欠損金の繰越控除制度の見直しは何を意味するのか?
【第1回】
「事業年度単位課税の弊害と本制度の設立趣旨」
税理士 小谷 羊太
▷はじめに
本稿では、平成27年度税制改正において「欠損金の繰越控除制度」に係る見直しが予定されていることから、あらためて本制度の意義と今後の改正の影響について、2回にわたり私見を交えつつ考えてみたい。今回は本制度の根本的な考え方について解説する。
まず、政府税制調査会が平成26年6月に公表した「法人税の改革について」によると、次のようなことが書かれている。
-以下抜粋-
1 法人税改革の趣旨
グローバル経済の中で、日本が強い競争力を持って成長していくためには、法人税もまた成長志向型の構造に変革していく必要がある。
本年1月、安倍総理大臣はダボス会議において、「法人にかかる税金の体系も、国際相場に照らして競争的なものにしなければなりません」と述べられた。
今回の改革の主な目的は次の2つ
第1は、立地競争力を高めるとともに、わが国企業の競争力を強化するために税率を引き下げることである。
企業が国を選ぶ時代にあって、国内に成長分野を確保するには、法人税率の引下げは避けて通れない課題である。
「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という世界標準に沿った改革を行うことにより、成長志向の法人税改革を行うべき時に来ている。
もちろん、法人税率引下げだけで立地競争力や、企業の収益力を高めることはできない。コーポレートガバナンスの強化や、企業の生産性向上のためのさまざまな取組みが不可欠である。また、経済連携協定の加速、労働市場改革等の規制改革、エネルギーコストの低減、行政手続きの簡素化など、企業の経営環境を改善するための政策をパッケージで行う必要がある。しかし、少なくとも高い法人税率が立地選択にあたっての阻害要因になることは避けねばならない。国内企業が高付加価値分野を国内に残し、また、海外から多くの企業が日本に直接投資を行う環境を作ることは、質の高い雇用機会を国内に確保するために不可欠の課題である。
第2は、法人税の負担構造を改革することである。すなわち、課税ベースを拡大し、税率を引き下げることで、法人課税を“広く薄く”負担を求める構造にすることにより、利益を上げている企業の再投資余力を増大させるとともに、収益力改善に向けた企業の取組みを後押しするという成長志向の構造に変革していくことである。
国内に成長力のある企業が多く存在するかどうかは、雇用に直結する問題である。また、企業の成長力は賃金にも直結する。このように、企業と家計は二分化されたものではなく、法人税率が高すぎることのしわ寄せは、賃金や製品・サービス価格への転嫁などを通じ、最終的には何らかのかたちで家計に及ぶ。
(中略)
(2) 欠損金の繰越控除制度の見直し
① 現状
企業はある年に発生した欠損金を9年間繰り越し、将来の課税所得と相殺することができる。各年度において控除できる欠損金額は所得の8割に制限されている(資本金1億円以下の法人は所得の全額まで控除可能)。
② 改革の方向性
欠損金の繰越控除制度は、企業活動が期間を定めずに継続的に行われるのに対し、法人税の課税所得は事業年度を定めて計算されるため、法人税負担の平準化を図ることを目的とする制度であり、諸外国にも存在する制度である。この制度の存在により、企業行動やそのタイミングに影響を与えることがあり、企業行動に対してより中立的な仕組みとする必要がある。
このため、より長期間での税負担の平準化を図ることが望ましく、繰越控除期間を延長し、あわせて控除上限額を引き下げる見直しを行うこととする〔下線筆者〕。この見直しは、税収の安定化にもつながることとなる。見直しに当たっては、中小企業への配慮が必要である。
なお、繰越期間を延長する際には、帳簿の保存期間もあわせて延長する必要がある。わが国より繰越期間が長い諸外国では、納税者側に立証責任を求めることで適正な課税を確保しており、このような立証責任を納税者に転換する手法の採用も選択肢となる。
▷事業年度単位課税の考え方
我が国の法人税の課税体系は、各事業年度の所得に対して法人税が課せられる。
「各事業年度の所得」とは、事業年度単位課税を原則としていることを意味する。
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