公開日: 2015/12/24 (掲載号:No.150)
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実務家による実務家のためのブックガイド -No.1- 井ノ上陽一 著『ひとり税理士の仕事術』

筆者: 米澤 勝

カテゴリ:

※この記事は会員以外の方もご覧いただけます。

実務家による実務家のための

ブックガイド

-No.1-

井ノ上陽一 著

『ひとり税理士の仕事術』

 

〈評者〉
税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

私も「ひとり税理士」である。職員を雇う予定もなければ、規模を拡大する気持ちもない。おそらく、本書の著者である井ノ上陽一氏に、考え方はかなり近い。とはいえ、共感できない部分も少なくはない。

たとえば、著者は、「はしがき」の中で、「ひとり税理士を提唱する理由」として、次の3つを挙げている。

 お客様のため
 税理士業界のため
 自分自身のため

わが身に置き換えて考えてみると、「 自分自身のため」という理由が最も近いのではあるが、その中身は、著者の主張する「人件費をまかないきれなくなる可能性もある」ことではなく、「一人でいることがもっとも楽だ」ということに尽きる。「お客様」や「税理士業界」のことを思って、「ひとり税理士」という形態を選んだわけではない。

そうした相違点もまた、読んでいて面白いところである。

著者の文章の特徴を一言で表せば、センテンスが短く、難しい言葉を使わないで、どんどん読ませるという点にある。本書は250ページ余りの体裁であるが、私は、90分くらいで読んでしまった。それだけのスピードで読んでいても、記憶に残るフレーズが随所に現れる。

130項目にわたる仕事術+「独立を後押しするナインストーリー」の中で、印象に残ったフレーズをいくつか。

  • 「仕事」ではなく、「人」=「自分」で評価されることを目指す
  • 季節性のない仕事を増やす努力
  • 「徹夜明けの医者に手術をしてもらいたか?」
  • 税務会計ソフトを使う=IT化と考えてはいけない
  • 勉強にならない仕事はさけるべき

基本的には税理士業務に直接結びついた「仕事術」が多く紹介されているのだが、会社員の読者にとっても、仕事をするうえで参考になる考え方も数多く示されている。また、読み進むうちに、著者のストイックさに驚かされる場面も少なくない。

最後に、「税理士事務所の経験なしに独立できる?」という項目について、私の見解を少し。

著者は、この問いに対し、「税理士事務所に勤務しないと経験できないことがある」ことをデメリットとして挙げたうえで、「変なクセ」「古い慣習や固定観念」にとらわれないだけゼロベースで独立した方がいい部分も多い、と説明する。私も税理士事務所勤務経験がない状態での独立だったため、実務はまったくの手探りでスタートした。とはいえ、1年もすれば、たいていの経験はできるものである。そうした実感からも、著者の「仕事を必死にこなすことで、独立後に経験を積むことができる」という解説には大いに頷けるのであった。

試験勉強中の税理士志望者のみなさんがこの本を読めば、合格後の自分の生き方が具体的に見えてくることは間違いなく、それが勉強を続けるモチベーションになるのではないだろうか。また、組織で仕事をしている方(必ずしも税理士とは限らない)にとっては、自分の生き方を考え直すきっかけになるのではないだろうか。

ITの進化は、働き方をどんどん多様化している。税理士業界もまた、大きな変動期を迎えている。

そうした変動期に相応しい実務書として、本書をとりあげた次第である。

(了)

〔書籍情報〕

ひとり税理士の仕事術―雇われない・雇わない働き方 仕事も人生も楽しむ税理士

ひとり税理士の仕事術―雇われない・雇わない働き方 仕事も人生も楽しむ税理士

井ノ上 陽一

大蔵財務協会、2015年7月

ISBN:978-4754722388

Amazonで詳しく見る

 

「実務家による実務家のためのブックガイド」は不定期連載です。

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実務家による実務家のための

ブックガイド

-No.1-

井ノ上陽一 著

『ひとり税理士の仕事術』

 

〈評者〉
税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

私も「ひとり税理士」である。職員を雇う予定もなければ、規模を拡大する気持ちもない。おそらく、本書の著者である井ノ上陽一氏に、考え方はかなり近い。とはいえ、共感できない部分も少なくはない。

たとえば、著者は、「はしがき」の中で、「ひとり税理士を提唱する理由」として、次の3つを挙げている。

 お客様のため
 税理士業界のため
 自分自身のため

わが身に置き換えて考えてみると、「 自分自身のため」という理由が最も近いのではあるが、その中身は、著者の主張する「人件費をまかないきれなくなる可能性もある」ことではなく、「一人でいることがもっとも楽だ」ということに尽きる。「お客様」や「税理士業界」のことを思って、「ひとり税理士」という形態を選んだわけではない。

そうした相違点もまた、読んでいて面白いところである。

著者の文章の特徴を一言で表せば、センテンスが短く、難しい言葉を使わないで、どんどん読ませるという点にある。本書は250ページ余りの体裁であるが、私は、90分くらいで読んでしまった。それだけのスピードで読んでいても、記憶に残るフレーズが随所に現れる。

130項目にわたる仕事術+「独立を後押しするナインストーリー」の中で、印象に残ったフレーズをいくつか。

  • 「仕事」ではなく、「人」=「自分」で評価されることを目指す
  • 季節性のない仕事を増やす努力
  • 「徹夜明けの医者に手術をしてもらいたか?」
  • 税務会計ソフトを使う=IT化と考えてはいけない
  • 勉強にならない仕事はさけるべき

基本的には税理士業務に直接結びついた「仕事術」が多く紹介されているのだが、会社員の読者にとっても、仕事をするうえで参考になる考え方も数多く示されている。また、読み進むうちに、著者のストイックさに驚かされる場面も少なくない。

最後に、「税理士事務所の経験なしに独立できる?」という項目について、私の見解を少し。

著者は、この問いに対し、「税理士事務所に勤務しないと経験できないことがある」ことをデメリットとして挙げたうえで、「変なクセ」「古い慣習や固定観念」にとらわれないだけゼロベースで独立した方がいい部分も多い、と説明する。私も税理士事務所勤務経験がない状態での独立だったため、実務はまったくの手探りでスタートした。とはいえ、1年もすれば、たいていの経験はできるものである。そうした実感からも、著者の「仕事を必死にこなすことで、独立後に経験を積むことができる」という解説には大いに頷けるのであった。

試験勉強中の税理士志望者のみなさんがこの本を読めば、合格後の自分の生き方が具体的に見えてくることは間違いなく、それが勉強を続けるモチベーションになるのではないだろうか。また、組織で仕事をしている方(必ずしも税理士とは限らない)にとっては、自分の生き方を考え直すきっかけになるのではないだろうか。

ITの進化は、働き方をどんどん多様化している。税理士業界もまた、大きな変動期を迎えている。

そうした変動期に相応しい実務書として、本書をとりあげた次第である。

(了)

〔書籍情報〕

ひとり税理士の仕事術―雇われない・雇わない働き方 仕事も人生も楽しむ税理士

ひとり税理士の仕事術―雇われない・雇わない働き方 仕事も人生も楽しむ税理士

井ノ上 陽一

大蔵財務協会、2015年7月

ISBN:978-4754722388

Amazonで詳しく見る

 

「実務家による実務家のためのブックガイド」は不定期連載です。

連載目次

「実務家による実務家のためのブックガイド」

筆者紹介

米澤 勝

(よねざわ・まさる)

税理士・公認不正検査士(CFE)

1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

【著書】

・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

【寄稿】

・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

【セミナー・講演等】

一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

 

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