公開日: 2018/02/20
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《速報解説》 事業の採算性悪化の初期段階で企業が発する「シグナル」の分析から、再生のための着眼点・再生手法までを整理した研究報告が会計士協会より公表される

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

事業の採算性悪化の初期段階で企業が発する「シグナル」の分析から、再生のための着眼点・再生手法までを整理した研究報告が会計士協会より公表される

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

平成30年2月20日、日本公認会計士協会は、「早期着手による事業再生の有用性について」(経営研究調査会研究報告第62号)を公表した。

これは、早期再生についての議論の成果と、金融機関に対して行ったヒアリングにより得られた回答及び日本公認会計士協会の会員に対して実施したアンケートの分析結果を取りまとめたものであり、「早期着手による事業再生」のアドバイザーとして企業の経営支援を行う公認会計士の専門家にとって有用な情報を提供することを目的とするものである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 主な内容

早期着手による事業再生の有用性について、改めて議論を深め、事業の採算性が悪化した初期の段階で、企業のどのような「シグナル」に気をつけなければならないかを検討するとともに、再生のための着眼点や再生手法について取りまとめている。

主な内容は次のとおりであり、目次を含めて73ページに及ぶものである。

Ⅰ 序章

1.本研究報告の目的

2.「早期着手による事業再生」のイメージ

3.伝統的な事業再生の手続

Ⅱ 早期着手による事業再生とは

1.早期着手による事業再生が求められる理由

2.早期着手による事業再生のタイミング、着眼点、再生手法

3.事業再生の基本的視点

4.公認会計士の役割

Ⅲ 早期着手による事業再生の実際

1.ケーススタディ

Ⅳ 早期着手による事業再生を促す最近の制度

1.経営計画等の策定支援

2.経営者保証に関するガイドライン

V ヒアリング・アンケートの分析

1.金融機関・関係機関へのヒアリング分析

2.会員へのアンケート分析

日本公認会計士協会は「事業再生実務と公認会計士の役割」(経営研究調査会研究報告第47号)を公表している。

その後、議論を重ねたところ、企業が、事業の採算性の悪化に気づいた早期の段階で、製品別又は事業別の見直し、経費の削減、不採算事業からの撤退などに着手し、経営改善の取組をスタートさせれば、事業の再生はより容易に進めることができ、過剰債務に陥ることを未然に防ぐことができると考えられた。

そこで、企業のどのような「シグナル」に気をつけなければならないかを検討するとともに、再生のための着眼点や再生手法について取りまとめている。

検討の過程では、再生に着手する段階をより早期に移していくに従って、貸借対照表中心の見方から損益計算書中心の見方へと視点が移動していくのではないかという意見が多数を占めたとのことである(1~2ページ)。

このため、研究報告では、再生に着手するタイミングと、公認会計士が対象企業に対して行う財務分析の視点との関係についても述べている。

2 早期着手による事業再生のタイミング、着眼点、再生手法

早期着手時点として把握すべきターニングポイントは、資金収支の悪化、すなわち、年間キャッシュ・フローのマイナスを生じさせる状況と捉えている(14ページ)。

次のことが重要である。

 早期着手のシグナルとして、経常損失又は営業損失の発生があれば、早期着手時点と認識すること

 財務構造の問題は貸借対照表に現れるはずであり、売掛金の滞留、棚卸資産の滞留、貸付金・立替金等の滞留、借入金の増加等があげられること

 次のような伝統的財務分析が十分に有効であり、通常、5期間ほどの財務分析を行って、財務構造を評価すべこと

(a) 比較損益計算書分析

(b) 比較貸借対照表分析

(c) 比較キャッシュ・フロー計算書分析

(d) クロス分析(総資本利益率、売上高利益率、総資本回転率、有利子負債キャッシュ・フロー倍率)

(e) 損益構造分析(損益分岐点、部門別限界利益、製品別限界利益、付加価値、労働分配率)

ケーススタディも記載されているので、実務に資するものと思われる。

(了)

《速報解説》

事業の採算性悪化の初期段階で企業が発する「シグナル」の分析から、再生のための着眼点・再生手法までを整理した研究報告が会計士協会より公表される

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

平成30年2月20日、日本公認会計士協会は、「早期着手による事業再生の有用性について」(経営研究調査会研究報告第62号)を公表した。

これは、早期再生についての議論の成果と、金融機関に対して行ったヒアリングにより得られた回答及び日本公認会計士協会の会員に対して実施したアンケートの分析結果を取りまとめたものであり、「早期着手による事業再生」のアドバイザーとして企業の経営支援を行う公認会計士の専門家にとって有用な情報を提供することを目的とするものである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 主な内容

早期着手による事業再生の有用性について、改めて議論を深め、事業の採算性が悪化した初期の段階で、企業のどのような「シグナル」に気をつけなければならないかを検討するとともに、再生のための着眼点や再生手法について取りまとめている。

主な内容は次のとおりであり、目次を含めて73ページに及ぶものである。

Ⅰ 序章

1.本研究報告の目的

2.「早期着手による事業再生」のイメージ

3.伝統的な事業再生の手続

Ⅱ 早期着手による事業再生とは

1.早期着手による事業再生が求められる理由

2.早期着手による事業再生のタイミング、着眼点、再生手法

3.事業再生の基本的視点

4.公認会計士の役割

Ⅲ 早期着手による事業再生の実際

1.ケーススタディ

Ⅳ 早期着手による事業再生を促す最近の制度

1.経営計画等の策定支援

2.経営者保証に関するガイドライン

V ヒアリング・アンケートの分析

1.金融機関・関係機関へのヒアリング分析

2.会員へのアンケート分析

日本公認会計士協会は「事業再生実務と公認会計士の役割」(経営研究調査会研究報告第47号)を公表している。

その後、議論を重ねたところ、企業が、事業の採算性の悪化に気づいた早期の段階で、製品別又は事業別の見直し、経費の削減、不採算事業からの撤退などに着手し、経営改善の取組をスタートさせれば、事業の再生はより容易に進めることができ、過剰債務に陥ることを未然に防ぐことができると考えられた。

そこで、企業のどのような「シグナル」に気をつけなければならないかを検討するとともに、再生のための着眼点や再生手法について取りまとめている。

検討の過程では、再生に着手する段階をより早期に移していくに従って、貸借対照表中心の見方から損益計算書中心の見方へと視点が移動していくのではないかという意見が多数を占めたとのことである(1~2ページ)。

このため、研究報告では、再生に着手するタイミングと、公認会計士が対象企業に対して行う財務分析の視点との関係についても述べている。

2 早期着手による事業再生のタイミング、着眼点、再生手法

早期着手時点として把握すべきターニングポイントは、資金収支の悪化、すなわち、年間キャッシュ・フローのマイナスを生じさせる状況と捉えている(14ページ)。

次のことが重要である。

 早期着手のシグナルとして、経常損失又は営業損失の発生があれば、早期着手時点と認識すること

 財務構造の問題は貸借対照表に現れるはずであり、売掛金の滞留、棚卸資産の滞留、貸付金・立替金等の滞留、借入金の増加等があげられること

 次のような伝統的財務分析が十分に有効であり、通常、5期間ほどの財務分析を行って、財務構造を評価すべこと

(a) 比較損益計算書分析

(b) 比較貸借対照表分析

(c) 比較キャッシュ・フロー計算書分析

(d) クロス分析(総資本利益率、売上高利益率、総資本回転率、有利子負債キャッシュ・フロー倍率)

(e) 損益構造分析(損益分岐点、部門別限界利益、製品別限界利益、付加価値、労働分配率)

ケーススタディも記載されているので、実務に資するものと思われる。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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