公開日: 2020/08/27 (掲載号:No.383)
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令和2年 年金制度改正のポイント 【第1回】「短時間労働者の社会保険の適用拡大(その1)」~対象企業の拡大と勤務期間要件の撤廃~

筆者: 佐竹 康男

令和2年

年金制度改正のポイント

【第1回】

「短時間労働者の社会保険の適用拡大(その1)」

~対象企業の拡大と勤務期間要件の撤廃~

 

特定社会保険労務士 佐竹 康男

 

1 改正の概要

改正年金法(年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律)が令和2年5月29日に成立し、6月5日に公布されました。

働き方改革により進められてきた多様な働き方に対応することや、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図ること等を目的としています。

改正法の主な内容は、短時間労働者の厚生年金保険の適用拡大、在職老齢年金の支給停止基準の引上げ、繰下げ受給の上限年齢の引上げ等ですが、被保険者資格に関する適用関係と年金受給に関する給付関係の両面にわたる改正となっているのが特徴です。

【改正年金法の概要】(公的年金部分の主なもの)
〈保険の適用関係〉
項目 改正内容 短時間労働者の適用拡大【2022年10月から】 対象企業規模を拡大 ・現行501人以上を2022年10月に101人以上へ、2024年10月に51人以上へ 雇用期間要件を撤廃 ・現行の要件の一つである「継続して1年以上使用されることが見込まれること」を削除 個人事業の適用業種拡大 【2022年10月施行】 個人事業の適用業種に弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士等の法律・会計業務を取り扱う士業を追加 期間雇用者の早期加入措置【2022年10月施行】 雇用契約期間が2ヶ月以内でも、実態として2ヶ月を超えて使用される見込みがあると判断できる場合は、最初の雇用期間を含めて当初から被保険者にする(現行:当初2ヶ月間は適用除外)

〈保険の給付関係〉
項目 改正内容 60~64歳の在職老齢年金支給停止基準額の引上げ 【2022年4月施行】 60~64歳の老齢厚生年金の支給停止の基準額(年金と報酬等の合計額)を現行の28万円から47万円へ引上げ (注)28万円及び47万円は令和2年度価額で表示 在職老齢年金(在職定時改定の導入) 【2022年4月施行】 在職中の老齢厚生年金受給権者(65歳以上)の年金額を毎年1回、10月分から改定(現行は資格喪失時(退職時・70歳到達時)に年金額を改定) 繰下げ受給年齢の引上げ【2022年4月施行】 繰下げ受給の上限年齢を70歳から75歳へ引上げ 繰下げ増額率:1月あたり0.7%(現行と同じ)

 

2 パートタイム労働者の厚生年金保険への加入拡大(健康保険も同様)

(1) パートタイム労働者の社会保険への加入(現行法)

適用事業所に常時使用されている者(厚生年金保険は70歳未満の者)が社会保険の加入者(以下「被保険者」といいます)ですが、パートタイム労働者等の労働時間及び労働日数が正社員より短い者は、1週間の所定労働時間及び1ヶ月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される正社員の4分の3以上である者が被保険者になっています。

前記要件を満たさないパートタイム労働者(以下「短時間労働者」といいます)の場合は、現に使用されている事業所の規模により適用が異なります。

① 常時501人以上の被保険者を使用する事業所(特定適用事業所)

次の(a)から(d)までの4つの要件を満たす短時間労働者ついては、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。

(a) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

(b) その事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること

(c) 賃金の月額(家族手当、通勤手当等を除く)が88,000円以上であること

(d) 学生等でないこと

② 常時500人以下の被保険者を使用する事業所

短時間労働者は任意加入になります。「労使の合意」があれば、上記①の(a)から(d)に該当する者を被保険者にすることができます。

(2) 改正後【2022年10月等の施行】

① 対象企業の拡大

上記(1)の①の従業員規模が見直され、現行の常時501人以上の事業所から、2020年10月には101人以上の事業所へ、2024年10月には51人以上の事業所へ拡大されます。従業員数が前記未満の企業については従来どおり労使の合意があった場合に被保険者になることができます。

② 勤務期間要件の撤廃

上記(1)の①の(b)の短時間労働者の勤務期間要件である「その事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること」が撤廃されます。したがって、例えば、3ヶ月の雇用契約を締結している短時間労働者でも、他の要件を満たすことができれば被保険者になることができます。

(3) 社会保険加入のメリット・デメリット

短時間労働者は、サラリーマンの配偶者や自営業者の配偶者が大半です。

社会保険の加入は、短時間労働者にとって、将来の年金額の増加等、給付面ではメリットはありますが、費用面では必ずしもメリットだけではなくデメリットもあります。

〇メリット

・将来の年金額の増加

・健康保険における「出産手当金」や「傷病手当金」の受給が可能

・保険料の軽減(自営業者の配偶者は、国民年金保険料として月額16,540円(令和2年度価額)支払っていますので、社会保険に加入することにより、保険料(月額10万円の報酬の場合は約1.5万円)は、国民年金の保険料にも満たないため、保険料負担の軽減になる)

〇デメリット

・保険料の新たな負担(サラリーマンの配偶者は、健康保険の被扶養者になっており、年金は国民年金の第3号被保険者で社会保険料の負担がありませんが、自ら社会保険に加入することにより新たに保険料の負担が生じる)

2020年10月以降の社会保険の適用範囲について、具体的な事例で考えてみましょう。

Question

会社全体で従業員が180人ですが、本社は80人、支店は2ヶ所でそれぞれ50人程度です。社会保険は、事業所単位で本社と支店は別々に適用すると聞いていましたが、2022年10月以降は、わが社も適用拡大の対象となるのでしょうか。

Answer

社会保険の適用は事業所単位ですが、特定適用事業所としての規模は、短時間労働者を除いた企業全体の従業員数で判断します。したがって、御社の場合は、本社と支社の従業員の合計(短時間労働者を除く)が100人を超えると思われますので、2022年10月以降、要件に該当する短時間労働者を雇用しているときは、社会保険の加入手続が必要になります。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

令和2年

年金制度改正のポイント

【第1回】

「短時間労働者の社会保険の適用拡大(その1)」

~対象企業の拡大と勤務期間要件の撤廃~

 

特定社会保険労務士 佐竹 康男

 

1 改正の概要

改正年金法(年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律)が令和2年5月29日に成立し、6月5日に公布されました。

働き方改革により進められてきた多様な働き方に対応することや、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図ること等を目的としています。

改正法の主な内容は、短時間労働者の厚生年金保険の適用拡大、在職老齢年金の支給停止基準の引上げ、繰下げ受給の上限年齢の引上げ等ですが、被保険者資格に関する適用関係と年金受給に関する給付関係の両面にわたる改正となっているのが特徴です。

【改正年金法の概要】(公的年金部分の主なもの)
〈保険の適用関係〉
項目 改正内容 短時間労働者の適用拡大【2022年10月から】 対象企業規模を拡大 ・現行501人以上を2022年10月に101人以上へ、2024年10月に51人以上へ 雇用期間要件を撤廃 ・現行の要件の一つである「継続して1年以上使用されることが見込まれること」を削除 個人事業の適用業種拡大 【2022年10月施行】 個人事業の適用業種に弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士等の法律・会計業務を取り扱う士業を追加 期間雇用者の早期加入措置【2022年10月施行】 雇用契約期間が2ヶ月以内でも、実態として2ヶ月を超えて使用される見込みがあると判断できる場合は、最初の雇用期間を含めて当初から被保険者にする(現行:当初2ヶ月間は適用除外)

〈保険の給付関係〉
項目 改正内容 60~64歳の在職老齢年金支給停止基準額の引上げ 【2022年4月施行】 60~64歳の老齢厚生年金の支給停止の基準額(年金と報酬等の合計額)を現行の28万円から47万円へ引上げ (注)28万円及び47万円は令和2年度価額で表示 在職老齢年金(在職定時改定の導入) 【2022年4月施行】 在職中の老齢厚生年金受給権者(65歳以上)の年金額を毎年1回、10月分から改定(現行は資格喪失時(退職時・70歳到達時)に年金額を改定) 繰下げ受給年齢の引上げ【2022年4月施行】 繰下げ受給の上限年齢を70歳から75歳へ引上げ 繰下げ増額率:1月あたり0.7%(現行と同じ)

 

2 パートタイム労働者の厚生年金保険への加入拡大(健康保険も同様)

(1) パートタイム労働者の社会保険への加入(現行法)

適用事業所に常時使用されている者(厚生年金保険は70歳未満の者)が社会保険の加入者(以下「被保険者」といいます)ですが、パートタイム労働者等の労働時間及び労働日数が正社員より短い者は、1週間の所定労働時間及び1ヶ月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される正社員の4分の3以上である者が被保険者になっています。

前記要件を満たさないパートタイム労働者(以下「短時間労働者」といいます)の場合は、現に使用されている事業所の規模により適用が異なります。

① 常時501人以上の被保険者を使用する事業所(特定適用事業所)

次の(a)から(d)までの4つの要件を満たす短時間労働者ついては、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。

(a) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

(b) その事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること

(c) 賃金の月額(家族手当、通勤手当等を除く)が88,000円以上であること

(d) 学生等でないこと

② 常時500人以下の被保険者を使用する事業所

短時間労働者は任意加入になります。「労使の合意」があれば、上記①の(a)から(d)に該当する者を被保険者にすることができます。

(2) 改正後【2022年10月等の施行】

① 対象企業の拡大

上記(1)の①の従業員規模が見直され、現行の常時501人以上の事業所から、2020年10月には101人以上の事業所へ、2024年10月には51人以上の事業所へ拡大されます。従業員数が前記未満の企業については従来どおり労使の合意があった場合に被保険者になることができます。

② 勤務期間要件の撤廃

上記(1)の①の(b)の短時間労働者の勤務期間要件である「その事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること」が撤廃されます。したがって、例えば、3ヶ月の雇用契約を締結している短時間労働者でも、他の要件を満たすことができれば被保険者になることができます。

(3) 社会保険加入のメリット・デメリット

短時間労働者は、サラリーマンの配偶者や自営業者の配偶者が大半です。

社会保険の加入は、短時間労働者にとって、将来の年金額の増加等、給付面ではメリットはありますが、費用面では必ずしもメリットだけではなくデメリットもあります。

〇メリット

・将来の年金額の増加

・健康保険における「出産手当金」や「傷病手当金」の受給が可能

・保険料の軽減(自営業者の配偶者は、国民年金保険料として月額16,540円(令和2年度価額)支払っていますので、社会保険に加入することにより、保険料(月額10万円の報酬の場合は約1.5万円)は、国民年金の保険料にも満たないため、保険料負担の軽減になる)

〇デメリット

・保険料の新たな負担(サラリーマンの配偶者は、健康保険の被扶養者になっており、年金は国民年金の第3号被保険者で社会保険料の負担がありませんが、自ら社会保険に加入することにより新たに保険料の負担が生じる)

2020年10月以降の社会保険の適用範囲について、具体的な事例で考えてみましょう。

Question

会社全体で従業員が180人ですが、本社は80人、支店は2ヶ所でそれぞれ50人程度です。社会保険は、事業所単位で本社と支店は別々に適用すると聞いていましたが、2022年10月以降は、わが社も適用拡大の対象となるのでしょうか。

Answer

社会保険の適用は事業所単位ですが、特定適用事業所としての規模は、短時間労働者を除いた企業全体の従業員数で判断します。したがって、御社の場合は、本社と支社の従業員の合計(短時間労働者を除く)が100人を超えると思われますので、2022年10月以降、要件に該当する短時間労働者を雇用しているときは、社会保険の加入手続が必要になります。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

筆者紹介

佐竹 康男

(さたけ・やすお)

特定社会保険労務士

昭和61年 社会保険労務士開業

元京都府社会保険労務士会常任理事、年金記録確認京都地方第三者委員会委員

現在 有限会社オフィスレイバ 代表取締役
裁判所民事調停委員、家事調停委員、司法委員。
金融機関、納税協会、商工会等で労務・年金セミナーの講師を務める。

【主な著書】
・『社会保険手続 誤りやすい事例100』(清文社)
・『社会保険・労働保険の事務百科』(清文社)
・『税務・労務ハンドブック』(共著・清文社)
・『年金相談標準ハンドブック』(共著・日本法令)
・小冊子『改正年金法であなたの年金はこう変わる』(清文社)

関連書籍

社会保険・労働保険の事務手続

特定社会保険労務士 五十嵐芳樹 著

社会保険・労働保険の事務百科

社会・労働保険実務研究会 編

税務・労務ハンドブック

公認会計士・税理士 井村 奨 著 税理士 山口光晴 著 税理士 濱 林太朗 著 特定社会保険労務士 佐竹康男 著 特定社会保険労務士 井村佐都美 著

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特定社会保険労務士 佐々木昌司 著

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公認会計士・税理士 新名貴則 著

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