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法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載11〕 現物配当に係る会計上・税法上の取扱い

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載11〕 現物配当に係る 会計上・税法上の取扱い   日本税制研究所研究員 朝長 明日香   平成22年度税制改正において適格現物分配が組織再編成の一形態として位置づけられたことにより、完全支配関係のある法人間で現物分配を行った場合には、その現物分配に係る資産の譲渡損益の計上を繰り延べることとされた。 従来、商法において現物配当の可否についての明確な規定は設けられていなかったが、平成18年に施行された会社法においては、株主総会での決議を経ることにより、現物配当が可能とされている(会法454①一)。 しかし、本稿においても述べるとおり、現物配当に係る会計上の取扱いは、現物分配に係る税法上の取扱いと異なるケースがあるため、両者を混同しないよう注意しなければならない。 法人税法に規定する現物分配とは、次のⅰ又はⅱをいい(法法2十二の六括弧書)、本稿においては、ⅰに該当する現物配当が行われたものとして会計上の取扱いを述べることとする。 以下、企業集団外の企業間で現物配当を行った場合と企業集団内の企業間で現物配当を行った場合の会計上の取扱い(下記1)、及び、完全支配関係のない法人間で現物分配を行った場合と完全支配関係のある法人間で現物分配を行った場合の法人税法上の取扱い(下記2)を述べることとする。 なお、「現物分配」という用語は法人税法独自の用語であるため、以下の会計上の取扱いの解説に当たっては「現物配当」という用語を用いることとし、源泉徴収については考慮しないものとする。 1 現物配当に係る会計上の取扱い (1) 企業集団外の企業間で現物配当を行った場合 ① 現物配当を行った会社における会計処理 金銭以外の資産を配当財産として剰余金の配当を行った場合には、配当の効力発生日(会法454①三)における配当財産の時価をもって繰越利益剰余金を減額し、その時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益とされる(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(以下「自己株式等適用指針」という)10)。 現物配当を行った会社の会計仕訳は、次のとおりである。 ② 現物配当を受けた株主における会計処理 金銭以外の資産を配当財産として剰余金の配当を受けた場合には、交換等の一般的な会計処理の考え方に準じて会計処理をすることが適当であると考えられており、原則として、これまで保有していた株式が実質的に引き換えられたものとみなされ、配当直前のその株式の適正な帳簿価額を合理的に按分した金額を、株式の帳簿価額から減額することとされている(事業分離等に関する会計基準(以下「事業分離等会計基準」という)52、143)。 合理的な按分方法には、次のような方法があり、実態に応じて適切に用いることとされている(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針295)。 また、移転を受けた配当財産は、時価により計上することとされており、合理的に按分した株式の帳簿価額との差額は、その期の損益とすることとなる(事業分離等会計基準15、16)。 現物配当を受けた株主の会計仕訳は、次のとおりである。   (2) 企業集団内の企業間で現物配当を行った場合 ① 現物配当を行った会社における会計処理 会社が企業集団内の企業に現物配当を行った場合には、企業結合における共通支配下の取引に準ずることとされており、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって繰越利益剰余金を減額することとなる(自己株式等適用指針10(3)、38)。 企業集団内の企業に現物配当を行った場合の会計仕訳は、次のとおりである。 ② 現物配当を受けた株主における会計処理(子会社からの現物配当の場合) 現物配当をした会社が子会社である場合にも、上記(1)②と同様に、株式の一部が実質的に引き換えられたものとみなされ、合理的に按分した金額を株式の帳簿価額から減額することとなる(事業分離等会計基準52)。 ただし、移転を受けた配当財産は、移転直前の適正な帳簿価額により計上することとされており、合理的に按分した株式の帳簿価額との差額は、原則として、その期の損益とされる(同前14)。 子会社から現物配当を受けた株主の会計仕訳は、次のとおりである。   2 現物分配に係る税法上の取扱い (1) 完全支配関係のない法人間で現物分配が行われた場合(非適格現物分配の場合) ① 現物分配法人における税務処理 完全支配関係のない法人間で行われた現物分配による資産の移転は、無償による資産の譲渡(法法22②)に該当し、資産の譲渡益の額又は譲渡損の額は、益金の額又は損金の額に算入することとなる。 非適格現物分配に係る現物分配法人の税務仕訳は、次のとおりである。 ② 被現物分配法人における税務処理 金銭以外の資産の移転により剰余金の配当を受けた場合においても、その配当は通常の配当と何ら変わりはなく、受取配当等の益金不算入制度(法法23)の適用を受ける場合には、一定額が益金不算入となる。 また、移転を受けた資産の取得価額は、時価によることとなる。 非適格現物分配に係る被現物分配法人の税務仕訳は、次のとおりである。   (2) 完全支配関係のある法人間で現物分配が行われた場合(適格現物分配の場合) ① 現物分配法人における税務処理 完全支配関係のある法人間で行われる現物分配は、適格現物分配に該当し、現物分配法人は、被現物分配法人に対し、資産を適格現物分配直前の帳簿価額により譲渡したものとされる(法法62の5③)。 このため、資産を移転したことによる譲渡損益は繰り延べられることとなる。 適格現物分配に係る現物分配法人の税務仕訳は、次のとおりである。 ② 被現物分配法人における税務処理 適格現物分配により資産の移転を受けたことにより生ずる収益も、配当を受けたことによる収益であることは明らかであるが、この収益に関しては、法人税法62条の5第4項において全額益金不算入とされ、同額の利益積立金額が増加することとなる(法令9①四)。 また、移転を受けた資産の取得価額は、適格現物分配直前の帳簿価額に相当する金額とされている(法令123の6①)。 適格現物分配に係る現物分配法人の税務仕訳は、次のとおりである。 (了)
#11(掲載号)
#朝長 明日香
2013/03/21
中小企業会計 会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

「平成24年版 中小企業の会計に関する指針」の主な改正点と留意点 【第1回】「改正の経緯と指針の読み方」

「平成24年版 中小企業の会計に関する指針」の 主な改正点と留意点 【第1回】 「改正の経緯と指針の読み方」   税理士 永橋 利志   1 はじめに(改正までの経緯) 「平成24年版 中小企業の会計に関する指針(以下「中小会計指針」という)」が、本年2月に公表された。 中小会計指針は、平成17年8月に公表され、平成18年の会社法施行に伴う純資産の部に係る取扱いの変更をはじめ、その後のわが国の会計基準(以下「日本基準」という)の動向に呼応し、毎年改定されてきた。 ただし、その改定は、日本基準の改正等をすべて受け入れたものではなかった。それは、中小企業の規模や会計情報を必要とする利害関係者は、金融機関や取引先、そして、利害関係者とはいえないが、法人の申告内容の適否を調査する課税庁であるという実態を鑑み、精緻な日本基準を適用することが中小企業の実態に合わず、中小企業の会計の質を高め、財務体質の改善等に資すると考えられなかったからである。 このように、中小会計指針は、日本基準の動向に対応しつつ、中小企業の実態に合うように改正が行われてきたが、近年の国際会計基準(以下「IFRS」という)適用の影響を中小会計指針も受け、中小企業の経営者や経理担当者にとって、中小会計指針が複雑な処理を求めるようになり、利用しづらいものになるのではないかという議論がされるようになった。 また、以前から、中小会計指針の規定そのものが複雑で、中小企業にとって利用しづらいという指摘もあり、平成24年2月に「中小企業の会計に関する基本要領(以下「中小会計要領」という)」が公表された。 これは、中小会計指針より中小企業経営者にとって、理解しやすく、利用しやすい会計処理の基準という基本的考え方で導入されたものであるが、会計処理について、中小会計指針と大きく変わることなく、中小会計指針の簡易版というよりはむしろ、中小企業として最低限クリアすべき会計処理が規定されていると考えるべきである。 今回の中小会計指針の改正は、このような状況の下で、中小会計指針に対するこれまでの評価を受けて、水準を維持しつつ、中小企業経営者にとっても理解しやすく、利用しやすい基準とするよう、会計処理や計算書類への表示方法等について、大きく変えるのではなく、各規定の表現ぶりを理解しやすいようにし、必要に応じて脚注で解説を加える等の変更がなされた。 本連載では、今回の改正点をはじめ、中小会計指針を適用する場合の注意点を確認することとする。   2 中小会計指針における「重要性」 中小企業に限らず、企業が会計処理を検討する際に「重要性がないと認められる場合には、簡便的な方法が認められる。」という旨の規定を見ることがある。 この場合の「重要性」の判断基準は、画一的に決められるのものではなく、個々の事案ごとに金額的重要性や当該処理に係る取引が企業に与えるインパクト等を加味して判断することになる。 ただし、その判断は非常に難しく、中小会計指針においても、各論の該当する個々の規定ごとに「重要性」について触れていくべきであるが、そのような対応は、規定を増やすだけで実効性に欠けることから、中小会計指針の【総論】の「本指針の記載範囲及び適用に当たっての留意事項」第9項(2)に「重要性について」という項目を新たに設けた。 そこでは、「本指針の各論において記載の会計処理の中には、重要性の乏しいものについて、簡便な方法によることが認められているものがある。重要性が乏しいかどうかについては、金額的な面と質的な面の双方を考慮して判断することとなるが、具体的な判断基準は、企業の個々の状況によって異なり得ると考えられる。」としている。 さらに、重要性に関連して、「重要性が乏しいもの以外に、退職給付債務の計算方法等、中小企業の特性を考慮した簡便的な方法が認められている場合もある。」として、簡便法処理基準の具体例を紹介し、中小会計指針全体に共通するルールを示すこととした。   3 中小会計指針における「要点」と読み方 今回の改正により、本文が変更されたものではないが、中小会計指針を利用する上で認識しておかなければならないものとして掲げられるのは、各項目にある「要点」の位置づけについてである。 中小会計指針では、総論が第1項から第9項まで、金銭債権から始まる各論が第10項から第89項までの全89項の規定がある。 特に、日常の業務では、各論の該当項目を確認することが多くなるが、その際、中小会計指針の規定本体は、例えば、金銭債権であれば、第10項の金銭債権の定義「金銭債権とは、~(後略)~。」の本文であり、各論の冒頭にある枠組みの部分は、本文規定を要約したサマリー的位置づけのものであるという点について、これまでと同様であり、変更がない部分であるが、要点が規定であると見られていたような事実も散見された。 中小会計指針を利用するときは、各項の本文が規定であり、枠組み内の要点は、本文規定のポイントを要約したものであるという位置づけを認識しておく必要がある。   4 まとめに代えて 今回は、中小会計指針の今回の改正に至る経緯と、総論の改正点を確認した。 次回からは、各論での改正による変更点及び改正による変更点の有無にかかわらず会計処理を行う際の注意点、さらには、日本税理士会連合会が作成し公表している「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」を作成する際の注意点について確認することとしたい。 【参考】 日本税理士会連合会ホームページ ・「「中小企業の会計に関する指針(平成24年版)」の公表について」 ・「中小企業の会計に関する基本要領」 (了)
#11(掲載号)
#永橋 利志
2013/03/21
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

対談 管理会計を学ぶ 【第1回】

管理会計を学ぶ 【第1回】 (対談日:2013年2月18日)       (次回へ続く) おすすめ書籍のご案内 『崖っぷち女子大生あおい、チョコレート会社で会計を学ぶ。』 林 總、山本 宣明 著 清文社・2013年2月発行・定価:1,575円(税込) ※プロフェッションネットワークの書籍販売ページでは、会員優待価格でご購入いただけます。
#11(掲載号)
#秦 美佐子
2013/03/21
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

改正高年齢者雇用安定法の実務上の留意点 【第3回】「改正高齢法対応の就業規則と労使協定モデル」

改正高年齢者雇用安定法の 実務上の留意点 【第3回】 「改正高齢法対応の就業規則と 労使協定モデル」   社会保険労務士 平澤 貞三   改正高齢法においては、就業規則中の定年に関する条文及び定年後再雇用に関する労使協定の中身の見直しが重要となるが、現行法でのポピュラーな就業規則及び労使協定例を示すと、以下のようになる。 《現行法での就業規則・労使協定例》 改正高齢法を踏まえた就業規則及び労使協定の変更ポイントとして、以下の点が挙げられる。 上記を踏まえた就業規則及び労使協定モデルを示すと、以下のようになる。 《正高齢法対応の就業規則と労使協定モデル》 (了)
#11(掲載号)
#平澤 貞三
2013/03/21
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

会社が取り組む社員の健康管理【第3回】「健康診断に係る費用負担と事後措置について」

会社が取り組む 社員の健康管理 【第3回】 「健康診断に係る費用負担と 事後措置について」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 前回は会社が行う健康診断のポイントや実施スケジュール等について触れたが、引き続き健康診断に関連した内容として、費用負担や事後措置等について触れていくこととする。   2 健康診断の費用負担 労働安全衛生法の定めによる健康診断を実施する場合、その健康診断の実施に要する費用は、会社が負担しなければならないとされている。 ただし、会社が指定した医師による健康診断を受けず、労働者が自ら選定した医師による健康診断(労働安全衛生法66条5項)を受診した場合は、健康診断の実施に要した費用を負担する必要はない。 なお、「協会けんぽ」においては健康診断に対する費用の一部負担が行われているため、対象者の範囲、健診項目、実施機関等について事前に確認をした上で活用していくとよい(「健康保険組合」に加入している会社の場合は、各健康保険組合が問い合わせ窓口となる)。   3 健康診断実施中の賃金 一般健康診断の場合、実施中の賃金の支払いは義務付けられていない(支払われることが望ましいとされている)。 ただし、特殊健康診断(じん肺健康診断、高気圧業務健康診断、石綿健康診断など業務の種類に応じ定められた健康診断:労働安全衛生法66条2項、3項)の受診に要する時間については、賃金の支払義務が生じる。   4 労働時間の計算 健診実施中の賃金と同様に、労働時間の計算も健康診断の種類により扱いが異なる。   5 自発的健康診断 前回紹介したように、雇入れ時や定期的に実施する健康診断のほか、深夜業(午後10時から翌朝午前5時までの業務)に従事する労働者については、自ら健康診断を受け、医師による健康診断の結果を証明する書面を会社に提出することができることとされている。 会社は、労働者から健康診断結果の提出を受けたときは、次の措置をとらなければならないことに注意を要する。   6 健康診断実施後に会社がとるべき対応(事後措置) 社員が健康診断を終えた後に会社がとるべき事後措置等については、次のとおりである。 (1) 就業場所変更等の措置 会社は、健康診断の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。 この意見を勘案し、必要があると認めるときは、労働者の実情を考慮して以下のような措置をとる必要がある。 また、他の労働者についても同様の健康障害が生じないよう再発防止に向けての注意喚起、労働時間等の管理方法の見直しなどを行っておくことが望ましい。 (2) 保健指導 会社が健康診断を行ったときは、労働者に対し結果を通知することのほか、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。 (3) 面接指導 会社は、長時間労働を行っている労働者からの申し出があったときは、面接指導を行わなければならない。 面接指導の対象者とは、1週間当たり40時間を超えて労働させている場合であって、その超過時間の合計が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者とされている。 面接指導の申し出があったときは、次の事項を確認する。 会社は、面接指導を実施したときは、医師からの意見聴取、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の事後措置をとる必要がある。 また、この面接指導の記録について、5年間保存しなければならない。 面接指導については、法令では「労働者からの申し出」を実施要件としているが、そのようなことまで把握している労働者は多くないと思われる。 健康障害を防止していくためにも、労働者が自己の労働時間数を確認できる仕組みの整備、面接指導を申し出る手続を行うための体制整備や労働者への周知など、面接指導の申し出を行いやすい環境づくりに努めておきたい。 以上、2回にわたり、会社が実施する健康診断のポイントや留意点について紹介してきた。 健康障害の予防や再発防止には、会社側の取組みだけでなく、労働者の理解と協力も不可欠であるため、次回は健康の保持増進策や安全衛生教育について触れていくこととする。 (了)
#11(掲載号)
#佐藤 信
2013/03/21
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

誤りやすい[給与計算]事例解説〈第11回〉-賞与計算(2)-【事例②】標準賞与額の累計計算

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第11回〉 -賞与計算(2)-   税理士・社会保険労務士  安田 大   【事例②】―標準賞与額の累計計算― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 健康保険料 賞与(年4回以上支給される場合は除く)から控除する健康保険料については、標準賞与額×保険料率の算式で計算することになる。 健康保険料算定の際の標準賞与額とは、賞与の支給額の1,000円未満の端数を切り捨てた額で、年度(4月1日~3月31日)における上限が累計額で540万円となっている。 2 標準賞与額の累計額の取扱い 健康保険の標準賞与額は、年度(4月1日~3月31日)の上限が540万円となっているが、転職、転勤等があった場合には、保険者単位(全国健康保険協会、各健康保険組合)で、その累計額を算出することになる。 また、育児休業による保険料免除期間中に支払われた賞与、資格喪失月に支払われた賞与(被保険者期間中に支払われたが、保険料賦課の対象外となる賞与(前回参照))についても、累計額に含めることになる。 したがって、事例の場合については、6月10日支給の賞与(育児休業による保険料免除期間中に支払われた賞与)の支給額も累計額の対象となるため、12月10日の賞与の支給額との累計で540万円を超えることとなり、今回の標準賞与額は240万円(540万円-300万円)となる。  3 健康保険標準賞与額累計申出書 全国健康保険協会管掌健康保険において、同一年度内に転職、転勤等によって複数の被保険者期間があり、それぞれの被保険者期間中に決定された標準賞与額の累計額が540万円を超えた場合には、「健康保険標準賞与額累計申出書」を年金事務所に提出することになる。 なお、転職、転勤等がなく、被保険者期間が継続している場合には、540万円を超えても申出書の提出は不要である。 4 厚生年金保険料 賞与(年4回以上支給される場合は除く)から控除する厚生年金保険料についても、健康保険の場合と同様に、標準賞与額×保険料率の算式で計算をすることになる。 ただし、厚生年金保険料算定の際の標準賞与額は、賞与の支給額の1,000円未満の端数を切り捨てた額で、上限が150万円となっている。健康保険料算定の際の標準賞与額とは異なり、年度の累計額ではなく、1回ごとの上限額である。 したがって、事例の場合については、6月10日支給の賞与とは関係なく、今回の支給額が150万円を超えているので、標準賞与額は150万円となる。 (了)
#11(掲載号)
#安田 大
2013/03/21
労務・法務・経営 経営

〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ【第1回】「最近の会計システム事情」

〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第1回】 「最近の会計システム事情」   公認会計士・税理士 小田 恭彦   会計システムとは 『最近の会計システム事情』というテーマであるが、そもそも「会計システム」とは何であろうか。 人によって思い浮かべるものは違うと思う。会計事務所のスタッフの方々は顧客の記帳代行に使用しているソフト、大企業の経理担当者の方々は自社で利用しているソフト、ソフトウエアベンダーのSEの方々は自社で販売しているソフトなど、それぞれの「会計システム」を思い浮かべるだろう。   狭義の会計システム まず簡単に「会計システム」を定義しておきたい。 「会計システム」という言葉に明確な定義はなく、機能範囲や規模の異なるさまざまなシステムを「会計システム」と呼んでいる。 ただ、共通しているのは、「仕訳を入力して、総勘定元帳、試算表、決算書を作成するためのシステム」という機能は必ず含んでいる点である。これが狭い意味での会計システムといえるだろう。 この機能だけであれば、わざわざ高価なシステムを購入する必要はなく、表計算ソフト程度でも実現できるかもしれない。ご存知のとおり、会計システムにはそれ以外にもさまざまな機能が用意されている。 以下、いくつかの切り口で分類してみる。   機能充実度による違い 会計システム(ここでは、上記のいわゆる「総勘定元帳作成機能」をイメージしていただきたい)には、街の家電量販店にて数万円ほどで販売している「○○会計」のようなシステムから、数千万円~数億円もするような会計システムまである。この違いは何だろうか。 これらの大きな違いとしては、以下のような機能の充実度による違いがある。   対象業務範囲による機能の違い 会計システムと呼ばれているシステムには、総勘定元帳機能以外にもさまざまな機能が実装されている場合がある。 製品毎に機能範囲は異なるが、一般的には以下のような機能が付いている。 実務的には、上記の機能までを「会計システム」を呼んでいる感覚がある。 管理会計とは、仕訳の中に勘定科目以外の情報、例えば、部門コード、事業セグメント、プロジェクトコードなど入力して、財務会計(制度会計)以外の管理帳票が出せるようにする仕組みや、予算情報との比較や配賦機能などを指す。 債権管理(得意先元帳)は得意先別の売掛金の計上から入金消込み及び滞留売掛金を管理する機能である。 債務管理(仕入先元帳)は仕入先別の買掛金の計上から支払いまでを管理する。 そして、資金管理は、債権管理、債務管理が持っている入金予定情報や支払予定情報から、将来の資金増減を計画したり、借入金の残高や利息を管理する機能などのことである。 なお、法人税等の確定申告書作成システムについては、会計システムの中に機能として準備されているというよりは別製品という感覚であり(個人の確定申告書作成機能が付いた会計ソフトもあるが)、製品原価計算、プロジェクト管理、在庫、生産管理などの機能まで統合されたシステムは会計システムとは呼ばず、ERP(イーアールピー)システムや統合型パッケージと呼ぶ(会計システムの部分だけでも、統合型、ERPなどと呼ぶ製品もある)。 このように、会計システムには機能範囲や機能充実度による違いあり、それぞれ自社のニーズに合ったシステムを使っている。   最近の会計システムの動向 さて、今回のテーマである『最近の会計システム事情』として、ここ数年で大きく変化したのは、まず、監査等の現場における、生データの利用である。 以前は、総勘定元帳や試算表などを紙で入手していたが、最近では監査人などが会計システムを直接操作して、会計システムに保管されている仕訳データを直接参照したり、会計システムから仕訳データなどを一括抽出して分析ツールなどで分析する手法が採用されている。後者を一般的にCAATという。 また、内部統制制度(いわゆるJ-SOX)の施行を機に、会計伝票の変更履歴管理、ユーザ権限管理などいわゆるIT全般統制に対応する機能の充実が図られた。 これは比較的大規模な会計システムには以前から具備されていた機能であるが、これを機に、それまで比較的緩かった中小企業向けの会計ソフトにも付けられるようになった。 最後にクラウド化である。 クラウドとは簡単に言うと、自分ではデータを保持せず、パッケージベンダやサーバベンダーが用意するサーバーにデータを保管する方式をいう。これにより、自分のパソコンや自社のサーバーに破損等が起きた場合でも、データを保全することができる。また、このクラウド化に伴い、会計ソフトを購入するのではなく、会計システムの利用料を払って使用するというSAASという形式も増えた(ASPという呼び方をするものもある)。 このように、ITインフラの進化や税務や会計に関する諸制度の変更などを受けて、会計システムとそれを利用する環境は常に変化している。 (了)
#11(掲載号)
#小田 恭彦
2013/03/21
労務・法務・経営 経営

会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第3回】「税理士法人の事業承継」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第3回】 「税理士法人の事業承継」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 税理士法人の事業価値源泉 税理士法人による税理士業務の特徴は、その権利義務が税理士個人ではなく法人に帰属するところにある。 例えば、顧客との顧問契約の締結主体は、代表社員の税理士ではなく、法的主体としての税理士法人である。 つまり、税理士法人の事業価値源泉は、オーナーの立場にある代表社員が法人の持分の保有を通じて間接的に所有しているのである。 それゆえ、税理士業務の事業価値源泉は法人に帰属することとなり、たとえ法人の社員である税理士(オーナー)が引退しても、その税理士業務の提供が途切れてしまうことはない。 代表社員が引退するためには、そのオーナーとしての地位(社員の地位)を後継者へ法的に移転することが必要となる。 したがって、税理士法人の事業承継は、社員が有する法人持分の相続、贈与又は譲渡によって行われることになる。 税理士法人の社員の地位が株式会社の株主と異なる点は、税理士法人が合名会社に準じた人的会社の性質を有していることから、債権者に対して直接・連帯・無限責任を負うことである。 しかし、一般事業会社の株主の場合であっても、銀行借入金に連帯保証を入れるなど人的会社に近い責任を負わされることが一般的であり、税理士法人の社員の責任の重さが、持分の移転において問題となることはあまりない。 それでは、税理士法人の経営資源はどうであろうか。つまり、税理士業務の事業価値源泉である顧客関係、職員の雇用の維持をどう考えるべきか。 そもそも、税理士業務の提供のために有形固定資産をほとんど必要としない会計事務所の経営資源は、既存顧客との顧問契約と、職員との雇用契約の2つが中核になる。 また、長年経営されている税理士法人であれば、その知名度、ブランド、提携する金融機関との関係などの無形資産も貴重な経営資源といえよう。 さらに、大規模な組織を有する税理士法人であれば、組織的経営のノウハウ、税理士業務の専門知識を共有できる体制(ナレッジ・マネジメント・システム)なども重要な経営資源となっていることであろう。 これらの経営資源は、税理士法人の事業価値源泉となり、一体となって税理士業務を提供しているのである。   2 税理士法人の社員の投下資本回収 一般的に、税理士法人の事業承継は、社員の退社と入社によって行われていると考えられる。 社員は2人以上必要であるから、個人事務所の場合とは異なり、所長税理士の引退が廃業につながるというわけではない。社員の入替えによって事業承継はスムーズに行われることになる。 すなわち、引退する社員に対して退職金を支払うとともに、その持分を入社する後継者に買い取ってもらうという方法がとられている。 ただし、個人事務所の場合とは異なり、子供を後継者とする親族内承継よりも、職員を後継者とするケースのほうが多いようである。 それでは、税理士資格を有する後継者が不在の場合はどうであろうか。 あるいは、職員に若い補助税理士しかおらず、税理士法人を経営する能力や経験に乏しい場合はどうであろうか。 この場合、税理士法人の社員が退社する際に、税理士の当初出資金を回収する手段が必要となる。そこで、税理士法では、持分譲渡、合併、事業譲渡の3つの規定を設けている。 〈税理士法人のM&Aスキーム〉   3 税理士法人の持分譲渡 税理士法人の持分は、他の社員全員の承諾があれば譲渡することができる(税理士法48条の21第1項、会社法585条)。 ただし、税理士法人の社員は(自然人たる)税理士でなければならないとされているため(税理士法48条の4第1項)、税理士法人の持分は個人税理士に対してのみ譲渡することができる。 つまり、他の税理士法人に対して譲渡することはできない。 また、社員1人の法人となってしまった場合には、税理士法人の解散事由となっているため(社団性、税理士法48条の18)、社員が全員退社して持分譲渡するような場合には、2名以上の税理士が持分を譲り受け、社員に就任しなければならない。 しかしながら、税理士法人の持分の評価額は高くなることから、それを個人で譲り受けることができるほどの資金力を持つ税理士を見付けることは困難であろう。   4 税理士法人の合併 税理士法人を個人の税理士が引き継ぐことは、既述のように容易ではない。 そこで、税理士法人が引き継ぐことが考えられる。 この場合、持分譲渡は使えないため、合併(税理士法48条の19)によって行われることになる。 合併によって引退する被合併法人の社員が受け取る対価には、現金の場合(現金交付型合併)と、出資持分の場合(持分交付型合併)があるが、引退する税理士に新たな持分を交付されても意味がないため、事業承継においては現金交付型合併が適用されることが一般的である。 現金交付型合併は、社員の出資持分の回収手段となるが、税務上、プラスの効果が生じる。 すなわち、合併が非適格組織再編となることから、支払対価が純資産額を上回る部分が合併法人において資産調整勘定として計上されることとなり、合併法人はその償却によって税負担を軽減することができる。   5 税理士法人の事業譲渡 実務上でほとんど見ることがない取引方法ではあるが、税理士法人の事業譲渡も可能であると考えらる(税理士法施行規則22条の2第8項)。 つまり、個人税理士とは異なり、税理士法人の営業権が認められる可能性がある。 この場合、支払対価のほとんどが資産調整勘定として計上されることとなり、税理士業務を譲り受けた税理士法人は、その償却によって税負担を軽減することができる。   6 所長の営業力という経営資源 顧客との顧問契約を引き継ぐことができれば事業価値源泉が維持され、事業承継が成功するというのは既述の通りであるが、1点だけ注意すべきことがある。 それは、個人事務所の場合も同様であるが、所長又は社員の営業力をいかに引き継ぐかということである。 税理士法人の場合、職員へ持分を移転するケースが多い。しかし、所長が営業活動に専念し、実務遂行を職員に任せているような組織においては、職員に営業力が全く養われていない状況が多く見られる。 所長又は社員の営業力は顧客関係を維持するために不可欠のものであるから、後継者に営業力が無ければ事業価値源泉が維持できないということになる。 所長又は社員の「営業力」は、会計事務所の経営資源として非常に大きな価値を生んでいる。例えば、「所長先生との毎月のゴルフ、宴席などのお付合いがあったから、これまで顧問をお願いしていたのだ」といった顧客との人的な信頼関係である。 後継者に営業力が備わっていること、これは事業承継の大前提となる。 〈会計事務所の経営資源〉 (了)
#11(掲載号)
#岸田 康雄
2013/03/21
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第4回】「DPC/PDPSへの参加は必須か」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第4回】 「DPC/PDPSへの参加は必須か」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   連載の第3回では、多くの急性期病院が参加するDPC/PDPSの概要を解説した。 本稿では、DPC/PDPSへの参加条件及び参加することの意義について言及する。   1 DPC/PDPSへの参加 DPCは、その支払いを受けるDPC対象病院と、データ提出だけを行い支払いは出来高で算定する病院の2つに分けることができる。 多くの病院は前者のDPC対象病院であり、参加のためには7対1入院基本料、あるいは10対1入院基本料を算定していることに加え、「データ/病床」比という基準が存在し、2年間のデータ提出を行い提出データ(退院患者数)/病床数が0.875以上(月)であることが求められる。 これは、急性期病院は病床数に対して一定の退院患者がいることを意味しており、在院日数が短く新入院患者がある水準に達していれば容易にクリアできる。それに対して、DPC/PDPSでの支払いは受けない病院は、要求されるデータを提出することによってデータ提出加算という診療報酬を受け取ることができる。 データ提出加算は2012年度診療報酬改定で新設されたものであり、DPC対象病院とそれ以外の急性期病院の診療状況の違いを把握するために評価が行われた。 DPC対象病院が1,500以上に増加した要因として、経済的なメリットをあげることができる。 DPC/PDPSでは暫定調整係数という前年度並みの収入が保証される仕組みがあり(当該係数は、2018年までに廃止される予定)、出来高から包括払いへ移行しても損をしないような配慮が行われている。 実際には、多くの病院が診療単価の向上という経済的な便益を受けている。   2 DPCに参加しない病院の特徴 このような経済的利益があるにもかかわらず、DPC対象病院にもならず、データ提出も行わない病院も存在する。 200床以上の病院で、DPC参加の要件である7対1入院基本料あるいは10対1入院基本料を算定している病院は、約100病院であると予想される。これらの病院のうち、国立病院機構の旧療養所など筋ジストロフィーや重症心身障害などを扱う急性期的な機能を有しない一般病院もあり、10対1入院基本料以上を算定する病院が急性期病院であると考えるならば、実質的には相当な割合の急性期病院がDPCに参加(データ提出を含む)している。   3 DPC/PDPSへの参加は必須か 特殊な機能を持つ専門病院や小規模の急性期病院を除いて、以下の理由からDPC/PDPSへの参加は必須であると筆者は考えている。 まず1つ目の理由は、DPCには標準化・効率化を促すインセンティブが仕掛けられており、出来高算定のような過剰な検査や投薬など無駄を誘発しやすい仕組みが制度として残ることは医療費抑制という環境下を前提とすると考えづらいからである。 2012年度診療報酬改定で、データ提出加算が新設され、DPCに参加しない病院であっても、データを提出することの経済的なインセンティブが設けられた。これにより、DPC対象病院とそれ以外の病院の診療プロセス等が明らかにされ、その実態が明らかにされる日も遠くない。 そうなると、DPC対象病院が、少ない医療資源の投入量で、より効率的で効果的な医療を提供していることが明らかになるであろう。 例えば、急性心筋梗塞の院内死亡率が、DPC対象病院が出来高算定病院よりも低いにもかかわらず、検査などの医療資源の投入量は少ない、という結果が出てくることが予想される。また、外来データの提出も行われるため、入院前後の外来における診療実態も何らかの形で制度に反映されていくことであろう。 2つ目の理由は、現行の制度では、急性期病院の診療報酬には2体系が存在し、二重価格であるという矛盾が生じており、中長期的には是正されることが予想されるからである。 同一のサービスには同一の価格がつけられるのが、経済学でいう一物一価の法則である。しかし、出来高算定を選ぶことにより、本来必要のない検査や投薬を行うことにより診療収入を稼ぎ出すインセンティブが生じることは矛盾があると予想される。 3つ目の理由は、高い精度の診療データを持つことこそ、急性期病院だと言えるからである。 医療は質が重要であり、質の高い病院には高い診療報酬を支払うという仕掛けも重要であろう(Pay for Performanceという)。その際に、他院と比較可能な適切なデータを保有することは極めて重要な意義を有する(ただし、データを作成することと、DPC/PDPSにおいて支払いを受けることは別問題であるともいえる)。 (了)
#11(掲載号)
#井上 貴裕
2013/03/21
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事例で学ぶ内部統制【第15回】「平成23年度に取り組んだ内部統制の簡素化事例」

事例で学ぶ内部統制 【第15回】 「平成23年度に取り組んだ 内部統制の簡素化事例」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 本連載の最終回となる今回は、平成23年度に取り組んだ内部統制の簡素化事例を紹介する。 制度4年目を迎えた平成23年3月、金融庁は内部統制の基準・実施基準の更なる簡素化・明確化を促す改訂実施基準を公表した。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、改訂実施基準が最初に適用される平成23年4月以降に、企業が新たに導入した簡素化の対応、その効果や課題、監査法人とのコミュニケーションのあり方について意見交換を行った。 各社が取り組んだ創意工夫を見てみよう。   平成23年度に導入した簡素化事例 改訂実施基準は、企業において可能となる簡素化・明確化として、ELCの評価範囲の明確化や評価方法の簡素化、PLCの評価範囲の更なる絞込みと評価手続の簡素化、サンプリングの簡素化などを挙げ、併せて、事業規模が小規模で比較的簡素な構造を有している中堅・中小上場企業における効率化事例を紹介している。 いずれの参加企業においてもその内容を熟知し、社内で相応の検討を経て簡素化に踏み出していた。 ① 評価範囲の絞込み 参加企業Aは、「以前は、評価対象拠点が毎年の業績変動によって入れ替わっていたので、制度運用の負担が大きいと感じていた。そこで、評価範囲の選定に使う金額的指標を連結売上高のみとし、その金額的基準が一定年数で連続達成していることを条件とし、さらにセグメントの重要性という質的基準を追加することにより、評価対象拠点を原則として固定化した」(精密機器メーカー)と、評価拠点の絞込みを進めた。 ② ELCの簡素化 参加企業Bは、「従来は、すべての子会社を個別にELCの評価対象としていたが、社内改定後は、前年度の内部監査・外部監査結果において問題がなければ、その子会社を評価範囲には含めつつも、個別に評価対象とせず、むしろ親組織の支店として扱い、親組織のELCの評価のみで対応することとした」(食品流通会社)と、一定の条件を満たす子会社のELCの評価を親会社のELCの評価の一環に取り込んでいた。 ③ PLCの簡素化 PLCの簡素化は、評価対象となる勘定科目や評価対象となる業務プロセスの絞込み、整備評価の簡素化、前年度の運用評価の結果を継続して利用する運用評価のローテーション、監査法人との評価対象サンプルの共有など、多くの領域にわたっていた。 前出の参加企業Aは、「まず、各拠点の決算財務報告プロセスの評価対象勘定科目が12科目だったが、社内改定後は、未払法人税を税効果会計に、投資有価証券や関係会社株式は期末時価評価に集約することで相互の重複を解消し、9科目に削減した。また、販売、購買、棚卸のコントロールのうち、改定前は、現業部門における評価と経理部門における評価の重複が発生していたが、改定後は、決算財務報告プロセスとしてまとめて評価することとした」と、評価対象勘定科目と勘定科目に紐付けられた業務プロセスの絞込みの両方を行っていた。 整備評価について、参加企業Cは、「従来は、内部統制を統括する部署が指定した証憑類について、ウォークスルーによる評価を必須としていたが、今後は、整備状況に重要な変更がない場合は任意とした」(情報通信)と、整備評価の効率化を行った。 運用評価について、前出の参加企業Bは、「前年度の内部監査及び外部監査結果で問題のなかった業務プロセスについては、前年度の運用評価結果を継続して利用し、3年に1回の運用評価に変更した」と、早速、運用評価のローテーションを取り入れていた。 他方、前出の参加企業Cも「B社さんと同じだが、ローテーションの間隔は、2年に1回とした」と話した。 評価対象のサンプルについて、前出の参加企業Aは、「社内改定前は、監査法人と経営者がそれぞれ別個にサンプリングして評価していたが、改訂実施基準を踏まえ内部統制の評価方法を社内で改定した後は、監査法人と経営者との間でサンプルを共有し評価することとした。例えば、25件のサンプルを評価する場合、10件のサンプルについて監査法人は経営者が評価した結果をそのまま採用することとした。また、経営者は監査法人が選んだサンプルをそのまま経営者のサンプルとしても使用できることにした」と、監査法人とサンプルを共有し、かつ共有したサンプルに対して監査法人は経営者が行った評価結果に依拠することとした。 参加企業Dは、「改訂実施基準が公開される前から、監査法人と経営者評価で半数未満を共用していたが、社内での対応を改めて、サンプルの3分の2程度を共用することにした」(建設会社)と、監査法人との間でサンプルの更なる共用化を図った。   簡素化によって得られた効果 多くの参加企業は、「評価を受ける側も評価する側も、運用評価のローテーションに加え、監査法人との間でサンプルを共有し、全体のサンプル件数が減少したことにより、サンプル資料収集工数、対応工数の削減が図られ、負担が減少した」と、簡素化がもたらす所期の効果について間然するところがない。 さらに、前出の参加企業Dは、「モニタリングの関係者を絞ったことにより、関係者間のスケジュール調整が容易になった。その副次的効果として、監査部が金融商品取引法の内部統制評価から解放され、業務監査に集中することができるようになった」と加えた。 もっとも、効果の中身は代わり映えしないものだったので、議論は盛り上がらなかった。   簡素化による更なる改善や課題 これに対して、簡素化による更なる改善や課題については、 「依然として、同一監査証憑や調書の重複保存の問題、拠点や各組織内の内部統制部門と本社所属の内部監査部門による内部監査との重複の問題、他の諸監査(システム監査・購買監査・棚卸監査等)との重複の問題が残っている」 「改訂実施基準によれば簡素化が許容されない財務報告の信頼性に特に重要な影響を及ぼす評価項目とは何であろうか。結局、負荷が大きい決算財務報告プロセスなどの評価は、簡素化が許容されないのではないか」 などと、様々な声が上がった。 それどころか、比較的多くの参加企業が、「PLCの運用評価のローテーションで省力化は達成できるだろうが、各部門の内部統制に対する意識低下を招くと思う。むしろモニタリング頻度を上げるべきだ」と、簡素化一辺倒の流れに慎重であった。   監査法人とのコミュニケーションのあり方 改訂実施基準は、企業の創意工夫を監査法人が理解し尊重することや開示すべき重要な不備の判断基準の明確化を謳っているため、監査法人とのコミュニケーションのあり方に議論が及んだ。 参加企業Eは、「内部統制報告制度が導入される以前ではブラックボックスだった監査法人による重要性の判断基準が共有されることで、企業にとっては不意打ち防止や法的安定性が期待され、監査法人にとっても企業が行った内部統制の経営者評価の結果を活用して重要な不備の発見を効率的に行うことが可能になるはずだ」(資材メーカー)と、コミュニケーションの改善が双方にもたらす効果を巨細(こさい)に話した。 参加企業Fも、「簡素化よりも基準の明確化によって財務諸表監査のポイントが分かるようになり、監査対応がスムーズになると同時に、監査対象の部門に対しても、リスクとコントロールの重要性の意味を伝えることができるようになった」(食品メーカー)と話した。 他方、参加企業Gは、「内部統制を通じて監査法人とコミュニケーションを図り、監査の負担が減ったはずなのに、監査報酬の減額にはつながっていない」(商社)と、冗談を交えて苦笑していた。 読者に向けて 実務家交流会で意見交換したいずれの参加企業も、制度運用に手間隙をかけ悩みを抱えつつも、この4年間で制度がもたらした便益を享受していることを自覚している。 だからこそ、改訂実施基準が公表されても、それを適用するにあたっては、簡素化や効率化の視点だけでなく、有効化の視点を持ち合わせ、自分の頭で腑に落ちるまで検討を重ねていた。 そのとき、事例に裏付けられた真剣な意見交換は、巷で情報を転売する有識者の大言壮語と違い、その企業に正しい解を示してくれる可能性がある。 筆者は、意見交換された言葉自体に接してほしいと考え、紙面の制約の中、対話型による実例紹介を行ってきた。パラフレーズした瞬間に、言葉は力を失うからである。 本稿で紹介してきたわずかばかりの事例と意見交換が、読者各位を有効かつ効率的な制度運用にいざなう道標となれば望外の喜である。 (連載了)
#11(掲載号)
#島 紀彦
2013/03/21
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