《速報解説》
信託契約終了により帰属権利者が取得した被相続人の居住用家屋等について空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除は不適用
~東京国税局からの文書回答事例~
税理士 菅野 真美
令和4年12月20日(ホームページ公表は令和5年1月10日)に東京国税局が、 事前照会を受けた信託契約終了により帰属権利者が取得した被相続人の居住用家屋及びその敷地(以下「居住用家屋等」)について空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除(以下「空き家控除」)(措法35③)の適用可否について、適用できないという回答を行った。この件について今回は検討する。
▷どのような事案か
乙は母甲との間で、母の所有する居住用家屋等を信託財産とする信託契約を締結した。委託者兼受益者は母で、受託者は乙である。受益者の死亡により信託は終了し、居住用家屋等は帰属権利者の乙と乙の弟丙に帰属した。
乙と丙はこの居住用家屋等を相続のあった年の翌年に譲渡したが、この譲渡について、空き家控除の適用があるかについて甲が東京国税局に照会を行った。
▷乙の見解はどのようなものか
乙はこの譲渡について、空き家控除の要件である「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした相続人に該当するから、空き家控除の適用はあると考えた。
なぜなら、この居住用家屋等は、信託の終了により遺贈により取得したものとみなされ(相法9の2④)、帰属権利者が居住用家屋等の所有者であった甲の相続人である。そして、乙や丙の状況は、相続人が相続又は遺贈により被相続人の財産を取得した相続人と同様に、適正な管理の責任を負うことになるためだからである。
▷東京国税局の回答は
東京国税局は、次のような理由から空き家控除の適用がないと回答した。
信託の終了による財産の移転は「相続」や「遺贈」に該当せず、空き家控除の条文には相続税法の規定により遺贈等による財産の取得とみなされる場合を対象に含むとは規定されていない。また、帰属権利者は権利を放棄することができるから(信託法183③)、残余財産の取得を相続又は遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことはできない。
▷相続財産である株式の譲渡のみなし配当特例や相続税額の取得費加算の特例とどこが違うのか
空き家控除が、空き家問題の解消のための制度であるならば、信託を利用した場合は適用ができないとすることは不合理であると考える。
被相続人の死亡により相続人が信託の受益者となり、信託終了後に信託財産であった非上場株式を発行会社に譲渡した場合のみなし配当特例(措法9の7)や、相続税額の取得費加算の特例(措法39)は認められるという質疑応答事例がある。空き家控除の規定と異なり、これらの条文に「相続又は遺贈による財産の取得とみなされるものを含む」が規定されている。なぜ、空き家控除だけ規定されていないのだろうか。速やかな条文改正により、この問題が解決されることを期待する。
(了)