公開日: 2018/05/17 (掲載号:No.268)
文字サイズ

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第1回】「プロローグ:事業承継対策と密接な関係にある経営者の老後資金問題」

筆者: 税理士法人トゥモローズ

中小企業経営者

[老後資金]を構築するポイント

【第1回】

「プロローグ:事業承継対策と密接な関係にある

経営者の老後資金問題」

 

税理士法人トゥモローズ

 

1 経営者が引退後に必要となる資金

平均寿命が男性80.98歳、女性87.14歳と過去最長となった日本の長寿時代、人生100年時代といわれている昨今、引退後も豊かな老後生活を送るためには、いったい、いくら位の資金が必要となるのか、ご存知だろうか。

65歳で引退した夫婦2人が、その後30年暮らしたときにかかるであろう支出は、実に1億円近くである。

【高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の実支出】

消費支出 237,691 保健医療 15,044 食 料 64,827 交通・通信 25,256 住 居 14,700 教 育 1 光熱・水道 18,851 教養娯楽 26,303 家具・家事用品 9,017 その他の消費支出 (諸雑費、交際費、仕送り金) 57,016 被服及び履物 6,675 非消費支出 (直接費、社会保険料) 29,855 合 計 267,546 (出所)総務省 統計局「家計調査年報(家計支出編)平成28年(2016年)」 267,546円(1か月当たりの実支出)×12か月×30年=96,316,560円

(出典) 弊法人著『歯科医院の上手なたたみ方・引き継ぎ方』(清文社)p25

上記の各支出状況を見て分かるとおり、これらは決して贅沢をしすぎているとはいえないが、それでも1億円近くの資金が必要となるのである。この老後資金を引退までの給与と引退時の退職金、引退後の年金収入と投資収入などによって賄っていかなければならない。

場合によっては、不動産や有価証券、保険積立金といった個人資産を売却・整理することによって、資金を確保しなければならない事態も生じてくるであろう。

このような中で、中小企業経営者にフォーカスを絞って見てみると、これが事業を成功させてきた中小企業経営者である場合には、必然的にさらに多くの資金を要することは明らかであり、中小企業の経営者であるがゆえの様々な問題点が見えてくる。

例えば、中小企業経営者は、社長個人の給与収入は一般的には従業員よりも多く得ているため、生活の水準も高くなりがちである。しかし、その給与は、会社の経営状況に応じて大きく左右され、場合によっては会社が儲かっている時にしか給与が取れないなど不安定な状況にある。また、資金繰り次第では、会社に対して自己資金の貸付けを行っている経営者も少なくないだろう。

その他にも、会社の事業資金や設備投資のための借入に際して、金融機関からは個人保証や担保の提供を求められることもある。また、引退時においても、自己の退職金を支給できるか不透明な状況なども想定される。

そして、中小企業経営者の老後資金を考える上で切り離せない問題として、会社の株式の問題が挙げられる。

詳細は本連載の中で解説をしていく予定であるが、中小企業経営者の多くは「経営者=株主」として、自己資産に占める会社株式の割合が高い傾向にある。そして、この会社株式こそが、個人の相続に関する遺産分割や相続税の問題、会社の事業承継の問題となってくる。

この会社株式をいかに老後資金へと結びつけることができるかが、中小企業経営者の老後資金を構築する1つの大きなポイントといえる。

 

2 コンサルタント、アドバイザーとして押さえておくべきポイント

中小企業経営者の抱える悩みは、会社の経営から個人財産や、その両方に絡み合う相続、事業承継など多岐にわたる。これら多岐にわたる悩みに対応していくには、幅広い分野の知識が必要であり、さらに新たな制度や法改正、国や関係諸機関の動向などを絶えずキャッチアップしていかねばならず、どんなに優秀なコンサルタントであったとしても、1人のコンサルタントがすべての悩みの相談に乗り、問題点の解決ができているわけではなかろう。

そのため、中小企業経営者の周りには、会社の顧問税理士や顧問弁護士、中小企業診断士といった士業をはじめ、ライフプランナー、銀行担当者といった様々なコンサルタント、アドバイザーが集まっている。そこで、本連載では、専門家として、中小企業経営者の良きアドバイザーとして、最低限押さえておくべき項目の解説をしていく。

今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人ともいわれている。多くの中小企業経営者が引退を迎えていく中で、「老後資金の確保」を命題として、我々専門家が果たすべき役割を鑑み、今、このタイミングで論点を整理しポイントを押さえておくことが重要である。

筆者が事業承継のお手伝いをしている創業経営者がこんなこと言っていた。

会社を経営するということは、“いいところ探し”を続けることが大切だ。

事業を引き継ぐか悩んでいる後継者候補の娘婿に向けた言葉である。

独立して会社を立ち上げ、なんとか経営してきた中で、寝る間を惜しんで、ときには家庭を後まわしにしながらも会社を大きくしてきた。楽しいことばかりではなかったという。むしろ辛いことの方が多かったかもしれない。そのような中でも、公私において“いいところ探し”を続けポジティブに身を粉にして働き、ようやく迎える引退のとき。

このような経営者が、老後資金に関し不安を抱いているという状況にならないように、側で支える専門家として適切なアドバイスができるように、1人でも多くの中小企業経営のハッピーリタイヤへ向けて、読者の皆様の手助けとなるような有益情報をお伝えしていきたい。

 

3 今後の連載予定

本連載によって、中小企業経営者の「老後資金の確保」について、経営者としてのステージごとに、今後、以下の項目で体系的に解説をしていく予定である。

導入
・・・プロローグ、経営者のライフプラン、資産構築等

事業承継前の老後資金準備
・・・生命保険、共済制度、公的年金、不動産投資等、役員退職給与 等

事業承継時の老後資金準備
・・・親族内承継、親族外承継、M&A 等

事業承継後の老後資金対策
・・・投資、引退後給与、資産の組み換え 等

相続対策と老後資金との関係
・・・生前贈与、納税資金、争続対策 等

(了)

「中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント」は、毎月第3週に掲載されます。

中小企業経営者

[老後資金]を構築するポイント

【第1回】

「プロローグ:事業承継対策と密接な関係にある

経営者の老後資金問題」

 

税理士法人トゥモローズ

 

1 経営者が引退後に必要となる資金

平均寿命が男性80.98歳、女性87.14歳と過去最長となった日本の長寿時代、人生100年時代といわれている昨今、引退後も豊かな老後生活を送るためには、いったい、いくら位の資金が必要となるのか、ご存知だろうか。

65歳で引退した夫婦2人が、その後30年暮らしたときにかかるであろう支出は、実に1億円近くである。

【高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の実支出】

消費支出 237,691 保健医療 15,044 食 料 64,827 交通・通信 25,256 住 居 14,700 教 育 1 光熱・水道 18,851 教養娯楽 26,303 家具・家事用品 9,017 その他の消費支出 (諸雑費、交際費、仕送り金) 57,016 被服及び履物 6,675 非消費支出 (直接費、社会保険料) 29,855 合 計 267,546 (出所)総務省 統計局「家計調査年報(家計支出編)平成28年(2016年)」 267,546円(1か月当たりの実支出)×12か月×30年=96,316,560円

(出典) 弊法人著『歯科医院の上手なたたみ方・引き継ぎ方』(清文社)p25

上記の各支出状況を見て分かるとおり、これらは決して贅沢をしすぎているとはいえないが、それでも1億円近くの資金が必要となるのである。この老後資金を引退までの給与と引退時の退職金、引退後の年金収入と投資収入などによって賄っていかなければならない。

場合によっては、不動産や有価証券、保険積立金といった個人資産を売却・整理することによって、資金を確保しなければならない事態も生じてくるであろう。

このような中で、中小企業経営者にフォーカスを絞って見てみると、これが事業を成功させてきた中小企業経営者である場合には、必然的にさらに多くの資金を要することは明らかであり、中小企業の経営者であるがゆえの様々な問題点が見えてくる。

例えば、中小企業経営者は、社長個人の給与収入は一般的には従業員よりも多く得ているため、生活の水準も高くなりがちである。しかし、その給与は、会社の経営状況に応じて大きく左右され、場合によっては会社が儲かっている時にしか給与が取れないなど不安定な状況にある。また、資金繰り次第では、会社に対して自己資金の貸付けを行っている経営者も少なくないだろう。

その他にも、会社の事業資金や設備投資のための借入に際して、金融機関からは個人保証や担保の提供を求められることもある。また、引退時においても、自己の退職金を支給できるか不透明な状況なども想定される。

そして、中小企業経営者の老後資金を考える上で切り離せない問題として、会社の株式の問題が挙げられる。

詳細は本連載の中で解説をしていく予定であるが、中小企業経営者の多くは「経営者=株主」として、自己資産に占める会社株式の割合が高い傾向にある。そして、この会社株式こそが、個人の相続に関する遺産分割や相続税の問題、会社の事業承継の問題となってくる。

この会社株式をいかに老後資金へと結びつけることができるかが、中小企業経営者の老後資金を構築する1つの大きなポイントといえる。

 

2 コンサルタント、アドバイザーとして押さえておくべきポイント

中小企業経営者の抱える悩みは、会社の経営から個人財産や、その両方に絡み合う相続、事業承継など多岐にわたる。これら多岐にわたる悩みに対応していくには、幅広い分野の知識が必要であり、さらに新たな制度や法改正、国や関係諸機関の動向などを絶えずキャッチアップしていかねばならず、どんなに優秀なコンサルタントであったとしても、1人のコンサルタントがすべての悩みの相談に乗り、問題点の解決ができているわけではなかろう。

そのため、中小企業経営者の周りには、会社の顧問税理士や顧問弁護士、中小企業診断士といった士業をはじめ、ライフプランナー、銀行担当者といった様々なコンサルタント、アドバイザーが集まっている。そこで、本連載では、専門家として、中小企業経営者の良きアドバイザーとして、最低限押さえておくべき項目の解説をしていく。

今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人ともいわれている。多くの中小企業経営者が引退を迎えていく中で、「老後資金の確保」を命題として、我々専門家が果たすべき役割を鑑み、今、このタイミングで論点を整理しポイントを押さえておくことが重要である。

筆者が事業承継のお手伝いをしている創業経営者がこんなこと言っていた。

会社を経営するということは、“いいところ探し”を続けることが大切だ。

事業を引き継ぐか悩んでいる後継者候補の娘婿に向けた言葉である。

独立して会社を立ち上げ、なんとか経営してきた中で、寝る間を惜しんで、ときには家庭を後まわしにしながらも会社を大きくしてきた。楽しいことばかりではなかったという。むしろ辛いことの方が多かったかもしれない。そのような中でも、公私において“いいところ探し”を続けポジティブに身を粉にして働き、ようやく迎える引退のとき。

このような経営者が、老後資金に関し不安を抱いているという状況にならないように、側で支える専門家として適切なアドバイスができるように、1人でも多くの中小企業経営のハッピーリタイヤへ向けて、読者の皆様の手助けとなるような有益情報をお伝えしていきたい。

 

3 今後の連載予定

本連載によって、中小企業経営者の「老後資金の確保」について、経営者としてのステージごとに、今後、以下の項目で体系的に解説をしていく予定である。

導入
・・・プロローグ、経営者のライフプラン、資産構築等

事業承継前の老後資金準備
・・・生命保険、共済制度、公的年金、不動産投資等、役員退職給与 等

事業承継時の老後資金準備
・・・親族内承継、親族外承継、M&A 等

事業承継後の老後資金対策
・・・投資、引退後給与、資産の組み換え 等

相続対策と老後資金との関係
・・・生前贈与、納税資金、争続対策 等

(了)

「中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

中小企業経営者の
[老後資金]を構築するポイント

(全27回)

➤導入

➤事業承継前の老後資金準備

➤事業承継時の老後資金準備

➤事業承継後の老後資金対策

➤相続対策と老後資金との関係

筆者紹介

税理士法人トゥモローズ

http://tomorrowstax.com

相続税申告や事業承継、経営者、地主等の相続対策を専門に取り扱う税理士法人。

年間100件以上の相続税申告、事業承継対策、相続相談等の案件を扱い、税理士の先生からの相続や事業承継の相談にも数多く対応している。

“お客様の思いを幸せな明日へ”を法人理念とし、謙虚に、素直に、誠実にお客様目線を徹底的に貫くサービスに定評がある。

【著作】
・『専門税理士が教える!「相続開始後」でも提案できる相続アドバイス-初回面談から申告実務、アフターフォローまで』(清文社)
・『歯科医院の上手なたたみ方・引き継ぎ方-閉院/事業承継/相続の手順とポイント』(清文社)
・『新版 イレギュラーな相続に対処する/未分割申告の税実務』(清文社)

  

関連書籍

Q&A 事業承継をめぐる非上場株式の評価と相続対策

デロイト トーマツ税理士法人 編

社会保険・労働保険の事務手続

特定社会保険労務士 五十嵐芳樹 著

社会保険・労働保険の事務百科

社会・労働保険実務研究会 編

中小企業の事業承継

税理士 牧口晴一 著 法学博士・税理士 齋藤孝一 著

税務・労務ハンドブック

公認会計士・税理士 井村 奨 著 税理士 山口光晴 著 税理士 濱 林太朗 著 特定社会保険労務士 佐竹康男 著 特定社会保険労務士 井村佐都美 著

顧問先との会話から引き出す資産対策提案テクニック

101会 税理士 山本和義 他 編著

相続税実務の“鉄則”に従ってはいけないケースと留意点

中島孝一 著 西野道之助 著 飯田昭雄 著 佐々木京子 著 高野雅之 著 若山寿裕 著 佐久間美亜 著

中小企業の事業再生等ガイドラインの実務

弁護士 福岡真之介 著 弁護士 片井慎一 著 公認会計士・税理士 松田隆志 著

Q&A 中小企業における「株式」の実務対応

東京中小企業投資育成株式会社 公認会計士・税理士 中野威人 著

〔目的別〕組織再編の最適スキーム

公認会計士・税理士 貝沼 彩 著 公認会計士・税理士 北山雅一 著 税理士 清水博崇 著 司法書士・社会保険労務士 齊藤修一 著

組織再編税制大全

公認会計士・税理士 佐藤信祐 著

経営危機に陥った社長さんを守る最後の救済策

公認会計士・税理士 橋口貢一 著

ケース別 事業承継対策Q&A

太陽グラントソントン税理士法人 著

社会保険・労働保険 様式書き方のポイント

特定社会保険労務士 佐々木昌司 著

中小企業の運営・承継における理論と実務 ファミリービジネスは日本を救う

大阪弁護士会・日本公認会計士協会近畿会・ファミリービジネス研究会 著

非公開会社における少数株主対策の実務

弁護士法人ピクト法律事務所 代表弁護士 永吉啓一郎 著

精選Q&A 相続税・贈与税全書〔財産評価編〕

税理士法人チェスター 編著 税理士 香取 稔 編著
#