公開日: 2012/10/25 (掲載号:No.0 創刊準備2号)
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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第1回】

筆者: 島添 浩

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕

消費税率の引上げに伴う

実務上の注意点

【第1回】

アースタックス税理士法人
税理士 島添 浩

平成24年8月に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」が国会で可決され、消費税法の改正として、消費税率(消費税及び地方消費税)が引き上げられることとなった。
なお、今回の法案において確定した規定は、主に消費税の福祉目的税化、消費税率の段階的引上げ、特定新規設立法人の納税義務の免除の特例、中間申告制度の見直し、請負契約等の経過措置規定であり、逆進性対策としての複数税率の導入、給付付き税額控除、簡易課税制度の見直しなどの項目については検討事項となっており、未だ具体的な内容は確定していないため、今後の法改正についても注意が必要である。

今回の改正により、以下のように消費税率が平成26年4月1日に8%、平成27年10月1日に10%と2段階で引き上げられることとなるため、この税率変更に伴い、商品価格表示の変更やレジスター等のシステム変更といった、事業者側が事前に行わなければならない対策の必要性が短い期間に二度も生じることとなり、事業者の事務負担が増大することが考えられる。

この税率変更に伴う対応策については、平成9年4月1日において消費税率が導入時の3%から5%へ変更された際に一度行われているが、主な内容としては、以下のようなものがある。

① 商品等の価格変更に伴う表示方法(値札等の付け替え)
② レジスター等のシステム変更
③ 請求書発行に伴う販売管理等のシステム変更
④ 請求の締日に基づく処理方法
⑤ 売上返還・貸倒れの処理方法
⑥ 棚卸資産の管理
⑦ 会計システムの変更及び入力方法
⑧ 各種契約書の変更
⑨ 短期前払費用の取扱い
⑩ 請負契約等に関する経過措置の取扱い(リース契約等を含む)
⑪ 税込処理における消費税の転嫁に関する問題

また、平成16年4月の税制改正により、「不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、あらかじめその資産又はサービスの価格を表示するときは、その資産又は役務の価格に係る消費税及び地方消費税の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない」とする「総額表示義務規定」が創設されたが、この規定により、今回の改正では平成26年4月と平成27年10月の2回にわたって表示の変更をしなければならず、この対応策に多大なる事務負担が考えられるので注意しなければならない。
さらに、この総額表示の義務化により、税率が上がった場合に、1円単位まで消費税を表示して徴収ができるかどうかという消費税の転嫁方法に問題が生じることとなり、税率変更前に十分な検討が必要となる。

次回以降の連載では、上記の税率変更に伴い企業内で起こりうる実務上の問題点について、平成9年4月1日税制改正に伴って生じた事例を踏まえた上で、詳細に確認していく。

(了)

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕

消費税率の引上げに伴う

実務上の注意点

【第1回】

アースタックス税理士法人
税理士 島添 浩

平成24年8月に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」が国会で可決され、消費税法の改正として、消費税率(消費税及び地方消費税)が引き上げられることとなった。
なお、今回の法案において確定した規定は、主に消費税の福祉目的税化、消費税率の段階的引上げ、特定新規設立法人の納税義務の免除の特例、中間申告制度の見直し、請負契約等の経過措置規定であり、逆進性対策としての複数税率の導入、給付付き税額控除、簡易課税制度の見直しなどの項目については検討事項となっており、未だ具体的な内容は確定していないため、今後の法改正についても注意が必要である。

今回の改正により、以下のように消費税率が平成26年4月1日に8%、平成27年10月1日に10%と2段階で引き上げられることとなるため、この税率変更に伴い、商品価格表示の変更やレジスター等のシステム変更といった、事業者側が事前に行わなければならない対策の必要性が短い期間に二度も生じることとなり、事業者の事務負担が増大することが考えられる。

この税率変更に伴う対応策については、平成9年4月1日において消費税率が導入時の3%から5%へ変更された際に一度行われているが、主な内容としては、以下のようなものがある。

① 商品等の価格変更に伴う表示方法(値札等の付け替え)
② レジスター等のシステム変更
③ 請求書発行に伴う販売管理等のシステム変更
④ 請求の締日に基づく処理方法
⑤ 売上返還・貸倒れの処理方法
⑥ 棚卸資産の管理
⑦ 会計システムの変更及び入力方法
⑧ 各種契約書の変更
⑨ 短期前払費用の取扱い
⑩ 請負契約等に関する経過措置の取扱い(リース契約等を含む)
⑪ 税込処理における消費税の転嫁に関する問題

また、平成16年4月の税制改正により、「不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、あらかじめその資産又はサービスの価格を表示するときは、その資産又は役務の価格に係る消費税及び地方消費税の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない」とする「総額表示義務規定」が創設されたが、この規定により、今回の改正では平成26年4月と平成27年10月の2回にわたって表示の変更をしなければならず、この対応策に多大なる事務負担が考えられるので注意しなければならない。
さらに、この総額表示の義務化により、税率が上がった場合に、1円単位まで消費税を表示して徴収ができるかどうかという消費税の転嫁方法に問題が生じることとなり、税率変更前に十分な検討が必要となる。

次回以降の連載では、上記の税率変更に伴い企業内で起こりうる実務上の問題点について、平成9年4月1日税制改正に伴って生じた事例を踏まえた上で、詳細に確認していく。

(了)

連載目次

筆者紹介

島添 浩

(しまぞえ・ひろし)

アースタックス税理士法人 代表社員
http://www.earth-tax.com/
税理士・CFP

1991年中央大学商学部会計学科卒業。大手生命保険会社、会計事務所での勤務を経て2000年に税理士登録(島添税務会計事務所設立)。事務所の規模を拡大し、2006年アースタックス税理士法人を設立し代表社員に就任。

現在、一般企業の税務顧問業の他、企業再編や相続事業承継対策など経営コンサルティング業務にも従事し、豊富な実務経験を活かして税法実務セミナーの講演(最近では「消費税法95%ルールの見直しで変わる消費税実務」、「消費税率変更に伴う実務対応ポイント」など)や執筆も数多くこなしている。

また、1998年より資格の学校TACにて税理士講座、税法実務講座、FP講座にて税法の講師も務めており、実務に役立つ実践的な講義を行っている。2024年6月15日、逝去。

【著書・論文】
・『みんなが知りたかった! 老後のお金』監修(TAC出版)
・『税率変更後に留意すべき消費税の実務』(税務研究会)
・『Q&A 改正消費税の経過措置と転嫁・価格表示の実務』共著(清文社)
・『イギリスの住宅・不動産税制』共著(財団法人日本住宅総合センター)
・『所得税入門講義』(TAC)
・『やるぞ!年収300万円からの確定申告』(株式会社リオ)
・「所得税・住民税の税率変更」『税経セミナー』(2007年3月号)
・「消費税法における仕入税額控除の適用要件について」『国士舘法研論集』(第3号)
など

関連書籍

消費税実務問答集

杉浦孝幸 編

令和7年度版 税務コンパクトブック

株式会社プロフェッションネットワーク 編著

クマオーの基礎からわかる消費税

税理士 熊王征秀 著

演習消費税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編 金井恵美子 著

小さな会社の消費税Q&A

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インボイス制度の仕入税額控除

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消費税申告書作成事例集

税理士 上西左大信 監修 公認会計士・税理士 田淵正信 編著 税理士・中小企業診断士 大庭みどり 著 税理士 山野展弘 著 公認会計士・税理士 圓尾紀憲 著 公認会計士・税理士 久保 亮 著 公認会計士・税理士 德丸公義 著 公認会計士・税理士 本岡正則 著 公認会計士・税理士 岸本拡之 著 公認会計士・税理士 本田壽秀 著 公認会計士・税理士 坂田眞二 著

はじめてのインボイス登録と消費税の申告

税理士 小谷羊太 監修 税理士 森本耕平 著

完全理解 消費税インボイス制度

税理士 森田 修 著

消費税インボイス制度導入の実務

税理士 安部和彦 著
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