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2022年10月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.490を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第112回】「節税商品取引を巡る法律問題(その6)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第112回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その6)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅴ 消極的説明義務 1 税理士への説明行為の委任 節税商品は「節税」を売り物とするものであるから、商品内容の説明に当たっては本体契約の説明に加えて課税上の取扱いに係る説明もなされなければならないし、課税上のリスクに係る説明もなされなければならないと考える。ところが、先に述べたとおり、金融機関や保険会社の販売担当者などが税制上の説明を行うには専門的知識の欠如という問題が惹起されるし、また、個別具体的に課税上の取扱いに係る説明を行うことは、税理士法に抵触することにもなりかねない。 この点について、森田章同志社大学名誉教授は、「従来の保険業法では、銀行員が保険の募集を行うことを想定していなかったので、保険外務員であれば顧客に開示すべきことであっても、銀行員なら何も開示しなくてもよく、むしろ説明を行うと保険業法に違反するという考え方すら存在して、変額保険の販売による被害を増大させたともいえよう」と分析される(森田章「変額保険」民商114巻4=5号731頁(1996)、同「金融サービス法」法時70巻10号26頁(1998))。 税理士法違反や保険業法違反を理由として自らが販売する商品の説明や商品に係るリスク説明を放棄することが許されるのであろうか。 投資者の自己決定権侵害を招来するおそれを考慮に入れると、販売者による自己完結的な説明義務履行の不能をもって当該説明義務を免責することは妥当でない。また、銀行と顧客との間の投資勧誘契約の不存在を前提として、銀行の説明義務に否定的見解を展開する論者の反論があるのも事実である。 そこで、販売者が自らの義務履行を税理士に委任(代理権授与)することが考えられよう。つまり、販売者と税理士との委嘱契約の締結により、税理士が節税商品の課税上の取扱いに係る説明を投資者に対して行うことができれば、税理士による説明が販売者に法的に効果帰属するため、販売者の説明義務の履行完結が可能となろう。 2 消極的説明義務 ところで、販売者と税理士との委嘱契約の締結は販売者の選択的一方策を提示するにとどまるのか。ここで、いわゆる紀陽銀行事件として有名な大阪地裁堺支部平成7年9月8日判決(判時1559号63頁)及びその後のいくつかの変額保険訴訟において支持されている「消極的説明義務」を概観したい。 大阪地裁堺支部事案の概要は次のとおりである。 原告Xは、平成元年7月、Y1銀行の支店長代理、Y2保険会社の募集人の訪問を受け、変額保険の加入を勧誘され、これに加入したが、かかる保険解約に伴い損害を被った。Xは、Y1、Y2の従業員の変額保険加入についての説明義務違反を理由に、Y1、Y2の使用者責任を追及した。これに対して裁判所は、Y1、Y2双方の担当者に、変額保険の危険性についての説明義務違反を肯認した。すなわち、Y1銀行の支店長代理の勧誘が本件保険加入の動機になっている点を考慮して、Y1銀行の担当者としては、少なくとも、Y2保険会社の担当者の説明により顧客が損はしないと誤解しているのに、これを正す説明をしなかったとして、消極的説明義務違反があったと判示した。銀行の説明義務違反を肯定した大阪地裁堺支部は、保険業法により変額保険についての説明が制限されている銀行も、その内容について顧客が誤解している場合には、誤解を解くための説明を自らするか保険会社に説明を促すべき消極的説明義務があるとして、銀行の責任を肯定した。 同支部は、保険契約と融資契約は法律上別個であり、保険募集の取締に関する法律(当時)で銀行が保険の募集をすることは業法上できないから、銀行員には、変額保険の内容について積極的な説明をする義務はないとしたものの、「少なくとも、保険会社担当者Aの説明によって、原告Xが変額保険の内容について誤解している時は、誤解を解くための説明を自らするか、Aに再度の正確な説明を促すべきであるという消極的な説明義務が生じうるというべきである」と判示したのである。 3 専門的知識の欠如した者及び税理士でない者に係る消極的説明義務 消極的説明義務を肯定する論旨は、投資顧問契約やそれに類似した契約を前提とした法的構成ではなく、保険募集を特定の者に限定する保険業法の下で、保険会社の説明を促す間接的な義務として銀行の法的責任を認める。税理士法も保険業法と同様の一種の業法であるが、個別具体的な課税上の取扱いの説明を税理士に限定する税理士法の下で、税理士の説明を促す間接的な義務を措定する根拠として、節税商品取引における説明義務者の法的責任論にこの議論を援用することは不可能ではないと思われる。 上記大阪地裁堺支部の判示内容に沿って考えると、専門的知識の欠如や税理士法抵触の問題があるため、販売者が「誤解を解くための説明を自らする」ことが不可能であるとすると、「(専門家に)正確な説明を促すべきであるという消極的説明義務」の履行のみが販売者の採り得る説明義務の履行手段となる。 説明義務者の説明が未完結のままであるとすると、この放置は投資者の自己決定権侵害に繋がることとなるため、この危難を漫然と傍観することは違法となるとする法的構成の採用は十分にあり得る。 松本恒雄一橋大学名誉教授は、「消極的説明義務」の本質を不作為の違法性論において論じられる「先行行為に基づく作為義務」の一種であるとし、自己の積極的行為によって相手方を危難に陥れた者は、漫然とそれを傍観していると違法になる場合があるとする法的構成を採用する判決として大阪地裁堺支部判決を支持される(松本恒雄「融資金の使途先に関する融資者の責任」自正47巻10号27頁(1996))。 (続く)
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谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第7回】「国税通則法8条(~9条の3)」-国税の連帯納付義務についての民法の準用-
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第7回】 「国税通則法8条(~9条の3)」 -国税の連帯納付義務についての民法の準用- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法8条(国税の連帯納付義務についての民法の準用) 1 連帯債務と連帯納付義務 連帯債務とは、「同一内容の給付(=可分給付)について複数の債務者が各自独立した全部給付義務を負担し、かつ、債務者中の誰かの全部給付によつて総債務者の債務が消滅する、という複数主体の債務」(西村信雄編『注釈民法(11)債権(2)』(有斐閣・1965年)48頁[椿寿夫執筆])をいうが、税法は一定の場合(税通9条、9条の2、税徴33条後段、自税4条1項後段・2項、登税3条後段、印税3条2項、輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律20条・関税13条の3)についてこれを「連帯納付義務」として定め、国税通則法8条はこれについて民法の連帯債務に関する規定の一部を準用する旨を定めている。 国税の連帯納付義務について、次のように説かれることがある(品川芳宣『国税通則法講義-国税手続・争訟の法理と実務問題を解説-』(日本租税研究協会・2015年)10頁。下線筆者)。 つまり、「民法上の連帯債務は、当事者が契約を締結することによる当事者の意思によって生じるのであるが、税法上は、そのような意思とは関係なく、一定の法律関係にある者が第三者の国税の納付義務について連帯債務を負うことになる」(品川芳宣『現代税制の現状と課題(租税手続編)』(新日本法規出版・2017年)14頁)ので、国税の連帯納付義務者は、予測可能性及び法的安定性の点で民法上の連帯債務者に比べて更に不利な立場に立たされることになるといってもよかろう。 前記の囲み内の引用文で例として挙げられている民法432条の準用だけでなく民法の連帯債務の規定の準用は、一般に、国(国税債権者)にとって国税債務の履行確保のために有利に働く(同引用文の表現を借りれば「極めて都合のいい」)措置である。国税通則法8条のこのような性格づけは、同条の次のような沿革からみても、的確なものである。 国税通則法8条は、同法制定前の国税徴収法30条の規定を承継したものであるが、この規定は昭和34年改正国税徴収法(昭和34年4月20日法律第147号)において、「[従来]国税徴収法の逐条通達では、税法で連帯納付義務の内容について明文の規定がないので、一般私法すなわち民法の連帯債務の内容を、特に租税債務の性質が許さないものがあれば別ですが、そうでない限りは、類推適用するのだという考え方」(租税法研究会編『租税徴収法研究(上)』(有斐閣・1959年)148頁[桃井直造発言])に基づく取扱いを、「徴税の合理化」の一環として(租税徴収制度調査会「租税徴収制度調査会答申」(昭和33年12月)12頁、15頁参照)、立法的に明確化したものである(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])D367頁[北野弘久・吉良実執筆]参照)。 このように、国税の連帯納付義務の制度は、昭和34年国税徴収法改正で「徴税の合理化」のために拡充された第二次納税義務制度(租税徴収制度調査会・前掲「答申」12-15頁参照)と同じく、国税債務の履行確保ないし国税徴収の確保のための制度である。ただ、両制度は義務の法律構成を次のとおり異にする。 連帯納付義務は、連帯債務と同じく複数主体が義務を連帯して負うものであるが、その義務が納付義務(前回3参照)である以上、複数主体が租税実体法上の(成立した)納税義務及びこれに係る申告義務等の租税手続(納税義務の確定・履行[納付・徴収]手続)上の義務を連帯して負うものであるのに対して、第二次納税義務は、成立し確定した納税義務について滞納処分後に当該納税義務者と一定の関係を有する者に対して租税徴収手続上補充的に負担せしめる義務である。このように法律構成を異にするからこそ、両義務は併存し得るのである(税徴33条後段参照)。 2 連帯納付義務と連帯納付責任 国税の連帯納付義務については、共有物等に係るもの(税通9条)は「1つの課税物件が2人以上に帰属しているような場合」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)843頁、志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)202頁)に課されるという考え方が示されているところ、この考え方は、租税実体法上の(成立した)納税義務を基礎とする義務としての納付義務の法律構成(前回3参照)に適合するものである。というのも、そのような場合には、2人以上の者について同一内容の納税義務の成立を観念すること(納税義務の成立に関するいわば「観念的競合」)ができるからである。他の連帯納付義務についても、上記の考え方が基本的には妥当するといえよう。 これに対して、1つの課税物件が2人以上の者に分割されて帰属することになる場合には、上記のような考え方は妥当しない。このような場合について、税法は、連帯納付義務とは異なり、連帯納付責任を定めることがある。国税通則法9条の3は、法人の分割(分社型分割を除く)の場合にその分割承継法人がその分割法人の分割前の国税について、その分割法人から承継した財産の価額を限度として、連帯納付責任を負うことを定めているが、そのほか、相続税法34条が相続・贈与財産の取得者・贈与者の連帯納付責任を、地価税法29条が土地等の受贈者等の連帯納付責任を、一定の限度額(受益額等)の下で定めている。また、法人税法152条は通算法人の連帯納付責任を限度額なしに定めている。 連帯納付責任は、相続による国税の納付義務の承継の場合の相続人の納付責任(税通5条3項)と類似した性質を有する(志場ほか共編・前掲書207頁参照)。この場合の相続人の納付責任は、前回3でもみたとおり、「もともと被相続人の全財産を引当てとし、そのいずれに対しても滞納処分をすることができたのに、相続の開始によってこの引当財産が切り離され、資力のない相続人に相続されたために被相続人の国税の徴収が困難になることを防止しようとするもの」(志場ほか共編・前掲書175頁)である。 そうすると、連帯納付責任は、国税の徴収確保のための人的有限責任(通算法人については人的無限責任)の性格をもつものとみてよかろう(相税34条について金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)696頁参照)。法人税法152条が通算法人の連帯納付責任を限度額の定めのない無限責任としたのは、「連結納税制度同様、一部の法人に財産を集中させることにより徴収を回避することも可能となること等を考慮し」(財務省「令和2年度 税制改正の解説」1003頁)、法人税の徴収確保をより徹底したためである。 このように、国税の連帯納付義務と連帯納付責任とは法的性格を異にすることから、「これらの連帯納付責任について法8条をそのまま適用することは妥当ではなく、一種の特別規定として解釈しなければならない。」(志場ほか共編・前掲書207頁)と考えられている。例えば、相続財産取得者の連帯納付責任(相税34条1項)の確定手続について、最判昭和55年7月1日民集34巻4号535頁は次のとおり判示した(この判決では「連帯納付義務」という表現が用いられている。同様の用語法については金子・前掲書694-698頁参照)。 3 連帯納付責任をめぐる法的諸問題 ところで、国税の連帯納付責任も、連帯納付義務と同じく、本来の納税者と一定の関係を有する者に対する税法の規定に基づく負担であることから、その者(連帯納付責任者)は、自己の意思に基づいて連帯債務を負う者(民法上の連帯債務者)に比べて予測可能性及び法的安定性の点で更に不利な立場に立たされることになる。この問題は、次の指摘(金子・前掲書696頁=①。そこでいう「主張」の1つとして前掲最判の伊藤正己裁判官補足意見=②参照)にみられるように、特に相続税・贈与税の連帯納付責任(相税34条)について議論がされてきた。 上記①の引用文にいう「主張」は「適正手続の保障の観点から」(金子・前掲書698頁)されてきたものであり、これに対応する改正が平成23年度(6月)税制改正(財務省「平成23年度 税制改正の解説」430-432頁参照)や平成24年度税制改正(財務省「平成24年度 税制改正の解説」417-420頁参照)でされたところであるが(金子・前掲書697-698頁参照)、そもそも、相続税・贈与税の連帯納付責任については、実体論の観点からも、次のような問題の指摘(同696頁。下線筆者)がされてきた。 確かに、相続税・贈与税の連帯納付責任は、「今日の法思想」、さらにいえばこれの基礎にあると考えられる近代法の基本原理である個人主義の思想からすると、まさに「異例」の制度といわざるを得ないであろう。したがって、これを戦前の我が国の「家」制度の遺物としてみる見解も一概に不当とはいえないように思われる。そのような見解に基づき、相続税法34条1項が個人の尊厳と人格尊重の理念を定めた憲法13条に違反する無効な規定である旨の主張に対して、大阪地判平成15年1月12日[未公刊・LEX/DB文献番号28091735]は次のとおり判示し(下線筆者)、これを認めなかった(控訴審・大阪高判平成16年2月20日[未公刊・LEX/DB文献番号28091734]もこれを是認した)。 この判示の中の下線部の「思想」は、「この[相続税法34条1項の]連帯納付の義務は、連帯納税義務ではなく、他の相続人の納税義務に対する一種の人的責任であるが、その基礎にある思想は、一の相続によって生じた相続税については、その受益者が共同して責任を負うべきであるという考え方である。」(金子・前掲書695頁)として述べられている「思想」と同じであり、しかもこの「思想」が前記引用文の中の「今日の法思想」(同696頁)との関係について特段の留保ないし限定もなく同一書物の隣接頁で述べられていることからすると、この「思想」はそこでは「今日の法思想」と親和的なものと考えられていると解し得るであろう。 そうすると、この「思想」は、相続人相互の関係を、「家」制度にみられたような家族的身分共同体関係としてではなく、(構成員の自由意思に基づく合意によって各構成員の受益割合・方法等が決定される)利益共同体関係として捉えた上で、「一の相続によって生じた相続税については、その受益者が共同して責任を負うべきであるという考え方」を措定するものと解され、その限りにおいては、個人主義に基礎を置く「今日の法思想」と親和的なものといえよう。 もっとも、そのような「思想」は、贈与税の連帯納付責任(相税34条4項)についてはその正当根拠として援用することはできないように思われる。というのも、贈与者と受贈者の関係は、上記のような相続人間の利益共同体関係とは異なり、一方的な受益関係であるからである。では、この連帯納付責任はどのような考え方によって正当化することができるのであろうか。この点について、東京高判平成19年6月28日判タ1265号183頁は次のとおり判示した。 この判決でも説示されている昭和22年創設の贈与税のように、受贈者の受益に着目して受贈者に連帯納付責任を負わせるのであれば、贈与税の徴収確保を正当根拠として援用することに十分に合理性を認めることができよう。しかし、贈与者は、贈与により財産を手放しその財産が示す担税力を減少させたのであるから、贈与税の徴収確保を理由に贈与者の連帯納付責任を正当化することはかなり困難であるように思われる(武田昌輔監修『DHCコンメンタール相続税法』(第一法規・加除式)2765頁も参照)。 前掲東京高判は、贈与税の徴収確保の必要性を強調するために、「受贈者がもともと財産がない場合」や「受贈者が当該取得した財産を他に処分して無資力者となった場合」を取り上げているが、前者はどのような場合を問題にしているか必ずしも明らかでなく(受贈財産の価額の合計額が贈与税の基礎控除[相税21条の5・税特措70条の2の4]及び配偶者控除[相税21条の6]の合計額を下回る場合を問題にしているのであれば、そもそも贈与税の徴収確保を問題にする余地はない)、後者も詐害行為取消権(税通42条)や第二次納税義務(特に税徴39条)によって対処可能な場合であることが多いであろうから、それらの場合について贈与税の徴収確保のために贈与者に連帯納付責任を負担せしめる必要性は特にないように思われる。 そうすると、贈与税の連帯納付責任については、前掲東京高判も勘案する「立法の沿革」に照らして、その正当根拠を理解するしかないように思われる。前掲東京高判が説示するように、昭和22年の贈与税創設当時は、「贈与は、いわば遺産の前渡しであり、担税力を前渡しの遺産に求めるべきとの考え」から、贈与者課税方式及び受贈者の連帯納付責任が採用されていたが、その「考え」は、贈与税創設以前における一定の贈与に対する相続税の課税、すなわち、「推定相続人等の特定の者に高額な動産などを贈与した場合に、相続が開始したものとみなして相続税を課税するという特殊な形態」(菊地紀之「相続税100年の軌跡」税大ジャーナル1号(2005年)35頁、39頁。下線筆者)に由来するのではないかと考えられる。 つまり、相続税法34条4項は、贈与税の連帯納付責任に関しては、受贈者を「推定相続人」とみた上で、贈与者と受贈者との関係を家族的身分共同体関係として捉え、贈与したとはいえなお「家族内」に留まっている財産の一定価額を限度として贈与者に、家族的身分共同体関係を基礎とする人的責任を負担せしめたものと解されるのである。 このように考えてくると、贈与税の連帯納付責任こそが、個人主義に基礎を置く「今日の法思想」に馴染まず、憲法13条違反を問われるべきであろう。 (了)
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〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第1回】「はじめに」
〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第1回】 「はじめに」 公認会計士 佐藤 信祐 1 はじめに 令和4年4月19日、同月21日と最高裁判決が立て続けに下された。平成28年2月29日の最高裁判決(ヤフー・IDCF事件)を含めると、租税回避に対する最高裁の考え方が概ね示されたと考えられる。令和4年4月19日及び同月21日の最高裁判決に係る調査官解説もいずれ公表されると思われるが、今後、クライアントからの節税の相談に応じる際には、これらの最高裁判決を理解しておく必要がある。 平成28年2月29日の最高裁判決を参考にすると、組織再編成に係る包括的租税回避防止規定(法法132の2)の適用については、①法人の行為又は計算が不自然なものであるかどうか、②税負担減少目的以外の事業目的が十分に認められるかどうか、③税負担減少の意図があったかどうか、④制度趣旨に反するかどうか、の4点により検討されることになる。その後のTPR事件(東京高判令和元年12月11日)及びPGM事件(国税不服審判所令和2年11月2日裁決)でも同様の検討がされていることから、上記4点により包括的租税回避防止規定の適用が検討されるという理解で差し支えがないと思われる。 ここで問題となるのが、③の「税負担減少の意図」である。最近の税務調査では、メールを閲覧したり、反面調査をしたりすることで、税負担減少の意図を探ろうとする試みが見受けられる。ただし、「税負担減少の意図」を「税負担が減少することを知っていた」と解するのであれば、組織再編成を行うに際し、租税法上の検討を行わないということはあり得ないため、法人税の負担が減少する組織再編成のすべてに「税負担減少の意図」があるといえてしまう。このようなものについてまで、「税負担減少の意図」があったことを理由に租税回避として認定すべきでない。 「組織再編成を行うに際し、税負担を減少させようとした」と解するのであれば、租税回避に該当する余地があるのかもしれない。ただし、例えば、不採算の子会社を清算する場合において、当該子会社の清算により、親会社において子会社整理損失が計上されたり(法基通9-4-1)、子会社の繰越欠損金が引き継がれたりすることがある(法法57②)。不採算の子会社であれば、事業を廃止し、会社を清算することに、十分な事業目的が認められるはずであるが、親会社の法人税の負担が減少することが分かれば、それを意識した子会社の清算にならざるを得ない。このような場合であっても、「税負担減少の意図」があるものと考えるべきなのだろうか。 広辞苑によると、「意図」とは、「あることを(実現)しようと考えること。また、考えた事柄。もくろみ。ねらい。」と定義されている。すなわち、上記のような子会社の清算については、法人税の負担を減少させることが主目的だったとはいえないものの、日本語を素直に読めば、「税負担減少の意図」があったと解さざるを得ない。そのため、税務調査においても、税負担減少の意図があったと認定しようとしてくるのかもしれない。 ただし、平成28年2月29日の最高裁判決では、①法人の行為又は計算が不自然なものであるかどうか、②税負担減少目的以外の事業目的が十分に認められるかどうか等の事情を考慮したうえで、「当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否か」を検討すべきであるとしている。 すなわち、「組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したもの」とは、不自然な行為又は計算が行われ、かつ、税負担減少目的以外の事業目的が十分に認められないことが前提となっている。そして、調査官解説でも「組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであること(租税回避の意図)」(※1)と表記されていることから、最高裁判決における「税負担減少の意図」は「租税回避の意図」のことを意味し、一般的な「税負担減少の意図」とは明らかに異なるものである。本稿では、一般的な用語としての「税負担減少の意図」と区別するために、租税回避に該当する「税負担減少の意図」のことを「税負担減少の意図(租税回避の意図)」と表記するものとする(※2)。 (※1) 徳地淳・林史高「判解」法曹時報69巻5号300頁(平成29年)。 (※2) 本稿公表前における著者の文献及び講演資料では、一般的な用語としての「税負担減少の意図」をそのまま使用してしまったため、「税務調査において税負担減少の意図を否定することは難しい」と説明していたが、ここでいう「税負担減少の意図」とは「税負担減少の意図(租税回避の意図)」とは異なるものである点にご留意されたい。すなわち、組織再編成を行うに際し、租税法上の検討を行わないということはあり得ないことから、税務調査において「税負担減少の意図」を否定することは難しいが、経済合理性や事業目的が十分に認められることを説明すれば、「税負担減少の意図(租税回避の意図)」を否定することはできるのである。 このように、「税負担が減少することを知っていた」という程度では租税回避と認定することはできず、「組織再編成を行うに際し、税負担を減少させようとした」としても、事業目的が十分に認められるのであれば、租税回避として認定することはできない。すなわち、前述のように、法人税の負担が減少する組織再編成のすべてに「税負担減少の意図」があると認められるものの、事業目的も十分に検討したうえで組織再編成を行うことから「税負担減少の意図(租税回避の意図)」も認められる事案は稀である。 換言すると、法人の行為又は計算が不自然なものであり、かつ、税負担減少目的以外の事業目的が十分に認められない場合に限り、「税負担減少の意図(租税回避の意図)」があったといえることから、包括的租税回避防止規定の検討では、(A)法人の行為又は計算が不自然なものであるかどうか、(B)税負担減少目的以外の事業目的が十分に認められるかどうか、(C)制度趣旨に反するかどうかの3つを中心に、包括的租税回避防止規定の適用を検討すべきであり、一般的な意味としての「税負担減少の意図」があったかどうかについては、さほど重要ではないはずである。 2 租税法律主義 前述のように、最近の税務調査や税務訴訟では、過度な節税に対して厳しい対応がなされているが、これは時代の流れであるように思われる。かつては認められていたものが、法律や慣習の変化により認められなくなってくることは様々な産業で起きており、最近の事案だと節税のための保険商品が挙げられる。 租税法律主義についても同じことがいえる。もともと、租税法律主義は、国王が法律に基づかずに税を徴収することを防ぐために、西洋諸国で導入されたものである(※3)。我が国でも、日本国憲法において租税法律主義が定められており(憲法84)、租税回避の範囲を安易に広げることは、法的安定性の観点から問題がある。 (※3) 下村芳夫「現代における租税の意義について-租税法律主義の歴史的考察を中心として-」税大論叢5号1-31頁(昭和47年)参照。 これに対し、令和4年4月19日の最高裁判決では、「本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する」と判示された。すなわち、節税のために税理士に高い報酬を支払うことのできる富裕層とそれができない中間層との間に著しい不公平があることから、過度な節税に対して厳しい対応をすべきであるということだと思われる。 自由主義国家という観点からは、明確な法律の規定に基づかずに、租税回避であることを理由として更正処分を行うことは望ましくはないのかもしれない。これに対し、福祉国家という観点からは、富裕層が税理士に高い報酬を支払って、税負担を減らそうとすることも望ましくはないはずである。本最高裁判決を見る限り、自由主義国家の観点からではなく、福祉国家の観点から租税法律主義を捉えようとしており、従来の租税法律主義の考え方とは異なる可能性がある。 そうなると、租税法規が予定していたものなのか、制度趣旨に反してはいないのかという点を常に検討せざるを得ないし、もし、租税法規が予定したものではなく、かつ、制度趣旨にも反しているものの、経済合理性や事業目的が十分に認められる場合には、それを税務調査及び税務訴訟で説明できるようにしておく必要があるということがいえる。 (了)
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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第1回】「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その1)」~租税特別措置法66条の6、日星租税条約7条1項、ウィーン条約法条約32条~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第1回】 「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その1)」 ~租税特別措置法66条の6、日星租税条約7条1項、ウィーン条約法条約32条~ 税理士 中野 洋 1 事件の背景 本件は、英国における移転価格課税を回避するためにグループ内で行った資金捻出スキームが、日本での租税特別措置法66条の6に規定するタックス・ヘイブン対策税制(以下「CFC税制」)の適用へと発展した事案である。 〈図1〉参考 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 P社は昭和54年にシンガポールにおいて設立された胃潰瘍薬の製造販売業を営む法人であり、X社は平成3年4月からP社の発行済株式の90%を保有する日本法人である。X社は英国のA社に発行済株式の100%を保有されており、いずれも英国の世界的な製薬企業であるPグループに属している。A社は、英国歳入庁から、P社から受け取るロイヤリティ-が少なすぎるとの指摘を受けており、Pグループにはグループ全体の問題として、P社からA社への巨額の資金決済が必要となっていた。P社はシンガポールのグループ法人に事業を譲渡することで巨額の資金を準備したが、平成10年に至っても英国歳入庁との間で具体的な協議がまとまっていなかった。 2 事件の概要 P社は、平成10年3月に保有するグループ法人の株式を譲渡等し、約8億シンガポールドル(約560億円)の株式譲渡益を計上した。ところが、株式譲渡益非課税の同国においてはこれが課税所得に含まれず、実質的な税負担割合は約4.32%となり、CFC税制に規定するトリガー税率を大きく下回ることとなった。P社は株式譲渡の翌年度にA社へ追加ロイヤリティーを支払ったが、株式譲渡で得た巨額の資金は支払時までコマーシャルペーパーで運用していた。 そこで、日本の課税庁は、P社の平成10年1月1日から同年12月31日の事業年度を基礎に、X社の平成11年1月1日から同年12月31日の事業年度に係る法人税についてCFC税制を適用した。一審(東京地判平成19年3月29日)、二審(東京高判平成19年11月1日)ともにX社の請求が棄却され、X社が上告した。 〈図2〉概要図 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 本件の主要な争点が、CFC税制が日星租税条約7条1項の事業所得条項(以下、単に「7条1項」)に抵触するか否か、というCFC税制の根幹を揺るがすテーマであるが、CFC課税に発展した直接の原因は“期ズレ”の問題である(上記〈図2〉参照)。 そもそも、本件では、株式譲渡(平成10年)とロイヤリティーの確定・支払(平成11年)年度がズレたことが原因であり、移転価格課税を回避するための資金捻出スキームがCFC課税へと発展してしまった事案である。同一の事業年度に株式譲渡益とロイヤリティーが生じていれば、CFC税制が適用されることはなかった。 3 X社の主張(7条1項は経済的二重課税を禁止する) X社の主張は、7条1項が「企業の利得を対象とした規定であり、一方の締約国(シンガポール)の企業の利得に対しては、他方の締約国(日本)は、その内国法人に対する課税という形であっても、課税することができないことを定めたものであるところ、CFC税制は、外国法人の利得に対し、我が国に恒久的施設がないにもかかわらず課税するものであるから、7条1項に違反する」(括弧書き筆者)というものである。 4 判示1(7条1項は法的二重課税を禁止するにとどまる) 最高裁は7条1項について、「いわゆる『恒久的施設なくして課税なし』という国際租税法上確立している原則を改めて確認する趣旨の規定とみるべきであるところ、企業の利得という課税物件に着目する規定の仕方となっていて、課税対象者については直接触れるところがない。しかし、同項後段が、B国(日本)に恒久的施設を有するA国(シンガポール)の企業に対する課税について規定したものであることは文理上明らかであり、これは同項後段を受けた規定であるから、同項前段も、また、A国の企業に対する課税について規定したものと解するのが自然である。すなわち、同項は、A国の企業に対するいわゆる法的二重課税を禁止するにとどまる」(下線、括弧書き筆者)とした。 5 検討 判示は、7条1項前段について「課税対象者については直接触れるところがない」と前置きしながらも、A国企業に対する課税について規定したものであるから、同項が「課税対象者」に対する規定であるとしている。一方で、「企業の利得という課税物件に着目する規定の仕方」と述べている点からは、文言通りに読めば同項が「課税対象物」に対する規定と読めることも示唆している。 7条1項は、源泉地国における居住地国の課税権を制限するものであるが、本件においては、制限の対象が「物」なのか「者」なのかが争われている。判示は、同項後段が課税対象「者・」に対する規定であることから、同項前段も課税対象「者・」に対する規定であると結論付けている。しかし、同項後段について、課税対象「者・」について規定したものと断言できるのであろうか(※1)。源泉地国の企業の利得のうち、居住地国が課税できる範囲を定めているに過ぎないと読めるように思われる(※2)。 (※1) 税務訴訟資料259号 順号11302、28頁。「その主語が『企業の利得』であるという点からも明らかなように・・・・・同項は、『納税義務者』に着目した定めではなく、『企業の利得』という課税物件に着目した定めなのである」 (※2) 宮塚久・北村導人「近時のタックス・ヘイブン対策税制に係る裁判例の分析・検討〈国際課税の裁判例分析3〉」租税研究、725号(2010年)324頁。 わが国の憲法構造によると、租税条約(7条1項)と国内法(CFC税制)が抵触する場合、租税条約の規定が優先する(※3)ことから、7条1項に抵触する限りにおいてCFC税制の規定が制限される。7条1項が企業の利得という「課税対象物」について規定しているとすれば、同項の規制の対象が経済的二重課税にまで及び、CFC税制が7条1項に抵触する可能性が生じる。これに対し、同項を課税対象「者」に対する規定と解する立場からは、日本の親会社に対するCFC課税は同項に抵触しない。最高裁は、同項が「課税対象者」に対する規定であると解することにより、法的二重課税を禁止するにとどまると判示した。 (※3) 条約の誠実順守義務(憲法98条2項) 〈図3〉目線の違い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 6 7条1項が争点となった理由 X社が7条1項とCFC税制の抵触関係を争点とした背景については、平成14年6月28日のフランス国務院判決において、フランスのCFC税制がフランス・スイス租税条約に違反するとの判断が示されたことが影響している。中里教授は「当時のフランスのCFC税制は我が国の当時のCFC税制と類似するものであるから、我が国のそれもフランスと同様、租税条約に抵触する」(※4)と述べている。 (※4) 中里実「タックスヘイブン対策税制」税研、124号(2005年)75頁。 しかし、フランスにおいては国際的二重課税排除の方式として国外所得免除方式が採用されている。これに対して、わが国は国外源泉所得を課税対象に取り込んだ上で、外国税額控除方式により二重課税を調整する(全世界所得課税)方式である。国外源泉所得を課税対象から除外するフランスとは二重課税排除の方式が根本的に異なる。このような点から、フランスにおいては租税条約等の締結に際して、特段の配慮が必要なところそれがなされていなかったのが原因であり(※5)、このような中里教授の見解に対しては反対意見が多く見受けられる。 (※5) 「フランスの国外所得免除方式の立場からは、租税条約の締結に際して、CFC税制が租税条約に違反しない旨を定めておかなければならない」(駒宮史博「いわゆるCFC税制である租税特別措置法66条の6第1項による課税は、日星租税条約に反するか」判例時報、2081号(平成22年9月)など) ((その2)へ続く)
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〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第19回】「建設工事における出来高検収書の取扱い」
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第19回】 「建設工事における出来高検収書の取扱い」 税理士 石川 幸恵 【Q】 当社は、建設工事を請け負っており、その建設工事の一部を下請業者に請け負わせています。下請業者への支払いは、当社が出来高検収書を作成して下請業者に確認をもらい、それに基づいて行っています。 これまでは、出来高検収書の確認を受けた日に課税仕入れを行ったものとして、仕入税額控除をしてきました(消基通11-6-6)。インボイス制度導入で取扱いは変わりますか。 〔ポイント〕 (1) 出来高検収書の取扱い(消基通11-6-6)はインボイス制度導入後も変わりません。 (2) 下請業者が工期の途中で適格請求書発行事業者でなくなった場合には、すでに行った仕入税額控除の額を工事完了日の属する課税期間において、減額しなければなりません。 * * * 【A】 インボイス制度導入後も、元請業者が作成する出来高検収書を下請業者が確認することによって仕入税額控除が可能です。 下請業者が工期の途中で適格請求書発行事業者でなくなった場合は、すでに行った仕入税額控除の額を減額しなければなりません。 (1) 令和4年8月31日に国税庁「お問い合わせの多いご質問」に追加 令和4年8月31日に国税庁の「お問い合わせの多いご質問」が更新され、出来高検収書に関する問が新たに設けられました。 (2) 消費税法基本通達11-6-6の内容 ① 出来高検収書とは? 出来高検収書とは、元請業者が下請業者の行った工事等の出来高について検収を行い、その検収の内容及び出来高に応じた金額等を記載した書類をいいます。 ② 出来高検収書の保存により仕入税額控除が認められる 出来高検収書が次の要件を充たしていれば、出来高検収書は仕入税額控除の要件である書類保存の「書類」として認められます。 ③ 出来高の検収による課税仕入れの時期 下請業者に出来高検収書の確認を受けた日に課税仕入れをしたものとして仕入税額控除が受けられます。 ④ 建設工事の一部を下請業者に請け負わせた場合の原則的な取扱い 上記③は特例的な取扱いであり、原則的には、請負による資産の譲渡等の時期は、目的物の全部を完成して引き渡した日とされています(消基通9-1-5)。 (3) インボイス制度での出来高検収書の取扱い 出来高検収書が仕入明細書等の記載事項を満たしており、下請業者の確認を受ければ、消費税法基本通達11-6-6の取扱いは変わりません。 なお、仕入明細書としての記載事項は次のとおりです(インボイスQ&A問85)。 上記②で下請業者の登録番号の記載が必要ですので、あらかじめ確認しておく必要があります。 また、上記⑤は「支払対価の額」とされていますので、税込金額を記載することが原則ですが、税抜金額でも認められます(インボイスQ&A問87)。 (4) 下請業者が工事完了までに適格請求書発行事業者でなくなった場合 工期が下請業者の課税期間をまたぐような場合には、工事の期間中の検収時には適格請求書発行事業者であった下請業者が工事完了時に適格請求書発行事業者でなくなっているというケースも考えられます(下図参照)。 このようなケースでは、出来高検収書により仕入税額控除の対象とした金額(図の出来高検収書①と②)を、下請業者の行う建設工事の完了日(6/10)の属する課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額から控除します。 出来高検収時に適格請求書発行事業者であった者が、工事完了時に適格請求書発行事業者でなくなった場合には、請け負わせた工事全体の課税仕入れの時期について、請負による資産の譲渡等の時期の原則(消基通9-1-5)に戻り、完成引渡し時に適格請求書発行事業者か否かで仕入税額控除の可否が判断される点に注意してください。 (了)
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〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第55回】「敷地所有権者の相続に係る特定事業用宅地等の特例の適用(配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第55回】 「敷地所有権者の相続に係る特定事業用宅地等の特例の適用 (配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」 税理士 柴田 健次 [Q] 甲の相続(一次相続)では、下記のとおり甲の建物持分について配偶者居住権が設定され、甲の配偶者である乙が配偶者居住権及び敷地利用権を取得し、甲の建物所有権の持分、敷地所有権及び土地所有権は、長男である丙が取得しました。甲の相続後は、乙がしばらくの間、居住の用に供していましたが、乙が老人ホームに入所するのを契機として、丙が飲食店の事業の用に供することになりました。乙は配偶者居住権を放棄しないまま丙に使用させています。丙が飲食店の事業開始後、3年経過後に丙に相続が発生しました。 丙の遺言書には、土地及び建物については丁に相続させる旨が記載されています。丁は相続後、丙の事業を承継し、丙の相続税の申告期限まで引き続き事業の用に供し、土地を所有しています。この場合に丁が適用できる小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 なお、丙は乙から何らの土地の賃料も受け取っておらず、乙も丙から建物の賃料を受け取っていません。 【相続関係図】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【丙の相続時における土地に係る相続税評価額】 [A] 丁は取得した敷地所有権・土地所有権に係る145㎡(200㎡ × 58,000,000円/80,000,000円)について小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。居住建物の全部というのは、配偶者が相続開始の時に居住していた建物の全部という意味ですが、被相続人が土地又は建物の持分を共有で有している場合には、配偶者居住権は被相続人の建物の持分に対して設定し、敷地利用権は、被相続人の土地の持分と建物の持分のいずれか低い方の持分に対して設定することになります(相法23の2①一かっこ書・③かっこ書、相令5の7)。 したがって、本問の場合には、甲の相続時において甲の建物持分である1/2部分に対して配偶者居住権及び敷地利用権が設定されます。 老人ホームに入所して居住の用に供しなくなった場合においても、下記の配偶者居住権の消滅事由に該当しなければ、配偶者居住権は存続することになります。仮に第三者に居住建物の使用をさせるときは、居住建物の所有者の承諾を得る必要があります(民法1032)。本問の場合には、乙は配偶者居住権を放棄せず、居住建物の所有者である丙に使用貸借させたにすぎませんので、配偶者居住権はそのまま存続することになります。 なお、配偶者居住権の消滅事由の例としては、下記のものがあります。 2 二次相続に係る配偶者居住権及び敷地利用権の相続税評価額 配偶者居住権の設定後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した配偶者居住権の目的となっている建物及び敷地所有権の相続税評価額については、相続税法23条の2の規定に準じて計算することになります(相基通23の2-6)。 具体的には、二次相続発生時において配偶者居住権の設定があったものとして計算しますので、二次相続開始時における乙の平均余命年数等を使用することになります。当然ですが、乙の平均余命年数は、一時相続時よりも二次相続時の方が短くなっていますので、敷地利用権の相続税評価額は、路線価や利用状況に変更がない場合には、二次相続時の方が低くなります。 3 被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲 特定事業用宅地等は、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていた親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く)の⽤に供されていた宅地等であることが要件の1つとなっています。したがって、その宅地等が「誰の」、そして何の「用途」に供されていたかが重要となります。 租税特別措置法関係通達69-4-4の2(宅地等が配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地である場合の被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲)では、下記のとおり定められています。 上記通達の事業の用に供されていた宅地等は、特定事業用宅地等に限らず、貸付事業用宅地等に該当するものもその範囲に含まれていますので、下記のとおり注意が必要となります。 〔上記(1)について〕 被相続人の有する宅地等の上に被相続人以外の者が建物を有する場合に相当の対価で貸し付けを行っているときは、被相続人の貸付事業の用に供されていたものとして取り扱います。特定事業用宅地等については、貸付事業を除きますので、上記(1)は、貸付事業用宅地等の特例対象に該当する可能性があっても、特定事業用宅地等には該当しないことになります。 〔上記(2)について〕 上記(1)に掲げる宅地等が除かれていますので、被相続人の有する宅地等の上に被相続人以外の者が建物を有する場合には、使用貸借であることが前提となります。土地が賃貸借である場合には、被相続人の貸付事業の用に供されていることになりますので、上記の(1)に該当することになります。 基本的な考え方は、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲(租税特別措置法関係通達69-4-4)と同様になりますが、配偶者居住権の設定の有無で建物の使用・収益をする権利者が下記のとおり異なることになります。 ◆配偶者居住権の設定の有無における建物の使用・収益の権利者の違い したがって、配偶者居住権が設定されていない場合において、建物所有者が被相続人以外であるときは、建物所有者から被相続人等が無償で建物を借り受けていることが必要となるのに対して、配偶者居住権が設定されている場合には、配偶者居住権者から被相続人等が無償で建物を借り受けていることが必要となります。 配偶者居住権が設定されている場合において、建物所有者が被相続人以外である場合の要件をまとめると下記のとおりとなります。 4 本問の場合の特例適用の可否 本問の場合には、建物は被相続人(丙)及び被相続人である親族(乙)が所有し、かつ、土地は使用貸借であり被相続人が無償で乙から借り受け、丙の事業の用に供していますので、被相続人の事業の用に供している宅地等に該当することになります。特定事業用宅地等の意義は、本連載【第11回】で解説していますが、丁は被相続人の事業を承継し、相続税の申告期限まで引き続き宅地等を有し、かつ、事業を営んでいますので特例の対象者となります。 5 相続税評価額の算定と面積の計算 敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。 ・敷地利用権の相続税評価額: ・敷地所有権・土地所有権の相続税評価額: ・敷地利用権の面積: ・敷地所有権・土地所有権の面積: なお、敷地利用権は乙に属する財産となりますので、丙の相続時において丙の相続財産に計上する必要がありません。また、乙の相続時においては、民法の規定により配偶者居住権は消滅し、相続を原因とする財産の移転もないため、配偶者居住権及び敷地利用権の価額を乙の相続財産に計上する必要はありません。 6 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 丁が取得した敷地所有権・土地所有権の面積145㎡となります。 ★実務上のポイント★ 一次相続発生時にどの部分に対して配偶者居住権が設定されているのか、配偶者居住権設定後に配偶者居住権の用途変更があったか否かを確認することが必要となります。配偶者居住権の用途変更があった場合でも配偶者居住権の消滅事由が発生していない限り、配偶者居住権は存続することになります。 (了)
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事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第46回】「相続税の税務調査の流れと最近の動向」
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第46回】 「相続税の税務調査の流れと最近の動向」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子 相談内容 私は父が設立したX社の社長のAです。昨年、父が急逝し、相続人である母、妹、私が父の財産債務を相続しました。X社のことについては私が把握していましたが、父が生前に所有していた個人財産については、内容や所在、取得や売却の状況など詳しいことは誰も知らされていなかったため、残された通帳や契約書などの書類から推測して財産債務を特定し、税理士に依頼してなんとか相続税の申告を期限内に行い、相続税を納付しました。 しかし、把握できていない財産債務があるかもしれず、税理士から相続税の税務調査の可能性もあると聞き心配しています。最近の相続税の税務調査の動向と、実際の税務調査はどのようにして行われるかについて教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 相続税の税務調査の動向 (1) 調査の状況 相続税の税務調査には実際に税務職員が相続人の自宅等を訪問して行う実地調査と、文書や電話などで申告漏れや計算誤りを指摘するなどの簡易な接触による調査があります。 国税庁から発表されている「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」によると、令和2年度においては新型コロナ感染症の影響により実地調査件数は大幅に減少していますが、簡易な接触による調査が増加しており、両方を合わせると18,740件(うち無申告事案に対する実地調査462件)の調査が実施されています。 相続税の税務調査は申告書を提出してから1~2年後に行われることが多いため、平成30年分の相続税の申告件数149,481件(国税庁「平成30年分における相続税の申告事績の概要」より)との割合で考えると、申告書を提出すると1割以上の確率で調査が実施されることになります。 また、令和2年度では相続税の実地調査のうち87%で申告漏れ等が見つかっており、そのうち16%が重加算税の対象とされています。実地調査が行われた場合には、高い確率で申告漏れ等が指摘されていることがわかります。 〈相続税の実地調査事績〉 (出典:国税庁「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」(令和3年12月)) 〈相続税の簡易な接触の事績〉 (出典:国税庁「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」(令和3年12月)) (2) 実地調査の選定 実地調査は、件数は減少しているものの、課税価格が高額な富裕層や海外資産を多額に保有しているケース、悪質な不正が見込まれる事案に対して優先的に行われているようです。 ① 富裕層PT 全国の国税局には富裕層プロジェクトチームが設置されており、管理が強化されているため、富裕層に対しては相続税の調査が行われる可能性が高くなります。 ② 海外資産 租税条約等に基づく情報交換制度や共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)に基づく非居住者金融口座情報などを活用して、税務当局は海外取引や海外資産の保有状況を収集しています。海外資産の場合、相続人が存在を把握していないことが多く、申告漏れになるケースがあります。 A氏の場合、悪質とは言えませんが、相続財産の把握が十分でないことから、申告漏れとなっている財産があれば、実地調査先として選定される可能性があります。 [2] 税務調査の流れ (1) 税務調査の連絡 通常の実地調査の場合、事前に調査の電話連絡があります。税理士に税務調査の立会を依頼する場合、税務代理権限証書に調査の通知を税理士に対して行うことの同意を記載して提出しておけば、まずは税理士に連絡があり、A氏や他の相続人に直接連絡が行われることはありません。連絡を受けて、日程や調査実施場所を調整したうえで調査が行われます。 調査場所は被相続人の生前の自宅で行われるケースが多いですが、他の場所を指定することも可能です。悪質な不正申告による脱税が疑われ、裁判所の令状を得て行われる強制調査では、事前連絡なく実地調査が行われますが、大半の調査の場合には事前通知が行われます。 (2) 事前調査 税務当局は事前調査として、被相続人名義の金融資産・不動産の所有状況の履歴、生命保険金の加入有無などの情報を収集し、相続税申告書のほか過去の贈与税申告書、所得税申告書、財産債務調書、国外財産調書などの申告内容と齟齬がないかどうかを確認します。 預貯金や証券口座については、過去数年分及び相続開始後の入出金のデータを入手し、入出金の相手先を確認して申告漏れになっている財産や、他人名義になっているものの実質的には被相続人のものと考えられる財産(名義財産)がないかどうか、申告されていない所得がないかなどを調査します。この場合、調査の対象となるのは被相続人名義の財産だけとは限らず、相続人や親族などの名義の財産についても確認されます。 事前調査の結果、追徴の可能性がある先に対して税務調査が行われることになります。 (3) 実地調査 実地調査では、通常は2人以上の調査官が、事前に調整した日時・場所を訪れます。まずは世間話から始まり、被相続人の人物像を理解するために、生い立ち、家族関係、転居の履歴、財産管理の方法、仕事や趣味など生前の生活の様子の聞き取りが行われます。 次に、事前調査した内容のうち、確認すべき事項についての質問や証拠資料の提出が求められます。通帳や印鑑の保管場所や不動産など財産の現物視察が行われることも多いです。相続財産債務の根拠とした請求書や領収書などの証票書類や、財産評価の計算根拠資料は申告書と共に保管し、すぐに提示できるように準備しておくとよいでしょう。 相続税の税務調査では贈与税の調査も併せて行われます。過去の贈与と考えられる財産移転があった場合には、契約書や通帳コピーなど何年も前の資料を要求されることがあります。特に、名義財産の可能性については必ず確認されます。被相続人が子供や孫名義の預金口座に入金をして贈与したつもりでも、受けた側にその事実の認識が無く、被相続人が通帳と印鑑を管理していた場合などは贈与とは認められず、名義財産として相続税の課税対象になります。 〈実地調査で主に確認されること〉 (4) 税務調査の終了 税務調査の終了時には、原則として口頭で調査結果の内容説明が行われます。調査の結果、申告漏れや計上額の誤りなどがあった場合には、修正申告書を提出又は更正決定を受けることになります。修正申告等を行った場合には、増加した財産に対する相続税に加えて、延滞税と過少申告加算税(仮装隠蔽による場合は重加算税)が課されます。 なお、相続発生前に被相続人に財産債務調書又は国外財産調書の提出義務があった場合には、これらの調書の記載によって、過少申告加算税の軽減又は加重措置が設けられています。 [3] 結論 相続税の実地調査が行われる前には、税務当局は被相続人の財産状況について事前調査を行い、申告漏れになっている財産や他人名義の財産をある程度特定しています。相続人は税務調査で指摘されて初めてその財産の存在を知ることもあるかもしれません。相続財産を十分に把握できていないケースでは、税務調査によって財産の存在を教えてもらえると考えることもできます。 親族などに対して贈与を行う場合には、受贈者に贈与を受けたことを認識してもらい、贈与財産は受贈者が管理し、贈与の証拠を残しておくことにより名義財産として取り扱われないように準備しておくことが必要です。 A氏の場合、被相続人が生前に個人財産について、妻や子供たちに詳しい内容や所在場所を説明していなかったため、相続財産の把握に大変苦労しました。相続人に迷惑をかけないためにも、所有財産の一覧を作成しておき、その保管場所を家族に伝えておくなど、相続に対する備えは早めに行っておくことが肝心です。 実際の相続税の申告や遺産分割については、顧問の税理士や弁護士にご相談ください。 (了)
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〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第18回】「争点の確認表をチェックする場合の勘所」
〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第18回】 「争点の確認表をチェックする場合の勘所」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 争点の確認表 (1) 目的 国税不服審判所は、以下を目的として、審査請求人及び原処分庁に対して「争点の確認表」を交付する運用を行っている。 「争点の確認表」は、担当審判官が、審査請求人及び原処分庁の主張を的確に把握し、主張を整理して、最終的に裁決書に記載すべき課税等要件に基づき争点を明確にし、適正かつ迅速な裁決に資するために作成するものとされている。 (2) 訴訟との違い 裁判においては、当事者から提示された書証・準備書面に基づいて関係者全員で議論をして争点を整理するという方法で審理が進められるが、国税不服審判所においては、担当審判官が主体になって、当事者に釈明を求めるなどの方法により争点を確定していくものであり、担当審判官は、確定した争点の確認手続のために、審理のために争点を当事者に示して主張立証を促すべき場合もあることから、「争点の確認表」の交付は有効な施策であるとされている。 また、当事者の主張及び争点は、審査請求書や答弁書等の主張に関する書面が提出された場合や、請求人面談等を実施した場合など、審理手続の進行状況に応じて作成していくことから、その内容も調査及び審理の進行状況によって、追加、変更していく性質がある。 (3) 裁決書の前段部分を構成する この点、「争点の確認表」は、審理手続の各段階で作成・交付し、適時、審査請求人及び原処分庁に確認を受けていくことを想定しているが、実務的には、審理手続の終結の前段階で実施されることが多く、最終的にはこの時点の「争点の確認表」により整理された争点等が裁決書の前段部分(後段部分に国税不服審判所としての判断が記載される)に反映されることになる。 なお、送付した「争点の確認表」について、当事者から加除等訂正の指摘があった場合は、担当審判官は主体的に整理(採否を判断)し、争点の明確化、確定に努めることが求められる。 2 争点の確認書の様式 あくまで、担当審判官が主張整理した交付時点のものであり、審査請求人としては、自らが重要と考えるものが記載されていない、又は、記載されているが正確ではないというような場合には、担当審判官にその旨を連絡し、主張が正確に伝わっているか否かを確認しておくことが求められる。 また、確認範囲としては、どうしても自らの主張、すなわち「審査請求人」の「主張」のみを確認して了を伝達してしまう傾向があるが、以下の理由から、記載されている「事実関係」や相手方である「原処分庁の主張」を含めて、全体内容を確認しておく必要がある。 3 見る人が見れば趨勢がわかる (1) 必ずしも主張の要約ではない 担当審判官は、審査請求人からの審査請求書、原処分庁からの答弁書をそのまま引き写して「争点の確認表」を作成しているのではない。 また、審理関係人双方に「争点の確認表」の確認を受けてから、まっさらの状態でいずれに軍配を挙げるかについての判断を行うものでもない。 つまり、「争点の確認表」は、その作成時点において、担当審判官としてはいずれに軍配を挙げるかについての心証が既に形成されていることが多く、「争点の確認表」の記載内容を裁決書の前段部分に落とし込んだ場合に、その後段部分で国税不服審判所が判断しやすいように加工されて作成されているという側面が否定できない。 (2) 負けさせようとしている側の主張の排斥を意識する 担当審判官としては、勝たせようとしている側の主張については、負けさせようとしている側に比してさほど気を遣わないものである。 なぜなら、裁決書上は勝たせようとしている側の主張をわざわざ取り上げて吟味する機会が乏しいからであり、むしろ、法規審査担当者から「審理不尽」と指摘されないために、負けさせようとしている側の主張が認容されないことについての説示に相当程度気を遣うことになる。 そういった点で、担当審判官は、負けさせようとしている側の主張の排斥が裁決書においてしやすいように取りまとめたいという動機が働くことがある。 (3) 負けさせようとしている側の主張整理の特徴 そうすると、「争点の確認表」に記載されている審理関係人双方の主張について、その出典(審査請求書・答弁書・反論書・意見書・求釈明事項回答書等)を確認した場合に、 といったときには、その加工されている側の主張については、裁決書において負けさせようとしている側の主張を排斥しやすいような環境設定をしている可能性がある。 そういった点で、見る人が見れば、審理手続終結前とはいえども、国税不服審判所がいずれを勝たせたいか(負けさせたいか)について察しがつくことがある。 (4) 「自己を負けさせようとしている」と察した場合 仮に、「自己(審査請求人)を負けさせようとしている」と察した場合には、主張の補充・変更等を検討しなければならないだろう。 このように、「争点の確認表」は、審査請求書の提出から裁決書謄本の発送までの一連の審理手続の一里塚であるといえども、その判断の趨勢を見極める重要な機会となるのである。 (了)
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さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第80回】「タキゲン事件」~最判令和2年3月24日(集民263号63頁)~
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第80回】 「タキゲン事件」 ~最判令和2年3月24日(集民263号63頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
