〔誤解しやすい〕
各種法人の法制度と
税務・会計上の留意点
【第1回】
「一般社団法人」
司法書士法人F&Partners
司法書士 北詰 健太郎
公認会計士・税理士 濱田 康宏
▷ 法制度について
1 はじめに
日本には、株式会社以外にも一般社団法人、医療法人、NPO法人のように多様な法人が存在する。社会ニーズの多様化や株式会社の数の減少等もあり、本ウェブサイトの中心的読者である税理士、公認会計士等の専門家にとっても、顧客への提案や新たな顧客の獲得のためにも、これら株式会社以外の法人の制度への正しい理解は欠かせないといえる。
本連載では、株式会社以外の法人を「各種法人」と定義し、その法制面と税務・会計面において知っておくべき知識を紹介する。
2 一般社団法人とは
一般社団法人は、「一般社団法人及び財団法人に関する法律」(以下、「一般法人法」という)の規定に基づき設立された構成員に対して剰余金または残余財産を分配しないという性質を有する非営利の社団法人である。
一般社団法人が「公益社団法人及び公益財団法人の認定に関する法律」(以下、「認定法」という)に基づき公益認定を受けると、公益社団法人となる。
一般社団法人と公益社団法人は、別の種類の法人というわけではなく、一般社団法人が公益認定という王冠を授かることによって誕生するイメージである。
3 一般社団法人誕生の背景
いわゆる公益法人制度改革によって、行政との癒着等が批判されていた従来の民法法人である社団法人制度は廃止され、改正前の民法法人は、特例民法法人として一般法人法施行の5年後である平成25(2013) 年11月30日までの移行期間の間に、定款を一般法人法に合致するものに変更したうえで、認定法の要件を満たして公益社団法人に移行する認定を受けるか、公益認定を受けずに一般社団法人へ移行する認可を受けなければ、移行期間満了と同時に解散となることとされた。
つまり現在存在する一般社団法人には、従来の民法法人が一般社団法人化した法人と一般法人法に基づき新規に設立された法人が存在する。
4 準則主義
一般社団法人は株式会社と同様に、登記によって成立する(一般法人法22条)。設立自体に許認可が必要となるのではない。
主な流れは次のとおりである。
定款の作成(一般法人法10・11・12条)
↓
定款の認証(一般法人法13条)
↓
設立時理事等の選任(一般法人法15・16・17条)
↓
設立時理事等による調査(一般法人法20条)
↓
設立登記(一般法人法22・301・318条)
定款には目的も記載するが、法令上特に目的に制限はない。
株式会社のように不動産事業や、物販などの事業を目的とすることもできるし、株式会社では認められないようにボランティア事業などを目的とすることができる。
5 機関
一般社団法人の場合、(ⅰ)法人の最高意思決定機関である社員総会、(ⅱ)業務執行を行う理事1人が最低限必要な機関である。
設立時には社員が2人必要であり、そのうち1人を理事とすることで最低2人で設立することができる。設立後社員が1人になった場合でも、解散事由とはならない(一般法人法148条4号)。
定款の定めにより、理事会・監事・会計監査人を設置することができる(一般法人法60条2項)。理事会を設置した一般社団法人は、監事を設置しなければならない(一般法人法61条)。
また、最終の事業年度の貸借対照表上の負債の部の計上額が200億円以上である大規模一般社団法人(一般法人法2条2号)は、会計監査人を設置しなければならない(一般法人法62条)。
理事、監事および会計監査人は、社員総会によって選任され(一般法人法63条1項)、その任期はおおむね理事が2年、監事が4年、会計監査人が1年である(一般法人法66条・67条1項、69条1項)。ただし、会計監査人には、みなし再任規定の適用がある(一般法人法69条2項)。
▷ 税務・会計について
1 公益認定を受けていなければ株式会社に準じた処理が可能
公益認定を受けていない場合あるいは旧公益法人からの移行法人以外は、企業会計に準じた会計処理が可能である。極論すれば、一般的には、運用次第で、市販の株式会社向け会計ソフトを流用することも可能である。ただし、運用上の注意点があるため、税務・会計の専門家の助言を受けておくことをお勧めする。
これに対して、公益認定を受けている場合には、公益法人会計基準に準拠した処理を行うことが必要である。科目処理・財務諸表名称も独特であり、公益目的事業会計・収益事業等会計・法人会計の区分を設けて処理を行うなどの特徴がある。対応した市販ソフトを購入すると、それなりに高額である。本稿では、公益認定を受けている場合の処理については、これ以上触れない。
2 一般社団法人・一般財団法人には出資持分の定めがないため、純資産の部が全く異なる
(1) 会計
公益認定を受けていない場合、基本的には、企業会計と同様の処理が可能である。ただし、一般社団法人・一般財団法人には、出資の受入れ勘定である資本金が存在しない。そのため、資本金勘定あるいは準備金勘定は存在しない。
ここで注意すべきは、一般社団法人に限り、基金勘定が存在していることである。この基金は、劣後債務であるため、純資産の部に表示されることになる。しかし、基金は資本金とは全く異質である。情報調査機関などのレポートなどでは、ときに、この基金額を資本金額として表示している例があるが、間違いである。
(2) 税務(法人税)
法人税計算では、会計同様、資本金の額がないことに加え、税務上の拠出資本を表わす資本金等の額が存在しないことになる。税務上の純資産額は、利益積立金額のみになる。
ここで所得計算は、その法人が、特別の利益供与を行わないなどの一定の要件を充たす非営利型法人の場合または公益認定法人には、34業種の収益事業にのみ課税される。しかし、この要件を充たさなければ、株式会社同様に、すべての所得に課税が行われる。34業種の収益事業は、公益認定における収益等事業とは全く別個の法人税法の概念であるが、混同しがちであり注意が必要である。
なお、実務的には、この税務上の収益事業を把握するために、会計上の部門別会計を利用するなどの工夫が行われるのが一般的である。
(3) 税務(消費税)
消費税計算では、課税事業者となる場合の仕入税額控除において、株式会社と異なる特殊規定がある。会費などの対価性のない収入額について、特別な計算が必要になる。
(4) 税務(相続税・贈与税)
一般社団法人・一般財団法人が所有する財産には、現行法上、相続税が課されない。このため、個人からの財産移転における租税回避防止規定が用意されているが、本稿では、存在の指摘に留める。
3 純資産規定が異なることが影響する項目に注意する
(1) 資本金
法人税法においては、交際費限度額計算や中小企業税制において、資本金基準が存在するが、これらについて、別途規定により計算することになる。また、消費税法における小規模免税規定における資本金額基準も発動しない。繰り返すが、基金は、資本金ではない。
(2) 資本金等の額
寄附金限度額計算において、資本金等の額を用いる計算は使えない。また、地方税均等割計算における基準でも同様である。なお、人数計算は不要であるが、地方公共団体によっては、誤解している例があるようなので、注意が必要である。
▷ 具体的な活用事例
一般社団法人の活用事例としては、事業承継に向けた株式の保有法人としての活用方法、検定試験などの制度普及に向けた団体の受け皿としての活用などの活用が実際になされている。
一般社団法人の出資持分がない、登記のみでできるという特徴を生かした活用が広がっている。
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。