公開日: 2020/12/17
文字サイズ

《速報解説》 監査役協会から「企業の健全なリスクテイクに対する監査等委員会の関与の在り方」についての報告書が公表される~SDGs・ESGを意識した経営への取組みは約半数が未対応との回答~

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

監査役協会から「企業の健全なリスクテイクに対する
監査等委員会の関与の在り方」についての報告書が公表される

~SDGs・ESGを意識した経営への取組みは約半数が未対応との回答~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2020年12月16日、日本監査役協会 監査等委員会実務研究会は、「企業の健全なリスクテイクに対する監査等委員会の関与の在り方」を公表した。

これは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上という目的達成に向けた経営上の意思決定に対して、監査等委員会が監督機能を果たすためにどのような検討を行うべきかについて、次の論点を検討したものである。

 中期経営計画等を含む経営基本戦略

 リスク投資

 SDGs・ESGを意識した経営への取組み

報告書は表紙を含めて51ページあり、以下では主な内容について解説する。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 中期経営計画等を含む経営基本戦略

次のアンケート結果が記載されている。

 中期経営計画等の年数は、全体の約7割の会社では3年スパンで策定されていた。

 中期経営計画等を策定していない会社は、約1割あった。

 長期経営計画を策定していない会社は、全体の約7割であった。

 長期経営計画を策定している場合、多くの会社では期間を10年とし長期ビジョンを設定し、その実現に向けて複数段階のフェーズ(例:3年単位で3つのフェーズ)として中期経営計画等を策定している。

監査等委員会の中期経営計画等への関与の在り方としては、取締役会に先立って、監査等委員会の場での情報共有や議論を行うことは有効であると考えられるとのことである。

また、中期経営計画等の検討プロセスそのものだけでなく、監査の機会を通じて横断的に収集した情報を活用しながら、その是非について独立的・中立的目線で検討することが望まれるとのことである。

 

Ⅲ リスク投資

リスク投資として、例えば、設備投資、システム投資、子会社貸付/出資、不動産開発投資、M&Aをあげている。

これらは、企業の中長期的な成長のために重要であるとともに、投資判断の誤りによって経営危機に陥る可能性のある経営上の重要な判断事項である。

監査等委員会のリスク投資への関与の在り方としては、プロセス面の適切性の確認と、内容面の妥当性の判断とに分かれるとのことである。

 

Ⅳ SDGs・ESGを意識した経営への取組み

「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことであり、2030年までに達成すべき17の国際目標である。

「ESG」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス:企業統治)のことである。

企業が中長期的に企業活動を継続するためには、SDGs・ESGを意識した経営が重要となってきている。

監査等委員会のSDGs・ESGを意識した経営への取組みへの関与の在り方としては、担当役員から直接の情報収集を行うことや、報告書作成部門等から直接意見を聞くなどの機会の設定は、いずれも20%未満にとどまっており、最も多いのは、「特に対応していない」(48.5%)であった。

(了)

《速報解説》

監査役協会から「企業の健全なリスクテイクに対する
監査等委員会の関与の在り方」についての報告書が公表される

~SDGs・ESGを意識した経営への取組みは約半数が未対応との回答~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2020年12月16日、日本監査役協会 監査等委員会実務研究会は、「企業の健全なリスクテイクに対する監査等委員会の関与の在り方」を公表した。

これは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上という目的達成に向けた経営上の意思決定に対して、監査等委員会が監督機能を果たすためにどのような検討を行うべきかについて、次の論点を検討したものである。

 中期経営計画等を含む経営基本戦略

 リスク投資

 SDGs・ESGを意識した経営への取組み

報告書は表紙を含めて51ページあり、以下では主な内容について解説する。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 中期経営計画等を含む経営基本戦略

次のアンケート結果が記載されている。

 中期経営計画等の年数は、全体の約7割の会社では3年スパンで策定されていた。

 中期経営計画等を策定していない会社は、約1割あった。

 長期経営計画を策定していない会社は、全体の約7割であった。

 長期経営計画を策定している場合、多くの会社では期間を10年とし長期ビジョンを設定し、その実現に向けて複数段階のフェーズ(例:3年単位で3つのフェーズ)として中期経営計画等を策定している。

監査等委員会の中期経営計画等への関与の在り方としては、取締役会に先立って、監査等委員会の場での情報共有や議論を行うことは有効であると考えられるとのことである。

また、中期経営計画等の検討プロセスそのものだけでなく、監査の機会を通じて横断的に収集した情報を活用しながら、その是非について独立的・中立的目線で検討することが望まれるとのことである。

 

Ⅲ リスク投資

リスク投資として、例えば、設備投資、システム投資、子会社貸付/出資、不動産開発投資、M&Aをあげている。

これらは、企業の中長期的な成長のために重要であるとともに、投資判断の誤りによって経営危機に陥る可能性のある経営上の重要な判断事項である。

監査等委員会のリスク投資への関与の在り方としては、プロセス面の適切性の確認と、内容面の妥当性の判断とに分かれるとのことである。

 

Ⅳ SDGs・ESGを意識した経営への取組み

「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことであり、2030年までに達成すべき17の国際目標である。

「ESG」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス:企業統治)のことである。

企業が中長期的に企業活動を継続するためには、SDGs・ESGを意識した経営が重要となってきている。

監査等委員会のSDGs・ESGを意識した経営への取組みへの関与の在り方としては、担当役員から直接の情報収集を行うことや、報告書作成部門等から直接意見を聞くなどの機会の設定は、いずれも20%未満にとどまっており、最も多いのは、「特に対応していない」(48.5%)であった。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

#