-国税庁レポート2026等から読み解く-
今後の税務執行・税務調査の動向
前編
「税務行政の方向性」
公認会計士・税理士 荒井 優美子
1 はじめに
2026年6月30日、国税庁レポート2026(以下、「国税庁レポート」)が国税庁ホームページで公開され、「令和8事務年度国税庁実績評価実施計画及び実績評価の事前分析表」が財務省から公表された。税務行政のデジタル・トランスフォーメーションによる税務執行・税務調査の見直しが公表されてから5年が経過した。本号と次号では、近年の国税庁レポート等から、税務執行・税務調査の最近の動向についての概要を解説する。
2 国税庁レポートの公表
国税庁レポートは、国税庁の取組みや税務行政(※)の現状の周知のために作成・公開されている年次報告書であり、近年では、①納税者の利便性の向上、②課税・徴収事務の効率化・高度化等、③事業者のデジタル化促進を、「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」の柱として掲げている。税務行政のデジタル・トランスフォーメーションは、デジタルの活用による国税の手続や業務の抜本的な見直しを掲げた「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」(2021年6月)以後、税務行政の目標とされている。(※) 税務執行の他に制度の策定等も含むより広範な概念である。
2021年までは、ICT(情報通信技術)の活用による「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を2本の柱とする「スマート税務行政」を目指し、様々な取組が進められてきた。この背景には、ICT・AIの進展、マイナンバー制度の導入とマイナポータルの本格運用、経済取引のグローバル化の他に、国税職員の減少と申告の増加や調査・徴収の複雑・困難化があるとされていた。
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(出典:国税庁「国税庁レポート2020」)
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(出典:国税庁「国税庁レポート2023」)
3 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション
税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(以下、「税務行政のDX」)は、2020年12月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」で目標とされた、デジタル社会の形成に向けた取組(①ネットワークの整備・維持・充実、データ流通環境の整備、②行政や公共分野におけるサービスの質の向上、③国と地方が連携し情報システムの共同化・集約等を推進、④データ流通に係る国際的なルール形成への主体的な参画、貢献等)の一環として進められているものである。「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」(2021年6月)では、「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を2本の柱として、税務行政のDXが進められたが、2023年6月に、将来像2.0 が改定され、従前の「納税者の利便性の向上」、「課税・徴収の効率化・高度化等」に、新たに「事業者のデジタル化促進」を加えた3つの柱とされた。
「納税者の利便性の向上」は、所得税の確定申告におけるマイナンバーカードを利用した自宅からのe-Taxの利用拡大や、キャッシュレス納付の利用拡大、「課税・徴収事務の効率化・高度化等」では、簡易な誤りの自発的な見直しを促す行政指導、AIを活用したデータ分析、オンラインツール等の活用(リモート調査)などの取組の推進が行われている。「事業者のデジタル化促進」は、税務手続のデジタル化だけでなく、事業者の会計・経理等の業務を一貫してデジタル化することで、帳簿書類等の正確性向上や業務効率化につながり、社会全体の生産性向上と社会全体のDXが推進されるとの考えに基づくものである。電子帳簿保存制度やデジタルインボイス制度、Peppol(ペポル)(※)は、事業者のデジタル化促進のための制度として存在する。
(※) デジタルインボイスなどの電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書の仕様」、「運用ルール」、「ネットワーク」に関する世界標準規格。
なお、中小企業や小規模事業者のデジタル化には、デジタル化・AI導入補助金制度の適用を受けることができる。
4 OECD報告書「税務行政3.0」(2020)と「シームレスな税務に向けて」(2022)
スマート税務行政から税務行政のDXへの取組の変遷は、OECDが2020年に公表した「税務行政3.0」(OECD, Tax Administration 3.0)(以下、「税務行政3.0」)で報告された税務行政のトレンドの変化を反映したものと思われる。税務行政3.0では、デジタル技術の進展等を背景として、過去20年でOECDにおける税務行政のトレンドは大きく変化し、焦点を当てる対象が申告情報から事業者の日常業務や第三者の有する情報へと変わり、税務行政の手段も税務調査の実施から日常業務に税務が組み込まれるような環境整備や第三者の情報も活用した新たな納税者サービスの提供に移り、税務調査の目的が税務コンプライアンスを支援するとともに、よりリスクベースに変化していることを指摘している。税務行政3.0では、税務行政のDXが進んだ社会の姿として、税に関する手続が納税者の日常の生活や業務の延長線上に組み込まれていく構想を描き、こうしたことが実現できれば、税務手続の簡便化、手続的な負担の軽減、誤りの防止、税務コンプライアンスの向上、官民双方のコスト削減、生産性の向上が期待できることを示しており、これを受けて各国においても税務行政のDXの取組が進められている。
◆「税務行政3.0」の描く世界
1 納税者の日常の業務に組み込まれる(Embedded within taxpayer natural systems)
・納税者が日ごろ利用する業務システムとの連携により負担感なく正確な納税が可能に
・その結果、ノンコンプライアンスは、意図的かつ手間暇がかかるものに収れん
2 納税に関する業務を担う官民全体のシステムの一部となる(Part of a resilient“system of systems”)
・プラットフォーマーによる源泉徴収など民間のシステムも納税に関する業務の担い手に
3 リアルタイムで課税関係を安定させる(Real-time tax certainty provider)
・源泉徴収や納税専用口座などにより、リアルタイムで課税関係を確定することが可能に
4 透明で信頼性が向上する(Transparent and trustworthy)
・納税者にとって、どのデータに基づきどのような課税が行われるかの把握が容易に
5 一体となった政府の一部となる(An integrated part of whole of government)
・行政当局間のデータ連携により、様々な行政手続をシームレスに行うことが可能に
6 人とハイテクが融合した組織となる(A human touch and high tech adaptive organization)
・人のスキルとAIなどのサポートツールの相互関連(intertwining)が成功のカギ
・人や業務プロセス、システムの柔軟さにより、危機を含む社会経済の変化に適切に対応
(出典:国税庁「税務行政の現状と課題(2022年11月18日)」)
更に、2022年には「シームレスな税務に向けて」(OECD, Towards Seamless Taxation: Supporting SMEs to Get Tax Right)を公表し、税務行政の方向性を示した。
◆「シームレスな税務に向けて」で示された方向性
1 中小企業におけるAPI連携(Application Programming Interface)を前提としたサービス(請求書等発行ソフト、会計ソフト等の利用やAPI連携により各工程が電子的に処理)
2 事業者を取り巻く環境(エコシステム)とその関係者(税務当局、指導機関、金融機関、取引先、顧客等)との協力・連携(エコシステム全体で、データの基準やフォーマットを共有し、関係者からの情報も事業者の税務プロセスに統合)
(出典:内閣府「第4回経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合(2025年11月13日)」資料1)
「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」は、このようなOECDの動向を受けて、取りまとめられたものと考えられる。
(【後編】に続く)
【後編】は8/13の公開を予定しています。






















