公開日: 2014/01/09 (掲載号:No.51)
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まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン 【第1回】「前払費用の取扱いについて(その1)」

筆者: 島添 浩、小嶋 敏夫

まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン

【第1回】

「前払費用の取扱いについて(その1)」

 

アースタックス税理士法人
税理士 島添  浩 (監修)
税理士 小嶋 敏夫(執筆)

 

いよいよ平成26年4月1日より、消費税率が8%に引き上げられるが、税率引上げに伴う実務上の問題点については国税庁ホームページやその他の情報でも未だフォローしきれていない問題も残されているため、本連載では税率引上げ後の誤りやすい点又はあらためて注意喚起したい点について、Q&A形式で確認していくこととする。

第1回及び第2回は、消費税率引上げと短期前払費用の特例の適用関係について、以下の具体的な事例を交えて解説することとする。

【Q-1】 施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合

【Q-2】 施行日を含む1年分の賃料を全額旧税率で施行日前に支払った場合(第2回参照)

【Q-3】 新旧税率差3%分について施行日以後に請求を受けて追加で支払った場合(第2回参照)


消費税の計算上、前払費用については、その役務の提供を受けていないことから、原則としてその支出した課税期間において仕入税額控除を行うことはできないが、一定の要件を満たした短期前払費用につき所得税法又は法人税法の規定により必要経費又は損金としている場合には、その支出した課税期間において仕入税額控除を行うことを認めている。

消費税法基本通達11-3-8(短期前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した課税仕入れに係る支払対価のうち当該課税期間の末日においていまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。)につき所基通37-30の2又は法基通2-2-14《短期前払費用》の取扱いの適用を受けている場合は、当該前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱う。

この短期前払費用の特例を適用している場合において、当該前払費用の支出をした日が施行日前でその対象期間が施行日以後にかかる場合に、どのように取り扱うかが問題となる。

【Q-1】 施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合

3月決算法人である当社は、平成26年1月から平成26年12月までの1年分のテナント賃料12,870,000円を平成26年1月31日に支払いました。なお、支払金額の内訳は以下のとおりです。当社は、法人税については短期前払費用の特例を適用することとしていますが、この場合の消費税はどのように取り扱いますか。

平成26年1月から3月分(3,150,000円)

テナント賃料1,000,000円(税抜)×3月=3,000,000円

消費税50,000円(5%)×3月=150,000円

平成26年4月分から12月分(9,720,000円)

テナント賃料1,000,000円(税抜)×9月=9,000,000円

消費税80,000円(8%)×9月=720,000円

【A-1】

法人税において短期前払費用の特例の適用を受けている場合には、消費税においては次の3つの処理方法が想定される。

【解 説】

それぞれのケースにおける処理方法は、以下のとおりである。

ケース①(消費税においても短期前払費用の特例の適用を受ける場合)

《平成26年3月期》
支払対価12,870,000円のうち5%分を仮払消費税として処理する。

(*1) 12,870,000 × (100/105)

《平成27年3月期》
仕訳なし

新税率(8%)は平成26年4月1日以後に行う課税仕入れについて適用されるため、平成26年3月31日までに新税率を適用した税込対価を支払った場合において、当該対価につき短期前払費用の特例の適用を受けるときは、支払対価の5%相当額である612,857円が平成26年3月期における仕入税額控除の対象となる。

ケース②(新税率対応分について仮払処理する方法)

《平成26年3月期》

法人税については1年分の家賃全額につき短期前払費用の特例を適用する。一方消費税については平成26年1月から3月までの3ヶ月分につき、平成26年3月期において仕入税額控除をする。なお、新税率適用分である4月から12月分に係る消費税については仮払金として処理し、翌期に仕入税額控除を行う。

《平成27年3月期》

前期において仮払金処理した消費税額については、平成27年3月期において仕入税額控除を行う。

ケース③(新税率対応分について、翌期に仕入れに係る対価の返還等を受けたものとして処理する方法)

《平成26年3月期》

ケース①と同様に、課税仕入12,870,000円のうち5%分612,857円を仮払消費税として処理し、平成26年3月期の仕入税額控除の対象とする。

《平成27年3月期》

(*2) 9,720,000 × (100/108)

(*3) 9,720,000 × (100/105)

前期において旧税率5%で仕入税額控除の適用を受けた平成26年4月から12月分の税込賃料9,720,000円について、当期において仕入れに係る対価の返還等を受けたものとして処理し、当該賃料について改めて新税率8%で仕入税額控除の適用を受ける。

*   *   *

ケース①及びケース③のように、施行日前に支払った新税率対応分について、施行日前の課税期間である平成26年3月期において仕入税額控除の適用を受けるときは、当該課税期間が施行日前の課税期間であるため、新税率での仕入税額控除は行えないことに留意されたい。

(了)

「まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン」は、隔週で掲載されます。

まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン

【第1回】

「前払費用の取扱いについて(その1)」

 

アースタックス税理士法人
税理士 島添  浩 (監修)
税理士 小嶋 敏夫(執筆)

 

いよいよ平成26年4月1日より、消費税率が8%に引き上げられるが、税率引上げに伴う実務上の問題点については国税庁ホームページやその他の情報でも未だフォローしきれていない問題も残されているため、本連載では税率引上げ後の誤りやすい点又はあらためて注意喚起したい点について、Q&A形式で確認していくこととする。

第1回及び第2回は、消費税率引上げと短期前払費用の特例の適用関係について、以下の具体的な事例を交えて解説することとする。

【Q-1】 施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合

【Q-2】 施行日を含む1年分の賃料を全額旧税率で施行日前に支払った場合(第2回参照)

【Q-3】 新旧税率差3%分について施行日以後に請求を受けて追加で支払った場合(第2回参照)

消費税の計算上、前払費用については、その役務の提供を受けていないことから、原則としてその支出した課税期間において仕入税額控除を行うことはできないが、一定の要件を満たした短期前払費用につき所得税法又は法人税法の規定により必要経費又は損金としている場合には、その支出した課税期間において仕入税額控除を行うことを認めている。

消費税法基本通達11-3-8(短期前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した課税仕入れに係る支払対価のうち当該課税期間の末日においていまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。)につき所基通37-30の2又は法基通2-2-14《短期前払費用》の取扱いの適用を受けている場合は、当該前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱う。

この短期前払費用の特例を適用している場合において、当該前払費用の支出をした日が施行日前でその対象期間が施行日以後にかかる場合に、どのように取り扱うかが問題となる。

【Q-1】 施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合

3月決算法人である当社は、平成26年1月から平成26年12月までの1年分のテナント賃料12,870,000円を平成26年1月31日に支払いました。なお、支払金額の内訳は以下のとおりです。当社は、法人税については短期前払費用の特例を適用することとしていますが、この場合の消費税はどのように取り扱いますか。

平成26年1月から3月分(3,150,000円)

テナント賃料1,000,000円(税抜)×3月=3,000,000円

消費税50,000円(5%)×3月=150,000円

平成26年4月分から12月分(9,720,000円)

テナント賃料1,000,000円(税抜)×9月=9,000,000円

消費税80,000円(8%)×9月=720,000円

【A-1】

法人税において短期前払費用の特例の適用を受けている場合には、消費税においては次の3つの処理方法が想定される。

【解 説】

それぞれのケースにおける処理方法は、以下のとおりである。

ケース①(消費税においても短期前払費用の特例の適用を受ける場合)

《平成26年3月期》
支払対価12,870,000円のうち5%分を仮払消費税として処理する。

(*1) 12,870,000 × (100/105)

《平成27年3月期》
仕訳なし

新税率(8%)は平成26年4月1日以後に行う課税仕入れについて適用されるため、平成26年3月31日までに新税率を適用した税込対価を支払った場合において、当該対価につき短期前払費用の特例の適用を受けるときは、支払対価の5%相当額である612,857円が平成26年3月期における仕入税額控除の対象となる。

ケース②(新税率対応分について仮払処理する方法)

《平成26年3月期》

法人税については1年分の家賃全額につき短期前払費用の特例を適用する。一方消費税については平成26年1月から3月までの3ヶ月分につき、平成26年3月期において仕入税額控除をする。なお、新税率適用分である4月から12月分に係る消費税については仮払金として処理し、翌期に仕入税額控除を行う。

《平成27年3月期》

前期において仮払金処理した消費税額については、平成27年3月期において仕入税額控除を行う。

ケース③(新税率対応分について、翌期に仕入れに係る対価の返還等を受けたものとして処理する方法)

《平成26年3月期》

ケース①と同様に、課税仕入12,870,000円のうち5%分612,857円を仮払消費税として処理し、平成26年3月期の仕入税額控除の対象とする。

《平成27年3月期》

(*2) 9,720,000 × (100/108)

(*3) 9,720,000 × (100/105)

前期において旧税率5%で仕入税額控除の適用を受けた平成26年4月から12月分の税込賃料9,720,000円について、当期において仕入れに係る対価の返還等を受けたものとして処理し、当該賃料について改めて新税率8%で仕入税額控除の適用を受ける。

*   *   *

ケース①及びケース③のように、施行日前に支払った新税率対応分について、施行日前の課税期間である平成26年3月期において仕入税額控除の適用を受けるときは、当該課税期間が施行日前の課税期間であるため、新税率での仕入税額控除は行えないことに留意されたい。

(了)

「まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン」

  • 【第3回】 リース取引の取扱いについて
    【Q-4】 取引時期に応じた所有権移転外ファイナンス・リース取引の処理
    【Q-5】 施行日以後にリース期間が満了し、再リース料を支払った場合
    【Q-6】 施行日以後にリース期間が満了し、割安購入選択権を行使する場合
    【Q-7】 施行日以後にリース期間が満了し、残価保証精算金を支払う場合
  • 【第4回】 物の引渡しを要しない請負契約
    【Q-8】 施行日をまたぐ保守サービス契約に係る保守サービス料を施行日前に一括して受領した場合
    【Q-9】 【Q-8】のケースで、契約において「中途解約をした場合は未経過分に係る保守サービス料を返還しない」こととされている場合
  • 【第5回】 旅客運賃等・公共料金の取扱いについて
    【Q-10】 施行日前に定期券(施行日以後の期間に係るもの)を購入した場合
    【Q-11】 ICカードを利用して乗車する場合
    【Q-12】 ディナーショー等の料金の場合
    【Q-13】 2ヶ月に一度検針が行われる水道料金の場合
    【Q-14】 インターネットなど定額の通信料金の場合

筆者紹介

島添 浩

(しまぞえ・ひろし)

アースタックス税理士法人 代表社員
http://www.earth-tax.com/
税理士・CFP

1991年中央大学商学部会計学科卒業。大手生命保険会社、会計事務所での勤務を経て2000年に税理士登録(島添税務会計事務所設立)。事務所の規模を拡大し、2006年アースタックス税理士法人を設立し代表社員に就任。

現在、一般企業の税務顧問業の他、企業再編や相続事業承継対策など経営コンサルティング業務にも従事し、豊富な実務経験を活かして税法実務セミナーの講演(最近では「消費税法95%ルールの見直しで変わる消費税実務」、「消費税率変更に伴う実務対応ポイント」など)や執筆も数多くこなしている。

また、1998年より資格の学校TACにて税理士講座、税法実務講座、FP講座にて税法の講師も務めており、実務に役立つ実践的な講義を行っている。2024年6月15日、逝去。

【著書・論文】
・『みんなが知りたかった! 老後のお金』監修(TAC出版)
・『税率変更後に留意すべき消費税の実務』(税務研究会)
・『Q&A 改正消費税の経過措置と転嫁・価格表示の実務』共著(清文社)
・『イギリスの住宅・不動産税制』共著(財団法人日本住宅総合センター)
・『所得税入門講義』(TAC)
・『やるぞ!年収300万円からの確定申告』(株式会社リオ)
・「所得税・住民税の税率変更」『税経セミナー』(2007年3月号)
・「消費税法における仕入税額控除の適用要件について」『国士舘法研論集』(第3号)
など


小嶋 敏夫

(こじま・としお)

アースタックス税理士法人 マネージャー
http://www.earth-tax.com/
税理士

1996年早稲田大学理工学部卒業。大手事務機器メーカー及び税理士法人勤務を経て現在に至る。
2012年税理士登録。
現在は、一般法人の税務顧問のほか日本に進出する外資系企業の税務会計業務、不動産や金銭債権の流動化案件にも従事し、全国の法人会にて「消費税税率改正」のセミナー講師も担当している。

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