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実務家による実務家のための
ブックガイド
-No.3-
弥永真生 著
『リーガルマインド会社法』
〈評者〉
公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎
1 すべてのスタートは「会社は営利社団法人である」という一文から
会計基準、監査基準、租税法、会社法。私が業務を進めていくにあたり必要となる知識の4本柱である。程度の大小はあれ、これらの内容は相互関連性が高いため、常にキャッチアップしておかなければならない分野といえる。
ところで公認会計士試験には、「企業法」という科目が含まれている。企業法の分野には、会社法、商法(海商並びに手形及び小切手に関する部分を除く)、金融商品取引法(企業内容等の開示に関する部分に限る)及び監査を受けるべきこととされている組合その他の組織に関する法が含まれる。
とりわけ「会社法」は、企業法のなかで最も重要かつボリュームのある内容である。
私が受験生だった頃、会社法はまだ施行されておらず、昔の商法典の中に会社法が含まれていたのだが、商法の条文は漢字カタカナの文語体であり、句読点もなく、非常に苦戦していたのを思い出す。お恥ずかしい話だが、短答式試験で一度「足切り」をくらって不合格となったのも、この科目であった。
とにかく法律の学習が大の苦手だった当時、何とか克服しようと書店をさまよったなかで出会ったのが、今回ご紹介する弥永真生先生の『リーガルマインド会社法』(有斐閣)であった。現在は第14版が刊行されているが、私が最初に手に取ったのは改訂版。ボリュームも今よりだいぶ薄かったように思う。
私は本書を繰り返し読みあさり、制度趣旨や条文解釈について徹底的に書き殴り、会社法の体系を身体にたたき込んでいった。当時の改訂版はマーカーと書き込みでボロボロになり、全体的に変な色になってしまった。今思えば、気力と体力と記憶力が十分に備わっている学生だからこそできた所業であった。
私は、本書から会社法の基礎的な知識体系を得たと確信している。すべてのスタートは「会社は営利社団法人である」という一文から。これを単語ごとにぶった切っていく。「営利」「社団」「法人」。それぞれの単語ごとにどのような制度に発展していくか。どのような論点が含まれているのか。そのようなことをイメージしながら、頭の中で壮大な「地図」を作り上げていった。
制度を個別に学習するよりも、こうした「地図」を手に入れてから学習していったほうが遙かに効率が良いし、忘れにくいものである。
そして一旦マッピングできてしまえば、どのように問われても適切な解答を導き出すことができる。こうして最も苦手な科目を克服し、公認会計士第二次試験(当時)に合格することができた。
このような経緯から、会社法を学習したいと考えている読者には、是非本書をお勧めしたい。決して受験対策ということではなく、会社法をひととおり「ざっと」勉強したいという読者を念頭に、本稿を執筆した次第である。無論、受験対策としても、お勧めの書籍であるが。
2 本書の構成と特徴
本書(第14版)は11章構成である。
第1章 会社法の意義と目的
第2章 会社の意義
第3章 株式会社の前提と視点
第4章 株式
第5章 機関
第6章 設立
第7章 株式会社の資金調達
第8章 会社の基本的事項の変更・企業結合
第9章 株式会社の計算と開示
第10章 解散と精算
第11章 持分会社
本書の最大の特徴は、会社法を理解するために必要な「視点」と「制度の構造」が冒頭の第1章から第3章の総論部分において図解も織り交ぜて明確に示されていることである。
この「視点」とは、会社法の世界をマッピングする際に軸となる視点であり、法の趣旨はすべてこの「視点」から語ることができる。また、「制度の構造」とは、法の趣旨を達成するために会社法が用意した様々な仕組みを「類型化」したものである。これによって、膨大な会社法の制度をコンパクトに整理することができる。特に第3章の「株式会社の前提と視点」は、株式会社の仕組みを理解する上で必要な基礎的考え方が網羅されており、しかもそれがひとつのストーリーとして展開されているのが素晴らしい。
本書には細かく項目番号が付されており、文中、他の関連する項目番号も参照されているのも特徴的である。これにより、ある論点を学習している際、別の項目との関連性についても意識的に気づかされるし、あるいは関心があれば参照先に飛んでさらに調べることもできる。これも、受験生時代は大変有り難かった。
本書は、『「視点」から導き出された「制度趣旨」を理解することが、その先の個別制度の理解につながる』という思考を私に与えてくれた。
最近これを実感する機会に恵まれた。
株式会社の機関設計の組み合わせの問題である。
会社法の施行に伴い、実現可能な機関設計の組み合わせが大幅に増加し、個別に組み合わせを覚えようとしてもなかなか難しくなった(40通りくらい?ある)。しかも、会社法の条文にはパズルのような規定しか書かれていない(会社法326条~328条)。
このようなとき、やみくもに実現可能な組み合わせを覚えるよりも、それぞれの機関(株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計監査人、会計参与/指名委員会等設置会社/監査等委員会設置会社)の設置の趣旨を理解すれば、おのずと組み合わせについても理解できるのである。この理解に達したときは、素直に嬉しく思った。
以上要するに、会社法を学習するうえでは、個別の制度を場当たり的に調べることは効率的ではなく、少し遠回りかもしれないが、会社法を貫くいくつかの「視点」を学習し、その延長線として個別の制度を学習すべきだと思うのである。
「視点」を理解し、「制度趣旨」を導出し、その先にある個別制度の理解に達したときの知的興奮を、ぜひ読者の皆様にも味わっていただきたい。
(了)
〔書籍情報〕
リーガルマインド会社法 第14版 弥永 真生 有斐閣、2015年3月 ISBN:978-4641137059 Amazonで詳しく見る |
「実務家による実務家のためのブックガイド」は不定期連載です。