公開日: 2021/01/28 (掲載号:No.404)
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令和2年度税制改正における国外財産調書制度の見直し 【第1回】

筆者: 谷口 勝司

令和2年度税制改正における
国外財産調書制度見直し

【第1回】

 

税理士 谷口 勝司

 

連載の目次はこちら

-はじめに-

令和2年度税制改正において国外財産調書制度の見直しが行われている。

この国外財産調書制度については、過少申告加算税又は無申告加算税(以下「過少申告加算税等」という)の軽減措置又は加重措置が設けられているが、この軽減措置・加重措置についても、併せて改正が行われている。

また、この税制改正に伴い、平成25年3月29日付課総8-1ほか「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書及び財産債務調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「調書通達」という)について、令和2年12月15日付課総9-91により改正が行われ、併せてFAQも改定されている。

国外財産調書制度は、少し馴染みの薄い制度であることから、その全体像が把握できるよう、制度概要とともに改正内容等についてご紹介することとしたい。

Ⅰ 改正前の制度概要

最初に、改正前の制度概要について紹介したい。

 

1 国外財産調書の提出

居住者(非永住者を除く)は、その年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合には、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下「国外財産調書」という)を、その年の翌年の3月15日までに、所轄税務署長に提出しなければならない(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「調書法」という)5①)。

ただし、国外財産調書の提出期限(その年の翌年の3月15日(注2))までに、国外財産調書を提出しないで死亡し、又は出国したときは、国外財産調書の提出は要しない(調書法5①ただし書)。

(注1) 適用対象者、国外財産の意義及び価額、国外財産調書の記載事項、提出先税務署長等の詳細については、国税庁HPのFAQ等を参照いただきたい。

(注2) 〔編集部追記:2021/2/5〕令和2年分の国外財産調書の提出については、令和3年4月15日(木)まで延長されている(国税庁HPのFAQ)。

 

2 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置

国外財産調書制度は、自己の保有する国外財産に関する情報を納税者本人から提出を求める仕組みであることから、適正な調書提出に向けたインセンティブとして、以下に述べるように、特例として、過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置が設けられている。

ごく簡単に言えば、国外財産調書を提出した場合には、記載された国外財産に関して所得税(復興特別所得税を含む。以下同じ)又は相続税の申告漏れ等による修正申告等があったときは、その修正申告等による過少申告加算税等を5%軽減する一方、国外財産調書の提出がない場合又は提出された国外財産調書に修正申告等の基因となる国外財産の記載がない場合(重要事項の記載が不十分な場合を含む)には、当該国外財産に係る所得税の修正申告等の過少申告加算税等を5%加重するというものであった(旧調書法6)。

(1) 国外財産調書の提出がある場合の過少申告加算税等の軽減措置

国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税に関し申告漏れ(過少申告)又は無申告(以下「国外財産に係る事実」という)による修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は更正若しくは決定(以下「修正申告等」という)があり、過少申告加算税又は無申告加算税の適用がある場合において、提出期限(翌年3月15日まで)内に提出された国外財産調書に、その修正申告等の基因となる国外財産についての記載があるときは、この修正申告等につき課される過少申告加算税等の額については、その「国外財産に係る事実」に基づく本税額(加算税の計算の基礎となる本税額)の5%に相当する金額を控除した金額とする(旧調書法6①)。

この特例の対象となる「国外財産に係る所得税」は、国外財産に直接基因して生ずる「所得」に対する所得税である(調書法施行令11①、調書法規則13)。例えば、国外財産から生ずる利子・配当、国外財産の貸付け・譲渡、国外ストックオプション等の行使所得、国外生命保険金・国外年金その他国外財産に基因して生ずる所得がこれに該当する(下記(2)の加重措置においても同様)。この点は、国外財産自体が課税対象となりうる「相続税」と異なることに留意する必要がある。

(2) 国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置

国外財産に係る所得税に関し申告漏れ(過少申告)又は無申告による修正申告等(死亡した者に係るものを除く)があり、過少申告加算税又は無申告加算税の適用がある場合において、提出期限内に国外財産調書の提出がないとき又は提出された国外財産調書にその修正申告等の基因となる国外財産についての記載がないとき(重要な事項の記載が不十分であると認められるときを含む)は、この修正申告等につき課される過少申告加算税等の額については、その「国外財産に係る事実」に基づく本税額(加算税の計算の基礎となるべき本税額)の5%に相当する金額を加算した金額とする(旧調書法6②)。

ここで特に留意しておきたいことが、改正前の加重措置は所得税のみが対象とされており、相続税について加重措置は無かったという点である。

(注) 上記(2)のとおり、国外財産調書を提出した場合であっても、修正申告等の基因となる国外財産について「重要な事項の記載が不十分であると認められるとき」は、記載がなかったとき又は国外財産調書の提出がなかったときと同様に加重措置の対象となるが、この「重要な事項の記載が不十分であると認められるとき」とは、申告漏れ等の基因となる国外財産であるかどうかの特定に必要な「国外財産の種類、数量、価額、所在」といった記載事項につき、記載誤り又は記載事項の一部が欠けていることにより、所得の基因となる国外財産の特定が困難である場合をいう(調書通達6-3、調書法規則12①)。

(3) 期限後に提出された調書の取扱い

国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、修正申告等があった場合において、当該国外財産調書の提出が、当該国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税についての調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該国外財産調書は「提出期限内に提出されたもの」とみなして、上記(1)又は(2)の軽減措置・加重措置を適用する(旧調書法6④)。

 

3 故意の国外財産調書の不提出等に対する罰則規定

この制度においては、故意に、不提出、虚偽記載による提出、虚偽答弁等の行為をした者に対して、罰則規定(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が設けられている(調書法9、10)。

 

4 国外財産調書の提出状況等

国税庁HPにおいて公表されている平成30年分(平成30年12月31日時点)の国外財産調書の提出状況は以下のとおりである。

(1) 提出状況

〇総提出件数:9,961件

〇総財産額:3兆8,965億円

〇財産の種類別総額(主なもの)

・有価証券:2兆1,135億円(54.2%)

・預貯金:5,771億円(14.8%)

・建 物:4,360億円(11.2%)

(2) 加算税の特例措置適用件数

〇軽減措置:194件、49億8,814万円

〇加重措置:245件、112億9,380万円

(注) また、国税庁は、「令和元年度 査察の概要」において、上記の国外財産調書の不提出に関する罰則適用について、初めて告発したと公表している。

 

〔凡例〕
調書法・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
調書法施行令・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令
調書法規則・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則
調書通達・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書及び財産債務調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)
(例)調書法5①・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律5条1項

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

令和2年度税制改正における
国外財産調書制度見直し

【第1回】

 

税理士 谷口 勝司

 

連載の目次はこちら

-はじめに-

令和2年度税制改正において国外財産調書制度の見直しが行われている。

この国外財産調書制度については、過少申告加算税又は無申告加算税(以下「過少申告加算税等」という)の軽減措置又は加重措置が設けられているが、この軽減措置・加重措置についても、併せて改正が行われている。

また、この税制改正に伴い、平成25年3月29日付課総8-1ほか「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書及び財産債務調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「調書通達」という)について、令和2年12月15日付課総9-91により改正が行われ、併せてFAQも改定されている。

国外財産調書制度は、少し馴染みの薄い制度であることから、その全体像が把握できるよう、制度概要とともに改正内容等についてご紹介することとしたい。

Ⅰ 改正前の制度概要

最初に、改正前の制度概要について紹介したい。

 

1 国外財産調書の提出

居住者(非永住者を除く)は、その年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合には、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下「国外財産調書」という)を、その年の翌年の3月15日までに、所轄税務署長に提出しなければならない(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「調書法」という)5①)。

ただし、国外財産調書の提出期限(その年の翌年の3月15日(注2))までに、国外財産調書を提出しないで死亡し、又は出国したときは、国外財産調書の提出は要しない(調書法5①ただし書)。

(注1) 適用対象者、国外財産の意義及び価額、国外財産調書の記載事項、提出先税務署長等の詳細については、国税庁HPのFAQ等を参照いただきたい。

(注2) 〔編集部追記:2021/2/5〕令和2年分の国外財産調書の提出については、令和3年4月15日(木)まで延長されている(国税庁HPのFAQ)。

 

2 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置

国外財産調書制度は、自己の保有する国外財産に関する情報を納税者本人から提出を求める仕組みであることから、適正な調書提出に向けたインセンティブとして、以下に述べるように、特例として、過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置が設けられている。

ごく簡単に言えば、国外財産調書を提出した場合には、記載された国外財産に関して所得税(復興特別所得税を含む。以下同じ)又は相続税の申告漏れ等による修正申告等があったときは、その修正申告等による過少申告加算税等を5%軽減する一方、国外財産調書の提出がない場合又は提出された国外財産調書に修正申告等の基因となる国外財産の記載がない場合(重要事項の記載が不十分な場合を含む)には、当該国外財産に係る所得税の修正申告等の過少申告加算税等を5%加重するというものであった(旧調書法6)。

(1) 国外財産調書の提出がある場合の過少申告加算税等の軽減措置

国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税に関し申告漏れ(過少申告)又は無申告(以下「国外財産に係る事実」という)による修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は更正若しくは決定(以下「修正申告等」という)があり、過少申告加算税又は無申告加算税の適用がある場合において、提出期限(翌年3月15日まで)内に提出された国外財産調書に、その修正申告等の基因となる国外財産についての記載があるときは、この修正申告等につき課される過少申告加算税等の額については、その「国外財産に係る事実」に基づく本税額(加算税の計算の基礎となる本税額)の5%に相当する金額を控除した金額とする(旧調書法6①)。

この特例の対象となる「国外財産に係る所得税」は、国外財産に直接基因して生ずる「所得」に対する所得税である(調書法施行令11①、調書法規則13)。例えば、国外財産から生ずる利子・配当、国外財産の貸付け・譲渡、国外ストックオプション等の行使所得、国外生命保険金・国外年金その他国外財産に基因して生ずる所得がこれに該当する(下記(2)の加重措置においても同様)。この点は、国外財産自体が課税対象となりうる「相続税」と異なることに留意する必要がある。

(2) 国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置

国外財産に係る所得税に関し申告漏れ(過少申告)又は無申告による修正申告等(死亡した者に係るものを除く)があり、過少申告加算税又は無申告加算税の適用がある場合において、提出期限内に国外財産調書の提出がないとき又は提出された国外財産調書にその修正申告等の基因となる国外財産についての記載がないとき(重要な事項の記載が不十分であると認められるときを含む)は、この修正申告等につき課される過少申告加算税等の額については、その「国外財産に係る事実」に基づく本税額(加算税の計算の基礎となるべき本税額)の5%に相当する金額を加算した金額とする(旧調書法6②)。

ここで特に留意しておきたいことが、改正前の加重措置は所得税のみが対象とされており、相続税について加重措置は無かったという点である。

(注) 上記(2)のとおり、国外財産調書を提出した場合であっても、修正申告等の基因となる国外財産について「重要な事項の記載が不十分であると認められるとき」は、記載がなかったとき又は国外財産調書の提出がなかったときと同様に加重措置の対象となるが、この「重要な事項の記載が不十分であると認められるとき」とは、申告漏れ等の基因となる国外財産であるかどうかの特定に必要な「国外財産の種類、数量、価額、所在」といった記載事項につき、記載誤り又は記載事項の一部が欠けていることにより、所得の基因となる国外財産の特定が困難である場合をいう(調書通達6-3、調書法規則12①)。

(3) 期限後に提出された調書の取扱い

国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、修正申告等があった場合において、当該国外財産調書の提出が、当該国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税についての調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該国外財産調書は「提出期限内に提出されたもの」とみなして、上記(1)又は(2)の軽減措置・加重措置を適用する(旧調書法6④)。

 

3 故意の国外財産調書の不提出等に対する罰則規定

この制度においては、故意に、不提出、虚偽記載による提出、虚偽答弁等の行為をした者に対して、罰則規定(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が設けられている(調書法9、10)。

 

4 国外財産調書の提出状況等

国税庁HPにおいて公表されている平成30年分(平成30年12月31日時点)の国外財産調書の提出状況は以下のとおりである。

(1) 提出状況

〇総提出件数:9,961件

〇総財産額:3兆8,965億円

〇財産の種類別総額(主なもの)

・有価証券:2兆1,135億円(54.2%)

・預貯金:5,771億円(14.8%)

・建 物:4,360億円(11.2%)

(2) 加算税の特例措置適用件数

〇軽減措置:194件、49億8,814万円

〇加重措置:245件、112億9,380万円

(注) また、国税庁は、「令和元年度 査察の概要」において、上記の国外財産調書の不提出に関する罰則適用について、初めて告発したと公表している。

 

〔凡例〕
調書法・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
調書法施行令・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令
調書法規則・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則
調書通達・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書及び財産債務調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)
(例)調書法5①・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律5条1項

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

令和2年度税制改正における国外財産調書制度の見直し
(全5回)

【第1回】 ★無料公開中★

〇はじめに

Ⅰ 改正前の制度概要

1 国外財産調書の提出

2 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置

3 故意の国外財産調書の不提出等に対する罰則規定

4 国外財産調書の提出状況等

【第2回】

Ⅱ 令和2年度税制改正の内容

1 相続国外財産に係る相続直後の国外財産調書等の記載の柔軟化

【第3回】

2 国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の見直し

【第4回】

3 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の判定の基礎となる国外財産調書の見直し

【第5回】

4 国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類の提示又は提出がない場合の過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の特例の創設

5 過少申告加算税等の軽減措置、加重措置等の対象となる追徴本税額の計算規定の整備等

【参考】 改正前後の加算税割合の一覧表

筆者紹介

谷口 勝司

(たにぐち・かつじ)

税理士

国税庁法人課税課課長補佐、津島税務署長、名古屋国税局法人課税課長、同局人事第一課長、浜松西税務署長、同局調査部長を経て、2015年8月税理士登録。

【著作】
・『詳解 加算税 通達と実務』共著(清文社、2019年)

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