まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン
【第1回】
「前払費用の取扱いについて(その1)」
アースタックス税理士法人
税理士 島添 浩 (監修)
税理士 小嶋 敏夫(執筆)
いよいよ平成26年4月1日より、消費税率が8%に引き上げられるが、税率引上げに伴う実務上の問題点については国税庁ホームページやその他の情報でも未だフォローしきれていない問題も残されているため、本連載では税率引上げ後の誤りやすい点又はあらためて注意喚起したい点について、Q&A形式で確認していくこととする。
第1回及び第2回は、消費税率引上げと短期前払費用の特例の適用関係について、以下の具体的な事例を交えて解説することとする。
【Q-1】 施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合
【Q-2】 施行日を含む1年分の賃料を全額旧税率で施行日前に支払った場合(第2回参照)
【Q-3】 新旧税率差3%分について施行日以後に請求を受けて追加で支払った場合(第2回参照)
消費税の計算上、前払費用については、その役務の提供を受けていないことから、原則としてその支出した課税期間において仕入税額控除を行うことはできないが、一定の要件を満たした短期前払費用につき所得税法又は法人税法の規定により必要経費又は損金としている場合には、その支出した課税期間において仕入税額控除を行うことを認めている。
消費税法基本通達11-3-8(短期前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した課税仕入れに係る支払対価のうち当該課税期間の末日においていまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。)につき所基通37-30の2又は法基通2-2-14《短期前払費用》の取扱いの適用を受けている場合は、当該前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱う。
この短期前払費用の特例を適用している場合において、当該前払費用の支出をした日が施行日前でその対象期間が施行日以後にかかる場合に、どのように取り扱うかが問題となる。
【Q-1】 施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合
3月決算法人である当社は、平成26年1月から平成26年12月までの1年分のテナント賃料12,870,000円を平成26年1月31日に支払いました。なお、支払金額の内訳は以下のとおりです。当社は、法人税については短期前払費用の特例を適用することとしていますが、この場合の消費税はどのように取り扱いますか。
●平成26年1月から3月分(3,150,000円)
テナント賃料1,000,000円(税抜)×3月=3,000,000円
消費税50,000円(5%)×3月=150,000円
●平成26年4月分から12月分(9,720,000円)
テナント賃料1,000,000円(税抜)×9月=9,000,000円
消費税80,000円(8%)×9月=720,000円
【A-1】
法人税において短期前払費用の特例の適用を受けている場合には、消費税においては次の3つの処理方法が想定される。
【解 説】
それぞれのケースにおける処理方法は、以下のとおりである。
◆ケース①(消費税においても短期前払費用の特例の適用を受ける場合)
《平成26年3月期》
支払対価12,870,000円のうち5%分を仮払消費税として処理する。

(*1) 12,870,000 × (100/105)
《平成27年3月期》
仕訳なし
新税率(8%)は平成26年4月1日以後に行う課税仕入れについて適用されるため、平成26年3月31日までに新税率を適用した税込対価を支払った場合において、当該対価につき短期前払費用の特例の適用を受けるときは、支払対価の5%相当額である612,857円が平成26年3月期における仕入税額控除の対象となる。
◆ケース②(新税率対応分について仮払処理する方法)
《平成26年3月期》

法人税については1年分の家賃全額につき短期前払費用の特例を適用する。一方消費税については平成26年1月から3月までの3ヶ月分につき、平成26年3月期において仕入税額控除をする。なお、新税率適用分である4月から12月分に係る消費税については仮払金として処理し、翌期に仕入税額控除を行う。
《平成27年3月期》
![]()
前期において仮払金処理した消費税額については、平成27年3月期において仕入税額控除を行う。
◆ケース③(新税率対応分について、翌期に仕入れに係る対価の返還等を受けたものとして処理する方法)
《平成26年3月期》

ケース①と同様に、課税仕入12,870,000円のうち5%分612,857円を仮払消費税として処理し、平成26年3月期の仕入税額控除の対象とする。
《平成27年3月期》

(*2) 9,720,000 × (100/108)
(*3) 9,720,000 × (100/105)
前期において旧税率5%で仕入税額控除の適用を受けた平成26年4月から12月分の税込賃料9,720,000円について、当期において仕入れに係る対価の返還等を受けたものとして処理し、当該賃料について改めて新税率8%で仕入税額控除の適用を受ける。
* * *
ケース①及びケース③のように、施行日前に支払った新税率対応分について、施行日前の課税期間である平成26年3月期において仕入税額控除の適用を受けるときは、当該課税期間が施行日前の課税期間であるため、新税率での仕入税額控除は行えないことに留意されたい。
(了)
「まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン」は、隔週で掲載されます。
