《速報解説》 特定空家等の判定に当たって 必要となる指針をまとめた「ガイドライン」がパブコメへ 税理士 島田 晃一 はじめに 平成27年度の税制改正により、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に定める特定空家等について、市町村長から取り壊しや修繕等をするよう勧告が行われたときは、その空家等に係る土地に係る固定資産税及び都市計画税については住宅用地の特例措置の対象から除外されることになった(地方税法第349条3の2)。 具体的に「特定空家等」とは、次に定める建物等をいう。 建物等がこられの状態にあるか否かについては、立入調査等が行われ個別に判定されるが、この判定にあたって4月13日付けで、国土交通省から「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)の案が提示され、パブリックコメントの募集が行われている。 当該案の中には、特定空家等に該当するか否かの例示がされており、実際の判定の際の重要な要素になると思われるので、その中の一部について紹介する。 例えば、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となる状態」、「そのまま放置すれば倒壊等著しく衛生上有害となる状態」に該当するか否かについて、次のように例示されている。 1 そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となる状態 「建物が著しく保安上危険となるおそれがある」又は「擁壁が老朽化し危険とるおそれがある」に該当するか否かにより判断される(将来そのような状態になることが予見される場合を含む)。 「建物が著しく保安上危険となるおそれがある」に該当するか否かは、次の(1)又は(2)に掲げる状態に該当するどうかによって判定される。 (1) 建築物が倒壊等するおそれがある 次のイ又はロに掲げる事項に該当するか否かにより判定される。 イ 建築物の著しい傾斜 ロ 構築物の構造耐力上主要な部分の損傷 (イ) 基礎及び土台 (ロ) 柱、はり、筋かい、柱とはりの接合等 (2) 屋根、外壁等が脱落、飛散等するおそれがある イ 屋根ふき材、ひさし又は軒 ロ 外壁 ハ 看板、給湯設備、屋上水槽等 ニ 屋外階段又はバルコニー 一方、「擁壁が老朽化し危険となるおそれがある状態」に該当するか否かの例示は次のとおりである。 2 そのまま放置すれば倒壊等著しく衛生上有害となる状態 「そのまま放置すれば倒壊等著しく衛生上有害となる状態」とは次の(1)又は(2)に掲げる状態(将来そのような状態になることが予見される場合を含む)に該当するか否かにより判断される。 (1) 建築物又は設備等の破損等が原因で以下の状態にある。 (2) ゴミ等の放置又は不法投棄が原因で以下の状態にある。 立入調査等の結果、上記の要件に該当し特定空家等であると判定された場合、市町村長はその特定空家等の所有者に対し除却、修繕、立竹木の伐採その他生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう「助言又は指導」、「勧告」及び「命令」と段階を経て手続きが進行する(勧告の段階で住宅用地の特例の対象から外される)。 なお、上記の行政指導に至るには、特定空家等に該当する建築物が、周辺建築物や通行人に悪影響を及ぼすおそれがある可能性や危険の切迫性の高低など、その建築物の立地やその地域の気象条件等を勘案し総合的に判断されることになるため、特定空家等であると判定された場合、必ずこれら行政指導が行われるとは限らないことにも留意したい。 (了)
《速報解説》 会計士協会より 「マイナンバー導入後の監査人の留意事項」を示した通達が公表 ~特定個人情報の入手等に適切・慎重な対応を求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月22日付で、日本公認会計士協会は、自主規制・業務本部 平成27年審理通達第2号「マイナンバー導入後の監査人の留意事項」を公表した。 平成25年5月31日に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成25年法律第27号。以下「番号法」という)が公布されている。 平成27年審理通達第2号は、マイナンバー導入に際しての公認会計士又は監査法人の対応について示したものである。 会計監査を受ける事業会社においても参考になると思われるので、ぜひ、お読みいただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ マイナンバーの概要 番号法に基づき、平成28年1月以降、社会保障、税及び災害対策の分野のうち、同法で定められた事務について個人番号(いわゆるマイナンバー)の利用等を開始する予定である。 また、平成27年10月を目途に住民票を有するすべての者へ個人番号が通知される予定である。 具体的な内容については、内閣官房の「マイナンバー 社会保障・税番号制度」をお読みいただきたい(下記リンク参照)。 Ⅲ 監査人の留意事項 公認会計士法2条1項の業務(以下「監査業務」という)を行う公認会計士又は監査法人(以下「監査人」という)は、被監査会社から番号法2条8項に規定する「特定個人情報」の提供を受けるに当たり、同法19条及び20条の提供、収集又は保管の制限を受けることはなく、監査業務において特定個人情報の入手が可能であるとのことである。 (出所:特定個人情報保護委員会「「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」及び「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」 に関するQ&A」) 平成27年審理通達第2号では、次のことが述べられている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、財務諸表の表示・開示に関する会計基準の 必要性について検討を開始 ~研究資料及び現時点の考察内容を公表、意見募集へ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月16日付で、日本公認会計士協会・会計制度委員会は次のものを公表し、意見募集を行っている。 国内外において、企業の情報開示に関する議論が活発に行われている中で、日本公認会計士協会は、財務諸表の表示・開示についての会計基準を検討する時機が来ているのではないかと考え、我が国における会計基準の必要性の検討を行うこととしたと述べている。 意見募集期間は、平成27年6月17日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 我が国の財務諸表の表示・開示に関する検討について 調査・研究を進めていく中で、我が国の財務諸表の表示・開示の会計基準を検討する場合には、日本公認会計士協会としては、次の事項について優先すべきであると現時点では考えているとのことである。 「質問事項」として、下記の事項を踏まえて、コメントが求められている。 2 我が国の財務諸表の表示・開示に関する調査・研究 IFRSを参考にして、日本基準とIFRSの開示規定を比較し、比較の結果、重要な差異として把握された事項について、IFRSを任意適用している日本企業が財務諸表利用者に対してどのような情報を開示しているのかについて検討したとのことである。 日本基準とIFRSの表示及び開示規定の比較、開示事例等に基づく分析、開示に関する議論の国際的動向などについて、調査が行われている。 (了)
《速報解説》 税理士業務が「個人番号関係事務実施者」から外れるケースあるも、 税理士法上で縛り ~「税理士のためのマイナンバー対応ガイドブック」で言及 Profession Journal編集部 来年1月より運用が開始されるマイナンバー制度では、従業員等の個人番号を給与所得の源泉徴収票、支払調書、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届等の書類に記載して、行政機関等及び健康保険組合等に提出する事務を行う「個人番号関係事務実施者」について定められている。 「個人番号関係事務実施者」は、個人番号及び特定個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止等、特定個人情報の管理のために、必要かつ適切な安全管理措置を講じなければならない。 税理士は、まさに「個人番号関係事務実施者」に該当すると考えられるが、先に日税連が公表した「税理士のためのマイナンバー対応ガイドブック」(以下「ガイドブック」という)により、税理士が行う業務の内容によっては、この「個人番号関係事務実施者」から外れるケースがあることが判明した。 税理士は、次の事務を行う場合には、「個人番号関係事務実施者」に該当することとなる(ガイドブック5頁)。 ① 税理士等が自らの事務所の従業員等の給与所得に係る源泉徴収票等の作成、健康保険・厚生年金事務及び労働保険事務を行うために、従業員等(従業員等の扶養親族を含む。)の個人番号を取得し、源泉徴収票等に当該個人番号を記載し行政機関等及び健康保険組合等に提出する場合。 ② 税理士等が業務委嘱契約等に基づき顧問先の給与所得に係る源泉徴収票等の作成事務を行うために、当該顧問先の従業員等(従業員等の扶養親族を含む。)の個人番号を取得し、源泉徴収票等に当該個人番号を記載し行政機関等に提出する場合。 ③ 税理士等が業務委嘱契約等に基づき顧問先の所得税の確定申告書を作成するために、顧問先及び顧問先の扶養親族に係る個人番号を取得し、当該申告書に扶養親族の個人番号を記載し行政機関等に提出する場合。 税理士が行う本来業務は、これらでカバーすると想定され、すべからく「税理士=個人番号関係事務実施者」に該当すると考えられるのだが、「ガイドブック」では次のような記述(ガイドブック6頁)がある。 ※ なお、税理士が顧問先である個人の納税者から当該納税者の個人番号のみを取得し(納税者の扶養親族の個人番号を取得せず)、当該納税者の個人番号のみを記載した所得税の確定申告書を作成し行政機関等に提出する場合は、当該納税者が個人番号関係事務実施者に該当しないことから、当該納税者の代理人である当該税理士についても「個人番号関係事務実施者」に該当しません。 上記の繰り返しではあるが、これを具体的に説明すると下記のようになる(ガイドブック29頁)。 ① 自らの事務所の従業員等の給与所得に係る源泉徴収票等の作成、健康保険・厚生年金事務、労働保険事務を行う場合 ② 顧問先との業務委嘱契約等に基づき顧問先の給与所得に係る源泉徴収票等の作成事務を行う場合 ③ 顧問先との業務委嘱契約等に基づき顧問先の税務代理(税理士法第2条第1項第1号)又は税務書類の作成(税理士法第2条第1項第2号)に係る事務を行う場合 上記①及び②については、個人番号関係事務に該当することは明確ですが、③のうち、顧問先である個人の納税者が当該納税者以外の他者の個人番号を取り扱わない場合、委嘱された税理士等は、当該納税者の個人番号のみを取り扱うこととなります。当該納税者が本人の個人番号を取り扱う事務は、個人番号関係事務に該当しないことから、当該納税者の代理人である税理士等が行う事務も個人番号関係事務には該当しません。 つまり、税理士が個人の確定申告書の作成と提出を受任した場合に、依頼者が独身などで、申告書に依頼者本人の個人番号しか記すことがないケースでは、マイナンバー制度(番号法)上は、受任した税理士は「個人番号関係事務実施者」から外れることとなるのだという。 しかし、上記の確定申告の依頼者に配偶者や子供がおり、各種控除を適用する場合に、その配偶者や子供の個人番号を預かり、その番号を申告書に記載する場合には、その配偶者や子供の個人番号については「個人番号関係事務実施者」に該当することとなる。なお、この場合でも依頼者本人に対しては「個人番号関係事務実施者」からは外れる。 なんとも理解しがたい番号法の制度設計だが、制度上ではこのような事態が生じるのだ。 とはいえ、上記ケースのように番号法の責任の範囲から外れて「個人番号関係事務実施者」には該当しない場合であっても、次のように税理士法の縛りがかかるため、「ガイドブック」の内容の遵守が求められることとなる(ガイドブック6頁)。 税理士等は、税理士法第37 条(信用失墜行為の禁止)及び第38 条(秘密を守る義務)の規定を遵守しなければならず、また、個人番号関係事務に該当しない事務を行う場合であっても、顧問先の特定個人情報を取り扱うことに変わりはないため、必要かつ適切な安全管理措置を講じる必要がある。 (了)
《速報解説》 法人税法施行規則の一部改正により 平成27年度税制改正を受けた 「法人税申告書(別表)」の新様式が明らかに Profession Journal編集部 平成27年4月15日付けの官報号外第86号で「法人税法施行規則の一部を改正する省令」が公布され、平成27年度税制改正等を受けた法人税申告書(別表)の改正様式が明らかとなった(当該省令は公布の日から施行(改正省令附則1一))。 なお、以下の改正省令も官報同号において公布されている。 以下、主な様式の改正事項について取り上げる。 (了)
《速報解説》 「金融商品会計に関する実務指針」及び 「金融商品会計に関するQ&A」が改正 ~ヘッジ会計に関する2つの論点の取扱いを明記~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月14日(ホームページ掲載日は4月16日)、日本公認会計士協会は、次の実務指針等の改正について公表した。 これにより、平成27年2月6日付で意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、企業会計基準委員会からの依頼によるものであり、ヘッジ会計の限定的見直しを行うものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 異なる商品間でのヘッジ 次の取扱いは、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)及び「金融商品会計に関する実務指針」上、明確である。 これを周知するために、「金融商品会計に関する実務指針」143項に一文を追加するとともに、結論の背景(314-2項)を記載する改正を行っている。 2 ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性 「ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性」について、「金融商品会計に関するQ&A」に規定を設けるものである。 Q59-2が新設され、例として、当初、6ヶ月後に輸入を予定しているある商品の仕入価格の変動リスクをヘッジするため、輸入の見込時期に合わせた商品スワップ契約を締結していたが、船積みの遅延から1ヶ月程度、到着が遅れることが明らかとなったため、元の商品スワップ契約を満期に決済し、改めて到着見込時期の価格変動をヘッジする新たな商品スワップ契約を締結した場合の会計処理について述べている。 このようなケースは「ロールオーバー」と呼ばれており、「金融商品会計に関する実務指針」180項に従って、当初のヘッジ手段である元の商品スワップ契約について、満期時点で商品の到着より先に決済がなされるため、ヘッジ会計の中止として会計処理することが述べられている。 Ⅲ 実施時期 本改正は現行の取扱いを明確化するためのものであるので、公表日(平成27年4月14日)から適用する(「金融商品会計に関する実務指針」195-13項)。 (了)
2015年4月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.115が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
〔巻頭対談〕 川田剛の“あの人”に聞く 「村井 正 氏(関西大学名誉教授)」 【前編】 〔語り手〕村井 正(関西大学名誉教授) (写真/左) 〔聞き手〕川田 剛(税理士) (写真/右) (次ページへ進む) (前ページへ戻る) (後編(4/23公開)へ続く)
日本の企業税制 【第18回】 「BEPS行動8~10:移転価格ガイドラインの改定」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに BEPSの端緒となったのは、米国系多国籍企業が欧州で起こした移転価格問題であり、移転価格課税の抜本的見直しはBEPSプロジェクトの中心的な課題とされている。 具体的には、行動計画13が移転価格課税の実効性を高めるための文書化ルール(国別報告、マスターファイル、ローカルファイルの導入)であるのに対して、行動計画8~10が移転価格課税の考え方、課税方式を抜本的に改めようとするものである。 (※) 行動計画13については本連載【第16回】を参照。 【BEPSプロジェクトによるOECD移転価格ガイドラインの見直し】 本稿では、昨年12月19日にOECD租税委員会より公表された公開討議草案「BEPS行動8~10:移転価格ガイドライン第1章改定案(リスク・再構築・特別措置)」の概要と、本年3月19、20日にOECD本部で行われた公開コンサルテーションにおける経団連の主張を紹介しておきたい。 2 公開討議草案による移転価格ガイドライン第1章改定案 公開討議草案「リスク・再構築・特別措置」の第一部は、OECD移転価格ガイドライン第1章セクションD「独立企業原則の適用のための指針」の改定案である。 商業上及び資金上の事実関係に基づき、関連者間取引の経済的な特徴、各当事者のリスクを正確に特定し、価値の創造に見合った適切な移転価格を検討するための追加的な指針案が提示されている。 さらに、関連者取引が基本的な経済特性を欠いている場合には、取引を再構築又は否認すべきであるとして、そのための指針案が提示されている。 全体の流れを整理すれば、以下のようになる。 公開討議草案の第二部では、無形資産、リスク及び過剰な資本配分に関して、独立企業原則に係る特別の措置が検討されている。 多国籍企業のグローバル・サプライチェーンの複雑化、取引における無形資産の果たす役割の高まりなどを受けて、信頼できる比較対象取引を発見するのが困難になっており、比較対象取引に頼らずとも済む可能性のある利益分割法(PS法)の適用の可能性について、具体的な9事例を含めて、ガイダンスの改定が提案されている。 3 公開コンサルテーション 公開討議草案に対し、経団連では本年2月6日に、OECD租税委員会に対してコメントを提出したが、さらに3月19、20日の両日OECD本部で開催された公開コンサルテーションに参加し、BIAC(Business and Industry Advisory Committee to the OECD、経済産業諮問委員会)及び各国経済界参加者と共に以下のような主張を行った。 (1) 商業上・資金上の関係の特定 これらの主張に対して、OECD側よりは以下のような回答があった。 (2) 利益分割法 これらの主張に対して、OECD側よりは、最適手法アプローチは維持されており、今回は利益分割法に関し何も提案していないとの回答があったほか、各国政府参加者からも賛否両論の発言があった。 4 今後の展開 OECD租税委員会では、公開コンサルテーションでの意見を踏まえ、3月末にはOECD租税委員会において移転価格課税を審議する第6作業部会を開催し、政府間でさらに議論を重ねている。 リスク・再構築・特別措置、利益分割等については、近いうちに改訂版の公開討議草案が公表される見込みであり、「費用分担取り決め」、「無形資産」についても4月内には公開討議草案が公表される予定である。 その後、さらに公開コンサルテーションが開催され、6月のOECD租税委員会において勧告内容を決定の上、9月までにOECD移転価格ガイドラインの改定がなされる予定である。 現行の移転価格課税の仕組みを根底から改める方向で作業が進められており、経団連としてもBIACと連携しつつ対応を進めていくとともに、OECD移転価格ガイドラインの改定が国内法に与える影響についても関係当局と共に検討を行っている。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第8回】 「市街化調整区域内の雑種地」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 1 比準地目の判定はどのように行うのか [1] 国税庁質疑応答事例 比準地目の判定は、まず評価する雑種地と状況が類似する土地の地目の判定を行う。宅地に比準した評価を行うか、農地、山林、原野に比準した評価を行うかである。 次に、宅地に比準した評価を行う場合、評価対象地の周囲の状況に応じて、法的規制等(開発行為の可否、建築制限、位置等)に係るしんしゃく(減価)を行う。 この場合、市街化の影響度と雑種地の利用状況によって個別に判定することとなるが、下表のしんしゃく割合によっても差し支えないこととされている。 (注) 1 農地等の価額を基として評価する場合で、評価対象地が資材置場、駐車場等として利用されているときは、その土地の価額は、原則として、財産評価基本通達24-5(農業用施設用地の評価)に準じて農地等の価額に造成費相当額を加算した価額により評価する(ただし、その価額は宅地の価額を基として評価した価額を上回らないことに留意する)。 2 ③の地域は、線引き後に沿道サービス施設が建設される可能性のある土地(都市計画法第34条第9号、第43条第2項)や、線引き後に日常生活に必要な物品の小売業等の店舗として開発又は建築される可能性のある土地(都市計画法第34条第1号、第43条第2項)の存する地域をいう。 [2] 農地(山林、原野)に比準する方式 評価する雑種地の周囲が純農地、純山林、純原野である場合には、宅地化の期待益を含まない土地であるため、その雑種地を評価するに当たっては、以下の算式により、付近の純農地、純山林又は純原野の価額を基として評価するのが相当と考えられる(判定表①の地域)。 [3] 宅地に比準する方式 評価する雑種地が幹線道路沿いや市街化区域との境界付近に所在する場合には、その付近に宅地が存在していることも多く、用途制限等があるにしても宅地化の可能性があることから、その雑種地を評価するに当たっては、以下の算式により、付近の宅地の価額を基として評価するのが相当と考えられている(上記判定表③の地域)。 市街化区域との境に所在し、周囲に住宅が連たんしている地域で、道路や下水道が整備され、建物の建築も許可が下りれば可能というような状況は、市街化への影響が強いと解されている(平成12年12月21日裁決〔裁事60・522〕)。 2 宅地比準方式におけるしんしゃく割合の判定 市街化調整区域内の雑種地を付近の宅地の価額を基として評価する場合の「しんしゃく割合」については、次のとおりとするのが相当である。 [1] しんしゃく割合50%のケース 一般的な市街化調整区域内の雑種地が存する地域においては、原則として、建物の建築が禁止されている区域であることなどを考慮すると、上記の家屋の建築が全くできない場合の減価率50%を「しんしゃく割合」とするのが相当と考えられている。 [2] しんしゃく割合30%のケース ただし、幹線道路沿いや市街化区域との境界付近のように、市街化の影響度が強く、有効利用度が高い雑種地の占める割合が高い地域(市街化調整区域内ではあるが、法的規制が比較的緩やかであり、店舗等の建築であれば可能なケースも多い地域)においては、家屋の構造、用途等に制限を受ける場合の減価率30%を「しんしゃく割合」とするのが相当と考えられている。 ここでいう「店舗」とは、沿道サービス施設(都市計画法第34条第9号)や、日常生活に必要な物品の小売業等の店舗(都市計画法第34条第1号)のことをいう。 [3] しんしゃく割合0%のケース 上記判定表②の地域のうち、例えば、周囲に郊外型店舗等が建ち並び、雑種地であっても宅地価格と同等の取引が行われている実態があると認められる場合には、しんしゃく割合0%とするのが相当と考えられている。 3 争訟事例 宅地比準方式におけるしんしゃく割合が争われた事例として、平成18年6月27日裁決〔TAINS・F0-3-370〕がある。 そこでは、評価対象地の存する地域においては、①市街化調整区域内の土地であっても、都市計画法34条各号の規定及び都市計画法関連運用基準に該当すれば開発を許可することとなっていること、②個人の住宅の場合は農家の分家住宅や一定規模以上の開発行為など、また、店舗を建築する場合は業種や敷地面積等が決められているなど規制はあるが建物が全く建築できないことはないことから、本件土地については建物の用途等に制限は加えられるものの、建物の建築が全くできないとは言えないことから、しんしゃく割合については30%が相当であるとされている。 一方、平成12年12月21日裁決〔裁事60・522〕及び平成16年3月31日裁決〔裁事67・491〕においては、(いずれも上記国税庁質疑応答事例が公表される以前の事例ではあるが)市街化調整区域の雑種地において、宅地比準方式に基づき、しんしゃく割合50%の評価減が行われている。 納税者は、本件雑種地は山林に比準すべきであると主張し、課税庁は、宅地に比準して評価し、建物建築の制限(しんしゃく割合50%)を控除して評価すべきと主張した。 裁決は、市街化調整区域内であっても一切の建物の建築が禁止されているとまではいえないことから宅地比準方式を採れないとする理由はなく、また、課税庁が50%相当額を控除したのは、その状況が宅地に類似しているとはいえ、実際には都市計画法に基づく利用制限があることを考慮したためであり相当であると判断している。 (了)