贈与実務の頻出論点 【第7回】 「連年贈与の危険性」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 連年贈与と一般的な贈与の違い 連年贈与とは、『一定期間、一定額を贈与する』という約束に基づき行われる贈与のことです。 「毎年贈与契約書をつくるのは面倒だし、忘れてしまうかもしれないから、年100万円ずつ10年に渡って贈与します、という契約書をつくってしまった」 「高齢で、いつ判断能力が衰えてしまうかわからないので、10年分贈与する約束をしてしまいたい」 こういったケースは、各年110万円の基礎控除内であるから贈与税の申告は必要ない、という考えがあてはまらなくなります。つまり、「連年贈与」とされるため、贈与した年に毎年100万円を10年間にわたって受け取る権利に対して、贈与税が課税されます。 一方、「平成27年〇月〇日に110万円以下の財産を贈与する」「平成28年〇月〇日に110万円以下の財産を贈与する」といった各年別々の贈与契約が行われる場合は、連年贈与ではありません。 なお、受贈者が保険契約を締結して、その保険料の原資を毎年贈与により受け取る場合、連年贈与のようにみえてしまいます。このような場合であっても、各年個別に贈与契約を行っている贈与であれば、財産を毎年同じ目的で使用していたとしても、連年贈与とはなりません。連年贈与は贈与の契約形態であり、贈与した資金をどのように使用したかは、問題になりません。 [2] 連年贈与とされた場合 連年贈与とされた場合、贈与税は次のとおりとなります。 毎年100万円を10年間にわたって贈与をする、と約束していて、連年贈与とされてしまった場合には、165万円の贈与税が課税されてしまいます(予定利率を0.75%、親から20歳以上の子へ贈与があったものとしています)。 課税価格: 1,000,000円×9.6(10年間の複利年金現価率)=9,600,000円 贈与税額: (9,600,000円-1,100,000円)×30%-900,000円=1,650,000円 [3] 連年贈与とされないために 連年贈与とされないためには、贈与のつど契約書を作成して、各年の贈与の実態を残しておくことが一番です。契約書をつくらず預金移動のみで生前贈与を行う場合には、毎年日付や贈与額を変えおいたほうが、後で問題にならないでしょう。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第24回】 「所得税及び復興特別所得税の更正の請求」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 私は、飲食店を経営する個人事業主です。平成27年3月10日に確定申告書を税務署へ提出しましたが、住宅ローン控除100,000円の適用を失念しました。 そこで、「平成26年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求書」を税務署へ提出したいのですが、作成手順がよくわかりません。 所得税及び復興特別所得税の更正の請求についてご教示ください。 復興特別所得税は、所得税と併せて更正の請求をする。更正の請求書の作成手順は、以下の通りである(図表1参照)。 図表1 更正の請求書の一部 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第24回】 「裁決例④」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、請求人が事業を承継した欠損会社から有償取得した営業権を原処分庁が寄附金として認定したのに対し、営業又は開発費的な繰延資産に当たるとして、原処分を取り消した事件である。 このような争いについては、実務でも生じ得る事例であり、昭和46年8月13日裁決とかなり古い事件ではあるものの、実務において参考になり得る事件であると考えられる。 9 昭和46年8月13日裁決 (1) 事件の概要 審査請求人(以下、「請求人」という)は、資本金500,000円の同族会社であり、昭和43年3月の設立時に、A交易株式会社(以下、「旧会社」という)の事業を承継し、雑貨類の貿易を事業の目的としている青色申告法人であるが、当期において営業権償却費5,000,000円を計上し、さらに551,996円を繰越欠損金として所得の金額の計算上損金の額に算入し、その所得金額を0円として申告したところ、原処分庁から、同償却費に相当する金額を旧会社に対する寄附金と認定されたため、この処分の取消しを求めた事件である。 本事件においては、営業権として計上した5,000,000円について、その実態が存在したか否かという点が争点となっており、国税不服審判所の判断としては、営業権または開発費的な繰延資産にあたると認め、原処分を相当でないと判断した。 (2) 原処分庁の主張 旧会社は、欠損会社であって超過収益力を有せず、またB商品について旧会社にその独占販売権ないし実用新案権を有した事実がない。 したがって、旧会社から財産引継ぎに際し、負債超過額5,758,412円を請求人が仮払金勘定に経理し、うち5,000,000円を営業権に振替え、これを償却しても、その振替金額は営業権にあたらないから、請求人は仮払金を償却したことになり失当である。 (3) 請求人の主張 請求人は旧会社からB商品の販売による経済的利益を営業権として有償取得し、これを当期において償却したのであるから、原処分庁の認定は失当である。 (4) 国税不服審判所の判断 B商品は、原処分庁主張のように独占販売権および実用新案権はないが、同商品に対する需要は恒久的に持続するものではなく、一時期に集中的に増進し、のち急激に減退ついで消滅していく類のものであり、同商品は所謂「際物」と称するものにあたり、いち早く販路を開拓して販売したものが、良く収益をあげ得、時期を失しては全く収益を期待できないものと認められる。 したがって、請求人が前記のようにB商品の販売により収益をあげ得たのは旧会社が相当な資金を投下して開拓した販路を請求人が引き継いだためと認められ、請求人が営業権として計上した5,000,000円は、旧会社がB商品の販路開拓のため相当な資金を投下したことによって生じた同商品の販売による収益力の購入対価または開発費の引継対価であり、これは営業権または開発費的な繰延資産にあたると認めるのが相当であり、請求人が当期においてこれを償却したことは相当と認められる。 (5) 評釈 本事件においては、かなり古い事件ではあるものの、実際に支払った5,000,000円の実態が問題となった事件である。 現在の解釈としては、第3者に支払ったものであれば、対価性があるものと推定され、反証がない限り、寄附金として取り扱われることはほとんどない。 これに対し、グループ内取引であれば、時価の相当性が議論となるため、本件のような事件においては、時価が立証できない限り、寄附金として取り扱われる可能性は高いものと考えられる。とりわけ本事件においては、旧会社において繰越欠損金が13,687,135円に達していた事実があることから、そのようなものに対し、5,000,000円を支払うということは通常で考えにくいのかもしれない。これに対し、IT企業にありがちであるが、事業開始当初においては相当の赤字を覚悟しなければならず、軌道に乗ってからそれを回収するということは少なからず存在するところであり、本事件のような事実関係があれば、時価の相当性を認めるということも考えられる。しかしながら、本事件のような大雑把な金額の算定というのは容認されないであろう。 本事件に対する裁決書においては、請求人と旧会社との間に利害関係が存在していたのかは明らかにされていない。そのような事実関係が存在するのであれば、裁決書に記載されるはずであるから、おそらくはそのような利害関係は存在していなかったのであろうと推定される。 そうであるならば、本来であれば、第3者取引であるとして、時価が相当であると推定されることから、国税不服審判所の判断については、いくらかの対価を支払うことについては相当であるという判断程度しか示されておらず、金額の相当性までは触れられていないが、原処分庁が反証を示せない段階においては、その判断は相当であるとも考えられる。しかしながら、実務上、経営者の勘に近い形で取引価額を決定している事案も少なからず散見され、多くの場合において、一定の合理性が認められるものの、後日、税務調査において説明に苦慮するような事案も想定され、さらに、本事件とは異なり、結果的にその勘が間違っていたということもあり得ることから、損金性が否定されないように、事業を承継する段階で、十分な説明資料を整備しておく必要はあると考えられる。 なお、会計監査の対象となっている企業であれば、のれんの即時減損という議論にもなってくるが、もし、即時減損の対象となるような事実関係があれば、税務調査においても、何らかの反証が必要になってくるものと考えられる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【58】 〔第7章〕判例の探し方 (その5) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 今回は、ある特定の分野(事件)の裁判例だけをまとめた裁判集について紹介する。 (16) 『家庭裁判月報』 家事事件・少年事件に関する裁判(審判)のほか、評釈(論説・研究)等も掲載されている。最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所の裁判のうち、最高裁判所事務総局家庭局が、参考となると思われるものを選択して掲載している。 これも編集元である最高裁判所事務総局による発行のものの他、法曹会の発行によるものがある。昭和24年から26年までは、正式には巻数は付されていず(また1号のみ名称も『家庭裁判所月報』である)、昭和27年より正式に第4巻と巻数が付された。現在も継続して発行されている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「家庭裁判月報」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在238大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 家庭裁判月報 (17) 『労働関係事件判決集』『労働関係民事行政裁判資料』『労働関係民事裁判例集』 労働関係事件に係る、公的裁判例集の最も代表的なものである。 この中で最も古いのは、昭和23年分を収録している最高裁判所事務局刑事部第一課により編纂された『労働関係事件判決集』である。ただしこれは裁判所図書館にも所蔵されていない。 しかしCiNiiによれば、現在13大学の図書館に所蔵されている(三芳書房発行)(下記リンク参照)。 勞働關係事件判決集 国会図書館でもこれはデジタル化資料となっている。 労働関係事件判決集(国立国会図書館) 昭和24年分から25年分までは、最高裁判所事務総局により編纂された『労働関係民事裁判例集』という名称で出されている(ただし、第1号のみ「労働関係裁判資料民事 行政編」という名称で出されている)。最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所から送付された労働関係の民事・行政事件の重要裁判例(判決・決定)を項目別に掲載している。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「労働関係裁判資料民事行政編」と入力して検索。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「労働関係民事行政裁判資料」と入力して検索。 なお、裁判所図書館の蔵書検索結果を見ると、9号以降も『労働関係裁判資料民事行政編』という名称のものがある。しかし内容としては、8号までには「裁判例」があるのが、9号以降には「裁判例」はなく、「労働関係民事事件担当裁判官会同概要」等があるのみである。 すなわち、判例集としては、昭和25年の第8号までであり、昭和25年以降は『労働関係民事裁判例集』 に引き継がれている。 CiNiiによれば、全号そろっているところはないが、現在17大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 労働関係民事行政裁判資料 昭和25年分からは、上記したように同じく最高裁判所事務総局により編纂された『労働関係民事裁判例集』に引き継がれている。ただし、巻号数は引き継がれず、昭和25年が第1巻1号となっている。同じく最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所から送付された労働関係の民事・行政事件の重要裁判例(判決・決定)を項目別に掲載している。平成9年分の48巻5・6号が最後であり、現在は裁判所ウェブサイト内の「裁判例情報」にある「労働事件裁判例集」がその役割を担っている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「労働関係民事裁判例集」と入力して検索。 CiNiiによれば、全号そろっているところはないが、現在37大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 労働関係民事裁判例集 (18) 『労働関係民事事件裁判集』 その他、労働関係の公的裁判例集として、 最高裁判所事務総局行政局により編纂され、法曹会より出版されていた『労働関係民事事件裁判集』がある。 昭和24年~25年分の1号~7号しかなく、その役割は『労働関係民事裁判例集』に吸収され、引き継がれている。ただしこれは裁判所図書館にも所蔵されていない。 しかしCiNiiによれば、現在25大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 勞働關係民事事件裁判集 国会図書館でもこれはデジタル化資料となっている。 労働関係民事事件裁判集(国立国会図書館) 労働法関係判例は、租税法上にも重要な関係をもつものがある。例えば、所得区分を巡る給与所得か否かを争う事案があるが、その際にも労働法上の給与所得か否かの判断基準も参考にされている。 (19) 『無体財産権関係民事・行政裁判例集』『知的財産権関係民事・行政裁判例集』 無体財産権、知的財産権としては、人間の知的創作活動による創作物に対する権利である特許権、著作権等、営業に関する識別標識に対する権利である商標権等がある。 『無体財産権関係民事・行政裁判例集』は、最高裁判所事務総局が、知的財産権関係の高等裁判所と地方裁判所における民事・行政の裁判(判決・決定)の中から、参考になると思われるものを選択して掲載したものである。昭和44年の第1巻より平成2年の22巻まで年4回刊行されていた(1年分を1巻とし、各年分は1号~4号となる)。 なお国会図書館においては、資料名を『無体財産関係民事・行政裁判例集』としている。 無体財産関係民事・行政裁判例集(国立国会図書館) 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「無体財産権関係民事・行政裁判例集」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在47大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 無体財産権関係民事・行政裁判例集 また法曹会より出版された市販本版(雑誌)が現在35大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 無体財産権関係民事・行政裁判例集(法曹界:雑誌) また同じく法曹会より出版された市販本版(図書)が現在15大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 無体財産権関係民事・行政裁判例集(法曹界:図書) なお、CiNiiの表示の中で、 は「図書」を、 は「雑誌」を表す。 そしてこれは、平成3年より『知的財産権関係民事・行政裁判例集』と改題される。巻号数も引き継がれ、『知的財産権関係民事・行政裁判例集』は23巻1号より始まり、平成10年の30巻4号まで出されていた。 現在は裁判所ウェブサイト内の「裁判例情報」にある「知的財産裁判例集」がその役割を担っている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「知的財産権関係民事・行政裁判例集」と入力して検索。 ただし裁判所図書館には23巻~26巻の所蔵はない(もっとも各事件判決の全文が上記ウェブサイト内の「知的財産裁判例集」にて公開されている)。 CiNiiによれば、雑誌として現在34大学、図書として5大学の図書館に所蔵されている。(下記リンク参照)。 知的財産権関係民事・行政裁判例集(雑誌) 知的財産権関係民事・行政裁判例集(図書) また法曹会より出版された市販本版(雑誌)が現在51大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 知的財産権関係民事・行政裁判例集(法曹会:雑誌) また同じく法曹会より出版された市販本版(図書)が現在15大学の図書館に所蔵されている。 知的財産権関係民事・行政裁判例集(法曹会:図書) (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第29回】 株式会社アイセイ薬局 「第三者委員会調査報告書(平成27年1月30日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 株式会社アイセイ薬局の概要 株式会社アイセイ薬局(以下「アイセイ薬局」と略称する)は、1984(昭和59)年9月創業。調剤薬局をチェーン展開する。2011(平成23)年12月JASDAQ株式上場。連結売上高48,788百万円、連結経常利益752百万円(数字はいずれも平成26年3月期)。従業員数1,727名。本店所在地、東京都千代田区。東京証券取引所JASDAQ上場。 調査報告書のポイント 1 調査に至った経緯――証券取引等監視委員会による開示検査 調査報告書冒頭に掲げられた「当委員会設置の経緯」によれば、アイセイ薬局は、証券取引等監視委員会開示検査課による金融商品取引法第26条に基づく開示検査を受け、過去の一部の工事請負契約、土地賃貸借契約及び不動産売買契約等に基づく取引(以下「本件疑義取引」という)につき、会計処理の適正性に関し疑義を呈された。 これを受けて、アイセイ薬局は、本件疑義取引に係る事実解明及び会計処理の適正性に係る事実解明を目的として、平成26年11月28日に取締役会を開催し、アイセイ薬局と利害関係を有しない中立・公正な外部の専門家から構成される第三者委員会を設置することを決議した。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 本件疑義取引の概要 第三者委員会が調査した本件疑義取引は大きく4つに区分されるが、取引概要を簡単に図示すると、以下のとおりである。 簡単にいえば、アイセイ薬局の資金が還流するだけの架空取引が繰り返し行われていた。 (2) 本件疑義取引が開始された経緯 アイセイ薬局代表取締役社長岡村幸彦氏(以下「岡村社長」という)の資産管理会社である株式会社おかむら(当時の社名は株式会社L&T)は、平成18年3月29日に、城北信用金庫から手形貸付により300百万円の融資を受けた。この融資は、アイセイ薬局の前身であった株式会社エルストファーマの貸借対照表に計上されていた土地約190百万円が実際には同社が所有していないものであったことから、近い将来の上場を計画していた岡本社長は、これを個人で買い取ることとして、その資金として借り入れたものであった。 その後、当該借入金は弁済期を延長して借換えを行ってきたが、平成21年3月、アイセイ薬局が外部会社へ建築代金及び賃貸借保証金を315百万円支払い、これを株式会社おかむらに還流させて、城北信用金庫へ一括弁済したものである。 その1年後、当該支払の基となった契約は合意解約され、工事代金及び賃貸保証金は平成22年5月末までに返還するものとされていたが、実際には、アイセイ薬局が別の店舗に係る保証金として支払った360百万円を原資として、資金が還流されて、未収入金が回収されたこととして処理がされている。 (3) 過年度決算に与えた影響額 本件疑義取引に関して、アイセイ薬局から支出された資金は、最終的には、岡村社長が個人的に金融機関等の第三者から資金を調達して、アイセイ薬局に返済しているため、貸借対照表の表記については修正する必要があるものの、損益的な影響はないことが判明している。 この点に関して、第三者委員会は次のようにコメントしている。とくに、後段部分の指摘は、次項でも触れるが、かなり厳しいものであると言えよう。 3 調査報告書の特徴 (1) 岡村社長の辞任 創業社長でワンマン経営者である岡村社長抜きには、アイセイ薬局のここまでの発展はなかったのは間違いないところであるが、取締役会及び監査役らが岡村社長の行動を制御できない以上、アイセイ薬局が上場会社としての適正性を有するためには、岡村社長が経営から退くという選択肢しかない――報告書にそこまでの記述はないが、先に引用したように、岡村社長による返済原資を「役員報酬の名目でアイセイ薬局が負担している」とまで書かれている以上、岡村社長は代表取締役を辞任し(2月12日付)、さらに取締役をも辞任するに至った(2月20日付)のは、当然の帰結であったと言えよう。 (2) 平成24年9月における税務調査 アイセイ薬局は、平成24年9月に麹町税務署による調査を受け、今回発覚した本件疑義取引4件のうち3件(1件はまだ取引開始前であった)について、各案件名義で支出した資金を、アイセイ薬局から取引先に対する貸付金と認定され、その他指摘事項も含めて修正申告を行っている。 その後、同年12月14日の取締役会において、顧問弁護士及び監査役からの意見に基づき、管理本部が社内調査を実施、同月26日の取締役会において報告を行った。調査により、各案件名目で支出した資金が、各取引先から岡村社長に流れていた事実が判明したにもかかわらず、取締役会、監査役らは、社内調査の結果を受け入れただけで、それ以上の原因解明や責任追及を行わなかった。 (3) 問題点と再発防止策 第三者委員会が指摘した問題点は以下の3点である。 3つに分けてはいるものの、問題の根幹は、岡村社長の経営姿勢にあり、岡村社長に対して意見具申ができない取締役会、監査役の姿勢が強く問われている。そして、再発防止策として繰り返されているのが、岡村社長の個人的な事業とアイセイ薬局との隔絶であり、岡村社長グループとアイセイ薬局との取引の解消である。 4 経営改善委員会による再発防止策策定 2月7日、アイセイ薬局は、第三者委員会による調査報告書受領後の2月6日における取締役会で、経営改善委員会を設置する決議を行ったことを公表した。その後、経営改善委員会は、再発防止策について、2月16日に中間報告を、3月6日に最終報告を公表している。 本項目では、経営改善委員会による再発防止策を検討したい。 (1) 経営改善委員会の目的 2月7日付リリースには、目的として以下のような記載がある。 (2) 経営改善委員会のメンバー 経営改善員会の構成は、以下のとおりである。なお、浅井氏及び澤井氏は、2月12日において追加選任された委員であり、その必要性について同日公表されたリリースでは、「経営改善委員会の構成に公平性を期す観点から判断」したと説明したうえで、委員の過半数を社外役員及び外部の有識者とした、ということである。 (3) 経営改善員会による不適切な会計処理の原因 第三者委員会報告書により指摘された問題点の原因として、経営改善委員会は次の5点を挙げている。第三者委員会報告書で言及がなかった「内部監査機能」についても、「平時の薬局運営に対する監査に主眼を置くもの」であったとしている点など、経営改善委員会による更なる調査・検討の跡がうかがえるところである。 (4) 再発防止策(最終報告)の内容 経営改善委員会は、再発防止策の提言として、以下の6項目を挙げている。 真っ先に取り上げられているのは「代表取締役に対するガバナンス(内部統制)の強化策」である。 (5) 再発防止策の検証 上場してもなお「岡村商店」的な体質を脱することができず、その結果、岡村社長の主導する不適切な会計処理が発覚していながら、それを追及する取締役・監査役が不存在であったことが、本件疑義取引の原因であったとすれば、岡村社長が代表取締役及び取締役を辞任し、岡村グループとの関係を隔絶すれば、ほぼ原因は撲滅できたことになろう。しかし、それだけでは、これまで岡村社長が果たしてきた「事業拡大」を誰がどのように担うのかという問題が生じてしまう。 そこで、経営改善委員会は、取締役会・監査役会の構成員の見直し(Ⅰ)、経営判断プロセスにおけるルール遵守(Ⅱ)などといった施策によって、具体化を図ったものと評価できるのではないか。 経営改善委員会の再発防止策がどこまで実効性を上げることができるかは、次回の定時株主総会における取締役・監査役の選任状況、経営を退いたとはいえ大株主であることには変わりはない岡村社長の影響力がどう排除されているかなどの検証が不可欠であろう。 5 その後公表されたリリース (1) 公認会計士等の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ 経営改善委員会による最終報告が公表される直前である平成27年3月3日には、公認会計士等の異動がリリースされた。アイセイ薬局は、それまで会計監査を担当してきた新日本有限責任監査法人との契約を合意解除し、新たに清新監査法人を一時会計監査人に選任した。 リリースに合意解除の理由についての言及はなく、退任する公認会計士等の意見についても「特段の意見はない」とのことである。 (2) 特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求についてのお知らせ 次いで、3月31日には、東京証券取引所から、アイセイ薬局が4月1日から原則として1年間、特設注意市場銘柄に指定されること、上場契約違約金10百万円の支払いを求められたことをリリースした。 特設注意銘柄指定の理由については、概ね、第三者委員会調査報告書記載のとおりであるため割愛するが、上場契約違約金の徴求理由について、引用したい。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第78回】 純資産会計⑥ 「増資」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 【仕訳】(単位:千円) ① 申込時 ② 払込期日の到来 ③ 付随費用の支出 〈会計処理の解説〉 増資とは会社設立後に資本金を増加させることで、資金を調達し会社の財産的基盤をより強化することを目的とする募集株式の発行(有償増資)と、剰余金から資本金への振替など資本の充実を図ることを目的とする純資産の部の株主資本の中での振替(無償増資)があります。 今回は、有償増資について解説します。 募集株式の発行は、誰に新株を割り当てるかによって「株主割当増資」と「第三者割当増資」に区分されますが、いずれの場合も増資する会社にとっては払込みが行われ、株主資本が増加することに違いはないため、会計処理に相違点はありません。 本事例について、次のようなスケジュールで募集株式の発行を行ったと仮定します。 ① 申込時 申込みから払込期日までの間に募集株式の引受人から払い込まれた金銭は、新株申込証拠金として処理します(通常、振込先の金融機関が事前に決定され、金融機関は別段預金として管理することが多いと考えられるため、別段預金を使用しています)。 ② 払込期日の到来 募集株式の引受人は払込期日から株主になるため、払込期日である3月20日に資本金及び資本準備金に新株申込証拠金が充当されます。 なお、新株申込証拠金が決算日に存在する場合、株主資本の資本金の区分の次に区分を設けて表示することになります(「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」3項)。 ③ 付随費用の支出 新株の発行に係る費用、すなわち、株式交付費は原則として支出時に費用(営業外費用)として処理します。ただし、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動に係る株式交付費については、繰延資産に計上することができます。この場合、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません(「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」3(1))。 * * * 次回は、減資の会計処理について解説します。 (了)
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第2回】 「年金の支給開始年齢」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 1 老齢の年金の種類と支給開始年齢 国民年金から支給される老齢の年金を「老齢基礎年金」といい、厚生年金保険から支給される老齢の年金を「老齢厚生年金」という。 それぞれの年金は、原則として65歳から支給される。 なお、現在、厚生年金保険は、生年月日により60歳(男性の場合は61歳)から「特別支給の老齢厚生年金」として支給されている。 (1) 支給開始年齢 法人の代表者等で厚生年金保険に加入していた期間を有する人は、老齢厚生年金と老齢基礎年金の2つの年金が支給される。 他方、個人事業主等で国民年金だけに加入している人は、老齢基礎年金のみが支給される。 (2) 厚生年金保険の支給開始年齢 特別支給の老齢厚生年金は、定額部分(厚生年金保険の加入期間に応じて支給される部分)と報酬比例部分(報酬の高低によって支給される部分)の年金が支給されるが、それぞれ、生年月日及び性別により下図のとおり、支給開始年齢が異なる。 〈特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢引上げスケジュ-ル〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 2 年金の請求 受給資格期間を満たし、支給開始年齢に達したら、年金の請求ができる。 《おさらいQ&A》 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第7回】 「システムの「導入」と「維持」には どんなコストが発生するのか?」 公認会計士 小田 恭彦 はじめに 情報システムを導入する際に考慮すべき重要な要素の1つに、費用(コスト)がある。 情報システムの導入は、単にソフトウエアとハードウエアを購入すればよいというだけでなく、ユーザーには見えにくいさまざまなコストが発生する。 今回は会計システムのパッケージソフトを導入する場合を例に、「システムの導入と維持にどのようなコストが発生するのか」という点について紹介したい。 ▼かかるコストは2つに分類▼ システム導入にかかるコストは、大きく2つに分類される。 1つは「導入コスト」と呼ばれるシステムを購入してから稼働までにかかるいわゆる“イニシャルコスト”であり、後者は「運用コスト」と呼ばれるシステム稼働後にかかる“ランニングコスト”である。 ▼システム「導入コスト」の例▼ システム導入コストは、一般に以下のようなものが挙げられる。 以下、費用ごとに紹介していく。 ▼システム「運用コスト」の例▼ システム運用コストは、一般に以下のようなものが挙げられる。 以下、費用ごとに紹介していく。 ▼システムにかかる見積りの難しさ▼ ◆見積り対象の網羅性 前述のとおり、システム導入にはハードウエア、ソフトウエア、支援作業などさまざまな有形無形コストが発生する。基本的には購入するソフトウエアのベンダーに対してすべての項目の見積りを依頼できればよいが、ベンダーの規模や導入範囲によって、ハードはハード、ソフトはソフトなど、その全部ないし一部について、個別に見積りをとらなければならない場合も少なくない。 その際には、今回の導入にあたり何のソフト又はハード、支援が必要なのかという点について、自社で洗い出しを行う必要があり、漏れがないよう注意しなければならない。 ◆カスタマイズの範囲 自社要件にあわせてパッケージ機能にカスタマイズを行う場合、その対象範囲について事前にすべてが明確になっていれば問題ないが、プロジェクトがある程度進んでからでないと分からない場合もある。 そのため、カスタマイズ費用を事前にどの程度見積もっておくかは慎重に検討する必要がある。 ◆導入支援と運用支援の範囲 システム導入時とシステム導入後の運用局面のそれぞれにおいて、外部ベンダーの作業支援を受けることになるが、その範囲と役割分担については事前に細かく決めておく必要がある。 ベンダーも責任範囲の観点から一定の範囲内でのみ対応する場合も多く、ユーザー側との期待ギャップが発生するケースも少なくない。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第28話】 「P子の教え」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 上記の数値等は実例を元に筆者が作成。 ◆ワンポントアドバイス◆ 経営会議に用いる表を作る場合、まずはその表を作る目的に立ち返って、集計する数字を考えましょう。 またお客様になるべく負担をかけないようにするため、もともと使っている数字を基にできないかどうかを検討しましょう。 (了)
《速報解説》 東京証券取引所より 「平成26年会社法改正に伴う有価証券上場規程等の一部改正」が公表 ~特別支配株主の株式等売渡請求制度などへ対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月10日付で、株式会社東京証券取引所は、「平成26年会社法改正に伴う有価証券上場規程等の一部改正について」を公表した。 次のものが改正されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 今回の改正は、本年5月1日に施行される「会社法の一部を改正する法律」(平成26年法律第90号)において、特別支配株主の株式等売渡請求制度の導入、社外取締役や社外監査役の社外性要件の一部緩和などを踏まえたものである(有価証券上場規程の402条(会社情報の開示)等について改正)。 このほか、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社への対応も行われている。 Ⅲ 適用時期等 有価証券上場規程等の一部改正については、平成27年5月1日から施行する。 (了)