公開日: 2022/09/01 (掲載号:No.484)
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〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第1回】「リース取引の定義」~“レンタル”や“購入”との違い~

筆者: 喜多 弘美

〈一から学ぶ〉

リース取引会計税務

【第1回】

「リース取引の定義」

~“レンタル”や“購入”との違い~

 

公認会計士・税理士
喜多 弘美

 

◆「リース」ってなに?

経理の仕事をしていると、「リース」という言葉を聞くことがありませんか?

「これはリースだから会計処理に注意してね。」

筆者が新卒で経理の仕事をしていた時、資料を持った上司からそう声をかけられました。

当時、筆者は固定資産の担当で、固定資産台帳の登録や固定資産に関する会計伝票を作成する必要がありました。
この記事を読んでくださっている方には、同じような経験をされている方がいらっしゃると思います。

本連載では、当時の筆者のようにまだリース取引になじみのない経理実務担当者の方やリース取引について一から学びたい方を対象に、リース取引の会計と税務の基礎を解説していく連載となっています。

【第1回】となる今回は、リース取引の定義を確認し、レンタルや購入との違いを具体的に見ていきます。

(1) リース取引の定義

企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の第4項では、リース取引を以下のとおり定義しています。

「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引をいう。

レッサー? レッシー・・・?

難しく書いてありますが、簡単に言うと、リース取引は「貸手と借手が約束した期間にわたり、物件を賃貸借する取引」です。

一般的に英語のリース(lease)は「賃貸借」を意味し、上記のリース取引よりも意味が大きくなります。つまり、リース(lease)の中にリース取引が入っているイメージです。

《リース取引の定義のイメージ》

(2) リース取引とレンタルの違い

「リース」と「レンタル」は、一見すると同じ意味のように思えます。
確かにリース取引もレンタルも賃貸借取引になりますが、実は以下のような違いがあります。

  • 対象物件
    リース取引では対象物件を借手が選び、機械装置・器具備品など物件も幅広いです。一方、レンタルは繰り返し使える汎用性が高いものが対象となり、貸手が選んで所有しているものが対象となります。
  • 契約期間
    一般的にリース取引は2年以上の長期間になることが多く、レンタルは半日・1週間程度、長くて数ヶ月になることがほとんどです。
  • 借手
    リース取引の場合は、事業者が多く、レンタルの場合は事業者だけでなく、取引によっては個人が借手になることもあります。
  • 保守管理
    リース取引の場合は、借手自身が管理責任を負うことが多く(リース会社に任せることもできます)、レンタルの場合は、貸手が管理責任を負うことが多いです。
  • 所有権
    どちらも貸手(リース取引の場合はリース会社、レンタルの場合はレンタル会社)に所有権があります。
  • 契約満了時の処理
    リース取引の場合も、レンタルの場合も、終了すると物件は貸手に返還されます。ただし、リース取引の場合は契約内容によって契約満了時に借手が買い取る場合もあります。
このように、リース取引とレンタルの大きな違いは、「物件を誰が選ぶか」と「契約期間の長短」です。

特にリース取引は借手が物件を選択するため、借手以外の人が必要としない特殊な機械装置などが対象になることがあります。そうすると借手以外の人が必要としないため、リース契約満了時に借手が安く買い取る権利を最初からつけている場合もあります。

一方で、レンタルの場合は汎用性が高いものが多く、借手が使った後も他の人が必要としている場合が多いです。レンタカーやレンタルCD・DVDがイメージしやすいでしょう。

(3) リース取引と購入(銀行借入、割賦販売)の違い

次に、リース取引と購入の違いを見ていきましょう。両者の一番大きな違いは所有権が誰にあるかです。リース取引はリース会社に、購入は買主に、それぞれ所有権があります。

特にリース取引とよく似ている購入方法は、割賦販売と銀行借入した資金で物件を購入する場合です。この3つはどれも、物件の耐用年数の全期間にわたり、物件使用者が対象物件を使用する可能性が高いです。また、支払いが一括ではなく一定期間にわたります。

具体的には、リース取引はリース会社に毎月定額を支払い、割賦販売では販売会社へ特定の金額を分割して支払い、銀行借入の場合は銀行から全額借入をした後に一定期間にわたり、銀行と決めた支払い方法で借入金を銀行へ返済することがほとんどです。

割賦販売の場合、所有権は買主にありますが、一般的に代金完済までは売主に所有権が留保されるので、所有権がリース会社にあるリース取引と少し近しいものになります。ただ一方で、契約満了時の処理については、リース取引が物件をリース会社へ返還するのに対し、割賦販売では所有権の留保が解除されて、所有権が買主に変わることになります。

また、銀行借入した資金で購入した場合とリース取引の大きな違いは担保の設定です。銀行借入の場合は、銀行に担保を提供するのが一般的ですが、リース取引でリース会社に担保を設定することはほとんどありません。そのため、銀行借入の場合は担保物件の調査などで契約を締結するまでに時間がかかる一方、リース取引は比較的短時間で契約を締結することが可能です。

リース取引・割賦販売・銀行借入した資金で購入する場合は、上記のとおり、それぞれ違いがありますが、三者が似ているのはどれもファイナンス(資金調達)の意味合いが強いからです。どれも自己資金で一括購入することが厳しい、又は、資金に余裕を持たせるためなど、資金繰りのために採用されることが多くなっています。

(了)

「〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務」は、毎月第1週に掲載されます。

〈一から学ぶ〉

リース取引会計税務

【第1回】

「リース取引の定義」

~“レンタル”や“購入”との違い~

 

公認会計士・税理士
喜多 弘美

 

◆「リース」ってなに?

経理の仕事をしていると、「リース」という言葉を聞くことがありませんか?

「これはリースだから会計処理に注意してね。」

筆者が新卒で経理の仕事をしていた時、資料を持った上司からそう声をかけられました。

当時、筆者は固定資産の担当で、固定資産台帳の登録や固定資産に関する会計伝票を作成する必要がありました。
この記事を読んでくださっている方には、同じような経験をされている方がいらっしゃると思います。

本連載では、当時の筆者のようにまだリース取引になじみのない経理実務担当者の方やリース取引について一から学びたい方を対象に、リース取引の会計と税務の基礎を解説していく連載となっています。

【第1回】となる今回は、リース取引の定義を確認し、レンタルや購入との違いを具体的に見ていきます。

(1) リース取引の定義

企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の第4項では、リース取引を以下のとおり定義しています。

「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引をいう。

レッサー? レッシー・・・?

難しく書いてありますが、簡単に言うと、リース取引は「貸手と借手が約束した期間にわたり、物件を賃貸借する取引」です。

一般的に英語のリース(lease)は「賃貸借」を意味し、上記のリース取引よりも意味が大きくなります。つまり、リース(lease)の中にリース取引が入っているイメージです。

《リース取引の定義のイメージ》

(2) リース取引とレンタルの違い

「リース」と「レンタル」は、一見すると同じ意味のように思えます。
確かにリース取引もレンタルも賃貸借取引になりますが、実は以下のような違いがあります。

  • 対象物件
    リース取引では対象物件を借手が選び、機械装置・器具備品など物件も幅広いです。一方、レンタルは繰り返し使える汎用性が高いものが対象となり、貸手が選んで所有しているものが対象となります。
  • 契約期間
    一般的にリース取引は2年以上の長期間になることが多く、レンタルは半日・1週間程度、長くて数ヶ月になることがほとんどです。
  • 借手
    リース取引の場合は、事業者が多く、レンタルの場合は事業者だけでなく、取引によっては個人が借手になることもあります。
  • 保守管理
    リース取引の場合は、借手自身が管理責任を負うことが多く(リース会社に任せることもできます)、レンタルの場合は、貸手が管理責任を負うことが多いです。
  • 所有権
    どちらも貸手(リース取引の場合はリース会社、レンタルの場合はレンタル会社)に所有権があります。
  • 契約満了時の処理
    リース取引の場合も、レンタルの場合も、終了すると物件は貸手に返還されます。ただし、リース取引の場合は契約内容によって契約満了時に借手が買い取る場合もあります。

このように、リース取引とレンタルの大きな違いは、「物件を誰が選ぶか」と「契約期間の長短」です。

特にリース取引は借手が物件を選択するため、借手以外の人が必要としない特殊な機械装置などが対象になることがあります。そうすると借手以外の人が必要としないため、リース契約満了時に借手が安く買い取る権利を最初からつけている場合もあります。

一方で、レンタルの場合は汎用性が高いものが多く、借手が使った後も他の人が必要としている場合が多いです。レンタカーやレンタルCD・DVDがイメージしやすいでしょう。

(3) リース取引と購入(銀行借入、割賦販売)の違い

次に、リース取引と購入の違いを見ていきましょう。両者の一番大きな違いは所有権が誰にあるかです。リース取引はリース会社に、購入は買主に、それぞれ所有権があります。

特にリース取引とよく似ている購入方法は、割賦販売と銀行借入した資金で物件を購入する場合です。この3つはどれも、物件の耐用年数の全期間にわたり、物件使用者が対象物件を使用する可能性が高いです。また、支払いが一括ではなく一定期間にわたります。

具体的には、リース取引はリース会社に毎月定額を支払い、割賦販売では販売会社へ特定の金額を分割して支払い、銀行借入の場合は銀行から全額借入をした後に一定期間にわたり、銀行と決めた支払い方法で借入金を銀行へ返済することがほとんどです。

割賦販売の場合、所有権は買主にありますが、一般的に代金完済までは売主に所有権が留保されるので、所有権がリース会社にあるリース取引と少し近しいものになります。ただ一方で、契約満了時の処理については、リース取引が物件をリース会社へ返還するのに対し、割賦販売では所有権の留保が解除されて、所有権が買主に変わることになります。

また、銀行借入した資金で購入した場合とリース取引の大きな違いは担保の設定です。銀行借入の場合は、銀行に担保を提供するのが一般的ですが、リース取引でリース会社に担保を設定することはほとんどありません。そのため、銀行借入の場合は担保物件の調査などで契約を締結するまでに時間がかかる一方、リース取引は比較的短時間で契約を締結することが可能です。

リース取引・割賦販売・銀行借入した資金で購入する場合は、上記のとおり、それぞれ違いがありますが、三者が似ているのはどれもファイナンス(資金調達)の意味合いが強いからです。どれも自己資金で一括購入することが厳しい、又は、資金に余裕を持たせるためなど、資金繰りのために採用されることが多くなっています。

(了)

「〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務」は、毎月第1週に掲載されます。

連載目次

〈一から学ぶ〉

リース取引の会計税務

令和5年5月2日付でASBJより企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等が公表されましたが、本連載は改正前(現行)制度のおさらいを行うことも目的としていますので、原則、上記改正基準案については取り上げていません。

筆者紹介

喜多 弘美

(きた・ひろみ)

公認会計士・税理士

喜多弘美公認会計士税理士事務所 所長

神戸大学経済学部、甲南会計大学院卒業。

2010年公認会計士試験論文試験合格後、上場会社経理部に所属し、固定資産・消費税を担当。その後、大手監査法人で会計監査、グループ会社で内部監査・人事に携わる。2020年4月から個人事務所を開業し、会計システム導入支援・記帳代行に従事。2020年11月税理士登録。

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