〈適切な判断を導くための〉
消費税実務Q&A
【第12回】
「消費税の歴史の長いEUなどで蔓延する不正「カルーセルスキーム」とは?」
税理士 石川 幸恵
【Q】
日本の消費税と同様の付加価値税(VAT)のある国々では、カルーセルスキームという不正スキームがあると聞きましたが、これはどのような仕組みの不正なのでしょうか。また、日本においても同様の不正が起こる可能性はあるのでしょうか。
【A】
カルーセルスキームというのは「納税なき仕入税額控除」を意図的に生じさせ、国庫から不正に還付を得るスキームです(図参照)。EUでは年間500億ユーロの被害が生じているといわれています。
1 カルーセルスキームの典型例

関係するのは4者です。ミッシングトレーダー、バッファー、ブローカー、導管と呼ばれます。導管は国外に所在します。
① 左端のミッシングトレーダーがバッファーに対し、商品を110(消費税込)で譲渡します。
② バッファーは同額でブローカーに譲渡します。このバッファーはミッシングトレーダーとブローカーの直接の関係を隠すための存在です。わずかな利益を提示して、全容を知らない第三者を取引に巻き込むケースもあります。
③ ブローカーは海外の導管(トンネル会社)へ同額で輸出し、仕入にかかった消費税10の還付申告を行います。
④ 商品は、導管を経由して国内に戻されます。密輸やアンダーバリューなどによって輸入消費税の納付が回避されます。
ミッシングトレーダーにはペーパーカンパニーや休眠会社などが利用され、無申告、不納付または倒産などにより納税義務を果たさないまま消失します。これにより実際には納税されていないにもかかわらず、還付だけが行われることになります。
1回転するごとに10の消費税が国庫から不正に還付され、繰り返すことでより多くの不正利益を得ようとします。
商品は輸送や保管のコストがかからない小さなものが利用されます。例えば、貴金属や携帯電話などの電子機器です。EUではCO2排出枠のような無形財が用いられたこともありました。
2 各国によるカルーセルスキームへの対抗策
カルーセルスキームへの対抗策として、ターゲットとされやすい商品を非課税または免税とする、国内取引にリバースチャージを導入して消費税を売上先に渡さず、譲渡した者が納付するなどの対策が取られています。
また、不正な事業者に対してはインボイス発行事業者の登録を取り消すことで不正な仕入税額控除を防ぐ対策も講じられています。
3 日本における現状と対策
EU各国に比べると消費税率が低いことなどにより、典型例のようなカルーセルスキームが広まっている状況ではありません。
しかし、金の密輸のようなカルーセルスキームに近い形態の不正もあり、税関による取締強化、金地金の取引に関する消費税手続きの厳格化(消法30⑪⑫)などが図られています。
◆ ◆ 解 説 ◆ ◆
カルーセルスキームの具体的な手口や対策は【A】に示したとおりである。【解説】では、このスキームの根本的な問題点と、今後、制度にデジタル技術を取り入れることで実現できるかもしれない対策について紹介する。
1 カルーセルスキームの問題点
納税なき仕入税額控除は、取引の流れの中で、いずれかの事業者が納付を怠れば生じてしまうものである。日本においては、インボイス制度に経過措置が設けられており、免税事業者からの課税仕入れについても一定割合は仕入税額控除できる(インボイスQ&A問113)ため、取引の流れの中に免税事業者がいると、適法に納付なき仕入税額控除が発生することとなる。
しかし、カルーセルスキームが問題なのは、当初から意図的に納税なき仕入税額控除を生じさせようとしていることや、取引の循環が繰り返されることなどが挙げられる。
2 デジタルを活用した対策の試み
電子インボイスを利用した取引情報の報告義務化は不正対策として効果が見込まれている。さらに新たな技術の活用を模索する国もあり、EUや中国ではブロックチェーン技術の活用が進められている。
中国の深セン市では2018年よりVATのブロックチェーン電子インボイスが試験的にスタートしている。ブロックチェーン電子インボイスの最大の特徴は取引の追跡が可能で、固有の変更不可能な番号が付与されることから、カルーセルスキームを抑制する効果があるとのことだ。
(了)
次回は9/11に公開予定です。






















