《速報解説》
会計士協会、「不動産をめぐる課税上の論点整理」を公表
~判例分析を踏まえ総則6項適用の射程について言及~
税理士 菅野 真美
1 「不動産をめぐる課税上の論点整理」の公表
日本公認会計士協会が、令和4年5月19日に「不動産をめぐる課税上の論点整理」(以下「論点整理」という)を公表した(ホームページ掲載日は令和4年5月27日)。
これは不動産の多角的な課税の局面において、現行税制の問題点は何かを会計士の視点から検討している。様々な検討事項のうち本稿では、令和4年4月19日の最高裁判決により話題となっている総則6項に焦点を当てて検討する。
2 相続税法上の時価と総則6項の位置づけ
相続税法22条における「時価」は相続時の客観的な交換価値とされているが、多様な相続財産の相続時の客観的な交換価値を評価することは難しいことから、財産評価基本通達で一律の評価方法を定め、その方法に従って算出された評価額は相続税法上の時価とされている。
しかし、客観的な交換価値との乖離が生ずる場合もあるので財産評価基本通達第1章総則6項(以下「総則6項」という)で、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定められている。そして、この総則6項に基づき課税庁が更正処分をしたことから納税者と争う事例が増加しているといわれている。
3 総則6項が争点となった判例分析と問題点
論点整理において総則6項が争点となった3事例について判例分析を行っている(13頁)。そのうち2事例は、借入金による不動産の取得により相続税額が著しく減少し、総則6項に基づいて不動産を鑑定評価額で更正したことから争われたものである。
裁判所は、納税者が相続税の大幅な節税効果を知って実行したこと等から、通達評価を否認する「特別の事情」があると判断したが、「特別の事情」(通達では「著しく不適当」)が何かが具体的に示されていないのは、「租税法律主義の観点から問題があるといえる。」と論じている。
そして、「課税庁が総則6項を適用する場合には、適用要件が不確定概念であるがゆえに、厳格に要件を解釈することが求められるとともに、更に課税庁の恣意的な課税がなされることがないように、『特別な事情』と評価すべき根拠事実を通達等に例示するようにすべきではないかと考えられる。」と論じて、法的安定性、予見可能性を担保できるような通達改正を課税庁に求めている。
4 最高裁判決後の総則6項の適用と実務家の対応
しかし、直近の最高裁も、借入金による不動産取得の結果、大幅な相続税の節税となった事案について総則6項の適用を認めた判決となった。論点整理で求めた方向性とは異なり、今後も同様の相続税事案で、現行の総則6項に基づいて更正処分される事案が増えることも予想される。しかし、すべての事案が総則6項の適用対象になるとは考えられない。
実務家は、今回紹介された判例や総則6項で争われた他の判例等から課税リスクが高まる射程を自分なりに分析し、顧問先の事案への対応に知恵を絞ることが今まで以上に求められるだろう。
(了)