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【第1回】
「雇用関連助成金の活用(その1)」
特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹
はじめに
雇用関連助成金とは雇用保険被保険者の雇用に関連する助成金のことをいうが、その種類と内容は多岐にわたる。これらの助成金はタダで簡単にもらえると考えている方も多いようであるが、助成金を受給するには多くの要件を満たしたうえでさらに定められた手順に従って計画的に手続を進めなければならない。
そこで本連載の第1回目は、雇用関係助成金の全体像と特長を理解したうえで適正に活用するために、「雇用関連助成金の活用(その1)」として雇用関係助成金の概要を解説する。
なお、次回以降からは個々の助成金制度についてさらに詳しく解説していく予定である。
1 雇用関連助成金の目的
雇用関連助成金は、雇用保険二事業である雇用保険法第62条の雇用安定事業と第63条の能力開発事業の規定に基づいて次の目的を達成するために実施される。
《雇用安定事業》
失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他の雇用の安定を図るために必要な事業主に対する助成及び援助等を実施する。
《能力開発事業》
雇用保険被保険者の職業生活の全期間を通じて、その能力の開発と向上を促進させるために必要な助成や援助等を実施する。
失業予防や雇用機会の増大などは社会の安定に不可欠のため、時の政府にとって重要な政策目標となる。例えば長引くデフレによる景気低迷時には新分野への事業進出と雇用拡大のため中小企業基盤人材確保助成金を拡充したり、リーマンショック以降の景気悪化時には離職者抑制のため雇用調整助成金の要件大幅緩和と支給額の増額を実施したりしていた。
このように雇用関連助成金は、景気社会情勢、経済状況、雇用情勢などを色濃く反映するため毎年制度の改正や新設、廃止などが行われるので、効果的に活用するためには定期的な制度のチェックが必要である。
また、雇用関連助成金には、法改正に伴う新制度施行を後押しする役割を担っているものもある。例えば仕事と家庭の両立支援、非正規労働者の教育訓練や正規労働者への転換、あるいは障害者などの雇用促進である。他に先駆けての新制度導入を検討している事業主においては、活用できる助成金があるかどうかチェックすることも重要となる。
2 雇用関連助成金の手続と手順
雇用関連助成金を受給するには、定められた手順に従い計画的に手続を行わなければならない。例えば新規雇用関連の助成金ではハローワーク等への事前の求人申込が必要であるし、教育訓練関連の助成金では事前に教育訓練計画の認可を得ることが必要である。
すでに新規雇用や教育訓練などを実施した後で助成金を受けようとする事業主が時々いるが、定められた手順の手続を経なければ助成金は支給されない。これは助成金が新規雇用や教育訓練の決断を促すことで政策目標を達成しようとするものであり、助成金がなくとも新規雇用や教育訓練を実施したのであればそもそも助成する必要はないためと、恣意的な措置を講じた後の不正受給を防止するなどのためである。
以上により、助成金を活用しようとする場合は、事前にどのような手順による手続が定められているのかを確認したうえで、その手順に従って計画的に手続を進める必要がある。
3 雇用関連助成金の意義
助成金は返済する必要のないお金を受け取れるものであるが、すべての助成金がタダということではない。例えば新規雇用が条件の助成金では新規雇用した従業員に賃金を支払い続ける必要がある。
これは以前、実際にあった事例であるが、ある事業主が求人に応募した何人かの中から人柄や能力に多少の不安点があったにもかかわらず助成金の対象となる人を採用し、採用後にその不安点が問題として顕在化して職場が不安定になってしまった、ということがあった。その事業主は、「今回の採用は失敗だった、助成金を返還してでもその人に退職してもらいたい」と嘆くような事態となってしまったのである。
助成金が支給されると確かに一時的にお金は増えるが、やがてそのお金はなくなる。しかし新規雇用した人の賃金は支払い続けることになる。その新規雇用した人が職場に適応し能力を発揮して働き続けられればその採用は成功であるが、そうでない場合はその採用は失敗となる。
新規採用の真の目的は良い人材を採用して事業に貢献して働いてもらうことであり、助成金そのものではない。助成金はあくまでも取るべき措置の一助でしかなく、助成金自体を目的にすることは危険なのである。
4 雇用関連助成金の費用
雇用保険料は、雇用保険被保険者の賃金総額に事業の種類に応じて次表の保険率を乗じて算出するが、その雇用保険率の事業主負担率の中には雇用保険二事業のための保険率(表中カッコ内の率)が含まれており、その額は全額が事業主の負担となっている。
そのため、雇用関連助成金は費用負担がないままもらえるわけではなく、事業主は毎年その費用の一部を負担していることになる。言い換えれば、助成金を活用していない事業主は費用負担だけを続けていることになる。
5 雇用関連助成金の支給対象事業主
雇用関連助成金の支給対象となる事業主の要件は、助成金の種類に応じて個々に定められているが、すべての雇用関連助成金に共通する要件として次の①と②がある。この要件については随時参照していただきたい。
① 次のすべてに該当する事業主
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 期間内に申請する事業主であること
- 支給のための審査に協力すること
- 対象労働者の労働者名簿、賃金台帳、出勤簿などを整備保存しかつ求められれば提出できること
② 次のいずれにも該当しない事業主
- 不正受給から3年以内に申請した事業主、または申請日後から支給決定日までに不正受給した事業主
- 支給申請年度の前年度より前の年度の労働保険料を納付していない事業主
- 支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反をした事業主
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業やこれらの一部を受託し営業する事業主(接待業務等に従事しない労働者雇入に関する助成金では受給が認められる場合がある)
- 暴力団と関わりのある事業主
- 支給申請日又は支給決定日時点で倒産している事業主
- 不正受給による支給決定取消の場合に事業主名公表に同意していない事業主
6 中小事業主の範囲
雇用関連助成金は中小事業主に限定して対象とするものや、支給額が中小事業主とそうでない事業主では異なることもあるので、中小企業事業主であるか否かは重要である。雇用関連助成金で定める中小企業事業主の範囲は次のものである。
7 雇用関連助成金の申請に際しての注意点
雇用関連助成金の申請に際しては、次の①~③に十分注留意する必要がある。
① 不正受給を行った事業主は、助成金の返還を求められるとともに、事業主名が公表されることがある。
② 労働局に提出した支給申請書、添付書類の写しなどは支給決定されたときから5年間保存しなければならない。
③ 雇用関連助成金の支給・不支給の取消しなどは、行政不服審査法上の不服申立ての対象とはならない。
8 雇用関連助成金の担当窓口
雇用関連助成金の担当窓口は、助成金ごとの種類に応じて事業所を管轄する地域の次のいずれかとなる。担当窓口が不明の場合は、事業所管轄のハローワークへ問い合わせて確認する。
◆労働局
都道府県ごとに設置された労働局。
◆ハローワーク
全国に設置されているハローワークで、事業所所在地ごとに管轄ハローワークが定められている。
◆雇用支援機構
都道府県ごとに設置されている独立行政法人高齢者・障害・求職者雇用支援機構であり、傘下に都道府県高齢・障害者雇用支援センターなどが設置されている。
9 主な雇用関連助成金
雇用関連助成金には多くの種類と内容の助成金があるが、その主な助成金の名称や特長及び支給額の概略及び【 】内の担当窓口は次の通りである。なお、支給額の( )内の金額は中小企業事業主に対する支給額となる。
今回は主な助成金のワンポイントについて解説し、次回以降に個々の助成金についてもう少し詳しく解説する予定である。
(1) 労働者の職業能力の向上を図るための助成金
〔受給ポイント〕
キャリアアップ等の措置を講じる前に、必ずキャリアアップ計画や訓練実施計届等と添付書類を提出して労働局長等の認定を受けるようにする。
《キャリアアップ助成金-正規雇用等転換コース》
【労働局】
有期契約労働者等を正規雇用に転換又は派遣労働者を直接雇用した事業主
- 有期→正規雇用・・・一人当たり40(50)万円
- 有期→無期雇用・・・一人当たり15(20)万円
- 無期→正規雇用・・・一人当たり25(30)万円
キャリアアップ助成金-人材育成コース
【労働局】
有期契約労働者等に職業訓練した事業主
- OffJT=1時間500(800)円
- OJT=1時間700円
キャリアアップ助成金-処遇改善コース
【労働局】
有期契約労働者等の賃金水準2%以上増額改定させた事業主
- 一人当たり7,500(1万)円、100人を上限
- 職務評価を活用した事業所15(20)万円
キャリアアップ助成金-健康管理コース
【労働局】
有期契約労働者等に法定外健康診断を規定し延べ4人以上実施した事業主
- 1事業所当たり30(40)万円
キャリアアップ助成金-短時間正社員コース
【労働局】
短時間正社員に転換又は短時間正社員として新規に雇い入れた事業主
- 一人当たり15(300人以下事業所20)万円
- 有期契約労働者等を転換なら25(30)万円
キャリアアップ助成金-短時間労働者の週所定労働時間延長コース
【労働局】
所定労働時間週25時間未満の短時間労働者を30時間以上で社会保険加入させた場合
- 一人当たり7.5(10)万円、10人を上限
キャリア形成促進助成金-政策課題対応型訓練
【労働局】
成長分野、グローバル人材育成、育休中職場復帰能力アップ、若年人材等の育成
- 1時間当たり400(800)円
- 訓練経費助成は実費の1/3(1/2)など
キャリア形成促進助成金-一般型訓練
【労働局】
雇用労働者への職業訓練(中小企業)
- 1時間当たり400円、実費費用1/3
(2) 新たに労働者を雇い入れる際の助成金
〔受給ポイント〕
新規雇入の助成金では、紹介を受けるため事前に求人を申し込む。雇入日前後の一定期間に事業主都合解雇者等の離職者がある事業主は対象とならない。
特定求職者雇用開発助成金
【労働局】
60~64歳の高齢者、父・母子家庭の父・母、障害者をハローワーク紹介で雇用した事業主
- 一人当たり50(90)万円
- 短時間労働者は30(60)万円等
高年齢者雇用開発特別奨励金
【労働局】
65歳以上の離職者をハローワークの紹介で1年以上継続して雇用した事業主
- 一人当たり50(90)万円
- 短時間労働者は30(60)万円等
トライアル雇用奨励金
【労働局】
職業経験・技能・知識から安定的就職が困難な求職者をハローワークの紹介で試行雇用した事業主
- 一人当たり月額4万円(最長3ヶ月)
(3) 労働者の雇用維持を図るための助成金
〔受給のポイント〕
休業・教育訓練・出向等の実施の2週間前をめどに事業活動の状況に関する申出書、雇用指標の状況に関する申出書と添付書類などを提出する。
雇用調整助成金
【労働局】
景気変動や産業構造変化で事業活動が縮小し休業・教育訓練・出向で雇用維持する事業主
- 休業手当等の1/2(2/3)等の額
- 出向先事業主の負担額1/2(2/3)等
(4) 離職する労働者の再就職支援を行う場合の助成金
〔受給ポイント〕
再就職支援の委託前に再就職援助計画を提出し認定を受け、また受入人材育成では職業訓練開始前に職業訓練計画と受給資格認定書等の認定を受ける。
労働移動支援助成金-再就職支援奨励金
【労働局】
事業縮小に伴い離職となる労働者への再就職支援を民間事業者へ委託する事業主
- 委託費用の1/2(1/3)、訓練委託月6万円
- 加算、求職休暇は 1日4(7)千円支給
労働移動支援助成金-受入れ人材育成支援奨励金
【労働局】
事業縮小に伴い離職となる労働者を雇入れ、または移籍で受入れ訓練を実施した事業主
- Off-JTは1時間当たり800円
- OJTは1時間当たり700円
(5) 仕事と家庭の両立支援や女性活用推進に取り組む事業主への助成金
〔受給ポイント〕
すでに「次世代育成支援対策推進法」に規定する一般事業主行動計画を策定し労働局長に届け出てかつそれを公表し労働者に周知していることが必要。
事業所内保育施設設置・運営等支援助成金
【労働局】
事業所内に保育所を設置、増築する事業主や事業主団体
- 設置費用の1/3(2/3)上限1,500(2,300)万円や運営費用の1/2(2/3)など
子育て期短時間勤務支援助成金
【労働局】
短時間勤務制度を設け利用させた事業主
- 1人目30(40)、2~10人目10(15)万円
中小企業両立支援助成金-代替要員確保コース
【労働局】
代替要員確保し育児休業者を復帰させた事業主
- 1人当たり15万円(上限10人)
中小企業両立支援助成金-期間雇用者継続就業支援コース
【労働局】
有期契約労働者を通常労働者と同じ育児休業を取得させ研修実施し原職復帰させた事業主
- 1人目40万円2~5人目15万円
- 通常労働者で復帰は10万円加算
(6) 労働者の処遇や雇用環境の改善を図るための助成金
〔受給ポイント〕
計画開始の6~1ヶ月前までに雇用管理制度の導入計画と添付書類を労働局へ認定申請をする。
中小企業労働環境向上助成金-個別中小企業助成コース
【労働局】
雇用管理制度を導入する健康・環境・農林・漁業分野の事業を営む中小企業事業主
- 評価処遇制度40万円、研修体系制度30万円、健康づくり制度30万円等
建設労働者確保育成助成金
【労働局】
建設労働者の雇用改善、技能向上を行う中小建設事業主
- 認定訓練・・・賃金助成1人日額5千円
- 技能実習・・・支給対象費用の9/10
- 評価処遇制度40万円、研修制度30万円
(7) 高齢者の雇用を安定させるための助成金
〔受給ポイント〕
計画実施6~3ヶ月前までに環境整備計画と添付書類を都道府県雇用支援センターに提出し認定申請をする。紹介を受けるには事前に求人を申し込む。
高年齢者雇用安定助成金-高齢者活用促進コース
【雇用支援機構】
新事業分野進出、機械設備や雇用管理制度の導入など高齢者の雇用環境を整備する事業主
- 対象経費の1/2(2/3)
- 60歳以上の被保険者1人20万円
高年齢者雇用安定助成金-高年齢者労働移動支援コース
【雇用支援機構】
定年前高齢者等の知識経験を活かせる他企業で雇用希望者をハローワークの紹介で雇う事業主
- 1人当たり70万円
- 短時間労働者は40万円
(8) 障害者の雇用促進や障害者が働き続けられるようにするための助成金
〔受給ポイント〕
紹介を受けるため事前に求人を申し込む。雇入日前後の一定期間に事業主都合の解雇者がある事業主は対象とならない。措置開始前に相談する。
障害者トライアル雇用奨励金
【労働局】
就職困難な障害者をハローワークなどの紹介で一定期間試行雇用する事業主
- 1人当たり月額最大4万円(最長3ヶ月間)
障害者短時間トライアル雇用奨励金
【労働局】
精神・発達障害者の求職者を3~12ヶ月かけ週20時間以上の就業を目指し試行雇用する
- 1人当たり月額最大2万円(最長12ヶ月)
障害者初回雇用奨励金(ファーストステップ奨励金)
【労働局】
雇用率制度の対象障害者を初めて雇用して法定雇用率を達成する場合(50~300人の中小企業)
- 対象となる措置をすべて満たすと120万円
中小企業障害者多数雇用施設設置等助成金
【労働局】
中小企業事業主が計画に基づき障害者を10人以上雇用し必要な施設設備を設置等した場合
- 施設整備費用に応じて2~3千万円、3年間
障害者作業施設設置等助成金
【雇用支援機構】
継続雇用の障害者のため就労上の課題を克服する作業施設等を設置整備する事業主
- 支給対象費用の2/3
障害者能力開発助成金
【雇用支援機構】
障害者の職業能力の開発向上のために能力開発訓練を行う事業主
- 施設設置対象費用の4/5、受講対象費用の3/4
(了)
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