《速報解説》
「責任あるサプライチェーンにおける
人権尊重のためのガイドライン(案)」を経産省が公表
~海外の法規制導入も背景に企業の取組強化の必要性からガイドライン作成~
公認会計士 阿部 光成
Ⅰ はじめに
令和4(2022)年8月8日、経済産業省は、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を公表し、意見募集を行っている。
これは、欧米を中心に人権尊重を理由とする法規制の導入が進み、企業として取組の強化も求められていることもあり、わが国において、サプライチェーンにおける人権尊重の取組に関する業種横断的なガイドラインを作成するものである。
意見募集期間は2022年8月29日までである。
文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。
Ⅱ 主な内容
主な内容は次のとおりである。
① 企業による人権尊重の取組の全体像
② 人権方針の策定
③ 人権DD の実施
④ 救済
1 人権尊重の意義
ガイドラインにおいて、「人権」とは、国際的に認められた人権をいう。
企業は、例えば、強制労働や児童労働に服さない自由、結社の自由、団体交渉権、雇用及び職業における差別を受けない自由、居住移転の自由、人種、障害の有無、宗教、社会的出身、ジェンダーによる差別を受けない自由等への影響について検討する必要がある。
すべての企業には人権を尊重する責任があるとし、当該責任は、企業が他者への人権侵害を回避し、企業が関与した人権への負の影響に対処すべきことを意味している。
企業は、国際スタンダードに基づく本ガイドラインに則り、自社・グループ会社、サプライヤー等(国内外のサプライチェーン上の企業及びその他のビジネス上の関係先をいう)における人権尊重の取組に最大限努めるべきであるとしている。
「サプライチェーン」とは、自社の製品・サービスの原材料や資源、設備やソフトウェアの調達・確保等に関係する「上流」と自社の製品・サービスの販売・消費等に関係する「下流」を意味している。
「その他のビジネス上の関係先」は、サプライチェーン上の企業以外の企業であって、自社の事業・製品・サービスと関連する他企業を指している(例:企業の投融資先や合弁企業の共同出資者、設備の保守点検や警備サービスを提供する事業者等)。
2 人権方針
人権方針は、企業が、その人権尊重責任を果たすという企業によるコミットメント(約束)を企業の内外のステークホルダーに向けて明確に示すものである。
事業の種類や規模等は各企業によって様々であり、負の影響が生じ得る人権の種類や、想定される負の影響の深刻度等も各企業によって異なることから、人権方針の策定にあたっては、まずは、自社が影響を与える可能性のある人権を把握する必要があるとのことである。
3 人権デュー・ディリジェンス(人権DD)
人権DDは、企業が、自社・グループ会社及びサプライヤー等における人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、どのように対処したかについて説明・情報開示していくために実施する一連の行為を指している。
ガイドラインは、人権に対する「負の影響」として次の3類型を示している。
① 企業がその活動を通じて負の影響を引き起こす(cause)場合
② 企業がその活動を通じて-直接に、又は外部機関(政府、企業その他)を通じて-負の影響を助長する(contribute)場合
③ 企業は、負の影響を引き起こさず、助長もしていないものの、取引関係によって事業・製品・サービスが人権への負の影響に直接関連する(directly linked)場合
次の事項について詳細に記載している。
(a) 負の影響の特定・評価
(b) 負の影響の防止・軽減
(c) 取組の実効性の評価
(d) 説明責任
4 人権尊重の取組にあたっての考え方
人権尊重の取組にあたっての考え方として、次のポイントを示している。
① 経営陣によるコミットメントが大切である
② 潜在的な負の影響はいかなる企業にも存在する
③ 人権尊重の取組にはステークホルダーとの対話が重要である
④ 優先順位を踏まえ順次対応していく姿勢が重要である
⑤ 各企業は協力して人権尊重に取り組むことが重要である
5 救済
救済とは、人権への負の影響から生じた被害を軽減・回復すること及びそのためのプロセスを指している。
企業による救済が求められるのは、自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合であるが、企業の事業・製品・サービスが人権への負の影響と直接関連するのみであっても、企業は、負の影響を引き起こし又は助長している他企業に対して、影響力を行使するように努めることが求められる。
適切な救済の種類又は組み合わせは、負の影響の性質や影響が及んだ範囲により異なり、人権への負の影響を受けたステークホルダーの視点から適切な救済が提供されるべきである。
具体例として、謝罪、原状回復、金銭的又は非金銭的な補償のほか、再発防止プロセスの構築・表明、サプライヤー等に対する再発防止の要請等が挙げられている。
救済の仕組みには、大きく分けて、企業を含む国家以外の主体によるものと国家によるものとがある。
苦情処理メカニズムと国家による救済の仕組みについて記載されている。
(了)