公開日: 2013/05/10 (掲載号:No.18)
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《速報解説》 産活法に関連する会計監査に係る監査上の取扱い(公開草案)の解説

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

産活法に関連する会計監査に係る

監査上の取扱い(公開草案)の解説

 

公認会計士 阿部 光成

 

平成25 年4月24 日、日本公認会計士協会(監査・保証実務委員会)は、次の公開草案を公表した。
意見募集期間は平成25年5月15日(水)までである。
公開草案の本文は、日本公認会計士協会のホームページから入手できる。

① 監査・保証実務委員会実務指針「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に基づく会計監査に係る監査上の取扱い」(公開草案。以下「監査上の取扱い(案)」という)

② 監査・保証実務委員会研究報告「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法における事業再構築計画及び経営資源再活用計画の認定申請書に添付する『資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書』に係る研究報告」(公開草案。以下「研究報告(案)」という)

今般、これらの公開草案が公表されたのは、①「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(以下「産活法」という)の改正への対応と②新たな会計基準の公表や監査基準の改訂等に対応するためである。
本稿では、これら公開草案について解説を行う。

公開草案は、経済産業省から平成25年4月24日付けで公表された「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」の内容と密接に関連しているので、同Q&Aもお読みいただきたい。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅰ 監査上の取扱い(案)について

1 対象

産活法の適用に当たり、従来から会社法監査又は金融商品取引法監査を受けている会社は、当該法定監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付することとなる。このため、監査上の取扱い(案)は、産活法の適用により初めて監査を受ける会社を対象としたものである(監査上の取扱い(案)4項)。

また、会社法監査のみを受けている会社においては、産活法の適用により半期報告に添付される貸借対照表及び損益計算書の監査に当たり、監査上の取扱い(案)を適用することとなる(監査上の取扱い(案)5項)。

2 監査対象となる貸借対照表及び損益計算書

主務大臣から債権放棄を含む計画の認定を受けた会社は、認定を受けた債権放棄を含む計画(以下「認定計画」という)の実施期間の各事業年度における実施状況、及び事業年度開始以後6ヶ月間の実施状況について主務大臣に報告するに当たり、公認会計士等の監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付する(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則48 条7項)。

「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」Q4では次のことが述べられているので、注意が必要である(監査上の取扱い(案)6項)。

① 法定監査を受けていない会社が年次報告を行うに当たっては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、会社法の会計監査人設置会社に対して求められる計算書類を作成する(当該計算書類が監査の対象となる)。

② 金融商品取引法に基づく中間監査を受けていない会社が半期報告を行うに当たっては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、会社法の臨時計算書類を作成する(当該臨時計算書類が監査の対象となる)。

  会社は半期報告に当たり、事業年度開始日以後の6ヶ月間を臨時計算書類の作成に係る期間として臨時計算書類を作成する(監査上の取扱い(案)では、臨時決算日は事業年度開始日以後6ヶ月を経過した日として作成されている)。

3 監査の実施時期等

産活法に基づく監査は、産活法適用の申請及び認定という手続を受けて行われるため、その監査委嘱の時期及び監査の実施時期は通常の監査とは異なる場合が想定される(監査上の取扱い(案)7項)。

産活法に基づく監査は、その認定時期により次の計算書類の監査が必要となる。

① 前期末決算日以後、臨時決算日より前に産活法の認定を受けた場合
会社が、前期末決算日以後、臨時決算日より前に産活法の認定を受け、認定された計画の実施期間の開始日が当該臨時決算日より前の日となっている場合には、当該臨時会計年度に係る臨時計算書類から監査が必要となる。

② 臨時決算日以後、期末決算日より前に産活法の認定を受けた場合
会社が、臨時決算日以後、期末決算日より前に産活法の認定を受け、認定された計画の実施期間の開始日が当該期末日より前の日となっている場合には、当該会計期間の期末決算に係る計算書類から監査が必要となる。

4 監査契約に係る予備的な活動

監査契約に係る予備的な活動として、監査契約の十分な理解に関して、監査基準委員会報告書210「監査業務の契約条件の合意」において要求される事項など、監査基準委員会報告書300「監査計画」5項及び12 項の規定に基づき実施する必要がある。

監査契約の締結に伴うリスクを評価については、慎重に判断することが必要と考えられる(監査上の取扱い(案)8項~13項)。

5 資産の評価その他の会計処理

認定計画においては、企業再生のための抜本的な事業の見直しや今後事業に供さない資産の処分等の計画が織り込まれる。このため、会計監査上のポイントとしては、資産評価に重点が置かれることが多いと考えられる。

監査上の取扱い(案)で述べられている次の事項については、認定事業者の会計処理上、特に留意が必要と思われるものを例示列挙したものであり、従来の会計基準と異なる新たな処理方法等を示したものではないとしているので、実務への適用に際しては注意が必要と考えられる(監査上の取扱い(案)15項~23項)。

① 固定資産の減損及び耐用年数等の見直し

② 棚卸資産の評価(棚卸資産の処分、事業廃止等の計画に関連するものなど)

③ 販売用不動産の評価(処分等の計画があるものなど)

④ 有価証券の評価(含み損を抱えている有価証券の処分等)

⑤ 事業再構築に伴う損失(リストラ関連の損失など)

⑥ 退職給付会計(退職給付制度の終了など)

⑦ 税効果会計(繰延税金資産の回収可能性)

6 監査手続に関する留意事項

法定監査を受けていない会社は、産活法の適用により初めて監査を受けることとなる。この際、次の事項と共に、監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」にも注意する(監査上の取扱い(案)25項~34項)。

① 監査契約の締結に伴うリスクの評価

② 監査アプローチ

③ 棚卸資産の期首残高の妥当性

④ 固定資産の帳簿価額の妥当性

⑤ 認定計画

⑥ 不正、誤謬及び違法行為

⑦ 経営者確認書

⑧ 継続企業の前提

7 監査範囲の制約

監査範囲の制約が存在する場合には、監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に基づき対応することとなる(監査上の取扱い(案)35項)。

8 監査人の責任

監査人の責任は、計算書類又は臨時計算書類について、独立の立場から、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行い、監査意見を表明することにある(監査上の取扱い(案)36項)。

監査報告書は、認定事業者の認定計画における将来予測の正確性や適正性を保証するものではないことに留意する。
監査報告書の文例としては、文例1から文例4が掲載されている(監査上の取扱い(案)37項)。

① 文例1:計算書類に係る無限定適正意見の監査報告書

② 文例2:臨時計算書類に係る無限定適正意見の監査報告書

③ 文例3:初年度・年次報告・限定付適正意見の監査報告書

④ 文例4:初年度・半期報告・限定付適正意見の監査報告書

そのほかの除外事項付意見の監査報告書の記載方法については、監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」に基づくこととなる。

9 継続企業の前提との関連

監査基準委員会報告書570「継続企業」に基づき慎重な対応をすること、監査基準委員会報告書560「後発事象」及び監査・保証実務委員会報告第76 号「後発事象に関する監査上の取扱い」に基づいて後発事象に関する検討を行うことが述べられている(監査上の取扱い(案)38項、39項)。

10 初めて監査を受けることとなった決算期(臨時会計年度)の取扱い

監査契約の締結時期により監査範囲の制約を受けた場合は、その重要性を勘案し、監査範囲の制約の影響につき除外事項を付した限定付適正意見を表明するか、又は意見を表明しないこととなる(監査上の取扱い(案)40項)。

 

Ⅱ 研究報告(案)について

公認会計士又は監査法人は、事業再構築計画又は経営資源再活用計画(以下「事業再構築計画等」という)の認定の申請のために、申請事業者が申請書に添付する「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」を作成するための業務を申請事業者から依頼されることがある。

当該業務は、公認会計士等が申請事業者との間で合意の上で手続を実施し、その実施結果の事実を申請事業者に報告する、「合意された手続業務」として実施される。

研究報告(案)は、会員の実務の参考に資するように、このような合意された手続業務を実施する上での留意事項を提供するものである。

実際の業務の実施に当たっては、監査・保証実務委員会研究報告第20号「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」が参考となる。

1 公認会計士等による報告書の目的並びに利用及び配布の制限

「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、申請事業者の事業再構築計画等の認定申請に関連して、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則4条3項又は9条3項において定める「資金計画」に記載された計算式及び計算結果が、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」二 イ 「2 事業再構築による財務内容の健全性の向上に関する目標」の①及び②に定められた計算式、及びこれに関連する「貸借対照表等の予想推移」に基づくものであるか否かに関して、報告書の利用者による評価に資することを目的として作成されるものである。

「貸借対照表等の予想推移」とは、債権放棄を前提に申請事業者により策定される事業再構築計画等の申請において申請事業者によって作成された対象期間中における貸借対照表及び損益計算書等の予想推移をいい、「資金計画」とは「貸借対照表等の予想推移」並びに「貸借対照表等の予想推移」に基づく上記の計算式及び計算結果を示す書類をいう。

「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、合意された手続業務の性質や実施された手続の内容、報告書の目的を十分に理解した者のみが利用すべきものであり、認定申請以外の目的による配布又は利用を制限する旨を記載することが必要となる。

このため、上記報告書の想定利用者は、認定申請の関連者である申請事業者及び申請先である主務官庁に限られる。

主務官庁は報告書の利用者であるが、公認会計士等と個別の業務ごとに実施する手続について合意することなく業務を実施することとなる。
監査・保証実務委員会研究報告第20号においては、業務実施者が報告書の利用者との間で実施する手続について合意ができない場合があるとされており、「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」の作成業務はそのような例外的な場合に該当する。

2 実施手続

報告書作成業務のために公認会計士等が実施する手続は、通常、以下のとおりである。

(1) 「資金計画」に記載されている計算式に含まれている項目及び金額が、貸借対照表等の予想推移の項目及び金額と一致していることを確かめる。

(2) 上記(1)の計算式及びこれに基づく計算結果が、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」二 イ 2財務健全化目標の①及び②に定める計算式及びこれに基づく計算結果に合致しているか否かを確かめる。

(1)の手続において、計算式の中に、「資金計画」から直接的に確かめることができない項目や金額があった場合には、当該部分について「資金計画」の修正又は明細書の添付を申請事業者に要請した後、修正後の「資金計画」等の項目及び金額が、前述の計算式の項目及び金額と一致していることを確かめる。

計算式に含まれる項目の定義等については、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」の備考として記載されているが、その解釈に関しては、主務官庁の解釈に従うこととし、必要に応じて、その都度主務官庁に確かめる。

なお、研究報告(案)では、「公認会計士等の報告書の文例」が掲載されている。

3 公認会計士等の責任

報告書作成業務は、一般に公正妥当と認められる監査、レビューの基準、又はその他の保証業務の基準に基づく保証業務ではないため、「資金計画」に記載されている計算式に含まれる貸借対照表等の予想推移について監査意見又はレビューの結論を表明するものではない。

報告書作成業務は、その実施する手続の実施結果の事実のみを報告するものであり、「資金計画」の適正な表示やその将来予測の正確性を保証するものではない。

(了)

《速報解説》

産活法に関連する会計監査に係る

監査上の取扱い(公開草案)の解説

 

公認会計士 阿部 光成

 

平成25 年4月24 日、日本公認会計士協会(監査・保証実務委員会)は、次の公開草案を公表した。
意見募集期間は平成25年5月15日(水)までである。
公開草案の本文は、日本公認会計士協会のホームページから入手できる。

① 監査・保証実務委員会実務指針「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に基づく会計監査に係る監査上の取扱い」(公開草案。以下「監査上の取扱い(案)」という)

② 監査・保証実務委員会研究報告「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法における事業再構築計画及び経営資源再活用計画の認定申請書に添付する『資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書』に係る研究報告」(公開草案。以下「研究報告(案)」という)

今般、これらの公開草案が公表されたのは、①「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(以下「産活法」という)の改正への対応と②新たな会計基準の公表や監査基準の改訂等に対応するためである。
本稿では、これら公開草案について解説を行う。

公開草案は、経済産業省から平成25年4月24日付けで公表された「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」の内容と密接に関連しているので、同Q&Aもお読みいただきたい。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅰ 監査上の取扱い(案)について

1 対象

産活法の適用に当たり、従来から会社法監査又は金融商品取引法監査を受けている会社は、当該法定監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付することとなる。このため、監査上の取扱い(案)は、産活法の適用により初めて監査を受ける会社を対象としたものである(監査上の取扱い(案)4項)。

また、会社法監査のみを受けている会社においては、産活法の適用により半期報告に添付される貸借対照表及び損益計算書の監査に当たり、監査上の取扱い(案)を適用することとなる(監査上の取扱い(案)5項)。

2 監査対象となる貸借対照表及び損益計算書

主務大臣から債権放棄を含む計画の認定を受けた会社は、認定を受けた債権放棄を含む計画(以下「認定計画」という)の実施期間の各事業年度における実施状況、及び事業年度開始以後6ヶ月間の実施状況について主務大臣に報告するに当たり、公認会計士等の監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付する(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則48 条7項)。

「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」Q4では次のことが述べられているので、注意が必要である(監査上の取扱い(案)6項)。

① 法定監査を受けていない会社が年次報告を行うに当たっては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、会社法の会計監査人設置会社に対して求められる計算書類を作成する(当該計算書類が監査の対象となる)。

② 金融商品取引法に基づく中間監査を受けていない会社が半期報告を行うに当たっては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、会社法の臨時計算書類を作成する(当該臨時計算書類が監査の対象となる)。

  会社は半期報告に当たり、事業年度開始日以後の6ヶ月間を臨時計算書類の作成に係る期間として臨時計算書類を作成する(監査上の取扱い(案)では、臨時決算日は事業年度開始日以後6ヶ月を経過した日として作成されている)。

3 監査の実施時期等

産活法に基づく監査は、産活法適用の申請及び認定という手続を受けて行われるため、その監査委嘱の時期及び監査の実施時期は通常の監査とは異なる場合が想定される(監査上の取扱い(案)7項)。

産活法に基づく監査は、その認定時期により次の計算書類の監査が必要となる。

① 前期末決算日以後、臨時決算日より前に産活法の認定を受けた場合
会社が、前期末決算日以後、臨時決算日より前に産活法の認定を受け、認定された計画の実施期間の開始日が当該臨時決算日より前の日となっている場合には、当該臨時会計年度に係る臨時計算書類から監査が必要となる。

② 臨時決算日以後、期末決算日より前に産活法の認定を受けた場合
会社が、臨時決算日以後、期末決算日より前に産活法の認定を受け、認定された計画の実施期間の開始日が当該期末日より前の日となっている場合には、当該会計期間の期末決算に係る計算書類から監査が必要となる。

4 監査契約に係る予備的な活動

監査契約に係る予備的な活動として、監査契約の十分な理解に関して、監査基準委員会報告書210「監査業務の契約条件の合意」において要求される事項など、監査基準委員会報告書300「監査計画」5項及び12 項の規定に基づき実施する必要がある。

監査契約の締結に伴うリスクを評価については、慎重に判断することが必要と考えられる(監査上の取扱い(案)8項~13項)。

5 資産の評価その他の会計処理

認定計画においては、企業再生のための抜本的な事業の見直しや今後事業に供さない資産の処分等の計画が織り込まれる。このため、会計監査上のポイントとしては、資産評価に重点が置かれることが多いと考えられる。

監査上の取扱い(案)で述べられている次の事項については、認定事業者の会計処理上、特に留意が必要と思われるものを例示列挙したものであり、従来の会計基準と異なる新たな処理方法等を示したものではないとしているので、実務への適用に際しては注意が必要と考えられる(監査上の取扱い(案)15項~23項)。

① 固定資産の減損及び耐用年数等の見直し

② 棚卸資産の評価(棚卸資産の処分、事業廃止等の計画に関連するものなど)

③ 販売用不動産の評価(処分等の計画があるものなど)

④ 有価証券の評価(含み損を抱えている有価証券の処分等)

⑤ 事業再構築に伴う損失(リストラ関連の損失など)

⑥ 退職給付会計(退職給付制度の終了など)

⑦ 税効果会計(繰延税金資産の回収可能性)

6 監査手続に関する留意事項

法定監査を受けていない会社は、産活法の適用により初めて監査を受けることとなる。この際、次の事項と共に、監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」にも注意する(監査上の取扱い(案)25項~34項)。

① 監査契約の締結に伴うリスクの評価

② 監査アプローチ

③ 棚卸資産の期首残高の妥当性

④ 固定資産の帳簿価額の妥当性

⑤ 認定計画

⑥ 不正、誤謬及び違法行為

⑦ 経営者確認書

⑧ 継続企業の前提

7 監査範囲の制約

監査範囲の制約が存在する場合には、監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に基づき対応することとなる(監査上の取扱い(案)35項)。

8 監査人の責任

監査人の責任は、計算書類又は臨時計算書類について、独立の立場から、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行い、監査意見を表明することにある(監査上の取扱い(案)36項)。

監査報告書は、認定事業者の認定計画における将来予測の正確性や適正性を保証するものではないことに留意する。
監査報告書の文例としては、文例1から文例4が掲載されている(監査上の取扱い(案)37項)。

① 文例1:計算書類に係る無限定適正意見の監査報告書

② 文例2:臨時計算書類に係る無限定適正意見の監査報告書

③ 文例3:初年度・年次報告・限定付適正意見の監査報告書

④ 文例4:初年度・半期報告・限定付適正意見の監査報告書

そのほかの除外事項付意見の監査報告書の記載方法については、監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」に基づくこととなる。

9 継続企業の前提との関連

監査基準委員会報告書570「継続企業」に基づき慎重な対応をすること、監査基準委員会報告書560「後発事象」及び監査・保証実務委員会報告第76 号「後発事象に関する監査上の取扱い」に基づいて後発事象に関する検討を行うことが述べられている(監査上の取扱い(案)38項、39項)。

10 初めて監査を受けることとなった決算期(臨時会計年度)の取扱い

監査契約の締結時期により監査範囲の制約を受けた場合は、その重要性を勘案し、監査範囲の制約の影響につき除外事項を付した限定付適正意見を表明するか、又は意見を表明しないこととなる(監査上の取扱い(案)40項)。

 

Ⅱ 研究報告(案)について

公認会計士又は監査法人は、事業再構築計画又は経営資源再活用計画(以下「事業再構築計画等」という)の認定の申請のために、申請事業者が申請書に添付する「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」を作成するための業務を申請事業者から依頼されることがある。

当該業務は、公認会計士等が申請事業者との間で合意の上で手続を実施し、その実施結果の事実を申請事業者に報告する、「合意された手続業務」として実施される。

研究報告(案)は、会員の実務の参考に資するように、このような合意された手続業務を実施する上での留意事項を提供するものである。

実際の業務の実施に当たっては、監査・保証実務委員会研究報告第20号「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」が参考となる。

1 公認会計士等による報告書の目的並びに利用及び配布の制限

「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、申請事業者の事業再構築計画等の認定申請に関連して、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則4条3項又は9条3項において定める「資金計画」に記載された計算式及び計算結果が、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」二 イ 「2 事業再構築による財務内容の健全性の向上に関する目標」の①及び②に定められた計算式、及びこれに関連する「貸借対照表等の予想推移」に基づくものであるか否かに関して、報告書の利用者による評価に資することを目的として作成されるものである。

「貸借対照表等の予想推移」とは、債権放棄を前提に申請事業者により策定される事業再構築計画等の申請において申請事業者によって作成された対象期間中における貸借対照表及び損益計算書等の予想推移をいい、「資金計画」とは「貸借対照表等の予想推移」並びに「貸借対照表等の予想推移」に基づく上記の計算式及び計算結果を示す書類をいう。

「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、合意された手続業務の性質や実施された手続の内容、報告書の目的を十分に理解した者のみが利用すべきものであり、認定申請以外の目的による配布又は利用を制限する旨を記載することが必要となる。

このため、上記報告書の想定利用者は、認定申請の関連者である申請事業者及び申請先である主務官庁に限られる。

主務官庁は報告書の利用者であるが、公認会計士等と個別の業務ごとに実施する手続について合意することなく業務を実施することとなる。
監査・保証実務委員会研究報告第20号においては、業務実施者が報告書の利用者との間で実施する手続について合意ができない場合があるとされており、「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」の作成業務はそのような例外的な場合に該当する。

2 実施手続

報告書作成業務のために公認会計士等が実施する手続は、通常、以下のとおりである。

(1) 「資金計画」に記載されている計算式に含まれている項目及び金額が、貸借対照表等の予想推移の項目及び金額と一致していることを確かめる。

(2) 上記(1)の計算式及びこれに基づく計算結果が、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」二 イ 2財務健全化目標の①及び②に定める計算式及びこれに基づく計算結果に合致しているか否かを確かめる。

(1)の手続において、計算式の中に、「資金計画」から直接的に確かめることができない項目や金額があった場合には、当該部分について「資金計画」の修正又は明細書の添付を申請事業者に要請した後、修正後の「資金計画」等の項目及び金額が、前述の計算式の項目及び金額と一致していることを確かめる。

計算式に含まれる項目の定義等については、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」の備考として記載されているが、その解釈に関しては、主務官庁の解釈に従うこととし、必要に応じて、その都度主務官庁に確かめる。

なお、研究報告(案)では、「公認会計士等の報告書の文例」が掲載されている。

3 公認会計士等の責任

報告書作成業務は、一般に公正妥当と認められる監査、レビューの基準、又はその他の保証業務の基準に基づく保証業務ではないため、「資金計画」に記載されている計算式に含まれる貸借対照表等の予想推移について監査意見又はレビューの結論を表明するものではない。

報告書作成業務は、その実施する手続の実施結果の事実のみを報告するものであり、「資金計画」の適正な表示やその将来予測の正確性を保証するものではない。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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