〔お知らせ:2018/7/17〕
財務省の税制改正資料において「賃上げ及び投資の促進に係る税制」との表現が見受けられ、また経済産業省のホームページにおいても「大企業向け賃上げ・投資促進税制」との表現がなされていることから、本連載のタイトルを「〈平成30年度改正対応〉新・所得拡大促進税制の適用上の留意点Q&A」から下記のとおり変更しました。
〈平成30年度改正対応〉
賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の
適用上の留意点Q&A
【Q1】
「平成30年度税制改正により変更・追加された事項の全体像」
公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎
◆はじめに◆
平成30年度税制改正によって、従来の所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)が抜本的に改組され、租税特別措置法上のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」と改められた。
この改正により、適用要件や控除税額の計算が変更されたほか、改正前の制度における用語の定義自体も変更されたものがあり、従来の理解のまま改正後の制度を適用しようとすると結論を誤る可能性がある。
そこで本連載では、平成30年度税制改正により変更された点に焦点を当て、改正後の制度を適用する上で留意すべき事項についてQ&A形式で解説することとしたい。
本連載は単体納税制度における取扱いを前提としており、連結納税制度における取扱いについては触れていない。また、新制度について引き続き「所得拡大促進税制」と称するのは本来適当ではないと考えるが、適当な呼称が定着していないことに鑑み、本連載においては引き続き「所得拡大促進税制」と称する。
なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。
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[Q1]
平成30年度の税制改正により、所得拡大促進税制について抜本的な見直しが行われたと聞きましたが、具体的にはどのように見直されたのでしょうか。
[A1]
平成30年度の税制改正では、主に以下のような見直しが行われています。
① 適用要件の見直し
② 控除税額の計算方法の見直し
③ 上乗せ控除制度の見直し(人材投資に積極的な企業向け)
【解説】
平成25年度の税制改正によって創設された「所得拡大促進税制」(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)は、賃上げの促進を通じて個人消費・投資の活性化を促し、ひいてはデフレ脱却と経済再生の達成を志向するという一貫した政策目標のもと、本税制の適用を促進すべく、毎年のように適用要件の見直し等が行われ5年が経過し、本来の適用期限の終了時期を迎えようとしていたところである。
そのような状況下、平成29年12月8日には「新しい経済政策パッケージ」が閣議決定され、その中では「生産性革命」という項目が大きな柱として設定されている。特に、賃上げや設備投資・人材投資の加速は生産性革命を達成するための重要な要素とされている。
これを踏まえ、平成30年度の税制改正では、生産性革命を達成するための重要な要素である「賃上げ」と「投資」(設備投資・人材投資)の促進を税制面から支援すべく「所得拡大促進税制」の抜本的な見直しが行われている。本税制のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」に改められていることからして、本税制は単なる「賃上げ促進」のみではなく、一定の投資促進も政策目標に含めた税制に改組されたと理解すべきである。
これに伴い適用要件が抜本的に見直され、一定の賃上げ及び設備投資を行った企業に対して税額控除の適用を認めることとされた。ただし一律に適用要件を定めてしまうと中小零細企業に与える影響が大きいと考えられることから、設備投資の要件は大企業についてのみ求めることとし、賃上げに係る要件についても中小企業と大企業で異なる水準を設定している。
控除税額の計算についても、改正前の制度では「基準年度」からの増加額及び「前年度」からの増加額(上乗せ)を基礎として計算していたが、基準年度が既に5年以上前のものであり直近の賃上げの実態と乖離していることから、基準年度を廃止し、前年度からの増加額を基礎として計算する方法に改められた。
なお人材投資については適用要件に含めるのではなく、一定の人材投資を達成した企業に対して上乗せ控除を認めるという制度となっている。
〔凡例〕
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
(例)措法42の12の5①二・・・租税特別措置法42条の12の5第1項2号
(了)
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