公開日: 2025/10/30
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《速報解説》ASBJ、「金融商品に関する会計基準(案)」等を公表~金融資産の減損に予想信用損失モデルを導入~

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

ASBJ、「金融商品に関する会計基準(案)」等を公表

~金融資産の減損に予想信用損失モデルを導入~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2025年10月29日、企業会計基準委員会は、「金融商品に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第89号。以下「金融商品会計基準(案)」という)等を公表し、意見募集を行っている。

これは、IFRS第9号「金融商品」の予想信用損失モデルを基礎として、金融資産の減損に予想信用損失モデルを導入するものである。

意見募集期間は2026年2月6日までである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 債権、満期保有目的の債券

金融商品会計基準(案)14項、16項では、次のように規定する。

 債権の貸借対照表価額は、原則として取得価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。

 貸付金及び重要な金融要素を含む債権については、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。貸付金代替性私募債については、貸付金に含めて取り扱う。

 リースにより生じた債権の貸借対照表価額は、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)に基づいて算定された価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。

 満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(「満期保有目的の債券」という)は、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額をもって貸借対照表価額とする。

 

Ⅲ 予想信用損失、貸付金代替性私募債

予想信用損失とは、信用損失を確率加重したものをいう(金融商品会計基準(案)(注5−2))。

信用損失とは、企業に支払われるべきすべての契約上のキャッシュ・フローと、企業が受け取ると見込んでいるすべてのキャッシュ・フローとの差額(すなわち、すべてのキャッシュ・フローの不足額)を現在価値に割り引いたものをいう。

貸付金代替性私募債とは、貸付金の代替として銀行が引き受けて保有する私募債をいう(金融商品会計基準(案)(注5−3))。

 

Ⅳ 金融保証契約

金融保証契約の規定を新設する(金融商品会計基準(案)26−2項)。

金融保証契約とは、特定の債務者が金銭債務の当初又は変更後の条件に従って期日の到来時に所定の支払を行わないことにより契約保有者に発生する損失等を補償するために、当該保有者に対して所定の支払を行うことを契約発行者に要求する契約をいう。ただし、デリバティブに該当するものは除く(金融商品会計基準(案)(注8-2))。

 

Ⅴ 予想信用損失の算定方法

予想信用損失の算定にあたっては、期末において、債権、満期保有目的の債券、金融保証契約及び貸出コミットメント等(「債権等」という)の発生の認識以降におけるデフォルト発生リスクの変動に基づいて債権等に係る信用リスクが著しく増大しているかどうか判定する(金融商品会計基準(案)27項)。

予想信用損失は、以下を反映する方法により算定する(金融商品会計基準(案)27−2項)。

 一定範囲の生じ得る結果を評価することによって算定される偏りがなく確率加重された金額

 貨幣の時間価値

 過去の事象、現在の状況及び将来の経済状況の予測に関して、期末において過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報

「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第88号。以下「予想信用損失適用指針(案)」という)において、詳細な規定及び設例が設けられている。

一般事業会社の通常の営業取引から生じる受取手形及び売掛金等、並びにリースにより生じた債権については、IFRS第9号において定められている営業債権、契約資産及びリース債権についての単純化したアプローチに関する定めを取り入れる。

 

Ⅵ 注記事項

信用リスクに関する情報として、次の事項を注記する(予想信用損失適用指針(案)72項)。

 予想信用損失の分解情報

 信用リスク管理実務及び予想信用損失の算定プロセスに関する情報

 当期及び翌期以降の財務諸表への影響を理解するための情報

予想信用損失適用指針(案)では開示例が示されている。

 

Ⅶ 補足文書(案)

実務に資するように、信用リスクの著しい増大に関する判定、簡素化された予想信用損失の算定方法における信用リスクの著しい増大に関する判定などについて、補足文書(案)を公表する。

 

Ⅷ 適用時期等

20XX年改正の本会計基準(以下「20XX年改正会計基準」という)は、20XX年4月1日[公表から3年程度経過した日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。

上記の定めにかかわらず、20XX年4月1日[公表後最初に到来する4月1日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から20XX年改正会計基準を適用することができる。なお、この場合には、20XX年改正会計基準と同時に公表又は改正された一連の会計基準等についても同時に適用する必要がある。

また、経過措置にも注意する。

(了)

《速報解説》

ASBJ、「金融商品に関する会計基準(案)」等を公表

~金融資産の減損に予想信用損失モデルを導入~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2025年10月29日、企業会計基準委員会は、「金融商品に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第89号。以下「金融商品会計基準(案)」という)等を公表し、意見募集を行っている。

これは、IFRS第9号「金融商品」の予想信用損失モデルを基礎として、金融資産の減損に予想信用損失モデルを導入するものである。

意見募集期間は2026年2月6日までである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 債権、満期保有目的の債券

金融商品会計基準(案)14項、16項では、次のように規定する。

 債権の貸借対照表価額は、原則として取得価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。

 貸付金及び重要な金融要素を含む債権については、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。貸付金代替性私募債については、貸付金に含めて取り扱う。

 リースにより生じた債権の貸借対照表価額は、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)に基づいて算定された価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。

 満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(「満期保有目的の債券」という)は、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額をもって貸借対照表価額とする。

 

Ⅲ 予想信用損失、貸付金代替性私募債

予想信用損失とは、信用損失を確率加重したものをいう(金融商品会計基準(案)(注5−2))。

信用損失とは、企業に支払われるべきすべての契約上のキャッシュ・フローと、企業が受け取ると見込んでいるすべてのキャッシュ・フローとの差額(すなわち、すべてのキャッシュ・フローの不足額)を現在価値に割り引いたものをいう。

貸付金代替性私募債とは、貸付金の代替として銀行が引き受けて保有する私募債をいう(金融商品会計基準(案)(注5−3))。

 

Ⅳ 金融保証契約

金融保証契約の規定を新設する(金融商品会計基準(案)26−2項)。

金融保証契約とは、特定の債務者が金銭債務の当初又は変更後の条件に従って期日の到来時に所定の支払を行わないことにより契約保有者に発生する損失等を補償するために、当該保有者に対して所定の支払を行うことを契約発行者に要求する契約をいう。ただし、デリバティブに該当するものは除く(金融商品会計基準(案)(注8-2))。

 

Ⅴ 予想信用損失の算定方法

予想信用損失の算定にあたっては、期末において、債権、満期保有目的の債券、金融保証契約及び貸出コミットメント等(「債権等」という)の発生の認識以降におけるデフォルト発生リスクの変動に基づいて債権等に係る信用リスクが著しく増大しているかどうか判定する(金融商品会計基準(案)27項)。

予想信用損失は、以下を反映する方法により算定する(金融商品会計基準(案)27−2項)。

 一定範囲の生じ得る結果を評価することによって算定される偏りがなく確率加重された金額

 貨幣の時間価値

 過去の事象、現在の状況及び将来の経済状況の予測に関して、期末において過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報

「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第88号。以下「予想信用損失適用指針(案)」という)において、詳細な規定及び設例が設けられている。

一般事業会社の通常の営業取引から生じる受取手形及び売掛金等、並びにリースにより生じた債権については、IFRS第9号において定められている営業債権、契約資産及びリース債権についての単純化したアプローチに関する定めを取り入れる。

 

Ⅵ 注記事項

信用リスクに関する情報として、次の事項を注記する(予想信用損失適用指針(案)72項)。

 予想信用損失の分解情報

 信用リスク管理実務及び予想信用損失の算定プロセスに関する情報

 当期及び翌期以降の財務諸表への影響を理解するための情報

予想信用損失適用指針(案)では開示例が示されている。

 

Ⅶ 補足文書(案)

実務に資するように、信用リスクの著しい増大に関する判定、簡素化された予想信用損失の算定方法における信用リスクの著しい増大に関する判定などについて、補足文書(案)を公表する。

 

Ⅷ 適用時期等

20XX年改正の本会計基準(以下「20XX年改正会計基準」という)は、20XX年4月1日[公表から3年程度経過した日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。

上記の定めにかかわらず、20XX年4月1日[公表後最初に到来する4月1日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から20XX年改正会計基準を適用することができる。なお、この場合には、20XX年改正会計基準と同時に公表又は改正された一連の会計基準等についても同時に適用する必要がある。

また、経過措置にも注意する。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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