「整理解雇をする際のチェックポイント」   弁護士 鈴木 郁子   1 はじめに ~整理解雇と整理解雇4要件 整理解雇とは、普通解雇の一種である。【第4回】から【第8回】で解説した普通解雇は、従業員側に解雇の理由がある。一方、整理解雇は、会社側に理由がある場合であり、会社側の経済状況等によって生じた従業員削減の必要性に基づき労働者を解雇することをいう。 整理解雇については、一般に、裁判例上、以下の4つ(「整理解雇の4要件(要素)」)が必要とされ、裁判例も蓄積されているところである。この4要件(要素)が存在することについては、会社側が証拠をもって立証する必要がある。 ①~④の要件(要素)を充足させるために、会社が実務的に何を行わなければならないか、以下、解説することにしたい。   2 人員削減の必要性(要件①) 「人員削減の必要性」とは、企業の人員削減が客観的に必要であり、やむを得ない場合である。 実際の裁判例では、必要性の有無につき、会社側の裁量を認める方向にあるといわれているものの、人員削減の方向性とは矛盾するような行動を会社がとっている場合には、解雇無効との判断がなされやすい。 したがって、以下のような行動を会社がとっていないか、とっているとすれば、合理的な説明が可能か、確認すべきである。 なお、裁判になった場合には、直近数年分の財務諸表の提出を求められ、業界動向のほか、売上・営業利益等の変遷、経費の変遷、役員報酬・給与など人件費の変遷、従業員数の変遷などから、客観的に人員削減の必要性を立証していくことになる。財務諸表の事前検討は必須である。   3 解雇回避努力義務(要件②) 整理解雇は、従業員に何ら落ち度がないにもかかわらず、生活の手段を一方的に奪うものである。したがって、会社のとる最終手段である必要があり、解雇を回避するための努力がなされていたかが問われることになる。 実際には、解雇回避としてどのような措置を講じたか、例えば次のような措置を講じたか講じることができたかが、総合的に検討されることになる。 もちろん、このすべてを実施する必要があるわけではなく、企業規模や赤字規模など個別の事情により、実施が求められる程度は当然異なってくる。ただし、実施できない措置があるのであれば、実施できない合理的理由があるのか、事前に検証しておいた方がよいであろう。 なお、上記のうち「希望退職の募集」については、通常、会社の負担もないことから、これを実施しない状況下での整理解雇が困難であることは認識しておく必要がある(ただし、専門的な部署で代替性がなく、企業存続の観点から希望退職を募ることが現実的でないなどの事情がある場合は別である)。実際、裁判においても、希望退職の実施状況については必ず問われることになる。 また、事業所閉鎖などの場合には、配転、出向などの可能性を模索すべきである。なお勤務地限定の雇用契約である場合などであり、通常は業務命令で配転させられない場合であっても、整理解雇にあたっては、少なくとも、転勤等の打診はした方がよい。   4 人選の合理性(要件③) 対象者の選定は、恣意的なものであってはならず、客観的かつ合理的な基準によらなければならない。 実務上、4要件(要素)の中で一番問題となりやすい要件(要素)は、この「人選の合理性」であり、整理解雇が無効とされる事案の多くを占める。 人選の基準としては、勤務態度、勤務成績、担当業務の内容、給与の額、年齢、勤続年数などいろいろ考えられるが、結局のところ、経営再建のために資する基準が何かということであり、これは、各会社の事情によって異なる。 会社としては、会社の個別事情から、その基準を採用する理由について合理的に説明でき、また、その基準自体が客観的なものになるように、恣意的な基準のあてはめ・適用がなされないよう留意する必要がある。 例えば、赤字部門・支店等の廃止・閉鎖に伴い、所属従業員の全部を対象とする場合は、廃止・閉鎖の判断に合理性が認められるのであれば、人選自体は客観的であるため、人選の合理性の観点からは問題とはなりにくい(なお、赤字ではない部門の閉鎖など、いわゆる戦略的整理解雇が認められるかは争いのあるところである)。 一方、勤務成績・勤務態度については、客観的な基準の定立、適用は難しい。この点、人事評価基準が確立しその運用実績のある会社であれば、その評価基準に基づく客観的な人選には、合理性の認められる余地はある。反対に、そのような基準がそもそも存在しない会社において、勤務成績・勤務態度による人選を行うとすれば、改めて基準を定立しなければならないが、なかなか難しい。 少なくとも、従業員に対して適用する基準を公表し、理解を求める等の工夫が必要であるし、処分歴の有無、欠勤の程度など、恣意の入らない客観的な基準によった方が安全である。 いずれにせよ、恣意の入りやすいものについては、整理解雇の有効・無効の問題をさておくとしても、そもそも従業員の納得を得られにくく、訴訟等に発展することが多いので、避けた方がよい。 また、労働組合がある場合において、組合員を狙い撃ちにするような整理解雇は、人選の合理性が問題となり、違法となる可能性が極めて高い。また、整理解雇の有効性とともに、不当労働行為が問題となり、裁判所だけでなく、労働委員会(都道府県に設置される)に対し申立てがなされることがあるので、注意されたい。   5 手続の相当性(要件④) そもそも整理解雇を行うにあたって、「手続の相当性」が要件として必要か否かは、争いのあるところである。 もっとも、労働協約に組合に対する協議説明義務がある場合には、これを行わなければ、整理解雇は無効となる。 また、労働協約がなかったとしても、整理解雇対象者に対する説明は必ず行うべきであると考える。裁判実務上、手続の相当性が、他の3要件(要素)の該当性の判断において実質的に考慮され、解雇の有効・無効の判断に少なからず影響を与えているからである。また、何らの説明のない一方的な整理解雇に対象者が納得するはずもなく、訴訟になるリスクが高いからである。 説明する内容としては、まさに、会社には整理解雇をする必要があり(①人員削減の必要性)、会社としては解雇を回避するために努力してきたけれども(②解雇回避努力義務)、やむなく貴方を解雇せざるを得ない(③人選の合理性)という整理解雇の要件(要素)そのものである。 組合・従業員の納得が得られるまで協議・説明する義務を負うものではないが、根拠・裏付をもって説明し、その疑問については回答し、誠実に対応すべきである。 なお、争われそうなケースであれば、上記①~③について記載した文書を配布し、説明したことの証拠化をしておくことも考えられる。   6 退職金加算について 整理解雇を行うにあたっては、4要件(要素)の充足のほかに、退職金加算もあわせて検討しておいた方がよい。 整理解雇は従業員に著しい不利益を一方的に与えるものである。従業員も通常これを期待しているし、従業員は会社がどの程度自分たちに配慮してくれているかをみている。加算の事実自体が、整理解雇が争われるリスクを現実的に減少させるのである。 裁判例でも、直接、整理解雇の要件として要求しているわけではないが、高額の退職金加算がなされたことを整理解雇が有効であることの根拠として述べているものもある。とりわけ人員削減の必要性が高度ではない事案については、検討した方がよいと思われる。   (了)

#No. 187(掲載号)
#鈴木 郁子
2016/09/29

マイナンバーの会社実務Q&A 【第19回】「外国人従業員のマイナンバーの手続き」

マイナンバーの会社実務 Q&A 【第19回】 「外国人従業員のマイナンバーの手続き」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   〈Q〉 当社は、外国人留学生をアルバイトとして採用しました。外国人従業員に対しても日本人と同様のマイナンバーの取得や保管といった手続きが必要か教えてください。   〈A〉 住民票のある外国人には、マイナンバーが通知される。「住民票のある外国人」とは、住民基本台帳制度の適用対象者の外国人をいい、次の4つに区分される。 外国人留学生は、上記①の中長期在留者に該当する。したがって、マイナンバーが通知されることから、日本人と同様のマイナンバーの取得や保管といった手続きが必要である。 (了)

#No. 187(掲載号)
#上前 剛
2016/09/29

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題 【第5回】「『判断能力・意思能力』の判定方法」-証拠になり得るもの-

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第5回】 「『判断能力・意思能力』の判定方法」 -証拠になり得るもの-    クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   1 証拠収集の必要性 判断能力の有無につき当事者間で主張が対立した場合、通常、お互いにそれぞれの手持ち証拠を相手方に示したうえで示談交渉し、それでも解決できなければ民事訴訟を提起し、裁判所に公的に判断してもらうという流れとなる。 この場合、証拠裁判主義の下ではどのような証拠が存在するのかが決定的に重要であるから、紛争となる前から自己に有利な証拠につき関心を持ち、予め入手を試みておくということが非常に重要である。 そこで、今回は、判断能力について争いが生じた場合、どのような資料が証拠となり得るのかについて説明したい。   2 代表的な証拠(その1):長谷川式テスト(HDS-R)の判定結果 (1) 長谷川式テストの判定結果は証拠となり得るか 【第4回】では、わが国で広く用いられている「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」(長谷川式テスト)の内容について説明した。 当事者間で有効性が争われている行為(例えば、売買契約)と近接する時期に長谷川式テストが実施されている場合には、この点数が非常に有力な証拠の一つとなる。 この点、医学上は、長谷川式テストだけでは認知症の確定診断はできないとされている。 しかし、裁判の現場では、普及度が高く、精度も相応の確率を有しているとの特徴から、長谷川式テストの判定結果が重視される傾向にある。 したがって、紛争当事者としてまず着目すべきであるのは、過去に長谷川式テストが実施されていないかという点である。 また、仮に争いとなっている行為の時点からまだ長期間が経過していない場合には、現時点における専門医の問診・診断を得ることを検討すべきである。 (2) 長谷川式テスト実施にあたっての留意事項 なお、長谷川式テストに関して留意すべき点を、以下2点補足する。 長谷川式テストは、口頭の質問のみで構成されるため、誰でも簡単にテストを実施し判定ができると考えがちである。 しかし、正確な判定をするためには、テストを実施する上で細かな決まり事を順守する必要がある。 一例を挙げれば、設問5番(100から7を引いていく設問)において、仮に被験者が93と正答したとしても、「では、93から7を引くと?」と質問することは誤りである。この設問では、最初に出た答えを保持していられるかどうかもテストしているので、正しくは、「では、それからまた7を引くと?」と質問すべきなのである。 そのため、テストの実施方法が適切なものであったのかが争われる場合がある。 対策としては、長谷川式テストは専門医のもとで実施してもらい、医師の診断書に長谷川式テストの結果や所見を記載してもらうという方式が確実である。 また、テストの実施時期の問題も存在する。 【第2回】で説明したように、判断能力の有無は、個別具体的に、問題となる行為ごとに判定される。そのため、仮にテストの時点(仮に1月1日とする)で認知症に罹患していると判定された場合であっても、その半年前である7月1日時点で判断能力が既に減弱していたかというと、それは不明である。認知症の原因疾患の中には、急激に増悪する類型もあるからである。 また、【第2回】で説明した認知症の代表的な4類型の中には、いわゆる「まだらボケ」の症状を呈するレビー小体型認知症等も存在する。 このような場合には、前述の例では、たとえテスト当日である1月1日になされた行為が問題となる場合であっても、「当該行為は意識が清明な時間帯になされたものであるため、判断能力を有していた」と反論される可能性もある。 このようなケースでは、他の証拠をあわせて立証していく必要が出てくる。   3 代表的な証拠(その2):医学的検査の結果等 (1)  神経心理学的検査の結果 前述の長谷川式以外にも、世界的に広く用いられているMMSE(Mini Mental State Examination)のほか、時計描画検査やN式老年者用精神状態尺度など、認知機能を調べるための神経心理学的検査は多数存在する。 仮にこのような検査が実施されている場合には、これらの実施結果も判断能力を判定するための証拠となり得ることは勿論である。 ただし、これらの検査方法は、法曹関係者にとって一般的でないものも含まれており、検査の概要や仕組み、判断能力の判定において当該検査結果がいかなる重要性を有しているのか必ずしも明らかでない場合がある。 そのため、証拠として用いる場合には、検査方法につき解説した文献を添付したり、検査結果について医師の意見書を作成してもらう等の工夫が必要であろう。 (2)  医師が作成した意見書・鑑定書等 医師が、当該本人の判断能力に関して意見書・鑑定書を作成している場合には、有力な証拠の一つとなる。 これら意見書・鑑定書の記載方法に関しては、最高裁判所が公開している「成年後見制度における鑑定書作成の手引」という資料が参考となる。 同書の内容は、成年後見の申立時以外でも、判断能力の有無が問題となる場合に広く有用である。医師に診断書の作成を依頼する場合にも、念のため参照してもらうことが好ましいであろう。 ただし、医師の意見書・鑑定書の取扱いに関しては、①意見書の内容それ自体もさることながら、②意見書作成の時期(診断の時期)も問題とされることがある。このことは、前述の長谷川式テストの場合と同様である。 他方、医師が、判断能力の判定とは直接的には無関係の疾病について診断書等を作成している場合に、その診断の過程で認知症ないし判断能力に言及されているケースも考えうる。 このような場合の取扱いは案件ごとに異なるが、認知症ないし判断能力に関する診断・判定部分がどこまで具体的かつ詳細に記載されているか、また、診断の根拠となる検査結果やデータはいかなるものであったのかが重要となろう。 (3)  入院先のカルテ、入居先施設の看護記録等 判断能力が問題とされている本人が入院していたり、介護施設等に入居している場合、看護日誌等が作成されている場合が多い。 この中には、日常生活における本人の行動の状態が具体的に記載され、その日に起こったエピソード等が記述されている場合もある。 たとえば、「この日は朝から調子が悪く、周囲からの呼びかけにも応答せずコミュニケーションが全く成立しなかった」、「本人の言動を見ていても、自分や周囲の状況が理解できていない様子であった」、それとは逆に、「介護者と日常的な会話が成立して、ごく普通の状態であった」等である。 判断能力が問題となる日付の当日、あるいはその前後の期間において以上のような特徴的なエピソードが発見されれば、これもまた、判断能力の有無を事後的に判定する場合の判断材料の一つとなる。   4 代表的な証拠(その3):日常生活上で作成された書類等 (1)  本人の日記、自筆の手紙・文章 本人の日記等も証拠となる場合がある。 たとえば、本人が、日々の出来事を、しっかりとした文字で自ら綴っている場合には、基本的な認知能力に問題はないという方向の証拠として主張していくことができる。 (2)  親族の介護日誌、本人の日常生活を撮影したビデオ等 親族の介護日誌等において本人の言動や様子等が記載されている場合には、これもまた本人の判断能力を判定するための一材料となる。   5 まとめ 以上は、代表的な証拠の具体例を挙げたものに過ぎない。 どのようなものが証拠となり得るかはケース毎に変わってくるものであるし、また一つ一つの証拠の評価・軽重も、証拠全体の総合判断となる。争いある場合には、最終的には裁判官の判断となる。 このような事情があることから、判断能力の有無が争点となることが予想される事案では、「裁判官による事実認定の感覚」を広く経験として有している弁護士に相談する等の方法が有用であると思われる。 (了)

#No. 187(掲載号)
#栗田 祐太郎
2016/09/29

《速報解説》 会計士協会、「スキャナ保存制度への対応と監査上の留意点」(公開草案)を公表~税制改正を受け監査証拠がイメージ文書となる場合の留意点など示す~

《速報解説》 会計士協会、「スキャナ保存制度への対応と監査上の留意点」 (公開草案)を公表 ~税制改正を受け監査証拠がイメージ文書となる場合の留意点など示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年9月26日、日本公認会計士協会は、IT委員会研究報告「スキャナ保存制度への対応と監査上の留意点」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 公開草案は、平成27年及び平成28年の電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(以下「電子帳簿保存法施行規則」という)等の改正によるスキャナ保存制度の緩和の内容を周知し、企業がスキャナ保存制度を採用している場合の監査上の対応について述べている。 意見募集期間は平成28年10月26日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 電子保存とは、当初から電磁的記録で作成された文書を電磁的記録で保存すること及び書面で作成された書類をスキャナでイメージ化し、電磁的記録で保存することの両方を含んでいる(公開草案Ⅰ、1)。 1 平成27年度税制改正後のスキャナ保存制度 平成27 年度税制改正及び平成28年度税制改正の概要について述べている(公開草案「付録2:平成27年度・28年度税制改正の詳細」も参照)。 平成28年の電子帳簿保存法施行規則の改正によりスキャナ保存における入力機器は、「原稿台と一体になったものに限る」という要件が外されたことから、ハンディスキャナやデジタルカメラ、スマートフォン搭載のカメラによる撮影データによる電子データ化も認められることになった。 2 監査証拠がイメージ文書の場合の留意点 スキャナ保存制度により、企業は当初書面で受け取った証憑についても、電子的イメージとして保存できるようになる。 書面からイメージ文書への媒体の変換は、企業の管理下において実施されるので、会計記録や監査証拠が、オリジナルな形を変えることとなり、そこに種々のリスクが想定される(公開草案Ⅲ)。 監査人は、スキャナ保存制度の導入による被監査会社におけるリスクの発生及びそれに対応した内部統制の変化に留意するとともに、監査証拠の質の変化に伴う発見リスクの変動にも留意することになる(公開草案Ⅲ)。 3 経営者による内部統制の構築 書面からイメージ文書への媒体の変換により、紙の文書に比べて保存場所を取らないため保管コストが低減されるなどの利点がある。 その一方で、例えば、改竄やすり替えなどの不正行為の痕跡が残らない可能性、システム障害などにより文書が消失する可能性などのリスクがある(公開草案Ⅲ、1(1))。 そこで、経営者は、これらのリスクを低減する適切な内部統制を構築することにより対応することが述べられており、全般統制、業務処理統制等の整備・運用について詳細に述べられている(公開草案Ⅲ、1(2))。 4 監査人の対応 重要な業務処理に関するプロセスにおいてスキャナ保存手続が採用されている場合、スキャナ保存手続に関する全般統制及び業務処理統制について理解し、その整備・運用状況の有効性を評価することが考えられる。 被監査会社におけるリスク及びそれに対応して構築された内部統制を前提にして、監査人が実施する監査手続について述べられている(公開草案Ⅲ、2)。 公開草案では、「データ提供依頼書の例」を示し、監査人は、企業とイメージ文書入手の手続等をあらかじめ決定しておくことが望ましいとしている(公開草案Ⅲ、4、【図表2】データ提供依頼書の例)。 5 原本の保存に関する被監査会社との協議 自主規制・業務本部 平成27年審理通達第3号「平成27年度税制改正における国税関係書類に係るスキャナ保存制度見直しに伴う監査人の留意事項」(平成27年9月30日)では、「監査上必要と判断される金額以上の契約書など、重要な監査証拠となり得る書類の原本を、監査に必要な期間、保存することの必要性に関して、被監査会社と事前に十分協議することが適切と考えられる。」とされている。 被監査会社との事前の協議事項のポイントとして、次の事項が挙げられている(公開草案Ⅲ、3)。 (了)

#No. 186(掲載号)
#阿部 光成
2016/09/28

《速報解説》 関信局、庭先部分を相続した場合の小規模宅地等特例の適用について文書回答事例を公表

 《速報解説》 関信局、庭先部分を相続した場合の小規模宅地等特例の適用について 文書回答事例を公表   税理士 菅野 真美   関東信越国税局は9月20日付けで、庭先部分を相続した場合の小規模宅地等特例の適用について、下記の文書回答事例を公表した。   ▷どのような事案を事前照会したのか? 被相続人甲の居住の用に供していた家屋の敷地はX部分とY部分の2筆から成り立っていた。甲の生前から相続人Aがこの家屋で同居し、相続開始後も継続してAが居住していた。 この居住用不動産のうち、家屋並びにY部分の敷地は相続人B(甲の養子)が取得し、X部分はAが取得した。Y部分の上に居住用家屋が建てられており、X部分には建てられていない。 この場合、X部分について、小規模宅地等の特例の適用があるか。   ▷何が問題か? 被相続人の所有する居住用家屋の敷地について小規模宅地等の減額の特例が受けられる条件の1つとして、『被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族が、その被相続人の居住の用に供された宅地等を相続により取得し、相続開始から申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、その建物に居住している』というものがある。 相続人Aは相続前から引き続き被相続人の居住していた家屋に居住している。そして、居住用家屋の敷地のうちX部分を取得している。ただし、このX部分の上には居住用家屋は建っていない。 被相続人の居住の用に供された宅地等の減額の趣旨が「相続人において居住の用を廃してこれを処分することについて相当の制約を受けるのが通常であることから、相続税の課税価格に算入すべき価額を計算する上において、政策的な観点から一定の減額をすることとした」(東京地裁平成23年8月26日判決等)と考えると、X部分の土地は、家屋を廃することなく処分することが可能なことから、小規模宅地の減額の対象にはならないのではないかとも考えられる。   ▷結論は? 今回公表された事例では、居住の用を廃する必要があるかどうかではなく、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供された家屋で所有していたものの敷地としてX部分、Y部分が一体として供されていたものであることから、X部分について小規模宅地の特例の対象になると結論付け、この意見で差し支えないとされた。 (了)

#No. 186(掲載号)
#菅野 真美
2016/09/23

プロフェッションジャーナル No.186が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年9月21日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.186を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/09/21

山本守之の法人税“一刀両断” 【第27回】「課税要件法定主義を考える」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第27回】 「課税要件法定主義を考える」   税理士 山本 守之   第1節 課税要件と交際費等 1 交際費の課税の趣旨 交際費課税の趣旨は、この制度が創設された当時と現在とでは大いに異なっているが、その判決例を検討してみると、依然として創設当時の古い考え方が残っているのが気にかかります。 例えば、平成15年9月9日の東京高裁における「萬有製薬事件」における判決文では、交際費課税の趣旨を次のように述べています。 確かに、この制度の創設時(昭和29年)には冗費、濫費を抑制して資本を蓄積させようという趣旨であったことは事実です。 判決文の③は、いわゆる代替課税として説明されていたものです。 例えば、売上割戻しを金銭又は事業用資産で行った場合、相手方収益に計上されて課税が確保されているから支出した側では交際費等としません。これに対して事業用資産以外の資産の交付では相手方において課税が確保されているとは限らず、飲食の接待等についてはその経済的利益が課税されないから、支出する側で交際費課税をするというものでした。 例えば、昭和45年当時の税の専門誌には、次のような解説がありました。 (『税務弘報』vol.18 No.12 国税審理室(当時)桜井巳津男稿) しかし、現在ではこのような代替課税のねらいは通用しません。 例えば、法人が創立〇周年パーティー等を催した場合に、来客が持参するお祝い金をそのパーティー費用から控除することを認めない現行の取扱いに対して「お祝い金を持参する法人は、そのお祝金について交際費課税を受けているのであるから、これを控除しないのは代替税の考えからみても不合理である」という主張をしたとしても、「二重課税が生ずるとしても、それは立法政策の問題であり、法解釈上は格別の意味を持つものではない」(平2.11.19浦和地裁)と斥けられています。 萬有製薬事件の東京高裁判決は全体として評価できます。しかし、交際費課税の趣旨については少々古い時代の解説を拠り所にしているように思われます。   2 交際費の課税要件 課税要件法定主義は次のように考えられます。 (『税法用語辞典』税務大学校研究部長監修 大蔵財務協会) 税法に携わる者は、課税要件を無視してはなりません。その意味では、「萬有製薬事件」の東京高裁判決(平15.9.9)は交際費における課税要件(成立要件)を真正面から検証し、その課税要件(①の支出の相手方、②支出の目的、③行為の態様)について、いわゆる三要件説の立場から、法的基準に基づく判示を行っている点が注目されます。 とかく税理士等の実務家は交際費等の判定に関し、措置法関係通達やその解説書、質疑応答等の記述を拠り所にする傾向があります。税理士が単なる職業会計人ではなく、租税法に関する専門家であると考えると、法的基準である課税要件を重視した実務を行うべきであるという教訓を与えてくれたものとして注目されます。 特に、税理士法により税理士に出廷陳述権が与えられたことからも、会計実務を超えた法律家としての素養が税理士に求められているように思われます。 筆者は判決例による交際費課税の成立要件は次のように変化しており、「このうち三要件説は支出の目的と行為に態様を区分しており、一般的にすぐれていると考えられよう。」と解説しました(拙著『交際費の理論と実務』税務経理協会)。   3 本件の概要 本件の概要は次のようなものでした。   4 行為の態様 交際費等の第3の成立(課税)要件は、行為の態様として「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」であることが必要であるとされています。 ところで、ここで問題になるのは、交際費の課税要件として「相手方の受益の認識が必要であるか否か」という点です。 この事件で重要なことは、X社は添削料の差額負担の事実を医師等や研究者等に知らせていなかった点です。 このため、X社は「交際費等に該当するためには、その相手方が、接待等により利益を受けていると認識できるような客観的状況の下に行われることが必要である。」という解釈基準を示し、その基準に立脚して「本件負担額については、本件英文添削が、その依頼者において、原告による本件負担額の支出によって利益を受けていると認識できるような客観的状況の下に行われていないことから、交際費等に該当しない。」と主張したのです。 この点について国側では「支出の目的がかかる相手方に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のためであれば足り、接待等が、その相手方において、当該支出によって利益を受けていると認識できるような客観的状況の下に行われることは必要でない。交際費等に該当する接待等の行為は、相手方の欲望を満たすものである必要はない。」と主張していました。 その事例として「飲酒の嗜好の全くない事業関係者に対して、そのことを全く知らずに飲酒の接待を行った場合、相手方の欲望は満たされていないが、接待等の行為に該当する」ことを挙げています。 ところで、注目すべきは、判決では、交際行為(接待等に該当する行為)を「一般的に見て、相手方の快楽追求欲、金銭や物品の所有欲などを満足させる行為をいうと解される。」としていることです。 この意味からすれば、来客に昼食等を提供したとしても、それが会社通念上通常の程度のもので、相手方の個人的歓心を買うような利益を与えている(又は与えられている)という認識がなければ交際費等に該当しないと解すべきです。 ここでも、交際費の課税要件である「行為の態様」は成立しないと判示されました。   5 不確定概念 租税特別措置法第61条の4第3項では、交際費の定義を「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これに類する行為のために支出するもの」と規定していますが、「その他」という不確定概念を多用し、規定それ自体が課税要件明確主義に反するおそれが強いと思われます。 (注) 下線は筆者が付けました。 筆者がかねがね疑問に思っているのは、課税庁やそのOBが執筆した解説書や質疑応答集では、接待、供応、慰安、贈答に続く「その他これらに類する行為」を幅広く解しているという点です。 本件訴訟においても国側は、「その他これらに類する行為」とは接待、供応、慰安、贈答とは性格が類似しつつも、行為形態の異なるもの、すなわち、その名目のいかんを問わず、取引関係の円滑な進行を図るためにする利益や便宜の供与を広く含むものであると主張しました。 これに対して判決では、「課税の要件は法律で定めるとする租税法律主義(憲法84条)の観点からすると『その他これらに類する行為』を国側主張のように幅を広げて解釈できるか否かが疑問である。そして、ある程度幅を広げて解釈することが許されるとしても、本件英文添削のように、それ自体が直接相手方の歓心を買うような行為ではなく、むしろ学術研究に対する支援、学術奨励といった性格のものまでがその中に含まれると解することは、その字義からして無理があることは否定できない」としています。 差額負担を交際費等における行為の態様である「金銭の贈与」であるという考え方もあるでしょう。 しかし、本件の場合は研究者らにおいてそのような利得があることについて明確な認識がない場合です。差額負担は相手方の個人的歓心を買うことができず、交際費等となる金銭の贈答には該当しません。 結局、行為の態様からみると、「本件英文添削の差額負担は、通常の接待、供応、慰安、贈答などとは異なり、それ自体が直接相手方の歓心を買えるというような性格の行為ではなく、むしろ学術推奨という意味合いが強いこと、その具体的態様等からしても、金銭の贈答と同視できるような性質のものではなく、また、研究者らの名誉欲等の充足に結びつく面も希薄なものであることなどからすれば、交際費等に該当する要件である「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」をある程度幅を広げて解釈したとしても、本件英文添削の差額負担がそれに当たるとすることは困難である。」として交際費課税を取り消したのです。   第2節 個人所得における利子認定 1 平和事件の上告審から 「平和事件」の上告審の判決が平成16年7月20日に最高裁第三小法廷で出され、納税者が全面敗訴しました。この事件を巡って実務家や学者から多くの意見が出され、メールでも活発な意見交流がありました。 この事件は筆者にとっても興味のあるものでしたが、当初から筆者の主張は少数派だったようです。最高裁判決に対する筆者の考え方を述べてみます。   2 会社側の主張 会社側は、①所得税法第36条による収入すべき経済的利益はない、②したがって所得税法第157条の適用余地はない、③無利息貸付けは会社の利益を増加させているから不合理、不自然な行為ではない、④所得税法で利子認定をしないことにしていることは市販の質疑応答集でも明らかにされている、と主張していました。 中島氏は雑誌『税理』のインタビューでも、“所得がないところになぜ税金がかかるのか”と不満を述べており、同誌の特集(『税理』vol.36 No.5)でも税理士や学者が“所得なきところに課税なし”と意見を展開していました。 この点について筆者の主張は下級審の頃から「収入すべき経済的利益がないということは同族会社等の行為又は計算の否認規定(所法157)の適用を受けない場合に主張できるので、所得税法第157条の適用を受けないというのは理論の展開が逆である。また、所得があるか否かは所得税法第157条の適用を含めたところで判断されるべきである。」というものでした。 しかし、この主張は少数派であって、多くの学者や実務家は、「所得税法では利子の認定課税はできない」というものでした。筆者の主張を支持していたのは故中村利雄氏だけであり、同氏は「無利息貸付けの場合についてみれば、なるほど、納税者の申告ではこの貸付けによる所得はないが、経済人であれば通常有利息貸付けとしてその利息収入が所得となるべきものが、無利息貸付とすることにより、その貸付けによる所得の課税を回避したものであるから、その租税回避行為を否認し、有利息貸付けに引きなおしたところで判断すれば、所得がないとはいえないこととなる。つまり、山本守之氏が述べている『所得があるか否かは所得税法第157条の適用を含めたところで判断されるべき』ものである。」(『税理』vol.36 No.13)としておられました。 この事件は所得があるか否かではなく、同族会社等の行為又は計算の否認規定が適用されるか否かが検討されるべき事柄なのです。 もし、その適用が当然ということであれば、行為又は否認によって所得金額が生じてしまうからです。   3 信義則との関係 納税者とその顧問税理士は、個人から法人への無利息貸付けに対して、所得税を課さないと理解していたようで、このように解したのは、いわゆる「お役所本」に次のような記述があったからだとしています。 例えば、前職及び現職の東京国税局税務相談室長が編集した『昭和58年版・税務相談事例集』には、会社が代表者から運転資金として無利息で金銭を借り受けたという設例について、所得税法、別段の定め(同法第59条等)のあるものを除き、担税力の増加を伴わないものについては課税の対象とならないとして、参照条文として同法第36条第1項を挙げた上で、代表者個人に所得税が課税されることはない旨の記述があります。 また、東京国税局直税部長が監修し、同局法人課税長が編集した『回答事例による法人税質疑応答集』(昭和55年3月発行)及び『昭和59年版・回答事例による法人税質疑応答集』には、会社が業績悪化のため資金繰りに困って代表者から運転資金500万円を無利息で借り入れたという設例について、所得税の課税の対象となる収入金額とは「収入すべき金額」(所得税法第36条第1項)とされており、無利息で金銭の貸付をした代表者は、経済的利益を受けていないから所得税の申告をする必要がない旨の記述がありました。 これらの解説書(お役所本)には、編者、推薦者及び監修者が官職名を付して表示され、各巻頭の「推薦のことば」、「監修のことば」等には、その内容が、東京国税局税務相談室その他の税務当局に寄せられた相談事例及び職務執行の際に生じた疑義について回答と解説を示すものである旨の記載があります。また、本件各解説書の各巻末には、その発行者である一般財団法人大蔵財務協会が旧大蔵省の唯一の総合外殻団体であり、財務、税務行政の改良、発達及びこれに関する豆知識の普及という使命に基づいて出版活動を続けている旨の記載があります。 このため、平和事件の控訴審では とされました(平11.5.31東京高裁)。 しかし、自由職業人として独立し、税の専門家とされる税理士が法解釈について「お役所本」を頼りにし、分からないことがあると課税庁(税務署)に教えを請うという事情を悲しいと感じていた筆者は、この中途半端な高裁判決を納得することができませんでした。 幸いなことに最高裁では、次のような判決が出されました。 (平16.7.20最高裁第三小法廷) 確かに、お役所本では、業務悪化のため資金繰りに窮した会社のために代表者個人が運転資金500万円を無利息で貸し付けたというケースについて、代表者の経営責任が棚上げされたというケースや別段の定めのあるものを除くという前提条件を付した上で認定課税をしないとしていますが、これをもって、個人から法人への無利息貸付けには、税務上の認定課税はないと単純な考え方をするのは問題です。 それよりも、経営者や税理士は、それぞれ租税法解釈権をもっているので、そろそろ「お役所本」から抜け出してもいい頃ではないでしょうか。 実は、この事件の発生した当時は、税理士が頭の体操的節税に夢中であった時期であって、税の専門誌(『速報税理』平5.2.21号)の「相続税対策ノート」では、関西居住の公認会計士、税理士であり大学の教授であるY氏が次のような相続税節税対策を解説しています。 このように、個人が法人に対して時価の2分の1以上で譲渡すれば、個人サイドでは、たとえ時価を下回っていてもその譲渡収入は譲渡価額となり、一方、法人サイドでは、時価と譲受価額との差額を受贈益とされても、その後法人が他に譲渡した場合には、その譲受価額に受贈益を加算した金額が取得価額(譲渡原価)となり、節税となるというものです。 なるほど、この節税策は、所得税法第157条を度外視した一般的な事例としては、そのとおりです。しかし、同条の適用はないとする保証はないから、場合によってはその適用のあることも指摘するべきであったと考えます。 この点について故・中村利雄氏が「この点については、山本守之氏が税理5月号で述べている『納税者や実務家が頭の体操的な『節税』手法に夢中となり、正常な取引のあるべき姿を見失っている』との指摘に同感である。」としています(『税理』Vol.36 No.13)。 平和事件における無利息貸付について、これと同じように安易な節税発想がなかったか否か、また、個人から法人への無利息貸付については認定課税がないという平面的な法解釈がなかったかを問いたださなければなりません。 さらに、法解釈を「お役所本」に委ね、自らの法解釈権を放棄し、信義則適用を主張するという主体性のない態度をとっていなかったかも反省すべきです。 (了)

#No. 186(掲載号)
#山本 守之
2016/09/21

「更正の予知」の実務と平成28年度税制改正【第1回】

「更正の予知」の実務と 平成28年度税制改正 【第1回】   税理士 谷口 勝司     1 過少申告加算税と更正の予知の制度概要 (1) 過少申告加算税 過少申告加算税は、申告納税方式をとる法人税、所得税、消費税、相続税等の期限内申告書が提出された場合等において、その後修正申告書の提出又は更正があったときに、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額(以下「追加本税額」という)に対し、原則10%の割合で、賦課課税方式により課される加算税である(通則法65、16)。 要するに、過少申告加算税は、期限内申告を行った後に追加本税額が生じた場合にいわば自動的に賦課される加算税である。ただし、追加本税額が生じない修正申告又は更正(例えば、法人税の欠損金額を減少させるもの)の場合には、当然賦課されることはない。 加算税には、他にも無申告加算税、不納付加算税又は重加算税があるが、過少申告加算税は最も一般的なものといえよう。 10%の加算税割合には、いくつかの例外がある。一つは、いわゆる二段階制であり、追加本税額が、期限内申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超える場合は、その超える部分については5%加重されて15%の割合となる(通則法65②③)。また、もう一つは国外財産調書又は財産債務調書に関するもので、5%加重又は5%軽減の措置が講じられている(国外送金等調書法6、6の3)が、詳しくは割愛する。 さらに、後述する平成28年度税制改正では、調査に係る事前通知後は5%の割合で新たに賦課されることになった。 (2) 更正の予知 過少申告加算税の賦課が例外的に免除される規定として、「更正の予知」がある。 すなわち、国税通則法第65条第5項では、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る事前通知がある前に行われたものであるときは、過少申告加算税を賦課しない旨を規定している(下線部分は平成28年度改正箇所)。 平成28年度改正後の規定はやや読みにくいところがあるが、ごく簡単にいえば、更正の予知・事前通知のいずれもない場合において提出された修正申告書(換言すれば、納税者からの自発的な修正申告書で、実務上は自主修正とも呼ばれる)については、過少申告加算税を賦課しないとするものである。 なお、無申告加算税には「決定の予知」という軽減規定があるが、その規定振り等は更正の予知とほぼ同じであり、さらに、不納付加算税には「納税の告知の予知」という軽減規定がある。   2 平成28年度税制改正 今般の平成28年度税制改正において、加算税制度について何点かの改正が行われた。 その改正点の中で、更正の予知に関するものとして、 という改正が行われた(通則法65①②⑤、通則令27③)。 改正前は、更正の予知がある前に提出された修正申告書については過少申告加算税が賦課されなかった(免除されていた)ところ、改正後は、更正の予知がある前に提出された修正申告書であっても、調査に係る事前通知以後に提出されたものである場合には、新たに原則5%の過少申告加算税の賦課を行うというものである。 なお、無申告加算税についても、上記と同様に、調査に係る事前通知から決定の予知までの間は、原則10%(改正前:5%)の割合とする改正が行われたが、源泉所得税に係る不納付加算税についてはこのような改正は行われていない。 これらの改正は、いずれも、平成29年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用される(改正法附則54③)。 平成25年1月以降、法定化された調査手続規定に基づき、実地の調査(国税の調査のうち、当該職員が納税義務者の支配・管理する場所(事業所等)等に臨場して質問検査等を行うものをいう。以下同じ)については、納税者(税務代理人を含む)に対して事前通知が原則行われているが(通則法74の9①)、今回の改正は、この事前通知の直後に多額の修正申告等を行うことにより(更正の予知がないとして)、加算税の賦課を回避している事例が散見されたことが背景にあったと趣旨説明がなされている(下記参照)。 当初申告のコンプライアンスを高める観点から行われた今回の改正は、自身の申告が過少申告であることを知っている納税者が事前通知を受けてから修正申告書を提出する、あるいはあえて過少申告をしておいて事前通知を受けてから修正申告書を提出する、といった不誠実・悪質な行為を抑制するものであって、後述する加算税制度の趣旨に沿うものであろう。 なお、実地の調査であっても、国税当局が保有する情報等から、事前通知を行うことにより正確な事実の把握を困難にする、又は調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、法令上事前通知を要しない(通則法74の10)こととされている(※)。また、実地の調査以外の調査(この点は後述)についても、事前通知を行うことが法律上義務付けられておらず(通則法74の9①)、これらの調査は実務上、いわゆる事前通知は行われていない。 (※) 事前通知を行うことなく実地の調査を実施する場合には、実務上、臨場後速やかに、調査対象税目、調査対象期間、実地調査を行う旨等を納税者に説明することが通達(平成24年9月12日付 課総5-11ほか「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」(以下「調査運営通達」という))に定められている。 これらの調査と今回の税制改正との関係について現時点で明らかにされているものはないが、事前通知や後述する更正の予知に関するこれまでの税務執行・取扱いに変更がないことを前提にすれば、これらの調査に係る過少申告加算税の取扱いについては、今回の税制改正による影響はないと見込まれる。 また、次の①及び②の修正申告等については、今回の改正による加算税の対象外となることが、今後通達等において示される予定である、と説明されている(前掲「平成28年度税制改正の解説」874頁参照)。 上記①について若干敷衍すると、現行の法人税の調査実務では、納税者の事前の同意がある場合には、法人税調査を「移転価格調査」と「それ以外の部分の調査」に区分して別々の調査として実施するという運用が行われている。これは、移転価格調査は通常長期間にわたることが多いこと等の理由から、1つの納税義務ではあるものの、納税者の負担軽減策のため、調査を区分して別々の調査として実施しようというものである。 この納税者の区分の同意を得て、例えば、「移転価格調査」を行うため事前通知を行った後、移転価格以外の部分に関して修正申告書が提出されたとしても、移転価格以外の部分について調査及び事前通知は行われていないため、28年度税制改正後においても、この修正申告について過少申告加算税は賦課されないことになるということであろう。また、このことは、連結納税の調査において、複数の連結子法人のうちの一部を調査対象として事前通知を行った場合に、調査対象以外の連結子法人に関して修正申告書が提出されたときも、同様である。 いずれにせよ、上記①及び②については、今後通達等で示される予定とのことなので、具体的な内容は通達発遣等を待つこととしたい。 ところで、今回の税制改正を契機に、例えば更正の予知とは具体的にいつの時点なのか等、改めて「更正の予知」とはどういうものか、調査などの税務執行において実務上どのように取り扱われているか等を理解しておくことが重要になってくると思われる。 そこで、次回以降、法人税の過少申告加算税に関する「更正の予知」を中心に、その取扱いを説明していくこととする。   (了)

#No. 186(掲載号)
#谷口 勝司
2016/09/21

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例42(贈与税)】 「居住用部分の床面積だけで判定したため、修正申告となり、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税特例」の適用が受けられなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例42(贈与税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税特例(措法70の2①) 平成27年中に直系尊属からの贈与により一定の住宅用家屋の新築等に充てるための金銭の取得をした一定の受贈者が、住宅用家屋の新築等についてそれぞれ一定の要件を満たすときは、その贈与により取得した住宅取得等資金のうち1,000万円までの金額については、贈与税の課税価額に算入しない(平成27年以後の非課税限度額については、こちらを参照)。この非課税制度には、取得した新築住宅の床面積が50㎡以上240㎡未満でなければならないという基準が設けられており、床面積基準の判定は、贈与を受けた者の居住の用以外の用に供されている部分も含めた家屋全体の床面積で行わなければならない。   ◆住宅用家屋の要件(措令40の4の2①) この非課税特例制度の対象となる住宅用家屋とは、特定受贈者の居住の用に供する家屋で、次の要件を満たすものをいう。 したがって、店舗兼住宅の場合でも、居住用部分の床面積だけで判定するのではなく、家屋全体の床面積で判定を行わなければならない。       (了)

#No. 186(掲載号)
#齋藤 和助
2016/09/21
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