公開日: 2023/04/20 (掲載号:No.516)
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〈判例評釈〉ムゲン・ADW事件が残したもの~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第1回】

筆者: 霞 晴久

〈判例評釈〉

ムゲン・ADW事件が残したもの

~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~

【第1回】

 

公認会計士・税理士 霞 晴久

 

連載の目次はこちら

Ⅰ はじめに

去る3月6日、2つの居住用賃貸建物仕入税額控除事件について、最高裁が、いずれも納税者全面敗訴の判断を示したことで、新聞報道でも大きく取り上げられ、専門家の間でも判断が分かれていた問題に終止符が打たれた。

ここでいう2つの事件とはマンション販売業者である(株)ムゲンエステート(以下「ムゲン」という)及び(株)エー・ディー・ワークス(以下「ADW」という)の消費税の仕入税額控除における個別対応方式を巡る訴訟(※1)をいい、両社は、中古の賃貸用マンション等の収益不動産を購入し、適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らした上で転売するというビジネスモデルを展開していた(※2)

(※1) ムゲンは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和3年(行ヒ)第260号)、ADWは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和4年(行ヒ)第10号)で、両判決の裁判官は同一である。

(※2) ADW事件第一審判決で東京地裁は、「本件ビジネスモデル下における課税仕入れ(収益不動産〔建物〕の購入)が、将来における当該収益不動産(建物)の売却(課税資産の譲渡等)のために行われるものであることは、明らかである。」としている。

当該マンション購入時の建物価額相当額の課税仕入れ(以下「本件課税仕入れ」という)に係る消費税について、両社は、同マンションを転売目的で購入していたことから、個別対応方式における「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」(消法30②一イ。以下「課税対応課税仕入れ」という)に区分されるとして確定申告していた。これに対し所轄税務署長は、同マンションの購入から転売までの期間に、非課税の賃貸収入が発生していたことから、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(同上②一ロ。以下「共通対応課税仕入れ」という)に区分されるとして更正処分等をしたことから、両社はこれを不服として訴訟を提起した。

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〈判例評釈〉

ムゲン・ADW事件が残したもの

~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~

【第1回】

 

公認会計士・税理士 霞 晴久

 

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Ⅰ はじめに

去る3月6日、2つの居住用賃貸建物仕入税額控除事件について、最高裁が、いずれも納税者全面敗訴の判断を示したことで、新聞報道でも大きく取り上げられ、専門家の間でも判断が分かれていた問題に終止符が打たれた。

ここでいう2つの事件とはマンション販売業者である(株)ムゲンエステート(以下「ムゲン」という)及び(株)エー・ディー・ワークス(以下「ADW」という)の消費税の仕入税額控除における個別対応方式を巡る訴訟(※1)をいい、両社は、中古の賃貸用マンション等の収益不動産を購入し、適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らした上で転売するというビジネスモデルを展開していた(※2)

(※1) ムゲンは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和3年(行ヒ)第260号)、ADWは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和4年(行ヒ)第10号)で、両判決の裁判官は同一である。

(※2) ADW事件第一審判決で東京地裁は、「本件ビジネスモデル下における課税仕入れ(収益不動産〔建物〕の購入)が、将来における当該収益不動産(建物)の売却(課税資産の譲渡等)のために行われるものであることは、明らかである。」としている。

当該マンション購入時の建物価額相当額の課税仕入れ(以下「本件課税仕入れ」という)に係る消費税について、両社は、同マンションを転売目的で購入していたことから、個別対応方式における「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」(消法30②一イ。以下「課税対応課税仕入れ」という)に区分されるとして確定申告していた。これに対し所轄税務署長は、同マンションの購入から転売までの期間に、非課税の賃貸収入が発生していたことから、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(同上②一ロ。以下「共通対応課税仕入れ」という)に区分されるとして更正処分等をしたことから、両社はこれを不服として訴訟を提起した。

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連載目次

〈判例評釈〉ムゲン・ADW事件が残したもの
~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~

【第1回】

Ⅰ はじめに

Ⅱ 争点①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性)

1 ADW事件控訴審の判示

(1) 用途区分の判断基準について

(2) 検討

2 ADW事件最高裁の判示とその影響

【第2回】

3 ADW事件第一審の判示

(1) 用途区分の判断基準について

(2) 事実認定及び当てはめ

(3) ADW事件第一審判決の意義

【第3回】

Ⅲ 争点②通則法65条4項にいう正当な理由は認められるか

1 ムゲン事件第一審判決

(1) 原告の主張

(2) 裁判所の判断

2 ムゲン事件控訴審判決

(1) 認定事実と結論

(2) 検討

3 ADW事件控訴審

(1) 裁判所の判断

(2) 検討

4 ムゲン事件最高裁判決

(1) 裁判所の判示

(2) 検討

5 税務調査における更正処分の実態-「手のひら返し」はあったか

(1) 問題の所在

(2) 検討結果

【第4回】

Ⅳ 「準ずる割合」についての裁判所の判断及びその検討

1 ムゲン事件第一審判決

(1) 準ずる割合の税務当局による却下と東京地裁の判断

(2) 検討

2 ムゲン事件控訴審判決

3 ADW事件控訴審判決

(1) 東京高裁の判示

(2) 検討

【第5回】

Ⅴ 居住用賃貸建物の仕入税額控除に係る令和2年度税制改正

1 改正の概要(原則的取扱い)

2 居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の調整

(1) 課税賃貸用に供した場合

(2) 課税譲渡用に供した場合

3 居住用賃貸建物に係る令和2年度税制改正とムゲン・ADW事件

Ⅵ 結語

筆者紹介

霞 晴久

(かすみ・はるひさ)

公認会計士・税理士
霞晴久公認会計士事務所 所長

監査法人トーマツ、新日本監査法人、国税不服審判所等を経て現在霞晴久公認会計士事務所所長。千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科客員教授。監査法人勤務時代は会計監査、国際税務、海外赴任(フランス及びベルギーに通算14年滞在)及び不正調査に従事。国税不服審判所入所前は、日系企業が買収したベルギー法人のCFOを勤める。
主な著書・論文として「ユーロの会計税務と法律」(共著、清文社1999年)、「EU加盟国の税法」(共著、中央経済社2002年)、「新版架空循環取引」(共著、清文社2019年)、及び「破産手続きにおける債務の確定と前期損益修正をめぐる問題」(月刊『税理』2020年10月号)等がある。
 

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