資産の海外移転をめぐる
シンガポール最新事情
【第1回】
─世界の富裕層が集まる国、その理由とは─
Advance Business Support Pte. Ltd. 代表
大曽根 貴子
■世界の富裕層が集まる国、シンガポール
「シンガポールに資産を移転したい」という依頼が、金融機関やコンサルタントの元に相次いでいる。
東日本大震災以降、資産だけでなく、生活の拠点を移したい、本社機能を移転したいという相談も増えつつある。
シンガポールには、世界から資金が流入し、富裕層が生活拠点を移している。
ボストン・コンサルティングが行った世界財産調査によれば、2011年時点において全世帯における富裕世帯(富裕世帯とは、金融資産100万米ドル超を保有する世帯のことをいう)の割合が最も高いのは、シンガポールの17.1%であった。
シンガポールでは、6世帯に1世帯が富裕世帯なのである。
ジョージ・ソロス氏と共にクォンタム・ファンドを設立した投資家のジム・ロジャース氏や、フェイスブックの共同創設者であるエドアルド・サヴェリン氏などもシンガポールに移住している。
■シンガポール税制の魅力
世界中から富裕層がシンガポールに住まいを移すのはなぜか。
その理由には、魅力的な税制が挙げられる。
シンガポール税制の概要をまとめると、以下のとおりである。
1) 法人税
法人税率は基本税率17%である。
さらに企業優遇税制の要件を満たせば、一定期間、税率が0%~10%に軽減される場合もある。事業税及び法人住民税はない。
その他、一定の要件を満たせば無期限に繰越欠損金を控除することが可能であり、キャピタル・ゲインや配当金も非課税である。
2) 所得税
所得税は累進課税制度を採用しており、最高税率は20%である。
例えば、2,000万円(1シンガポールドル=70円と仮定)の課税所得があったとすると、所得税額は約250万円となり、実効税率は12.7%となる。
3) 相続税
相続税はない。
従来、シンガポール国籍を有する個人が死亡した際に故人が保有する資産に対して5%又は10%の税率で遺産税(相続税)が課せられていたが、2008年に廃止された。
遺産税(相続税)を廃止したことが、シンガポールへ移住する富裕層が増加する起因となった。
■富裕層課税が強化される日本
一方、日本の税制は今、どうなっているのか。
1) 法人税
法人税の基本税率は25.5%、これに東日本大震災の復興に当てる目的で時限的に制定された復興特別法人税及び地方税である事業税と法人住民税を合わせると、実効税率は38.1%となる。
2) 所得税
所得税の税率は、累進課税制度を採用しており、最高税率は40%である。これに住民税を加えると最高税率は50%となる。
例えば、課税所得が2,000万円であった場合、所得税と住民税の合計額は、約720万円(実効税率36%)となる。
3) 相続税
相続税の最高税率は50%(相続財産が3億円超の場合)となっている。
仮に、5億円の相続財産を配偶者と子供2人で相続した場合、相続税額は1億1,700万円となる。
2013年1月24日に公表された平成25年度税制改正大綱では、所得税の最高税率を2015年から課税所得4,000万円超について45%に引き上げること、相続税の基礎控除額を削減し、最高税率を55%に引き上げることなどが盛り込まれている。
富裕層にとって、日本はさらに住みづらい国となってしまう。
税負担の増加を懸念し、資産を海外に移転する個人及び法人が年々増加している。
また、海外移住を検討する起業家や投資家は、限定的であるものの増加している。
このような流れから、課税当局は2013年より国外財産調書の提出制度を導入し、課税逃れ行為の監視体制を強化している。
また、外国に移住した後、キャピタル・ゲインや国内源泉所得について申告漏れを指摘され、課税当局と訴訟となったケースもある。
このため、移住や相当額の資産を海外移転する場合には、事前に税務リスクを洗い出し、対策を検討した上で実行することをお勧めする。
(了)
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