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《速報解説》 インボイス制度「2割特例」等、令和5年度改正を受け消費税の申告書様式等改正通達が公表~付表6 税率別消費税額計算表〔小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置を適用する課税期間用〕が新設~

《速報解説》 インボイス制度「2割特例」等、令和5年度改正を受け消費税の申告書様式等改正通達が公表 ~付表6 税率別消費税額計算表〔小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置を適用する課税期間用〕が新設~   Profession Journal編集部   令和5年度税制改正ではインボイス制度導入に係る激変緩和措置として2割特例等、小規模事業者に向けた措置が講じられているが、このほど国税庁は「「消費税の軽減税率制度に関する申告書等の様式の制定について」等の一部改正について(法令解釈通達)」を公表。これら改正事項を受けた消費税の申告書や適格請求書発行事業者の登録申請書の様式を改正する通達を公表した。 令和5年度税制改正の概要は下記の速報解説を参照されたい。 具体的には、消費税の申告書第1表(原則・簡易ともに)において2割特例適用時にマルを付ける「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」欄が新設されるとともに、「付表6」として「税率別消費税額計算表〔小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置を適用する課税期間用〕」が新設された。 また、登録手続についても一部見直しが行われたことで、令和5年10月1日以降提出分の「適格請求書発行事業者の登録申請書」の表記も見直されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#Profession Journal 編集部
2023/04/07
お知らせ 国税通則 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和4年7月~9月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和4年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2023(令和5)年3月29日、「令和4年7月から9月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、法人税法関係が2件、国税通則法関係と所得税法関係が各1件で、合わせて4件となっている。最近の公表件数は、4件→4件→5件→4件(今回)と非常に少ない傾向が続いている。 今回の公表裁決4件は、すべて原処分庁の賦課決定処分の全部又は一部を取り消す裁決となっている。 【表:公表裁決事例令和4年7月から9月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された裁決事例のうちから、原処分庁による重加算税の賦課決定処分が国税不服審判所によって取り消された1件と、原処分庁が過大な役員報酬であるとして否認した処分を、同じく国税不服審判所が取り消す旨の裁決をした1件を取り上げたい。   1 請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかった事例・・・① (1) 事案の概要 本件は、太陽光発電関連事業等を営む法人である審査請求人(以下「請求人」という)が、法人税等及び消費税等の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、請求人に隠蔽又は仮装及び偽りその他不正の行為があるとして、法人税等及び消費税等に係る重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、調査手続に賦課決定処分の取消事由となる違法があり、また、隠蔽又は仮装及び偽りその他不正の行為はないとして、その全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 本稿では、〔争点2〕である「請求人に隠蔽・仮装の事実があったか否か」を中心に裁決の概要を検証したい。 (3) 原処分庁の主張 原処分庁は、請求人代表者について、 などの行為があったことから、請求人の事業における収益及び対価の享受に係る事実(所得金額)を隠蔽し、あるいは故意に脱漏したものであり、結果として請求人の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実(所得金額)を隠蔽したものと認められることから、請求人には、国税通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと主張した。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した以下の事実に基づいて検討したうえで、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告をしなかったと評価することはできないことから、請求人に、国税通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認めることはできないとの裁決を示した。   2 取締役に支給した報酬について過大か否かが争われた事例・・・④ (1) 事案の概要 本件は、特例有限会社であり、かつ、同族会社である審査請求人(以下「請求人」という)が、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入した取締役に対する役員給与の額について、原処分庁が、当該給与の額には不相当に高額な部分の金額があり、当該金額は損金の額に算入されないなどとして法人税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が当該給与の額に不相当に高額な部分の金額はないとして、原処分の一部取消しを求めた事案である。 不相当に高額な給与であるとされた取締役(本件取締役)は、生産管理全般の責任者という使用人としての業務に従事しており、「役員で労働者扱いの者」として労働保険に加入している。 (2) 争点 本件取締役に支給された役員給与の額に不相当に高額な部分の金額はあるか否か。 (3) 役員給与のうち「不相当に高額な部分」の意義 法人税法第34条第2項に定める「役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額」とは、以下の①又は②のうち、いずれか多い金額をいう(※)。 (※) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)406ページ以下 本件では、請求人・原処分庁ともに、争点は、本件取締役に支給された役員給与の額が形式基準を超えているかどうかであることであり、同人が使用人兼務役員に該当しないことについては、争いがない。 (4) 原処分庁の主張 原処分庁は、本件取締役は法人税法上の使用人兼務役員に該当しないことから、同人に対して支給した給与の額の合計額は全て役員給与となる。よって、形式基準限度額を超える部分の支給額は不相当に高額な役員給与に当たると主張した (5) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した以下の事実に基づいて検討したうえで、請求人代表取締役は、本件取締役に対する給与のうち取締役部分を月額〇〇〇〇円であると認識していたとしても、それは、本件取締役に対する給与の額の積算根拠にすぎないというべきであり、この他に本件取締役に係る形式基準限度額を〇〇〇〇円と決定した事実を認めるに足る証拠はない。さらに、本件役員給与の支給額(年額)は、請求人の第1回定時社員総会で定められた役員報酬の額の年額5,000万円以内であると認められることから、本件役員給与に形式基準を超える金額があるとは認められないと判断して、本件役員給与の額に、法人税法第34条第2項に規定する不相当に高額な部分の金額は認められないことから、本件賦課決定処分の全部を、取り消すべきであるという裁決を示した。 (了)
#米澤 勝
2023/04/06
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.514が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年4月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.514を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2023/04/06
個人住民税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

monthly TAX views -No.123-「“106万円の壁”より深刻な“住民税非課税の壁”」

monthly TAX views -No.123- 「“106万円の壁”より深刻な“住民税非課税の壁”」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   政府は、物価対策という名目で、低所得世帯に一律3万円の給付(事業費5,000億円)、子育て世帯には別途子ども1人当たり5万円の給付(事業費1,551億円)を行う。 低所得世帯の判断基準は、これまで同様、「住民税非課税かどうか」となっている。住民税非課税世帯で子どもが2人いる場合には、3+5×2=13万円の給付がもらえるが、住民税を少しでも負担していれば、給付はゼロである。これでは、働いて少しでも住民税を負担している者は報われない。 *  *  * 本連載のNo.119で、住民税非課税という基準が高齢者に有利であることを指摘した。非課税基準は「所得」なので、給与所得者より高水準の公的年金等控除がある年金受給者は、勤労者より高水準の「収入」でも住民税非課税になりやすい。住民税非課税世帯の7割が高齢の年金受給世帯で、必ずしも生活困窮者とは限らない。 住民税を負担しているが困窮している勤労世帯が給付から外れるだけでなく、高齢者は若者と比べて「資産」を保有している割合が圧倒的に高く、住民税非課税基準は公平性に大きな問題を生じさせ、就業調整にもつながっていく。 今日、106万円・130万円の壁(この収入を超えると夫の扶養から外れ社会保険料負担が生じるので就業調整をすること)が大きな社会問題となっている。 岸田総理は3月17日の記者会見で、106万円・130万円の壁について「被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援などをまず導入し、さらに制度の見直しに取り組む」と表明した。 現在政府部内で検討されている案は、収入増でパート主婦の手取りが社会保険適用前の金額に回復するまでの間、手取り減少分の一部を補填できるよう企業に助成金を出すという内容のようだ。 しかし、そもそもパート主婦は、「第3号被保険者」として保険料を負担せず受益だけをしている。さらに一定収入のある主婦の保険料まで助成金で実質補助することは、個人事業者や非正規雇用者などの「第1号被保険者」から不公平という批判を招きかねない。また将来年金給付が得られるにもかかわらず、その社会保険料負担を補填することにも問題がある。壁を越えて勤労し社会保険制度に加入することには将来大きなメリットがあるわけで、政府は「壁を意識せずに働き、社会保険制度に加入することがベストである」ということをもっと喧伝すべきだ。 一方で深刻なのは「住民税非課税の壁」である。単身の給与所得者の場合は、年収100万円以下が課税最低限である。 非課税世帯には、返済不要の「高校生等奨学給付金」があり、また「高等教育の修学支援新制度」のもとで授業料・入学金の減免、返還する必要のない給付型奨学金なども適用される。 これでは住民税の課税最低限のところで、就業調整が生じる可能性がある。 欧米では、専業主婦などが新たに労働市場に参入する際に生じる世帯の逆転現象を、ポバティ―トラップ(貧困の罠)と捉えて、壁をなくす制度として、「給付付き税額控除」が導入されている。英国、オランダ、米国、スウェーデンなどのユニバーサルクレジットや勤労税額控除で、税と社会保険料負担を一体的に捉えた上で、低所得勤労者に勤労インセンティブを供与するため、低所得者の可処分所得が逓増するよう給付が行われるよう設計されているので「壁」の問題は生じない。 *  *  * マイナンバー制度を活用して、所得と給付とを連動させ、きめ細かい給付が行われるような仕組みをわが国も検討する必要がある。 筆者が構成員を務めているデジタル庁の会議で、このことを指摘してきているが、当局者からは、「制度設計をする所管官庁と議論する必要があるので、3年、5年かかる」という返答である。まずは「霞が関の壁」を排除する必要がある。 (了)
#514(掲載号)
#森信 茂樹
2023/04/06
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例51】「法人代表者の配偶者が経営する法人に対する交際費の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例51】 「法人代表者の配偶者が経営する法人に対する交際費の損金性」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、北海道及び東北地方において飲食店業を営む株式会社X(資本金8,000万円)において、総務部長を務めております。飲食店業は大手チェーン店から個人経営の店に至るまで、政府の様々な支援策にもかかわらず、コロナ禍で壊滅的な打撃を受けた業種として知られております。 ところが、幸いわが社はその中でも比較的ダメージが小さかった、黒毛和牛の食べ放題を売りにした焼肉店を展開していたことから、ここ数年も業績は堅調で、むしろ同業他社が撤退した店舗を居抜きで買い取るなどして、店舗数を増加させているところです。これは、わが社の創業者で現在も代表取締役を務めるA(Xの株式の50%超を保有)の力量と先見性の賜物であると、従業員一同感服しているところです。 ところで、Aの経営者としての能力については疑うところはないのですが、人柄というか器量にはいささか問題があることは認めざるを得ません。Aは悪い意味での「昭和の価値観」に染まっており、表に出ない(出せない)ハラスメントの類も少なくなく、私はいさめる立場でありますが、天狗状態のAとその被害を受けている従業員との間に立って右往左往しており、日々非常にストレスが溜まっております。 そんな中、税務調査で新たな問題が判明しました。すなわち、Aはバツイチなのですが、前の夫人に対して毎月多額の養育費を支払っていることを今の夫人Cが快く思っていないことを気に掛けていて、今の夫人Cに対して様々な資金援助を行っているうち、自らのポケットマネーだけでは足りなくなり、会社の金に手を付けたのです。方法としては、Cが代表取締役を務め唯一の出資者である合同会社Yが運営する和食店において年間50回ほど会食した金額につき、Xがその支出した金額を交際費として経理しているというものです。 問題は、この会食はほぼ毎回AとCのみで行われているところで、税務署の調査官は、当該行為は通常の経済人の行為として不自然・不合理であるから、法人税法132条の規定により損金算入ができない旨指摘してきました。Aはこの指摘に激怒し、訴訟も辞さないと息巻いておりますが、当方は無駄な争いには巻き込まれたくないと考えております。税法上はどのように解するのが正当なのでしょうか、教えてください。 【A】 特定の株主や出資者が支配している法人については、その法人の行為について当該株主等の意向がダイレクトに反映されるケースが頻繁に見られます。そのような法人については、専ら当該株主や法人の税負担を軽減するため、必ずしも経済合理性があるとは言えない取引や行為を行うことも可能となります。 そのような行為を防止し、もって税負担の公平を維持するため、そのような行為を否認する規定が法人税法132条の規定ですが、今回のX・Y社の取引は、X社の法人税負担を不当に減少させる行為であると認められる可能性が十分あるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) コロナ禍の日本経済への影響 2020年初春以来、世界はコロナ禍の影響をモロに受け、わが国も経済社会全般において甚大な被害を受けることとなった。以下の表はわが国における新型コロナウイルス感染者数の推移である。 〈新型コロナウイルス感染者数の推移(国内、2023年3月26日まで)〉 (出典)  NHKホームページより コロナ禍の影響は全業種に及んだと思われるが、その影響度には業種間で濃淡があったようである。厳しい影響を受けた業界の筆頭は飲食店ではないだろうか。例えば、東京商工リサーチの調査によれば、居酒屋運営14社のコロナ前からコロナ禍中の2021年12月末における店舗数の推移は以下の表の通りであり、同期間中に店舗数は20%弱も減少している。 〈居酒屋運営14社の店舗数推移〉 (出典) 2022年2月16日付東京商工リサーチのレポートより   (2) 同族会社の行為・計算の否認規定 上場会社など公開型の会社においては、株主は業務執行やその監視を専門的第三者である常勤の取締役や監査役等に委ね、その者の選任を通じてコントロールするという仕組みが構築されている。閉鎖型の会社においても基本は同様であるが、実際問題として、そこでは株主が取締役となって能動的に経営に参画することを望むことが多く、現実にそうなっているケースが多い。その結果、閉鎖型の会社においては、株主=取締役となり、所有と経営が一致することにより、会社経営は特定の者の独断を止めることが困難な状況となりやすくなる。その弊害につき税務上問題となるのが、閉鎖型の会社で特定の株主に支配されている「同族会社」を利用した租税負担の回避行為である。 法人税法(法法132)のみならず所得税法(所法157)、相続税法(相法64)、地価税法(地価法32)及び地方税法(地法72の43)において、同族会社の行為又は計算により、当該法人、その株主等又はその同族関係者の各税の負担が不当に減少すると認められる場合には、それを否認する権限を税務署長に与える規定が置かれている。ここでいう「同族会社」とは、会社の株主等の3人以下及びその同族関係者がその会社の発行済株式等の50%超を有する場合等をいう(法法2十、法令4)。このような同族会社は、少数の株主や社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を意図的に減少させるような、経済的合理性を欠く行為等を容易に行うことができることから、それを規制するための規定が同族会社の行為・計算の否認規定である。 当該規定は、文理解釈上、同族会社を対象とするものであるから、非同族会社の行為・計算が経済的合理性を欠いている場合であっても、それを否認することはできないと解される(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)545頁。   (3) 代表者の配偶者が経営する法人に対して支払った交際費の損金性が問われた事例 それでは、本件と同様に、代表者の配偶者が経営する法人に対して支払った交際費の損金性、同族会社の行為計算否認規定の適用の可否が問われた事例(横浜地裁平成22年3月24日判決・税資260号-45(順号11401)、TAINSコード:Z260-11401)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、横浜市を本店所在地とし、不動産の管理等を目的として、平成17年8月16日に設立された原告(有限会社)が、平成17年8月16日から同年12月31日までの事業年度、平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度及び平成19年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の所得金額の計算上、原告代表者の配偶者に対し交際費として支出した金額を損金の額に算入して確定申告をしたところ、神奈川税務署長が、本件交際費は、原告代表者がその配偶者に対し個人的に支出したものであり役員給与(役員賞与)に当たるとして損金算入を否認し、平成17年12月期の法人税の更正処分、平成18年12月期の法人税の更正処分及び平成19年12月期の法人税の更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対して、原告が、本件交際費を損金の額に算入しなかったことが違法であり、また、更正通知書の理由付記の程度が不十分であり違法であるとして、本件各更正処分のうち確定申告額を超える部分等の取消しを求めた事案である。 なお、原告の役員は、代表者の1名のみである。また、原告には、代表者が役員であるほかに従業員はおらず、当該代表者が唯一の役員兼従業員である。また、本件関係各社は、いずれも原告の代表者の配偶者が取締役を務め、かつ100%出資する同族会社であり、また、本件関係各社に従業員はおらず、当該配偶者が唯一の役員兼従業員である。 ② 事案の争点 法人(原告)の代表者の配偶者が経営する別法人に対して支出した交際費の金額を法人(原告)の各事業年度の損金の額に算入することができるのか。 ③ 裁判所の判断 なお、本裁判例は控訴されたが棄却され(東京高裁平成22年8月26日判決・税資260号-141(順号11497)(TAINSコード:Z260-11497))、さらに上告されるも不受理(最高裁平成23年1月13日決定・税資261号-2(順号11592)(TAINSコード:Z261-11592))となり確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例は、法人の行う租税回避行為に関し、同族会社が関与する場合に限定してそれを規制する同族会社の行為計算の否認規定(法法132)が適用されるかどうかが問われた事例である。同族会社は、少数の株主のお手盛りにより税負担を減少させるような行為等を行うことが可能であり、税負担の公平を維持するため、経済合理性を欠く行為等について、税務署長によるその否認が認められるわけである(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書84頁。 同族会社の行為計算の否認規定は、一般的租税回避否認規定の一類型であることから、その適用基準の不明確さ、いわゆる「課税要件明確主義」の観点からの「不確定概念」が常に問題となり得る。同族会社の行為計算の否認規定における不確定概念は、具体的には税負担を「不当に減少させる結果」とは何を指すのかということになる。当該規定が課税要件明確主義に反しない旨を判示した裁判例(所得税の事案)としては、東京高裁平成10年6月23日判決・税資232号755頁(TAINSコード:Z232-8188)が「同族会社の行為・計算の否認の結果、株主等に対する課税額等において著しく苛酷になるのであれば別として、そうでなければ、本件のような一定の箇所についての行為・計算の否認も、これをもって直ちに違法と断ずることは困難な面があるといわざるを得ない」としている。 本裁判例の場合のように、株主が1人しかおらず(しかも役員兼従業員もその株主1人)、その会社を完全に支配しているような、個人事業主とほぼ同視できるケースほどではないものの、本件も事実上、代表者がその意のままに会社の経理を操作できる状況にあることから、同族会社の行為計算の否認規定の適用は免れないであろう。 本件について、仮に、夫が経営する会社が、例えばその会社の取引先との関係の円滑化・受注拡大等のために、取引先の担当者を接待する目的でその妻が経営する会社が営む飲食店を利用するケースなど、妻が経営する会社に対して交際費を支出することに経済的合理性が認められる場合には、法人税法の規定に従い、一定金額が損金に算入されることとなる。一方で、夫婦で業務とは関係のない会食を行うのに妻の経営する飲食店を利用するケースなど、所得税法では必要経費に当たらない家事費の支出に該当するときのように、経済的合理性がない場合には、同族会社の行為計算否認の規定の適用があるということになるであろう。   (4) 本件へのあてはめ 特定の株主や出資者が支配している法人については、その法人の行為について当該株主等の意向がダイレクトに反映するケースが頻繁に見られる。そのような法人については、専ら当該株主や法人の税負担を軽減するため、必ずしも経済合理性があるとは言えない取引や行為を行うことも可能となる。 そのような租税回避的な行為を防止し、もって税負担の公平を維持するため、そのような行為を否認する規定が法人税法132条の規定となるわけであるが、今回のX・Y社の取引は、X社の法人税負担を不当に減少させる行為であると認められる可能性が十分あるものと考えられる。その場合、X社からY社への支出は、交際費ではなくAに対する賞与(役員給与)として損金算入できないものと考えられる。 (了)
#514(掲載号)
#安部 和彦
2023/04/06
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

金融・投資商品の税務Q&A 【Q78】「譲渡制限付株式と同一銘柄の株式を譲渡した場合の取得費の計算」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q78】 「譲渡制限付株式と同一銘柄の株式を譲渡した場合の取得費の計算」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 上場株式等に係る譲渡所得等の計算に係る取得費 (1) 上場株式の譲渡益に対する課税方法 上場株式の売却により生じる譲渡益は、「上場株式等に係る事業所得、雑所得及び譲渡所得の金額」として申告分離課税の対象となり、原則として確定申告が必要となります。税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)が適用されます。株式の譲渡が営利を目的として継続して行われるものでない場合には譲渡所得として取り扱われますが、所得区分(事業所得、雑所得、譲渡所得のいずれに該当するか)とそれによる計算方法の違いについては、【Q20】を参照してください。 また、譲渡所得の計算上、譲渡収入から控除する株式等の取得費には、購入のために要した費用として購入代価、買委託手数料、交通費、通信費、名義書換料等が含まれます。同一銘柄の株式を2回以上にわたって購入し、その株式の一部を譲渡した場合には、総平均法に準ずる方法によって譲渡した株式に係る取得費を計算することとされています。総平均法に準ずる方法とは、株式をその種類及び銘柄の異なるごとに区分して、その種類等の同じものについて次の算式により計算する方法をいいます。 (2) 特定譲渡制限付株式の取得価額 譲渡制限付株式は、一般に、個人が勤務先法人から役務提供の対価として報酬金銭債権の給付を受け、当該報酬金銭債権を当該勤務先法人に現物出資することの見返りとして交付を受けるものです。 したがって、譲渡制限付株式の取得価額は、当該報酬金銭債権の額を基礎とするのではないかとも考えられますが、特定譲渡制限付株式(譲渡制限期間が設けられ、所定の事由が生じた場合に発行法人が無償で取得することとなるものであり、かつ、役務の提供の対価として個人に生ずる債権の給付と引換えに交付されるものであるものをいいます)に該当する場合には、譲渡制限解除日における価額(時価)をもって取得価額とすることとされています。 これは、特定譲渡制限付株式の交付に係る所得認識のタイミングについて、譲渡制限が解除されるまでは個人に担税力がないことに配慮してその制限解除時とすること、つまり、譲渡制限解除日に同日における株式の価額(時価)を基礎として課税(勤務先法人との雇用契約等に基因として交付された場合は給与課税)されることに対応するものと考えられます。   2 本件へのあてはめ 保有する同一銘柄の株式の一部を譲渡した場合には、譲渡直前に保有している株式について総平均法に準ずる方法によって取得費を計算することになります。しかしながら、特定譲渡制限付株式の取得価額は譲渡制限が解除される日に初めて確定することになるため、譲渡制限が解除されるまでの間はそれを計算することができません。 したがって、同一銘柄であっても、特定譲渡制限付株式と譲渡制限が課されていない株式がある場合には、譲渡制限が解除されていない株式を考慮しないで、譲渡制限が課されていない株式の購入代価等を基礎として、譲渡した株式に係る取得費を計算するものと考えられます。 (了)
#514(掲載号)
#西川 真由美
2023/04/06
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第29回】「租税条約の配当所得条項の文言に係る解釈手法」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第29回】 「租税条約の配当所得条項の文言に係る解釈手法」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 租税条約は英文が正式のものと思われますが、その文言の解釈はどのように行ったらよいのでしょうか。 〔A〕 租税条約の文脈に従って、日本の法令における当該用語の意義について政府訳文を参照しつつ検討し、次いで、ウィーン条約31条1項にいう「趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味」についても、正文である英文に基づき検討するという解釈手法が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 租税条約の解釈 (1) 配当所得に対する限度税率 OECDモデル条約10条1項は、一方の締約国の居住者である法人が、他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、居住地国課税を原則としつつ、同条2項において、源泉地国課税についても認め、この場合適用される税率を(i)親子間配当の場合(受益者が配当支払法人の資本の25%を直接保有する場合)を5%、(ⅱ)その他の場合を15%と規定している。これらの税率は、条約締約国の国内法にかかわらず適用されるという意味で限度税率と呼ばれる(※1)。 (※1) なお、各国国内法が限度税率より低い場合は、当然、当該低い税率が適用されるのであり、租税条約によって、(国内法を超えて)限度税率まで租税を課してよいという意味ではない。 ところで、配当に限らず、利子・使用料といった投資所得に対しても、限度税率が設けられているが、投資所得に係る源泉税は、必要経費を控除する前のグロスの所得に対し課せられるため、受取側の居住地国で二重課税になる部分が生じてしまう可能性があることから、租税条約が限度税率を定め、源泉税率の上限を定めることで、国際投資に対する阻害要因を除去することを目的としている(※2)。 (※2) 増井良啓・宮崎裕子『国際租税法[第4版]』(東京大学出版会・2019年)43頁参照。 (2) 統一的解釈手法の必要性 租税条約の文言は比較的簡潔なため、解釈の余地があり得るが、条約を締結する各国でその解釈に食い違いが生ずると、二重課税や課税の空白が生じるおそれがある。すなわち、租税条約の解釈は、条約を適用するいずれの国においても統一的に行われなければならないのである(※3)。 (※3) 増井=宮崎・前掲(※2)32頁 他方、我が国はウィーン条約法条約を批准しており、租税条約の解釈についても、当該条約法条約の「第3節 条約の解釈」の規定が適用される。以下にその中心となる31条及び32条を掲げておく。 なお、本稿【第23回】で取り上げたOECDモデル条約コメンタリーは、条約法条約32条にいう「解釈の補足的な手段」に該当する。 〇条約法に関するウィーン条約(昭和56年7月20日 条約第16号) 以下では、租税条約の文言の解釈が争われた事例について取り上げる。   2 過去の裁判例 《みなし配当限度税率適用事件》(※4) (※4) (第一審)東京地裁令和4年2月17日判決(令和元年(行ウ)第453号) (1) 事案の概要 ルクセンブルクに本店を有する外国法人X(原告)は、内国法人である完全子会社が行った会社分割(本件分割)に伴い、本件子会社が分割対価として取得した分割承継法人の出資持分につき、本件子会社の剰余金の配当として分配を受けたところ、当該剰余金配当はその一部がみなし配当に該当することから、源泉徴収義務を負う本件子会社は、みなし配当とされる部分につき、所得税等として、20.42%の税率による金額を源泉納付した。 本件は、当初納付額につき源泉徴収されたXが、本件みなし配当については、「日本・ルクセンブルク条約(本件租税条約)」10条2項(a)(本件規定)の要件に該当し、その限度税率は5%になることから、当初納付額は過大であったとして、Y(国側)に対し、還付金及び還付加算金の支払を求めた事案である。 本件では、Xが子会社株式を取得したのが平成26(2014)年4月29日、本件子会社の本件分割が行われたのは同年8月1日であったことから、株式取得から会社分割までの期間は約3ヶ月超であった。一方、本件子会社の事業年度は11月1日から翌年の10月31日までとなっており、本件租税条約の規定上、5%の軽減税率(限度税率)が適用されるのは、株式を利得の分配に係る事業年度終了まで保有割合25%以上を最低6ヶ月間保有していることが必要(株式保有期間要件)とされていた。 (2) 当事者の主張 当該株式保有期間要件充足性についてXは、本件分割に係る「事業年度終了の日」は平成26(2014)年10月31日であり、同日の6ヶ月以上前である同年4月29日から同年10月31日まで本件子会社の全株式を保有していたことから、本件規定を満たしていると主張した。 これに対し、Yは、「本件規定における『利得の分配に係る事業年度の終了の日』という文言(本件文言)については、『配当の受領者が特定される時点』をいうものと解すべきであり、これと異なるXの解釈は誤りである。」と主張した。また「本件各みなし配当における『利得の分配に係る事業年度の終了の日』とは、分割型分割の日の直前(前日)となると解すべきところ、本件各分割の効力発生日は平成26年8月1日とされているから、その前日である同年7月31日を指すことになる。そうすると、Xが本件子会社の株式を25%以上取得した日は同年4月29日である以上、本件規定の要件を満たさないことになる。」と主張した。 要は、条約にいう「事業年度の終了の日」を10月31日とする(X)か、7月31日とする(Y)かの争いである。 なお、本件租税条約3条2項は、「一方の締約国によるこの条約の適用上、この条約において定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約の適用を受ける租税に関する当該一方の締約国の法令における当該用語の意義を有するものとする。(下線筆者)」と定めている。 (3) 東京地裁の判示 ① 解釈手法の提示 東京地裁はまず、「本件租税条約の条約文には、本件文言(the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place)に関し、その用語を定義した規定は存在せず、これについて定めた当事国の関係合意ないし関係文書も見当たらない」とし、本件租税条約3条2項の文言を確認した上、「ところで、本件租税条約の正文は英文であるが、本件租税条約3条2項にいう『当該一方の締約国』である我が国の法令は日本語によって定められている。そこで、上記『当該一方の締約国の法令における当該用語の意義』を検討するに当たっては、本件租税条約の締結に当たり日本政府が作成した訳文であって、国会の承認を得る際に用いられている政府訳文を参照するのが相当である。」と判示した。その上で、「本件文言の解釈を検討するに当たり、まず、①本件租税条約3条2項に定められた文脈に従って、日本の法令における当該用語の意義について政府訳文を参照しつつ検討し、次いで、②ウィーン条約31条1項が提示するもう1つの規則である『趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味』についても、正文である英文に基づき検討することとする。」と判示し、租税条約解釈に係る新たな解釈手法を示している。 ② 当てはめ 東京地裁は、「本件文言は、日本の法令における当該用語の意義(ウィーン条約31条1項にいう文脈)としては、『利得の分配に係る会計期間の終了の日』を意味するものであり、その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味としては、『利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期』を意味するものであるところ、前者と後者とは実質的に同義であるということができる。そうすると、本件文言の解釈については、正文に基づき検討した後者の表現に従い、『利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期』と解するのが相当である。」とし、「本件文言に関するYの解釈は、ウィーン条約31条1項に基づく解釈、すなわち、『文脈』(日本の法令における当該用語の意義)とも、その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味とも離れたものであって、採用することができない。」とし、Yの主張を斥け、還付金の支払を命ずる判決を言い渡した。 ③ Yのその他の主張の排斥 Yがその主張の根拠とする通常の期末配当と事業年度の終了の日との関係については、「日本における会社実務の運用として、通常の期末配当について当該事業年度の終了の日を会社法124条1項の基準日として定め、同日時点の株主名簿上の株主が配当を受領するという扱いとすることが多いというだけのことであって、事業年度の終了の日とは異なる日を基準日として定めることも可能であるから、『事業年度の終了の日』と『配当の支払を受ける者が特定される日』(基準日)とが常に一致するわけではない。したがって、通常の期末配当についても、配当受領者が特定される日が当該事業年度の終了の日より前となる事態が生じ得ることは当然に想定されるところ、本件規定は、かかる場合であっても事業年度の終了の日をもって最低保有期間の終期とすることを定めたものと解される。」と判示した。 (4) 検討 本判決の意義は、租税条約の文脈に従って、日本の法令における当該用語の意義について政府訳文を参照しつつ検討し、次いで、ウィーン条約31条1項にいう「趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味」についても、正文である英文に基づき検討するという解釈手法を提示したことにある(※5)。 (※5) 木村浩之「租税条約上の配当所得条項における保有期間要件に係る文言の解釈」ジュリストNo.1578(2022年12月)11頁は、「租税条約の文言の解釈が正面から争点となった裁判例は日本では少なく、本判決は、その解釈方法を具体的に示した一時例としての意義を有する。(中略)租税条約上の解釈規定を『文脈』に取り込み、かつ、本件租税条約のように英文が正文とされる場合に政府訳文を参照して条約の文言を解釈するとされたことは、従前の裁判例では見られない新しい視点であるといえる。」と述べている。 また、上記では触れていないが、租税条約における条文の趣旨について、モデル条約コメンタリーが重要な位置を占めることも確認されている。   (了)
#514(掲載号)
#霞 晴久
2023/04/06
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第4回】「消費税法第30条第7項の帳簿及び請求書等の「保存」のレベル」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第4回】 「消費税法第30条第7項の帳簿及び請求書等の「保存」のレベル」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 大阪国税不服審判所平成28年7月12日裁決 (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (3) 帳簿及び請求書等の「保存」の法令解釈 事業者が、消費税法施行令第50条第1項に規定するとおり、消費税法第30条第7項に規定する帳簿(法定帳簿)及び請求書等(法定請求書等)を整理し、これらを所定の期間及び場所において、国税通則法第74条の2第1項第3号に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合には、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たると解するのが相当である。   2 法令解釈の出所 上記1(3)の法令解釈は最高裁判所第一小法廷平成16年12月16日判決及び同年同月20日判決を大方引用しており、災害その他やむを得ない事情により、上記のレベルにおける「保存」をすることができなかったことを事業者が証明しない限り、仕入税額控除は適用されないことになる。 そうすると、請求人が行っていた「保存」のレベルは、帳簿及び請求書等の整理をしておらず、原処分に係る調査の際に、担当職員の求めに応じて適時に提示したものとはいえないし、請求人のおかれていた事情は「災害その他やむを得ない事情」に当たらないことから、消費税法第30条第7項に規定する「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たるとして、仕入税額控除の規定の適用を否認した原処分が適法と裁決された。   3 最高裁判決における個別意見 上記1(2)の請求人の主張は、上記最高裁判決のうち平成16年12月20日の判決に付された滝井繁男裁判官の補足意見を拠りどころとしているようにも窺える。 (※) 下線は筆者による。   4 課税仕入れを行っていないのと同じ経済的効果を招来する 財貨(典型的には商品)を販売する事業者である場合、それが販売できるということは、その販売時点までに当該財貨の仕入れを行わなければならないはずである。 その財貨の販売が消費税の課税売上げに該当するのであれば、販売した財貨の仕入れも課税仕入れに該当するはずであり、この事実は、最高裁判決が求める「保存」のレベルに達しているか否かに関係ない。 しかし、納税者の帳簿及び請求書等の保存状況が上記「保存」のレベルに達していない(又は、調査対応の拒否により、調査担当職員が上記「保存」のレベルに達しているか否かの心証が得られない)場合には、課税仕入れを行っていないのと同視し得る経済的効果を招来することになり、それで良いのだろうかという疑問はないわけではない。 そうはいっても、最高裁が上記「保存」のレベルを設定することで確定したのであるから、将来的に同じステージにおいて覆る判断が示されない限り、課税庁はこれが帳簿及び請求書等の保存のレベルとして税務調査を執行することになる。 本件に限らず、調査対応の拒否(意図的な進行遅延、不誠実な対応、無予告調査の際の根拠の提示に拘泥することなども含まれる)が消費税法第30条第7項の発動の導火線となる事案が見られる。 税理士としては、納税者が現実には課税仕入れを行っている(仕入れに係る消費税額を負担している)にもかかわらず、仕入税額控除の規定が適用されないという酷なケースに陥らせる可能性があることについて、税務調査の対象となったことに不満を持つ納税者に認識させることはもちろん、税務調査に立ち会う税理士自身も認識しておく必要があると考えられる。 (了)
#514(掲載号)
#大橋 誠一
2023/04/06
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

租税争訟レポート 【第66回】「第三者を利用した仮装行為と重加算税(国税不服審判所令和元年10月24日裁決)」

租税争訟レポート 【第66回】 「第三者を利用した仮装行為と重加算税 (国税不服審判所令和元年10月24日裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【裁決の概要】   【事案の概要】 本件は、司法書士業を営む審査請求人(以下「請求人」という)の所得税及び消費税等について、原処分庁が総勘定元帳の売上金額の減額による隠蔽・仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該隠蔽・仮装の行為は税理士事務所職員が行ったものであり、請求人に隠蔽・仮装の行為をした事実はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。   【国税不服審判所による裁決の概要】 1 争点 2 争点に対する請求人と原処分庁の主張 (1) 本件各修正申告は、本件調査の手続の違法により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点1〕 ① 請求人の主張 税務代理人に対して調査結果の内容の説明を行う場合は、納税者の同意が必要であるにもかかわらず、調査担当職員は、請求人に同意の意思を確認することなく、税理士事務所職員に対して調査結果説明を行っているから、税務調査の手続に瑕疵がある。したがって、請求人による修正申告は、税務調査手続の違法により無効となるため、原処分を取り消すべきである。 ② 原処分庁の主張 調査結果説明を税理士事務所職員に対して行うことについて、調査担当職員が、請求人に同意の意思を確認した事実又は請求人から同意の事実を確認できる書面の提出を受けた事実は認められないものの、調査担当職員は、税理士事務所職員に調査結果説明を行うことを請求人が委任していることを関与税理士に確認した上で、調査結果説明を行ったものである。 また、本件調査には、国税不服審判所が平成27年5月26日裁決において説示する、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反して又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなど重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける事実はない。したがって、たとえ本件調査の手続に瑕疵があったとしても、原処分の効力に影響を及ぼさず、原処分を取り消すべきこととはならない。 (2) 本件各修正申告は、錯誤により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点2〕 ① 請求人の主張 原処分庁は、税務に無知な請求人に対して、通常では考えられないような約2年に及ぶ調査を継続したものであり、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」がないにもかかわらず、原処分庁が修正申告の勧奨を行ったことで、請求人の判断を誤らせ錯誤に陥れたものであり、当該事実は客観的かつ重大であると認められる。 したがって、請求人による修正申告は、錯誤により無効となるため、原処分を取り消すべきである。 ② 原処分庁の主張 請求人の提出した各修正申告書の「氏名」欄の末尾にある印影は、審査請求に係る審査請求書の「氏名」欄の末尾にある印影と同一であり、請求人は自らの意思で各修正申告書を提出したものと認められることからすれば、請求人の行った各修正申告書の提出について、客観的に明白かつ重大な錯誤が存在したとは認められない。また、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえるから、請求人が各修正申告書を提出したことについて、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法に定めた方法以外にその是正を許さないならば、請求人の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるとは認められない。 したがって、各修正申告は無効とならないから、原処分を取り消すべきこととはならない。 (3) 請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か〔争点3〕 ① 請求人の主張 請求人は、本件各年分の売上金額について、税理士事務所主任職員に対して、集計違算などがないか見直しを依頼したにもかかわらず、主任職員が単純に平成23年分及び平成24年分の売上高について総勘定元帳から減額したのであり、請求人が意図的に隠蔽し、又は仮装したものではないことから、原処分庁が各年分の減額前の総勘定元帳の記帳内容を検証することなく正確なものと断定し、主任職員が概算で売上金額の減額をしたことをもって、隠蔽又は仮装行為があったとして重加算税を課したことは違法である。 したがって、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとはいえない。 ② 原処分庁の主張 請求人は、税理士事務所主任職員から、各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の説明を受けた後、主任職員に対し、納付すべき税額が多いので、本件各年分の売上金額を減額するよう指示をし、これに基づき、主任職員は各年分の総勘定元帳の「売上高」勘定から減額した。このことは、平成12年7月3日付課所4-15ほか3課共同「申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて」(事務運営指針)の第1の1の(2)に定める帳簿書類の虚偽記載により仮装を行っている場合に該当し、また、平成12年7月3日付課消2-17ほか5課共同「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて」(事務運営指針)の第2のⅣの2に定める場合にも該当する。 したがって、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったといえる。 (4) 請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か〔争点4〕 ① 請求人の主張 上記(3)①の主張のとおり、請求人は、各年分の売上金額について、税理士事務所主任職員に対して、集計違算などがないか見直しを依頼したにもかかわらず、主任職員が単純に売上金額を減額したものである。 したがって、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとはいえない。 ② 原処分庁の主張 上記(3)②の主張のとおり、請求人は、税額を免れる意図をもって、税理士事務所主任職員に指示をし、これに基づき、主任職員が各年分の総勘定元帳の「売上高」勘定に虚偽記載をすることで、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の全部若しくは一部の税額を免れていたものと認められる。 したがって、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえる。 3 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、それぞれの争点について、以下のような判断を示した。 (1) 本件各修正申告は、本件調査の手続の違法により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点1〕 国税不服審判所は、修正申告の法令解釈について、修正申告は、税務調査の有無にかかわらず、納税者が自己の意思により行うものであって、調査が要件になっているものではないことから、修正申告が税務調査を受けてなされた場合であっても、調査の手続上の違法があることのみを理由に、その申告が無効になることはなく、当該申告に基づき行われた過少申告加算税の賦課決定処分が取り消されることもないと解すべきであるとの判断を示した。 そのうえで、請求人の主張について、審判所の調査の結果によっても、調査担当職員が税理士事務所職員に対し、調査結果説明を行うことについて、請求人が同意をした事実は認められないものの、請求人は、各修正申告書を提出しているところ、通則法第74条の11第5項に規定する同意がなかったことのみで各修正申告が無効となるものではないから、請求人の主張には理由がないとして、その主張を斥けた。 (2) 本件各修正申告は、錯誤により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点2〕 国税不服審判所は、修正申告等の錯誤無効の主張は、単に納税者が錯誤に基づき申告したにとどまらず、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法に定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り許されると解するのが相当であるとの判断を示した。 そのうえで、請求人による「原処分庁が、税務に無知な請求人に対して、通常では考えられないような約2年に及ぶ調査を継続」し、また、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」がないにもかかわらず、原処分庁が修正申告の勧奨を行ったことで、請求人の判断を誤らせ錯誤に陥れたという主張に対して、請求人の主張する錯誤は、各修正申告書の記載内容に係るものではないこと、審判所の調査の結果によっても、調査又は調査担当職員による修正申告の勧奨を原因として、請求人が判断を誤って本件各修正申告をした事実は認められないことから、各修正申告に客観的に明白かつ重大な錯誤があったとはいえないとして請求人の主張を斥けた。 (3) 請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か〔争点3〕 国税不服審判所は、重加算税の賦課要件について、制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合を挙げるとともに、その趣旨及び目的に照らせば、納税者以外の第三者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができる場合には、納税者に対する重加算税の賦課要件を満たすと解釈を示した。 そのうえで、税理士事務所職員及び請求人による答述内容の信用性を検討したうえで、税理士事務所職員が、請求人の指示による売上金額の減額行為が平成14年頃からされており、毎年の注意にもかかわらず、請求人が一向に是正しなかったため、当該行為の責任は請求人にあることを説明してきたという経緯があったという答述内容は、自然かつ合理的であると判断した一方で、請求人が、税理士事務所職員に対し、売上金額や必要経費の額など確定申告に係る全ての金額について、再計算やチェックをしてほしいと頼んだという答述については、曖昧かつ不自然であるうえ、再計算やチェックをした後の申告書や総勘定元帳について、その計算の過程や方法、計算間違いの原因について尋ねることもなく、再発防止に向けたチェックに関する相談もしていないとする点でも答述が不自然かつ不合理であることから、請求人の答述は信用できないという判断を示した。 こうした調査の結果に基づいて、国税不服審判所は、請求人は、過少申告を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、所得税及び消費税等の過少申告をしたものであって、税理士事務所職員をして隠蔽仮装行為をさせることによって自らの意図を実現したものと認められることから、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められるとして請求人の主張を斥けた。 (4) 請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か〔争点4〕 国税不服審判所は、「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解すべきであり、納税者が真実の課税標準を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意思の下に、課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出することにより、納付すべき税額を過少にして、本来納付すべき税額との差額を免れようとするような態様の過少申告行為も、単なる不申告にとどまらず、偽りの工作的不正行為ということができ、「偽りその他不正の行為」に該当するものというべきであるとともに、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるというべきであるという法令解釈を示した。 そのうえで、請求人が税理士事務所職員を利用してした過少申告行為は、所得税及び消費税等の真実の課税標準を秘匿し、それらが課税の対象となることを回避する意思の下に、所得税及び消費税等の課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出することによりなされたものであって、納付すべき税額を過少にして、本来納付すべき税額との差額を免れようとする態様のものと認められるから、通則法第70条第4項第1号にいう「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったと認められるという判断を示して、請求人の主張を斥けた。 (5) 結論 結論として、国税不服審判所は、請求人は、通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為により一部の税額を免れるとともに、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められると締め括ったうえで、各賦課決定処分については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において重加算税の額を計算すると、原処分の額と同額となるから、各賦課決定処分はいずれも適法であるとし、このため審査請求は理由がないから、これを棄却するという結論を示した。   【解説】 裁決書によれば、請求人に対する税務調査は平成28年9月15日に開始され、調査担当職員が請求人の税理士事務所職員に調査結果を説明したのは平成30年6月28日、賦課決定処分が7月31日付ということで、実に2年近い時日を要したことになる。なぜ、調査がこれほど長引いたのか、その経緯については、裁決書には説明はない。 本件では、納税者である司法書士が、「税務代理を依頼した税理士の事務所職員が勝手に売上の減額を行った」旨の主張をしていることから、こうした悪意ある主張に、税理士側がどのように対抗するかも含めて検討したい。 1 責任を転嫁する納税者とその対策 請求人は、国税不服審判所による調査に対して、次のように答述している。 一方の税理士事務所職員による答述は、主に次のとおりである。 こうした答述内容に基づいて、国税不服審判所は、請求人の答述内容を否定し、請求人による隠蔽又は仮装を認定して重加算税の賦課決定処分を是認した。 裁決書には、審査請求の争点ではないため指摘はないのだが、結果的には、この税理士事務所の所長である税理士は、税理士法違反(※)に問われかねない事案であったのではないかと思料する。本来であれば、こうした納税者による隠蔽仮装行為の要求に対しては、毅然とした態度で拒否をするべきではないだろうか。 (※) 税理士法第36条(脱税相談等の禁止) また、裁決書には、税理士事務所職員の答述を裏付ける証拠等があったかどうかについては記述がないものの、実務上は、納税者による隠蔽仮装行為の要求に対して、どのように対応したかについての経緯を詳細に記録しておくことにより、税理士自身の責任がないことを立証する必要があることは言うまでもない。税理士事務所としては、担当職員だけが問題を抱え込んでしまわないような体制を整備しておくことも必要であろう。 2 国税不服審判所「裁決要旨検索システム」における裁決要旨 国税不服審判所が公開している「裁決要旨検索システム」では、本件の4つの争点についても要旨が公開されているので、見ておきたい。 (1) 本件各修正申告は、本件調査の手続の違法により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点1〕 修正申告は自己の意思により行うものであるところ、請求人は修正申告書を提出しているから、通則法第74条の11第5項に規定する請求人の同意がなかったことのみで各修正申告が無効となるものではなく、請求人の主張には理由がない。 (2) 本件各修正申告は、錯誤により無効であるとして、原処分を取り消すべきか否か〔争点2〕 請求人の主張する錯誤は、各修正申告に係る申告書の記載内容に係るものではなく、また、調査又は調査担当職員による修正申告の勧奨を原因として、請求人が判断を誤って修正申告をした事実も認められず、各修正申告に客観的に明白かつ重大な錯誤があったとはいえないから、請求人の主張には理由がない。 (3) 請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か〔争点3〕 税理士事務所職員がした売上金額を減額する処理は、請求人が前年並みの総所得金額にするため依頼したものであり、かかる減額の記載は減額原因のない虚偽のものであることが認められるから、通則法第68条に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。 (4) 請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か〔争点4〕 税理士事務所職員がした売上金額を減額する処理は、請求人が前年並みの総所得金額にするため依頼したものであり、かかる減額の記載は減額原因のない虚偽のものであり、納付すべき税額を過少にして、納付すべき税額との差額を免れようとする態様のものと認められるから、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他の不正の行為」に該当する事実があったと認められる。   (了)
#514(掲載号)
#米澤 勝
2023/04/06
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内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第2回】「新たに示された「内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」」~“3つのディフェンスライン”から“3線モデル”へ~

内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第2回】 「新たに示された「内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」」 ~“3つのディフェンスライン"から“3線モデル"へ~   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   前回に続き、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」で示された、内部統制の基本的枠組みに関する改訂におけるポイントを、本稿では読み解いていく。   Ⅰ 内部統制の基本的な枠組みに係る改訂点 内部統制の基本的な枠組みにおいて示された改訂点のうち、新たに言及された①「内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理」と、サイバーテロの頻繁化によりますます重要になる②「内部統制の基本的要素(情報システムに係るセキュリティの確保)」について分析する。   Ⅱ 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理 今回の改訂案は、内部統制、ガバナンスや組織全体に関わるリスク管理体制について、それぞれ次のように定義し、相互の関係性について初めて言及した。 内部統制とガバナンスに関する説明は、やや倫理的な戒めのようにも聞こえるが、健全な経営を行う管理体制がガバナンスであり、リスクを見極め、コンプライアンス体制を支える1つの仕組みが内部統制であると考えてよい。なかでも全組織的なリスク管理に関し、リスク回避に要するコストとベネフィットの関係性を踏まえ、経営戦略を構築すべきとする説明は、的確にその本質を捉えている。 さらに、これら「内部統制、ガバナンス及び全組織的なリスク管理に係る体制整備の考え方には、例えば、3線モデルが挙げられる。」とし、体制を一体的に整備、運用する具体的な形態として3線モデル(スリーラインモデル)を挙げた。   Ⅲ 3つのディフェンスラインから3線モデル(スリーラインモデル)へ 「3つのディフェンスライン」と「3線モデル(スリーラインモデル)」の2つの考え方は、いずれも組織内のリスクを適切に管理するための考え方という点で共通するが、お互いに次のような歴史的な経緯を持つ。 1 3つのディフェンスライン リスクを適切に管理するために組織の中を、①日常業務のリスク管理を行う事業部門、②リスクの監視機能を担うリスク管理部門、③独立してリスクの検証機能を持つ内部監査部門、の3つのグループに分ける。そして各々が役割を分担してリスクに対抗する防衛線を築くという考え方を「3つのディフェンスライン」という。この考え方は、長年にわたり多くの組織マネジメントに影響をもたらした。 2019年に内部監査人協会(IIA)は、この考え方を最新の実務や国際的諸課題を反映した内容とするため、公開意見募集を行い、2020年に新たなモデルとして更新されたのが、今回言及された「3線モデル(スリーラインモデル)」である。 2 3線モデル(スリーラインモデル)とは何か 3線モデルは、リスクを単に3つのディフェンスラインによって防衛するという守りのリスクマネジメントから大きく脱皮し、企業目的の達成、価値の創造と保護という積極的で、攻めの目的を掲げている。組織のガバナンスを担う統治機関の下、現場の各ラインの役割を次の3つに分け、上位の統治機関から指示、監督を受けて報告を行うリスク管理と統制活動を行うという構成をとっている。 企業がこのモデルをどのような形で実現させるかは、今後の各社の組織風土や体制に関わるが、内部統制上のリスク管理に関して開示すべき重要な不備が発生し、その解消と再発防止に取り組む場面では、これを下敷きにした制度の改善が求められることが想定できる。なお、3線モデルの詳細については日本内部監査協会(IIA)のホームページで紹介しているため、そちらをご参照いただきたい。   Ⅳ 内部統制の基本的要素(情報システムに係るセキュリティの確保) 内部統制報告制度は、米国を範として構築された仕組みだが、早くから内部統制の基本的要素としてIT(情報技術)への対応を挙げ、その重要性を認識してきた。しかし、コロナ禍によるテレワークの飛躍的な浸透やロシアによるウクライナ侵攻を受けたサイバーテロの脅威といったリスクの劇的な変容までを予測できていたわけでは、決してない。 「大量の情報を扱い、業務が高度に自動化されたシステムに依存している状況では、情報の信頼性が重要である。」との認識の下、誤った判断を避け、「情報の信頼性を確保するためには、情報の処理プロセスにおいてシステムが有効に機能していることが求められる。」と改訂案はつけ加えている。その上で有効性を確保するために、次の留意点を挙げている。 1 IT業務の外部委託 多くの企業が、「情報システムの開発・運用・保守などITに関する業務の全て又は一部を、外部組織に委託するケースもあり、かかるITの委託業務に係る統制の重要性が増している」ため、外部委託された情報の信頼性を確保し、情報の漏洩を防ぐには、具体的に次の統制を用意しておく必要がある。いずれもIT全般統制において整備すべき統制上の要点となり得る。 2 情報システムに係るセキュリティの確保 「さらに、クラウドやリモートアクセス等の様々な技術を活用するに当たっては、サイバーリスクの高まり等を踏まえ、情報システムに係るセキュリティの確保が重要である。」と、改訂案は述べている。コロナ禍で、個人が会社のPCを自宅に保管、あるいは常に持ち歩くというリモートワークが定着し、サイバーテロの被害が増大したため、こうした改訂により情報セキュリティに対する強い懸念を表明したものと解釈できる。全社的な内部統制(IT(情報技術)への対応)及びIT全般統制の中に、次の項目を加えて情報セキュリティを確保したい。 (了)
#514(掲載号)
#打田 昌行
2023/04/06
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