公開日: 2016/05/12 (掲載号:No.168)
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会社法施行後10年経過に関する「役員変更登記」の実務 【第1回】「役員の任期管理を放置した場合のリスク」

筆者: 本橋 寛樹

会社法施行後10年経過に関する

「役員変更登記」の実務

【第1回】

「役員の任期管理を放置した場合のリスク」

 

司法書士法人F&Partners
司法書士 本橋 寛樹

 

-はじめに-

平成18年5月1日に会社法(平成17年法律86号)が施行され、株式会社の役員(取締役、会計参与、監査役をいう。以下、同じ)の任期を、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名等委員会設置会社を除く)は、定款の定めによって最長で選任後10年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができるようになった(会社法332条2項・336条2項)。つまり、役員の任期を伸長してから役員の顔ぶれに変わりがなく、その他の登記事項に変更がなければ、最長で約10年間、登記手続をする必要がないこととなる。

そして本年(平成28年)5月に会社法施行から10年を迎えるため、会社法施行後に役員の任期を最長の期間に伸長した株式会社であっても、役員の任期が満了し、役員の改選及びその登記手続を行う必要が生じることになる。

そこで本稿では、企業の法務・総務担当者や会社法実務に携わる公認会計士・税理士を主な対象として、役員の任期管理を今一度、確認することとしたい。特に、役員の任期を伸長し、前回の登記手続から間隔のあいた株式会社をモデルケースとして、平成27年施行の改正会社法や改正商業登記規則を踏まえ、役員変更登記の実務に関するポイントを2回にわたってお伝えしていきたい。

 

役員の任期管理を怠る不利益とは

役員の任期が適切に管理されていれば、任期満了に伴って改選決議を行い、その役員変更登記手続を行うことになる。しかし、任期管理を怠ると、役員の任期満了の時期を把握することができず、改選決議や役員変更登記手続に着手できない。一定の期間登記手続をしないと、会社は思わぬ不利益を被ってしまうことになる。

以下は、事業活動を継続する株式会社を対象として、株式会社の役員の任期管理を放置するとどのような事態となるかを考察してみたい。

〈ステージ①〉
(登記事項の変更事由発生2週間経過後)
過料制裁のおそれ
  ↓
〈ステージ②〉
(最後の登記から12年経過)
みなし解散による事業継続の危機
  ↓
〈ステージ③〉
(みなし解散後3年経過)
会社継続の是非

 

〈ステージ①〉
過料制裁のおそれ

登記期間は、原則として登記事項に変更の事由が発生してから2週間以内である(会社法915条)。例えば、取締役の任期満了による変更登記の場合、任期満了日から2週間以内に登記手続を行う必要がある。期間を遵守しなかった場合には過料に処せられるおそれが生じる(会社法976条1号)。

登記官が過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときには、遅滞なくその事件を管轄裁判所に通知する(商業登記規則118条)。管轄裁判所は、会社の本店所在場所ではなく、登記記録上の代表者個人の住所地である(非訴訟事件手続法119条)。複数の代表者がいる場合には、各代表者の住所地を管轄する地方裁判所に通知する。管轄裁判所からは会社代表者の住所地に過料通知がなされる。

一般的に、登記期間を徒過する期間が長ければ長いほど過料に処せられる可能性が高まり、過料の金額も大きくなる傾向にあるが、その期間や金額の基準は明らかにされていない。なお、過料には時効がないため、登記申請義務を果たさない限り、過料の制裁から逃れることができない。

【過料制裁の流れ】

登記期間経過後の登記申請
   ↓
登記官から管轄裁判所に過料事件として通知
   ↓
管轄裁判所から会社代表者に過料通知

▷登記期間徒過による不利益

(ⅰ) 会社代表者が過料に処せられるおそれがある。なお、過料は経費として損金に計上できない。

(ⅱ) 登記記録上、登記期間を遵守していないことが読み取れるため、第三者からコンプライアンス意識や管理体制が不十分である印象を与えてしまうおそれがある。

(ⅲ) みなし解散のリスクが高まる。

 

〈ステージ②〉
みなし解散による事業継続の危機

毎年1回、法務大臣より、株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過した株式会社を対象に、2ヶ月以内に「まだ事業を廃止していない旨の届出」がなく、登記手続もされないときには、解散したものとみなされる旨の公告がなされる。あわせて本店所在場所を管轄する登記所から法務大臣による官報公告が行われた旨の通知が送付される。

2ヶ月の期間内に登記所に「まだ事業を廃止していない旨の届出」をするか、又は登記手続をしない限り、登記官の職権によりみなし解散の登記がなされる(会社法472条)。「12年」の年数は、株式会社にあっては、役員の任期を最長の10年に伸長したとしても少なくとも10年に1回は登記手続をしなければならないことに起因する。

なお、登記所からの通知は、登記記録上の本店所在場所に「普通郵便」でなされる。対面受取ではないため、他の郵便物と紛れてしまうなど、見過ごすおそれがある。また、当該通知が何らかの理由で届かない場合であっても、不着を理由に届出期間の伸長はされない。

特に登記記録上の本店所在場所が実際の本店機能を備える場所と異なっている場合には、郵便物の管理に注意を要する。

【みなし解散登記までの流れ】

登記官による該当会社の抽出
   ↓
法務大臣による官報公告・登記所からの個別通知
   ↓
登記官の職権によるみなし解散登記

▷みなし解散登記による不利益

(ⅰ) 会社の目的が清算に関するものに限定されるため事業活動が制限される(会社法476条)。

(ⅱ) 合併の存続会社、分割の承継会社になることができず(会社法474条)、株式交換や株式移転の当事会社になることができない(会社法509条1項3号)。

(ⅲ) 代表者の会社印鑑証明書を取得することができなくなる。

一方で、「まだ事業を廃止していない旨の届出」をし、又は役員変更等の登記手続をした株式会社については、みなし解散を回避できるが、登記官が裁判所に過料事件の通知をすることとなるため、過料の制裁は免れない(商業登記規則第118条)。

 

〈ステージ③〉
会社継続の是非

みなし解散の登記がなされたが、事業を継続する場合には、みなし解散の登記後3年以内に限り、株主総会の特別決議によって、会社を継続することができる(会社法473条)。

ただし、会社継続をしても、将来に向かって会社を解散前の状態に復帰させるのであって、みなし解散の経過は登記記録に残ることになる。また、解散前の取締役が当然に復帰するわけではなく、会社継続を決議する株主総会において取締役を選任しなおさなければならない。

【みなし解散後、会社継続登記の流れ】

会社継続の決議
   ↓
会社継続の登記
  ↓
登記官から管轄裁判所に過料事件として通知
   ↓
管轄裁判所から会社代表者に過料通知

一方で、みなし解散後3年経過すると、会社継続さえもできなくなるため、清算に関する範囲を超えて事業活動をすることができなくなる。

▷会社継続による不利益

(ⅰ) 登記記録上、みなし解散、清算人選任、会社継続の記載がされ、その後の取引等に支障がでるおそれがある。

(ⅱ) 会社継続登記の場合、新たに役員の選任や機関設計に関する登記手続、定款の整備等をする必要がある。登記にかかる登録免許税は、少なくとも会社継続で金3万円、役員変更で金3万円(資本金の額が金1億円以下の場合、金1万円)がかかる。加えて取締役会設置の場合、さらに金3万円加算される(登録免許税別表第一の24号(一)ソ、カ、ワ)。
司法書士等の資格者代理人に依頼する場合は、別途報酬を支払う必要がある。登記費用節約の観点から役員の任期を伸長した場合、かえって登記費用や過料を負担する結果を招いてしまうおそれがある。

 

まずは役員の任期の確認を

以上のとおり、適法な時期に適法な登記手続をしない期間が経過すればするほど、過料の負担や登記記録上の公示上の問題、会社の事業活動が制限されるといった様々な不都合が生じる。

特に任期を伸長して前回の登記手続から日が経っている株式会社は、自社の役員の任期が満了する時期がいつであるのか、それともすでに役員の任期が満了しており、改選とその登記手続をする必要があるのかを確認すべきである。

もし役員の任期が満了し、改選とその登記手続を行う場合、会社法・商業登記規則の改正による事項もあわせて検討する必要がある。

次回(5/19公開)は、自社で行う役員改選の登記のポイントについて確認していく。

(了)

会社法施行後10年経過に関する

「役員変更登記」の実務

【第1回】

「役員の任期管理を放置した場合のリスク」

 

司法書士法人F&Partners
司法書士 本橋 寛樹

 

-はじめに-

平成18年5月1日に会社法(平成17年法律86号)が施行され、株式会社の役員(取締役、会計参与、監査役をいう。以下、同じ)の任期を、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名等委員会設置会社を除く)は、定款の定めによって最長で選任後10年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができるようになった(会社法332条2項・336条2項)。つまり、役員の任期を伸長してから役員の顔ぶれに変わりがなく、その他の登記事項に変更がなければ、最長で約10年間、登記手続をする必要がないこととなる。

そして本年(平成28年)5月に会社法施行から10年を迎えるため、会社法施行後に役員の任期を最長の期間に伸長した株式会社であっても、役員の任期が満了し、役員の改選及びその登記手続を行う必要が生じることになる。

そこで本稿では、企業の法務・総務担当者や会社法実務に携わる公認会計士・税理士を主な対象として、役員の任期管理を今一度、確認することとしたい。特に、役員の任期を伸長し、前回の登記手続から間隔のあいた株式会社をモデルケースとして、平成27年施行の改正会社法や改正商業登記規則を踏まえ、役員変更登記の実務に関するポイントを2回にわたってお伝えしていきたい。

 

役員の任期管理を怠る不利益とは

役員の任期が適切に管理されていれば、任期満了に伴って改選決議を行い、その役員変更登記手続を行うことになる。しかし、任期管理を怠ると、役員の任期満了の時期を把握することができず、改選決議や役員変更登記手続に着手できない。一定の期間登記手続をしないと、会社は思わぬ不利益を被ってしまうことになる。

以下は、事業活動を継続する株式会社を対象として、株式会社の役員の任期管理を放置するとどのような事態となるかを考察してみたい。

〈ステージ①〉
(登記事項の変更事由発生2週間経過後)
過料制裁のおそれ
  ↓
〈ステージ②〉
(最後の登記から12年経過)
みなし解散による事業継続の危機
  ↓
〈ステージ③〉
(みなし解散後3年経過)
会社継続の是非

 

〈ステージ①〉
過料制裁のおそれ

登記期間は、原則として登記事項に変更の事由が発生してから2週間以内である(会社法915条)。例えば、取締役の任期満了による変更登記の場合、任期満了日から2週間以内に登記手続を行う必要がある。期間を遵守しなかった場合には過料に処せられるおそれが生じる(会社法976条1号)。

登記官が過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときには、遅滞なくその事件を管轄裁判所に通知する(商業登記規則118条)。管轄裁判所は、会社の本店所在場所ではなく、登記記録上の代表者個人の住所地である(非訴訟事件手続法119条)。複数の代表者がいる場合には、各代表者の住所地を管轄する地方裁判所に通知する。管轄裁判所からは会社代表者の住所地に過料通知がなされる。

一般的に、登記期間を徒過する期間が長ければ長いほど過料に処せられる可能性が高まり、過料の金額も大きくなる傾向にあるが、その期間や金額の基準は明らかにされていない。なお、過料には時効がないため、登記申請義務を果たさない限り、過料の制裁から逃れることができない。

【過料制裁の流れ】

登記期間経過後の登記申請
   ↓
登記官から管轄裁判所に過料事件として通知
   ↓
管轄裁判所から会社代表者に過料通知

▷登記期間徒過による不利益

(ⅰ) 会社代表者が過料に処せられるおそれがある。なお、過料は経費として損金に計上できない。

(ⅱ) 登記記録上、登記期間を遵守していないことが読み取れるため、第三者からコンプライアンス意識や管理体制が不十分である印象を与えてしまうおそれがある。

(ⅲ) みなし解散のリスクが高まる。

 

〈ステージ②〉
みなし解散による事業継続の危機

毎年1回、法務大臣より、株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過した株式会社を対象に、2ヶ月以内に「まだ事業を廃止していない旨の届出」がなく、登記手続もされないときには、解散したものとみなされる旨の公告がなされる。あわせて本店所在場所を管轄する登記所から法務大臣による官報公告が行われた旨の通知が送付される。

2ヶ月の期間内に登記所に「まだ事業を廃止していない旨の届出」をするか、又は登記手続をしない限り、登記官の職権によりみなし解散の登記がなされる(会社法472条)。「12年」の年数は、株式会社にあっては、役員の任期を最長の10年に伸長したとしても少なくとも10年に1回は登記手続をしなければならないことに起因する。

なお、登記所からの通知は、登記記録上の本店所在場所に「普通郵便」でなされる。対面受取ではないため、他の郵便物と紛れてしまうなど、見過ごすおそれがある。また、当該通知が何らかの理由で届かない場合であっても、不着を理由に届出期間の伸長はされない。

特に登記記録上の本店所在場所が実際の本店機能を備える場所と異なっている場合には、郵便物の管理に注意を要する。

【みなし解散登記までの流れ】

登記官による該当会社の抽出
   ↓
法務大臣による官報公告・登記所からの個別通知
   ↓
登記官の職権によるみなし解散登記

▷みなし解散登記による不利益

(ⅰ) 会社の目的が清算に関するものに限定されるため事業活動が制限される(会社法476条)。

(ⅱ) 合併の存続会社、分割の承継会社になることができず(会社法474条)、株式交換や株式移転の当事会社になることができない(会社法509条1項3号)。

(ⅲ) 代表者の会社印鑑証明書を取得することができなくなる。

一方で、「まだ事業を廃止していない旨の届出」をし、又は役員変更等の登記手続をした株式会社については、みなし解散を回避できるが、登記官が裁判所に過料事件の通知をすることとなるため、過料の制裁は免れない(商業登記規則第118条)。

 

〈ステージ③〉
会社継続の是非

みなし解散の登記がなされたが、事業を継続する場合には、みなし解散の登記後3年以内に限り、株主総会の特別決議によって、会社を継続することができる(会社法473条)。

ただし、会社継続をしても、将来に向かって会社を解散前の状態に復帰させるのであって、みなし解散の経過は登記記録に残ることになる。また、解散前の取締役が当然に復帰するわけではなく、会社継続を決議する株主総会において取締役を選任しなおさなければならない。

【みなし解散後、会社継続登記の流れ】

会社継続の決議
   ↓
会社継続の登記
  ↓
登記官から管轄裁判所に過料事件として通知
   ↓
管轄裁判所から会社代表者に過料通知

一方で、みなし解散後3年経過すると、会社継続さえもできなくなるため、清算に関する範囲を超えて事業活動をすることができなくなる。

▷会社継続による不利益

(ⅰ) 登記記録上、みなし解散、清算人選任、会社継続の記載がされ、その後の取引等に支障がでるおそれがある。

(ⅱ) 会社継続登記の場合、新たに役員の選任や機関設計に関する登記手続、定款の整備等をする必要がある。登記にかかる登録免許税は、少なくとも会社継続で金3万円、役員変更で金3万円(資本金の額が金1億円以下の場合、金1万円)がかかる。加えて取締役会設置の場合、さらに金3万円加算される(登録免許税別表第一の24号(一)ソ、カ、ワ)。
司法書士等の資格者代理人に依頼する場合は、別途報酬を支払う必要がある。登記費用節約の観点から役員の任期を伸長した場合、かえって登記費用や過料を負担する結果を招いてしまうおそれがある。

 

まずは役員の任期の確認を

以上のとおり、適法な時期に適法な登記手続をしない期間が経過すればするほど、過料の負担や登記記録上の公示上の問題、会社の事業活動が制限されるといった様々な不都合が生じる。

特に任期を伸長して前回の登記手続から日が経っている株式会社は、自社の役員の任期が満了する時期がいつであるのか、それともすでに役員の任期が満了しており、改選とその登記手続をする必要があるのかを確認すべきである。

もし役員の任期が満了し、改選とその登記手続を行う場合、会社法・商業登記規則の改正による事項もあわせて検討する必要がある。

次回(5/19公開)は、自社で行う役員改選の登記のポイントについて確認していく。

(了)

連載目次

「会社法施行後10年経過に関する「役員変更登記」の実務」(全2回)

筆者紹介

本橋 寛樹

(もとはし・ひろき)

司法書士

東京都出身
平成23年3月 早稲田大学社会科学部社会科学科卒
平成24年10月 司法書士試験合格
東京都内の司法書士法人に勤務、相続・商業登記を中心に実務経験を積む
平成28年3月 司法書士法人F&Partners入所

【事務所】
司法書士法人F&Partners(東京事務所)
〒101-0038
東京都千代田区神田美倉町10番地 喜助新神田ビル2階
TEL:03-6265-6493
FAX:03-6265-6497
URL:http://www.256.co.jp/

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弁護士 辺見 紀男、弁護士 武井 洋一、税理士・公認会計士 山田 美代子 編集代表  弁護士 ?田 由貴、弁護士 岸本 寛之、弁護士 畑中 淳子、弁護士 平井 智子、弁護士 川見 友康、社会保険労務士 椎野 登貴子、司法書士 高津 笑、行政書士 鈴木 康子 編集委員

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