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実務家による実務家のための
ブックガイド
-No.4-
『消費税の研究(日税研論集70号)』
〈評者〉
税理士 金井 恵美子
日本税務研究センターでは、金子宏東京大学名誉教授のもと、租税法の研究者、財政学の研究者及び実務家の11人が研究員となって、平成27年9月、「消費税の研究」特別研究会が立ち上げられ、およそ9ヶ月にわたり、消費税に関する基本的問題についての研究が行われた。
この論集は、研究会における報告を基礎とし、そこで行われた議論を反映しつつ、研究員が執筆した11の論文を1冊にまとめたものである。
創設から四半世紀を経て基幹税の地位を確固たるものとした消費税の軌跡をたどり、問題点を明らかにし、今後の方向性を検討する総合的、複合的研究の成果と位置付けることができる。以下、構成を紹介しよう。
なお、第8章に記載の通り、評者は研究員の末席に加えられている。靦然たりとの批判があることを承知してなお、消費税議論に欠かせない1冊としてお薦めしたい論集である。
◆序 章 消費税の軌跡-導入から現在まで・・・佐藤英明(慶應義塾大学教授・研究部会長)
詳細かつ幅広い資料を示して、創設から平成26年度までの消費税の軌跡をたどり、累次の改正を多角的な視点で分析、評価している。
◆第1章 経済活動と消費税・・・渡辺智之(一橋大学教授)
消費課税と労働所得税の経済的同等性を確認したうえで、取引情報の観点を重視し、日本の経済社会の課題に対応していくために消費税が果たしうる役割を検討している。
◆第2章 国の財政と消費税の歴史的展開・・・関口 智(立教大学教授)
国際比較に基づいて日本財政の特徴を示し、消費税収と社会保障給付との関係を意識して、消費税の導入前・導入後の歴史を、政策関連当事者の証言等をもとに明らかにしている。
◆第3章 地方の財政と消費税・・・上村敏之(関西学院大学教授)
消費税が地方財政に与える影響は何か、地方消費税が地方税の原則に照らして望ましいものか、という問題意識により、地方消費税の現状と課題について、包括的な検討を行っている。
◆第4章 課税対象取引-納税義務者の検討も含めて・・・谷口勢津夫(大阪大学教授)
課税対象取引は消費税法の体系の根幹に位置するものであるとし、納税義務者の検討も含めて、消費税法の解釈論的検討を行っている。
◆第5章 非課税取引(1)-金融取引等・・・辻 美枝(関西大学教授)
非課税規定に内在する整合性の欠如、税の累積化といった非課税の問題を指摘し、EU型及びニュージーランド型の制度を参照して、金融取引等の課税問題を考察している。
◆第6章 非課税取引(2)-医療・教育等・・・渕 圭吾(神戸大学教授)
非課税をめぐる議論と日本における非課税の変遷を整理し、EUにおける裁判例を掲げて、医療、教育等の政策的非課税の問題点を考察している。
◆第7章 中小事業者と消費税・・・金井 肇(税理士)
日本の消費税が帳簿方式をとっていることを踏まえ、事業者免税点制度及び簡易課税制度の機能を評価し、分析を行っている。
◆第8章 税率構造-軽減税率の法制化を踏まえて・・・金井恵美子(税理士)
個別間接税制度が一般間接税制度へ転換した理由、消費税に求められる機能と役割及び法制化された軽減税率の目的と効果を検証し、単一税率制度の優位性を確認している。
◆第9章 仕入税額控除・・・西山由美(明治学院大学教授・研究副部会長)
付加価値税の始まりからの仕入税額控除の意義について整理したうえで、仕入税額控除は付加価値税の制度の根幹であるとし、EU、ニュージーランド、日本を比較し、仕入税額控除の制度の在り方を検討している。
◆終 章 日本の消費税はどこへ行くのか-国際比較からの展望・・・増井良啓(東京大学教授)
伝統的VATと現代的VATとを対比しつつ、国際比較により日本の消費税の制度的な特徴を明らかにしている。消費税の将来像を展望するための文献サーベイとしての役割を自称し、豊富な文献情報を提供している。
(了)
〔書籍情報〕
『消費税の研究(日税研論集70号)』 日本税務研究センター 2017年1月 ISBN:978-4931528291 Amazonで詳しく見る |
「実務家による実務家のためのブックガイド」は不定期連載です。