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残業代の適正な計算方法 【第5回】 「残業代の支払方法」
残業代の適正な計算方法 【第5回】 「残業代の支払方法」 社会保険労務士 井下 英誉 1 はじめに 第1回から第4回の内容に基づいて残業代が正しく計算されても、支払方法に問題があれば、未払賃金問題としてトラブルになる可能性がある。 そこで連載最終回となる今回は、残業代の正しい支払方法について解説する。 2 残業代の支払方法 ① 法所定計算方式 毎月の実時間外労働時間数(第1回から第3回までを参照)に時間外労働単価(第4回を参照)を乗じて算出した時間外労働手当(残業手当)を支払う方式である。 残業代の支払方法として、法に則した最も一般的な方法である。 ② 定額支払方式 残業代を定額で支払う場合、「基本給とは別の手当として支払う方法」と「基本給に含めて支払う方法」の2種類がある。 イ 定額残業代として別手当で支払う方法 残業代を予め固定で支払う方法で「定額残業代として時間外労働○○時間分を支払う(時間設定)」と「定額残業代として○○円を支払う(金額設定)」の2種類がある。 第1回から第4回までの内容を理解していれば、実務上も導入しやすい方法といえる。 ロ 基本給に定額残業代を含めて支払う方法 基本給の一部に残業代を含めて支払う方法で、「基本給=本来の基本給+固定残業代」という考え方になる。 ハ ○○手当の一部に定額残業代を含めて支払う方法 「営業手当に残業代を含める」、「職務手当に残業代を含める」という方法である。○○手当=固定残業代であれば、イの方法と同様の考え方になる。 3 定額支払方式の留意点 定額支払方式で支払う場合は、上記イからハのいずれの場合も、時間設定か金額設定かを就業規則で明確にし、定額に含まれる具体的な時間や金額は個別に労働条件通知書等で明示する必要がある。 また、この方法により支払いが行われる場合、当該賃金計算期間の残業時間が予め定めた時間(金額設定の場合は、当該月の残業時間に残業単価を乗じた額が予め設定された金額)に満たない場合でも、その時間分に相当する残業代を基本給や手当から控除することはできない。 一方、当該賃金計算期間の残業時間が一定の時間(金額設定の場合は、当該月の残業時間に残業単価を乗じた額が予め設定された金額)を超えた場合は、超過した時間(金額)分の残業代は当該計算期間分の賃金支払期に精算して支払わなければならない。 以上、定額支払方式を導入する場合の留意点を解説してきたが、法所定計算方式から定額支払方式に変更する場合は、次の2つの点も留意しなければならい。 (連載了)
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第9回】「緩和ケア病棟の魅力」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第9回】 「緩和ケア病棟の魅力」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 緩和ケア病棟の地域差と充足率 がん対策基本法が制定されるなど、がん医療は今日の医療政策の重点課題であり、今後さらに重要な領域となることが予想される。 かつてはがん医療といえば手術を想起させることが多かったが、今日は集学的治療がその中心である。また、価値観の多様化により、緩和ケアはがん医療にとって不可欠な領域であり、ホスピスによるケアを希望する患者も少なくない。 このような状況で、緩和ケア病棟は地域差が大きく人口当たり病床数及び病院数の最大と最小の都道府県には、それぞれ8.3倍と12倍の差がある(図表1)。 図表1 都道府県別の緩和ケア病棟の充足率 このような地域差は、地域の競争状況と密接に関係する。急性期病院の競争が激しい地域ほど、緩和ケア病棟が多いという傾向が顕著にみられる。激戦区に立地する地域一般的な医療を提供する急性期病院が経済性を向上させるための手段として緩和ケア病棟を選択しているものと予想される。地域によっては入院待ちする患者が後を絶たない。 そこで、2012年度診療報酬改定において、緩和ケア病棟入院基本料の評価体系が見直され、入院初期の緩和ケアに対する評価が行われた。 図表2に示すように、改定前の緩和ケア病棟は包括払いであり、かつ診療報酬が逓減しない定額の仕組みであったため、特にターミナル期においてはDPC/PDPSを算定する病床よりも収益性が高い傾向があったものと予想される。 図表2 緩和ケア病棟入院料 しかしながら、2012年度診療報酬改定で逓減制が導入されたため、入院期間が短く、在宅復帰を推進してする緩和ケア病棟が高く評価されることになる。 ちなみに、緩和ケア病棟の平均在院日数は、全国平均で35.7日(公私病院連盟 経営概況調査報告書)であるため、今回の点数設定では、増収になる病院が多いものと予想される。 今後、急性期病院でも緩和ケア病棟を新設しようとする動きが盛んになるであろう。 2 緩和ケア病棟が適する病院 緩和ケア病棟が適する病院は、地域一般的な急性期医療を提供する急性期病院である。 緩和ケア病棟を有する病院の診療機能を分析すると、がん診療連携拠点病院未承認(全体の約72%)、地域医療支援病院未承認(全体の約95%)、300床未満の病院(全体の約57%)、DPC病院(全体の約61%)、民間病院(約61%)となっている。しかしながら、がんの手術を実施する病院であることが注目される(全体の約72%)。 がんに対する知見が深いことに加え、末期がん患者が入院するので、疼痛コントロールができることが必須になる。緩和ケア病棟が包括払いだからといって、何の処置もせずにただ寝せておけばいいというわけではない。適切な医療行為が行われる前提で、高い点数設定がなされていると解釈すべきである。 ただし、地域中核病院で緩和ケア病棟を設置することは政策的な理由がない限りは、望ましくないと筆者は考えている。これらの病院はがん診療連携拠点病院の承認を受けていることが多く、高額な放射線機器を有している。放射線機器を保有していれば、緩和ケア病棟に入院する患者にも放射線治療をして痛みを和らげてあげたいと考えるのが医療人の思いであろう。採算を度外視して、最良の医療を提供したいと思う気持ちに駆られるのは当然のことであり、放射線治療を行わないことに対してスタッフは悩みを抱えてしまうことも十分に考えられる。 しかし、放射線治療には多額のコストがかかり、設定されている点数では大幅な赤字に陥るはずである。赤字でも実施すべき医療があるのは事実だが、緩和ケア病棟のように積極的な治療をしない前提の病棟の患者に対して、このような治療を継続していけば、やがて破綻してしまうことは目に見えている。 だからこそ、高額医療機器を保有しない、悪性腫瘍に対応できる中小規模の病院が適している。 3 緩和ケア病棟の経済性 緩和ケア病棟は、中小規模の病院にとって、一般病院の中では高い収入が期待できる。一般病院全体の入院収入よりも、緩和ケア病棟は高収入である。収入が多いだけではなく利益率も優れており、概ね5%程度が期待できる。2012年度改定で、入院初期の点数が増加したことから、適切な運営を行えばさらに業績は良くなることであろう。 がんの末期患者は、ターミナル期が近付くにつれて医療資源の投入量が多くなるのが一般的である。従来は、収入が逓減しない仕組みであったが、改定により状況が変わったことには留意しなければならない。 4 成功するための要件 緩和ケア病棟の設置に成功するためには、2つの必須要件がある。 まず1つ目は、優秀なスタッフを集めることである。 緩和ケア病棟では、全国平均で15床に1名の専従医師を配置しており、理想的には12床に1名が望ましいといわれる。さらに看護師は1床に1名程度が必要になり、15床を開棟する場合には15名を集めなければならない。特に看護師が重要な鍵を握るのが緩和ケア病棟の特徴である。この他にも心理的なケアのために臨床心理士を置くことも有効であり、そのような病院も緩和ケア病棟を有する病院の12%程度ある。 なお、患者に対する精神的なケアだけではなく、スタッフに対する良き相談相手としてもぜひ採用を行うことをお勧めしたい。 過酷な勤務となる緩和ケア病棟の看護師はバーンアウトしやすい。優秀なスタッフが適当な人数いなければ、設備だけあっても、患者を入院させることはできないのは言うまでもない。 もう1つは、病床利用率を70%以上に維持することである。 緩和ケア病棟は、急性期病床と異なり午前退院、午後入院というような運用は難しい。そもそもいつ空床が出るか予測できない側面もあり、入院予約中の患者に事前連絡することも難しい。また現場からは、たとえ空床があったとしても、1日1人しか入院させられないという声も出てくるであろう。さらに、繊細な患者の気持ちにも配慮した病床コントロールが求められる。 収益性は、病床利用率に大きく左右される。 (了)
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NPO法人 “AtoZ” 【第9回】「認定NPO法人①」~優遇措置について~
NPO法人 “AtoZ” 【第9回】 「認定NPO法人①」 ~優遇措置について~ 税理士 岩田 聡子 1 認定NPO法人とは? 認定NPO法人制度とは、NPO法人に対する税制上の優遇措置であり、会費、寄附金等で運営されるNPO法人を支援するために設けられた。 これは、NPO法人のうち、その運営組織及び事業活動が適正であって、公益の増進に資するものは所轄庁の認定を受けることにより、認定NPO法人となることができる制度である(NPO法44①)。 平成23年6月から、認定NPO法人となる要件であるパブリックサポートテスト(以下「PST」という)に新たな要件が追加された。 さらに平成24年の法改正により、所轄庁が国税庁から都道府県(一の指定都市内にのみ所在する場合はその指定都市)となり、PST以外の要件をすべて満たしている法人に対して、3年以内にPSTを満たし、認定NPO法人に移行することを目標に仮認定制度が設けられた。 この改正により、認定NPO法人制度に対する関心も高まり、新たな制度により認定NPO法人が増加することが期待されている。 2 認定NPO法人に対する優遇措置 (1) 個人が認定NPO法人等へ寄附金を支出した場合 個人が認定NPO法人等に寄附をした場合には、次のいずれかの寄附金控除を適用することができる(NPO法71) 。 ① 寄附金控除(所得控除) 認定NPO法人に対する寄附金は、特定寄附金として次の金額を総所得金額から控除することができる。 特定寄附金の額の合計額-2,000円=寄附金控除額(所得控除額) ただし、特定寄附金の額の合計額は、総所得金額等の40%相当額が限度となる。 ② 認定NPO法人等寄附金特別控除(税額控除) 認定NPO法人に対する寄附金は、他の税額控除の対象となる寄附金と合わせて、控除対象寄附金として次の金額を所得税額から控除することができる。 (控除対象寄附金額-2,000円)×40%=税額控除額 ただし、控除対象寄附金額は総所得金額等の40%が限度、また、税額控除額は所得税額の25%相当額が限度となる。 (2) 法人が認定NPO法人等へ寄附金を支出した場合 法人が認定NPO法人等に寄附をした場合には、一般寄附金の損金算入限度額とは別に、特別損金算入限度額が認められる(NPO法71、法法37④、措法66の11の2②)。 法人の寄附金の損金算入限度額=一般寄附金の損金算入限度額+特別損金算入限度額 ・一般寄附金の損金算入限度額 (資本金等の額×0.25%+所得金額×2.5%)×1/4 ・特別損金算入限度額 (資本金等の額×0.375%+所得金額×6.25%)×1/2 (3) 相続人等が認定NPO法人に相続財産等を寄附した場合 相続又は遺贈により財産を取得した者が、その取得した財産を相続税の申告期限までに、認定NPO法人に対し寄附をした場合には、その寄附をした財産は相続税の非課税財産となり、相続税の課税の対象からは除かれる(NPO法71、措法70⑩)。 ※仮認定NPO法人(次回解説)には、この規定の適用はない。 (4) 認定NPO法人のみなし寄附金制度 認定NPO法人が収益事業を行っている場合、法人税の申告をしなければならない。 この場合、その収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額は、その収益事業に係る寄附金の額とみなし(みなし寄附金)、寄附金の損金算入限度額までを損金の額に算入できる(措法66の11の2①)。 損金算入限度額は、次のいずれか多い金額である。 3 認定NPO法人のデメリット 認定NPO法人は、通常のNPO法人より多くの閲覧書類等を備え付けなければならず、毎年の所轄庁への報告、5年ごとの認定の更新においても様々な書類の提出を行わなければならない。 そのため、事務量が増え、法人の負担が増加することとなる。 また、認定の更新のためには、常にPST要件等を意識しながら、法人の運営を行うことも必要となってくる。 認定を受け、優遇措置を受けるということは、NPO法人自体の内部管理体制の充実や、より一層の情報公開等が求められることであり、結果的にそれが社会的信用につながっているのである。 (了)
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神田ジャズバー夜話 「1.ジャズバー店主のひとりごと」
町名の頭に神田がくっついた、いくつもある町のひとつ。立ち飲み屋やもつ鍋屋の赤い提灯が灯る裏道の古い小さなビル。その地下へ途中で折れ曲がった階段を降り、黒い扉を開けると内側の真っ黒な箱がある。ここはジャズ・バー「G」。客のひとりもいない店内には、バド・パウエルが弾く半世紀前のピアノの音が流れている。 「来ないなあ」 ひとりごとは、ピアノの音と混ざって一旦店内に響くとすぐに消えたが、虚しい余韻はいつまでも漂っている。言わなきゃよかったと思う。 今夜はまだひとりも客が来ていない。閉店までもう1時間もない。 ボックス席のひとつで後悔している50代も後半になる小太りのおやじ。それが私で、ここでは「マスター」と呼ばれる。客が来ればだが。 私は本を読むのにも疲れ、トランプ占いにも飽き、ジンを飲み、たばこを吸っている。ジンはボトルの3分の1ぐらい、たばこは2箱空にした。 店主の一番の仕事は客を待つことだと気付いてからもう随分になる。 天井も壁も床も真っ黒な店内に、赤っぽいカリン材の重厚な5人掛けのカウンターと4人掛けのボックス席が2つあり、バックバーに並ぶ酒ビンは宝石のように輝いている。初めて訪れた客は一様に感嘆の声を上げるが、ここまで辿り着くには些か勇気がいる。 裏道にあり、ジャズで特化され、地下にあって中が見えないバー。隠れ家的でいいじゃないか。といったら聞こえはいいが、客が入り難い条件がみごとに揃っているという見方が正しい。客がいないのが常体と化し、客が来ると私はいつも驚いてしまう。 とはいえ、私は「私の時間」を楽しんでいる。悩んでたって客が来るわけじゃない。来るときは来る。こうして酒に酔い、バドのピアノに身を任せていられるのだからいいじゃないか。誰に煩わされることもなく私ひとりの貸切状態、なかなかの贅沢だ。もしかしたら私はこの時間を求めてジャズバーを始めたのかも知れない。などと酔っぱらった頭で考えている。 しかし、月末も近いのに家賃分も稼げていないってのは情けないね、どうも。 「来ないなあ」 またひとりごとが洩れてしまった。いや、泣きごとだなこれは。 電話が鳴って眼が醒めた。いつの間にか寝ていた。 「は、はい、Gです」私はあわてて受話器を取り、耳にあてたままアンプへ駆け寄り、音楽のボリュームを下げた。 「これから5人で行こうと思うんだけど、空いてます?」 飲んでいる店かららしく、背景音がうるさくて聴き取りづらい。 「ええ、今来れば貸し切りみたいなもんです」 「え、貸し切りなの?そうかあ、貸し切りじゃしょうがないね。うん、わかった」 「いえ、そうじゃなくて、来てくれれば貸し切りみたいなもんだって・・・」 言い終わらないうちに電話は切れてしまった。余計なこと言うんじゃなかった。 「まいったなあ」 思わず声が出ていた。 (了)
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《速報解説》 財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令の改正ポイント
《速報解説》 財務諸表等の監査証明に関する 内閣府令の一部を改正する内閣府令の 改正ポイント 宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問 小谷 融 (大阪経済大学教授) 研究員 増田 美和 Ⅰ 改正された内閣府令 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成25年内閣府令第35号)が、平成25年5月24日に公布、同日付で施行された。 Ⅱ 主な改正内容等 平成25年3月26日に「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」が公表されたことを踏まえ、「監査における不正リスク対応基準」の適用範囲及び適用時期を明確化するための改正が行われた。 【一般に公正妥当と認められる監査に関する基準の明記】 財務諸表等の監査証明に関する内閣府令(以下、「監査証明府令」という)3条2項に規定する「一般に公正妥当と認められる監査に関する基準」に該当するものとして、企業会計審議会により公表された「監査基準」「中間監査基準」「監査に関する品質管理基準」「四半期レビュー基準」及び「監査における不正リスク対応基準」が明記された(監査証明府令3条3項)。 【監査における不正リスク対応基準の適用範囲】 このうち、「監査における不正リスク対応基準」については、監査証明を受けようとする者が次のいずれかに該当する者であるときに限り適用されるものと定められた(監査証明府令3条4項)。 【様式の一部改正】 第1号様式(監査概要書)中、「重要な欠陥」を「開示すべき重要な不備」に改める。 Ⅲ 適用時期 第1号様式の一部改正については、公布の日から施行する。 改正後の監査証明府令3条3項及び4項の規定は、 から適用する。 (了)
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《速報解説》 「会社計算規則の一部を改正する省令」(退職給付関係)の解説
《速報解説》 「会社計算規則の一部を改正する省令」 (退職給付関係)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年5月20日付けで、法務省は「会社計算規則の一部を改正する省令」(以下「省令」という)を公表した。 これにより、平成25年3月8日付けで、「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っていたものが確定することとなる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 省令の主な内容 省令は、企業会計基準委員会の「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)の公表等を踏まえて、会社計算規則を改正するものである。 改正内容は次のとおりである。 Ⅲ 法務省の考え方 省令の改正に際して、「意見の概要及び意見に対する当省の考え方」が公表されている。 以下では法務省の考え方の概要を述べる。 1 定義規定等 省令では、「前払年金費用」と「退職給付に係る資産」、「退職給付に係る負債」と「退職給付引当金」について、定義規定は設けられていない。 ただし、これらの定義は、「退職給付に関する会計基準」をはじめとする一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行により、意義は明確である。 また、「その他退職給付に係る調整累計額に計上することが適当であると認められるもの」(省令76条9項3号ハ及び96条9項3号ハ)には、会計基準変更時差異の未処理額が含まれる。 2 連結計算書類における退職給付に係る負債の計上基準に関する注記 従来、「引当金の計上基準」において「退職給付引当金の計上基準」を記載している。 「退職給付に関する会計基準」では、個別財務諸表と連結財務諸表において会計処理等を分けており、連結貸借対照表上、「退職給付引当金」の表示が「退職給付に係る負債」へと変更されることになる。 これにより重要性がある場合に「その他連結計算書類の作成のための重要な事項」の項目に、「退職給付に係る負債の計上基準」等の項目で記載することになるのかどうかの論点が考えられる。 これについて、法務省は、退職給付に係る負債の計上基準について、重要性がある場合には、「その他連結計算書類の作成のための重要な事項」(会社計算規則102条1項3号ニ)に該当し、連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記(同項)として(「退職給付に係る負債の計上基準」等の項目を付すことは妨げられない)、記載することとなると述べている。 3 退職給付に関する注記 「退職給付に関する会計基準」では、退職給付に関して詳細な注記事項を規定している。 次の意見が寄せられた。 今回の改正では、現行のとおり、会社計算規則に退職給付に関する注記に係る明文の規定は設けられていない。 しかしながら、上記に関して、法務省は次のように述べているので、開示に際しては注意が必要であると思われる。 Ⅳ 適用時期等 改正後の会社計算規則については、公布の日(平成25年5月20日)から施行する。 ただし、経過措置として、平成25年4月1日前に開始した事業年度に係る計算関係書類については、なお従前の例による。 (了)
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「生産等設備投資促進税制」適用及び実務上のポイント 【第1回】「制度の全体をおさえる」
「生産等設備投資促進税制」 適用及び実務上のポイント 【第1回】 「制度の全体をおさえる」 マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 村田 直 ◆「生産等設備投資促進税制」新設の背景 平成25年3月29日に「所得税法等の一部を改正する法律案」が国会で成立し、同3月30日に公布された。今回の税制改正は、平成24年12月の衆議院選挙の結果を受けた政権交代により、自民党が中心となって作成した「平成25年度税制改正大綱」が基となっている。 平成25年度税制改正大綱の冒頭においては、今回の税制改正の基本的考え方として、その1つに、「成長による富の創出に向けた税制措置」を挙げている。景気の底割れを回避し、「成長と富の創出の好循環」を実現するため、特に日本経済再生に向けた緊急経済対策の施策については、その効果が最大限に発揮されるよう、期限を区切り、大胆かつ集中的に税制上の措置を講ずる、としている。 その具体的項目として、「民間投資の喚起による成長力強化」、「人材育成・雇用対策」、「中小企業対策・農林水産業対策」を挙げ、「民間投資の喚起による成長力強化」については、以下のように、「生産等設備投資促進税制」を新設する、としている。 (「平成25年度税制改正大綱」第一 平成25年度税制改正の基本的考え方より) 上記の根底には、いわゆる“アベノミクス”と呼ばれる安倍政権の経済政策がある。 アベノミクスは、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の“3本の矢”で構成されており、今回の税制改正はまさに、この「民間投資を喚起する成長戦略」を税制面で後押しするもので、その中でも「生産等設備投資促進税制」は、今回の“アベノミクス減税”の目玉政策の1つとして注目されている。 ◆「生産等設備投資促進税制」の全体像 「生産等設備投資促進税制」の概要については、平成25年度税制改正大綱において、以下のように記載されている。 (「平成25年度税制改正大綱」より) また、地方税の項目においては、中小企業者等に限り、「法人税の特別償却又は税額控除を法人住民税及び法人事業税に適用する」と規定されている。 ◆「生産等設備投資促進税制」の条文構成 「生産等設備投資促進税制」の概要は上記のとおりであるが、実際の条文では、租税特別措置法において、法人及び個人向けにそれぞれ規定されている。 法人については、「国内の設備投資額が増加した場合の機械等の特別償却又は法人税額の特別控除」として第42条の12の2(連結納税に対応する条文は、第68条の15の3)に、個人については、「国内の設備投資額が増加した場合の機械等の特別償却又は所得税額の特別控除」として、第10条の5の2に規定がある。 政省令も既に公布されており、租税特別措置法施行令において、法人については第27条の12の2(連結納税に対応する条文は、第39条の45の3)、個人については第5条の6の2に規定されている。なお、「生産等設備投資促進税制」に関する法令解釈通達などについては、現時点(執筆5/4)でまだ発表されていない。 この「生産等設備投資促進税制」は、該当すると税効果のインパクトがかなり大きくなるケースが想定される。 ただし、設備投資を前提とする減税措置ということは、当然、事前に周到な計画が必要になる。また、適用事業年度の前事業年度の設備投資も、本税制の適用にあたって大きく影響する。 専門家としては、今後、相談やアドバイスを求められる場面が増えると予想されることから、適用要件等をしっかり把握し、的確に助言することが必須となる。 次回からは、本制度の詳しい要件の検討に入りたい。 (了)
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交際費課税Q&A~ポイントを再確認~ 【第1回】「交際費の範囲」
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第1回】 「交際費の範囲」 公認会計士・税理士 新名 貴則 はじめに 平成25年度税制改正により、中小企業の交際費課税の特例が拡充された。 これについては、本誌に寄稿した2013年2月7日公開の拙稿「《速報解説》交際費課税の特例拡充について-平成25年度税制改正大綱-」において、以下のとおり解説している。 〔平成25年度改正後の交際費課税(平成25年度末まで)〕 *資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) 〔改正後の中小企業の特例のイメージ〕 この特例拡充により、実務の現場において交際費等に係る判断及び処理を行うケースが増えることが予測されることから、本連載では、今回の改正に係るポイントだけでなく、改正前から存在する交際費課税に係るさまざまな論点についても、Q&A形式で改めて確認していくこととする。 税務上の交際費等は、以下のとおり定義されている(措法61の4③(抜粋))。 上記を読んで分かるとおり、税務上の「交際費等」の範囲は、一般的な交際費のイメージよりも広いといえる。 そのため、会計上は「会議費」「福利厚生費」などといった「交際費等」以外の勘定科目に計上している支出であっても、上記の「交際費等」の定義に該当する場合、税務上はあくまで交際費等として扱われることに注意が必要である。 また、この定義の中に「通常要する費用」という表現があるとおり、交際費等の範囲には明確な線引きがあるとは限らず、むしろ曖昧であることの方が多い。 社会通念上「交際費」なのか?そうでないのか?という微妙な判断が必要なケースは多々ある。 そこで、租税特別措置法関係通達において、税務上の交際費等として扱われる支出が以下のとおり例示されているので、まずは基本として確認しておきたい(措通61の4(1)-15)。 (了)
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中小企業のM&Aでも使える税務デューデリジェンス 【第2回】「具体的な調査項目とは」
中小企業のM&Aでも使える 税務デューデリジェンス 【第2回】 「具体的な調査項目とは」 公認会計士・税理士 並木 安生 第2回では、前回で解説した買収の各形態の内容及び税務の取扱いを踏まえて、税務デューデリジェンスの具体的な内容について解説する。 1 税務デューデリジェンスが必要な理由 買い手にとっては、オーナー株主が所有する中小企業(買収対象会社)の買収に際して、その買収の形態次第では買収対象会社の税務リスク(将来税務調査で追徴課税を受けるリスク等)を承継してしまうため、税務デューデリジェンスにより買収対象会社の税務リスクを予め特定・把握し、買収を行うか否かの判断に活用させることが有効といえる。 また、税務リスク額を試算し買収価額へ反映させることで、高値買いを避けるためにも有効な手続であるといえる。 また売り手にとっては、買い手との交渉のための事前準備として、自社の税務リスクを把握しておくことが効果的であるといえる。 自社に係る税務の話とはいえ、過去に戦略的かつ網羅的に検討していないケースが一般には多いと考えられるため、買い手の視点から改めて検討しておくことが有効といえる。 2 それぞれの買収形態における税務リスク承継の有無 株式譲渡や事業譲渡等のそれぞれの買収形態に従い、税務リスクを承継するかどうか(買収前の事業年度に係る税務リスクを買い手が引き継ぐか否か)が異なってくる。 具体的には下表のとおりであり、③事業譲渡、又は④分社型分割及び株式譲渡の下では原則として税務リスクを引き継ぐことはないため、売り手会社に関する税務の状況を対象とした税務デューデリジェンスを行う必要性は低いと考えられる。 なお、下記①~④の買収形態と税務の取扱いの詳細については、【第1回】を参照いただきたい。 一方で、買収形態として①株式譲渡又は②株式交換を選択する場合は、買い手が税務リスクを引き継ぐため、税務デューデリジェンスを実施する必要性が高くなる。 税務デューデリジェンスに関する具体的な手続を以下に解説する。 3 税務デューデリジェンスのポイント 税務デューデリジェンスの手続は、確定申告書における計算の正確性チェックや、その根拠資料との突合せだけにとどまらず、マネジメントや経理責任者へのインタビュー、重要決定事項に関する資料(株主総会・取締役会・経営役会議事録、稟議書等)の閲覧を通じて、税務処理の網羅性(例:寄附金認定漏れの有無)の検証手続まで行う必要があり、その調査対象範囲は広い。 その際、買収の実行や買収価額に重要な影響を及ぼす可能性のある税務リスクの洗出しを最優先にすべきであり、すべての税務上のトピックスに対して同程度の時間・労力を費やすことは困難かつ非効率的であるため、重点事項に絞ることが有効となる。 一般的な主要調査項目の例としては、次のものが挙げられる。 ① 過年度の税務調査の状況 まず、どの事業年度まで税務調査が完了しているかを確認することが効果的である。 同年度に対して税務調査を再度受けることは稀であり、その事業年度に係る税務リスクは極めて低いと考えられることから、税務調査完了済の年度を税務デューデリジェンスの調査対象から除外し、時間的効率性を高めるにも有用な手続となるからである。 その上で、直近の税務調査に係る更正(又は修正)税目・内容、追徴課税額、重加算税の有無、及び更正(又は修正)の根拠等を把握することで、買収対象会社の税務の傾向や内部統制の状況(例:ミスが生じやすい環境にあるか、危険回避的又は愛好的のいずれであるか)を検討する。 この手続は、税務調査を未だ受けていない事業年度に対する税務デューデリジェンスに関して、その調査範囲を決めるための情報収集の意味合いもある。 また、過年度の税務当局における指摘事項に対する、現在の改善状況を確認することも重要である。 税務当局が明確な改善指針を与えず、買収対象会社の独自判断による改善の場合、未だ税務リスクが残存している可能性もあるためである。 ② 過年度の確定申告書の記載内容 調査対象事業年度の申告調整額の推移をチェックし、異常点・一時的取引における内容を確認する。 例えば、貸倒損失や資産評価損の損金算入による多額の減算・認容が生じている場合、又は、交際費や寄附金等の額の異常な増減があった場合、その税務処理の妥当性について疎明資料等を確認し検証する。 また、損益計算書上の特別損失(例:株式評価損、固定資産除却損等)のうち、確定申告書上で加算・否認されていない項目がある場合についても同様に、損金性の検証を行う。 なお、直近の事業年度末において青色繰越欠損金が存在する場合、その金額の発生原因について調査し損金性を分析することで、その青色繰越欠損金と買収後における将来の課税所得とが相殺可能かどうかを検証することも必要である。 ③ 過年度の関係会社間取引の内容 役務提供、資産売買、賃貸借取引等の関係会社間取引に係る取引価額が時価と乖離している場合、寄附金(又は受贈益)認定を受ける税務リスクが存在することになる。 この点、寄附金認定額は永久差異(社外流出)扱いのため、一時差異(単なる期ズレ)と比べて課税への影響が大きいことから慎重な検討が望まれる。 その際、特に取締役会議事録、稟議書、主要な契約書の閲覧により、税務申告書に記載のない寄附金の有無を重点的に検討することが効果的といえる。 ④ 過年度の組織再編 組織再編税制は、改正が頻繁に行われる分野であり、また制度が複雑であることから、相対的に処理誤りが多い項目と考えられる。 したがって、過年度に合併・会社分割等の組織再編行為があった場合、適格要件の判定や、繰越欠損金・特定資産譲渡等損失の損金算入制限の検討のための情報を入手し、処理の妥当性を分析する必要がある。 この点、本来は非適格再編であったにもかかわらず誤って適格再編として取り扱われていた取引を発見した場合、組織再編による譲渡資産・負債の時価を把握し本来認識すべき譲渡損益やみなし配当額を試算することで、税務リスク(追徴課税額)の把握しておくことが有用である。 4 税務デューデリジェンスによる結果の活用 3で述べた具体的手続により税務リスクを発見した際、そのリスク額が試算でき、かつ、売り手と買い手の間でそのリスクの内容につき合意した場合は、そのリスク額を買収価額へ反映させることになる(買収価額の減額)。 一方、税務リスク額が試算できない場合、あるいは税務リスクに関して売り手と買い手との間に見解の相違が生じている場合は、買収契約書上で表明保証の対象とする等の対応を行うことが一般的といえる。 5 まとめ 以上に記載した税務デューデリジェンスの実施過程をまとめると、次のとおりとなる。 〈税務デューデリジェンスの実施過程〉 (了)
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雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第4回】「両制度の比較による選択適用上のポイント」
雇用促進税制・ 所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第4回】 「両制度の比較による 選択適用上のポイント」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに ここまで、雇用対策のための2つの税制である「雇用促進税制」(第1回・第2回)及び「所得拡大促進税制」(第3回)の概要及び適用手続について解説を加えてきた。 これらの税制は、いずれかを選択適用するという関係にある点を踏まえ、今回は、それぞれの税制の概要について比較形式で再度整理するとともに、適用に当たり検討すべきポイントについて解説する。 2 雇用促進税制と所得拡大促進税制の概要(まとめ) 雇用促進税制と所得拡大税制の概要について、あらためて対比しつつ整理すると、下表の通りとなる。 上表No.1〈適用年度〉にあるように、これらの税制が重複して適用されるのは平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度のみである。 特に雇用促進税制については、適用年度開始後2ヶ月以内に「雇用促進計画」をハローワークに提出する必要があることに鑑みると、所得拡大促進税制との選択適用を検討するための時間的余裕はあまりないと考えられるが、それぞれの税制の適用に当たり検討すべきポイント及び留意点について、次に整理しておくこととする。 3 検討すべきポイント及び留意点 (1) 適用年度開始時における人員構成 上表No.4〈「雇用者」の意義〉にあるように、雇用促進税制における「雇用者」と、所得拡大促進税制における「国内雇用者」では、その範囲が異なっている。 そこで、社内における人員構成(人数)について、これらの税制への適用を念頭に置いて下表のような形で把握しておくことは有用と考えられる。また、雇用促進税制の適用要件を満たす人員数についても、あわせて把握しておくことも有用である。 【適用年度開始時点における人員の状況】 ※クリックすると、別ウィンドウで画像が拡大表示されます。 なおこの表は、所得拡大促進税制における「平均給与等支給額」の分母(支給対象者数及び日雇労働者数)を把握する上でも有用である。当税制の適用を受ける場合には、人員数については月次で把握することが必要である(詳しくは前回参照)。 (2) 適用年度中の人員採用計画の有無 雇用促進税制の適用を受けるためには、前事業年度末に比べて雇用者の数が5名以上(中小企業者では2名以上)かつ10%以上増加していることが必要である(基準雇用者数要件・基準雇用者割合要件)。 そして当然のことではあるが、適用年度開始後2ヶ月以内に「雇用促進計画」を提出する必要があることを踏まえると、適用年度開始時において年度中の人員採用計画が明確でなければならない(そもそも雇用促進計画を作成することもできない)。 基準雇用者数要件及び基準雇用者割合要件を満たしているかどうかは適用年度終了時点で判断されるが、適用年度開始時点でこれらの要件を満たすことが見込まれるのであれば、雇用促進税制の適用可否にかかわらず、雇用促進計画をハローワークに提出しておくことを検討すべきと考える。 (3) 給与等支給額の集計範囲に留意 適用年度と前事業年度との比較における給与等支給額の増加額は、所得拡大促進税制においては控除税額の計算に直接的に必要になるほか、雇用促進税制においても適用要件の一つとされている(給与等支給額増加要件)。 上表No.5及びNo.6の通り、「給与等支給額」の集計範囲には差異があるので留意が必要である。すなわち、所得拡大促進税制においては「国内雇用者に対する」給与等支給額を集計する必要があるのに対し、雇用促進税制の給与等支給額増加要件の判定をするに当たっては、「雇用者に対する」給与等支給額を集計する必要がある。 (4) 控除税額の有利不利判定 上表No.7の通り、雇用促進税制における控除税額は増加雇用者1人当たり40万円とされているのに対し、所得拡大促進税制における控除税額は雇用者給与等支給増加額の10%とされている。 雇用促進税制は「人員数」に基づく税額控除、所得拡大促進税制は「金額」に基づく税額控除である。このことから、状況によっては選択適用における有利不利を判断することも考えられる。例えば、以下のような具合である。 これらはあくまで一例であり、また、法人税額に基づく控除限度額までしか税額控除できないため、実際にこうした有利不利判定を行う必要性は高くないかもしれない。 しかしながら、実際の適用判断に当たっては、上述のポイントなどに留意しつつ、適時適切に検討されたい。 (連載了)