《速報解説》 『国外転出時課税制度』に係る所得税基本通達の一部改正が公表 ~7月1日からの適用開始に向け新設31項で取扱いの詳細を示す~ 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 国外転出時課税制度が平成27年7月1日から適用される。これに先立ち、国税庁は所得税基本通達(法令解釈通達)の一部改正(平成27年4月23日付課資3-2、課個2-7ほか)により出国時課税制度に関する法令解釈通達を発遣した。この通達は法令と同様、平成27年7月1日から適用される。 なお本制度については4月8日付けでFAQやリーフレットが公表されている。 1 概要 本通達は、所得税法の以下の規定の解釈適用に関する指針を示すものである。 2 留意点 以下、本通達の規定のうち特に留意すべき規定について上記1の区分ごとに解説する。 (1) 所得税法60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)関係 対象となる有価証券等の範囲について、法律の条文上は特段の定義はなく、本通達において、その譲渡による所得が譲渡所得として課税されるものについては対象に含まれるとしている。 そのうえで、例として、受益者等課税信託の信託財産に属する有価証券や、任意組合等の組合財産である有価証券、質権や譲渡担保の対象となっている有価証券を挙げている(60の2-3)。 また、未決済デリバティブ取引等の範囲についても、その取引による決済による所得が事業所得又は雑所得として課税されるものについては対象に含まれるとして、受益者等課税信託に係る信託契約に基づき受託者が行う未決済デリバティブ取引等や任意組合等の組合事業として行われる未決済デリバティブ取引等が例として挙げられている(60の2-4)。 対象となる有価証券には、譲渡所得が非課税とされる有価証券も含まれる(60の2-5)とされる。 国外転出時の有価証券等の価額については、原則として、所得税基本通達23~35共-9及び59-6の取扱に準じて算定した価額による(60の2-6)。 修正申告をする場合、対象資産の一部について国外転出課税の適用を受けずに確定申告を提出していた場合は、対象資産の区分ごとの定めに応じて、転出時か転出の3ヶ月前の日の価額による。すべての対象資産について適用せずに確定申告をした場合は、転出時の価額による。税務署長が更正を行う場合も同様となる(60の2-8)。 納税猶予を受けている期間中に対象資産の全部又は一部を贈与により居住者に移転した場合で、贈与時の価額が転出時よりも下がっている場合には、所得税法60条の2第6項の転出時の課税取消し、又は同条第8項の値下り後の価額による所得の減額のいずれかの規定の適用を選択できる。ただし、いずれかの規定の適用を受けた後においては、帰国した場合の更正の請求はできない(60の2-9)。 納税猶予期間中に対象資産を譲渡・決済等をして、所得税法60条の2第8項による転出時の課税所得の減額を受ける場合、譲渡所得等の計算上、転出後に行った譲渡・決済等に要した費用は控除できない。その理由として、同8項は対象資産の国外転出時の価額等を対象資産の実際の譲渡価額又は利益・損失の額とすることができる規定であるからとしている(60の2-10)。 納税猶予期間の満了時の対象資産の価額が転出時を下回るなどにより納税額が過大になっている場合には、所得税法60条の2第10項により課税所得が減額されるが、これは納税猶予期限が繰り上げられた場合には適用にならない(60の2-11)。 (2) 所得税法60条の3(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例)関係 60の3-2は、所得税法60条の3第5項において対象資産の価額の合計額が1億円以上かどうかの判定を行う場合の対象資産の範囲として、贈与・相続・遺贈時に贈与者等が所有していた対象資産(当該贈与・相続・遺贈により非居住者に移転した対象資産を含む)とされているので、文言をそのまま理解すれば、贈与者等が所有していない対象資産であっても贈与により移転したものは含まれることになる。所得税法60条の3第5項は「贈与等のときに有している有価証券等・・・」とあるので、通達のほうが法律の規定よりも範囲が広くなっているのではないかと思われる。 納税猶予適用贈与者から贈与を受けた非居住者は、納税猶予期間中に対象資産を譲渡等した場合は、猶予適用贈与者に譲渡等をしたことを通知しなければならない(所得税法60条の3第9項)が、その通知がなかった場合でも、譲渡等の日から4ヶ月を経過する日をもって(所得税法137条の3第6項)納税猶予期間は終了する(60の3-3)。贈与を受けた者からの通知が適切に行われるような対策を講じておかないと、更正の請求ができる場合に該当するにもかかわらず期限を徒過して更正の請求の権利を失うおそれがあるので、注意が必要である。 (3) 所得税法95条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に係る外国税額控除の特例)関係 所得税法95条の2第1項の外国税額控除は、所得税法137条の2第9項により(担保提供の命令に応じない、継続適用届出書に記載された事項と相違する事実が判明した場合、納税管理人の解任等)、納税猶予期限の繰上げがあった場合には、適用はない(95の2-1)。 (4) 所得税法137条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)関係 納税猶予期間中に国外転出の年分についての期限後申告、修正申告、更正・決定に係る納付すべき所得税額には、納税猶予は適用されない。ただし、対象資産の価額や損益計算の誤りに基づくのみである場合には、当初から納税猶予の適用があることとして取り扱う。この場合、担保の提供は修正申告書の提出日の翌日又は更正通知書の発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までに提供しなければならないこととして取り扱う(137の2-1)。 納税猶予の適用の取りやめる旨の書面による申出があり、全額の納付があった場合は、全額の納付があったときに納税猶予の期限が確定し、適用は終了する。任意で納税猶予を取りやめた場合には、所得税法60条の2第10項の規定(納税猶予期間満了のときに対象資産の価額が下落し又は損失が生じている場合の当初課税の減額)の適用はない(137の2-4)。 国外転出課税の適用を受けて転出した者が納税猶予期限までに死亡した場合、当該相続人が適用資産を取得したかどうかにかかわらず、納税猶予に係る税額の納付義務は相続人が承継する。相続人が複数いる場合には、国税通則法5条2項(相続による国税の納付義務の承継)の規定に基づき計算した額となる(137の2-5)。 納税猶予分の納付義務を承継した相続人が承継した納税猶予分の所得税額の全部又は一部について納税猶予の期限が確定する事由が生じた場合には、すべての猶予承継相続人に係る承継猶予税額の全部又は一部について期限が確定する。(137の2-6)。 取引相場のない株式は、以下のいずれかに該当する場合に担保として認める(137の2-8)。 イ 国外転出時課税された財産のほとんどが取引相場のない株式であり、かつ、それ以外に担保として提供すべき適当な財産がないと認められること ロ ほかに財産があるが、他の債務の担保となっており、担保として提供することが適当でないと認められること (5) 所得税法153条の5(国外転出をした者が外国所得税を納付する場合の更正の請求の特例)関係 国外転出課税を受けた個人が、納税猶予期限までに対象資産を移転したことにより当初申告額が過大になっているとき(所得税法60条の2第8項、9項)、及び、納税猶予期間中に行った適用資産の移転に係る外国税額について外国税額控除の適用を受けている場合には、所得税法153条の2第2項(国外転出をした者が帰国をした場合等の更正の請求の特例)の規定による更正の請求(期限は資産の移転の日から4ヶ月)とは別に、所得税法153条の5の規定による更正の請求(期限は外国所得税を納付することとなる日から4月以内)ができる(所得税法153条の5)(153の5-1)。 (了)
《速報解説》 日本公認会計士協会より「統合報告の国際事例研究」が公表 ~海外9社の事例を検証、横断的検討も~ 公認会計士・税理士 若松 弘之 1 はじめに 平成27年5月18日付けで、日本公認会計士協会(経営研究調査会)から、経営研究調査会研究報告第55号「統合報告の国際事例研究」が公表された。 統合報告に関しては、2013年12月に国際統合報告評議会から「国際統合報告フレームワーク」(以下、「<IR>FW」という。)が発行された後、各国でこれに準拠した統合報告書が公表されはじめている。本研究報告は、海外9社の2013年度の年次報告書を対象とし、統合報告の実務動向などについての調査研究結果を取りまとめたものとなっている。 なお、同様趣旨の研究報告として平成 25 年1月に公表済みの同研究報告第49号「統合報告の国際事例研究」から抜粋した10社の事例についても、本研究報告に附属資料として追加されており、<IR>FW公表前後の統合報告事例の比較などの点においても有用なものとなっている。 2 研修報告の内容 本研究報告は、まず前段で調査研究の目的や手法を述べたうえで、主たる内容として、様々な業種や国の9社の統合報告事例を紹介している。そして、とりまとめとして、各事例の横断的検討も試みている。 メインの事例紹介では、(1)会社概要 (2)報告体系(3)開示の特徴 という観点で、各社5ページ程度で簡潔に事例を分析検討している。 (2)では、各社のディスクロージャー全体における統合報告の位置付けや統合報告書の構成内容などを明らかにしたうえ、(3)では、<IR>FWにおける7つの「指導原則」と8つの「内容要素」への準拠状況や特徴的な取組みなどを評価している。特に(3)は、原則主義アプローチをとる<IR>FWの性質上、抽象的になりがちな部分に対する実務対応イメージをつかむために有用なものとなっている。 また、各事例の横断的検討の結果として、各社が戦略やビジネスモデルとの関連において、企業価値創造モデルに焦点を当てている点に触れている。さらに、前回調査結果と最も顕著な違いがあった部分として、指導原則の「情報の結合性」を挙げたうえ、各社が結合性を高めるために創意工夫している点にも言及している。 * * * 本研究報告は、統合報告に関する国際フレームワークの開発が進み、日本国内においても100社を超える企業が統合報告的な開示を進めている状況に鑑み、日本公認会計士協会が<IR>FW公表後としては初めて海外事例を幅広く調査分析した結果である。 今後ますますの拡大が期待される統合報告実務の参考となる有用な研究報告であるため、ぜひご一読されることをお勧めする。 (了) ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 ASBJ、リサーチ・ペーパー第1号「のれんの償却に関するリサーチ」を公表 ~日本基準による開示情報やアンケート結果等を示し国際議論への貢献を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年5月19日、企業会計基準委員会は、リサーチ・ペーパー第1号「のれんの償却に関するリサーチ」を公表した。 のれんの償却に関しては、すでに次のものが公表されている。 ①のディスカッション・ペーパーでは、リサーチ・グループは、のれんの償却を再導入することが適切であろうという結論を下している。 リサーチ・ペーパーは、企業会計基準委員会事務局が行ったリサーチ作業に関して予備的な結果を示している(日本語版と英語版)。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 実施したリサーチ作業 日本基準では依然としてのれんの償却を要求しているという事実を踏まえて、日本企業の現在の実務に関する実態調査を行っている。 次のリサーチ作業が行われている。 2 考察 「VII. 我々の予備的な考察」では、学術文献のレビューにおいて行った考察を除いて、以下の考察が述べられている(概要を述べているので、正確にはリサーチ・ペーパーをお読みいただきたい)。 学術文献の限定的なレビューを行った結果については、学術論文の研究成果によって、減損のみのアプローチの方が償却及び減損アプローチよりも優れていると結論を下すことは、少なくとも、困難であると考えられたと述べられている。 (了)
2015年5月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.120が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第19回】 「BEPS行動3:外国子会社合算税制の強化」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに BEPS行動3(外国子会社合算税制の強化)は、軽課税国に置かれた外国子会社への利益移転を防ぐため、外国子会社の利益を親会社の利益に合算して課税する外国子会社合算税制(CFCルール、タックスヘイブン税制)に関して、各国が導入すべき国内法の基準について勧告を策定するものであるが、わが国の現行税制とは大きく異なる方式が提示されている。 そこで、本稿では、草案の概要を紹介しつつ、わが国の現行税制を踏まえて、草案にどう対応していくべきか、経団連の考えを紹介する。 2 公開討議草案の概要 草案は、BEPS対策の観点から効率的CFCルールを構築すべく、その構成要素として7つのビルディング・ブロックを提示、それぞれのあり方に関し「勧告」を行いつつ、関連する質問を提示している。ただし、(4)対象所得の特定については「勧告」を行わず納税者の意見を求めている。 (1) 外国子会社(CFC)の定義 ①法人事業体に加え、パートナーシップ、信託及びPE(CFCがこれらを所有している場合または親法人国においてこれらが親法人とは別の課税事業体として取り扱われる場合に限る)に対しても、CFC税制を適用すること、②異なる国において異なる取扱いを受けることによってCFC税制を回避することを防止する修正ハイブリッドミスマッチルールを導入すること、が勧告されている。 (2) 閾値等 CFCを適用除外にする基準として、①実効税率をベースとして計算する低税率要件(low tax threshold)を含めるべきこと、②低税率要件は、CFC税制を採用する国の税率よりも有意に低い税率を使用すべきこと、が勧告されている。 (3) 支配の定義 親会社からの支配状態がどのようなものであれば、そのCFCの所得が親会社に合算されるのかという支配要件について、以下の要件が含まれるべきことが勧告されている。 (4) 対象所得の特定 対象所得の定義については勧告を示さず、いくつかの可能なアプローチを議論している。 いずれのアプローチをとるにせよ、CFC税制は、BEPSの懸念を引き起こす所得について、正確に特定し合算させるべきであり、とりわけ、持株会社の所得、金融・銀行サービス所得、販売所得、IP所得、デジタル商品・サービス所得、キャプティブ保険・再保険所得の文脈では、正確に特定し合算させるべきとする。 実務的には、CFC税制は、少なくとも以下の所得を対象とすることが可能でなければならない。 なお、「正確に特定し合算させるべき」とは、CFC所得に上記の所得全部を含めるべきという意味ではなく、最低限、それぞれのカテゴリーでBEPSを生じる所得を合算すべきであり、CFC国における価値創造活動による所得を合算すべきではないという意味である。 さらに、レントやリース所得、キャピタル・ゲインもCFC所得の対象に含め得るとされている。 合算すべき所得の特定方法として、①分類アプローチ(Categorical approach)、②超過利潤アプローチ(Excess profits approach)のオプションが検討されている。 分類アプローチは、上記の所得について、それぞれ実質分析(substance analysis)をクリアできないものはCFC所得に分類する。超過利得アプローチはCFCの所得から標準的なリターン(リターン率×適格資本)を控除した残額をCFC所得に分類する。 また、実際のCFC所得の合算方法としては、事業体アプローチ(Entity approach)と取引アプローチ(Transactional approach)を挙げ、取引アプローチをベスト・プラクティスとすべきとしている。 (5) 対象所得の計算ルール CFC所得をどのように計算するのかについては、 が勧告されている。 (6) 対象所得の合算ルール 計算されたCFC所得を誰に、どのように合算すべきかについては、以下が勧告されている。 (7) 二重課税の排除 二重課税の排除方法については、以下が勧告されている。 3 経団連のコメント 経団連では、4月30日にOECD租税委員会に対して、公開討議草案に対するコメントを提出した。その主な内容は以下の通りである。 (1) 外国子会社の定義 草案では一定のPEも含むと提案されているが、PEについては、各国で認定に伴う取扱いの差異や納税者と課税当局との主張の相違などが見られる。そのため、当該PEが現地で登記されるなど、取扱いが明確になっている場合を課税の前提とすることが望ましい。 また、組織再編等で企業を買収した場合に、当該買収先企業の子会社等が意図せずCFCの対象となっていた場合についてまで課税を及ぼすことは適切ではない。組織形態の再編のために、一定の猶予期間を設けるなどして、企業買収の場合についても配慮すべきである。 (2) 閾値 草案の低税率要件を導入すべきとする勧告に賛成する。ただし、閾値については、シンプルかつ明確なものが求められる。 各国の税率に基づき、トリガー税率を設定する場合、CFC適用法域との比較において、対象は著しいBEPSを想起させる低税率に絞ることが適切である。あわせて、実効税率の判定にかかる負担を軽減するため、BEPSの懸念が少ない国については実効税率の判定から除外する「ホワイトリスト方式」を導入することが望ましい。 (3) 支配の定義 支配の基準を50%超とした公開討議草案の支配の定義の水準に、基本的に賛成する。支配の判定時期については、基本的に年度末で統一することが望ましい。 また、例えば、CFCに50%ずつ出資していた場合に、支配の定義に該当しているかどうか調査するためには、非関連者も含めパートナー企業の株主について調査する必要が生じるが、この場合、パートナー企業がとりわけ上場企業であった場合には、その株主が非常に多岐にわたるため、調査することは極めて困難である。企業が調査等を行うべき範囲を明確化することが望ましい。 (4) 対象所得の特定 超過利得アプローチと比較して分類アプローチの方が対象となる所得が区分されており、真に問題となる所得を捕捉するというCFC税制の趣旨とも整合的である。 また、所得について、能動的所得をCFC所得外、受動的所得をCFC所得と扱うOECDの提案は基本的に理解できる。その際、実質分析を行うことになるが、能動的/受動的所得の判定については、当該企業の事業実態を考慮し、BEPSリスクの少ない企業については、企業の外形等からできるだけ簡便に判定を行い、事務負担等を軽減するかたちとすることが望ましい。 また、金融業など、その事業の性質から受動的所得と判断されやすい業種については、広く能動的事業による所得と認められるよう、各国において判断を統一することが求められる。 草案では、販売所得とサービス所得を一律に受動的所得と扱うこととしたうえで、実質分析を行うとしているが、適切な事業実態を伴う企業において、販売/サービス所得が多数を占めることを踏まえれば、このような提案は、BEPS対策のために過度に対象を広げるものであり、企業の事務負担も大きく増加するため、賛成できない。 保険については、その性質に基づき、何が受動的所得/能動的所得にあたるのか慎重に判断することが求められる。少なくとも、一定のグループ間取引、再保険取引等について、保険市場の特殊性から、能動的所得とすべき場合があることに留意すべきである。 (5) 対象所得の計算ルール 所得計算については、親会社の所在地国の税制に従って再計算するのは、対象となるCFCの会社数が多い場合には納税者に過大な負担が生じることとなる。したがって、CFC所得の計算に際しては、親会社の所在地国の法令のみならず、CFCの現地法令に基づく計算も認めることに妥当性がある。その観点から、親会社の所在地国の税制のみならずCFC法域の税制を選択できるオプションが必要である。 (6) 対象所得の合算ルール 所得の合算については、課税所得の計算・合算の正確性を期すため、期末日を基準とすることを明確にすべきである。 (7) 二重課税の排除 草案では、複数国でCFC税制が適用される場合には、CFCに近い法域から、CFCを適用するとしているが、各国間で課税方式・除外基準等が異なる場合、どの所得にCFC課税がなされたのか判別することは非常に困難であり、結果的に二重課税が発生するおそれが大きい。 そのため、基本的には複数国間でCFC税制が適用される場合には、CFCに近い法域のみ課税権を有するという形で考え方を整理すべきである。 4 おわりに BEPS対策の観点から真に効果的・効率的なCFC税制を構築することは、企業間の競争条件を均衡化する観点からも必要であり、世界で最も厳格とされるCFC税制が適用される日本企業の立場からすれば、企業間の競争条件の均衡化とは、まずは不十分なCFC税制を有する国における制度の見直しであるべきである。 その上で、CFC税制の重畳適用による二重課税の確実な防止・排除などの視点も踏まえれば、できるだけ各国のCFC税制の差異をミニマイズすることが理想である。 一方で、各国はすでに様々な形態のCFC税制を採用していることも事実であり、単に各国の制度を画一的にコンバージェンスすれば良いというものでもない。 例えば、CFC税制の設計に際し、EUは欧州裁判所判決との整合性を図らなければならず、OECD加盟国の相当数が欧州諸国であることを踏まえると、勧告はEUを意識したものとならざるを得ないと考えられるが、それらが他国の既存の制度とマッチするかについては十分な検証を要する。 各国で現に多様な制度が執行されているなかで、OECDが勧告すべきは、あくまでもBEPS対策の観点から実質的に有効なCFC税制についての考え方の整理であり、形式的に単一のベスト・プラクティスの勧告ではない。 経団連としては、日本の現行法制を踏まえ今後も維持すべき制度上のメリット等、具体的に訴えていくべき点は何かを引き続き検討しており、課税当局とも協調しながら、さらに意見発信を行っていく。 【参考 主要国のCFC税制の概要】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
基準年度の見直しによる 「実質的に債権とみられない金額」の簡便法の取扱いについて ~平成27年4月1日以後に開始する最初の事業年度における貸倒引当金計算上の留意点~ 税理士 小谷 羊太 平成27年度税制改正では、中小企業等の貸倒引当金の特例について、一括評価金銭債権の帳簿価額から控除される「実質的に債権とみられない金額」の基準年度の実績による場合の簡便法に関し、次の見直しが行われた。 以下では本制度概要について改めて確認するとともに、今回の改正を踏まえた適用初年度の取扱いについて解説する。 ◆一括貸倒引当金-現行制度の概要 貸倒引当金は、金銭債権のうち、将来の貸倒れに備えるために、その損失の見込額を計上することができる引当金制度である。 当該事業年度の売上に係る金銭債権について、損金経理により貸倒引当金として費用計上した金額のうち、一定額(貸倒引当金繰入限度額)が当期の損金として認められる。 ◆一括貸倒引当金繰入限度額の計算 一括貸倒引当金繰入限度額の計算には、「貸倒実績率」による計算方法と「法定繰入率」による計算方法がある。このうち、法定繰入率による計算方法は、期末資本金が1億円以下の中小法人のみ選択することができる。 ▷貸倒実績率による計算方法(参考) 一括評価金銭債権 × 貸倒実績率 = 一括貸倒引当金繰入限度額 ▷法定繰入率による計算方法 ◆中小企業等の貸倒引当金の特例-貸倒引当金の繰入限度額の計算 法定繰入率により計算する一括貸倒引当金繰入限度額は、上記算式のとおり「一括評価金銭債権の額」から「実質的に債権とみられないものの額」を差し引いた金額に「法定繰入率」を乗じて算出する。 「実質的に債権とみられない金額」の計算方法は、「個別法」による方法と「簡便法」による方法が選択できる。つまり、実質的に債権とみられないものの額について、その算定方法が選択できるのであれば、その金額は少なくなるほうが、法定繰入率を乗じる金額が大きくなるので、一括貸倒引当金繰入限度額は大きくなる。 上記のことを踏まえ、黒字が見込まれる事業年度については、会社にとって有利な方法(実質的に債権とみられない金額が少なくなる方法)を選択することとなる。 ◆平成27年度税制改正事項の確認 財務省ホームページの「租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令(要綱)」では、本改正について以下のように記述されている(下線部筆者)。 ◆基準年度実績による簡便法の計算 基準年度実績による「実質的に債権とみられない金額」の計算は、次の算式により計算した「控除割合」を一括評価金銭債権に乗じて計算する。 上記算式にある各事業年度は、基準年度のものを使用する。 つまり、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始した各事業年度のものを合計して使用することとなる。 ◆基準年度における留意点 基準年度実績(簡便法)による実質的に債権とみられない金額の計算は、「控除割合」を用いて「実質的に債権とみられないものの額」を算定することができるため、現在の申告において貸倒引当金の規定の適用を受けない企業であっても、将来その計上が必要となったときに、貸倒引当金の繰入限度額が容易に計算できるようになる。 そのため、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度においては、新法における控除割合を算定しておくために、個別法により「実質的に債権とみられないものの額」の計算をしておきたい。 ◆経過措置 今回の改正による簡便法の計算は、平成27年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税申告から適用がある。 つまり、適用がある事業年度以降分の法人税申告の計算にあっては、旧法による平成10年4月1日から平成12年3月31日までの間に開始した各事業年度分の数値により計算した控除割合は使用できない。 平成27年4月1日以後に開始する最初の事業年度分の法人税申告の際に使用する控除割合は、当事業年度の実績により計算した控除割合を用いて計算する。 なお、一事業年度が1年に満たない法人(半年決算法人など)である場合には、平成27年4月1日以後の各事業年度のうち、2期目となる事業年度については、1期目の事業年度と2期目の事業年度の実績を考慮した数値によって控除割合が計算され、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始した各事業年度がすべて終了した時点で、今後の簡便法として使用することができる控除割合が確定することになる。 ◆平成27年4月1日以後に開始する最初の事業年度の計算 上述したように、平成27年4月1日以後に開始する最初の事業年度分の法人税申告の際に使用する控除割合は、当事業年度の実績により計算した控除割合を用いて計算する。 このとき、「『個別法』による実質的に債権とみられないものの額」と「『簡便法』による実質的に債権とみられないものの額」は、同じ数値を使用して計算するため、ほぼ同額となる。 つまり以下の事例のように、控除割合について小数点以下3位未満の端数があるときは、その端数を切り捨てるので、ほとんどのケースでは同額とならないことが想定されるが、その端数分についてのみ簡便法の控除割合を用いた方が若干有利となる、という程度である。 上記事例の場合、簡便法を選択した方が、実質的に債権とみられない金額が少なくなり、結果的に一括貸倒引当金繰入限度額が大きくなる。 ただし、繰り返しとなるが、新法が適用される事業年度以後の事業年度のうち、特に基準年度に該当する事業年度については、今後使用する「控除割合」を算定するためにも、「実質的に債権とみられないものの額」を計算しておく必要がある点には留意したい。 また、このように控除割合の算定にあたって使用する基準年度の数値は、「平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度」のそれぞれの事業年度の末日の数値を使用するのであるが、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度の中途の事業年度については、この期間中に開始した各事業年度のものを合計して使用することになる。 つまり、上記事例のように、新法が適用されてから最初に到来する事業年度については、その最初の事業年度末日の数値のみで控除割合を仮に算定して使用し、新法適用後に2期目が到来した事業年度については最初の事業年度末日の数値と、翌事業年度末日の数値を合計した数値によって控除割合を計算する。 一事業年度が1年である通常の法人であれば、基準年度(平成27年4月1日から平成29年3月31日までの期間内に開始した各事業年度)の期間中に2回開始事業年度が到来するため、その2期分の数値を使用して算出した控除割合が今後使用する控除割合として確定する。 しかし、当社が仮に半年決算法人である場合には、基準年度の期間中に開始が到来する事業年度は4期分あるため、それぞれの事業年度分(4期分)の数値を合計して算出した控除割合が今後使用する控除割合として確定することになる。 1期から3期までの申告にあっては、それぞれの各事業年度が到来する都度、それぞれの事業年度の末日の数値を合計した数値をもって、仮の控除割合を経過的に使用することになるので注意が必要だ。 (了)
マイナンバー制度と 税務手続 【第4回】 「本人確認の具体的手順」 ~会計事務所で想定される“3つのケース”~ 税理士 坂本 真一郎 前回に引き続き、マイナンバー制度においてポイントとなる『本人確認』について、税理士等が個人番号を取り扱う代表的な次の3ケースごとに、具体的な「本人確認の措置」を見ていきたい。 【ケースA】 自らの会計事務所等の従業員等の給与所得に係る源泉徴収票を作成し、法定調書合計表とともに提出する場合 【ケースB】 顧問先の従業員等の給与所得に係る源泉徴収票等を作成し、法定調書合計表とともに提出する場合 【ケースC】 顧問先の個人納税者の所得税の確定申告書を作成し、提出する場合 【まとめ】 ここに掲げたケースやそれぞれの確認書類はほんの一例であるが、どのケースにも共通して言えることは、本人確認のための手続や添付書類が新たに増える「書面提出」に対して、「電子申告」であれば従来とほとんど変わらない手続で済むということである。 具体的には、税務関係書類等を書面により代理提出する際に必要な「税理士証票の写し」や「本人の番号確認のための書類」は、電子申告により代理送信すれば提出する必要がなくなる。 次回のテーマとなる安全管理措置の観点からも、管理すべき特定個人情報等を必要最低限に抑えることが肝要であり、マイナンバー制度に対応するため、もはや「電子申告」というツールは必須と言える。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第6回】 「金銭又は有価証券の受取書②(営業に該当するか)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 個人で賃貸用に使用していた土地建物を売却しました。 その際に作成する売却代金の受取書には、印紙を貼付しなければいけませんか。 個人が賃貸用に使用していた土地建物の売却に際して、売主が作成する領収書は自宅の家事用資産を譲渡した場合とは異なり、賃貸業を行う者(商人)として作成するものであり、営業に関しない受取書には該当せず、課税の対象となる。 したがって、第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)、記載金額1億5,000万円、印紙税額は40,000円となる。 [検討1] 営業に関するかどうか 営業に関しない受取書は非課税とされているが、個人の場合、具体的にどのような行為が営業に関するものかというと、商法の規定による商人と商行為による。したがって商人(商法上の商行為を行う者)である個人の行為は営業に該当する。 一方、商行為に該当しない医師、弁護士、税理士等の行為は営業には当たらず、店舗を持たない農業従事者等が作成する受取書も営業には当たらない。 事例の場合においては、自宅の家事用資産を譲渡した場合と異なり、商行為である賃貸業を行う者(商行為)として作成される文書のため、営業に関しない受取書には該当せず、課税文書に該当することとなる。 [検討2] 売上代金に該当するかどうか 印紙税法上の売上代金とは原則として「資産を譲渡し若しくは使用させること又は役務を提供することによる対価」をいう。 したがって、売上のみならず事業用資産や賃貸用資産を売却した際の対価も第17号の1文書の売上代金となる。 このことからも事例の場合においては、印紙税法上の営業に関する売上代金の受取書を発行したといえる。 ▷ まとめ 第17号文書の非課税規定における、営業に関しないものとは、商法上の商人に当たらない者が作成する受取書をいうものとされている。 個人の場合は前述の[検討1]において解説したが、法人の場合はどうかというと、①営利法人の行為はすべて営業となる。②公益法人は営利を目的としていないため営業には該当しない。③営利法人及び公益法人以外の法人については、剰余金又は剰余金の配当又は分配をすることができる法人か否かによって違ってくる。 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第14回】 「企業活動への影響」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 4 企業活動への影響 4-1 外国法人・内国法人に共通の影響 4-1-1 AOA導入国がまだ少ないことによる影響 わが国の非居住者課税原則が総合主義から帰属主義に変更されたことで、国内法が国際ルールと整合的になったことから、従来よりも二重課税の発生する可能性が減ったということは言えるだろう。しかし、AOAは単なる帰属主義ではなく、内部取引を認識しKERT機能への配分を行うなど、新たに配慮すべき面も多く含まれる点に注意する必要がある。 AOA導入後において二重課税を完全に排除するためには、相手国もAOAを導入していることが必要になる。しかし、既にAOAを導入している国は極めて少ない。今後増加していくだろうが、多くの国が導入するまでには何年もかかる。それまでの間は、相手国がAOAを導入しているか否かで課税所得の計算を変えなければならないという面倒な処理をしなければならない。 また、途上国がAOA導入に消極的であることは懸念材料である。相手国ごとに対応を異にしなければならない状況が恒常化する可能性がある。 4-1-2 移転価格並みの独立企業間価格の計算と文書化が必要に AOAの導入によって本支店間取引も移転価格税制と同様に取り扱われることになり、また、文書化義務が導入された。これによって、今後は本支店間取引について、関連取引と同様にCUP、RP、CP、TNMM、PS法といった算定方法が適用されることになる。 支店についてベストメソッドとしてTNMMが適用できる場合を考えてみると、仮に、A支店と比較可能な独立の企業のコストプラスマークアップ率が8%から10%のレンジであるとして、実際には15%のマークアップ率を得ていたとすると、10%を超過する部分は否認されることになる。外国法人の日本支店であれば当期の所得に加算され、内国法人の外国支店であれば外国税額控除の控除限度額計算上の国外所得が減額される形で税額計算に影響がある。 文書化についても、関連取引と同様の文書化が必要になるが、関連者間取引の文書化に比べて本支店間取引の文書化は内部取引を認識するという追加的な作業が必要になる点で事務負担が大きい。 内部取引を認識するための作業は、まず、本支店間で実際に行われている取引を、認識しているものも認識していないものも含めて洗い出し、その中で個別の取引として認識すべき取引とそれ以外とに区分する。その後、個別の取引として認識したものについて、価格設定の妥当性の検証を行う。その後、価格設定の妥当性を検証した結果を文書化する。その際、本支店があたかも親会社と子会社の関係であったなら対価を支払うかどうかという観点からの検討が必要になる。 また、文書化する際は、内部取引に関する書類の保存が必要になるので、モノを動かした証拠としての送り状や、金銭を動かした証拠としての領収書などの証憑類を保存しておくほか、外部取引に関する書類ももちろん保存しておく必要がある。 とはいえ、最も重要な要素は「無形資産」の取引に関する記録と証拠書類である。支店が独自に無形資産を開発した場合、実際に支店が開発したことを証明するためには、相応の書類を保存しておく必要がある。 4-1-3 重要な人的機能の認識により所得配分のあり方が変わる 本支店間の利益配分は、本支店が分離した独立の経済主体であったと想定して機能分析により行うのであるが、1つの法人のどの部分が機能を果たしているかを判定するうえで、重要な人的機能を果たしている本支店に所得を配分することになる点、通常の移転価格分析とは若干異なる点に注意する必要がある。 例えば、日本法人のA国支店の活動による収益100がB国支店の帳簿に計上されている場合、外国税額控除の計算上の国外所得の計算の上では、100の所得はB国の国外所得からA国の国外所得に変更になる。今のところわが国の外国税額控除の限度計算は国別控除方式ではなく、国外所得の合計額が変わらない限り控除額に変わりはないが、将来、仮に国別控除方式を採用する場合には、影響することになる。 4-1-4 資本配賦計算が必要になる 資本配賦法によるか同業者比準法によるかは選択できるので有利な方を選択できるが、特別の事情がない限り変更できないので、最初に選択する際によく検討して、将来を見越して選択する必要がある。 4-2 日本に支店をもつ外国法人への影響 メリットとしては、国内法の課税原則が国際的な課税原則と一致すること、及び外国法人にも外国税額控除を認めることとしたため、従来よりも二重課税が発生する可能性は低くなるとみられるという点がある。 一方、支店の課税所得の算定方法について膨大な量の改正が行われたことから、法改正に対応するための時間とコストを要することになる。 4-3 外国支店を有する内国法人への影響 子会社形態でのみ海外進出している日本企業には今回の改正はほとんど影響がないが、支店形態で進出している場合には外国税額控除に関して影響がある。 (1) 事務負担の増加 従来考慮する必要のなかった本支店間取引の価格について改正後には独立企業原則が適用されることになり、さらに内部取引を認識し、文書化をしなければならないことは大きな負担になることが予想される。 例えば、海外の支店に対する役務提供の対価を請求していなかった場合、今後は重要な内部取引については取引と認識したうえで、独立企業間並みの役務提供対価を請求しなくてはならない。また、内部取引を明示的に認識できない役務提供で支店に便益を与えているものについては、従来どおり、本店経費配賦で支店に配賦しなければならない。 そうした請求・配賦計算を行った結果として算定される国外所得額が外国税額控除の控除限度額計算に用いられる。 また、本支店取引が独立企業原則に則っていることを説明する文書を作成・保存する義務が課されており、文書化していない場合、外国税額控除が否認されるリスクを負うことになる。 また、内部取引に関する文書の作成及び当該文書の提示又は提出がない場合には、移転価格税制と同様に推定課税のリスクを負うことになる。 (2) 二重課税リスクの増加 従来国外事業所得であった所得で改正後は国外PEに帰属しない所得は外国税額控除の対象にならないため、二重課税リスクが生じる。例えば、日本の本社から海外の顧客に直接販売する取引について、従来は国外源泉所得であった所得が改正後は国外PE帰属所得とならない場合には、二重課税リスクが生じる。 (3) 国外PEの範囲 PEの定義は租税条約がある場合には租税条約によることになるが、条約の規定は様々であり、PE該当性が現地当局と争いになっているケースもあることから、個々に対応する必要がある。 (4) 国外PEの帰属所得の計算 また、租税条約相手国でない場合の国外PEの帰属所得の計算はAOAを適用することになるが、現地国内法のPE帰属所得の計算は、収入に対して一定の割合を乗じて課税所得を計算するようなみなし課税方式をとっている国も多くあり、こうした課税方式をとっている国のPEについては二重課税リスクの発生は不可避であるため、必要に応じて子会社形態に移行するなどの対策を講じる必要がある。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第43回】 「法人税基本通達改正の歴史⑫」 公認会計士 佐藤 信祐 13 デット・エクイティ・スワップ(DES) 平成15年度に「法人税基本通達等の一部改正について(平成15年2月28日課法2-7)」が公表され、合理的な再建計画等の定めるところにより、現物出資型のデット・エクイティ・スワップ(適格現物出資に該当するものを除く)を行うことにより株式を取得した場合には、その取得した株式の取得価額は、当該取得の時における価額となることが明らかにされた(法基通2-3-14)。 当時は、組織再編税制が導入された後であったことから、現物出資型のデット・エクイティ・スワップについては、現物出資として整理され、適格現物出資に該当するのであれば簿価で移転され、非適格現物出資に該当するのであれば時価で移転されることになる。デット・エクイティ・スワップについては、そもそも事業の移転や従業者の移転を伴うものではないことから事業継続要件、従業者引継要件を満たすことができず、100%グループ内の現物出資に該当しない限り、非適格現物出資として処理されることになる。 債務者側においては、平成18年度税制改正前は評価額説と券面額説がそれぞれ対立していたが、債権者側においては、会計上も法人税法上も「新たな資産」の取得であるとして、時価で認識すべきであるというのが一般的な見解であったように思われる。なお、会計上は、平成14年10月9日に、「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い(企業会計基準委員会実務対応報告第6号)」が公表されており、時価で認識することが明らかにされている。 法人税法上は、同通達が公表されたことによりその取扱いが明らかになったが、ここで留意すべきは、「合理的な再建計画等の定めるところにより」と規定されていることから、法人税基本通達9-4-2を意識していると思われるが、合理的な再建計画等がなかった場合にどのようにすべきであるかという点が問題になってくるという点である。 この点については、寄附金として処理されるというのが自然な解釈であり、 と説明されている。 しかし、法人税法上の体系上、たしかに、債権放棄と実質的に変わらないとしても、債権を時価で譲渡したという事実は変わらず、第三者に譲渡した場合には、時価が妥当であれば譲渡損を認識することができるのに対し、債務者に対して現物出資をした場合には、時価を券面額であると仮定したうえで寄附金の額を計算することになるのかがよく分からない(そもそも券面額が時価であるというならば、株式の取得価額が券面額となるはずなので、譲渡損は発生せず、また、寄附金も発生しないはずである)。 現物出資が非適格現物出資に該当したとしても、債権の時価に相当する株式を取得したのであるから、そこに寄附性は存在しないというのが本来であれば自然な解釈であるように思われる。 しかしながら、課税当局としてはそのように解釈を行わず、債権放棄と同様に、法人税基本通達9-4-2を満たさない限り、寄附金として処理するという整理を行ったのであるから、実務上は、デット・エクイティ・スワップにより生じた損失については、寄附金として処理される可能性があるという点に留意が必要である。 14 まとめ 第32回から第43回(今回)まで、シャウプ勧告から現在までの法人税基本通達の改正の歴史を辿っていった。現在の貸倒損失に関する法令通達がどのように変遷して行ったのかを見るということは、現在の貸倒損失の制度趣旨を知る上で重要なことであると考えられる。 貸倒損失についての法人税基本通達の体系としては、法的に滅失した場合における法人税基本通達9-6-1と、経済的に回収が不能である場合における法人税基本通達9-6-2、9-6-3とに分けられる。 昭和29年度に「売掛債権の償却の特例等について(昭和29年7月24日直法1-140)」と題する通達が公表される前であっても、法人税基本通達116において、「債務超過の状態が相当期間継続し事業再起の見透しなきため回収の見込のない場合」が規定されていたことから、現在との多少の誤差はあるにせよ、当時の法人税基本通達において現在の貸倒損失における取扱いとほぼ同じ取扱いがなされていたことが分かる。 唯一異なる点があるとすれば、平成10年度税制改正前までは、債権償却引当金勘定、債権償却特別勘定を通達で容認することにより、厳格な貸倒損失の取扱いを緩和していたという点であり、戦前から一貫して、貸倒損失についてはその全額が回収不能である場合に限り、損金の額に算入することができるという建前を貫いてきたという点は変わらない。 法人税基本通達9-4-1、9-4-2については、清水惣事件を受けて導入された通達であると言われているが、その後の実務に対応するために、平成10年度に法人税基本通達が改正され、私的整理ガイドラインを始めとする数々の事前照会文書が公表されるに至っている。 また、法人税基本通達9-6-1、9-4-1、9-4-2については、債権の消滅についての法的効力が生じた時点において適用されるものであり、そもそも債権の消滅についての法的効力が生じていないのであれば、法人税基本通達9-6-1、9-4-1、9-4-2は適用されず、法人税基本通達9-6-2に基づく債権の全額が回収不能である場合における貸倒損失の計上を検討することができるのか、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金を設定することができるか否かという点が問題になってくる。 法人税基本通達の歴史を辿っていくと、法人税基本通達9-6-1を適用することができるか否かという点における「債権の消滅についての法的効力が生じた場合」という点の判断についてはそれほど変わっていないが、法人税基本通達9-6-2を適用することができるか否かという点における「債権の全額が回収不能である場合」というのは、法人税基本通達の整備や実務の事例が積み重なっていく中で、より厳格になっていったように思われる。すなわち、貸倒引当金として部分貸倒れの問題を整理していったことから、法人税基本通達9-6-2の判断はかなり厳格に捉えられており、その立証というのは納税者にとってかなり酷なものになっているというのが実態である。 これに対し、歴史的に、債権償却引当金、債権償却特別勘定、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金が果たしていた役割については、貸倒損失の認識がかなり酷であったことからそれを緩和するというものがあった。しかしながら、平成23年度税制改正により、金融機関、中小企業等を除き、貸倒引当金の設定が認められなくなってしまい、僅かながらでも債権の回収可能性がある場合には、損金の額に算入されないことになってしまったため、今後は、その損失を確定させるという作業が必要になってくるが、法人税基本通達9-6-2の適用はかなり厳格であることから、債務者と合意の下で、債権処理をしていかなければならないという場面も多いと思われ、納税者にとっては酷な場面も少なくないと思われる。 第5回から第14回までは子会社支援のための無償取引、第15回から第31回までは貸倒損失に関する判例分析、第32回から第43回(今回)までは法人税基本通達改正の歴史について解説を行った。かなり、前置きが長くなってしまったが、貸倒損失についての理論的な分析、実務的な解説を深く行うために必要なものであったということでご容赦願いたい。 次回以降は、今までの解説から、貸倒損失の法律論をまとめたうえで、具体的な法人税基本通達の事例について解説を行っていく予定である。 (了)