《速報解説》 「財務諸表のレビュー業務」に関する実務指針が確定 ~Q&A(研究報告)も同時に整備~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年1月26日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が公表している国際レビュー業務基準(ISRE)2400「財務諸表のレビュー業務」を参考に、わが国の財務諸表に対するレビュー(限定的保証業務)に関する実務上の指針を整備するものである。保証業務実務指針は、会則41条に基づき、日本公認会計士協会の会員が遵守しなければならない職業的専門家としての基準等を構成する。 これにより、これにより、平成27年8月14日(ホームページ掲載日)から意見募集していた公開草案が確定することになる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 財務諸表のレビュー業務の主な内容 1 背景の説明 Q&Aでは、今回の保証業務実務指針を公表する背景として、次の説明を行っている(Q&Aの3項)。 2 財務諸表のレビュー業務 財務諸表のレビュー業務の特徴は、次のとおりである(5~7項、12項)。 次のものが付録として示されている。 3 範囲 保証業務実務指針は、以下に関する実務上の指針を提供するものである(1項)。 次のことに注意する(2、3項)。 4 要求事項の構成 保証業務実務指針には、「本実務指針の範囲及び目的」、「要求事項」及び「適用指針」が含まれている(9項)。 要求事項は、「~しなければならない」という表現で記載されており(10項)、職業倫理に関する規定、職業的専門家としての懐疑心及び判断、業務の実施、実施した手続から入手した証拠の評価、レビュー報告書などについて規定している。 適用指針は、要求事項の詳細な説明及びその実施のための指針を提供するものである。 Ⅲ 保証業務実務指針2400に係るQ&Aの主な内容 1 レビュー業務によって得られる保証水準(Q3、Q5) 保証業務実務指針2400に準拠したレビュー業務は限定的保証業務である。 一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して実施される監査業務は合理的保証業務である。 四半期レビューの基準に準拠したレビューと保証業務実務指針2400に準拠したレビューでは、実施者の要件や、重要な虚偽表示が発生する可能性の識別・評価、内部統制の理解に関する要求事項等に相違がある。 一般的には、これらの相違により四半期レビューの基準に基づくレビュー業務の方が保証業務実務指針2400に基づくレビュー業務より、結果的に保証水準が高くなる場合が多いと考えられている。 2 結論の類型(Q15) レビューの結論の類型は、無限定の結論と除外事項付結論がある。 除外事項付結論の類型の説明として、次の表が記載されている(Q&A15)。 Ⅳ 適用時期等 適用時期は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 会計士協会、昨今の度重なる会計不祥事を受け 「監査提言集(特別版)『財務諸表監査における不正への対応』」及び 会長通牒を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年1月27日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 上記の会長通牒には次の記載がある。 平成27年12月22日には、会長声明「公認会計士監査の信頼回復に向けて」が公表されているところである。 なお、文中、意見に関する部分は私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査提言集(特別版)「財務諸表監査における不正への対応」の主な内容 1 構成 監査提言集(特別版)は、不正による重要な虚偽表示を見逃さないために監査人が留意すべき事項について、改めて注意喚起するために発行したものである。 ただし、提言集は監査実務指針を構成するものではないと述べられている。 主な項目は次のとおりである。 2 主なポイント 提言集では、様々な内容が述べられているが、ここでは特徴的な記載を紹介する。ぜひとも提言集の全体をお読みいただきたい。 Ⅲ 会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」 会長通牒は、昨今の度重なる会計不祥事は監査の信頼を揺るがすものであり、公認会計士監査の信頼回復のために、特に留意する事項を示し、真摯に監査業務に取り組むことを強く要請している。 特に留意する事項としてあげられているものは、次の7項目である。 (了)
2016年1月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.154を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第19回】 「消費税の軽減税率を検証する」 税理士 山本 守之 今回は連載タイトルとは異なりますが、消費税の軽減税率について検証してみます。 1 軽減税率の内容 消費税の軽減税率については、自民・公明両党の間で意見の相違がありましたが、次のように決定しました。 ① 対象品目 (出所) 財務省資料 上記における「外食」は次のように定義されます。 これは、取引の場所と態様(サービスの提供といえるか)に着目して定義しているのです。 事例で区分すると次のようになります。 (出所) 財務省資料 ② 税率 次のようになります。 ③ 適格請求書等の保存方式 平成33年4月から、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されます。 適格請求書及び帳簿の保存が仕入税額控除の要件となります。適格請求書の税額の積上げ計算と、取引総額からの割戻し計算の選択制です。 ④ 適格請求書等保存方式導入までの経過措置 現行の請求書等保存方式を維持しつつ、区分経理に対応するための措置が講じられます。売上・仕入税額の計算の特例が設けられます。 ⑤ 適格請求書等保存方式導入後の経過措置 適格請求書等保存方式の導入後6年間、免税事業者からの仕入れについて、一定割合の仕入税額控除が認められます。 適格請求書が導入されるまでの流れは次のようになります。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出所) 財務省資料 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出所) 財務省資料 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出所) 財務省資料 なお、「適格請求書等保存方式」における変更点と現行制度との接続は次の通りです。 (出所) 財務省資料 売上税額と仕入税額の計算の特例は次のようになります。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出所) 財務省資料 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出所) 財務省資料 2 コメント わが国の消費税は、平成元年に導入された時から高い免税点、簡易課税方式などを使った不合理なものとなっており、益税が生ずるなど本来の付加価値税ではなくなっていました。 今後ともみなし方式を使うなどEU方式とは異なり、益税が生ずるなど問題点を抱えています。財務省はこの税に対する反省点を持たないで、EU方式は古いなどと批判しているなど、本当の付加価値税とはなっていません。 なぜ、インボイスを嫌うのでしょうか。 自民党の「軽減税率適用は生鮮食料品だけ、財源は4,000億円まで」は民主党政権時代の「社会保障と税の一体改革」(平成24年6月)によるものでした。 3党の合意内容は次の通りです。 [自民・公明・民主の合意内容] このうち総合合算制度については実施を見送っていたもので、この財源が4,000億円だったため、生鮮食品を軽減対象とする場合はこれを充てるとされていました。 ところが、公明党が生鮮食品だけではなく、加工食品も含めて軽減税率の対象とするように主張していたので、これを調整する必要があったのです。 しかし、12月9日に安倍首相は官邸に谷垣自民党幹事長を呼んで「生鮮食品など4,000億円だけではだめだ。初年度から加工食品を軽減税率対象に入れる。公明党の主張をのんでほしい」と指示しました。 この会議には複数の財務省幹部が同席していました。 菅長官は「加工食品も加えないとだめだ」とし、「それが出来なければ平成29年の消費増税はできない」と宣言しました。 11月29日の夕方、菅長官は田中財務次官と佐藤主税局長を呼び、加工食品を軽減税率の対象に含めるように指示しましたが、これに対して田中次官が生鮮食品に限定するように抗弁すると、菅長官は「加工食品を加えてもできるよう財源を探すのが財務省の仕事だ」と指示。これに田中次官がさらに抗弁すると「これは政局なんだ。」と一喝し、田中次官を追い返しました。 来年の参議院選挙だけではなく、沖縄の宜野湾市長選を抱える菅長官としては当然の指示だったのです。 消費税の軽減税率を反対する財務省、学者、税理士会は、その理由を次のように説明していました。 財務省がこのような理由で軽減税率に反対していたため、各地の税理士会が軽減税率に反対する意見書等を作っていました。この場合の反対理由は財務省と同じです。 財務省は税理士会の講演でも、「軽減税率を使う付加価値税はオールド・タックス。単一税率のニュージーランドはニュータックス」などと説明していました。 食料品は低所得者よりも高所得者の方が多く購入するから逆進性の緩和にはならないという財務省、学者、税理士会の説明はおかしいと思います。確かに、高所得者の方が低所得者よりも食料品を多く購入するかもしれません。しかし最低生活費に税を課さないとすれば、食料品が値上がりすることがない(又は少ない)と思われます。 これも一種の福祉対策で、学者のように税収の減少だけを根拠にすべき問題ではありません。八百屋さんや魚屋さんの商品が値上がりしない、コンビニで加工食品の値上げがないことをねらっているのが本来の軽減税率方式です。 税理士会は「軽減税率反対」としていますが、庶民感覚はどこへいったのでしょうか。各国ともに消費税を考えるときには物価水準を検討しています。これに比べると、わが国では円安で食料品が値上がりしても、財務省からこれに心配する声は聞こえてきません。軽減税率は税収減と考えて、反対の体制を作ろうとしていたのです。 パリを訪れると、街角でフランスパンをかついでニコニコしている人に会います。フランスでは一般の物品の付加価値税は20%ですが、食品は5.5%の軽減ですからパンの値段は安いのです。つまり庶民の暮らしに必要なものは税を軽減するという文化があるのです。 日本の学者や財務省は、食料品費は低所得者より高所得者の方が多く使うとの理由で軽減税率は逆進性の緩和にならないから、低所得者に給付金を支給すべきだとしてバラマキを支持してきました。 しかし、これは頭の体操で、生活に最低必要なものは税を課さない(又は軽減する)というEUの文化も見習う価値があるのではないでしょうか。 食料品を対象とすることに「低所得者よりも高所得者の方が食料品の消費が多いから逆進性緩和にはならない」という学者と財務省の頭の体操的論理がまかり通っていました。庶民の最低生活費となる八百屋さんや魚屋さんの食品の値札が上らないようにという庶民感覚がなぜ出てこないのでしょうか。 次に示したのが各国の標準税率と食料品の軽減税率の差です。 EU諸国に比べて、差の少ない日本と中国は逆進性緩和に役立っていません。 (了)
〔平成28年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】 「国税・地方税の税率変更」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成27年度税制改正における改正事項を中心として、平成28年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第1回】は、「法人税率の引下げ」「地方法人税の創設」及び「法人住民税均等割の資本金等の見直し」について、平成28年3月期決算において留意すべき点を解説する。 1 法人税率の引下げ 平成27年度税制改正により、法人税率の引下げが行われた。平成27年4月1日以後に開始する事業年度における法人税率は、改正前の25.5%から23.9%に引き下げられている。したがって、平成28年3月期の決算申告においては、法人税率の変更が必要である。 また、平成24年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する事業年度については、中小法人等に対する軽減税率(本来は19%)が、特別措置により15%に引き下げられていたが、これが2年間延長されている。したがって、平成28年3月期決算においても、中小法人等の軽減税率としては引き続き15%が適用される。 (※1) 資本金1億円以下の法人のこと(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)。 (※2) 本来であれば19.0%に戻るはずであったが、平成27年度税制改正により、15.0%の適用期間が2年間延長されている。 なお、自由民主党及び公明党が平成27年12月16日付で公表し、同24日に閣議決定された平成28年度税制改正大綱において、平成28年4月1日以後開始事業年度からの更なる法人税率の引下げが盛り込まれた。平成27年度の23.9%から、平成28年度に23.4%、平成30年度に23.2%と段階的に引き下げられる予定である。 2 地方法人税の創設と法人住民税法人税割の税率引下げ 平成26年度税制改正において、地域間の税収の偏りを是正し、財政力の格差を縮小するため、地方法人税が創設された。また、これに併せて、法人住民税法人税割の税率が引き下げられている。 この改正は、平成26年10月1日以後に開始する事業年度から既に適用されている。したがって、3月決算法人においては、平成28年3月期決算から適用されることになる。 地方法人税の額は、法人税額に下記の税率を乗じることによって算定され、法人住民税法人税割も同様である。それぞれの税率は変更されているものの、両者を合計した合計の税率で見ると、改正の前後で変わりはない。 平成28年3月期の決算申告においては、地方法人税の申告が必要となる。実際には、法人税申告書別表一に法人税と併せて記載することになる。また、地方税の申告書において、法人税割の税率の変更が必要である。 なお、平成28年度税制改正により、地域間の偏りの是正を更に進めるため、平成29年4月1日以後に開始する事業年度から、地方法人税の税率引上げと、併せて法人住民税法人税割の税率引下げが予定されている。 3 法人住民税均等割の税率区分の見直し ① 資本金等の調整 平成27年度税制改正により、平成27年4月1日以後に開始する事業年度においては、法人住民税均等割の税率区分の基準となる資本金等について、次の調整を加えるよう見直しが行われている。 したがって、過去に無償の増減資を行っている法人においては、均等割の税率区分が改正前と変わる可能性があるため、注意が必要である。 ② 会計上の「資本金+資本準備金」との比較 また、均等割の税率区分の基準として、法人税法上の「資本金等」と、会計上の「資本金+資本準備金」のいずれか大きい方を用いることとされた。これは、外形標準課税における事業税資本割の課税標準の改正と同様である。 したがって、過去に自己株式の取得等により、資本金等の金額が減少している法人等は、均等割の税率区分が改正前より高くなり、税額が増加する可能性があるので、注意が必要である。 (了)
財産債務調書の実務における留意点 【第1回】 「財産債務調書提出制度の概要」 デロイト トーマツ税理士法人 ディレクター 税理士 飯塚 信吾 これまで、個人が保有する財産等に関する申告制度としては、所得税法に「財産及び債務の明細書」の提出制度が規定されていたが、この明細書は申告書の添付書類として規定されており、支払調書などとは異なり、未提出などに対する罰則がなかったことなどから、必ずしも適正に提出・活用されていないのではないかと言われていた。 そこで、平成27年度の税制改正において、この制度が見直され、新たに「財産債務調書」の提出制度として、国外財産調書などと併せて「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」(以下「国外送金等調書法」)に規定された。 財産債務調書は、従来の財産及び債務の明細書と比較して、提出義務者の要件に保有する財産の額の要件が加わりその範囲が狭められるとともに、財産債務調書の提出を促す観点から、国外財産調書と同様に調書を提出した場合における過少申告加算税等の減額措置及び不提出の場合における加重措置が規定されている。 また、この制度では平成27年7月1日から施行されている国外転出時課税制度の対象となる可能性がある財産について申告を行う必要があり、国外転出時課税制度の適正な執行を担保することを意図したものとなっている。 「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「取扱通達」)もこれに併せ改正が行われ、詳細な取扱いが明らかにされているので、以下のとおり財産債務調書の実務における具体的な留意点について解説する。 1 提出義務者 財産債務調書を提出しなければならない者は、所得税の確定申告書の提出義務のある者で、次のいずれの要件も満たす者である。 上記①の「その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額」とは、申告分離課税の所得がある場合には、それぞれの特別控除後の所得金額を加算した後の金額であり、純損失・雑損失の繰越控除、居住用財産の買替え等の場合の譲渡損失の繰越控除、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除などの繰越控除適用後の金額となる(国外送金等調書令12の2 ⑤)。 したがって、実務的には、申告書第一表の総所得金額に申告書第三表の退職所得を除く分離課税の所得金額を加算した金額が2,000万円を超える場合に提出義務があることになり、この点は、従来の財産債務の明細書の提出義務と同じである。 財産債務調書では、従来の財産及び債務の明細書の提出要件に加えて、上記②の要件が追加され、年末において保有する財産の価額の合計額が3億円以上であるか、又は、年末において保有する「国外転出特例対象財産」の価額の合計額が1億円以上である場合に提出義務があることとされ、保有財産の額の要件により提出対象者の範囲が狭められている。 国外転出特例対象財産とは、平成27年7月1日から施行されている所得税法60条の2《国外転出をする場合の譲渡所得等の特例》に規定されている有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引である。 平成27年7月1日以降、居住者が国外へ転出する際に国外転出特例対象財産を1億円以上保有しており、国外転出時前10年内に5年以上国内に住所又は居所を有している場合には、国外転出時課税の対象となり、その国外転出特例対象財産を国外転出時に譲渡等を行ったものとしてその含み益に対し譲渡所得の課税が行われることになった。 年末において、この国外転出時課税制度の対象となる財産を保有している者で、その年の確定申告書の提出義務があり所得金額の要件を満たす場合には、財産債務調書を提出する必要がある。このため、財産債務調書は国税当局が将来国外転出時課税制度の対象となる可能性のある者を予め捕捉しておく効果もあると考えられる。 なお、国外財産調書は、その年末において居住者(永住者)であることが提出の要件になっている(国外送金等調書法5①、取扱通達5-1)が、財産債務調書は、年末において非居住者であっても、その年分について確定申告書(年の中途で出国する場合の確定申告書を含む)の提出義務があり、かつ総所得金額及び山林所得金額の合計金額が2,000万円を超えるなどの要件及び保有財産の要件を満たす場合には提出しなければならない(国外送金等調書法6の2 ①)。 2 記載事項 財産債務調書は、国外財産調書と類似した様式で、提出者の住所、氏名のほか、財産の種類、数量、価額、所在などを「種類別」、「用途別」(一般用、事業用の別)、「所在別」に記載することとされているが、国外財産調書と異なり、債務の金額等も記載する必要がある。 また、国外財産を5,000万円以上有するため国外財産調書を提出する者が、財産債務調書も提出しなければならない場合があるが、この場合には、財産債務調書に国外財産調書に記載した国外財産の価額の合計額のみを記載することとされている。なお、国外に存する債務については、財産債務調書に記載する必要がある。 3 財産の「所在」 財産債務調書に記載する財産の所在は、原則的には相続税法10条が規定する財産の所在の判定によることになるが、有価証券等が金融商品取引業者等の営業所等に開設された口座に係る振替口座簿に記載されているものである場合には、相続税法10条の規定によらず、財産の所在地はその営業所等の所在地とされており、この取扱いは国外財産調書の規定が準用されている。 なお、有価証券等とは次のものをいう。 4 提出期限 提出期限は国外財産調書と同じであり、その年の年末に保有する財産及び債務について、翌年の3月15日(所得税の確定申告期限)までに申告することになる。 * * * (文中、意見にわたる部分は筆者の見解であり、所属する組織の見解ではないので、ご留意いただきたい。) (了)
平成27年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 「誤りやすい『人的控除』に関するQ&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 人的控除を的確に適用するためには、要件を正確に理解しておくことが必要である。【第3回】は、所得控除のうち人的控除に関する留意事項をQ&A形式でまとめることとする。 なお、以下の各ケースは、すべて平成27年分の確定申告を前提としている。また、特に明記していない場合には、平成27年12月31日の現況を示している。 【Q1】 配偶者控除の適用 妻の収入(又は所得)が(1)から(6)の各場合において、妻は夫の控除対象配偶者に該当するか。 【A】 (1) 該当する (2) 該当しない (3) 該当する (4) 該当しない (5) 該当しない (6) 該当する 【解説】 控除対象配偶者とは、12月31日現在(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次の4つの要件をすべて満たす配偶者をいう(所法2①三十三、所基通2-46、2-47、2-48)。 (1)から(6)の各ケースは、①及び②は満たしているので、以下③と④について検討する。 なお、合計所得金額については下記参照されたい。 ▷ (1)のケース 公的年金等に係る雑所得の金額は30万円(公的年金等の収入金額150万円-公的年金等控除額120万円)である(所法35②一、措法41の15の3①)。合計所得金額が38万円以下であり、年齢が70歳以上であるため、老人控除対象配偶者に該当する(所法2①三十三の2)。 ▷ (2)のケース 1月から3月まで、夫の営む事業に従事する青色事業専従者として給与の支払いを受けている。④の要件を満たしてないため、控除対象配偶者に該当しない(所法2①三十三、所基通2-48)。 ▷ (3)のケース 確定申告をしないことを選択した配当所得は、合計所得金額に含まれない(所基通2-41)。よって、合計所得金額は0円となり、控除対象配偶者に該当する。 ▷ (4)のケース 未上場株式の配当所得について確定申告を不要とすることができるのは、1回に支払を受けるべき金額が10万円以下(配当計算期間1年)の場合(※)であり、それを超えると総合課税の対象となる(措法8の5①一)。 (※) 確定申告を不要とすることができるのは、10万円×(配当計算期間の月数/12月)で計算される金額である。 A社からの配当収入(=配当所得)40万円は、総合課税の対象となり、合計所得金額は38万円を超える。よって、控除対象配偶者に該当しない。 ▷ (5)のケース 合計所得金額の計算をするとき、各種所得の金額の計算に損失(純損失、雑損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失、特定居住用財産の譲渡損失、上場株式等の譲渡損失、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失、先物取引の差金等決済に係る損失)の繰越控除の適用がある場合には、繰越控除を適用する前の金額が合計の対象となる(所基通2-41(2))。 合計所得金額は「50万円(10万円+40万円)>38万円」となるため、控除対象配偶者に該当しない。 ▷ (6)のケース 青色申告特別控除の適用がある場合の事業所得の金額は、青色申告特別控除後の金額である(措法25の2)。合計所得金額が38万円以下であるため、控除対象配偶者に該当する。 【Q2】 寡婦(寡夫)控除の適用 所得者自身が次の(1)から(4)の各場合において、所得者は寡婦(寡夫)に該当するか。 【A】 (1) 該当しない (2) 該当しない (3) 該当する (4) 該当しない 【解説】 寡婦とは、所得者自身が、12月31日(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次の①、②のいずれかに該当する人をいう(所法2①三十、所令11①②、所基通2-40、2-41、2-42)。 〈寡婦の要件〉 (※) 総所得金額等とは、純損失、雑損失、その他各種損失の繰越控除後の総所得金額、特別控除前の分離課税の長(短)期譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等に係る配当所得の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額及び退職所得金額の合計額をいう。非課税所得や租税特別措置法の規定によって源泉分離課税とされるもの、確定申告をしないことを選択したものなどは含まれない。 (注) 総所得金額等と合計所得金額との違い 総所得金額等:各種損失の繰越控除適用後の金額を合計する。 合計所得金額:各種損失の繰越控除適用前の金額を合計する。 夫は、民法上の配偶者であることが必要で、夫と死別又は離婚後に婚姻をしていないことも要件となる。 また、寡婦のうち次の要件のすべてを満たす場合には、特別の寡婦として寡婦控除の額が8万円上乗せされる(措法41の17①)。 〈特別の寡婦の要件〉 次に、寡夫とは、所得者自身が、12月31日(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次のすべての要件を満たす人をいう(所法2①三十一、所令11の2①②)。 〈寡夫の要件〉 妻は、民法上の配偶者であることが必要である。 以下、各ケースについて検討する。 ▷ (1) のケース 離婚の場合には、〈寡婦の要件〉①のとおり、扶養親族又は生計を一にする子がいることが寡婦の要件となる。よって、寡婦に該当しない。 ▷ (2)のケース 夫は、民法上の配偶者であることが必要である。内縁の夫と離別した場合には、他の要件を満たしていても寡婦に該当しない。 ▷ (3)のケース 死別の場合には、〈寡婦の要件〉①のとおり、扶養親族又は生計を一にする子がいることが寡婦の要件となる。この場合、合計所得金額についての要件はない。よって、寡婦に該当する。 ▷ (4)のケース 〈寡夫の要件〉①と②は満たしているが、合計所得金額が500万円を超えている(※)ため③の要件を満たしていない。よって、寡夫に該当しない。 (※) 給与収入1,000万円の場合の給与所得は780万円 【Q3】 障害者控除の適用 次の(1)から(4)の各ケースの場合において、扶養親族、控除対象配偶者、所得者本人は、障害者控除の対象となる障害者に該当するか。 【A】 (1)から(4)すべて該当する。 【解説】 障害者控除の対象となる障害者(以下、障害者という)とは、所得者自身、控除対象配偶者、扶養親族で、12月31日(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次のいずれかに該当する人をいう(所法2①二十八・二十九、所令10、所基通2-38)。 〈障害者に該当する者〉 以下、各ケースについて検討する。 ▷ (1)のケース 障害者の範囲は、控除対象扶養親族に限られていない。年少扶養親族も含む「扶養親族」が対象である。小学生である扶養親族(年少扶養親族)も障害者に該当する。 ▷ (2)のケース その年に死亡した人が障害者に該当するかどうかは、死亡時の現況に基づいて判定する。よって、死亡時の現況で障害者に該当すると判定された扶養親族は、死亡日を含む年分の所得税の計算において障害者に該当する。 ▷ (3)のケース 〈障害者に該当する者〉⑦の「常に就床を要し、複雑な介護を要する者」とは、障害者であるかどうかを判定する時の現況において、引き続き6月以上にわたり身体の障害により就床を要し、介護を受けなければ自ら排便等をすることができない程度の状態にあると認められる者をいう(所基通2-39)。 この要件を満たす者は、特別障害者に該当する。 ▷ (4)のケース 障害者であるかどうかを判定する時や確定申告書の提出の時までに身体障害者手帳又は戦傷病者手帳の交付を受けていない人であっても、次の要件のいずれにも該当する場合には、障害者として取り扱うことができる(所基通2-38)。 〈障害者として取り扱うことができる場合〉 本ケースは、この要件を満たしているため障害者に該当する。 上記の他、人的控除については、同居老親や同居特別障害者の「同居」の定義や配偶者特別控除の適用要件等についても正確に把握しておきたい。 * * * 次回(最終回)も、確定申告実務の留意点をQ&A形式で解説する予定である。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第7回】 「創設規定と確認規定①」 公認会計士 佐藤 信祐 矢内一好『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』財経詳報社122-124頁(平成27年)では、同族会社等の行為計算の否認の争点とそれに関する裁判例をそれぞれ列挙している。 第7回以降は、そこで列挙されている判例を分析することにより、同族会社等の行為計算の否認の争点を解明していきたい。 本稿では、まず、争点1として紹介されている同族会社等の行為計算の否認を創設規定とする判決と確認規定とする判決について、それぞれ紹介することとする。 6 判例分析①(創設規定と確認規定) (1) 総論 矢内教授の分析によると、昭和50年以降は創設規定とする説が通説となるだけでなく、平成9年4月25日東京地裁判決では、課税庁が創設規定であることを明言していたとのことである。 また、矢内教授は八ッ尾教授の書籍で確認規定と創設規定の学説がまとめられているものとして紹介しているが、八ッ尾順一『租税回避の事例研究』13-14頁(清文社、六訂版、平成26年)を見てみると、「同族会社の行為計算の否認規定を『確認規定』と解し、非同族会社にも適用すべきであると主張する論者」の論考は、すべて昭和52年のものであり、平成9年4月25日東京地裁判決で課税庁が創設規定であることを明言してしまった現在では、あまり参考にならないのかもしれない。 さらに、酒井克彦教授は、創設規定とする学説が通説であるとしたうえで、「法人税法132条の2《組織再編成に係る行為又は計算の否認》、同法132条の3《連結法人に係る行為又は計算の否認》という規定が設けられたことを考えると、確認規定説が前提とされていれば、かような新しい条文は設けられる必要がなかったことになるから、今日的には確認規定説は瓦解したとみるべきであろう。」(※1) と指摘されている。 (※1) 酒井克彦『裁判例からみる法人税法』大蔵財務協会708-709頁(平成24年) そのため、平成9年4月25日東京地裁判決以降は、創設規定であると考えることが自然なのかもしれないが、そうなると自ずと同族会社等の行為計算の否認は非同族会社には適用されず、同族会社のみに適用される規定であるということになる。さらに、【第4回】で解説した大正12年における同族会社等の行為計算の否認規定の創設経緯からしても、確認規定で解することには無理があり、創設規定であると解するべきであると考えられる。 その点を解明していくためにも、矢内教授が列挙している8つの判決についてそれぞれ分析していくこととする。 (2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035) このように、本判決は、同族会社等の行為計算の否認についての判決ではなく、実質所得者課税の原則についての判決である。ただし、実質所得者課税の原則を創設的規定ではなく、確認的規定であると明言しただけでなく、本事件が刑事責任について争われた事件であったことから、非常に厳しい判決であったということができる。 実質所得者課税の原則は、昭和28年度税制改正により「実質課税の原則」として導入されたものであり、その後、昭和41年度税制改正により、「実質所得者課税の原則」と題名が変更され、現在に至っている。 実質所得者課税の原則の論点として、金子宏教授は、「1つは、課税物件の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきである、という趣旨にこれらの規定を理解する考え方である。これを法律的帰属説と呼ぶことができる。他の1つは、これらの規定は、課税物件の法律上(私法上)の帰属と経済上の帰属が相違している場合には、経済上の帰属に即して課税物件の帰属を判定すべきことを定めたものである、と解する立場である。これを経済的帰属説と呼ぶことができる。」(※2)としたうえで、法律的帰属説が妥当であるとされているが、この論点については、租税回避に対する事実認定による否認手法を分析する際にも重要であるため、いずれこの連載でも触れたいと思う。 (※2) 金子宏『租税法』弘文堂165-166頁(平成26年、第19版) さらに、実質所得者課税を創設的規定ではなく、確認的規定であるとした場合には、実質所得者課税よりも広い概念である実質課税の原則の取り扱いはどのように考えるべきなのかという点も問題となる。実質所得者課税の原則を確認的規定であるというのであれば、実質課税の原則も明文の規定なく適用することができるという考え方にも発展しかねないからである。 この点についても、租税回避に対する否認手法を検討する際には重要な論点でもあるため、いずれこの連載で触れたいと思う。 とりあえず、ここでは実質所得者課税の原則についてのみに限定すると、法人税基本通達1-3の2-1では、支配関係及び完全支配関係の判定について、「その株主等が単なる名義人であって、当該株主等以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者が保有するものとして判定する。」と規定されているところ、同通達は収益の帰属者を定めた実質所得者課税の原則とは異なることから、その根拠となる法令が無いということになってしまうし、単なる名義人ではなく、実際の権利者に帰属するものとして租税法を適用することは、収益の帰属以外にも広く行われていることを考えると、実務上は、最高裁昭和37年6月29日判決にあるように、確認的規定であるとすべきであると考えられる。 次回では、大阪高裁昭和39年9月24日判決について解説を行う予定である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例34(法人事業税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆外形標準課税の課税標準(地方税法72条の2) 資本金1億円超の法人については、平成15年度の税制改正において、法人事業税につき外形標準課税が導入されている。外形標準課税は、付加価値割、資本割、所得割からなり、それぞれの課税標準は次のとおりである。 ◆資本割における「持株会社特例」(地方税法72条の21第6項) 資本割は、法人の資本等の金額に税率を乗じて計算されるものであるが、適用対象となる法人が特定持株会社(総資産価額に占める特定子会社の株式の帳簿価額の割合が100分の50を超える内国法人をいう)である場合には、「持株会社特例」が設けられており、次の算式により求めた金額が控除される。 この場合の特定子会社株式の帳簿価額は、総資産価額(分母)の計算上は会計上の簿価を用い、特定子会社株式の帳簿価額(分子)の計算上は法人税法上の簿価を用いる。 (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第10回】 「電子取引に係る電磁的記録の保存(2)」 税理士 袖山 喜久造 前回に続き、電帳法第10条に規定された電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存方法について解説する。 1 電帳法施行規則第8条の規定 規則第8条第1項は電子取引に係る電磁的記録の保存方法について規定しており、「法第10条に規定する保存義務者は、電子取引を行った場合には、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を、当該取引情報の授受が書面により行われたとした場合に、当該書面を保存すべきこととなる場所に、保存すべきこととなる期間、保存要件に従って保存しなければならない」としている。 2 保存場所と保存期間 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存場所は、その取引情報の受領が書面により行われたとした場合、又はその取引情報の受領が書面で行われこの写しが作成されたとした場合に、各税法の規定により書面を保存することとなる場所、すなわち納税地若しくは国内の事務所、事業所、その他準ずる場所で保存することとなる。 電磁的記録の保存場所については、保存場所にサーバ等が設置されていない場合であっても、例えば、当該保存場所(納税地等)に備え付けられている電子計算機と通信回線で接続されるなどにより、保存場所において電子取引に係る電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、それぞれの要件に従った状態で速やかに出力することができるときは、当該電磁的記録は保存場所に保存等がされているものとして取り扱われることとなる。 保存期間は、法人税法の規定により7年間となる。青色申告法人、連結申告法人が繰越欠損金若しくは連結繰越欠損金の繰越控除を利用する場合には、最長で10年間が保存期間となる。 なお、電子取引に係る電磁的記録を書面に出力し保存する場合も、保存場所及び保存期間は同様になる。 3 電磁的記録への措置 規則第8条第1項では、電子取引に係る電磁的記録の保存にあたっては、以下の2つのいずれかの措置をしなければならないとしている。 (1) タイムスタンプの付与 規則第8条第1項第1号では、取引情報の授受後に、遅滞なく、当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すこととしている。 この場合の「遅滞なく」は、特に具体的な期限等の規定はないが、原本とスキャンデータが相違ないことを確認するスキャナ保存制度と異なり、電子取引においては、当該電磁的記録そのものにタイムスタンプを付与することになり、「授受後即時に」と解すことが一般的である。 規則第8条第1項で規定されるタイムスタンプとは、規則第3条第5項第2号ロで規定されるタイムスタンプの要件が適用される。したがって、スキャナ保存で行う際と同様に、タイムスタンプは、一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプで、改ざん検知ができ、かつ、一括検証ができなくてはならない。 (2) 事務処理規程の整備 規則第8条第1項第2号では、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を定めることとされているが、これは、当該規程によって電子取引の取引情報に係る電磁的記録の真実性を確保することを目的としたものである。 したがって真実性を確保する手段としては、保存義務者自らの規程のみによる方法のほか、取引相手先との契約による方法も考えられることから、当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこととされている。 この規程の作成に当たっては、以下の事項に留意する必要がある。 ① 自らの規程のみによって防止する場合 電子取引に係る電磁的記録の訂正及び削除を原則禁止とし、業務処理上の都合により、データを訂正又は削除する場合は、訂正又は削除できる事象(例えば、取引相手方からの依頼により、入力漏れとなった取引年月日を追記)を具体的に決め、訂正削除日、訂正削除理由、訂正削除内容、処理担当者の氏名の記録及び保存などに関する事務処理手続を盛り込む必要がある。また、データ管理責任者及び処理責任者を定め規程に記載する。 ② 取引相手との契約によって防止する場合 電子取引の種類を問わず、事前に取引相手とデータ訂正等の防止に関する条項を含む契約を行う必要がある。規程には、例えば「電子取引の種類を問わず、電子取引を行う場合には、事前に、取引相手とデータの訂正等を行わないことに関する具体的な条項を含んだ契約を締結すること。」等を記載する必要がある。 電子取引の種別には様々な取引形態があり、それぞれの取引に当該電磁的記録の真正性を担保する重要性が異なることから、必要に応じて電子署名若しくはタイムスタンプを用いる方法が現実的である。保存義務者の現実的な運用としては、多くは後者の事務処理規程を備え付け運用する方法がとられるであろう。 4 保存方法 規則第8条第1項においては、電子取引の電磁的記録の保存方法は、規則第3条第1項第4号及び第5項第7号において準用する同条第1項第3号イ、及び第5号に掲げる要件に従って保存しなければならない、と規定されている。 電子取引に係る電磁的記録の保存に代えて、書面に出力したものを保存する場合には、その電磁的記録を整然とした形式及び明瞭な状態で保存する必要がある。 以下、電磁的記録の保存方法として規定されている項目について具体的に解説する。 (1) 関係書類の備付け(規則第3条第1項第3号) 電子取引に係る電磁的記録の保存に併せて、電子取引の電磁的記録に係る電子計算処理システムの概要を記載した書類の備付けを行うことが必要となる。この場合は、ほかの者が開発したシステムを使用している場合は備付けしなくてもよい。 (2) 見読性の確保(規則第3条第1項第4号) 当該電子取引に係る電磁的記録の保存をする場所に、当該電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくことが必要である。 (3) 検索機能の確保(規則第3条第1項第5号) 当該電子取引に係る電磁的記録の記録事項を以下の項目等で検索をすることができる機能を確保しておくことが必要である。 電子取引に係る電磁的記録の検索機能の確保については、データの保存形態が様々であり、それぞれの種類の電子取引ごとに検索機能を確保することは現実的に困難と思われる。 EDI取引のように、データベースの形式で保存されるのであれば、ODBCなどを活用して汎用ソフトウエアで検索する方法も検討できる。電子メールは、データベースの形式では保存することができないため、例えばアーカイブソフトに付属している検索機能、あるいは、メール監視ソフトの監視ツールの検索機能を使用するしか検索機能を確保することができないと思われる。 電子取引に係る電磁的記録は、範囲が広く、取引形態も様々である。電帳法第10条の規定を的確に遵守できている保存義務者も必ずしも多くないことから、まずは当該電磁的記録の保存方法についての要件対応を検討する前に、法定保存期間中保存することが肝要と思われる。 * * * 次回は、国税関係帳簿書類の電磁的記録の保存の承認を受けている、電帳法適用法人の税務調査対応について解説する。 (了)