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所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

令和4年分 確定申告実務の留意点 【第2回】「最近の改正事項等の再確認」

令和4年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「最近の改正事項等の再確認」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   数年にわたり所得税に関して多くの改正があり、確定申告書の様式も一部が変更されている。これらの改正事項や様式の変更は、令和4年分の確定申告においても重要である。 そこで、本連載第2回は、最近の改正事項等(前回取り上げた項目以外)の再確認を行うこととする。 なお、各改正事項の詳細については、下記拙稿もご参照いただきたい。   【1】 所得金額の計算に関する改正事項 所得金額の計算に関する改正事項としては、次のものがあげられる。いずれも、令和2年分以後の所得税について適用される。 〈参考①〉令和2年分以後の給与所得控除額(所法28③) 〈参考②〉令和2年分以後の公的年金等控除額(所法35④) 〈参考③〉所得金額調整控除の計算例 〈参考④〉青色申告特別控除:控除額65万円の要件(下記(ア)又は(イ)のいずれか)   【2】 所得控除に関する改正事項 所得控除に関する改正事項としては、次のものがあげられる。配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しは平成30年分以後の所得税、それ以外の改正は令和2年分以後の所得税について適用される。 〈参考①〉配偶者控除、配偶者特別控除の控除額(所法83①、83の2①) 【配偶者控除額または配偶者特別控除額の表】(令和2年分以降用) (※) 上表につき国税庁ホームページ「No.2672 年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるとき」より抜粋。 〈参考②〉基礎控除の控除額(所法86①) 〈参考③〉ひとり親控除、寡婦控除の控除額(所法80①、81①)   【3】 様式の変更 令和2年分より確定申告書の様式が一部変更されている。変更の詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。   【4】 その他 (1) 確定申告義務の見直し、押印義務の見直し 令和3年分以後の所得税に適用される。詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 (2) 住宅関連の特例(適用期限延長) 次の住宅関連の特例は、要件等の一部に見直しが行われた上、適用期限が令和5年12月31日まで2年延長されている。 (3) 雑所得の範囲の明確化(改正通達の公表) 令和4年10月に副業収入等の雑所得の範囲を明確化する改正通達が公表されており、令和4年分以後の所得税に適用される。 改正通達の詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 最後に、所得税の不正還付への対応として、令和4年11月に国税庁より「所得税還付申告に関する国税当局の対応について」という文書が公表されたので、ご参照いただきたい。 *  *  * 次回(第3回)は、確定申告実務に関する留意点をQ&A方式で解説する予定である。 (了)   
#502(掲載号)
#篠藤 敦子
2023/01/12
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第22回】「不動産管理会社による家賃集金の受託について」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第22回】 「不動産管理会社による家賃集金の受託について」   税理士 石川 幸恵   【Q】 不動産管理業を営んでいます。賃貸物件のメンテナンスのほか、貸主に代わってテナントからの家賃の集金も行っています。 事業用の賃貸物件のテナントから「貸主は適格請求書発行事業者なのか?」、「貸主の登録番号を教えてほしい」という問い合わせが来ています。どのように対応したらよいのでしょうか。 〔ポイント〕 (1) 事務所の賃貸借については、契約書の記載と通帳の記帳の組み合わせで適格請求書とする方法を取ることができます。既存の契約については、適格請求書としての記載事項の不足分(貸主の登録番号、税率、消費税額など)を通知する必要があります。 (2) 家賃の集金の受託も、委託販売の媒介者交付特例の対象と考えられます。 (3) 媒介者交付特例では、受託者が自らの名称及び登録番号を記載した適格請求書を購入者に交付します。 *  *  * 【A】 事務所の賃貸借については、契約書と通帳を併せて適格請求書の記載事項を満たすことが可能です(インボイスQ&A問93)。インボイス制度導入前から継続している契約については、登録番号や税率、消費税額が記載されていないなど適格請求書としての記載事項が不足していますので、不動産管理会社には、これらを記載した通知書を作成してテナントに交付するなどの役割をお願いしたいところです。 一方で、令和4年11月のインボイスQ&A問48の改訂により、委託販売の媒介者交付特例の対象に集金事務の委託も追加されました。この特例を適用して、不動産管理会社が貸主に代わって適格請求書をテナントに交付するという方法も考えられます。 以下では媒介者交付特例について解説します。   (1) 媒介者交付特例とは? 媒介者交付特例とは、商品の委託販売に設けられている特例です。 《委託販売における適格請求書交付の原則》 媒介者交付特例では、次の要件を充たすことにより、受託者が自己の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書を委託者に代わって購入者に交付することができます(インボイスQ&A問48)。   (2) インボイスQ&A問48の改訂 令和4年11月のインボイスQ&Aの改訂で、問48に新たに次の文言が加わりました。 インボイスQ&Aには具体的な事業内容の例示はされていませんが、不動産管理会社による家賃の集金は「集金事務」に当てはまるのではないかと考えられます。   (3) 媒介者交付特例を適用した場合の不動産管理会社と貸主の対応 インボイスQ&A問48に基づけば、不動産管理会社及び貸主はそれぞれ次のような対応が必要です。 (出典) インボイスQ&A問48の図を筆者加工。 ① 不動産管理会社 (※) 実務的には、適格請求書を毎月交付することは負担が大きいので、不動産管理会社が貸主に代わって適格請求書を交付する旨や不動産管理会社の登録番号を記載した通知書等をインボイス制度導入前に交付し、テナントは契約書、通知書、通帳を保存することになると考えられます。 (注) 電磁的記録による提供、保存も可。 ② 貸主 (注) 電磁的記録による提供、保存も可。   (4) 媒介者交付特例によりテナントの事務負担軽減につながるのでは? 不動産賃貸では不動産管理会社が入ることが多く、家賃の振込先も不動産管理会社となっている場合、契約書を見なければ貸主の名前もわからないというケースも珍しくありません。不動産管理会社と貸主を混同してしまうケースも見受けられます。 このため、例えば「貸主で相続があったこと(※)に気付かず、結果として仕入税額控除が過大になった」というような事態も想定されます。 (※) 貸主が亡くなって相続人が不動産賃貸業を相続した場合、登録番号は引き継がれません。相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、相続人本人による登録申請書の提出が必要です(インボイスQ&A問16)。 媒介者交付特例によって適格請求書の発行者が不動産管理会社となれば、上記のような貸主個々の事情についても不動産管理会社で一括して管理され、テナントの負担軽減につながるものと考えられます。 (了)
#502(掲載号)
#石川 幸恵
2023/01/12
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第1回】「国税通則法第65条第4項第1号の過少申告加算税が課されない「正当な理由」のハードル」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第1回】 「国税通則法第65条第4項第1号の過少申告加算税が課されない「正当な理由」のハードル」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   連載に当たって 筆者は、税理士・公認会計士出身の専門家として国税不服審判所に勤務し、国税審判官として審査請求事件の調査審理に従事していたが、有り体に言えば、「納税者(審査請求人)に係る各種の事実関係が、この税法のこの課税要件に該当するか否か」を判断し、それを裁決書に取りまとめることであった。 例えば、何らかの事情によって修正申告に至り、当初申告よりも税額が増加した場合、通常は「過少申告加算税」が賦課される(国税通則法第65条第1項)が、同時に、「正当な理由」があれば、その事実に基づく税額については賦課されない(同条第4項第1号)。 そこで、納税者(審査請求人)は、「私を取り巻く事情は『正当な理由』に該当する」という主張をもって不服申立てに及ぶことになり、国税不服審判所はその主張が認容されるか否かを審理することになるが、その判断のためには、一定の判断基準を設定しているはずであり、それが「法令解釈」と言われるものである。 そうすると、納税者としては、税法に規定されている「課税要件」についての判断基準、すなわち「法令解釈」をあらかじめ把握しておくことで、不服申立ての際、又はその前段階である税務調査の際、更にはその前段階である当初申告の際において、自らの主張が認容されそうか否かをあらかじめ占うことができ、想定していなかった税務トラブルが自らに降りかかるリスクを合理的に低減することができるだろう。 ここで、課税要件といっても、「〇〇円以上」などの定量的な基準であれば通常は争いが生じないが、上記の「正当な理由」といった定性的な基準の場合に、課税庁との見解の相違が生じやすいところ、我が国の税法はこういった「不確定概念」による課税要件が思いのほか多い。 そこで、本稿は、「不確定概念」を含む代表的な税法規定の課税要件について、国税不服審判所が採用する法令解釈の出所を、事例を題材として解説するとともに、「このような事例は国税不服審判所において争う価値がある(取消しの可能性がある)」「このような事例ではお気の毒ながら救済は難しい(棄却の可能性が高い)」といった目利きを養っていただくことを目的としている。 これによって、税務専門家である読者各位の抱える事例が納税者の勝てる可能性のあるものか否かについて、不服申立てを含む税務争訟に至る前段階で、ある程度の見通しが立てられることによって、税務調査の際に修正申告に応じることが得策か否かといった戦略的な判断に資することを期待するものである。 *  *  * 1 大阪国税不服審判所平成28年1月20日裁決 (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (3) 「正当な理由」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥   2 法令解釈の出所と判断の分かれ目 上記1(3)の法令解釈は、最高裁判所第一小法廷平成18年4月20日判決をほぼそのまま引用している。 国税不服審判所裁決はあくまで行政判断であり、自らが打ち立てた規範が後に控える司法の場において覆る可能性を可能な限り低減させたいという動機が働くことから、できる限り上級の裁判所の法令解釈を引用することになる。 この法令解釈によっても判断基準が定性的であり、これに事実関係を当てはめるとしても判断権者によって差が生じることは否めないが、大要としては、「客観的・第三者的な事情」であれば是認の方向に、「納税者側による主観的な事情」であれば否認の方向に傾くことになるだろう。 本件については、「保険金を受領したのは遠戚であり、突っ込んで財産を調査するなど事実上無理ではないか」という請求人の抱える事情に同情の余地があるとしても、所詮は「納税者側による主観的な事情」であり、他の過少申告による納税者が加算税を賦課されることのバランスを考えると、国が賦課徴収を諦めることを受忍すべき事情とまではいえないとの判断だったものと考えられる。   3 「正当な理由」が認容された最近の事例 (1) 認容事例は少ない 国税不服審判所は、四半期ごとに、重要な裁決や先例となる裁決を、適切にマスキングを施した上で公表している。 このうち、令和4年12月31日現在で、「正当な理由」を認容した公表裁決は、過少申告加算税で2件、無申告加算税で1件しかなく、これに対して、認容しなかったものは、前者で23件、後者で17件存在する。 そのくらいに「正当な理由」の認容事例は少ないのであるが、最近においても認容された事例はないわけではない。 (2) 広島国税不服審判所令和3年6月24日裁決 登記名義が被相続人から移転していた家屋について、請求人は関与税理士として譲渡所得の申告を行っており、譲受人がその家屋に居住していたことから、売買の有効性を疑うべき状況になく、かつ、売買代金が実質的に支払われていなかったことを把握できたのは、相続税の申告期限後であったことを併せ考えれば、請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があったと認められ、請求人には正当な理由があると認められる場合に該当する。 (3) 東京国税不服審判所令和4年6月16日裁決 登記所職員が誤った相続関係の説明を行い、これにより法定相続情報一覧図の記載内容にも誤りが生じたために、請求人が、自己が相続人に該当しないと判断して相続税の申告書を法定申告期限内に提出しなかったことは無理からぬ面があり、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合に該当する。 (了)
#502(掲載号)
#大橋 誠一
2023/01/12
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第4回】「グループ法人税制外し」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第4回】 「グループ法人税制外し」   公認会計士 佐藤 信祐     6 グループ法人税制外し (1) 資産譲渡 実務上、資産の含み損を実現させるためだけにグループ会社に資産を譲渡する行為について、法人税法上、損金性が否認される可能性があるか否かという点が問題になりやすい。 この点については、平成22年度税制改正により、グループ法人税制が導入され、完全支配関係のある内国法人間における資産の譲渡については譲渡損益が繰り延べられることになり(法法61の11①)、非適格組織再編成に伴う資産の譲渡についても同様に譲渡損益が繰り延べられることになった。さらに、完全支配関係のある内国法人間における非適格株式交換や非適格株式移転についても、時価評価課税の対象から除外されることになった(法法62の9)。 そのため、現行法上、①完全支配関係のない内国法人に資産を譲渡する場合、②個人、外国法人、一般社団法人又は一般財団法人に資産を譲渡する場合、③完全支配関係のある内国法人に譲渡した資産を完全支配関係のある他の内国法人に再譲渡する場合(※4)、④譲渡対象の資産が株式である際に、当該株式を発行している法人を被合併法人とする適格合併を行った場合(※5)、⑤適格分社型分割又は適格現物出資により取得した分割承継法人株式又は被現物出資法人株式を完全支配関係のある内国法人に譲渡した後に、当該内国法人を合併法人とし、分割承継法人又は被現物出資法人を被合併法人とする適格合併を行った場合(※6)に、それぞれ制度趣旨に反する形で譲渡損益が実現される可能性があるといえる。 (※4) 現行法上、簡便化のために、完全支配関係のある内国法人に資産を譲渡した後に、完全支配関係のある他の内国法人に当該資産を譲渡した場合であっても、1回目の譲渡に係る譲渡損益は実現するものとされている。もちろん、含み損を実現させるために、短期間で2回の資産の譲渡を行った場合には、税務調査において、1回目の譲渡が仮装取引であり、当初から2回目の譲受法人に譲渡したものとして譲渡損益を繰り延べるべきであるとして否認を受ける可能性がある。 (※5) 国税庁HP文書回答事例「グループ法人税制における譲渡損益の実現事由について」参照。なお、これは制度上の欠陥ともいえるため、「組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題」【第12回】、【第15回】で解説したように、被合併法人株式に係る繰延譲渡損益を実現させないような税制改正が望まれる。 (※6) このような手法については、合併法人である内国法人を分割承継法人とする分割を行えば、より簡便な手法により資産を移転することができるのにもかかわらず、あえて迂遠な手法により含み損を実現させていることから、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される可能性があると考えられる。 本稿では、上記のうち、①完全支配関係のない内国法人に資産を譲渡する場合について検討を行うものとする。もちろん、仮装行為に該当するようなものであれば、同族会社等の行為計算の否認(法法132)を適用するまでもなく、事実認定により否認することができる。仮装取引に該当するかどうかについては、「関係会社間の取引に係る土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い(監査委員会報告第27号)」により判断すべきであり、この点についての税務専門家の見解に大きな違いはないと思われる。 問題となるのは、同族会社等の行為計算の否認が適用されるべき事案である。もちろん、同族会社等の行為計算の否認を適用するにしても、形式的な事実関係だけでなく、真実の事実関係においても、資産が移転している状態であるにもかかわらず、資産が移転していなかったものとして否認すべきではない。そのような否認を行うことが可能であれば、そもそもグループ法人税制が導入される前にそのような否認が多数行われていたはずであるにもかかわらず、公表されている裁決例のほとんどは、「関係会社間の取引に係る土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い」の要件を満たせば、損金の額に算入することを容認するものばかりだからである。 すなわち、同族会社等の行為計算の否認を適用するとしても、「資産を譲渡した行為」を否定することはできないことから、譲渡先が「完全支配関係のない内国法人」であることを否定せざるを得ない。 この点につき、国税不服審判所非公開裁決平成28年1月6日(TAINSコード:F0-2-629)では、種類株式を利用して完全支配関係を外した行為に対して、同族会社等の行為計算の否認が適用されている。本裁決事例では、総務経理部長1人のみに対して第三者割当増資を行い、かつ、更正処分の除斥期間を考慮したうえで、7年を経過した後に発行法人が買い取ることができる旨の取得条項が付されていたことから、第三者割当増資に係る経済合理性が存在しないため、同族会社等の行為計算の否認が適用されてもやむを得なかったと考えられる(※7)。 (※7) そのほか、名義株に該当する場合には、実際の権利者が保有するものとして判定することから(法基通1-3の2-1)、少数株主が保有している株式が名義株であると認定された場合には、完全支配関係があるものとして否認を受ける可能性がある。 (2) 完全支配関係のない法人に対する非適格分社型分割 さらに、完全支配関係はないものの、支配関係のある法人に対する非適格分社型分割により分割事業に係る含み損を実現させようとすることが考えられる。この場合にも、完全支配関係を外した行為が不自然・不合理であれば、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される可能性は考えられる。 これに対し、事業上の目的で完全支配関係が外れているものの、完全支配関係が外れていることを奇貨として、完全支配関係が外れているグループ会社に対して非適格分社型分割を行うことで含み損を実現させることが考えられる。すなわち、事業上の理由により、発行済株式総数の100分の10に相当する数の株式をグループ外の法人又は個人に保有してもらった場合には、支配関係は成立しているものの、完全支配関係は外れることになる。そのような完全支配関係が外れているグループ会社に対して、金銭等不交付要件、主要資産等引継要件、従業者従事要件又は事業継続要件のいずれかを満たさない非適格分社型分割を行った場合には、分割事業に係る含み損が実現できることになる。 このような行為に対して包括的租税回避防止規定が適用できるかどうかであるが、前述のように、完全支配関係が外れているのは、税負担を減少させるためではなく、事業上の目的によるものである。すなわち、完全支配関係を外した行為が不自然・不合理であると認定することはできない。そうなると、包括的租税回避防止規定を適用するためには、発行済株式総数の100分の10に相当する数の株式をグループ外の法人又は個人に保有してもらうことにより非適格分社型分割に該当してしまったことが組織再編税制及びグループ法人税制の制度趣旨に反し、かつ、当該非適格分社型分割により分割事業に係る含み損を実現させたことに事業目的や経済合理性が認められないことが必要になる。このうち、後者については個別事案によって異なるため、ここでは検討を行わないが、前者については、制度趣旨に反することが明らかであると認定することは困難であると考えられる。 なぜなら、組織再編税制もグループ法人税制も移転資産に対する支配が継続していることを理由として、譲渡損益を実現させないように制度設計がされている(※8)。 (※8) 政府税制調査会法人課税小委員会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成12年)、佐々木浩ほか「法人税法の改正」『平成22年版改正税法のすべて』189頁(大蔵財務協会、平成22年)。 そして、組織再編税制では、グループ法人税制と異なり、企業グループとして一体的な経営が行われている単位という点を考慮することにより、完全支配関係ではなく、支配関係内の適格組織再編成も認めている。すなわち、包括的租税回避防止規定を適用することにより非適格分社型分割に係る譲渡損を実現させないのであれば、分割法人による分割事業に対する支配が継続していると認定しなければならない。これに対し、分割法人が分割承継法人の発行済株式総数の100分の90に相当する数の株式を保有していることにより株主総会及び取締役会を実質的に支配していたとしても、それは当然のことであり、完全支配関係と支配関係とに分けて制度設計がされているにもかかわらず、株主総会及び取締役会を実質的に支配しているという理由で組織再編税制及びグループ法人税制の制度趣旨に反するとまではいうべきではない。すなわち、グループ法人税制では、移転資産に対する支配が完全に継続している必要があり、僅かでも株主としての権利を外部の者が保有しているのであれば、グループ法人税制の対象にすべきではないということになる。 逆にいえば、分割により含み損のある資産が移転したことが真実の事実関係であれば、包括的租税回避防止規定を適用することは、完全支配関係のある法人間の取引に限定し、支配関係のある法人間の取引にまでその範囲を広げなかったグループ法人税制の制度趣旨に反することから、そのような否認をすべきではないということになる。そのため、上記のような取引に対して包括的租税回避防止規定を適用するためには、グループ外の法人又は個人による株式の保有が名目的なものであることが必要となり、多くの場合において、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる(※9)。 (※9) グループ外の法人又は個人による株式の保有が名目的なものである場合の典型例として、株式を保有した当初から買戻しが想定されている事案が考えられるが、たとえ買戻しが想定されていたとしても、株式の保有と買戻しが事業上の目的に基づいて行われている限り、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (3) 支配関係のない法人に対する非適格分社型分割 法人税法上、完全支配関係及び支配関係の判定は、議決権の有無ではなく、発行済株式又は出資に対する割合で行うこととされている(※10)。すなわち、議決権株式100株を支配株主が保有し、無議決権株式900株をグループ外の法人又は個人に保有させることにより、完全支配関係だけでなく、支配関係をも外すことができる。このような場合には、支配関係のある法人に対して分社型分割を行う場合に比べ、かなり容易に非適格分社型分割に該当させることが可能になる。 (※10) 国税庁HP文書回答事例「議決権のない株式を発行した場合の完全支配関係・支配関係について」参照。 この場合にも、完全支配関係及び支配関係を外した行為が不自然・不合理であれば、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される可能性は考えられる。これに対し、事業上の目的で完全支配関係及び支配関係が外れているものの、完全支配関係及び支配関係が外れていることを奇貨として、議決権のみを支配しているグループ会社に対して非適格分社型分割を行うという行為に対して、包括的租税回避防止規定を適用することができるかどうかが問題となる。 この点については、支配関係のある法人間の組織再編成にまで適格組織再編成の範囲を広げたのが当時の商法上の子会社の定義(平成17年改正前商法211の2①)によるものであり(※11)、現行会社法における子会社の定義が議決権の有無により判断されていることを考えると(会社法2三~四の二、会規3、3の2)、無議決権株式を大量に発行することにより支配関係を外す行為に対しては、制度趣旨に反するといえそうである。 (※11) 阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』83頁(商事法務、平成14年)。 しかし、無議決権株式が発行されていたとしても、完全支配関係が外れていることは否定できないため、グループ外の法人又は個人による株式の保有が名目的なものである場合を除き、完全支配関係が外れていることが制度趣旨に反するとはいい難い。すなわち、支配関係が成立していたと仮定したとしても、税制適格要件を満たさない場合には、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないということになる。 そのため、上記のような取引に対して包括的租税回避防止規定を適用するためには、グループ外の法人又は個人による株式の保有が名目的なものであることが必要となり、多くの場合において、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (了)
#502(掲載号)
#佐藤 信祐
2023/01/12
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第49回】「会社規模の変更による株価対策」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第49回】 「会社規模の変更による株価対策」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私はオフィスビルの管理・清掃業を営むB社を経営しています。近い将来、長男のF専務への事業承継を考えているのですが、顧問税理士からは株価対策を行ってからB社株式を贈与した方がよいとのアドバイスを受けています。 当社は利益体質の会社ではないのですが、昔から保有している土地の含み益が非常に大きく、類似業種比準価額方式よりも純資産価額方式による株価のほうが高くなっています。 当社は、従業員数35人、総資産価額(帳簿価額)14億円、売上高4億5,000万円の中小企業ですが、会社規模は中会社の中(L=0.75)となり、株価の4分の1を純資産価額で算定しなければならないようです。 金融機関からも少し工夫すれば会社規模の区分を引き上げることができそうなので、株価対策を検討してはどうかと提案されています。株価対策として、どのような方法が考えられるでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 評価対象会社の規模に応じた評価方式 同族株主等が非上場株式を贈与・相続により取得する場合の評価は、評価対象会社の規模に応じて類似業種比準価額方式、純資産価額方式及びこれらの方式を併せた併用方式により行われます(財基通178、179)。 評価対象会社の会社規模が上位の区分になるほど類似業種比準価額を採用できる割合が大きくなるため、純資産価額が類似業種比準価額の株価より高い会社においては、会社規模を上位の区分に引き上げて類似業種比準価額の割合を増やすことが、株価の引下げにつながります。 〈図1:評価会社の規模に応じた評価方式〉 (※) 算式中の「L」は、評価対象会社の総資産価額及び従業員数又は取引金額に応じて3つに区分され、0.9/0.75/0.6のいずれかとなります。   [2] 会社規模の判定 会社規模の判定において、従業員数が70人以上の会社は、評価対象会社の業種、総資産価額や取引金額に関係なく大会社に該当することになります。一方、従業員数が70人未満の会社においては、総資産価額(帳簿価額)、従業員数、取引金額の多寡により会社規模の区分を判定します(図2参照)。 〈図2:会社規模の判定表〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 財産評価基本通達178 評価対象会社の会社規模は、①総資産価額(帳簿価額)又は従業員数のいずれか下位の区分と、②取引金額の区分とのいずれか上位の区分により判定されます。株価対策として会社規模区分の引上げを検討する際には、「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」(図3)を用いて、総資産価額(帳簿価額)、従業員数、取引金額のうち、どの項目を増加すれば会社規模の区分を引き上げることができるのか、確認することをお勧めします。 〈図3:会社規模の判定の明細書〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 取引相場のない株式(出資)の評価明細書(第1表の2)を抜粋、筆者加工。   [3] 中会社における株価対策の検討 B社の会社規模をより上位の区分に引き上げて純資産価額の影響を小さくする(類似業種比準価額を採用できる割合を増やす)ためには、次のような対策が考えられます。 (1) 総資産価額(帳簿価額)及び従業員数に応ずる区分 直前期末の総資産価額(帳簿価額)及び直前期末以前1年間における従業員数に応ずる区分は、いずれか下位の区分を選択することになりますので、総資産価額と帳簿価額のうち下位の区分にある指標を増やすような対策を検討すべきです。また、取引金額に応ずる区分(下記(2))と比較して、いずれか上位の区分を選択することになりますので、(1)及び(2)のどちらの対策を優先的に行うかの検討も必要でしょう。 B社の場合、従業員数を増やして35人超とすることができれば、中会社の中(L=0.75)から中会社の大(L=0.9)に区分を引き上げることが可能です。 さらに、従業員数の増加に加えて、設備投資や賃貸用不動産の取得を行って総資産価額を15億円以上にすることができれば、中会社の大(L=0.9)から大会社に区分を引き上げることが可能です。 〈図4:総資産価額及び従業員数に応ずる区分〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 財産評価基本通達179(2)イ (2) 取引金額に応ずる区分 直前期末以前1年間の取引金額に応ずる区分は、上記(1)と比較して、いずれか上位の区分を選択することになります。したがって、取引金額を増やすことができれば、総資産価額や従業員数の影響を受けることなく会社規模の区分を引き上げることが可能です。 B社の場合、本業の売上高を増加させるか、あるいは、賃貸用不動産の取得等により受取賃借料の額を増加させて、取引金額を5億円以上にすることができれば、中会社の中(L=0.75)から中会社の大(L=0.9)に区分を引き上げることが可能です。 取引金額は、「その期間における評価会社の目的とする事業に係る収入金額」とされていますので、事業といえない小規模なものや、臨時的な収入は取引金額に含めることができない点に留意が必要です(財基通178)。 〈図5:取引金額に応ずる区分〉 (出所) 財財産評価基本通達179(2)ロ   [4] 結論 類似業種比準価額よりも純資産価額の株価が高い会社においては、総資産価額、従業員数、取引金額を増やして類似業種比準価額を採用できる割合を大きくすることが株価の引下げにつながります。 グループ会社がある場合は、子会社を合併して総資産価額、従業員数、取引金額を増加させる方法も検討に値すると思います。ただし、合併を行った場合には、類似業種比準価額が株価として採用できない期間が生ずるなどの課題もあるため、検討にあたっては慎重な判断が必要でしょう(詳細は【第40回】を参照)。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)
#502(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2023/01/12
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〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第67回】「売買契約中に相続が発生した場合における買主側に係る小規模宅地等の特例の適否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第67回】 「売買契約中に相続が発生した場合における買主側に係る小規模宅地等の特例の適否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲(相続開始は令和4年10月1日)は、甲とその配偶者である乙が居住の用に供していたA土地及び建物を所有していましたが、令和3年にA土地及び建物を売却しています。 その売却代金を基に新たにB土地及び建物を購入予定でしたが、令和4年8月1日に甲が売買契約を締結(売買契約日に手付金10%相当の支払いを行っています)した後に、引渡しを受ける前に甲が死亡しました。甲の相続人は乙1人のみであり、買主の権利義務を承継した乙は、残代金を令和5年3月1日に支払い、B土地及び建物の引渡しを受け、居住の用に供しています。 なお、甲及び乙は、A土地及び建物の売却後は、仮住まいとしてCマンションの1室を借りて居住していましたので、相続開始の直前はCマンションに居住していました。 【売買契約の内容】 【B土地及び建物の相続税評価】 上記の前提事項である場合にB土地及び建物に係る相続財産の種類、相続税評価及び小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例の適否はどのようになりますか。 [A] B土地及び建物に係る相続財産の種類、相続税評価及び小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適否は下記のとおりとなります。 なお、原則の場合でも例外の場合でも残代金81,000千円については債務として計上されることになります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 相続財産の種類と相続税評価 売買契約締結後、引渡しの前に買主に相続が発生した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、原則として土地等又は建物等の引渡請求権等となり、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務となります。 最高裁判決と国税庁情報でその取扱いの内容が明確にされています。 (1) 最高裁判決における取扱い 昭和61年12月5日の最高裁判決(TAINSコード:Z154-5841)は、被相続人が農地の買受契約を締結し、農地法3条による許可申請に対する許可通知が被相続人の死亡後に到達した場合、相続に係る相続税の課税財産は農地であるのか債権であるのか、その評価はどうするかが争われた事例となります。 納税者は、相続財産は農地であり、財産評価基本通達に定める農地の評価方法によるべきであると主張しましたが、最高裁は次のとおり判示し、納税者の請求を棄却しました。 なお、本事例においては、相続後に支払った残代金及び仲介手数料は債務として認められています。 前回の連載で解説した最高裁判決(売買契約中に売主に相続が発生した場合)と上記の最高裁判決(売買契約中に買主に相続が発生した場合)は、同日に行われており、売主側と買主側における財産の種類及び相続税評価の取扱いをまとめると下記のとおりとなります。 (2) 国税庁情報における取扱い 上記(1)の最高裁判決を踏まえて、国税庁の取扱いにおいても、土地等又は建物等の売買契約締結後、売主から買主への引渡しの日(農地法所定の許可又は届出を要する農地等である場合には、その許可の日又はその届出の効力の生じた日後にその土地等の所有権が売主から買主へ移転したと認められる場合を除き、その許可の日又は届出の効力の生じた日)前に買主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に係る土地等又は建物等の引渡請求権等とし、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務とされました。 なお、土地等又は建物等の引渡請求権等の価額は、原則としてその売買契約に基づく土地等又は建物等の取得価額の金額とされていますが、その売買契約の日から相続開始の日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなどその取得価額の金額がその相続開始の日におけるその土地等又は建物等の引渡請求権等の価額として適当ではない場合には、別途個別に評価した価額によります。 また、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があったときは、それを認めるものとされていますが、課税処分が訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとして争われる場合には、相続財産が「土地等」であるとしてもその価額が当該売買価額で評価すべきである旨を主張する事例もあるとされています(国税庁資産税課情報第1号(平成3年1月11日付))。 売買契約中に買主に相続が発生した場合の相続財産の種類と相続税評価について、国税庁情報の取扱いをまとめると下記のとおりとなります。 売買契約中に売主に相続が発生した場合については、前回の連載で解説していますが、最高裁判決と同様に「売買契約に基づく残代金請求権」を相続財産としています。これに対して、売買契約中に買主に相続が発生した場合には、国税庁情報では、「土地等又は建物等」を相続財産とする例外処理を認めており、この部分については、最高裁判決と異なりますので、注意する必要があります。課税実務上は、国税庁で例外処理が容認されていますので、上記の原則処理又は例外処理のいずれかを選択することになります。 (3) 本問の場合の当てはめ 原則として引渡請求権等として90,000千円が相続財産となりますが、例外として土地80,000千円及び建物2,000千円を相続財産とすることも認められることになります。売買価額と財産評価基本通達による価額の差が著しく乖離しており、課税上の弊害があると認められる場合には、財産評価基本通達による価額は適当とはいえませんが、本問の場合には、乖離も大きくないため、例外の路線価等による価額も認められるものと考えられます。   2 小規模宅地等の特例の適否の判断 小規模宅地等の特例は、相続開始の直前において、被相続人又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業の用又は居住の用に供されていた「宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう、以下同じ)」を対象としています(措法69の4①)。 したがって、少なくとも下記の2点について要件を充足する必要があります。 (1) 被相続人が所有している宅地等であること 宅地等であることが要件とされていますので、相続財産の種類を原則の「引渡請求権等」とした場合には、小規模宅地等の特例の対象になりませんが、相続財産の種類を「土地等又は建物等」として申告した場合には、課税上は、「宅地等」として取り扱うことになりますので、他の要件を満たせば、小規模宅地等の特例の対象になります。 (2) その宅地等が相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていること 売買契約中に相続が発生した場合には、まだ引渡しを受けていませんので、当然、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されておらず、小規模宅地等の特例の適用を受けることができないことになります。 しかしながら、事業や居住の継続の観点から一時点で判断することは適当ではありませんので、建築中等に相続が開始した場合には、租税特別措置法関係通達69の4-5、69の4-8において救済措置があります。その内容は下記のとおりとなります。 租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合) 租税特別措置法関係通達69の4-8(居住用建物の建築中等に相続が開始した場合) 上記の救済措置は、移転又は建替えのために一時的に事業の用又は居住の用に供されていなかった宅地等を事業用宅地等又は居住用宅地等として取り扱う内容となりますので、本問の場合のように居住用財産の移転のための建物の取得も通達の適用範囲となり得ると考えられます。   3 本問の場合の特例の適否 特例の適否については、相続財産の種類を宅地等として取り扱うかどうかで異なりますので、相続財産の種類を原則の引渡請求権等とした場合には、特例を適用することができませんが、例外の土地等又は建物等として申告した場合には、他の要件を満たしていれば、特例を適用することができます。 特定居住用宅地等とは、被相続⼈の居住の⽤に供されていた宅地等で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいい(措法69の4③二)、配偶者については、一定の要件はありませんので、相続財産の種類を「土地等又は建物等」として申告を行い、かつ、租税特別措置法関係通達69の4-8(居住用建物の建築中等に相続が開始した場合)の救済措置により、居住用宅地等として認められれば、要件は満たされることになります。 なお、小規模宅地等の特例は、それが相続人等の生活の基盤のために不可欠なものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であること等に鑑み設けられた制度となりますので、相続財産の種類を引渡請求権等とした場合においても特例の適用は認めるべきではないかとの意見もあるかと思います。しかしながら、条文の規定が「宅地等」に限定されており、最高裁判決は「引渡請求権等」として取り扱っていますので、「宅地等」の範囲を拡大解釈することは適当ではないと考えられます。 あくまでも国税庁の情報の中で「その土地等又は建物等を相続財産とする申告があったときにおいては、それを認める」ものとされていますので、例外処理を選択することではじめて、小規模宅地等の特例の検討をすることができることになります。 また、例外処理での小規模宅地等の特例の取扱いについては、法令や通達等で明確にされてはいませんので、上記2の適用要件に留意しながら慎重に判断を行い、万が一、認められなかった場合のリスクについても納税者に説明を行う必要があります。   ★実務上のポイント★ 売買契約中に買主に相続が発生した場合には、相続財産の種類を「引渡請求権等」として申告するのか、「土地等又は建物等」として申告するのかによって課税上の取扱いが大きく異なることになりますので、納税者に十分に説明をして申告を行う必要があります。   (了)
#502(掲載号)
#柴田 健次
2023/01/12
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第136回】「2022年における調査委員会設置状況」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第136回】 「2022年における調査委員会設置状況」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載では、個別の会計不正に関する調査報告書について、その内容を検討することを主眼としているが、本稿では、「第三者委員会ドットコム」が公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2022年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不正・不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2022年において、調査委員会の設置を公表した会社は57社であり、2021年の61社を下回っている。57社のうち、複数の調査委員会設置を公表した会社が下表のとおり5社あったため、この結果、設置が公表された調査委員会の数は64となる。 上記の会社については、会社数としてはそれぞれ「1社」とカウントする一方、委員会の構成については委員会ごとに、不正・不祥事の分類はその区分ごとに集計しているため、一部、合計数が合わないことをお断りしておく。 設置が公表された64の調査委員会のうち15の委員会は、本稿執筆時点において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。このうち4つの調査委員会については、設置そのものが11月又は12月であり、まだ調査が終わっていないとも考えられるが、例年に比較して、調査結果を公表しない事案が増加傾向にあるのは間違いない。   【市場別分類】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 市場別分類では、東証1部・東証プライム上場会社が25社と約44%を占めた(複数市場に上場している会社は東証の市場区分に含めている)。上場会社数は2022年12月29日現在。 主たる市場以外では、「事業実績の観点からリスクを有するものの、将来のプレミア市場又はメイン市場への市場区分の変更を見据えた事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価を得ながら成長を目指す企業向けの市場」(名古屋証券取引所ホームページ参照)と定義されている名古屋証券取引所ネクスト市場に上場している株式会社オウケイウェイヴと、非上場のパナソニックコンシューマーマーケティング株式会社が、それぞれ調査委員会の設置と調査報告書を公表している。   【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた会社が32社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた会社が25社となり、中堅以下の監査法人のクライアントの比率が過去4年では最も高くなっている。 大手4大監査法人のなかでは、有限責任監査法人トーマツのクライアントで調査委員会の設置を公表した会社が13社と最も多く、有限責任あずさ監査法人のクライアントが9社、EY新日本有限責任監査法人のクライアントが8社であった一方、PwCあらた有限責任監査法人のクライアントでは2社となっている。 なお、中堅以下の監査法人で複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、太陽有限責任監査法人が4社で最も多く、監査法人アリア、監査法人アヴァンティア、アスカ監査法人、監査法人東海会計社がそれぞれ2社となっている。   【調査委員会の構成による分類】 一部、委員名を非公表としている委員会を含めた調査委員会の構成ごとの分類では、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って外部の委員を選定していると認められる調査委員会は33あり、過半数を上回っている。 また、2018年から続いていた、調査委員会の構成や委員名について、非公表とする傾向については、2022年も5社が「非公表」としており、このうち3社は、調査報告書も公表していない。   【調査委員会を設置することとなった不正・不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響を及ぼす可能性のあるものについては、「会計不正」としている。   【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された44件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。 上表では、「会計不正」を対象とした調査委員会の数は44となっているが、1つの事案で複数の委員会を設置した重複分を控除した結果、「会計不正」と分類できる内容で設置された調査委員会は39となる(赤字は本連載で取り上げた報告書)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
#502(掲載号)
#米澤 勝
2023/01/12
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〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2022年12月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年12月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年12月1日から12月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 「中小企業の会計に関する指針」の改正に関する公開草案が公表され、意見募集されている。 これは、収益の計上基準の注記に関する改正である。   Ⅲ 東京証券取引所関係 東京証券取引所から「IPOに関する上場制度等の見直しについて」が公表され、意見募集されている。 スタートアップにおける新規上場手段の多様化を図る観点から、新規上場プロセスの円滑化やダイレクトリスティングの環境整備などについて、所要の上場制度等の見直しを行うものである。   Ⅳ 金融審議会関係 金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」から「金融審議会市場制度ワーキング・グループ第二次中間整理」が公表されている。 市場インフラの機能向上とスタートアップ企業等への円滑な資金供給を中心に検討を行い、取引所と私設取引システム(PTS)の機能強化や公正価値評価の促進などについて検討している。   Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 倫理規則の改正に伴う監査基準報告書及び監査基準報告書実務指針の改正(公開草案)(内容:2022年7月25日付けで倫理規則が改正されたことに伴い、監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」、監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」などを改正する) ② 倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A-監査法人監査における監査人の独立性について-(実務ガイダンス)」(公開草案)(内容:2022年7月25日付けで倫理規則が改正されたことに伴い、監査法人の計算書類を対象とする監査業務における倫理規則の適用上の留意点などを示す) ③ 「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)(案)(内容:監査法人が果たすべき役割などに関する監査法人のガバナンス・コードの改訂案) ④ 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等(内容:監査報告書の記載事項に公認会計士又は監査法人が被監査会社から受領する報酬に関連する事項を追加するもの) ⑤ 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」(内容:既存制度の実効性に関する懸念や国際的な内部統制の枠組みの改訂等に対応) (了)
#502(掲載号)
#阿部 光成
2023/01/12
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ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第34回】「「告白ハラスメント」はセクハラに該当するか」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第34回】 「「告白ハラスメント」はセクハラに該当するか」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社の従業員Aから、「上司Bから『付き合ってほしい』と言われた。それ以来、上司Bの声を聞いたり顔を見たりすると気分が悪くなって仕事が手につかない。これはセクハラではないのか」と相談を受けました。 従業員Aが不快に思ったという気持ちは尊重したいとは思いますが、当社は社内恋愛を禁止しておらず、社内恋愛で結婚に至ったカップルもたくさんいますので、好意を伝えたり、交際を申し入れただけでセクハラだと言われても、違和感を覚えます。愛の告白はセクハラに該当するのでしょうか。 【Answer】 相手に好意を示すに留まるものであればセクハラには該当しませんが、愛の告白に際して身体的接触が伴うなど、単なる好意の表現を超えて性的な言動に該当する場合はセクハラに該当する可能性があります。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 「告白ハラスメント」とセクハラ 「告白ハラスメント」とは、一般に、好意を寄せている相手に対して想いを告白し、それにより相手に不快感を与えることを指しているようである。一方、セクハラとは、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることを意味する(※)。 (※) 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号・セクハラ指針) この点、愛の告白は基本的には交際の申し込みであるところ、交際が進展すればいずれは性的な関係に発展するものではあるので、愛の告白は性的な関係の申し入れであると捉えて、「性的な言動」に該当し、それにより当該労働者の就業環境が害された場合にはセクハラに当たると整理することも可能ではある。 しかし、他方で、愛の告白は、相手に対する好意の表現に過ぎないという側面もあるため、これを一概に性的な言動であると位置づけられるものでもないと思われる。   2 愛の告白がセクハラに該当するか否かの判断基準 では、どのような愛の告白であれば「性的な言動」に該当するのであろうか。その判断基準を考えるに際して、以下の裁判例が参考になる。 (1) 高松地判令和元年5月10日 本件高松地判は、愛の告白自体について問題となったものではないが、これによると、相手へのメッセージが単に好意を示すに留まるものであれば性的なものであるとは評価できないと示していると解釈することもできる。 (2) 東京地裁平成26年3月11日 本件東京地判は、愛の告白一般について、単に好意を示すものに留まらず、性的な関心のもとから発せられたものであると示しているようにも見える。 もっとも、上記高松地判に照らすと、本件東京地判は、Xの言動①及び②が③に先行していることから、③の発言が性的な意味合いを持ったと評価していると考えるのが自然である。すなわち、裁判例は、愛の告白には、好意の表現に留まるものと、それを超えて性的な言動に該当するものがあることを前提としていると考えるべきであろう。 以上に照らすと、例えば以下のような愛の告白については、好意の表現を超えて性的な言動に該当する可能性があるものであるから、セクハラに当たる可能性を視野に入れて検討を行うべきである。 なお、愛の告白が性的な言動に該当するか否かを検討するに際しては、「性的な言動」及び「就業環境を害される」の判断に当たって、以下〈参考〉のとおり、平均的な女性労働者ないし男性労働者の感じ方を基準とすることが適当である旨、ただし、当該労働者の主観も考慮すべきである旨示されている点についても留意が必要である(上記東京地判も、「Aが不快に感じていることからすれば」などとAの主観を考慮するものの、前提として、平均的な女性労働者の感じ方を基準としているものと思われる)。 〈参考〉 (出所) 「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号)第3.1.(3)イ⑥   3 本件における対応 上記のとおり、本件においても、Bからの告白について、好意の表現を超えて性的な言動に該当する可能性があるといえる事情の有無を確認すべきである。 また、「従業員Aが不快に思ったという気持ちは尊重したい」との点は重要なことではあるが、まずは「平均的な女性労働者」や「平均的な男性労働者」の感じ方を基準として判断することに留意しながら対応するべきである。 (了)
#502(掲載号)
#柳田 忍
2023/01/12
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《速報解説》 大阪国税局、「資本関係が個人株主を含むグループ内で完結している場合の完全支配関係」について文書回答事例を公表

《速報解説》 大阪国税局、「資本関係が個人株主を含むグループ内で完結している場合の完全支配関係」について文書回答事例を公表   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   本稿では、大阪国税局が令和4年12月8日付(ホームページ公表は令和4年12月22日)に回答した文書回答事例「資本関係が個人株主を含むグループ内で完結している場合の完全支配関係について」の解説を行う。   事前照会の前提及び照会内容 〇事前照会の前提 B社及びC社は法人間で発行済株式の一部を相互に持ち合っており、個人株主の甲及びその親族(甲一族)を含むグループ内で資本関係が完結している。 【資本関係図】 (※) 文書回答事例に掲載の図を引用 〇事前照会の内容 法人の発行済株式の全てが甲一族及び甲一族が保有するグループ内のいずれかの法人によって保有されている場合(個人株主を含むグループ内で資本関係が完結している場合)で、甲一族及び甲一族が保有するグループ内法人以外の者によってその発行済株式が保有されていないときは、A社とB社、A社とC社、B社とC社、甲一族とB社及び甲一族とC社との間に完全支配関係はあるという理解で問題ないかどうか。   事前照会の結論及び当局見解 完全支配関係とは次のような関係をいう(法法2十二の七の六)。 株主が個人の場合には、個人の保有する株式だけでなく、特殊の関係のある親族等が保有する株式を含めて、完全支配関係があるかどうかを判定することとなる(法令4の2②)。 B社とC社の間で発行済株式の一部を相互に保有し合っているため、甲一族がB社又はC社の発行済株式の全てを直接的に保有しておらず、甲一族と完全支配関係があるA社を通じて間接的にもB社又はC社の発行済株式の全てを保有していないことから、甲一族とB社又は甲一族とC社との間には当事者間の完全支配関係がないこととなるのか、そうであれば、A社とB社、A社とC社及びB社とC社との間にも当事者間の完全支配関係がある法人相互の関係もないこととなるのかという疑義が生じる。 国税庁ホームページ質疑応答事例「資本関係がグループ内で完結している場合の完全支配関係について」では、「完全支配関係とは、基本的な考え方として、法人の発行済株式のすべてがグループ内のいずれかの法人によって保有され、その資本関係がグループ内で完結している関係、換言すればグループ内法人以外の者によってその発行済株式が保有されていない関係をいう」こととされている。 今回の文書回答事例では、この事例の前提が法人株主でも(親族等を含む)個人株主でも結論は同様となる旨が説明されており、資本関係が個人及びその親族等並びにこれらと資本関係のあるグループ内法人で完結している関係であれば、その個人及びその親族等並びにこれらと資本関係のあるグループ内法人以外の者によってその発行済株式が保有されていない関係についても完全支配関係があるものとして取り扱うということが明らかにされた。 したがって、A社とB社、A社とC社、B社とC社、甲一族とB社及び甲一族とC社との間に完全支配関係はあることとなる。 ただし、資本関係が(個人株主を含む)グループ内で完結している場合の完全支配関係の判定は、あくまでも完全支配関係の判定であり、支配関係の判定においてグループ内で相互に保有する場合の考え方については何ら説明されているわけではないという点に留意する必要がある。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#川瀬 裕太
2023/01/11
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