建築物の『耐震改修工事』に伴う税務上の留意点
~耐震改修促進税制を中心に~
【第1回】
「耐震改修法の改正により『耐震診断』が義務づけられた建築物」
公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎
1 はじめに
地震予知は困難であるとはいえ、近い将来に高確率で巨大地震が発生するとの懸念が高まっている中、地震による被害を軽減するためには建築物の耐震化を推進することが非常に重要である。
とくに、平成7年に発生した阪神淡路大震災における甚大な被害の大半が、当時の耐震基準を満たさない建築物の倒壊等に起因して発生していたという状況を踏まえ、同年に「耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)が制定された。この法律によって、多数の者が利用する建物のうち現行耐震基準を満たしていないもの(特定建築物)等について耐震診断や耐震補強が努力義務として課されているほか、特定建築物の耐震化率については、平成27年(2015年)までに90%を達成すべきという数値目標が設定されているところである。
このような状況の中、さらなる耐震化の促進を目的として、平成25年(2013年)に同法が改正された。
この改正により、これまでは特定建築物に限り課されていた耐震診断及び耐震改修の努力義務が、耐震基準を満たしていないすべての建築物(既存耐震不適格建築物)に拡大されるとともに、特に耐震化が急がれる一定規模以上の建築物(以下2参照)については耐震診断(及びその結果報告)を義務化するとともに、その結果についても公表されることとなった。
このような背景を踏まえ、建築物の耐震改修の促進を税制面からも支援することを目的として、平成26年度税制改正において「耐震改修促進税制」(租税特別措置法第43条の2:耐震基準適合建物等の特別償却)が創設されることとなった。
そこで本稿では、主に耐震改修促進税制の内容について説明を行うとともに、その他一般的に耐震改修に伴う税務上の留意点について整理することとしたい。
なお本稿では、耐震改修促進税制のうち、港湾法に規定する特定技術基準対象施設について取得等した技術基準適合施設に関する特別償却(措法43の2②)については対象外とする。
2 耐震診断が義務づけられた建築物の範囲
耐震診断が義務づけられるのは、以下の要件を満たす建築物(以下総称して「耐震改修対象建築物」という)であり、それぞれ耐震診断結果の報告期日が異なっている。
「要安全確認計画記載建築物」(耐震改修促進法7)
【内容】
(イ) 緊急輸送道路等の避難路沿道建築物
・・・倒壊した場合において、前面道路の過半を閉塞するおそれのある建築物
(ロ) 防災拠点建築物
・・・庁舎、病院、避難所となる体育館など
【報告期日】
都道府県耐震改修促進計画又は市町村耐震改修促進計画に記載された日まで
「要緊急安全確認大規模建築物」(耐震改修促進法附則3①)
【内容】
(イ) 不特定多数の者が利用する大規模建築物
・・・病院、店舗、旅館等
⇒階数3以上かつ床面積合計5,000㎡以上
・・・体育館
⇒階数1以上かつ床面積合計5,000㎡以上
(ロ) 避難確保上特に配慮を要する者が利用する大規模建築物
・・・老人ホーム等
⇒階数2以上かつ床面積合計5,000㎡以上
・・・小学校、中学校等
⇒階数2以上かつ床面積合計3,000㎡以上
・・・幼稚園、保育所
⇒階数2以上かつ床面積合計1,500㎡以上
(ハ) 一定量以上の危険物を取り扱う大規模な貯蔵場等
・・・危険物貯蔵場等
⇒階数1以上かつ床面積合計5,000㎡以上
【報告期日】
平成27年12月31日まで
(参考:国土交通省ホームページ)
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次回は耐震改修促進税制とその他の税務上の留意点について解説する。
〔凡例〕
耐震改修法・・・建築物の耐震改修の促進に関する法律
措法・・・租税特別措置法
措規・・・租税特別措置法施行規則
法令・・・法人税法施行令
法基通・・・法人税基本通達
(例)耐震改修法5③一・・・建築物の耐震改修の促進に関する法律5条3項1号
(了)
次回は8/21(木)に掲載されます。