公開日: 2022/08/08
文字サイズ

《速報解説》 監査役協会、2022年版「監査役監査と監査役スタッフの業務」を公表~会社法改正及びCGコード適用開始後に定着した事例や実態を新たに反映~

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

監査役協会、2022年版「監査役監査と監査役スタッフの業務」を公表

~会社法改正及びCGコード適用開始後に定着した事例や実態を新たに反映~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2022年7月21日付で(ホームページ掲載日は2022年8月3日)、日本監査役協会 本部監査役スタッフ研究会は、「監査役監査と監査役スタッフの業務」(通称「オレンジ本」)を公表した。

これは、会社法改正及びコーポレートガバナンス・コード適用開始後に定着した事例や実態を反映したり、冗長な表現の見直しをしたりするなどの対応を行うものである。

オレンジ本は、「本体部分(業務マニュアル)」、「監査業務支援ツール」及び「アンケート調査」から構成されている。

以下では、「本体部分(業務マニュアル)」について解説する。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 期初業務

〇 監査方針及び監査計画の策定等

監査役会は、監査活動の開始に先立ち、監査方針及び監査計画を作成する。

監査方針及び監査計画は以下の手順で策定する。

 前年度の監査結果の分析・評価と課題の抽出

 監査方針案の作成

 監査計画案の作成

 監査役会での審議・決議

事例として、監査方針及び監査計画に対する非常勤監査役の関与を高める一環として、非常勤監査役への事前説明の実施や決議前の監査役会において案を報告事項として付議する会社がある。

 

Ⅲ 期中業務

1 取締役会への出席・意見陳述

監査役は、会社法383条1項により、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見陳述する義務がある。

監査役は、例えば、以下の点を確認することなどが記載されている。

 取締役会が法令・定款及び取締役会規則等の社内規定に沿って適正に運営されているか。

 意思決定過程が合理的であるか。

 利益相反取引・競業取引等がある場合、取締役会の承認・報告が実施されているか。

 親会社等との取引において、一方の利益を犠牲にして一方のみの利益を図るような取引を行っていないか。

2 代表取締役との会合

監査役は、代表取締役と意見交換を行うことにより、監査役の業務監査・会計監査に役立つ情報収集を行う。

また、経営上の懸念事項について監査役から代表取締役に伝達し対処を求める場でもある。

事例として、社外監査役の知見が活かされるようなテーマも含めるようにしている会社がある。

3 関連当事者との一般的でない取引の監査

関連当事者との取引は恣意性が入りやすいことから、注記表でその重要な取引の概要を開示するものとされている(会社計算規則112条1項)。

監査役は、取締役がこの記載義務を適法に履行しているかを監査し、もって会社に損害が生ずることを未然に防止する。

4 剰余金の配当の監査

分配可能額(会社法461条)を超える剰余金の配当は、会社財産維持、会社債権者保護の観点に鑑みて重大な違法行為のため、監査役は、剰余金の配当が法令・定款に従い適切な手続を経て実施されているかどうかを確認する。

違法配当の可能性がある場合、監査役は取締役会等において指摘し、差止権(会社法385条)をもってしても回避すべきであると記載されている。

違法な剰余金の配当があった場合は、任務懈怠があった監査役も会社に対して連帯して過失による損害賠償責任を負う(会社法423条、430条)。

事例として、取締役会開催前に必要な数字を執行側から入手し、監査役(会)においても配当金額が剰余金額の範囲内にあることを確認している会社がある。

5 社外取締役との連携

監査役にとっては社外取締役も監査役監査の対象であり、監査役は社外取締役の監督義務の履行状況の監査を行う必要がある。

そのような観点からも社外取締役との意見交換は重要である。

 

Ⅳ 期末業務

1 事業報告等の監査

事業報告等監査は、事業報告等が取締役の当該事業年度における職務執行のまとめとして株主に提供される書類であるという性質上、監査役監査の集大成として位置付けられるものである。

事例として、事業報告(案)の記載内容の説明のための監査役会を複数回開催し、執行側と質疑を行い、内容を確認している会社がある。

2 計算関係書類の受領及び監査

監査役設置会社においては、計算関係書類は、監査役の監査を受けなければならない(会社法436条1項・441条2項・444条4項)。

会計監査人設置会社においては、計算関係書類は会計監査人の監査も受けなければならない(会社法436条2項1号・441条2項・444条4項)。

監査役は、計算関係書類を作成した取締役から計算関係書類の提供を受ける(会社計算規則125条)とともに、会計監査人による会計監査報告の内容の通知を受け(会社計算規則130条1項)、監査を行う。

3 有価証券報告書開示(監査役監査の状況)への対応

有価証券報告書では、「監査の状況」の記載が求められている。

「監査の状況」の記載は、「監査役監査の状況」、「内部監査の状況」、「会計監査の状況」から構成されている。

監査役は、「監査役監査の状況」の記載に係る文章作成だけでなく、内部監査及び会計監査との連携状況についても、記載内容の確認が必要である。

事例として、監査役会の開催回数と各監査役の出席回数に加え、1回あたりの平均所要時間も記載している会社があった。

 

Ⅴ 非日常的活動に関する事項

例えば、次の事項について記載されている。

 企業不祥事に対する監査役監査の流れ

 「会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実」等の取締役からの報告受領

 会計監査人からの取締役の不正行為等の報告受領

 取締役の不正行為等の取締役(会)への報告

 監査役の差止請求権

 会計監査人の交代(不再任・選任)に係る対応

(了)

《速報解説》

監査役協会、2022年版「監査役監査と監査役スタッフの業務」を公表

~会社法改正及びCGコード適用開始後に定着した事例や実態を新たに反映~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2022年7月21日付で(ホームページ掲載日は2022年8月3日)、日本監査役協会 本部監査役スタッフ研究会は、「監査役監査と監査役スタッフの業務」(通称「オレンジ本」)を公表した。

これは、会社法改正及びコーポレートガバナンス・コード適用開始後に定着した事例や実態を反映したり、冗長な表現の見直しをしたりするなどの対応を行うものである。

オレンジ本は、「本体部分(業務マニュアル)」、「監査業務支援ツール」及び「アンケート調査」から構成されている。

以下では、「本体部分(業務マニュアル)」について解説する。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 期初業務

〇 監査方針及び監査計画の策定等

監査役会は、監査活動の開始に先立ち、監査方針及び監査計画を作成する。

監査方針及び監査計画は以下の手順で策定する。

 前年度の監査結果の分析・評価と課題の抽出

 監査方針案の作成

 監査計画案の作成

 監査役会での審議・決議

事例として、監査方針及び監査計画に対する非常勤監査役の関与を高める一環として、非常勤監査役への事前説明の実施や決議前の監査役会において案を報告事項として付議する会社がある。

 

Ⅲ 期中業務

1 取締役会への出席・意見陳述

監査役は、会社法383条1項により、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見陳述する義務がある。

監査役は、例えば、以下の点を確認することなどが記載されている。

 取締役会が法令・定款及び取締役会規則等の社内規定に沿って適正に運営されているか。

 意思決定過程が合理的であるか。

 利益相反取引・競業取引等がある場合、取締役会の承認・報告が実施されているか。

 親会社等との取引において、一方の利益を犠牲にして一方のみの利益を図るような取引を行っていないか。

2 代表取締役との会合

監査役は、代表取締役と意見交換を行うことにより、監査役の業務監査・会計監査に役立つ情報収集を行う。

また、経営上の懸念事項について監査役から代表取締役に伝達し対処を求める場でもある。

事例として、社外監査役の知見が活かされるようなテーマも含めるようにしている会社がある。

3 関連当事者との一般的でない取引の監査

関連当事者との取引は恣意性が入りやすいことから、注記表でその重要な取引の概要を開示するものとされている(会社計算規則112条1項)。

監査役は、取締役がこの記載義務を適法に履行しているかを監査し、もって会社に損害が生ずることを未然に防止する。

4 剰余金の配当の監査

分配可能額(会社法461条)を超える剰余金の配当は、会社財産維持、会社債権者保護の観点に鑑みて重大な違法行為のため、監査役は、剰余金の配当が法令・定款に従い適切な手続を経て実施されているかどうかを確認する。

違法配当の可能性がある場合、監査役は取締役会等において指摘し、差止権(会社法385条)をもってしても回避すべきであると記載されている。

違法な剰余金の配当があった場合は、任務懈怠があった監査役も会社に対して連帯して過失による損害賠償責任を負う(会社法423条、430条)。

事例として、取締役会開催前に必要な数字を執行側から入手し、監査役(会)においても配当金額が剰余金額の範囲内にあることを確認している会社がある。

5 社外取締役との連携

監査役にとっては社外取締役も監査役監査の対象であり、監査役は社外取締役の監督義務の履行状況の監査を行う必要がある。

そのような観点からも社外取締役との意見交換は重要である。

 

Ⅳ 期末業務

1 事業報告等の監査

事業報告等監査は、事業報告等が取締役の当該事業年度における職務執行のまとめとして株主に提供される書類であるという性質上、監査役監査の集大成として位置付けられるものである。

事例として、事業報告(案)の記載内容の説明のための監査役会を複数回開催し、執行側と質疑を行い、内容を確認している会社がある。

2 計算関係書類の受領及び監査

監査役設置会社においては、計算関係書類は、監査役の監査を受けなければならない(会社法436条1項・441条2項・444条4項)。

会計監査人設置会社においては、計算関係書類は会計監査人の監査も受けなければならない(会社法436条2項1号・441条2項・444条4項)。

監査役は、計算関係書類を作成した取締役から計算関係書類の提供を受ける(会社計算規則125条)とともに、会計監査人による会計監査報告の内容の通知を受け(会社計算規則130条1項)、監査を行う。

3 有価証券報告書開示(監査役監査の状況)への対応

有価証券報告書では、「監査の状況」の記載が求められている。

「監査の状況」の記載は、「監査役監査の状況」、「内部監査の状況」、「会計監査の状況」から構成されている。

監査役は、「監査役監査の状況」の記載に係る文章作成だけでなく、内部監査及び会計監査との連携状況についても、記載内容の確認が必要である。

事例として、監査役会の開催回数と各監査役の出席回数に加え、1回あたりの平均所要時間も記載している会社があった。

 

Ⅴ 非日常的活動に関する事項

例えば、次の事項について記載されている。

 企業不祥事に対する監査役監査の流れ

 「会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実」等の取締役からの報告受領

 会計監査人からの取締役の不正行為等の報告受領

 取締役の不正行為等の取締役(会)への報告

 監査役の差止請求権

 会計監査人の交代(不再任・選任)に係る対応

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

#