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〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例18】株式会社大戸屋ホールディングス 「第34回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」(2017.6.29)

筆者:鈴木 広樹

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〔検証〕

適時開示からみた企業実態

【事例18】

株式会社大戸屋ホールディングス

「第34回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」

(2017.6.29)

 

事業創造大学院大学 准教授
鈴木 広樹

 

1 今回の適時開示

今回取り上げる適時開示は、株式会社大戸屋ホールディングス(以下「大戸屋」という)が平成29年6月29日に開示した「第34回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」である。

同社は、平成29年5月10日、従業員等に対してストックオプションを付与するという内容の「ストックオプション(新株予約権)の付与に関するお知らせ」を開示していた。そのストックオプションの付与が、平成29年6月28日開催の定時株主総会において否決されたのである(翌日の平成29年6月29日ではなく平成29年6月28日中に開示すべきであったが)。

 

2 可決された議案

大戸屋は、平成29年5月10日、「ストックオプション(新株予約権)の付与に関するお知らせ」とともに「創業者功労金の贈呈に伴う特別損失の計上に関するお知らせ」も開示している。創業者功労金として2億円を支払うという内容だが、その決定理由として次のような記載がある。

故三森久実氏は、昭和52年4月に当社の前身である大戸屋食堂の事業を承継して以来、実質創業者として39年にわたり当社グループの発展に大きな貢献をされました。当社は同氏の功績と在任中の労に報いるために創業者功労金を贈呈したく考えております。

同社の創業者の「功績と在任中の労に報いる」ことが目的だが、「故三森久実氏」とあるとおり、その創業者は故人である。この創業者功労金は、創業者本人に対してではなく、創業者の遺族に対して支払われるものなのである。

この創業者功労金の支払いも、平成29年6月28日開催の定時株主総会に付議されたが、こちらは可決された。

 

3 鍵を握っていたのは

なぜ、創業者本人ではなくその遺族に対する創業者功労金の支払いという、疑問符が付きそうな議案が可決され、従業員等に対するストックオプションの付与が否決されたのだろうか。

鍵を握っていたのは、おそらく創業者の遺族だろう。

創業者の遺族は、大戸屋の株式を約2割保有している。約2割しか保有していないのであれば、その株主総会での影響力は限定的に見えるが、そうとは限らない。株主総会に出席した株主の数によって変わってくる。

株主総会における普通決議は、総議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席株主の過半数の議決権により、特別決議は、総議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席株主の3分の2以上の議決権により可決される。

今回の株主総会において、創業者功労金の支払いは普通決議が、ストックオプションの付与は特別決議が必要な議案だった。出席株主の数によっては、創業者の遺族が、創業者功労金の支払いを可決に、ストックオプションの付与を否決に導く上で強い影響力を持ち得たのである。

 

4 なぜストックオプションの付与に反対したのか

創業者の遺族が、自分達に対する創業者功労金の支払いに賛成するのは容易に理解できる。しかし、ストックオプションの付与に反対する理由はどうだろうか。

ストックオプションは、経営者や従業員と株主の利害を一致させることを目的とするものである。「ストックオプション(新株予約権)の付与に関するお知らせ」には、付与理由として次のような記載がある。従業員等のやる気が高まり、会社の業績そして株価が向上すれば、従業員等と株主の双方に利益がもたらされることになる。

当社の連結業績向上に対する貢献意欲や士気を一層高めるとともに、企業価値の向上を目指した経営を一層推進することを目的とし、当社執行役員及び従業員ならびに当社子会社取締役、執行役員及び従業員に対して新株予約権を次の要領により発行するものであります。

詳細は、大戸屋が平成28年10月3日に発表した第三者委員会調査報告書を参照していただきたいが、創業者の遺族は、同社の経営に関与したいという意向を持っていた。ストックオプションが付与された場合、その行使により株式が発行され、自分達の議決権比率が低下し、同社への影響力が小さくなってしまう可能性がある。それを懸念して、ストックオプションの付与に反対したという推測は成り立つだろう。

もとより、創業者の遺族だからという理由だけで上場会社の経営に関与することなど、認められるはずがない。ましてや、もしも従業員への配慮を忘れ、自分達の利益のためだけにストックオプションの付与を否決に導いたのならば、絶対に認められないだろう。そうだとしたら、同社の株式を即刻売却し、同社との関係を一切絶つべきだろう。

(了)

「〔検証〕適時開示からみた企業実態」は、毎月第4週に掲載されます。

連載目次

〔検証〕 適時開示からみた企業実態

【事例1】~【事例10】

  • 【事例1】
    株式会社東芝「当社子会社であるウェスチングハウス社に係るのれんの減損について(2015.11.17)」
  • 【事例2】
    セーラー万年筆株式会社「代表取締役および役員の異動に関するお知らせ(2015.12.12)」
  • 【事例3】
    AppBank株式会社「過年度に係る決算短信等(一部訂正)の公表について(2016.2.17)」
  • 【事例4】
    クックパッド株式会社「代表執行役の異動に関するお知らせ(2016.3.24)」
  • 【事例5】
    株式会社小僧寿し「平成27年12月期通期連結業績予想と実績値との差異に関するお知らせ(2016.2.17)」
  • 【事例6】
    株式会社シャープ「ストック・オプション(新株予約権)の割当てに関するお知らせ(2016.5.12)」
  • 【事例7】
    アキュセラ・インク「ドライ型加齢黄斑変性治療薬候補『エミクススタト塩酸塩』の 臨床第2b/3相試験におけるトップラインデータについて(2016.5.26)」
  • 【事例8】
    ソフトバンクグループ株式会社「代表取締役の異動(退任)に関するお知らせ(2016.6.21)」
  • 【事例9】
    株式会社王将フードサービス「『第三者委員会調査報告書提言に対する当社取り組みについて』 の報告終了に関するお知らせ(2016.8.12)」
  • 【事例10】
    株式会社ピーシーデポコーポレーション「弊社プレミアムサービスご契約のお客様対応に関するお知らせ(2016.8.17)」

【事例11】~

  • 【事例11】
    株式会社東芝「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について(2016.12.27)」
  • 【事例12】
    株式会社デジタルデザイン「臨時株主総会の開催日並びに基準日の変更に関するお知らせ」(2017.1.6)」
  • 【事例13】
    株式会社あみやき亭「平成29年3月期第3四半期決算短信」(2017.1.4)
  • 【事例14】
    クックパッド株式会社「平成28年12月期決算短信」(2017.2.9)
  • 【事例15】
    株式会社フュートレック「監査等委員会設置会社への移行中止に関するお知らせ」(2017.4.21)
  • 【事例16】
    株式会社東芝「2016年度通期業績見通しに関するお知らせ」(2017.5.15)
  • 【事例17】
    ソレキア株式会社「佐々木ベジ氏による当社株券に対する公開買付けの結果並びに主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」(2017.5.24)
  • 【事例18】
    株式会社大戸屋ホールディングス「第34回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」(2017.6.29)
  • 【事例19】
    出光興産株式会社「株主による新株式発行の差止め仮処分の申立てに関するお知らせ」(2017.7.5)
  • 【事例20】
    日東紡績株式会社「相談役および特別顧問制度の廃止について」(2017.2.24)
  • 【事例21】 1/25公開
    株式会社東芝「当社株式の特設注意市場銘柄及び監理銘柄(審査中)の指定解除に関するお知らせ」(2017.10.11)
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筆者紹介

  • 鈴木 広樹

    (すずき・ひろき)

    事業創造大学院大学 准教授

    1995年早稲田大学政治経済学部卒業。
    証券会社勤務等を経て、2010年より事業創造大学院大学准教授。

    【主著】
    『タイムリー・ディスクロージャー(適時開示)の実務』税務研究会
    『株式投資に活かす適時開示』国元書房
    『株式投資の基本-伸びる会社がわかる財務諸表の読み方』税務経理協会
    検証・裏口上場-不適当合併等の事例分析』清文社
    『適時開示実務入門』同文舘
    税務コンプライアンスの実務』(共著) 清文社

関連書籍

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