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《速報解説》 IASBによるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の公表について

筆者:松橋 香里

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《速報解説》

IASBによるIFRS第15号

「顧客との契約から生じる収益」の公表について

 

公認会計士 松橋 香里

 

2014年5月28日に国際会計基準審議会(IASB)からIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表された。本基準について、要点を解説する。

 

はじめに

新基準では取引価格の決定には変動対価の見積もりが含まれ、それらは個々の履行義務に配分される。従って、従来よりも見積もりや判断の要素が多くなるであろう。また、企業によっては認識のタイミングが変わることが予想される。

IFRS第15号は、影響の大小はあれ、ほぼすべての企業に関連する基準であることから、個々の企業は自社にどのような影響を及ぼすのかを詳細に検討しなければならないものと思われる。

《発効日及び経過措置》
十分な準備の時間を設ける趣旨から、発効日は2017年1月1日とされた。また、早期適用が認められている。これに対して米国基準では2016年12月15日以降に開始する年度から発効し、早期適用は認められていない。
また、新基準の適用に伴い遡及適用が求められるが、実務上の負担を軽減するため、本基準の適用に伴う累積的影響を初年度に開示し、比較年度の修正を行わない方法も認められている。

 

1 改訂の経緯・趣旨

国際会計基準にはIAS第18号「収益」、IAS第11号「工事契約」が存在していたが、これらは複雑な取引に適用するための指針が不足していた。一方で米国基準では業態毎に詳細な会計処理が求められており、類似する取引に対して異なる会計処理が適用されるという問題が指摘されていた。

このため、国際会計基準審議会と米国財務会計基準審議会(FASB)は、財務諸表の比較可能性を高めるため、原則としてすべての業界に適用される単一の基準の開発を共同で進めてきた。収益は企業の業績を示す最も重要な指標であることから、実務上の検討事項は多岐にわたり、最初の公開草案から約4年にわたる長期のプロジェクトは長い審議期間を経て、ようやく完成に至ることとなった。

 

2 新基準の特徴

新基準の特徴は、これまでの「リスク・経済価値アプローチ」に代えて、「履行義務アプローチ」を採用したことである。履行義務アプローチのもとでは、企業は顧客に対する履行義務を果たした時に収益を認識することとなる。

すなわち、企業は契約時点で顧客に対する財及びサービスを引き渡す義務(履行義務)を負い、対価請求権を得る。そして実際に財及びサービスを顧客に移転した時点で履行義務が消滅し、履行義務に配分された取引価格を収益として認識すると同時に対価請求権を資産として認識することになる。資産及び負債の変動に着目して収益を認識することから、概念フレームワークと整合した会計処理といえる。

 

3 適用上の論点

収益は具体的には以下の5ステップで認識される。

① 顧客との契約を識別する
② 契約内の履行義務を識別する
③ 取引価格を算定する
④ 取引価格を履行義務に配分する
⑤ 企業が履行義務を充足した時に収益を認識する

Step1(契約の識別)
―会計処理の対象となる契約を特定する

企業はまず、契約が基準の適用対象となるか否かを特定しなければならない。
契約は文書に限らず、口頭や企業の慣習的な事業慣行が含意される場合もあるが、(法律上の)強制力をもち、経済的な実質を伴うものでなければならない。
また、一定の条件を満たす場合には、企業は複数の契約を結合し、一つの契約として会計処理を行わなければならない。

新基準では、本基準の適用対象となる契約か否かを判定する際に、顧客の信用リスクを考慮することが示された(再公開草案からの変更点)。
すなわち、契約に基準を適用するためには、企業は顧客の支払能力と支払の意思を考慮し、対価の回収可能性が高い(probable)と結論づけていなければならない。
回収可能性が高くないと判断した場合には、顧客からキャッシュを回収するまで収益を認識することができない。

 

Step2(契約内の履行義務の識別)
―収益を履行義務単位で認識するため、契約を各履行義務に区別する

企業は契約に基づいて、財又はサービスを顧客に提供する約束をするが、これを履行義務という。企業は契約内の財又はサービスを別個の履行義務に区別し、区別した履行義務単位で収益を認識する。区別できない場合は、単一の履行義務として会計処理しなければならない。また、一定の要件を満たす場合には複数の財又はサービスの組み合わせを単一の履行義務として会計処理しなければならない。

 

Step3(取引価格の算定)
―顧客から受け取る対価に基づいて取引価格を測定する

取引価格とは、企業が約束した財又はサービスと引き換えに顧客から受け取る対価の金額をいう。対価が変動する場合には取引価格の算定が困難になるが、この場合には合理的な金額を見積もった上で収益を認識する。

対価が変動する場合には、以下のすべての要件を考慮して取引価格を算定する。

  • 変動対価
  • 変動対価の制限
  • 顧客との契約における重要なファイナンス取引(貨幣の時間価値)
  • 現金以外の対価
  • 顧客に支払われる対価(値引等)

対価が変動する場合、企業は加重平均法か最頻値法のいずれかの方法を用いて受け取るであろう対価をより適切に表す額を見積もる。
また、事後的な変動によって大幅な収益の戻し入れ(取消)が生じない“可能性が非常に高くなる(highly probable)”ように収益の累計額を見積もらねばならない。
ただし、知的財産のライセンスから生じる収益については、収益を生じさせる売上または利用が生じた時のみに収益が認識される。

《実務への影響》
実務上、対価の受領等により取引価格が決定する時点まで収益認識を繰り延べる会計処理が行われている場合、このような繰延処理は認められないことになる。
見積もりにあたっては変動対価の認識は重大な収益の取消につながらない範囲に制限されるものの、現行よりも早い段階で収益が認識される可能性がある。また、見積もりを誤ると収益累計額の下方修正の結果、多額の戻し入れが生じることになるので、慎重な見積もりが求められる。

 

Step4(取引価格の履行義務への配分)
―企業は各履行義務が充足された時に収益として認識される金額を決定する

取引価格を各履行義務に配分する場合、通常は各履行義務の相対的な独立販売価格に基づき配分する。このため企業は入手可能な情報を用いて独立販売価格を算定しなければならない。独立販売価格が直接的に観察可能でない場合には、合理的に入手可能なすべての情報を考慮し、適切な見積もり方法によって独立販売価格を見積もる。また、独立販売価格の変動性が高い又は不確定である場合には、残余法(取引価格の総額から他の財又はサービスの観察可能な独立販売価格の合計を控除した額を参照して独立販売価格を見積もる方法)を用いることができる。

《実務への影響》
財やサービスを履行義務単位で販売しない場合には、コストに一定のマージンを加算する方法や、類似製品やサービスに関して競合他社が付している価格を調整するなどして独立販売価格を見積もり、この独立販売価格に基づいて、取引価格を各履行義務に配分しなければならない。そのため実務上の算定手続きが煩雑になることが予想される。

 

Step5(履行義務の充足時に収益を認識)
―企業は財又はサービスの「支配」が顧客に移転し、履行義務を充足した時点で収益を認識する

ここでいう支配とは、顧客が財又はサービスの販売や使用によって収益を得ることができるようになることを意味する。履行義務は、支配の移転パターンに応じて一時点もしくは一定期間にわたり充足され、収益は支配の移転パターンと整合するように認識される。

履行義務が一時点で充足される場合は、収益も一時点で認識され、履行義務が一定期間にわたり充足される場合には、収益は当該期間にわたり認識される。この場合の進捗度の測定には、インプット法またはアウトプット法など顧客への支配の移転パターンを最も適切に表す方法を用いる。

《実務への影響》
新基準でも進行基準に類似した会計処理が認められているものの、今まで進行基準を用いてきた取引について、今後も進行基準の採用が認められるとは限らないことには注意が必要である。

 

4 その他

◎不利な履行義務

再公開草案で提案されていた不利な履行義務、いわゆる赤字履行義務に関する負債及び対応する費用の認識については当基準書では取り扱わないこととされた。

◎開示事項

新基準では開示情報の範囲が拡大されている。企業は以下に関する情報の開示が求められる。

  • 顧客との契約
  • 契約に基準を適用する際の重大な判断及び当該判断の変更
  • 顧客との契約の獲得又は履行のためのコストから認識した資産

企業は顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性が経済的要因にどのように影響されるのかを描写する主要な区分に分解しなければならない。

契約残高については、再公開草案で提案されていた調整表の作成は求められないものの、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高の開示が求められる。
注記情報が増加するため、必要な情報を適時に入手できる体制を整備する必要がある。

(了)

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筆者紹介

  • 松橋 香里

    (まつはし・かおり)

    公認会計士

    東証一部上場企業にて情報システムの企画開発に従事。公認会計士2次試験合格後、KPMG東京事務所(現 有限責任あずさ監査法人)に入所し、外資系企業を中心とした法定監査、SOX法対応支援業務等に携わる。
    上場企業の経営企画部長、執行役員を経て、2009年ルミナス・コンサルティング株式会社を設立。
    豊富な知識・経験を活かし、IFRSを中心としたアドバイザリー業務を行うとともに、会計を実務に落とし込んだ実践的な研修を提供。

    【著書】
    本当に使えるIFRS適用ガイド』清文社(2011年)

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